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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
“死神斬鬼”を語る
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第84話 ムソウの過去―親の心、知る―

「さて……それで、これからの予定は?」


 俺は誰に聞くでもなく、皆にそう聞いた。仲間になったのは良いが、これから何をすべきなのかがわからない。予定だけでも聞いておかねえとな。すると、タカナリが口を開く。


「元安備の領地はほとんど取り返している。各反乱軍の動きを見る限りでは、東部の反乱軍は東の国であった玲邦(れいほう)の国元領地を、西部の反乱軍は西の国であった興那(こうな)の国元領地を取り戻すべく動いておるが……直にそれも終えるじゃろうな」


 なるほど……ここ安備には難民が多いと聞くからな。玲邦も興那の奴らもこちらには多く来ているということか。領主は死んだらしいが、タカナリの様にその難民の一部が、その周辺の反乱軍を指揮しているというわけか。……ちっとも知らなかった。


「で、だ。……ザンキ殿、一つ相談なのだが……」


 タカナリは俺に申し訳なさげに俺を見た。俺は何だろうと思い、返事をする。


「なんだ?」

「いやな、ひとまず、元三国の領地を玄李から取り戻すことができたら、各地の反乱軍を一つにまとめて、玄李に打って出るという話になっておるのじゃが、お主にはこれまで通り、この部隊の一人として、皆の先頭で闘って欲しいのじゃが……」


 ふむ……。安備、玲邦、興那の元三国全体の兵力ならば玄李と拮抗するというわけか。さらにここ三年で奴らの兵力もだいぶ落ちているみたいだしな。ほとんど俺が理由らしいが……。

 さらに軍力……というか国内の機運も落ち気味らしい。何でも、大陸を統一したのは良いが、元三国の民衆がそれを認めず、玄李の者達により処断されたことが原因で、玄李国内の情勢も不安定なものとなっているという。

 あそこは領主に対して、昔から宗教染みた忠誠を教えるような国だったからな。亡命してくる者も多かったし……。

 現在、玄李本国でも、自国の民から徴税したり、反抗する者達を弾圧したりしているらしい。大陸統一しても、国自体は変わらないようだな。なまじ、国を大きくし過ぎてしまったために、反乱分子の拡大にもつながったというわけか……。


 ということで、今各地で起こっている反乱軍の闘いが終われば、タカナリは元領主として、各地の反乱軍を統一、その後、大陸の覇権を握ろうと闘いを仕掛けるということらしい。その先兵として、俺か……。


 タカナリは、俺の“死神斬鬼”としての名を最大限利用したいらしい。まあ、俺もそれはわかるし、認めている。出来ることなら、俺もそれでタカナリの役に立ちたいと思っている。俺はしばらく考え、口を開いた。


「……わかった。存分に俺もお前に協力しよう。ただし……」


 俺はタカナリの要求を一先ず飲むことにしたが、タカナリはこう見えて先を見る能力は誰よりも高い。まだ、他にも俺に言いたいことがありそうだったので、釘を刺しておくとする。


「いくつか条件があるが良いか?」

「ああ、言ってみろ、ザンキ殿」

「一つ、反乱軍を統合しても、俺は師団長など他の者の上に立つことはしない。面倒ごとが増えそうだからな。このハルマサの部隊所属で充分だ。

 二つ、玄李を落としてもそれは変わらない……この二つの条件を飲むというのなら俺はお前の要求に応え続けようと思うのだが」


 俺がそう言うと、タカナリはしばらく考え、微笑んだ。


「フッ……さすがエンヤの子だな。そこまで私のことを見通しているとは思わなかった。だが、ハルマサたちの約束も反故にはできないからな……」


 そう言って、タカナリはハルマサたちを見る。約束? それは知らないな。何のことだと聞くと、ハルマサは答える。


「大陸を統一した暁には、俺達もタカナリの元に就くことを決めている。俺達は元々、この国のために何か、自分の力を役立てたいと思って集まったからな。……正直なとこを言うとお前にもついてきて欲しかったんだが……」


