第77話 ムソウの過去―ハルマサ達に出会う―
カンナの死が確定と知って、俺は死に場所を探すように旅をしていた。もう、皆が居ない以上、俺だけが生きているのも馬鹿らしくなってきていた。
あの村での一件以来、俺を狙う者は山賊や盗賊だけでなく、玄李の国の軍までもが、俺に兵を差し向けるようになっていた。俺はそのことごとくを潰していく。
俺が生きているということはもうすでに、大陸全土に響き渡っていた。だから、俺を殺してくれる奴には事欠かないが、やはり、面倒だとも思っていた。
どうせ死ぬのなら、こんなところで、こんな奴らに殺されてたまるか。
……皆を殺した奴らを殺して、俺も死んでやる……
そうやって旅を続け、死にたくても死にきれず、気づけば三年が経ち、俺は36歳になっていた。
そう……この年だ……この年に、俺は生涯忘れることのないだろう、俺にとって誇れる奴らに出会う。
後で聞いた話によると、ちょうどそのころは、“死神斬鬼”生存の報と、俺が国軍を返り討ちにして、玄李の兵力が下がっていた時だったらしい。そのため、各地で民衆の中、特に俺達のような安備の国出身の者達を中心に、反乱の狼煙が各地で上がっていた時だったという。
その反乱を鎮めるために国は兵を投入する。だが、すでに多くの兵を俺によって斬られているため、反乱の鎮圧も思うように進んでいなかったらしい。
更に、各地の反乱軍はさらに兵力を上げようと、大陸全土に散らばっている腕に自信のある奴を金で雇い、軍に加入させる、もしくは戦に協力してもらう、「傭兵制度」を実施した。戦に勝てば、報酬が得られたり、反乱軍が管轄する土地が与えられたり、ある程度の地位を約束されるというものだ。
そうした、反乱軍の働きかけにより、玄李に対する不満を爆発させた民衆の中から、我こそはという者が名乗りを上げ、各地の反乱軍に参加していった。
俺もその一人である。だが、俺は他の者と違って、ただ、死に場所を求めていただけだったがな。
闘いが増える分、俺の体には前にも増して、傷が増えていくようになった。それでも死ねなかった俺は、戦に参加し金を受け取ったらその軍から消える……そういう生活をしていた。
そして、俺が次に参加した反乱軍は、元領主であるタカナリの屋敷の近くの村だった。サヤや、カンナと過ごした家もそう遠くはないところにある。
俺はふと、死ぬなら、ここで良いか……と思いながら、空を見上げ、歩いていた。村人たちは、包帯だらけの俺を見てか、背中に背負った無間を見てか、ひそひそと俺を訝し気な目で見ながら話していた。
すると、
「ん? ……エンヤ? ……エンヤなのか!?」
と、後ろから声が聞こえた。
エンヤ……それは頭領の……俺の育ての親の名前と一緒だった。俺は立ち止まり、振り向く。
そこにはボロボロの服を着たみすぼらしい老人が驚いた表情で俺を見ている。誰だ?と思って睨むと、老人は、口を開く。
「私だ! ……わからないか? タカナリだ! ……お主も生きておったか!」
老人は笑顔で俺に寄ってきた。俺は老人をジッと見ていた。
……確かに、声は似ているし、髪はボサボサで、ひげも伸び放題だが、この優しくも、どこか間抜けな目元は見覚えがある。
この老人はタカナリで間違いなさそうだ……。しかし、何故、俺とエンヤを……? 俺がそう思っていると、タカナリはポンポンと俺の肩を叩く。
「いや、久しいな。この大きな刀を見るのも懐かしい……」
タカナリはそう言って、俺の肩を叩き続けていた。ああ、無間を見たのか。それなら頭領と間違えるのも無理はないな。
……だが、そんなことはどうでも良かった。俺は早いとこ、反乱軍のところに行きたかった。俺はパシッとタカナリの手を払い、踵を返した。
「む? ……どうしたのだ? エンヤ。
……私を覚えていないのか……? ……ん?」
俺はタカナリの言葉を無視して歩き出そうとした。だが、突如、タカナリにガシッと腕を掴まれる。そして、タカナリは俺の前に来て、俺をまじまじと見ていた。
「いや……エンヤじゃない……お前は……まさか……?」
タカナリはぶつぶつと何かを呟き始め、そのうちハッとした様子で、再び俺を見つめた。そして、俺の肩を掴み、声を上げる。
「お前は……ザンキ殿……か?」
タカナリは目に涙を浮かべだし、俺にそう聞いてきた。正直、鬱陶しかった。俺はタカナリを再度振りほどき、前に進もうとする。
