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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
はた迷惑な貴族を斬る
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第62話―闘いから一夜明ける―

 目を覚ますと、そこは……どこだ? ここ。見覚えが無いな。ということはギルドではない……。あれから、俺は別の場所に移動されたようで、俺は寝台の上で寝ている。


 体を上げると、膝の辺りが重たい。目をこすって見てみると、ツバキとリンネが寝ていた。俺の見舞いか……? 嬉しいな。


 そして、周りを見ると、窓がある。そこから、光が差していた……。そこまで時間は経っていないのか? それとも、いつかのように何日か寝ていたのか……。

 その割には、身体にそこまでのだるさは感じられない。肉体の強化の魔法による疲労と、スキルによる疲労はすでに回復しているとみられる。こんなことが度々起こるのなら、ひとごろしのスキルはあまり使わない方が良いのかも知れない。魔法については、俺は使えないし、今回は、ミサキがやってくれたことだからな。

 あまり、そう言った機会も無いから、気にしなくて良いだろう。


 さて、と。取りあえず、辺りの様子を確認しようと、寝台から降りようと思ったのだが、ツバキたちが居て動けない。起こそうかとも思ったのだが、あまりに気持ちよさそうに寝ているので、何もできなかった。

 取り合えず、ツバキの頭を撫でてみる。一瞬、ぴくっと動いたが、目を開けなかった。起きないな……。

 次に、リンネの首筋をくすぐってみる。すると、リンネは体をよじらせながら、目をパチっと開き、起き上がった。そして、体を震わせる。しばらくキョロキョロし、眠そうな目が俺と合った。

俺と確認できたのか、段々表情が明るくなっていく。


「キュウウウ~~~!」


 リンネは、嬉しそうに声を上げ、跳びついてきた。そして、ぺろぺろと俺の顔を舐め始める。


「ハハハッ! くすぐったいぞ、リンネ!」

「キュウ! キュウ! キュウ!」


 俺はお返しとばかりに、リンネの腹を思いっきりくすぐってやる。リンネは仰向けになりながら、じたばたして、嬉しそうにしていた。


「う……うん? ……あ、ムソウ様、お目覚めになったのですね……」


 リンネと遊んでいると、ツバキが目を覚ました。ツバキは目をこすりながら、俺に話しかけてくる。そして、一つあくびをした。


「ああ……ツバキ。俺はどのくらい寝てた?」

「え~っと……」


 そう言って窓の外を見る。


「まだ、昼頃ですね……ムソウ様はあの闘いのあと、丸一日眠っていたようです」


 お、そこまで長く寝ていたというわけではないか。少し、けだるさのようなものは感じるが、これなら立って歩こうと思えば、歩けるかもしれないな。

 っと……ん? ムソウ様は? どういうことだ?


「なあ、俺は丸一日寝てたと言ったが、他の奴らはどうしたんだ?」


 そういえば、どうして、ツバキとリンネだけが、ここに居るのか不思議に思い、尋ねると、ツバキは頷く。


「あ、はい……ムソウ様が倒れた後、師団長と、リュウガン君、それから、リンネちゃんがここまでムソウ様を運びました。私を含め、他の者達はその場に残り、呪われていた者達の手当てをしたり、ミサキ様とマリーさんは、魔法によって生み出した大樹の後処理を行っていました。

 その後、夕方になり、私達もここへ来ました。その途端、皆、バタッと倒れて、そのまま寝てしまいました」


 ほう、俺が倒れた後にそんなことになっていたのか。まあ、朝から闘いっぱなしだったからな。皆も疲れていたんだろう。……ちなみにここはワイツ卿の家だという。倒れた俺を見て、すぐにワイツ卿が用意してくれたとツバキが教えてくれた。


「そして、今朝になり、私たちは起床しましたが、ムソウ様は目を覚まされなかったので、私が残り、看病をして、他の皆さんは昨日の続きで、噴水広場の方に行き、作業をしております」


 ほう……自分も疲れているのに、俺の看病をしてくれていたとはな……。ありがたいことだ。


「じゃあ、俺も寝ているわけにはいかないな。さっさと起きて、手伝いにでもいこうかな」


 そう言って、寝台から降りようとする。だが、足に力が入らず、転びそうになる。む……いけると思ったが、少し難しいな。……歳なのか? 


