第74話 ムソウの過去―息子の誕生日を祝う―
今回からムソウの過去編です。
宴会のさなか、俺は昔の話を皆に聞かせることになった。最初は、ホリーにしてやった、サヤとの出会いから祝言までを、次に、ミサキにしてやった、カンナが生まれるまでと生まれてから、そして、あの屋敷で、家族で過ごした日々のことを。
ここまでは、俺も楽に、普通に話すことが出来る。昔も今も、それは変わらない。皆も、少しだけ、元気を取り戻したかのように、俺の話を聞いてくれていた。
しかし、その先を知ってるというミサキだけは、やはり、泣きそうな、俺を心配するような顔で眺めていた。
俺はミサキをひとまず信じて、その先を語ることにした。
「……あれは……そうだな……カンナが10歳になる日だった……」
そして、俺はあの時のことを語り出す。忘れたくても忘れない、あの忌まわしき日のことを……。
◇◇◇
カンナが十歳になろうとしていた頃、俺とサヤ、エイシンは何か祝い事をしてやろうと、色々考えていた。
そして、そのことをタカナリに伝えると、タカナリの屋敷で、盛大に宴を催す運びとなった。
屋敷には、サヤのいた村の連中もいるし、当日には闘鬼神の連中も呼んでくれると言った。
それを聞くと、エイシンは、げっ!? 頭領も来るのかよ!? と言って戦々恐々と怯えていたが、俺たち夫婦にとってはありがたいことだ。なにせ、頭領が居たから、俺は生きてサヤと出会い、夫婦になったのだからな。それと、あの女に家族の幸せってやつを見せびらかしてやろうと二人で乗り気になっていた。
そうやって、カンナの十歳を祝う宴会の準備は進んでいった。
宴会当日。サヤとエイシンはカンナを連れて、タカナリの元へと朝から出かけた。俺は仕事に行った。なに、仕事が終わっても馬を走らせれば、間に合うから大丈夫だと思っていた。
そして、夕方になり、仕事を終えて、近くの村で小太刀を買った。ちょっと前に村の職人に頼んでおいたものだ。
「おお、ザンキ殿。こんなものでいいのか?」
それは、鞘には炎の紋様が浮かび、鍔や柄には龍の細工が施してあるものだった。
「……いい出来だ!ありがとうよ!」
「いや、息子さんに渡すものと聞いたからな。久しぶりに気合入れて、今日まで三日間寝てねえぜ!」
「おいおい、無理すんなよ」
「……だな、流石に眠たくなってきた……」
そう言って鍛冶屋のおっさんはあくびをして自室へと入っていく。その際に、
「今度は子供も連れて来いよ! その時はもっと大きいのを作ってやるからよ!」
「ああ、その時はまた頼む!」
俺達はそんな約束をしながら別れた。
ふと、オッサンの方を見ると、息子なのか、カンナと同い年か、少し下くらいの男の子が、寝床を用意している。その子供は、俺に向かって一礼し、手を振ってきた。
俺もそれに返し、次に、カンナを連れてくる時は、友達になってくれたらいいなと思っていた。
工房から出ると、村の村長に声をかけられた。見ると、村の連中が俺の所に集まってきている。俺が不思議そうな顔をしていると、なんでも、宴会用に食料や酒をタカナリの家に送ったから楽しんで召し上がってくれ、ということだったらしい。
「毎日、わしらを助けてくれている礼のつもりじゃが、受け取ってほしい」
「おう、ありがとよ」
俺は村長に礼を言った。すると、何人かの村人が前に出てくる。
「ザンキ様、またサヤ様と、カンナ君を連れてこの村に来てくださいね!」
「約束ですよ~!」
「うちの息子とも仲良くさせてくださいね!」
と、口々に頼んできた。
「ああ! もちろんだ! 約束するよ……じゃあ、そろそろ俺は行くぜ」
俺はそう言って、手を振る村人たちに見送られ、馬を走らせた。
さっきの鍛冶屋のおっさんの件もあるし、いつかまた、絶対カンナやサヤとここに遊びに来ようかな……いや、約束したんだ。絶対来るぞ。
そう思いながら、俺は馬を走らせた。
辺りはすっかり夕暮れ時だ。俺は間に合うかなとか思いつつ、馬を走らせている。
……だが、タカナリの家までもうすぐというところで、突然俺めがけて、矢が飛んできた。
「うおッ!」
俺は何とか躱したが、馬は驚いて、俺を振り落とし、そのまま駆けていった。
「クッ……なんだ?」
辺りを見回すと、道沿いの森の中から武器を構えた人影が現れる。五十、いや、森に隠れている奴らの気配と合わせて、八十人はいる。
「おう、あんたが有名なザンキさんだな!?」
