第7話―ギルドに帰って報酬を受け取る―
俺とハクビはそのまま寝た。いや、そう言う意味じゃなく、もちろん別々に、だ。
そして、朝起きるとハクビはすでに起きていて、昨晩残った汁を温めなおしてすすっていた。
「おはよう。ずいぶんと遅いお目覚めだな」
「誰かのせいで疲れてたからな……」
フっと笑うとハクビは俺に汁を渡す。すっかり、身体の調子は良いようだな。俺の方は……問題ないな。元々、野宿には慣れているからな。これくらいは問題ないか。しかし、天幕くらいはあった方が良いと感じた。今はまだこちらの世界でも、夏のようだが、冬になると寒いからな。
「さあ、それを食べたらマシロに戻るぞ」
寝起きなんだがなあ。そうは言っても、ちょっとはゆっくりさせてほしいものだな。
まあ、帰ってから報酬を受け取りたいし、布団のある場所で、ゆっくりしたい気持ちもあるし、ハクビの言葉に頷き、朝飯を食べ終わると荷物をまとめ、すぐに帰路についた。
帰りの道中に
「なあ、昨日の話なんだが……」
と、ハクビが俺にそう言ってきた。
「やはり当分は下級の魔物の討伐からこなすことにする。やはりムソウを見ていると自分もまだまだだと改めて気づかされる。だから、今はもう少し、気をうまく操れるようになりたい」
「お前がそうするならそうすればいいが……」
「力をつけ、中級以上に挑むときは、またあんたを指名させてもらうよ」
「わかった」
焦ることはないと、ハクビはあれから考えたんだな。まあまだ若そうだし……。あれ、そういえば……
「なあ、お前歳は?」
「ん? 鑑定スキルは使ってないのか?」
「ああ、いざってとき以外は特に必要ないと思ってな」
「そうか。人間の感覚でいうなら今年で18になった」
え、18? 意外だ・・・・・・俺より20程下なの?てっきり25、6にはなっていると思ってた。
「フッ、その様子だともっと上だと思っていたという反応だな。若干腹立つが、まあ昨日のこともあるし今回の非礼は許してやろう」
「はいはい……」
まあ、俺の世界でも16くらいで大人だもんな。この歳になると感覚的にもういろいろと衰えてきたというのが最近ひしひしと感じるようになってきて、嫌だなあ。
ちなみにだが、この世界で鑑定スキルを持つ戦士などは、相手の力量を知るために、鑑定スキルをまず使うことが多いらしい。しかし、それでも、知られたくない奴は、また別のスキルなどを使って、隠すことも出来るという。
スキルにも、色々あるんだなあと、話しているうちにマシロへと帰ってきた。
早速ギルドへ行き、報酬達成の報告をした。
「よう、依頼は達成できたぜ」
「え、ムソウさん、ハクビさん、もうですか?」
「ああ、オオイナゴ自体は特に強かったわけでもないからな」
「たった1日で……それでどのくらい倒せましたか?」
「一応、完全達成だ。まあ、私たちが遭遇した一団だけだがな」
「完全達成!? すごいです! お二人は駆け出しですよね。駆け出し冒険者が大群の完全達成するなんて私初めて見ました!」
あ……これは、めずらしいことなんだな。まあでもほんとにオオイナゴは大したことなかったから、そこまで驚かれるとこっちが引いてしまうな。俺としてはそのあとの方が大変だったがその辺は黙っとこ……。
「で、報酬は?」
「あ、はい! えーっと、先に素材の査定を済ませてから受け取り票を持ってこちらにお越しください。疑うわけではありませんが、一応確認をとっていまして」
まあ、そうだよな。誰も見てないから証人なんていないし。
ということで先に素材査定の受付へと向かった。
「あ、ムソウさん、もう帰ってきたのですね」
受付の女が俺に向かってそう言う。
「ああ、それで素材の査定と確認をしたいのだが。」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
女は俺とハクビを少し広めの場所へと案内した。見た感じ、倉庫だな。