「ま、待て! やはりザンキ殿か! ……生きているということは聞いていたが、また会えるとは思わなかった! ……ってどこへ行くのだ!? ……ザンキ殿!!!」
タカナリは何度も何度も俺の前に立ちはだかり俺の行く手を遮った。流石にイラついた俺は無間に手を伸ばす。タカナリは慌てて、手を前に出した。
「ま、ま、待ってくれ! ザンキ殿! 噂は聞いておる! 傭兵家業をしておるそうじゃが……お主、ここの反乱軍に用があるのではないか?」
タカナリの言葉に、俺は取りあえず、無間から手を放して、タカナリの話を聞く態勢になり、無言で頷いた。
「……ふむ、そうか……では、私についてきてくれ……」
タカナリはそう言って、歩き出した。何のことかわからないが、俺はタカナリについていく。
タカナリは歩きながら、俺にエンヤの死、俺の家族の死を確認してきた。俺はあの日から話すということが出来なくなっていたので、タカナリの言葉にただ、頷いて応えている。俺がそうしていると、タカナリは、そうか、そうかと目に涙を浮かべて頷いていた。そして、泣きながら俺に何度も謝ってくる。
俺はどうしたらいいのかわからなかった。取りあえず歩く先を見つめていた。
しばらくして、タカナリは村の中の大きな屋敷の前に止まった。そして、俺を見ながら口を開く。
「……さあ、ここが我が反乱軍の本部だ。……私はザンキ殿を雇うとする。入ってくれ」
タカナリはそう言って、屋敷に入っていった。なるほどな、タカナリ自身が、ここいらの反乱軍の指揮官になっているというわけか……。まあ……どうでも良いが。
俺はタカナリについて屋敷の中に入っていった。
すると、中には若い男女が五人ほどいた。……これだけか? それぞれが部隊を率いている指揮官だとしても少なすぎるとも思ったが、タカナリによると、ここでは大規模な戦はしない代わり、諜報や、斥候などを主として行っているらしい。
だから、この人数でも大丈夫なのだという。この村以外にも反乱軍は付近に居て、タカナリはその者達をまとめ上げ、巨大な反乱軍の総指揮官としているようだ。さしずめ、ここはその大きな軍の一部隊に過ぎないみたいだな。
基本的には、若い男……名は、ハルマサ。刀を腰に差した、短髪の男で25、6くらいか、そいつと、忍びの様に、黒い着物に、黒い頭巾、中には鎖帷子をつけた、小さな女……見た目で言うと10もいっていないような子供、名は、ツバキという。
主に、この二人が作戦の実働部隊だという。他の者は武具の管理や、医者、その他の雑務をこなす者達だとタカナリは語った。
ふと、俺がそいつらを見ていると、ハルマサの方が俺に寄ってきた。
「……お! それって、闘鬼神の頭領が持っていたやつか!? すげえな、あんた」
ハルマサは目を輝かせて俺の無間を指差してそう言った。タカナリはそんなハルマサに、やれやれと肩をすくめる。
「ハルマサよ、何故それを?」
「何でえ、忘れたのかよ。俺はガキの頃、闘鬼神に助けられたって言ったじゃねえか。その時からよ、闘鬼神には、憧れてんだよな……」
ハルマサはそう言って、空を眺めている。……こんな奴知らねえな。まあ、こいつがガキの頃というと、もう20年以上も前になるわけだからな。覚えているはずもないか……。
「ふむ……なればちょうどいいな。紹介の手間が省ける。
……この男はザンキ。かつて闘鬼神に所属し、国中のみならず、隣国までその名を轟かせていた男だ。今回の作戦に当たり、傭兵として雇った」
タカナリは俺を指しながら簡単に紹介した。すると、ハルマサ以外の者達も目を見開き、俺を見ている。
「あ、あんたが、あの……すげえ」
ハルマサはそんなことを呟きながら俺をずっと見ていた。正直鬱陶しい。俺は皆から少し離れて、腰かけた。すると、今度はツバキの方が俺に近づいてきて、ジッと見てきた。
「……」
「……?」
ツバキは何も言わない。俺は不思議そうにツバキを見ていると、ツバキは懐から何かを出してきた。それを俺に渡してくる。何だろうと思い、手の中を見ると、それは貝殻だった。開けると、軟膏のようなものが入っている。
「……薬」
ツバキは一言そう言うと、俺の体を指差した。
……ああ、包帯だらけで、血がにじんでいるのが気になっていたのか……俺は薬をとりあえず懐にしまった。だが、なおもツバキは俺をジッと見ている。なんだ? 塗らねえといけねえのか?
