第69話―ギルドの様子を確認する―
ギルドに到着すると、リンスとマリーに出くわす。ちょうど良かったので、今晩の進捗具合を聞いてみた。すると、大幅出来上がっているらしい。机や椅子もすでに試験の会場となった奥の闘技場へと運び込まれているらしい。
俺達は騒動で病んでしまった皆を元気づけるため、そして闘った奴らを労うための宴会を催そうとしていた。
金の方は、ワイツ卿にすでに渡してある。ワイツ卿はあの後に、市場に行き、食料などの調達をしてくれたそうだ。
そして、昨日の今日で悪いが、ギルドの奴らには、料理と会場の準備をしてもらった。仕事も溜まっているのに申し訳ないとは思いつつ言ってみたが、皆、優しかったな……。
ちなみに、これには街の奴らも参加するようにしておいた。ロウガン達の見舞いに行った時に、普通の領民たちにも、呪われている奴らが居ると知ったからな。その分、準備をすることが増えたが、街が元通りになるならと、ギルドの職員や、騎士たちはなおも準備を進めていく。
呪われた奴らも美味い飯と、酒を飲めば、元気が出るだろうという安易な考えだったが、上手くいってくれることを今は願うだけだ。
俺達は取りあえず、試験会場の闘技場へと向かう。そこにはワイツ卿が何か見ながらギルドの職員や、騎士達に何か指示を出していた。マリーによると、今日はワイツ卿が皆の前に立ち、作業の指揮を執っていたという。
流石だなと感心した。すると、ここでワイツ卿と目が合う。ワイツ卿は近づいてきて、俺に声をかけてきた。
「おお、ムソウ殿。宴の用意は着々と出来ておるのだが……」
そう言って、ワイツ卿は困ったような顔をしていた。
「ん? なんだ? 飯と酒が足らねえか?」
一番危惧していたことだ。呪われた奴らだけでも結構な数が居るからな。食い物が無かったら話にならない。だが、ワイツ卿は首を横に振った。
「それは大丈夫なのだが……ミサキ様とムソウ殿の闘いはいつ、どのようにやるのだ?」
ワイツ卿は、俺を見る。ああ、そうか。それによって、机や椅子の配置などを変えていかないといけないからな。
俺は取りあえず全体を見渡してみる。闘技場はきちんと確保されている。これは問題ないな。そして、闘技場の周りには、なぜか観客が座るような席がすでに用意されている。リンスによれば、ほとんど使われることは無いが、試験を見に来る他の領主や、レインの貴族達用のものだと言った。なんで、そんなのあるんだよ、と思ったが、今回は都合が良いな。これで、出来るだけ多くの人間に楽しんでもらえそうだ。
「……このままでいい。で、飯食った後闘うのは俺達が辛いから、飯食う前にやるとするよ」
「闘技場は……というか会場は大丈夫だろうか?」
「大丈夫だろ。いざとなればミサキの結界を封じた宝珠を使わせてもらえば良いわけだからな」
俺の言葉に、分かったと言ってワイツ卿は作業に戻っていく。ミサキの結界の魔道具はそれなりに高価らしく、リンスとマリーは少しだけ苦い顔をするが、それ以外に俺達が闘っても良い状況というのが思い当たらないので、それで良いだろうという結論になった。
さて、先ほど会場を見回して気づいたことがあった。ロウガンの姿が見えない。不思議に思い、リンスに聞くと、リンスは、ため息をして、
「支部長でしたら、自分の部屋に引きこもって、書類の整理をされています……」
と、残念そうに語った。……まだ、あいつは呪いの影響が強いみたいだな。ちなみに、リリー、エリーの二人は、最初は気まずいところもあったみたいだが、リンスや、ギリアン達、他の職員たちに促され、今では、若干ぎくしゃくしていながらも、前のようにマリーとちゃんと連携をしているのだという。
今や、支部長だけが、前のようになっていない。本当に世話のかかるオッサンだな……。
「大丈夫ですよ。ロウガンさんも戦闘狂みたいなところがあるので、ムソウさんとミサキ様が闘うって知ったら飛んできますよ!」
マリーは悩んでいたリンスと俺に明るくそう言った。ロウガンを戦闘狂と呼ぶマリーに俺とリンスは苦笑し、頷く。ん? ……ロウガンさん「も」? ここには他にも戦闘狂が居るのか……誰だろう……?