そして、何人か、道具を持った職人のような人間もいる。ここで、魔物の解体を行い、査定をするようだな。ワイバーンは……入るか。
あれよりも大きな魔物も居るということで、なかなか無いが、万が一そういう魔物が来ても、対応できるようにはなっているらしい。
「大群の完全達成ともなると、あそこではお受けできないと思いまして。そう言った場合はこちらで受け取るようにしております」
「わかった。じゃあ出すぞ」
俺は異界の袋からオオイナゴの外皮や、肉などを地面にならべた。肉は少し減っているが、外皮はすべてのものを剥ぎ取っているから、これで数の確認はできるな。
「す、すごいですね……これだけの量だと確認のため少し時間が必要になりますので受付の前の酒場や食堂、二階の休憩室などで少々お待ちになっていてください」
「わかった。ハクビはどうする?」
「わたしは酒場で腹ごしらえをして、次の依頼でも探しておくよ」
「そうか。じゃあ俺は、休憩室にでも行こうかな……ちょっと疲れた」
俺たちはそこで一旦別れて、俺は休憩室にある寝具に座った。
じつは俺も腹は減っていたが、一人でやりたいことがある。それはEXスキルの確認だ。死神の鬼迫を使ったときに、EXスキルが発動した。確か、ひとごろしだったか。やはり未知の力を使うのは少々恐ろしいからな。今のうちにやっておこう。
俺は自分に意識を集中させる。そして、EXスキルの項目だけ、詳しく視てみた。
・・・
すべてをきるもの
あらゆるものの斬れ目が見えるようになる。切れ目を斬ると、なにものであろうと斬れる。
かみごろし
神族、龍族との戦いのさなか強い殺意を抱くと発動。冥界の波動を帯び、鬼人化する。
おにごろし
鬼族、魔物族との戦いのさなか強い殺意を抱くと発動。天界の波動を帯び、神人化する。
ひとごろし
人族、精霊族との戦いのさなか強い殺意を抱くと発動。身体能力および技の威力が上がり、無間が進化する。
言語理解
あらゆる言語が分かるようになる
言語行使
あらゆる言語を使えるようになる
星の加護
現段階では不明。
・・・
……わからないことが増えた。鬼人化や神人化ってなんだよ。見た感じだと、それぞれの種族や眷属に対して圧倒的に強くなるってことだろうが……。
言語関係の二つについてはよくわかったが、星の加護はやはりまだ不明だ。他のスキルと同じ様に、条件とかあるのかな……。
無間の進化というのは一番驚きだ。そういえば無間がいつの間にか神刀になっていたな。
俺は鑑定眼で無間を鑑定する。
神刀「無間」
数多の血をすすり、冥界の力を纏った人の世の刀剣の中では最凶であり最強の刀の一本。
……無間が俺の知らないところですごいことになっている。EXスキルもこいつの所為なんじゃないかと思ってしまう。
ひょっとしてこいつが俺を連れてきたのか?
……なわけないか。
さてと、一通り気になることは片付いたな。
ハクビの時に無間が進化しなかったのは本気で殺すつもりはなかったのが原因だろうな。
俺自体はたしかに強くなったような気はしたが……どうだろう?
星の加護については、やはり他のスキルと同様に、発動の際に、何か条件があるものと推測。どんなものなのか気になるが、特に必要性も無さそうだし、このままで良いだろう。
コンッコンッ
……ふいに部屋の戸を叩く音が聞こえる。
「冒険者のムソウさんですか? 査定が終わりましたのでこちらへお越しください」
ん? もう終わったのか意外と早かったな。
返事をすると俺は下に降りた。
下ではハクビが何やら骨付きの肉を食いながら待っていた。
「まだ、飯の途中だってのに……」
苛ついてんなあ。こういうところはきちんと、狼だな……。
「あ、ムソウさん、ハクビさんおまたせしまし――」
「待ってねえよ!」
ハクビが受付の女に突っかかる。
「おまちください、なんて言うから、もっとかかるもんだと思ってたくさん頼んだぞ!」
「あ、すみません!」
肉をたらふく食べながらいう言葉じゃないな。……ったく埒が明かねえ。てか、口調変わってねえか?