……チッ……こいつも鬱陶しいな……。俺は、立ち上がり、ツバキを払うようにして、さらに皆から離れていく。ツバキはその場で、俯き、地面を見ていた。すると、タカナリが近づいていき、ツバキの頭を撫でる。
「あ奴も、大変だったのだ……今はそっとしておいてくれ……」
「わかった……頭領」
ツバキはタカナリに、コクっと頷く。物分かりは良いらしい。
タカナリは他のものたちを見る。すると、皆もコクっと頷いたが、ハルマサだけは違った。俺の方に近づいてくる。それを見てタカナリは慌てて、ハルマサを止めようと名前を呼びかけるが、ハルマサは無視し、ぐんぐんと近づいてきた。
「なあ、ザンキ~!」
ハルマサの言葉に俺は殺意を以って睨んだ。ハルマサはおっと……と言いながら、後ずさる。
「あ~……すまなかった。……あ~、作戦! 作戦会議するからよ! こっちに来てくれないか? ザンキ……さん?」
ハルマサは屋敷の方を指差す。俺は仕方ないと思い、頷いて、ハルマサについていくことにした。皆はその様子をポカンと口を開けて見ていた……。
◇◇◇
「――今回の目的はここの制圧だ」
タカナリはそう言って地図を指差す。そこはこの村の近くにある、大きな屋敷だった。玄李の兵士たちの駐屯地になっている。また、ここら一帯を支配している者の邸宅にもなっているという話だ。
そいつは二年ほど前にそこに着任し、ここら一帯から多額の税を徴税しているという。また、税を払えなければその都度住民を捕らえて、屋敷内で奴隷のように働かせたり、近くの鉱山で重労働を強いる奴だとタカナリは話した。まあ、今となっては、どこも同じような奴らがあちこちはびこっているわけだし、あまり新鮮味は無いな。となれば、いつもと同じような仕事になるわけだな……。
さて、今回の目的は二つ。屋敷を制圧し、捕らわれた人々を解放すること、もう一つはその男を討つことだった。囚われた人々の中には、この村の奴ら、特に女が多いという。これも、よくある話。俺には関係ないな……。
皆は頷きながら、タカナリの話を聞いている。だが、俺はそこまで聞くと立ち上がり、すぐにそいつの首をとろうと、屋敷を出ようとした。
「……む? ザ、ザンキ殿! まだ話は……」
タカナリはそんな俺を止めようとする。俺はそれを無視して、屋敷を出た。すると、背後から誰かがついてくる音が聞こえた。その音は俺の横に来る。
見ると、ツバキだった。ツバキはジッと俺を見ながら何も言わず、俺の横を歩いている。
「な!? ツバキまで……待たんか! 二人とも!」
「あ~、良いって、タカナリ、俺も行くからよ。後の皆はそれぞれ準備していてくれ。
……え~っと……トウヤ、俺の防具を頼む。……ナツメ、アキラ、お前たちは解放された者達の手当てをしてもらうことになるだろう。ここで準備をしていてくれ」
慌てて、俺達を呼び戻そうとするタカナリに向かって、ハルマサはそれを止める。
そして、他の者達に指示を出した。皆は頷き、それぞれの作業に入る。トウヤという少年から鎧を受け取ったハルマサは、俺達を追うように走ってついてきた。
それを見ていた、タカナリはボソッと呟く。
「……皆、勝手じゃの……だが……頼むぞ」
タカナリはそう言って、その場に座り、頭を抱えた……。
さて、俺達はくだんの屋敷が見える所に到着した。屋敷は広く、周囲に堀が出来ている。
そして、四方には門があり、そこへ行くにはそれぞれ、堀に架けられた橋を渡っていくしか入る方法はなかった。
……屋敷というよりは城に近いな……。ここからじゃ、見えないが、各門に門番も居るだろう。
「さて、二人とも聞いてくれ……」
ハルマサは俺達に作戦でも伝えようとしているのか、口を開く。
「まず、俺とツバキが旅芸人を装って、中に侵入してみる。入れたら、俺達は暴れる。そして、門番が気をとられている隙に、ザンキさん、アンタが侵入して屋敷を殲滅……どうだ?」
