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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
“死神斬鬼”を語る
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第75話 ムソウの過去―すべてをうしなう―

「はぁ、はぁ、はぁ」


 俺は先ほど、襲ってきた奴らを倒し、タカナリの屋敷へと走っている。辺りはもう暗くなっていた。

 ……くそッ! 俺がもう少し早く屋敷に行っていれば、こんなことにはならなかったはずなのに……。


 せっかく手に入れた幸せの時だ。誰かに奪われてたまるか! ……俺はなおも、走り続ける。


 そして、走り続けてようやく、タカナリの屋敷の前に着いた。辺りにはおびただしい数の死体が横たわっている。恰好から見るに、ほとんどがタカナリの屋敷で働いている従者たち。他は、山賊のような様相だ。あいつらが言っていたように、かなりの数の人間が、玄李から安備に流れているとみられる。

 門をくぐると、更に多くの遺体が目に入った。今日の為に集まったサヤの村に居た奴らから、近隣の村々からここに来た、女、子供、老人……皆、血を流しながら倒れている。

 そして、屋敷からはあちこちに火の手が見え、煙が上がっている。庭にはサヤたちの姿は無い。となれば、あの中に居るのかも知れない。そう考え、走り出そうとした時だった。 

 ふと、辺りを見ると、誰かが立っているのが見えた。満身創痍の状態で、大きな刀を杖にボロボロの状態でそいつは広場に立っていた。


「よ……よう……ザ……ンキか……遅かった……じゃねえか……」


 そいつは、俺に話しかけてきた。


 ……よく見るとそれは、闘鬼神の頭領エンヤだった。エンヤは俺を見ると、力が抜けたように倒れていく。


(カシラ)!」


 俺は倒れこむ頭領を抱きかかえた。体中に刀傷や矢傷を負い、どくどくと血を流しているエンヤの姿。それは、俺が初めて目にする姿だった。


「はぁ……はぁ……立派に……なったなあ……ザンキ」

(カシラ)! 喋んじゃねえ! すぐに手当てを!」


 俺は血を止めようとしたが、エンヤは俺の手を掴む


「いや……いい……最期に……お前が見れて……よかった。

 ……早く……あいつら……のところに……行ってよ……地獄で……暴れねえ……とな」


 頭領は周りを見る。そこには、よく知った、闘鬼神の面々が横たわっていた。ここで、俺が闘鬼神を抜けるときに泣いてくれた奴らだ。十年近く会っていないが見紛うはずはない。

 ……だが、皆はすでに死んでいた。それでも皆の表情は明るい。血まみれになりながらも、達成感に満ちた顔をしている。俺は、皆にすまない、と頭を下げて、エンヤの顔を見つめた。


「何、冗談言ってんだ! 俺はアンタにまだ、恩返し出来てねえんだ! 捨てられていた俺を拾って、サヤと会わせて……俺はアンタが居たから、今こうして幸せなんだ! だから死ぬな! 生きて、俺に恩返しさせろ!」


 気が付くと俺は、涙を流していた。必死に、エンヤの手当てをしようとする。だが、どこから手を付けたら良いのか分からない。一つの傷を抑えても、別の傷から更に多くの血が流れ出している。