「お、っと……」

「あ、ムソウ様!」


 転びそうになる俺を、ツバキが支えた。これではまるで、介助されている老人だなと、苦笑する。


「ありがとう。助かったよ」

「いけませんよ……。まだ安静にしてた方が……」

「大丈夫だ。これくらい少し歩けば治るよ」


 少し力を入れて立ち上がり、寝台の近くにあった、俺の着替えの着物に手を伸ばした。


「いけません! まだ、休んでいてください! お食事をお持ちいたしますので!」


 しかし、ツバキは俺の着物を取り上げようとする。


「いや、本当に大丈夫だ。それに俺だけ何もしていないというのはいけねえだろ?」

「そのお心使いだけで充分です! 

 ムソウ様は昨日、誰よりも闘っていらっしゃったじゃないですか! もう少しだけ休んでいてください!」

「お、おいツバキ! 放せって!」


 ツバキはなおも、俺の着物に手をかけて、放そうとしない。流石、サネマサの弟子だ。力が強い。細い腕で、どこからこんな力が出ているんだ……。


 そんな感じで、俺達が言い争っていると、戸の外から声が聞こえてきた。


「ほら~、ムソウさんの声だよ! 目を覚ましたんだね~!」

「そのようですね……。だが、もう大丈夫なのか?」


 声の主はミサキとコウカンのようだ。俺が目を覚ましたことに気付き、来てくれたようだ。

 だが、他にも声と多くの足音が聞こえる。皆、来たのかな。


「お! ほら、ツバキ、皆来たみたいだぞ! 俺も皆に元気な姿を見せるいい機会だ。だから、手を放せって!」

「いいえ! ムソウ様はごゆっくりなさっていてください!」


 俺の言葉を無視し、俺の着物を放さないツバキ。……と、ここでガチャっと戸が開いた。


「ムソウさ~ん! 元気にな……った……?」


 戸が開くと、ミサキが思いっきり入ってきた。だが、俺達を見て硬直している。

 そして、俯き、再び外に出た。戸を閉める直前、


「……お邪魔しました」


 と、呟いていた。


 何のことだろうかと思っていると、外から、コウカンの声が聞こえる。


「む? どうなされました? ミサキ様」

「ううん。何でもないよ」

「ムソウ様に何かあったのですか!?」

「いや、ちがうよ! ムソウさんは元気になっていたよ!」

「では、どうされたのですか?」

「どうもない……こともないんだけど……」

「一大事じゃないですか!? ……師団長!」

「うむ!」

「あ、待って――」


 また、戸が開いた。今度はコウカンとリュウガンが入ってくる。


「ムソウ殿! 何かあ……たの……か……?」

「ツバキ! 大……丈夫……か……?」


 しかし、コウカンとリュウガンも目を見開き、先ほどのミサキと同じように、硬直した。そして、二人は顔を見合わせて、頷き、何かまずいものでも見たような顔をして部屋を出ていった。


