第70話―“魔法帝”の魔法を斬る―
俺はミサキに向かって走っていく。その際に気を全身に纏わせた。これならある程度の魔法なら防ぐことが出来る。さらにこの間ギリアンから貰った鎧と、ベヒモスの衣、外套であいつの魔法対策はばっちりだ。そして、無間に気を溜めていく。
「礫弾!」
俺が近づいていくと、ミサキは展開していた魔法陣の一つから、こぶし大の岩の塊のようなものを撃ち出す。
―すべてをきるもの発動―
俺は、向かってくる岩の塊のようなものを斬っていく。だが、違和感に気付く。岩ならばたとえ切れ目を斬ったとしても、砕けるはずだ。それがスパッと切れる。よく見ると、やはりそれは岩ではなかった。斬った断面が金属のように輝いている。何だと思っていると、ミサキの声がする。
「流石だね! それは私がうみだした新素材、永久金属。街の外壁にも使われている、自然界に存在する鉱石の中では最も硬く、最も強い金属だよ! それを斬るなんてね!」
ミサキはそう言って、さらに次の魔法を使おうと、杖を掲げる。
なるほど。あれが噂の永久金属か。だが、俺のスキルの前ではやはり他と一緒だな……。ミサキも自らのEXスキルを使って俺と闘っているようだ。それだけ本気ってことか。
「……面白え!」
俺はなおもミサキに突っ込んで行く。ミサキは俺が近くに来ると、新たな魔法陣を展開させる。ミニデーモンが集団で行う陣魔法を一人で、しかもこんなに多く……。流石だな。
だが、
「遅え!!!」
俺はミサキに近づき、展開されている魔法陣を全て斬った。霧散していく魔法陣を見て、ミサキはハッと目を見開き、自らに魔法をかける。
「身体強化(特)、スキル向上(特)!」
そして、俺が斬りかかると、ミサキは杖で、俺の無間を受け止めた。
「ふぅ~、危ない危ない。魔法陣でさえ斬るなんてね。本当に“規格外”だよ、ムソウさん」
「へえ、俺の一撃を受け止めるとはな。身体強化は後が大変だが、今はいい手だ。……だが、俺の体術にはついてこれるかな?」
俺はそう言って、無間を杖から離す。杖に掛かっていた無間の重さが一瞬で無くなったことにより、ミサキの態勢が崩れる。
「おっと……それ!」
すると、ミサキは倒れながら、地面に手を置く。すると、足元の地面が尖って、俺に襲い掛かってきた。俺は後方に跳躍し避ける。避ける際に斬波を放ち、ミサキの攻撃を粉砕した。
む……そのまま、ミサキに当てようと思っていたが、既にミサキは結界魔法の障壁を展開させていたようだな。俺の斬波は直前で防がれる。
しかし、アイツは魔法によって、遠距離も近距離も上手く戦えるというわけか。近づいて行ってもまた、さっきみたいな奇襲がありそうだから、辞めておこう。
俺は、地面に降り立つと、同時に手の上で無間を回転させる。
「へえ!すごいねそれ!どうやってるの!?」
ミサキは笑って、俺に聞いてくる。
「はっ! 教えるか! 廻旋刀!」
俺はミサキの問いかけに適当に返し、手の上に竜巻を作る。さらに、そこに回転する無間から斬波を放っていく。竜巻は斬波を含んだものになり、攻撃性を高めていく。
これは元々、無間を回転させて敵の矢などを防いだり、周囲の敵を斬るという技だったのだが、この世界に来て、気を使った攻撃をしたり、無間を強化したりしていると、回転力も上がり、竜巻も起こせるようになったようだ。
ミリアンじゃないが、俺も人間辞めてんだなあと、頭を抱えたが、この世界の奴らは、こういうことを平気でやるからなあと思い、ふと、ロウガンを見ると、ロウガンは立ち上がり、ハッとしたような目で俺の技を見ている。この技はあいつが使う、刃風に似ているからな。
俺はミサキに向き直り、
「さあ、ミサキ! 今度は俺の番だ! 受けてみろ、螺旋斬波!!!」
刀をミサキに向ける。竜巻は横向きになり、斬波の嵐はミサキへと向かって行く。
「くぅっ!」
ミサキは自らの前に結界を張って、身を護る。
「くぬぬぬぬ……」
ミサキは必死で押さえているようだ。俺も攻撃を出し続けるが、なかなか結界を破れない。その時、パリンッといって、ミサキの結界が割れた。と、同時に俺の攻撃も止んだ。俺達はお互いにニッと笑って、次の準備に移る。
ミサキは杖をかかげて、周りに、大きな火の玉を何個か出した。おいおい……ミニデーモンが集団魔法で使っていたやつよりもだいぶデカいな。俺は、無間を構えた。
「じゃあ、行くね~! 火球大連弾!!!」