 そんな俺を見ながら、エンヤはフッと笑った。


「お前でも……泣くんだな……俺は……お前をずっと……見ていた。

 親の……愛情も……知らない……こいつを……どう……しようかとも……考えていたが……杞憂だった……みたいだな。

 お前は……本当に誇れる……俺にとって……闘鬼神の……仲間で……“息子”だ」


 エンヤはそう言って、俺の頭を撫でる。生まれて初めて撫でられたその手は、俺が想像していたよりもだいぶ弱弱しく、ずるりと俺の頭から落ちていった。


「……何言ってんだ! いいから、もう喋るんじゃねえ!」


 何としても、コイツを生かしたい。生かして、サヤとカンナとエイシンを連れて、今度は四人で、あそこで暮らしながら、コイツに俺達の幸せってやつを見せたい。

 そう思いながら、エンヤの傷を抑えていた。するとエンヤは、手にした大刀を持ち上げながら、口を開く。


「ザンキ……俺から……お前に渡し……たかったものがある……俺の……この……無間を……お前にやる。

 ……今……中では……エイシン……だったか……あいつが……サヤと……お前の子を……守っている……はずだ……早く行って……この刀で……助け……てやれ……。

 最後の頭領命令だ……」


 エンヤは闘鬼神設立よりも以前から、頭領と共に闘ってきた愛刀、無間を俺に押し付けてくる。そして、俺の手を上から掴み、無理やり刀を持たせた。


「最後って言うんじゃねえ! こんな……こんなもの受け取れるか! 

 いいか!? 中の奴ら倒して、すぐにサヤたちを連れてくるからな! それまで、死ぬんじゃねえぞッ!」


 俺は、無間を持ち上げ、屋敷の中に入っていく。絶対に皆で帰る……そう、エンヤと約束して、俺はサヤたちの救出に向かった。


 ◇◇◇


 ザンキが屋敷に入っていくのを見て、闘鬼神頭領、エンヤは空を見た。


 今日は星が綺麗だな。……こんな日に死ねるなんて、俺は幸せだ。仲間たちにも囲まれて、本当に……。


 あ、だが、一つだけ悔いがあるとすれば、でかくなったアイツの息子と闘ってみたかったな……。

 エイシンは稽古とか言って、すでに手合わせとかしたのかな……うらやましいな。


 ふと、エンヤは、自身の目がしらが熱くなり、何かが流れていく感覚があった。


 そうか……俺は今……泣いているのか……?


 悔しいんだな……悲しいんだな……。




 ……もっと、もっと、アイツらを見てやりたかった。

 ……もっと、アイツらの幸せってやつを感じたかった。


 ……もっと、ザンキとサヤに親らしいことをしたかった。


「生きろよ……ザンキ……サヤ……」


 エンヤは二人の“子供”達に思いを馳せながら、二度と開くことのない瞼を閉じた……。


 ◇◇◇


 タカナリの邸内は、すでに敵の姿はほとんどない。ついでに言えばタカナリも居なかった。もうすでに奴らの手によって殺されたか……。

 まあ、なんにせよ、もう、戦争は免れねえな。これは、玄李の奴らからの、正式な宣戦布告のためのものだったのかもしれない。となれば、敵は既に目的を達成したことになるよな……。


 俺はそう思い、サヤたちを探す。目的を果たしたのならば、サヤが無事なら、奴らも手は出さないはずだ。サヤは昔から、どこかに隠れるのは上手かった。家族みんなでかくれんぼした時も、サヤもカンナも隠れるのが上手くて、俺もエイシンも、最後まで見つけられなかった。だから、今回も……。きっと、無事なはずだ。