ハルマサは目を輝かせて、俺達を見てきた。
俺は内心ため息をつく。そんなずさんな計画ではダメだろうと……。
ハルマサは一番の肝である、自分たちが入れなかった時のことを想定していないみたいだからな……。
ツバキもそれを理解していたみたいで、ジトっとハルマサを見返す。
「……なんだよ、その眼は……?」
ハルマサがツバキにそう言っている間に、俺は茂みから出て、屋敷の方へと歩いていった。
「あ! ザンキさん! まずいって! 戻って来い!」
ハルマサはそう言って飛び出そうとするが、ツバキが服を引っ張り、ハルマサを止める。
「うおっと……。何すんだ? ツバキ」
「……私たちはあそこから」
ツバキはそう言って屋敷の左右にある門を指差した。何を言っているのかわからないハルマサは首を傾げる。
「あ? どういうことだよ……」
「……じき分かる」
ハルマサの問いにツバキはそれだけ答えて、移動を開始した。訳が分からんと言って、ハルマサは取りあえず、ツバキが向かった門とは反対方向にある門に向かって動き出した。
……さて、俺は屋敷に向けて、歩いている。すると、屋敷の方から声が聞こえた。
「止まれ! 貴様! 何者だ!」
門番が俺に気付いたらしいな。俺はそのまま門へと向かう。
「止まれと言っている!」
門番たちは、俺を睨みながら、手にしていた槍を構えた。だが、そんなことは関係なしと俺は歩き続ける。
「質問に答えろ! さもなくば……」
一人の門番がそう言って、手を上げた。すると、門の上にある、櫓から、弓を構えた者達が顔を見せた。俺は兵士たちの数を確認し、さらに近づいていく。……まだ、足りないか……。
「仕方ない……総員、放て!!!」
手を上げていた兵士はそう言って、手を俺に向ける。すると、俺に向かって矢が幾本も飛んできた。……が、こいつら素人なのか、と思うくらいに下手くそだった。躱すまでもなく矢は俺の横を通過していく。
ふと、一本だけ俺にまっすぐ飛んできた。まぐれだろうが、俺はその矢を掴む。そして、放たれた方に向けて、思いっきり投げた。矢はまっすぐ櫓の方へ飛んでいき、ギャッ! という悲鳴と、何かが倒れる音がした。
「……」
唖然とする兵士たちを俺は睨み、ゆっくりと背中から無間を抜いて走り出す。
「ヒィ!」
俺に睨まれた兵士たちはガクガクと震えて、動こうとしなかった。すると、先ほど矢を放つように指示した兵士が叫ぶ。
「き、貴様ら!怖気るでない!態勢を立て直し、あの輩を――」
兵士の言葉はそこで途切れる。俺は飛び出し、その兵士に近づき、首を刎ね飛ばした。ついでに周囲に居た四人の兵士を横なぎに斬る。
門のそばに居た兵士たちはドサッと倒れて息絶えた。その様子を櫓から見ていた兵士は次々に叫び出す。
「し、“死神”だあああ!」
「ざ、斬鬼襲来!斬鬼襲来!」
「直ちに応援を呼べええええ!!!」
兵士たちは口々にそう言いながら、警鐘を鳴らした。すると、しばらくして多くの兵士たちが刀を抜いて現れた。俺はその中に突っ込んで行く。
そして、目についた敵を片っ端から斬っていった。ある者は首を、ある者は胴体を、ある者は肩口から斜めに斬られ、即死していく。辺りはあっという間に血の海になっていく……。
「ひ、ひいいいい!!!」
「助け……!!!」
何名かは俺に怖気づき、その場から逃げようとしたが、俺はそいつらを追って、背中から斬ったり、襟をつかんで地面に叩きつけたりして、そんな奴らでさえ、ただひたすら殺していた。
ふと、俺の方に火矢が飛んでくる。俺は敵の一人を盾にして、それを防いだ。矢が放たれた方を見ると、先ほどの櫓の連中が恐怖から立ち直ったのか俺に火矢を次々にうってくる。
俺はそれを躱したり、殺した兵士を盾にしたりして、凌いでいた。
そして、懐から炸裂弾を取り出し、火矢の火を導火線につけて、櫓の方に投げる。のぞき窓から櫓内に炸裂弾が入っていく。
「!……に、逃げ――」
ドオオオオオオオン!!!