腹が減ると人でも何でも短気になるのはどの世界でも一緒か。
ハクビはなおも、ギャーギャー言ってる。流石にうるさい……。
「おい、その辺にしとけよ……ハクビ……」
俺は軽めに殺気をぶつける。狂人化の時のわずかな記憶でもあるのかハクビはシュンとなり、ようやく黙った。
「……すまないな」
「いえ。では改めてこちらが査定受け取り票と、売却金です」
女は、俺に一枚の紙きれと、一つの袋を差し出す。紙切れを見ると、オオイナゴの素材の一覧が書かれていた。
・・・
オオイナゴの外皮 567枚 銀貨17010枚
オオイナゴの肉 534匹分 銀貨5340枚
オオイナゴの翅 1134枚 銀貨34020枚
オオイナゴの脚 1134本 銀貨34020枚
・・・
「オオイナゴの素材は一律で銀貨30枚という相場です。個体自体は中級なので。肉は使い道がほとんどなく、半分の15枚となっています。というわけで今回の売却金は銀貨90390枚となります。さらに、討伐証書としてこちらの査定受け取り票をお持ちください」
結構、倒したんだな、やっぱり。これだけあれば、二人で分け合っても、大丈夫だな。俺は査定受け取り票と、金を受け取った。
「ありがとう。いつも済まないな」
「いえ、またいつでもお待ちしております!」
いや、この笑顔は毎度毎度癒やされるなあ。こうやって、次も、笑顔で迎えて欲しいものだ。
……また、おっさん臭いこと考えてしまった。
……さて、受け取り票を依頼受付へもっていき報酬を得るとしよう。
あれ、ハクビは? ってまだ落ち込んでいる。
「何してんだ、行くぞ!」
そういうとハクビは我に返り俺のあとをついてきた。
「受け取り票を持ってきた。」
「はい! では確認しますね!……オオイナゴの……大群依頼っと、これだ! ……えーっと調査報告では……あ、567匹! はい、ぴったりですね! では報酬の銀貨300枚と完全達成特別報酬として金貨50枚を用意します!」
「あ、ついでにこの銀貨も金貨へ両替してくれないか」
「はい、かしこまりました! ……重ッ!」
ぷるぷる震える手で袋を下げていき、奥へと入っていった。
しばらくすると女はロウガンを連れて戻ってきた
「よう! オオイナゴ殲滅とはやったなあ!」
「ん? なんであんたが?」
「報酬金の額が額だからな。まあ、見届け人ってやつだ」
ああなるほど。価値は分からないが、宿屋で一泊するのに、銀貨3枚だったが、それが300枚……それで、銀貨1000枚が金貨1枚……あ、すごい額だな。この世界の冒険者というのは、皆金持ちなのか? それとも、武具が高いのか……。金銭感覚狂いそうになるな。
そんなことを思っていると、ロウガンが見守る前で、受付の女が、報酬の入った袋を渡してくる。
「ではこちらが今回の報酬になります。まず依頼達成の報酬銀貨300枚、そして完全達成の特別報酬金貨30枚、さらに売却金の金貨90枚と銀貨390枚、合計金貨120枚と銀貨690枚です」
おお、だいぶ軽くなった。そしてロウガンの監視のもと数を数えるとぴったりだった。うん、すごい額だ、こうやって見ると。
「確かに」
「おう、また来いよ……っとまだ用事があるんだった」
ロウガンは俺の後ろにいたハクビに視線を移した。
「話がある、来てくれ」
「ああ。……ムソウ、報酬の分配はお前の意志で決めていてくれ」
わかったと返事をすると、ハクビとロウガンはギルドの奥へと進んだ。
あ、そういえば。
「なあ、そういえばあんたらの名前ってなんていうんだ」
「あら、リリーに聞いたんですが、鑑定のスキルは使わないのですか?」
「うん?鑑定のスキルは必要なこと以外には使わないようにしてる。」
「そうなのですね。確かにそういう人も多いのですね」
「それで……」
「あ、はい。私はマリー、そして査定の者はエリー。リリーともう一人と合わせて4姉妹なのですよ。」
……驚いた。ってことはこの人たちも俺よりはるかに年上なのか……。さっきエリーに対して、まるで、自分に娘が出来たと思っていたのだが、取り消そう。
彼女ら精霊人というのは精霊と人との間にできた種族らしい。エルフのように長命だが、エルフより成長が早いという。普通の人間と違うのは、身に宿る魔力がけた外れに大きいとのことで、子供でも、魔法を使うことが出来るらしい。
「なるほどな。ではマリーさん、しばらくこの街に滞在しようと思うので、改めてよろしく頼む」
「はい! ……では早速なんですが……。」
長い付き合いになりそうなマリーはさっそく、俺に依頼書と何か、紙切れを手渡す。
「実はエリーから聞きまして、ムソウさんってここに来る前にワイバーンをおひとりで倒したのですよね」
「ん? ああ。この鎧はそのワイバーンから作ったらしいな」
「本当に、すごい方なんですね……。それでお願いしたいのがそちらです。」
依頼書に目を通すと