「サヤああああ! どこだ! 返事しろおおお!」


 俺は燃える屋敷内を走りながら、サヤを探す。途中、敵の残党が現れ、俺に襲い掛かってくるが、俺は、そいつらを斬っていく。


 そうしているうちに、最奥の部屋へと、辿り着いた。

 そこには、サヤとボロボロになって血まみれになりながらも跪いている、エイシンが居た。

 そして、今まさに、敵がサヤたちを襲おうとしている。


「邪魔だ!」


 俺は敵の背後から、斬りつけた。敵はそのまま倒れ、絶命した。


「ザンキ君!」


 サヤは俺の元に駆け寄ってきた。


 俺はサヤを抱きしめる。サヤはぶるぶると震えて泣いていた。


「あのね、エイシンさんが、私たちを守ろうとして、ずっと戦ってくれたの」

「そうだったか……。エイシン、ありが――」


 ……見ると、エイシンは、跪いたまま、目を閉じ、満足そうな顔をしながら、その場に崩れるように横になった。


「……おい! エイシン! 起きろ!」


 俺は呼びかけるが反応はなかった。


「おじさん……ずっとね……死んでも……サヤちゃんたちは守るって……ザンキ君の家族は絶対守り抜くって……言ってたよ」


 サヤは泣きながら、そう言った。


 俺はエイシンの体を仰向けにさせる。体中傷だらけだ。まだ矢も刺さっている。こんな状態で……。


「エイシン……長年にわたる俺たちへの献身……大儀だった。安らかに眠ってくれ……」


 俺はそう言って刀を掲げた。


 最初、会ったときは、俺のことバカにしていて正直好きじゃなかった。

 だが、俺の部下になったときから、俺の味方をしてくれたり、サヤと暮らし始めても、常にサヤの傍で守ってくれていた。カンナが生まれた時も一緒に泣いてくれた。そして、最後は俺の家族を守ってくれた。こいつにはいくら感謝しても足りない。


 俺は目を閉じて、最後まで俺達家族に忠節を尽くしてくれたエイシンに祈っていた。


 その後、サヤを連れて屋敷を出ようとしたが、ふと周りを見て気づいたことがある。


「なあ、サヤ。カンナは?」


 そう、カンナが居ないのだ。どこに行ったのだろうか。すると、サヤはハッとして、ガクッと項垂れた。


「お、おい! サヤ!? どうしたんだ!? ……まさか!?」


 俺は既にカンナが奴らの手に掛かって殺されたのかと思って、サヤに慌てて尋ねる。だが、サヤは首を横に振った。


「違うの……ザンキ君……あの子はまだ生きていると思う」

「何故、ここに居ないんだ!?」

「カンナはね……連れ去られたの」


 サヤは泣きながら俺にそう言ってきた。そして、俺の胸に飛び込み泣き崩れる。どうやら、カンナは俺への当てつけか、若しくはタカナリの子と思われたのか、玄李の奴らに攫われてしまったらしい。俺は泣いているサヤの肩を掴んで、言った。


「しっかりしろ! 俺も来たんだ! 必ずカンナを取り返してやるから、泣くんじゃねえ!」


 俺がそう言うと、サヤは俺の顔を見る。俺はサヤの涙をぬぐってやって、頷いた。


「お願い……ザンキ君……あの子を……」


 サヤは声を絞り出して、俺にそう頼んでくる。俺達は立ち上がり、ひとまず屋敷から出ようと、出口の方に向かった。


 屋敷内を走っていると、今度は騒ぎに乗じて家のものを盗みに来た、いわゆる火事場泥棒の奴らに出くわす。奴らは俺達を見るなり、武器を構えて襲ってきた。俺は無間を振るい、奴らを斬っていく。


 そして、俺がそのまま走り去ろうとすると、サヤはいつものようにその盗賊たちに対して、手を合わせていた。


「サヤ! こんな時くらい祈らなくてもいい! 急いでカンナを助けに行くんだ」


 俺は焦っていて、サヤの腕を握った。だが、サヤは首を横に振り、俺の手を振り払い、なおもその場で手を合わせ続ける。


「……ダメだよ……私はザンキ君をただの人斬りにしたくない……。

 私だけでもザンキ君が斬った人たちのために、祈らないと……」

「だが……!」


 サヤの言葉に、俺は何も言えなかった。俺の為に祈るサヤを見ると、俺はサヤに文句を言えなかった。だが、早くしないと……。火の手がそこまで来ている。俺は祈りが終わり、立ち上がるサヤの手を取ろうとした。