ともあれ、もともとそれが狙いの闘いだからな。そうなることを俺は望んでいる。もちろん、ウィズとレイカにもだ。あいつらはミサキの直弟子だし、ミサキの闘いを見ると、かつてのような心を取り戻してくれると俺は信じてる。
「さて……と。俺に何かできることは無いか?」
一通り見て回ったが、まだ、準備に時間がかかりそうだ。何かしようとリンスたちに尋ねてみた。すると二人は慌てて、
「何を仰ってるんですか! ムソウさんは今回の一件の一番の功労者です。作業の手伝いなんて頼みませんよ!」
と言った。だがなあ……と俺が困ったように言うと、リンスが、
「では、ミサキ様との闘いに備えてあちらの方で休んでいてください」
そう言って、闘技場の端の方を示す。休憩部屋というわけではないが、普段は試験を行う際、受験者たちが武器の手入れなど、準備を行うために用意された部屋だという。
俺達は通されなかったが、と言うと、あの時は人数が少なかったからと言われた。俺はわかったと頷き、、その部屋へと向かう。後ろで、準備が整い次第、お声をかけますというマリーの声が聞こえた。
部屋の中は腰かけと棚があるくらいで、特に何もなかった。そりゃそうだ。休憩部屋ではないからな。俺は腰かけに座り、異界の袋から色々取り出した。
デーモン討伐の際についでに採集したナオリグサ……未だ残っているワイアームの肝臓……ヒュドラの肝臓……乳鉢……すり棒……その他いろいろ……よし。
そう、暇になった時の俺の時間の使い方、薬の調合だ。実は、俺は時間を見つけては偶にやっている。ただ、本当に偶になので、ワイアームの肝臓もヒュドラの肝臓もまだ余っている。そこで、最近思いついたある調合を今日はやってみるとする。
まず、ナオリグサと二つの肝臓を混ぜて白くする……もはやこれは簡単な作業だな。毒状態回復薬を作ったときは結構苦労したもんだが、力加減も分かってきたし何より、どこを潰したらいいのかすぐにわかるようになった。調合スキルは俺のスキルの中で一番成長した感じが掴めるスキルだな……。
良し……出来た。そして、これを容器に移し替え、水を入れる。水の量は適当だ。粉がドロドロではなくさらさらと溶けるくらいがちょうどいい。乳白色になったこれを温める。
「リンネ、狐火を頼む」
俺はリンネに頼むと、リンネは首を傾げて、何かを考えている。そして、ぴょんと跳ねて、ボフンッとミサキに変化した。リンネはそのまましゃがみ込む。手を俺の前に差し出して、小さな火球を出した。
ああ、そう言えば狐火は生き物以外に使っても効果がなかったな。すっかり忘れてた。
「おお、リンネ、えらいぞ」
俺はミサキに変化しているリンネの頭を撫でる。リンネはそのままニコッとミサキの顔で笑った。……前にリンネが同じことをした時も思っていたのだが、今日、ミサキと二人で遊んでいるときにも気づいた。
リンネは人に化けているときは喋れないらしい。だが、それでもいいかと思っているので問題はない。コイツの場合、仕草や表情で感情が分かるからな。
さて、俺は薬をリンネが出している火球に近づけ温めていく。ギリアンの小手のおかげで熱さは感じない。そのまま温まるのを待ちながら、焦げないように、そして、すりつぶした粉がだまにならないように、時々薬をかき混ぜる。
すると、乳白色だった液体は透明になっていく。どういう原理かはわからないが、特に気にせず、俺は液体を火から離していく。リンネはそれを見て、変化を解いた。
「キュウ……」
魔法を長く使ったからなのか、ミサキに化け続けたからなのかわからないが、リンネは少し疲れているみたいだ。俺はリンネを抱えて、頭を撫でながら薬が冷めるのを待った。
……その後、薬の中に指を入れて、冷めたことを確認する。後は……
「……よし、誰も居ないな」
俺は周囲に誰も居ないことを確認し……
―おにごろし発動―
EXスキル、おにごろしを発動させて神人化する。そのまま、指先から天界の波動を少し出す。天界の波動は、簡単に言うと、神人が使う気のことだった。なのでわざわざ技を出さずとも天界の波動というものは出せる。
それでだ……天界の波動はとても清らかなものだ。下級の魔物ならば、一瞬で消滅するくらいだからな。ならば、これを薬に使うとどうなるのか……。
少し興味が沸いて、やってみる。
俺は薬の中に指を入れ、天界の波動を入れ続ける。……む? 何も起きないか?