 ハルマサは俺を見て、そう言った。確かに、こいつらは若いからな。色々と思うところもあるのだろう。だが、俺に出来ることは何もない。ただ、眼前の敵を斬るだけだからな。


「ハルマサの言いたいことも分かるが……わかった」


 俺はハルマサとタカナリに顔を向ける。


「なら、平定の後、俺はまた傭兵になるよ。基本的には俺は自由に生きていくが、何かあればタカナリからの要望に応えて闘っていく……それで、どうだ?」


 俺がそう言うと、二人は目を見開く。そして、ハルマサはフッと笑った。


「傭兵……か。あんたらしくて良いんじゃないか? まあ、元々ザンキの生き方だし、俺はこの話には入ってないからな。タカナリに任せるよ」


 ハルマサはタカナリにそう言った。そして、タカナリは頷く。


「……わかった。ではお前の条件を私は認めよう。その代わり、頼むぞ」

「ああ、任せろ。もともと先陣を切るのは慣れている。ハルマサもいいな?」

「ああ、ここはお前が来るまでは斥候が主な任務だったんだ。俺達は主力じゃないからな。お前が来るまでの状態に戻っただけだ」


 ハルマサがニカっと笑ってそう言うと、俺達は固く握手をする。ツバキたちはそれを眺めていた。その後、ナツメが口を開く。


「頭領、ザンキさんの傷の完治はひと月ほどかかりそうですが、大丈夫でしょうか?」

「ああ、問題はないだろう。反乱軍の皆も、ザンキ殿の回復を待っておるからな」


 タカナリはそう言うと、ナツメはわかりましたと言って、頭を下げる。


「……にしても、ひと月か……。気合入れたら早く治るかな?」

「そんな医術聞いたことありません。ゆっくり治してください」


 俺が聞くと、ナツメは呆れたようにそう言った。そうか、と思い、項垂れていると、横に居たツバキが俺の袖を引っ張っている。


「私が……付きっ切り……看病する……早く……治る」


 俺の問いかけにツバキはそう言って、俺の目をジッと見る。俺はツバキの頭を撫でて、


「ああ、頼む」


 と言った。ツバキは嬉しそうな顔をして、下を向いた。照れてんのか……?

 にしても、俺一人の体調に、反乱軍全体が左右されているのか……。生きているだけでいろんな所に影響を与えるようになってしまったな。

 ……うん。やはり、玄李を落とした後も、俺は俺で、自由にやらせてもらおう。ハルマサの言うように、それぐらいがちょうどいい気がする。


「……では、私達は夕ご飯の支度でもしましょうか」

「わかった! ナツメ姉さん!」


 ナツメはアキラと共に部屋を出ていく。アキラを見ながら、まるで犬だなと笑った。


「では、僕は村長の所に行って、何か貰ってきます」

「おお、トウヤ、なら俺も行くぜ」


 二人に続き、ハルマサとトウヤも出ていった。出ていく際に、ハルマサはツバキに、頼んだぜ! と言って、ツバキはコクっと頷いた。……いまいち、こいつらが仲良いのか、悪いのかわからない。


 部屋には俺とツバキとタカナリだけが残っている。


「ん? お前はどこにも行かないのか?」

「私か? ……私ももう年寄りだ。もう少しいたわってくれてもいいじゃろう」

「反乱軍の総大将にそう言われてもな……」


 更に言えば、俺の偽物に見せた、あの剣幕は普段のタカナリからは想像できないものだった。まだまだ、コイツもそこまでの老いは見せていないと感じるがな。


「そう言うな。……そうだな……では、年寄りの昔話というものをしてやろう」


 タカナリは胡坐をかいて、そう言った。昔話と言われても、特に興味なかったら、俺は寝ちまいそうだぞ。横に居るツバキも。

 まあいいや、と思い、タカナリの言葉を待つ。面白くなかったら少し寝よう……。


 タカナリは何故か無間を眺めはじめた。そして、口を開く。


「そこの……無間の前の持ち主である、闘鬼神初代頭領、エンヤじゃが……」


 あ、それは気になる。俺はガバっと身を起こした。何だかんだ言っても、俺はエンヤのことをほとんど知らないからな。俺が話を聞く態勢になったのを見ると、タカナリは微笑んだ。