ミサキが杖を俺に向けると、火球一つ一つ、すごい速さで次々と俺に襲い掛かってくる。ウィズのものとは大違いだ。速さも、大きさも……。俺は走り回り、それを避けていきながら、切れ目を見つけて、斬っていく。
斬る度に、ミサキは新たな火球をうみだし、俺に放ってくる。この魔法は俺についてくるみたいだ。少し鬱陶しいが、考えはある。ミサキ本人が言っていたんだ。この魔法の使い方では、魔力の消費が激しいと。どこかでばてるはずだ。俺はそう思い、火球を斬っていく。
ふと、視界にウィズとレイカが映る。二人もロウガンと同じように、ミサキの魔法を、目を見開いて凝視している。
俺はそれを見て、少し笑い、火球一つ一つに斬波を放って、相殺することにした。
ボンッボンッと大きな音を出しながら、斬波と火球は爆発を各所で起こしていく。だが、そのうちの一つが、斬波を越えて、俺に迫ってきた。避けきれねえか……。俺は直接、その火球を斬る。その直後に大きな火球が俺の目の前に現れた。
チッ、最後の火球は特別速い。俺は避けきれず、火球が俺に直撃する。
「ッ!!!」
ドカンッ! と大きな音を立てて辺りは土煙に包まれる。
「よしっ! ようやくムソウさんに当たった~……でも」
ミサキは俺に火球が当たったのを確認し喜ぶが、すぐに杖を構えて、新たな魔法陣を展開させる。
「……ああ、まだだぜ、ミサキ!!!」
俺は土煙を払い、大斬波を放つ。斬波はミサキに向かって飛んでいくが、ミサキは風魔法で、竜巻を起こし、斬波を逸らしていく。斬波はあさっての方向に飛んでいき、結界に当たると消えた。
「ふ~ん、私の大火球を受けても無傷って……さすがだね」
ミサキは無傷の俺を見てそう言った。
「ああ。ギリアンの作ったものがどのくらいなのか試したくなってな……」
俺はミサキに返事をして、ギリアンを見る。ギリアンは口を開けて笑っていた。笑いたいのはこっちだ。本当にいいものをありがとう。
「それにお前もばてた様子じゃねえな。どれくらいの魔力があるんだよ?」
「え? 相手に自分の手の内、教えるわけないじゃん!」
む、カマをかけたつもりだったが、通用しなかったな。いつものミサキならさらっと言ってしまいそうなのだが、外面はいつも通りでも、中身は冷静で真面目なミサキというのは、こうも敵に回すとやりづらい相手なんだなと実感する。
実際、鑑定眼で視ても、ミサキの魔力はよく分からない。恐らく、魔法で上手く隠しているのだろう。ということは、これからも、ああいう魔法の連弾が息つく間もなく来るのかと思い、少しだけ無間を握る手に力を込める。
「むぅ、ムソウさんも、それだけの気を集められるってことは、まだ、ばてていないんだね」
「ああ。まだ始まったばかりだからな。それにさっきも言ったが、ギリアンの装備もある。お前の魔法に対しての準備は整っているからな」
「じゃあ……ムソウさんに生半可な魔法は効かないってことだね……」
ミサキはそう言って、杖を掲げ魔力を高めていく。なんとなく何をするか理解した俺は、無間を下段に構えて臨戦態勢に入る。
ミサキの頭上にはすでに、激しく燃える太陽のような球体が浮かんでいた。ミサキはニコッと笑って、俺に告げる。
「さっきも言ったように、本気で行くよ~!龍言語魔法・降り注ぐ火の雨!」
ミサキが魔法を唱えると、辺り一面に燃える火の雨が降ってきた。デーモン達を一掃した魔法だ。よく覚えている。あの時は攻撃的な龍言語魔法を初めて目の当たりにして、茫然とするだけだったな、確か。
だが、今は違う。
「良いぞ、ミサキ。龍言語魔法……斬ってやる!」
俺はミサキにそう叫んで、火の雨の中に突っ込んで行く。
「大廻旋刀!」
俺は無間に気を集中させて、無間に纏わせる。纏わせた気を研ぎ、巨大な刀を作った。それを手元で回し、先ほどよりも巨大な竜巻を作る。そして、竜巻の中に火の雨を巻き込んだ。
俺の作り上げた竜巻は炎の竜巻となり、俺はそこに斬波を放っていく。斬波はそのまま炎の刃となって、竜巻の中をくるくると回っていく。
ミサキが唖然としている間に、火の雨が出てきている赤い球体の切れ目を見つけ、まずそこに何個かの斬波を当てる。すると、球体は斬れて消滅していく……。
「な……!?」
ミサキは呆気にとられていた。観客たちもだ。皆、口を大きく開けて、魔法が解かれた瞬間を凝視している。……おいおいそこのおっさん。酒こぼれてんぞ、もったいねえな。