人影の中から、大きな刀を持った男が現れて、俺を見るなり、ニイッと笑った。
「そうだが、なんだ? てめえらは」
「フンッ! 俺たちは北の大国、玄李の国の者だ! てめえに殺された、同志の無念を晴らすため、てめえを殺す!」
そう言うや、周りの男たちも刀を構える。北の大国、玄李……それは、俺達が住んでいる大陸で一番デカい国で、大陸統一に向けて、俺達の国である安備と、隣接する二つの小国と昔から小競り合いを続けている国である。俺の仕事の目的も、こういう奴らを、国に入らせないということが大きな目的の一つである。
この近くは、国境になっている山が近いからな。集団で山越えでもしてきたってわけか……? にしても、規模がデカい気がする。
「密入国者か……どうやってここまで来た?」
「はんッ! 商人に紛れてこの国に来るのは難しくなかったぜ……そうやって、何年も何年もこつこつと入っていき、今ではこの国に三百を超える同志がいるッ!」
男の言葉に俺は絶句した。そんなにいるのか。確かに証文があれば関所での警備は割とすんなり行けるからな。まあ、偽造だろうが。
「チッ……なら、てめえらを捕らえた後に、仲間のことを喋ってもらうからな!」
「ほう、そんなにゆっくりでいいのか? 俺たちの仲間に中には、既にタカナリの近くまで言っている奴もいるんだぞ」
「なんだと!?」
「そういや、今日は大事な日らしいな。俺からも何かさせてくれや……」
そう言って、男は指笛を鳴らす。そして……
ドゴオオオオオッ!
突如、あたりに爆発音が響いた。一体何なんだと、ふと顔を上げると、タカナリの屋敷の方から煙が上がっているのが見えた。
……まさか!?
「ハッハハハハ! 同志がうまくやったらしい! 今頃、タカナリの屋敷は戦場と化しているだろう! タカナリも、女も、子供も、そして、誰かさんの妻だろうと、息子だろうと、血の海だ!」
「て、てめええええええええ!!!」
俺は刀を抜いて、男の元へと駆けていく。すると、辺りに居た奴らも俺に向かってきた。
「邪魔だあああ! どけえええ!」
俺は来る敵を刀で斬っていった。
「フンッ! 今更もう遅い。てめえも、すぐに家族の元へと向かわせてくれる! かかれ!」
男が合図すると、さらに武器を構えた奴らが向かってくる。俺はそいつらに飛び込んでいった。
◇◇◇
その頃、タカナリの屋敷では……
……豪華だな。あの時の宴よりも立派だ……
俺はふと、あの時の宴を思い出していた。俺とザンキ、サヤちゃんが闘鬼神を抜けたときにみんなで飲んだことを。あの時は本当に笑って、泣いたな。皆、ザンキと別れるのはやっぱりつらかったからな。
……まあ、その後、俺も抜けることになるとは思ってもみなかったが。
ふと、サヤちゃんが目に入った。いつもよりも煌びやかな着物を着て、化粧もしている。本当に綺麗になったもんだ。初めて見た時も、可愛いなとは思っていたが、まさかこんなにも綺麗な女になるとは思わなかった。
「あ、師匠!」
俺がそんなことを思っていると、美少年剣士カンナが嬉しそうに寄ってくる。サヤちゃんとザンキの子どもだからな。見た感じ、ほとんどサヤちゃんの血だが、カンナも、親に似て、眼鼻の整った顔つきになっているようだ。好色家が近づかねえようにもっと強く鍛えねえとな……。
そして、そのカンナの横には……
「おう、久しぶりだな」
……げ、頭領だ。相変わらず背中に大きな刀を背負っていて、怖い……。
「あのねっ、師匠! このお姉さんがね! すごく面白い話を聞かせてくれたんだ!」
カンナは楽しそうに嬉しそうにそう語った。え、おねえさん? よく女って分かったな。流石ザンキの息子。そして、それを見ながら、頭領は笑っている。
「ぷっ……クク……このガキから聞いたが、お前が刀の師匠とはお笑いだな! ハハハ!」
頭領は腹を抱えて、笑っている。言い返してやろうか……。
「俺も、頭領がこんなに子煩悩とは思わなかったな。何歳になったかは知らんが、お姉さんって呼ばれて、浮ついたか?」
俺がお返しとばかりにそう言うと、頭領は笑いながら背中の大太刀に手を伸ばし、俺めがけて振り下ろしてきた。それを、俺は刀で受け止めた。
「うおっ! あぶねえ!」
「ほう、俺の一撃を受け止めるようになっていたとはな。少しはやるようになったじゃないか」
そう言って、頭領は刀を納める。実際の所、俺も自分が受け止められるとは思わなかった。ザンキやサヤちゃんといつも一緒に居るうちに鍛えられたのかなと内心、喜んでいた。