 そして、懐かしいものを見るような目で、エンヤの話を始める……。


 ◇◇◇


 エンヤとタカナリはもともと、幼馴染だという。……アイツ、何歳だったんだよ。俺はてっきり、捕縛した山賊であるエンヤとタカナリが密約を結んでいたのだとずっと思っていたが……。

 まあ、いいや。二人は共に、同じ道場で武芸を学ぶ者同士で、小さな頃から、一緒に研鑽を高め合っていたという。


「……ところが、十歳の頃だったか……エンヤの家が盗賊に襲われてな、一家全員皆殺し、エンヤは盗賊に攫われてしまった」


 目を閉じながら、その時のことを思い出しているタカナリ。エンヤの親は前の領主、つまりタカナリの父に仕える者だった。

 そいつは、領主や、付近の村々の言葉に応じて、山賊や盗賊などを討伐する任務に就いていたという。早い話が、闘鬼神のような感じだな。それで、討伐された者達の生き残りや、討伐されると思った各地の盗賊がエンヤの親を逆恨みし、襲ったということだった。

 もちろん、先代の領主はその者達を討伐、捕縛した。だが、エンヤは既に人買いによってどこか知らない場所へと行ったことが明らかになり、タカナリはひどく悲しんだという。


 その後十年が経ち、二十歳になったタカナリは安備の領主を継いだ。領主になってからのタカナリは、先代の意志を尊重し、豊かな国を作ろうと躍起になっていたが、安備の国の治安は悪い。

 各地で盗賊や山賊が跋扈し民衆は苦しんでいた。さらに、それらを取り締まるはずの各町や村の長たちも、税を規律以上に引き上げ、住民たちを苦しめるような、そんな国だった。

 さて、タカナリはそんな国をどうにかしようと困っていたが、ある日、近隣の村から山賊の討伐依頼が届く。タカナリはすぐさま、兵をあげてその山賊の元に向かった。……こう見えてというか、やはりというか、タカナリも昔は、かなりの武闘派だったらしく、そんな依頼があると、自ら先陣に立ち、敵を斬っていたという。

 今回も、刀を携え、山賊たちを討とうと向かったが、そこに広がっていたのは、タカナリ達が討とうとしていた山賊たちの死体の山だった。


 ふと、見ると、死体の山のそばに、二人の人影が見える。一人は髪を腰まで伸ばし、背中には身の丈ほどもある大きな刀を背負っている。その眼光は鋭く、睨みつけただけで震えが止まらなくなるほどの恐怖感を抱かせた。もう一人はひげ面だが、若い男だった。野蛮という言葉が似あう風貌の男である。