そう思っていると、薬が輝き始めた。俺が指を抜いてもまだ、淡く光り続けている。どうやら、薬に上手く、天界の波動が加わったらしい。そう思って、鑑定眼で視てみる。
……
呪殺封の薬
天界の波動を受けた聖なる薬。状態異常、呪いを回復し、少しの怪我なら同時に治せる。
また、呪いを防ぐことが出来る。
……
ふむ……成功だな。できれば後遺症も直してほしいものだが、やはりワイアームとヒュドラの肝臓ごときじゃダメかな……。だが、治す方法が困難な呪いの治療法はわかった。現状は天界の波動を持つ俺にしか作れないみたいだから、これをミサキか、様々な魔道具を創り出す、創造主というスキルを持つ、ギルド創設者のセイン、もしくは、現状呪いを解く力を持っていると言われる、ジェシカって奴に解析してもらえば、あいつらならできるだろう。十二星天だからな……。
そう思って、その後も何個か作っていく……。
リンネには悪いが後でご馳走をいっぱい食わしてやると言ったら、大きく頷き、尻尾を振って手伝ってくれた。
その後、どのくらい経ったか、ずっと呪殺封の薬を作っていった。瓶に二十個ほど作ったのだろうか。ふとあることに気付く。
……あ、ヒュドラの肝臓がなくなった。もともと一匹分だったからな。ワイアームのものと比べると大きいが、やはり量自体は他のものに比べると少なかったみたいだな。
「はあ~、仕方ない。今回はこれまでにするか」
俺は作業を終えて異界の袋から、気力回復薬と、活力薬を飲む。天界の波動を使うときは、すなわち気を消費しているということ。回復薬を飲むと、気を集める力が元に戻り、身体が楽になっていく。
神人化はおにごろしと違って、解いても力が抜けることは無い。活力薬は無駄になったか。やはり魔物族と闘うことを想定して出来ているようだ。
だが、ひとごろしは違う。あれは、いわゆるミサキの身体強化と同じで、スキルによって、俺の身体能力を上げるというものだ。だから、解くとそれまでの疲労感が一気に出てくる。ゆえに俺はあの時倒れたのだろうと自分で理解している。
……ミサキとの闘いの時に使ったら、その後、飯が食えないんじゃないかと思い、俺は使うのをやめることを決心した。もっと言えば今後もここぞというときは使わない様にしよう。まあ、使わなくても倒せそうな相手ばかりだからな、問題ないだろう。使うときは四神達災害級の魔物以上のものと闘うときだな。
今日は例外だ。飯と酒のために例外だ。
神人化は……どうしようか。万が一の時は使うか……。
俺が悩んでいると、誰かが扉を叩く音が聞こえる。返事をすると、マリーの声がした。
「ムソウさん、皆さんが到着されましたよ」
おっと、もう時間か。確かに耳をすませば……いや、すまさなくてもわかる。外が騒がしいな。今まで気づかなかったぞ……集中してたんだな。今朝のツバキに言った一言じゃないが、俺が闘い以外で集中するとはな。
……本当に歳をとったもんだな。
俺は自分に苦笑いして、リンネを肩に乗せて部屋の外に出た。そこにはマリーと共に、リリー、エリーの二人も居た。
「あの……ムソウさん……」
「えっと……その」
二人は何か言いたげな顔をしている。だが、今朝のようではない。目は輝きを取り戻し、感情豊かというか、今朝のような無気力な感じはもうしなかった。明らかに困っているという雰囲気だな。
俺はフッと笑い、リリーとエリーの頭を撫でた。ポカンとする二人の間を抜けて、マリーの前に立つ。
「良かったな」
「ええ」
「さて……じゃあ、行くか!」
俺はそう言って闘技場の方に出た。その後ろをマリーが歩く。少し遅れて、ポカンとしていた二人が、顔を見合わせ、にこりと笑って、ついて来ていた。
―わああああああ!!!―
外に出ると、多くの人の歓声が上がっている。闘技場を囲むようにあった席はほとんど全て埋まり、皆、酒やら食い物やらをもって大声を上げている。
机など用意していた場所には、コウカン達騎士団の面々や、ギリアン達ギルドの奴ら、それからワイツ卿の家族や、ロウガンとリンスたちが座っている。ハクビも、ウィズとレイカを連れて、座っていた。ロウガン、ウィズ、レイカはやはり戸惑っているような、気まずそうな顔をしている。
そして、正面にはいつものとは違うろーぶを纏ったミサキが、杖を持って立っていた。