櫓は中から大爆発を起こして、爆散していった。瓦礫と共に矢を放ってきた奴らの肉片があたりに散らばる。
「……うあ……タス……助け……」
中にはまだ息がある奴も居た。四肢の一部を失い、俺に助けを求め、手を伸ばす兵士たち。俺はそいつらに止めを刺して、屋敷に入っていく。
屋敷内には怯えながら、その場に座り込む女たちがいた。囚われていた、近くの村の者だろう。手には手枷をはめられている。俺は無間を振り上げ、女たちに近づく。
「お、お助け……」
「や、やめて……」
女たちはそう言って、目を瞑った。
ガキン!
俺はそいつらにはめられていた手枷の鎖を無間で叩っ斬る。
ゴトンと音がして、女たちの手枷が落ちる。
「えっ……」
女たちは目を開け、自分の手を見てキョトンとしている。俺はそんな女たちに一瞥もせず、屋敷内を歩いていった。
屋敷の中でも、兵士たちは現れる。俺はそのことごとくを切り伏せて、ここの主の元へと進んでいく。
すると、奥の部屋へとたどり着いた。ふすまを斬り飛ばすと、豪華な服を着た男を護るように、三人の屈強な兵士が武器を構えて立ちふさがっている。……部屋の隅には裸にされた三人の女たちがぶるぶると震えていた。女たちの手には先ほどの女と同じように枷がはめられている。
「貴様! これまでの狼藉、許さぬぞ!」
「“死神”だか、なんだか知らねえが、ここで貴様を殺してやる!」
二人の兵士がそれぞれ槍と刀を構えて、俺に向かってきた。
俺は槍の穂先を斬り、そのまま、槍の男の首を刎ねた。そして、斬り落とした穂先を手に取り、刀を持つ男の眉間に突き刺す。
「ガッ!」
「アアア~~~!!!」
槍の男は即死し、刀の男は、叫びながら俺の手を持ち、じたばたとしている。俺は穂先をぐりぐりと動かし、スッと抜いた。
刀の男は、頭から血を噴き出し、その場に倒れそうになるのを掴み、更に叩きつける。畳が割られ、男は首を潰しながら、即死した。
「ひ、ひいいいいいい!」
豪華な服を着た男は下半身を自らの小便で濡らしながら、その場に座り込む。俺はそいつを睨みつけ、近づいていこうとする。
だが、もう一人の大柄な男が、無間よりもデカい出刃包丁のような得物を俺の足元に振り下ろした。
「それ以上近づいてみろ……この俺が、貴様を真っ二つにしてくれる」
男はそう言って、俺を睨みつける。俺はふう、とため息をして、目の前のでかい武器に無間を振るった。
バキンッ!といって、真っ二つになる男の武器。
「なっ!?」
驚愕する男の首を即座に俺は刎ねた。ドサっと倒れる男の死体を見ながら、この屋敷の主であろう男は更に驚愕の表情を浮かべ、汗をだらだらと流し始める。
「ば、馬鹿な! この三人が瞬殺……だと!?」
後は、コイツだけ……俺はゆっくりと、奴に近づいていく。
「ま、待て! 話し合おう! 何が欲しい? か、金か! 望む額だけお前にやる! だ、だから!」
主はそう言って、俺に助命を懇願する。……が、俺は無間をゆっくりと振り上げた。
「ひ!? そ、そうだ! 女はどうだ!? ここに居る女どもの中から好きな者を選べ!何人でもお前に渡そう!!!」
女どもを指差して、さらに助命をする糞野郎……。
俺は両手で無間を持った。