……さて、残ったのは、俺の手の上にある、炎の竜巻だけだ。
「……行くぜ、ミサキ……死ぬなよ……螺旋炎舞!!!」
俺は無間を回している手を、そのままミサキに向けた。ミサキに炎の竜巻と燃える斬波が向かって行く。
「くっ……氷刃嵐舞!」
ミサキは杖の先から、氷の刃が混じった吹雪の竜巻を放ってくる。二つの竜巻は激突し、押し合っている。
「ウオオオオオオッッッ!!!」
「ぐぬぬぬぬぬぬ……!!!」
俺とミサキは全力で、お互い技を出し続けた。だが、俺の竜巻の炎は、元は、ミサキ自身が放った龍言語魔法のものだ。かなりの高温らしく、竜巻が触れたところから、ミサキの吹雪や氷は解けていく。
「オオオオ……っらあ!!!」
俺は力を強めて、竜巻を大きくさせ、ミサキの魔法を破る。そして、俺の技はミサキに向かって行った。
「ッ!……天装防御!」
ミサキは、俺の攻撃に耐えようと自らに防護魔法をかけて杖を構える。
ザシュッ! ザシュッ! と、ミサキを俺の技が襲っていく。
「ぬぬぬ~~~……」
ミサキはそれに耐えている。そして、俺の攻撃が止むと、ミサキは肩で息をしながら耐えきった。だが、体のあちこちに細かい傷が出来ている。ミサキは自らに治癒魔法をかける。
「むう……かわいい少女に傷を負わせるなんて……」
俺に悪態をつきながら、治癒魔法で体のあちこちに出来た傷を治していくミサキ。悪態をつきながらも笑顔のミサキに俺は、
「そんなに強い、小娘が居るかよ」
と言って、笑った。ミサキはフフッと笑って、杖を構えなおす。
すると……
「ミサキ様~~~! 頑張って下さ~い!」
「ミサキちゃ~ん! 女の子を傷つけるムソウさんなんてやっつけちゃえ~!」
と、声が聞こえた。俺とミサキは声のした方を見ると、ウィズとレイカが立ち上がり、口元に手を当てて、ミサキを応援していた。すると、観客席に居た奴らも声を上げる。
「そうだ! そこのエルフの言うとおりだ! 酷いことする奴にはお仕置きだ! ミサキ様~!」
「あいつの刀にはお気を付けください! ミサキ様~!」
「ミサキ様! そんな、女の敵みたいな人は倒しちゃってくださ~い!」
「ファイト~! ミサキ様~!」
と、ミサキを応援する声と俺を罵倒する声が上がっていく。
俺はそれを複雑な思いで見ていると、ミサキは俯き、小さな声で、
「……おかえり」
と呟いた。そして、顔をぱっと上げて皆の方を見る。
「みんな~!!! 応援ありがとう!!! 皆の言う通り、女の子の体に傷を負わせるひっど~い人には、この十二星天の一人、“魔法帝”ミサキちゃんがお仕置きしてあげる~!!!」
ミサキは大声でそう言いながら、俺に杖を向ける。観客からはいいぞ~! とか流石です~! とかいろいろ聞こえる。レイカに関しては、
「ミサキちゃんの魔法にやっつけられなさい!」
と、俺を指差して大声で言った。俺は頭を掻きながら、ため息をつく。
……ったく、元気になった途端、これか……。だが、これもミサキの作ってきたものなんだな。あいつの人当たりの良さが、呪われていた者達の心を呼んだんだ。ふと、そう思い、俺は苦笑した。
「じゃあ、いっくよ~! ミサキちゃん、覚醒!!!」
ミサキはそう言って杖を掲げて目を瞑る。すると、ミサキの纏っていた十二星天のろーぶが輝き出す。何ごとかと呆気に取られていると、ミサキに変化が起こる。ミサキの肩までしかなかった髪が腰まで伸び、背中には白い翼が生えて、頭の上には黄金に輝く王冠が現れた。
そして、ミサキの瞳は金色に輝いている。神人化した俺みたいだが、ミサキがやると、さながら、おとぎ話に出てくる天使そのものだった。
ミサキの体の周りには魔力が溢れて纏わり出していく。体から際限なく溢れている魔力……それだけでも、ミサキの力が絶大だということを見せつけられ、少し緊張する。
「……これはね~、十二星天が本気を出した時に出来る覚醒っていう技だよ~。私の場合は魔力が上がって、うみだすものの力が強化されるの~。この姿になったのは壊蛇以来かな……。
さあ! ムソウさん! ここからは本気の本気になったミサキちゃんとしんけんしょうぶだよ~!」
ミサキはそう言って、俺を指差す。
観客からは、いっけ~! ミサキ様~! とか聞こえてくる。やれやれ、そんな隠し玉があったとはな……。ミサキには本当に驚かされることばかりだ。強くなったミサキ、それを応援する観客たち……。俺、勝てるのかな……?