 さっきから何なのだろかとツバキと顔見合わせていると、今度はワイツ卿の声が聞こえてくる。

 お……ワイツ卿も居るのか。領主自ら来てくれたのは嬉しい限りだ。


「……む? 二人ともどうしたのだ?」

「いえ、何も……」

「ムソウ殿が目を覚ましたのだろう? ……さあ、行こうか、シロン」

「……うん」

「駄目です!」

「何を言うのだ? コウカン殿。シロンがムソウ殿に会いたがっているのだ。それを止めるとでも……?」

「いえ、しかし! 今はダメなのです!」

「そう! 特にシロンちゃんはダメ!」

「ミサキ様まで……一体どうされたのですか?」

「とにかくだめなの~~~!!!」


 ……戸の向こうから、そんなやり取りが聞こえてきた。俺達は顔を見合わせ、首を傾げ合う。


 不審に思い、俺達は戸を開けた。


「おい、皆どうしたんだ? さっさと入れよ」

「椅子をご用意しますので……さあ」


 と、俺達が言うと、ワイツ卿とシロンが前に出てきた。


「うむ。元気になったようだな……」

「おじちゃん……大丈夫?」


 心配そうな顔で俺を見上げるシロンに、笑ってみせた。


「ああ、大丈夫だ。けどこのお姉さんが俺にまだ休めと言って、着替えさせてくれねえんだ。何とか言ってくれよ……」

「ちょ、ちょっと、ムソウ様!」


 慌てるツバキに良いざまだと思っていると、シロンが、ツバキをジッと見つめる。


「……騎士のお姉さん」

「はい! ……シロン様」


 ツバキは、シロンの前に立ち、姿勢を正した。


「……よくやった」


 そう言って、シロンはツバキに微笑む。ツバキは嬉しそうだ。いや、違うぞ、シロン。俺はツバキを叱って欲しいんだぞ……。

 ワイツ卿も、お疲れ様とツバキを褒めている。どうも、この親子は俺の望んでいることをしてくれないようだと、頭を掻いた。


「はあ~……仕方ない。じゃあ、もう少し横になっておくよ。

 ……おい、お前ら、何ぼさっと突っ立ってんだ。早く入れよ」


 俺は口を開けて廊下に突っ立ったままのミサキたちにそう言った。ミサキたちは慌てて頷いて、部屋に入ってくる。

 その際に、よかったとか、安心したとか聞こえる。俺が目覚めたのがそんなに嬉しかったのか。俺は三人の気持ちを正直に受け止めた。


 俺が寝具に座ると、まずミサキが俺の状態を鑑定してくれた。そして、問題な~しと言った。皆はそれを聞き、ほっとしている。


「う~ん……それにしても、身体能力向上の魔法と、私の時間魔法の所為だよね……闘いのけがはしていなかったし……

 ごめんなさい……」


 ミサキは少し反省した素振りで俺に頭を下げる。今回の戦いではミサキの、いつもとは違う部分が見られて、少し意外だと思った。

 何となく可笑しい気持ちになり、俺は笑った。


「別に良いって。その魔法のおかげで、俺もシロンを助けられたんだからな。今回も、感謝するよ、ミサキ」


 そう言って、頭を撫でると、ミサキは表情を輝かせて、コクっと頷いた。

 すると、シロンが俺を覗き込んでくる。何か言いたげだ。


「ん?なんだ、シロン」


 俺がシロンに話しかけると、シロンは俺をジッと見て、


「おじちゃん……ありがとう……」


 と言ってペコっと頭を下げる。相変わらずの礼儀正しさに俺はシロンの頭を撫でながら笑った。


「はいよ。……ところで、お父さんにちゃんと、誕生日祝いは渡せたのか?」

「うん……」


 シロンは頷き、ワイツ卿の胸のあたりを指差している。そこには白露の花を使ったと思われる、胸飾りがしてあった。どうやら、手作りのようだ。


 ほう……。乾燥させた白露の花を使って、シロンが作ったのか? 器用なものだなあ……。俺はもう一度、シロンを撫でた。


「すごいな……。いや、大したものだ。あれはこのマシロ領の宝にするべきだな!」

「おじちゃん……父上……同じこと言った……嬉しい」


 そう言って、シロンはにこりと笑った。やはり、この子は笑っている顔の方が可愛い。

 にしても、本当に、見事なものだな。シロンが帰ったのが夕方だったことを考えると、僅かな時間で、あれだけのものを作ったということになる。本当にすごいなあと、俺とリンネと、白露の花を乾燥させたミサキは、シロンを撫でていた。


「……ふむ。この贈り物についてもムソウ殿とミサキ様が関わっているということを娘から聞いたときは、流石の私もびっくりしたぞ」

「それはこちらの台詞だ。シロンの父親があんたと知ったときは俺も驚いた」

「そうだね~、なんというか運命的なものを感じたよ」


 ミサキは俺の言葉にそう続けた。運命……か。確かにその時も思ったが、一連の出来事が、一つにつながったような気がしたんだよな……。まあ、こんな偶然、良くあること、だよな。


 って、あれ?