「やっと来たね! ムソウさん!」
ミサキは笑って俺にそう言ってきた。俺は笑って、その言葉に応える。そして、ミサキに近づいていく。すると、コウカン、リュウガン、ツバキ、リンス、ワイツ卿とシロンが席を離れて、俺達の方に近づいてきた。
「……よう、待たせたな」
「いえ、待っていたのはムソウさんです。お待たせしました」
俺の言葉にリンスはそう言った。俺達はその言葉に笑った。
「で、どうだ? ロウガンの様子は」
「ええ、ムソウさんとミサキ様が闘います、興味がおありでしょ? と言って、引っ張って来ました」
おお、半ば、リンスが強引にと言った感じだが、やはり興味は引けたみたいだな。よし……もう少しだ。
「で、ミサキ。ウィズとレイカは?」
俺はミサキを見て、尋ねる。
「うん! 2人はね、最初はここに来ることを渋っていたんだけど、私が無理やり転送魔法を使って、ここに送ったら、あきらめて席に座ったよ~!」
「お前……」
俺はそう言って、頭を抱える。……それは大丈夫なのか? だが、まあ、ここに連れてくることは出来たんだからな。良しとするか……。
「ったく……で? どうするんだ?」
俺が誰ともなくそう聞くと、コウカンが前に出た。
「うむ。ツバキから聞いたときはまさか、と思ったが。これはこれで良いかもしれんな。ムソウ殿らしいと言えばそうなんだが。……さて、二人にはここで闘ってもらう。観客の者達など他のものは気にするな。ミサキ様の結界を封じ込めた宝珠三つを、マリー殿たち三姉妹に使ってもらう」
コウカンの言葉に俺は目を見開き、マリーたちの方を向く。マリーは笑顔で頷いた。
「魔法に関しては私達姉妹にお任せください」
マリーがそう言うと、後ろの二人も笑顔で頷いた。すると、ワイツ卿が続ける
「頼みますぞ、精霊人の魔法の凄さに期待している。それで勝負の付け方は、どちらかが負けを認めるまでだ。
そして、この戦いにはある条件がある」
「ん? 条件?」
黙ってワイツ卿の話を聞いていると、思ってもみなかった言葉が飛び出す。闘いに条件?何のことだ? ふと、周りを見ると皆ニコニコしている。
……いや、にやにやか? 一応、確認してみる。
「なあ、シロン……条件というのは?」
「あのね……闘いに負けた方……勝った方の願い三つ……叶えること……条件」
シロンの言葉を聞き、たぶん俺はすごく嫌そうな顔をしたと思う。昼間の件もあるが、ミサキの願い……碌なものが思い浮かばないからな。俺はガクッと項垂れた。リンネが頭をポンポンとする。シロンも真似てポンポンとする。それを見て、皆笑った。
「まあ、ミサキ様も鬼ではないですからね」
「けど、ムソウさん、絶対叶えて差し上げないといけませんよ」
と、リンスとマリーが俺に言った。こいつら……楽しんでやがるな。
「いやあ、ムソウ殿にも弱点があるとはな……だが、これは正式な一騎打ちだ。敗者はなにかしらしなければな」
「そうですね。勝負の行方は、我々騎士が正当に見届けさせてもらいます!」
コウカンとリュウガンはそう言って、手を胸に置いている。あれは、確か騎士がよくやる仕草だな。承諾したという意思表示の時にやることもあるが、誓いを立てる時にもよくするらしい。……何に誓いを立てたんだよ……。
「私は領主だからな。できることであれば私も協力するぞ、ムソウ殿」
「うん……がんばってね……おじちゃん」
ワイツ卿とシロンはなぜか慰めるようにそう言った。なんで、俺が負けていること前提なんだ? あきらめるなよ。シロン……白露の花を手に入れた時の希望を思い出せよ。……あ、思い出したところで、あれも最終的にはミサキが良いところ持っていったんだった。
「どう? いい条件でしょ! 私に負けたらあ~、ムソウさんには何してもらおっかなあ~」
ミサキはからかうような目で俺を見ながら、小躍りしている。……くそ、今日の言い出しっぺは俺だが、それに面倒な条件つけやがって。本当に、どうしたものかと思っていると、ツバキが俺の横に立ち、微笑みながら俺に話しかけた。
「ですが、ムソウ様が勝てば、ミサキ様はムソウ様の言うことを三つ、聞かなければなりませんね……」