「た、助けえええええ~~~~!!!――」
俺は無間を力いっぱい振り下ろした。男は体を左右に斬られ、血を噴き出しながら死んでいった……。
俺はそいつの返り血を浴びる。……そして、部屋の隅で震えている女たちを見た。
「……ひぃ!」
女たちは俺と目が合うと、手で頭を押さえて、さらに怯えていく。俺はそいつらの枷の鎖を斬った。ゴトン、ゴトンと落ちていく手枷。そして、それを驚いた表情で見つめる、女たち。
俺は、半分になってしまった、ここの主の男の首を斬り、手に持って、その場を後にした……。
外へ向かうと、まだ残っているここの兵士たちと、ハルマサ、ツバキの二人が闘っていた。二人とも若いのに強かった。並みいる兵士たちを次々と倒していく。
基本的にハルマサが前に出て刀を振るって闘い、ツバキが遠くから、クナイや手裏剣、癇癪玉などを投げてその援護をしているという戦い方だった。時々、ツバキの方に敵がいくと、ハルマサが対処してツバキを守っている。
そして、ハルマサは闘いを楽しんでいるようにも見えた。動きが生き生きとしている。偶に危なくなったのをツバキが助けると、ハルマサは、ありがとう! と言って、ツバキに笑っていた。
ツバキも無表情ながら、その言葉に頷き、また闘いを再開させていく。本当に斥候なのか、こいつら。はなはだ疑問が芽生えてくるな……。
俺はそれを見て、なんだか妙な気持ちになった。
……俺にも……あんな時が……
俺は目を瞑り首を横に振った。
……俺の望むもの……?
……奪った奴らが何を言う……?
……もう、あの時には戻れない。
……もう、俺の仲間たちはいない。
俺はゆっくりと、目を開けた。これ以上、ハルマサたちの闘いを見ていたくないと思った俺は、ここの主の首を、ハルマサたちが闘っているところへと投げた。
ドチャッと音を立て落ちる首。ハルマサや兵士たちは音のする方を見ると、驚愕し、俺の方を見た。
「ザンキさん……これは……?」
ハルマサは驚いた表情で俺にそう尋ねてくる。
「……」
俺はその言葉を無言で返した。すると、兵士の中から、
「モ、モウコ様!?」
「馬鹿な! 討たれたというのか!」
「さ、“三奇衆”はどうした!? ……まさか!」
という声が聞こえてくる。そして、兵士たちは次々と武器を捨ててその場に跪いていく……。主人が討たれ、どうやら降伏したらしいな。ハルマサはそれを見届けて、ツバキの方に目を向ける。
「……ツバキ、俺は屋敷内で囚われた者達の救出を行う。お前は狼煙を上げて、ナツメ達と、近くに来ているはずの本隊に報せてくれ」
ハルマサの言葉に黙って頷くツバキ。そして、ハルマサは俺の方に近づいて肩に手を置いた。そして、
「……よくやった。流石、ザンキさんだ!」
と、笑って、屋敷の中へと入っていく。俺はハルマサの言葉にまたしても妙な気持ちになったが、すぐに忘れて、この場に居る兵士たちの後処理をしようと、広場に下りていき、愕然としている兵士たちに俺は近づいていく。
そして、無間を抜いた。止めを刺そうと無間を振り上げる。
「な、何をする気だ!?」
兵士の一人が驚愕した表情で俺を見ていた。俺はその言葉を無視して、刀を振り下ろそうとする。
「や、やめ……!」
カンッ!