「なあ、リンスとマリーはどこだ?」


 俺は皆を見て、そういえば、と首を傾げる。この一連の出来事の発端となった、マリーと、リンスの姿が無いのである。どこへ行ったのかと思ったが、コウカンが口を開く。


「ああ、二人は今、ギルドに居る。今回の事件の事後処理を行っている。人界各地のギルドの支部からの対応や、事件の間、依頼に取り組んでいた冒険者たちの対応に、呪いに掛かっていなかった一部の職員と共に取り組んでいるようだ」

「あ? ロウガンたちはどうした」

「あの三人は療養中だ。ロウガン殿、リリー殿、エリー殿と、ミサキ様の弟子の二人、さらにお知り合いの獣人の女性、彼女らは受けた呪いの影響か、闘いの影響か、若しくはその両方か、定かではないが、状態があまりよろしくないのだ」


 ん? 呪いは確かに解除したはずだが、状態がよろしくないというのは何故だろうか……?


「……おい、どういうことだ? ミサキ」

「えっとね、ウィズ君たちもロウガンさんたちも、怪我とかはしっかり治したんだけど、皆、私達に本気で攻撃を仕掛けてきたでしょ?

 その時に私達に向けていた殺意っていうのは記憶にしっかり残っているらしくて……だから、精神的な問題で、皆の状態があまりよくないみたい。

 ……私もウィズ君たちを迎えに行ったら、目すら合わされずに、すぐにごめんなさい、ごめんなさいって言われちゃった……」


 ミサキはガクッと項垂れる。あいつら……ハクビは別として、最も信頼する奴らと闘うことになったからな。ロウガンはリンスに、リリーとエリーはマリーに、ウィズとレイカはミサキにという具合にな。

 俺は皆が任せてくれというから、任せたが、こういう結果になると知っていたら、また別の作戦をとっていたかもしれないな……。


 俺はしばらく考え込んだ……皆を元通りにする方法か……。

 一つの手として、ミサキと同じく十二星天のジェシカという女を呼ぶかという話になったのだが、呪いはすでに解かれているので、ここから先は、本人たち次第ということになるので、来たところでやることは無いのだという。

 俺達でどうにかするしかないというわけか。つまりは、皆、それぞれの関係を元に戻すということになる。意外と難しいことなのかと考えていると、ふと思い出す。


 ……そう言えばマリーから最初にされた頼み事は、マリーと、エリー、それからリリーの関係を元に戻すこと、だったな……。色々あったが、結局こうなるのかと俺は呆れを通り越し、つい、面白い気持ちになってしまった。