 そして、二人のそばには旗が立っていた。それは刀を咥えた般若が描かれている。タカナリは二人に声をかけた。


「お主たち、何者だ!」


 タカナリが刀を抜き、そう言うと、二人のうち、髪の長い奴がニヤッと笑う。


「俺達は闘鬼神! 強い奴を探している! ここいらで調子に乗っていた山賊どもは俺達がぶっ殺した! テメエらも俺に歯向かうんなら、叩き潰してやるぜ!!!」


 そいつはいきなり、タカナリに斬りかかってきたという。タカナリは刀を構え、そいつの大刀から繰り出される重い一撃を受け止めた。


「クッ!」

「へえ、やるじゃねえか! たかだか山賊討伐に来た一兵卒の割にはな!」


 ニヤッと笑ったそいつは、タカナリの腹を蹴った。


 後ろに吹っ飛ばされるタカナリ、それを追撃してくる敵の顔に、タカナリは泥を投げつける。


「うおっ! あぶねえ~~~!」


 だが、そいつはそれを首を捻って躱した。そして、タカナリを見る。


「本当にできるやつみたいだな。道場剣術っぽく感じるが、それにしては品が無い戦い方だ。

 面白え……ここは少し、本気を出すか……」


 そいつはそう言って、大太刀をタカナリに向けて構えた。そして、タカナリを睨みつけ、迫ってくる。


「くらいな……!」


 敵はタカナリに大太刀による連撃を繰り出してくる。タカナリは必死の形相でそれらを刀でいなし、受けてゆく。

 だが、全てを受け切ることは出来なかった。いくつか体を斬られていく。


「グっ……うぅっ!」

「……本当に面白え奴だな、お前……だが……これまでだ!」


 そいつは最後に大きな一撃を与えた。タカナリの刀は折れ、タカナリ自身は吹っ飛んでいく……。


 そして、どさっと地面に落ちた。


「……なかなか、楽しめたぜ……さて、次はお前らだ」


 敵はそう言って、タカナリの従者を睨む。従者たちは、敵の気迫に怖気づき、後ずさっている。


 そして、そいつが従者たちに駆けだそうとした瞬間、タカナリは目を見開き、起き上がった。


「待てッ!!!」


 タカナリはそいつに叫んだ。そして、刀を杖にしてよろよろと立ち上がる。敵はそれをジッと見ていた。


「この者達は……斬らせない……この国を良くしていくための……私の……私の臣下たちは、斬らせない!!!

 来いッ!!! 私はまだ立てるぞ! お前はその程度なのか! その程度の者なのか!!!」


 タカナリがそう言うと、敵は目を見開き、フッと笑った。


「フっ……見事だな……お前の覚悟に免じ、こいつらは見逃してやろう……だが、お前は別だ! この場で沈めてやる!」

「……光栄だ」


 そいつの言葉に、タカナリは微笑みそう返した。目の前の敵からは、今までのただの山賊にしては、どこかの王が持つような気迫を感じられた。こういう人間に斬られて死ぬのなら本望と言って、タカナリは、そいつに折れた刀を向ける。


「りょ、領主様!」

「おやめください! タカナリ様!」


 従者たちからタカナリを呼ぶ声が聞こえた。だが、タカナリは刀を構え、敵に集中していた。


「……では、参る!!!」


 タカナリはそう言って、咆哮を上げながら、そいつに突っ込んで行く。

 正直、玉砕覚悟だったらしい。自分はあと、三、四歩であの刀によって真っ二つにされてしまうのだろうな、と思っていると、そいつが突然、


「待て!!!」


 と言って、手を出した。それにハッとするタカナリ、止まろうとするが、その場で転んでしまう。


「くっ! 何だ!」


 地面に転げながらもタカナリは、敵を睨みつける。そいつは、あ、悪いという感じで、頭を掻いている。そして……


「……お前、タカナリか?」


 そう言って、タカナリを見た。先ほどまでとは違う、殺気のこもった目じゃない。何か、古い友達に出会ったときのような、困惑したような目だ。タカナリはそれを見てハッとする。こういう、なんと言うか間の抜けたような目に見覚えがあった。


「お前は……エン……ヤ……?」


 タカナリはそいつを指差してそう言った。そいつ……エンヤは、タカナリの問いに、頷く。その瞬間、タカナリの目には涙が溢れ、エンヤを突然抱きしめた。


「ちょっ……おい! タカナリ! やめろって!」

「うっ……今までどこに行ってたんだッ! ……心配してたんだぞ! ……それに何だ、この格好にその刀! それにあの旗も……お前は……お前は、私の領地を奪う新興勢力か!……」


 タカナリは泣きながらそう言って、エンヤを抱きしめている。


「おまっ! 喜ぶか、怒るかどっちかにしろ!!!」

「怒ってなどいるものか! ……こんなに嬉しい日はない!!! 帰ったらともに酒でも飲むぞ! エンヤ!」

「酒!? ……酒かあ! それならいいぞ! タカナリ! 存分に飲み明かそうか!!!」


 エンヤはそう言って、タカナリを抱き返した。そして、二人で肩をポンポンと叩きあっている様子を、タカナリの従者たちと、後に俺の部下となるエイシンがポカンと見ていたという……。


 ◇◇◇


「それで、再会した後、人買いによって別の盗賊団に売られたが、十五の時にそこの親玉を殺し盗賊団長に成り上がったこと、二十の時に部下に黙って盗賊団を抜けて闘鬼神という新しい勢力を作り上げたこと、だが、資金も仲間もほとんどいなくて困っているという話を聞き、私が依頼を出し、それに応じて金を出そうと言ったら、エンヤは「親の真似をするというのは気に入らねえが、やってやる」と言って、お前のよく知る、傭兵集団、闘鬼神頭領エンヤとなったわけだ」