ワイアーム5体の討伐 報酬銀貨2500枚 ただし5体すべての場合のみ 素材売却金は依頼主のもの
とあった。
「ワイアーム?」
「一応こちらが資料になりますが、ワイバーンの幼生のことです。これが長い年月をかけて成長し、ワイバーンとなるのですが幼生と言えども、周囲に多大な被害をもたらしまして……」
ワイアームは、ワイバーンほどの攻撃力などは無いが、それでも、空飛ぶ大蛇と言えば、その脅威は何となく分かる。それが5体か……。なるほど、確かに危険だな。中にはいろいろな種類も居て、火を吐く奴も居たり、魔法を使ったりする奴も居るらしい。
それでも、一応、ギルドの基準で言えば、中級だという。オオイナゴと同じということもあり、戦うに際しての危機感はそこまでもたなくても良いのかも知れない。
「なるほど。で、なんであんたがこれを?」
マリーによると、ワイアームが生息する場所の近くにはマリーたちの故郷があるらしく、この依頼書はマリーたちの故郷をおさめる領主から実家を介しマリーの元へと届いたらしい。
しかし、マシロのギルドにはワイアーム5体に挑めるような冒険者はそう多くなく、さらに、依頼の大元である、領主がケチな奴らしく報酬金を規定ギリギリまで下げた挙句、素材の売却金までも手に入れるということで、割に合わないと、少ない熟練の冒険者たちも匙を投げたのである。
「ですが、この間それが届きまして……」
と、マリーは紙切れを指さす。俺はそれを開くと、どうやら手紙の様だ。俺はそれに目を通す。
『元気ですか? 私は、今は元気です。同封した依頼書は見てくれましたか?
このままだと、大変なことになってしまいそうです。いえ、もうなっているかもしれません。わがままかもしれませんが、急ぎ、冒険者の方を手配してくださると助かります。皆は信じていないみたいだけど、私はこの街を救ってくれる人が必ず来てくれると、信じています。お願いします。
……あなた達の家族より』
手紙にはそう書いてあった。よくわからないが、何か大変なことになっている、というのは理解できた。
「これ書いたのはどんな奴なんだ?」
「先ほどお話しした、私たちのもう一人の姉妹です。今までも手紙のやり取りはあったんですが、こんなこと書くなんてなかったものですから……」
「ふむ……そうなったら確かに不安になるよな。なんか内容も怖いし……」
「そういうわけで、お願いできますか?」
「……ああ、しょうがねえな。リリーにはスキルの件で世話になったし、エリーにはグレンのこともあって恩があるし、あんたら姉妹にはこれからもいろいろ世話になりそうだからな」
「ありがとうございます!」
すぐに行くことを決めたのは、これから付き合いが長いから、だけではなく、こうやって、被害に遭っている者からの、生の声があった、というのも大きい。見てしまった以上、何か取り返しのつかないことがあったら、後味悪いからな。報酬の額も悪くないし、断る理由は無かった。
「ただ、出発は明後日にしてくれ。今日は疲れたし、明日いろいろ準備するつもりだから」
「はい! ではお待ちしております!」
素材の売却金が手に入らないのは気になるが、前の依頼で結構稼げたし、なによりちょっとは歯ごたえのありそうな相手だからな。
久しぶりに腕が鳴る。
さて、マリーから依頼を受けたが、出立は明後日だ。だが、今日も泊まる所がない。
ギルドの試験の時も、結局どうしようかと悩んだ挙句、野宿をすることにした。しかし、街門のそばで寝ていいか確認すると門にいた騎士は、ここなら空いてるからここを使えと騎士の詰所の物置を二日も貸してくれた。
さすがにそれはもうやめとこうと思っている。
「なあ、マリーさん。この街に宿屋はないか?」
「ありますけど……。ムソウさん、泊まる場所がないのですか?」
俺がうなずくと
「では、ギルドの三階にある部屋をお使いください。ギルドの支部では遠方からの依頼者や冒険者用に宿泊用の部屋を用意してますので」
「ほんとか!?それは助かる」
マリーはそう言うと、2泊分の料金を提示。1泊あたり銀貨5枚なのでそれを支払った。
◇◇◇
部屋に着くととりあえず、報酬金のうちハクビに渡す分を決める。
ハクビには苦労させられたが、イナゴのほとんどを狩ったのはハクビだ。あいつの分を多めにしとこう。
どうせまた、すぐに依頼もあることだしな。
「……と、こんなもんでいいか」
ハクビには金貨80枚ってところだな。これだけ渡せば文句は言うまい。
さて、次はワイアームに備えた準備だな
って言ってもワイバーンの幼生ってことは、あれよりは弱い。オオイナゴと同じ中級ならさほどの準備は要らないかも知れんが、飛ばれると厄介だ。気功スキルの技を練習しておいた方が良いかも知れないな。
あ、無間の状態を見とこう。