突如、無間に何かが当たる音が聞こえた。見ると、それはクナイだった。狼煙を焚き終えたツバキが俺に向けて投げて来たみたいだ。
ツバキは俺に近づいてくる。
「殺しては……駄目……こいつら……捕虜……情報……聞き出す」
ツバキは震えている兵士たちを指差してそう言った。そして、ジッと俺を見てくる。俺はため息をついて、無間を下した。
「……は、ハハハッ! なんだ? 斬らないのか!」
俺が無間を下すと、安心したのか一瞬間が開いて、兵士たちが笑い出した。
「やはり、負け犬の国の者だな! そんな度胸は無いか! “死神”と言えどもこの程度か!」
「今に見てろ、負け犬共! 貴様らは必ず本国の精鋭たちにより、すぐさま殺されるだろうな!」
「良かったなあ~! ザンキ! すぐに家族の元へと行けるぞ~!!!」
兵士たちは次々と俺達に嘲笑の声を上げた。俺は無言で、再度、無間を振り上げようとする。
すると、次の瞬間、
「ガッ、ギャアアア~~~!!!」
突如、目の前の兵士が苦痛に満ちた悲鳴を上げる。見るとツバキが俺を嘲笑っていた、兵士の太ももをクナイで刺していた。
「私たちはいずれ殺される……あなた達は今殺せる……」
そう言って、ツバキはクナイを抜いた。足を押さえて悶える兵士。その様子を見て黙り込む他の兵士たちにツバキは、未だ転がっている、俺が斬った敵の死骸の山を指さした。それを見て、更に顔色を悪くしていく兵士たち。
茫然とその光景を見ている俺にツバキは顔を向ける。
「仲間の侮辱……許さない……仲間の怒りは……私の怒り……」
その後、ツバキは狼煙の方へと向かう。俺は無間を仕舞って、兵士たちに縄をかけていく……。ついでに、俺に、家族の元へと行けると言った奴の口を、思いっきり殴って歯を全部叩き折った。
……しばらくすると、タカナリと共に、反乱軍本隊の軍勢が屋敷の中へとなだれ込んでくる。広場の惨状に目を丸くするタカナリ達だったが、すぐに、捕縛した兵士たちを連れて行く者、屋敷内の死体を片づけていく者と、それぞれ作業を始めた。
すると、ハルマサが囚われていた者達をつれて出てきた。ハルマサの背後には、先ほどの女たちも居る。女たちは庭の隅に腰かけている俺のそばまで来て、一礼し、反乱軍たちに連れられて行った。
そして、ハルマサが俺に近づき、水の入った竹筒を俺に渡してきた。
「お疲れ、ザンキさん」
「……」
俺はそれが鬱陶しくて、ハルマサが手にしていた竹筒を地面に叩き落とした。はあ~、とため息をつき俺の横に座るハルマサ。
「聞いたぞ、女たちの手枷を斬ったって。アンタ、根は……」
俺は立ち上がり、ハルマサから離れていく。ハルマサはまた、ため息をついて頭をポリポリと掻いていた。
庭の中では、解放された者達を、ナツメ……だったか、遊女のような格好をして、白い前掛けをした女が怪我の手当てをしていた。そばには薬箱を持った、少年のような見た目の少女、アキラがそばに居た。少女といっても、歳はハルマサと同じくらいか……。
ナツメは、俺よりも少し下くらいかな。30前後という感じだ。そんなことを思いながら、二人を見ていると、ナツメと目が合う。ナツメは俺に手招きをした。
「ザンキさん、どこかお怪我はないですか?」
ナツメは俺にそう尋ねてくる。
「……」
俺は無視して、その場を離れ、屋敷から出ていった。背後で二人は深くため息をついていた。
屋敷から出ると、反乱軍の行列が村へと続いていくのが見える。結構な人数だなと思った。俺も気づかなかった辺り、意外と優秀な軍隊らしい。
そして、歩き出すと、皆、俺を見て道を開けていった。俺は塀にもたれて、その場に座り、しばらく辺りの景色を見ていた。
……ここは見覚えがある。仕事で巡回していた田園だな。あの時とほとんど何も変わっていないようだ。
変わったのは……俺か……。