「お姉さん! 師匠に何するんですか!?」
あ、カンナが怒った。俺なんかのために。本当にこの子は……グスッ。
「いや~、カンナ君。こいつとは久しぶりに会ったんでな。友好の意味を込めて、刀と刀を交らわせたんだ。いや、良かった良かった。久しぶりに会ったんだが、腕は落ちていなかった。安心したよ」
「そうなんですね! 僕の師匠はすごいんですから!」
カンナは頭領の言葉に目を輝かせながら、楽しそうにしている。いや、違うぞ、カンナ君。そこのお姉さんは嘘をついてるぞ。騙されてはいけないぞ。
「さあ、カンナ君。サヤ……お母さんも待っているようだから、行ってやりなさい」
頭領がそう言うと、カンナは頷いて、サヤちゃんの方に走っていった。
「……いい子じゃないか。昔のザンキとは大違いだな」
「そのいい子、俺の弟子に変なこと吹きこむのはやめろよな」
頭領は、はいはいと言って、頭を掻く。そして、しばらくタカナリの屋敷から見える夕焼けを見ていた。
「確か……四十年くらい前だったか、俺とアンタが出会って、闘鬼神を作ったのは」
「もう、そんなに経つのか? ザンキと出会ってからの時間が早すぎて覚えていねえな……」
「まったくだな」
俺と頭領は昔のことを思い出していた。
俺のいた山賊をたった一人で壊滅させ、その後、俺と組み……というか、無理やり引っ張って、傭兵部隊闘鬼神を結成。その後、辺りの山賊や盗賊をまとめ上げ、タカナリの要望で義賊となって、闘い三昧。
その道すがら、ザンキというおっかないガキを拾って、そのザンキがサヤを連れてきて、二人は祝言を挙げて、俺は二人についていくように闘鬼神を抜けた。
ああ、短いようで確かに長かったな。祝言を挙げて十年、カンナも生まれて大きくなった。俺のことを師匠って呼んでくれる。ありがてえ話だな。
「……なあ、頭領」
「あ? 何だよ……」
俺は、前々から頭領に言いたかったことを言った。
「……俺を闘鬼神から抜けさせてくれて、ありがとう。おかげで俺は、人生で一番幸福な時を過ごしている。悔いなしに、地獄へ行きそうだ」
頭領は目を見開いていたが、しばらくすると元に戻り、
「ふんっ! 礼などするな、エイシン。気持ち悪い……」
と言って、俺に背中を向けた。おっ、初めて俺の名前を呼んだな。そうだ……この名前、ザンキがつけてくれたんだよな。そのことも思い出して、ついつい、にやけてしまう。
「そんなこと言わず、ほら」
俺は頭領に酒を渡す。頭領はフッと笑い、それを飲んだ。俺も酒を飲んだ。おお、強いなこの酒。俺と頭領はすぐに顔が赤くなる。
あの時、サヤちゃんとザンキが初めて呑んだ酒だ。今呑んでもわかる。強い酒だな……。やっぱりあいつはバケモノだと、二人で笑いあっていた。
その時、何か聞こえてきた。
ピィィィィィィィ!
「……なんだ? 鷹かなんかか?」
俺が言うと、頭領は真剣な顔になって言った。
「いや、これは指笛の音だ! まさか――」
頭領が何か言いかけた時だった。
ドオオオオオオオオン!!!!!
耳をつんざく爆発音とともにタカナリの屋敷が爆発し、辺りから火の手が上がる。
なんだ? 何が起こった?
すると、宴会の準備をしていた何人かが、刀を抜き、周囲の人間を斬っていく。そして、屋敷の門から武器を構えた男どもが流れ込んできた。
「チッ! こういう作戦か! ……エイシン! 俺は皆と入り口からの増援を防ぐ。お前はザンキの家族を守ってやれ!」
背中の大刀を抜き、頭領は態勢を立て直した。そして、俺に指示を出した後、俺と同様に、少し老けた様子の、かつての仲間たちと門へと走っていく。
「エイシン! しっかり守ってやれよ!」
「もうすぐ、ザンキも来るはずだ! それまでは……」
「俺たちでザンキの家族を守るんだ!」
仲間たちは走りながら俺にそう言った。
「任せろ!」
何が起きているのかは、定かではない。だが、俺はおよそ十年ぶりに、頭領が率いる闘鬼神の副長として、気を奮い立たせ、刀を抜き、サヤちゃんたちの方へと向かう。サヤちゃんは腰が抜けて、立てないみたいだ。だが、しっかりとカンナを守っている。
「うおおおおおおおッッッ!」
俺はサヤちゃんたちを狙う奴らへ向けて、突進していった。
絶対に守り抜くんだ。ザンキが帰ってくるまでは……あいつの家族は、俺達が絶対守り抜くんだ……!
ムソウの語りなのに、途中からエイシン目線が入ってきたことは、すみません。目を瞑ってください・・・。




