第68話―公園の修繕作業を手伝う―
噴水広場につくと、昨日と同じく冒険者や、騎士達が作業をしていた。ミサキは昨日のリンゴという大樹の作業は一通り終わっているらしく、他の作業をしていた。
だが、その作業の仕方は驚くべきものだった。順を追って説明しよう。
まず、ミサキが壊れた長椅子に手をかざす。すると、手をかざした長椅子が光り出す。光が収まると、元通りの長椅子が現れる。その後ミサキは何やら思案する。
そして、もう一度手をかざす。また、長椅子が光りだす。光が収まると、そこにミサキが座る。その上でポンポンと跳ねる。
最後にミサキが異界の袋から何かを取り出してそれを飲む。ミサキはふい~、完成! と言って立ち上がり、また、別の壊れているものを修理していく。
……以上だ。
……昨日に引き続き、ミサキの作業が全く分からない。とりあえず近づいて、声をかけてみた。
「……よお、ミサキ」
「あ、またまたムソウさんだー!」
ミサキは笑顔で俺の方に来る。すると、俺の肩からリンネが飛び出し、ミサキと戯れ始めた。
そして、さっきはなんで無視したの~? とかロウガンさんたち大丈夫だった? とか色々聞いてきたので、とりあえず、無事だということを伝えた。
「そっかあ~……ウィズ君たちも今日ので元気になればいいんだけどね」
「そうだな……で、今日のお前は何してるんだ?」
「今日はね~、この広場の壊れたものの修復だよ~!」
俺の問いにミサキはそう答えた。うん、見ればわかる。問題はその工程だ。訳が分からない。
「さっきから見ていたんだが、どう修復してるんだ?」
「うーんとね、ムソウさんにやったのと同じ方法だよ~!」
え、俺にやった方法? ますますわからない。詳しく説明してくれというと、ミサキはしょうがないな~と言って、公園にある壊れた長椅子の前に立った。
それを見て、俺はあることを思いつき、ミサキを止める。
「あ、ミサキ。どうせ修理するんなら、向こうのあの噴水を頼む」
「え……ああ、あれね……うん……わかった~」
俺は上手いことミサキを噴水に誘導して、ミサキの作業を見るついでに、直してもらおうと考えた。
そして、ミサキは先ほど長椅子にやったように噴水に手をかざす。
「……まず、私の奥義、まきもどしぃ~を壊れたものにかけて、壊れる前の状態まで時間を戻す」
突然出た、時間魔法の言葉に俺は驚く。そして、この魔法は対象の時間を巻き戻すというもので、俺は若返ったし、長椅子などは、壊れる前の状態に戻ったというわけだ。
しかし、時間魔法とはまた便利なものだな。あれがあればものを壊さずにずっと使うことが出来るじゃねえかと思った。
噴水は光りはじめ、収まると同時に、元通りの姿に戻った。
「それで、このまま噴水の時間が進むと、何年か先……そうだなあ~、大体二年くらい巻き戻したから、二年後にまたさっきみたいな、ムソウさんに斬られた状態に戻るから、材質を変えるの」
ミサキはまた、手をかざした。すると、みるみる噴水の質感が変わっていく。そして、そこには先ほどの噴水に似ているが、材質は全く違う噴水が出来上がった。
質が変わったことで、耐久性などは問題ないのかと聞くと、むしろ良くしたとのこと。循環する水を綺麗にするような素材を使っているらしく、流石にお勧めはしないが、飲むことも出来るようになるという。
……って、ミサキ、何か言っていたな……
「なあ、ミサキ?」
「ハイ、無視でーす。この状態になると、さっきまでのムソウさんに壊された噴水とは別の存在になったということで、巻き戻した分の時間が経っても壊れないの」
ミサキは俺の呼びかけを無視して、説明を続ける。ちなみに、この方法は生物には効かないらしい。というのも、別の素材に変えるという作業は、ミサキのEXスキルうみだすものの力だという。新素材じゃないが、既存の別の素材を使って、そのものを生まれ変わらせることが出来るみたいだ。
確かに生物の性質まで変えてしまったら、それこそ自然の摂理ってやつに触れるからな。
ミサキのEXスキルでも、命までは生み出せないらしい。一応、ミサキの奥義の中に、生命創造というものがあったが、あれは魔物の素材を使って人形を作り、魔法によって、ミサキが操っているだけに過ぎない。俺が以前戦った魔龍がそれらしく、俺はミサキの人形劇に付き合っただけだという。