無間を床に置きじっくりと見るが刃こぼれ等はないみたいだ。ただイナゴの体液かな、ところどころ汚れは目立つ。よし磨くか。
俺は異界の袋の中にあった布で無間を磨く。
ゴシッゴシッゴシッ
体液には若干の粘性があるらしく汚れはこびりついてなかなか取れない。
ゴシッゴシッゴシッ
力を入れると取れるな。うん、だいぶきれいになった。
きれいになった無間を台の上に置き、俺は体をふく。もう何日も風呂に入ってないからなあ。この世界に、風呂というものがあると良いが……。
仕方が無いので、水で濡らした手拭いで体中を拭いてく。
どんっどんっ
すると、戸を叩く音が音が聞こえる。
「あ? 誰だ?」
「ハクビだ。入ってもいいか?」
戸の外にはハクビがいるようだ。ロウガンとの話とやらは終わったらしい。
入ってもいいぞと返事をすると、ハクビは入ってきた。
「ん? 体拭いてる最中だったか。邪魔ならもう少し待つが」
「いや、いいよ。で、なんだ」
「報酬金を受け取りに来た……って、すごい傷の数だな……」
ハクビは俺の上半身を目を見開いて眺める。そんなに見ないで欲しいものだ。
ある意味、一生分のけがをしてきたからな。仕方ないと言えば、仕方ないのだが。
さて、あまり見られるのも嫌なので、俺はハクビの分の金貨が入った袋を渡した。受け取ったハクビは、中身を見ながら驚く。
「こんなにか? 半分以上あるじゃないか。等分ならまだしも、今回は私が迷惑をかけた。もっとお前がとってもいいんだぞ」
「イナゴ自体の討伐は、正直ほとんどお前がやっていた。俺はどちらかと言えば後処理のほうがくろうしたからな。相応の対価だとっとけ」
「しかし……」
「正直、今はそんなに金に困っていない。いいから持っていけ」
「はあ……分かった」
どこか不服そうだが、借りを作るのが性に合わないといった感じだ。この程度は借りにならないというと、分かったと頷き、ハクビは素直に金貨を受け取り異界の袋に入れた。
「おっ、初回報酬ってやつだな。お前ももらったか」
「ああ。ロウガンにたんまりと回復薬を入れられたよ」
なんでも、ロウガンとの話っていうのは、やはりハクビの狂人化についてだったらしい。今回の討伐で発動しなかったか否か、少しでも克服できたかどうかということだった。
ロウガン曰く、たびたび狂人化する奴を冒険者として認めるのはやはり難しいらしい。
「狂人化した私をお前が止めたと言ったら、ビミョーな顔してたぞ」
ハクビは嬉しそうに話す。……冗談じゃねえ。
そして、またこんな無茶をしたら、ギルドとしてもハクビを守ることが出来なくなる、とギルド支部長という立場を示したうえで
「ただ、お前の成長は俺も楽しみにしている」
と、ハクビに選別だと、回復薬、それも俺たちがもらったものよりも上位の効果を持つものをハクビに渡したという。
「あの男もなかなか憎めないところがあるな」
ハクビはぶっきらぼうに言うが、すごく尻尾を振っている。うれしいんだな。
「ああ、そうだ。その時に支部長からあることを頼まれた」
「あること?」
「ああ、どうやら私を治してくれた魔法士ウィズとエルフのレイカが担当しているミニデーモンの討伐がうまくいってないから、助けに行ってほしいと言われた」
「そうか。ミニデーモンていうのは強い魔物なのか」
「資料によれば、デーモンという超級の魔物の幼生らしいが、そこまで強くなく、下級の魔物だ。だが、デーモン特有の魔法が効きづらいという特徴を持っているらしい」
「ああ、ロウガンもそんなこと言ってたな」
「ウィズの弱点克服のためだったな確か。エルフの娘の攻撃も魔法付与によるものだから、苦戦の原因はそのあたりにあるみたいだな」
なるほどな。勇んで行ったのはいいが、やはりきつかったと。で、ロウガンは自分が勧めた手前、初めての依頼を失敗して落ち込んでもらうのも嫌だし、もっというと死んだりしたら、後味が悪すぎるってことで、同じ初心者のハクビに頼んだわけか。
「下級の魔物らしいし、お前にはぴったりだな」
「ああ。今回はお前もいないし、なるべく無理はしないようにするよ」
ハクビはそう言うと部屋を出ようとする。
「では、報酬、確かに受け取った。私は明日にでも救援に向かうが、また一緒になればよろしく頼む」
「ああ、またな」
俺がそう言うとハクビは出ていった。
にしてもあの二人が苦戦しているとはな。確かに昨日の段階でもまだ討伐依頼がされていたな。結構難しい依頼だったのかな。
二人はロウガンの言ったように弱点はあるが、どちらもこの世界の人間の中では強くなるのではと思った。向上心はあったからな。それに、実際腕も立つようだったし。
ちょっと気になるが、俺は自分の依頼に集中するとしよう。
と、そろそろ夜か。下で晩飯食って、もう寝よう……。
俺は立ち上がり、下の酒場へと降りて行った。
◇◇◇
……ラ……きて……ラ……ラ……して……
誰かが喋ってる?