俺は無間を手に取り、手入れを始めた。ふと、俺に近づく足音が聞こえる。また、ハルマサか? と、思い顔を上げると、そこには15、6の少年が立っていた。タカナリの屋敷で見たな、こいつ……確か、名前は……
「トウヤと申します。……刀の手入れをするのでしたらこちらを……」
と、トウヤは俺に砥石と、綺麗な手ぬぐいを渡して、どこかへと去っていった。俺はトウヤが置いていったものを使い、無間の手入れを始める。
しばらくすると、また足音が聞こえた。そちらを見ると、今度はツバキとタカナリが歩いてきていた。
「私も……手入れ……」
「私は少しばかり休憩じゃ……やはり歳かな」
二人は俺の隣に座り、ツバキも武器の手入れを始める。タカナリは煙管に火をつけ、それを吸い始めた。俺達に作業をさせながら、適当な場所で煙をくぐらせていたエンヤと被って見える……。
二人はずっと、黙ってそれぞれのことをしている。特に気が散るようなこともなかったので、俺も追い払うようなことはせず、また、その場を去ろうとせず、無間の手入れを続けた。
そして、無間の手入れを終える頃に、ツバキが口を開く。
「ん……出来た……どう?」
ツバキはクナイや手裏剣、鎖分銅や鎌、忍者刀を俺に見せてきた。少し面倒だと思ったが、俺はそれを見てみる。
……よく手入れされているなと思った。どこにも血糊や油などはついておらず、刃こぼれもなかった。ふと、一本のクナイを手に取る。そして、指先に当てた。ほとんど力を入れていないのに、俺の指先に一本の赤い線が出来て。そこから血がにじみ出る。良い切れ味だなと思い、クナイをツバキに返した。
ツバキは頷いて、武器を仕舞っていく。そして、懐から、何か取り出した。見るとそれは、俺に渡してきたものと同じ貝殻で、中から軟膏を手に取る。
「ザンキ……さあ……」
ツバキは俺にその軟膏を塗ろうとして、俺の手を取ろうとする。
「……!」
だが、俺は手を引っ込めて、懐から貰った軟膏を出して、自分で塗った。ツバキはキョトンとした後、項垂れる。その後、タカナリの方を見て、
「勿体ない……頭領につける……」
と言った。
「わ、私はどこもケガしておらん! 自分に使え!」
タカナリは慌ててそう言いながら、ツバキについていた、小さな切り傷を指差す。ツバキはジッとタカナリを見つめた後、言われるようにした。
その後、
「じゃあ……もう行く……」
ツバキは立ち上がり、屋敷の中へと入っていった。それを見送る俺とタカナリ。タカナリはふう、と煙を吐き出し、
「あ奴も、ひどい目に遭ってきたらしい……。
幼いころに親を殺され、その後は見世物小屋で働かされていたという。……その時から、あ奴の体は成長しておらんらしいな。
ナツメによれば、幼い時の出来事がやはり原因だという……あれで18歳だそうだぞ」
と、語った。俺はぼーっと空を見上げた。
だから何だ? そんな思いをしている奴らなんぞ、今ではいくらでもいるだろう。生きているだけありがたいと思え。
……カンナは……もう……。
俺は立ち上がり、その場を後にしようとした。闘いが終わったなら、金を受け取り、こんな鬱陶しい奴らが多い場所なんぞに、とどまらず、さっさと立ち去りたかった。
だが、ぽつりとタカナリが呟く。
「なあ、ザンキ殿……この仕事が終わってもしばらくここに留まってくれないか? もちろん報酬は出す。……それに……」
俺はタカナリの言葉に振り返った。タカナリは俺に懇願するような目で俺を見ている。これ以上俺に何を頼みたいというのだ……。
だが、ここに居れば戦場には事欠かなさそうだ。そうすれば……いつか……。
それに、タカナリには、恩がある。散々悩んだが、俺はタカナリの申し出を受け入れることにした。
俺がタカナリの申し出に頷くと、タカナリは微笑み、改めて俺はハルマサたちの部隊に加わることになった。