だが、それよりも気になったのは、ミサキの言葉だ。はっきりと、ムソウさんに壊されたっと言ったな。
「おい、ミサキって……」
「聞こえませーん。後はムソウさんにもやったように直したものの耐久性を上げる。……これは噴水だから、防水は必須。雨風にさらされるから、経年劣化しないように、コーティングしてっと……それと、またムソウさんに斬られても大丈夫なように、耐刃、耐衝あたりをつけておこうかな」
そう言って、ミサキは手をかざす。すると、噴水が輝きだした。光が収まると、そこには何も変わっていない、噴水が現れる。ふむ……外見はやはり変わらないのか。だが、これで、元通りだな。
俺が安堵していると、ミサキは噴水のふちに座った。
「……そして、ムソウさんが壊したものを直すため、頑張って魔法を多用した私は魔法回復薬を飲んで、次の作業に移ります……と……」
ミサキは俺をジトっとした目で見ながら、魔法回復薬をごくごくと飲み始めた。
……俺は、初めてミサキを怒らせたという感覚になった。いつもは、俺が怒っているのだが、今回ばかりは、本当に申し訳ないことをした気持ちになって、素直に頭を下げる。
「……すまん」
「はあ~。素直に手伝ってくれって頼めばやるよ~。私達仲間でしょ!」
ミサキはそう言って、俺の体を起こす。ミサキの顔を見ると、困ったような目で俺を見ていた。こういうところで、信じられなくて何が仲間なの? という目だ。俺はいたたまれなくなり、もう一度、すまんと謝った。
「まったく……じゃあ、私のお願い、聞いてくれたら許してあげる!」
ミサキはそんな俺を見て、笑ってそう言った。俺は本当にやってしまったと思った。まだ、先ほどまでの気まずい感じの方が良い。ミサキのこういう時のお願いってなんだかすごく不安な気がする……。
だが、ここで断るとますます機嫌を損ないそうだ。そうすればもっと面倒なことになりそう。俺に断るという選択肢は残っていないな……。
「な、何をすればいい?」
俺が苦渋の決断でそう言うと、ミサキはニコッと笑って俺にそのお願いというものを言った。
「あのね~、全力の私と、全力で闘ってほしいの!」
「……は?」
……俺は驚いた。ミサキがそんなことをお願いしてくるとは思っていなかったからだ。俺と闘いたいなんてな。……だが、これで手間が省けたな。
「それなら、大丈夫だ。というか、俺もそのつもりだった」
「え~! どういうこと~!?」
驚くミサキに、俺は昨日のハクビとツバキの闘いについて話した。
そう……二人の闘いを見ていたら、俺も体が疼いてきた。そして、ハクビは元のように戻っていった。強い奴と強い奴の闘いはそれほどの効果をもたらす。まして、呪いに掛かっていた奴らは冒険者や騎士達だ。奴らもそんな光景を見たら、今のような脱力感も喪失感も棄てて、以前のような、熱い心を取り戻すだろうと考えていた。
今日のロウガンを見て、さらに強く思った。今のあいつは、あいつじゃねえと。だから普段のロウガンを引っ張り出さねえと、マリーの依頼に応えていないということになる。
最初はコウカンと闘うか? とも思ったが、なんか、しっくりこないなと思った。ふと、ミサキが思い浮かぶ。自分で言うのもなんだが、俺と、十二星天であり“魔法帝”であるミサキが闘うところを見たら、他の奴らはどう感じるかな。俺は……きっと元に戻ってくれると思った。だからこそ、ミサキと闘いたいと思った。
俺が話し終えると、ミサキは目を輝かせて頷いている。
「そうなの~! 私も昨日ハクビさんがうちに来た時に思いついたの! 誰かと誰かの闘いってそれだけで、なんというか、熱くなれるって。私の世界でもそういうのあったしね!
……でも、私と闘えるほどの人ってこの世界にはなかなか居ないよね~って考えていたら、ムソウさんが思い浮かんで……それでね! 私とムソウさんの全力の闘いってどうなんだろうって思ったの!」
ミサキはすごい勢いで俺に自分の思いを話してくる。正直、断られたらどうしようかと考えていたが、心配はなかったみたいだ。
「……あとね、本心で言えば、私、ムソウさんと闘いたい!