俺がそんなことを思っていると……
「何やってんだ! ムソウ!」
と、怒鳴る声が聞こえた。ぴくッとして、俺が声のする方を見ると、ロウガンが立ち上がって、俺を睨みつけている。
「何ぼさっとしてんだ! ビビってんのか! お前はワイバーンややヒュドラを倒し、ミサキ様と同じ十二星天であるサネマサ様を退け、デーモンロードを倒した男だろう! 何より俺を倒したんだ! 負けるなんて承知しねえからな!」
ロウガンは大声で俺にそう言ってくる。それを聞き、ミサキを応援していた一部の観客たちが静かになって、ひそひそと話し出した。
「え、デーモンロードを倒したのってあの男なのか……?」
「しかも、その前はワイバーンにヒュドラだってよ」
「さらにサネマサ様やロウガンさんを退けるって……」
「ここで起こったミリアンの事件も解決に導いたやつもあいつだって聞くぜ」
「え……じゃあ……」
などと聞こえてくる。すると、呪われていた者達だろう、そいつらが大声で俺に語りかけてきた。
「おい、こら! そこのおっかない奴! てめえに気絶させられた記憶がある! 負けたら承知しねえからな!」
「俺は一発殴られたぞ! ミサキ様に負けたら、てめえに一発喰らわせてやるからな!」
などと聞こえてくる。またしても俺は深くため息を吐く。元気になったのは良いが、俺にはこれかよ。ミサキの時のような声援は俺にはねえな。
俺は、観客たちを見る。そして、ニコッと笑って……
「……斬るぞ?」
俺は、最後に死神の鬼迫を込めてそう言うと、ロウガンを含め、俺に罵声を浴びせていた奴らは、しゅんとなって黙り込む。ああ、俺に気絶させられた記憶は本当に残っているんだな。
おそらくだが、昼間、冒険者や騎士たちに何故か避けられていたのはひょっとしたら、このせいだったのかも知れない……。
俺は頭を掻きながら、ガクッと項垂れる。誰か、俺の味方は居ねえのかよ、と思っていると、
「ムソウさん! 何を落ち込んでいるんですか!? 負けて、支部長が襲い掛かってきてもまた、倒してしまえばいいのです!」
「そうです! その時は私達もお手伝いします! ホリーへのいい土産話にしましょう!」
と、リンスと、結界を張り続けているマリーが俺に言った。ロウガンは、何言ってんだ!?という目でリンスとマリーを見ている。二人はそんなことお構いなしに、俺にニコッと笑った。
「ムソウ様~! また、私の主人が暴れて、ムソウ様に迷惑をかけるようなら今度は私達がムソウ様をお守りします!」
ふと、観客席の方から声が聞こえる。見ると、今日の宿屋の女だった。隣にはロウガンと同じような反応をしている、男がいる。あいつが主人か……。
さっき俺にヤジ飛ばしていた一人だな……。世界が変わっても、旦那よりも女房の方が家では強いらしい。
「そうだ! ムソウ様、頑張れ~!」
「負けるなよ~! ムソウ様~!」
「ここから気合入れていくのじゃ~!」
「おじちゃん、頑張れ~!」
と、次々と俺を応援する観客も現れ始めた。見ると、今日出会ったマシロの住民たちだ。あいつらも来てくれていたのか。婆さん……デカい声出して、そのまま昇天なんぞするなよ……。だが、ありがたい。力になるな。
「ムソウ様~! 世界中の女性がムソウ様の敵になっても私は貴方の味方です! ミサキ様をやっつけてください!」
今度はツバキがそう言った。ミサキは、驚いた表情でツバキさあああん! と喚いている。こんな時でもあいつは俺に優しいな……。
「おじちゃん……頑張って!」
「キュウッ!」
ツバキに続き、シロンとリンネも俺を応援してくれた。なぜか、ミサキは愕然としている。シロンを見て、ワイツ卿はにこやかに笑っていた。
俺は皆の声援に笑って返した。
「任せろッ!」
俺は無間を構える。そして……
―おにごろし発動―
スキルを発動させると、無間が輝きだす。俺の髪も伸びて、背中に羽根が生える。そして、腕から胸、顔にかけて、紋様が刻まれていく。俺は神人化し、金色になった目でミサキを見据えた。ミサキはニコニコと笑っている。
「楽しいね! ムソウさん!」
「ああ、そうだな……ミサキ! もっと盛り上げていくぞ!」
「うん!」
魔法陣を先ほどよりも多く素早く展開するミサキに俺は天界の波動を纏い、突っ込んで行く。観客たちからは、開戦の時以上の歓声が上がった。