誰だ……
……シンラ……ねえ……シンラ……
俺は目を開ける。
あたりは霧がかかったように白いもやでおおわれている。
声はどこからか聞こえている。
……シンラ……戻って……シンラ……
一体誰が喋っているのかと思い、声のする方へ走っていく。
するとそこには桃色の髪をした巫女装束の女が跪き、手を合わせている。何とも、儚げな女だな。
何かを祈っているのか?
女を見ていると、あることに気付く。額から短く何かが伸びている。よく見るとそれは角だった。
……シンラ……お願い……
この声はこの女が発しているのか?
……シンラ……もう……会えないの?
俺はその女に話しかけようと肩に手を伸ばす。
「……おい」
しかし、その瞬間、女の体が強く輝き、辺りは光に満ち溢れていった。
「うっ!」
何も見えない。思わず目を閉じる。
その後、ゆっくりと目を開けると今度は光というものがない、真っ暗な闇の世界だった。
……オオオオオオオオオッッッッ!!!
そして、辺りから人の、いや、人以外の者も混じった絶叫が聞こえてくる。
あまりの大音量に、思わず耳をふさいだがまだ聞こえる。
どうやら俺の頭に直接聞こえているみたいだ。頭が痛い……。
「くそったれ!なんなんだッさっきから!」
なおも聞こえる絶叫に
「言いたいことがあるならはっきり言いやがれ!コラああああ!」
と、その声に負けないくらい大きな声で叫んだ。
……すると俺の頭の中に響いていた絶叫は突然止まった。
なんなんだ一体。
しばらく、そこに立ち尽くしていると、何かの気配を感じる。振り返ると、一人の女が立っていた。さっきの女とは違う。全身包帯だらけで黒い髪は腰ほどの位置まで伸びている。黒装束でその眼光は刀のように鋭い。何だか、懐かしい気配がする。
「お前……」
俺は女に近寄ろうとした。すると、女は、フッと笑みを浮かべ先ほどの女のように、輝き出す。女から出ている光はそのまま辺りを照らしていき、ますます輝きを強める
「ッ!」
光が強くなり、目を閉じて、再び開けると、今度は草原に俺は立っていた。
「……」
「……あ?」
ふいに背後から気配を感じ振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
歳は二十歳前後だろうか。その割にはまだ、幼さの残るような顔つきだ。服装だけは何処かの王様のような、少し立派な格好をしている。
「……」
男は何も言わない。目に涙を浮かべている。その顔も、どこか懐かしいような雰囲気を纏っていた。一体この男は誰だろうと思っていると、男は俺に手を差し出して何かを渡そうとする。
「……ん?」
俺は手を出すと男は光る何かをくれた。それは粒子となり俺のからだの中に入っていく
「……お願い……します」
男はそう言って消えていった。何が? と、言おうとした瞬間だった。呆然とする俺の足元に亀裂が入り、俺はその亀裂に巻き込まれた。
「うあああああああ!」
そのまま俺は奈落の底へと落ちていく
◇◇◇
ハッ
……目が覚めるとそこは、今日泊まった、ギルドの部屋だった。
……そうだ……寝てたんだ。ハクビが出ていったあと俺は晩飯を食べて、酒を飲み、部屋に帰るとそのまま寝たんだ。
じゃあ、今のは夢か?
妙にはっきりした夢だった気がする。だが、思い出せない。
思い出そうとしてもやっぱりわからない。時々あるよなこういうの。
ただ、なにか頼まれたような……。なにか任されたような気がする。
まあ良いか。窓の外を見るとまだ明かりのついている建物が何軒かみえる。
まだ日が昇るには長そうだな。
俺はそう思い、布団にもぐって、再び眠りについた。