 と、その時、


「ザンキ君、危ない!」


 突然、俺はドンっとサヤに突き飛ばされた。何だと思っていると、上から天井が崩れてくる。俺が今居たところに瓦礫が落ちてきた。

 ……どうやら、俺はサヤのおかげで、助かったみたいだ。





 ……だが、サヤはがれきの向こう側にいた。


「サヤ! 早くこっちに来るんだ!」


 俺はサヤに呼びかけるが、サヤは首を横に振った。瓦礫が邪魔みたいだ。


 ……サヤは閉じ込められてしまったようだ。


「私はいいから、ザンキ君、行って。行ってカンナを……私たちの大切な息子を助けて!」

「馬鹿言ってんじゃねえ! お前も来るんだ! お前と一緒に助けるんだ! そしてまた、一緒に……!」


 俺は無間で瓦礫を斬ろうと、必死に瓦礫に向かって刀を振るう。しかし、びくともしない。それどころか、俺が瓦礫を斬る度に振動で、ひとつ、また一つと瓦礫が落ちてくる。

 力を入れると、ここが崩れる。しかし、手を抜くと、瓦礫は動かない。八方塞がりになり俺があれこれと考えていると、ふと、サヤの声が聞こえてきた。


「……ねえ……ザンキ君。私……本当に幸せだったんだよ。

 あの日……ザンキ君に助けてもらってからずっと。

 私がねいたずらしてザンキ君を何度も困らせてたよね。私はね、ザンキ君ともっと話したいからって……そう思ってたんだ」


 知ってる……知ってるよ、サヤ。これからももっと、いたずらとかしていいんだぞ。カンナと一緒にやってくれてもいいんだ。俺もその時が一番楽しかったんだ。

 だから、幸せだった、なんて過去のことにしようとするなよ。


「私が二十歳になった日……お酒に酔っていろいろやっちゃった翌日……。

 そう……ザンキ君が私に好きだって言ったときさ、すごくうれしかったんだ。こうやって夫婦になってからもあの時のこと思い出して、私、楽しかったんだよ」


 ああ、俺もだ。酔っぱらったときは確かに驚いたが、素直に俺に好きと言ってくれた時、本当は俺もすごく嬉しかったんだ。そして、俺も自分の本当の気持ちに気付けて……。

 あの時に、背中を押してくれた頭領も、まだ生きている。今度は、アイツとも、一緒に暮らしていこう。だから……


「そうして……祝言を挙げて……エイシンさんと三人で暮らして、カンナが生まれてから、私はさらに楽しかった。そして、今日まで、本当に幸せだった……だからね……もう……充分なの」


 そんなこと言うな! これからも楽しい時間は続いていくんだ! 俺が続けさせるんだ! 俺の手を引いてくれた、お前と一緒に……!


「……ねえ、ザンキ君」


 サヤは俺の方をじっと見ている。俺はサヤに顔を近づけた。



 そして、そのままサヤと接吻をした。


 俺もサヤも泣いていた。

 その時間はずっと続くものだと思うくらい、妙にあたりの光景がゆっくりと進んでいる気がした。


 唇を放すと、サヤは俺をまっすぐ見ながら、ニコッと笑う。


「やっぱり、家族って良いよね……ザンキ君、私はね……」


 サヤは一呼吸おいて、涙目で俺を見続ける。


「……好きだよずっと。いつまでも一緒だよ。だから、あの子を助けて。あの子を取り戻して。私の家族、もう、失いたくないから」


 そう言って、サヤは俺の頬に手を当てる。俺はサヤの言葉に大きく頷いた。


「……ああ! だからお前も――」


 次の瞬間、俺の目の前に瓦礫が落ちてきた。俺はそれを躱して、転んでしまった。


 すぐに起き上がって、サヤの居た方を見る。


 ……だが、サヤの姿を確認することは出来なかった。


「サヤ! サヤ! おいっ! 返事しろ! サヤああああ!」


 俺の問いかけには誰も答えなかった……。





「うああああああああああアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 俺は喉がかれるまで叫んだ。


 サヤの居た所を見つめる。……だが、そこから……何か出てくる様子もなかった。


 ……しばらく呆然としていた。






 俺はゆっくりと立ち上がり、出口に顔を向け、無間の柄を握った。


 ……そうだ……カンナだ……カンナを……取り……戻……すンだ……まタ……ミンな……で……


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