サネマサさん言ってた! 誰かを理解するなら、闘うのが一番だって」
その理屈はどうだろうか……サネマサ、それはお前だけの考えだと思うぞ……。
だが、不思議と悪くない考えだと思った。
「ああ、俺もそう考えていた。……じゃあ、やるか? ミサキ」
「うん! 言っとくけど、私も負けないからね~!」
「上等だ!」
そうやって、ミサキのお願いを受け入れることにした。戦いは今晩mギルドで行う。先ほど、マリーに頼んだのはこのことだった。
だから、準備の方も心配せずとも良いだろう。それに、コウカンも俺の考えに賛同してくれた。
……うん、大丈夫だ。何も問題ない。俺が信じている仲間たちが、俺を信じてくれたんだ。何の問題があるのだ?
俺はそう思い、ミサキと一緒に笑ってた。
◇◇◇
その後は、ミサキに噴水の修理を押し付けた罪悪感が、まだ残っていたので、ミサキを休ませて……というか、リンネの面倒を見てもらって、俺は未だ壊れたままの長椅子の修理を始めた。
ミサキはリンネと一緒に遊んでいる。精霊人の村でやったようなミサキの球を避ける遊びや、俺が前にやったように、ミサキが枝を投げて、リンネがそれをとってきたりしている。
ただ、それだとやはり、リンネは飽きてくるようだ。そこで、ミサキは投げた枝に魔法をかけて、幾つもの幻を生み出した。本物の枝を、地面に落ちる前に咥えてこさせるようにすると、ただ枝を投げていた時に比べて、リンネは迷いながら、本物の枝を見極めていくようになり、ミサキに持っていくと、嬉しそうにしていた。あれは……俺には出来ないな。
他は、リンネが成長したところを見せたりしてミサキを笑わせたり、ミサキそっくりに変化して驚かせたりしている。
リンネが変化した状態だと、ある程度、変化した者の技を使うことが出来ることを知ったミサキは、リンネに簡単な魔法を教えたりもしていた。呑み込みが早いリンネは、色んな魔法を覚えていく。
俺はそんな二人を見ながら、木づちを持って、長椅子の修繕に取り組んでいる。だが、一つ終えるのに、やはり時間がかかるな。少なくとも、木を切る奴、木を運ぶ奴、釘を打つ奴と、それぞれ二人ずつは欲しいか……。
それから……俺はこういう作業は苦手だ。完成した長椅子も、どこかいびつな形になり、何度もやり直す羽目になった。
誰かに手伝って欲しいなと思っていると、後ろから声をかけられる。振りかえると、そこには騎士団の奴らが居る。そう言えば、ツバキがこっちに人員を割くように手配すると言っていたな。本当に来たか……これは、助かるな。
俺は、騎士の奴らに指示を出して、残りの長椅子の作業をしてもらった。
やはり、人数が増えると作業が早くなる。一つ、また一つと長椅子の修繕が終わっていく。この分だと、今日中には終わりそうだな……。俺はそう思いながら、木づちを振り、木材を、無間で斬っていく。
ふと気が付くと、日が傾き始めていた。俺は残りの作業を騎士たちに任せ、ミサキたちの所へと行く。
「ミサキ、そろそろ時間だ。俺は先にギルドへ行って、作業の進み具合をみるが、お前はどうする?」
「あ、私はウィズ君とレイカちゃんと一緒に行くよ! 時間までには行くからね。……さあ、リンネちゃん、ムソウさんの所に帰ってね」
ミサキがそう言って、リンネを抱えて、俺の肩の上に置いた。リンネは残念そうにミサキを見る。俺とミサキが、あとで会えるからと言うと、リンネは嬉しそうに、キュウ! と鳴いて頷いた。
「じゃあ、ミサキ。後でな……ちゃんと準備万端にしておけよ」
「もちろん! ここまで来て、使い魔に任せるなんてせこい真似しないからね~!」
俺達はそう交わして、一旦別れ、俺はギルドへと向かって行った。リンネに、楽しかったかと聞くと、ニッコリと笑って、頷いていた。