ツバキがそう言うと、ミサキは小躍りをするのをやめて真顔になる。他の奴らは、あ、確かに、という目になって、ミサキを見ている。俺はというと、
「……そうか……そうだな、ツバキ。確かにその通りだな……」
そして、ゆっくりと顔を上げ、皆が先ほどまでしていた顔つきになっていく。
「公正な一騎打ちだもんな。……皆の前で、ミサキには……ククク……」
俺は悪い顔をして、ミサキに目を向ける。皆はぎょっとしたような目で俺を見ている。ミサキに関しては泣きそうな目だ。果たして俺は今、どんな顔になっているのだろうか。
「……ム、ムソウさん! 何する気!?」
ミサキは何やら慌て始める。俺は無視して、後ろを向き、闘技場の端へと向かって歩いていく。
「……さあな。ただ、俺が前に話したこと覚えているか?」
何のこと!? という目でミサキは俺を見ている。
「……俺を嵌めたら、どうなるのかな……」
俺はそこまで言って、端に立ちミサキの方を振り返る。
「さあ……始めようか!」
俺は大声で、今にも泣きそうなミサキにそう言った。ミサキはひぃ! と言って、周りに助けを求めるように視線を向ける。いつもとは違う、豪華そうな荘厳なろーぶを纏いながらやる仕草ではないな……。皆はミサキに視線を向けられる度に、
「……ムソウ殿は位置についたな。さあ、ミサキ様もお早く。私たちは審判役なので……」
と、ロウガンとリュウガンは離れていく。
「さあ、我々も席に戻るとしよう。ミサキ様、健闘をお祈りしております。……行こうか、シロン」
「うん……父上」
「あ、ではお供します……」
ツバキはそう言って、ワイツ卿の家族の方に向かって行く。それを見た俺は、リンネにツバキの元に行くように指示した。リンネはキュウッと頷いて、ツバキの所に駆けていく。
ツバキはリンネを抱き寄せると、自らの上にリンネを座らせて、抱いている。横でシロンがリンネを撫でている。リンネは気持ちよさそうにして、俺やミサキに手を振っていた。良い身分だなと何となく笑った。
「では、私も席に戻りますか。マリーさん、エリーさん、そして……リリーさん、頑張ってくださいね」
「? ……ええ、ありがと~、リンスさん」
「ありがとうございます、リンスさん。さあ二人とも、行くわよ」
「はい、お姉さん」
騎士達が去った後、リンスも戻り、マリーたち三姉妹は配置について結界を起動させる。三重の「天岩戸」か。一枚だけでも、俺とリンガ、ジンランの闘いに耐えていたからな。これならどれだけ暴れても大丈夫だろう。
ちなみに、これだけの魔道具で、この街丸ごと買えるくらいだと後で聞いた。……うん、気にしない。
闘技場には、ミサキ一人が残っていた。
ミサキはプルプルと震えながら、叫び出す。
「も~~~~うっ!!! 皆のいじわ――」
「おい、ミサキ! 早くしろよ!」
ミサキが言い終わらないうちに、俺はそう言った。ミサキは。ふんっと言って、闘技場の端に立つ。
……ふう、色々あったが、準備は整ったな。
俺は皆に目配せした。皆も俺に笑って頷いた。……本当に、ありがとう。俺のバカみたいな提案に乗ってくれて……。
「ミサキ!」
俺は未だ怯えているような、怒っているような目で見てくるミサキに呼びかける。
「な、なに!?」
「さっきのは冗談だったとして、お前に一言いたいことがある!」
俺がそう言うと、ミサキは目を丸くしながら、こちらに視線を向ける。
「……何?」
「お前に会えてよかった! 俺は今、お前と闘えることが出来て、本当に良かった! ……全力で行くから覚悟しろ!」
俺はそう言って、無間を抜き構えた。
一瞬ポカンとするミサキ。だが次の瞬間、腹を抱えて笑い出した。
「アハハハハ! 私もね! 今すごく嬉しいよ! ……これはね、このローブはね、私達十二星天が本当に大切だと思うときにしか着ないローブなんだよ!
それくらいね! 今、とっっっっっても嬉しいの! 私も全力でやるから死なないようにね!」
そう言って、ミサキは杖をかざす。すると、多くの魔法陣がミサキの周りに展開される。
俺達をみて、コウカンは微笑み、宣言した。
「ではこれより、十二星天が一人、“魔法帝”ミサキ・サトウと、冒険者ムソウの一騎打ちを執り行う! 両者、はじめ!」
耳をつんざくような歓声が上がる。俺はミサキに向かって飛び出していった。