 タカナリは笑いながら、俺にそう話した。俺は正直驚いている。タカナリとエンヤの関係や、エンヤの親が以外にも結構地位の高い奴だったことじゃない。

 ましてや、十五の時に盗賊団を乗っ取り、二十の時に闘鬼神を作ったこともどうでもいい。それくらいは、エンヤならやりそうだと思うからだ。


 そこじゃない……。エンヤと刀を交えて生きている奴がこの世に居るということだ。皆、あの世に居ると思っていたからな。だが、現実に今、目の前にその男が居る。

 タカナリ……お前、そんなに強かったのかよ……。俺はそう思い、タカナリを見た。タカナリは俺を不思議そうに見たが、ふと、外に目をやる。


「……エンヤはその後、次々と私の依頼をこなしてくれた。悪政を働く町や村の長を討ち、山賊や盗賊たちを殲滅していった。エンヤは楽しそうじゃったな。あ奴は強い者と闘うこと自体が生きがいみたいな女じゃったからな。

 ……じゃが、ザンキ殿を拾った頃、エンヤは嬉しそうに言っておったよ」


 タカナリはそう言って、俺を見る。


「「タカナリ、俺にも新しい生きがいが出来た。信じれるか? 俺、親になったんだぜ!」とな。

 ……エンヤはお前を拾ったときからずっと、サヤ殿と祝言を挙げてからも、お主が闘鬼神を抜けた後もずっと、お前を本当の息子の様に見ておったよ。

 ……もちろん、あの日、カンナ君の誕生日を開くから来いと言ったときも、いの一番に駆け付けて、カンナ君と楽しそうに……そう、まるで親戚の様に話しておったな……」


 タカナリは俺をまっすぐ見続けてそう言った。……俺はふと、無間を眺める。エンヤと共に闘い続けた刀だ。

 そして、今は俺と共にいる。こいつを受け取った時もあいつ、俺のことを“息子”だと呼んでくれていたな。それから七年あまり……。今はもう、エンヤの顔でさえ、懐かしく感じるな……。

 エンヤはいつも、俺が何かしても、それを面白がっているような奴だった。少し鬱陶しかったが、俺は何故か嫌いにならなかった。なんと言うか、今にして思えば、親に対する憧憬のようなものや、友人に対する信頼のようなものを抱いていたからな。

 だから、あいつがサヤとの祝言を許してくれた時は嬉しかったし、闘鬼神を抜けろって言ったときは本当に悲しかった。だが……全部俺の幸せになって欲しかったからなんだよな……。


 もっと、あいつに俺の幸せなところを見せたかった。

 サヤと一緒に、エンヤを楽しませたかった。

 エイシンと俺とカンナで強くなったところを見せつけたかった。


 ……もっと、あいつを親として見たかった。


 今の俺を見ていたら、アイツは何て言うのだろうか。しっかりしろって、俺の頭を殴っていたのかも知れないな……。


 俺がそんなことを思っていると、俺の頬を何かが流れた。


「……あれ……なんで……?」


 それは涙だった。なぜ流した涙かはわからない。……だが、何となくわかった。タカナリの話を聞き、エンヤのことを思い、この時初めて俺は、誰よりも強く、荒々しかったが、誰よりも、俺達に優しくしてくれた奴の死を理解し、受け入れたんだと思う。


 俺の涙を見て、ツバキが心配そうに俺を覗くが、俺はツバキを安心させるように頭を撫でた。そして、タカナリも目に涙を浮かべ、


「……エンヤのために涙を流す者が私以外にも居たとはな……」


 そう言って、微笑んだ。俺もタカナリに笑い返す。


 ……エンヤ……俺、アンタの“息子”として立派に生きていくよ……


 俺は胸の中でそう誓って、無間を眺めた。無間は外から降り注ぐ夕日を受けて綺麗に朱く輝いていた。



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