「くくく……ハッハッハ!!!」


 思わず、噴き出してしまう。散々悩み、ミリアン達と闘い、俺は倒れ、街もボロボロでミサキ達も朝から働いているというこの状況。

しかし、最終的には最初の頼みに返ってしまうのかと笑ってしまった。

 急に笑い出した俺を見て、皆、ぎょっとしている。


「ちょ、ちょっと、ムソウさん! どうしたの!?」


 俺がおかしくなったと思ったのか、ミサキが慌てる。


「くくく……いや……何でもない……ふう~……さて、皆の関係を元に戻すことだったな? 俺に良い考えがある」


 俺は腹が痛くなって、出てきた涙を拭きながら、皆に俺の考えを話した。皆は身を乗り出し、俺の話を聞いていく。


 俺が話し終えると、皆はうんうんと頷いている。一番の懸念はコウカンだったが、納得してくれたみたいだ。


「皆、納得してくれたみたいでありがたい。では計画の始動は明日の夜、場所はギルドだ。良いな?」


 俺の言葉に皆、大きく頷いた。


「……で、だ」


 俺はそう言って、ワイツ卿を見る。ワイツ卿は何のことかわかると、にこりと笑って、頷いた。


「ああ、良いとも。私も全面的に支援しよう」

「それは助かる……金はこんなもんで良いか?」


 俺はそう言って、金貨を100枚ほど出した。


「これだけあれば、問題ない。……本来ならば、シロンのことも含め、感謝の意味も込めて、私が出すはずなのだが、今は……」

「ああ。マシロに金がないのはわかっている。この街の修繕、それにまだ精霊人の森のこともあるからな。気にするな」

「かたじけない。では私は向かうとする」


 そう言って、ワイツ卿は部屋を出ていく。急な話だからな。時間もないかも知れないが、あの顔は安心して良い顔だ。ワイツ卿に期待しよう。


「あ……父上……私も……おじちゃん……またね……リンネちゃんも……」


 シロンは俺とリンネに手を振りながら部屋を出ていく。ワイツ卿のお手伝いでもするのかと、俺達もシロンに手を振った。本当に、いい子だなあと、ワイツ卿が羨ましくなる。


「では、我々も準備にかかるとするか」

「はい、師団長」


 コウカンとリュウガンも立ち上がり部屋を出ようとする。一応、呪いにかかっていなかった騎士も何人か居るらしい。そいつらと一緒に、街の修繕をしたり、明日の計画の準備をしたりするらしい。

 二人にも、楽しみにしておけと伝えると、ニカっと笑って頷いた。


「あの、師団長……私は?」


 ツバキは二人を追おうとして、コウカンに尋ねる。


「お前は引き続き、ムソウ殿の世話をしてくれ。落ち着いたら、おって新たな指示を出す」


 コウカンはそう言って、部屋を出た。


「さてと、じゃあ、私はまた広場に行って、また修繕の手伝いしてくるよ~」

「おう、そうか。頑張れよ!」


 俺の言葉に、うん! と頷いて、ミサキは出ていく。リンネはミサキに手を振り、俺の膝の上でくつろぎ始める

 部屋の中には俺と、リンネと、ツバキだけが残った。二人で、リンネの腹を指でくすぐったりして遊んでいると、しばらくして、ツバキが口を開いた。


「……でも、驚きました。ムソウ様があのような提案をなさるとは」

「まあな……あっちの世界でもよくやったし、ああいう時って人はなんでもかんでも自分のことを話すようになるからな。こんな時こそ、良いんじゃないかと思ってな」

「なるほど……ちなみに、あちらのツバキさんもそうだったんですか?」


 ツバキの言葉を聞き、しばらく考え込む……。そして、笑った。


「いや……あいつはどんな時でも無表情の無口少女だったからな……あいつに関しては例外だな……」

「そうなんですね……」


 俺の言葉に、ツバキはそう返して、窓の外を眺めていた。


「……あ、そうだ。お前、本当に俺の代わりにあの女を斬ってくれたんだな?」

「え……あ、はい」


 屋敷での戦いにおいて、俺が見た限りでの格上の相手に、ツバキは多くの血を流しながらも、勝ったという。つまりは、俺の恨みを晴らしてくれたというわけだ。


「結構、手ごわい相手だったみたいだし、それなりに怪我もしたんじゃないのか?」

「それは……まあ。しかし、もう大丈夫ですよ」


 ツバキは、俺を安心させるように、笑顔を見せてきた。

 その魔法使いの後は、狂人化したハクビの足止めと、こいつは昨日、誰よりも、苦しい戦いをしていたと思う。

 そんな状態で、俺の看病もしてくれて疲れているはずなのに、そんな弱みさえ見せない。本当に大したものだと思うと同時に、ありがたいことだな、と感じた。


「強いな、お前は。……よし、では、その強さに対して、俺から二つほど渡したいものがある」


 そう言うと、ツバキは目を見開き、満面の笑みを浮かべた。


「え!本当ですか!?どのようなものですか!?」

「明日になればわかるさ……」


 俺はそう言って、ツバキの頭を撫でた。ツバキは、意地悪ですねと言って、微笑んだ。こういうところは、何となく子供っぽいなあと感じた。


「さ~てと、そろそろ……」

「む……なんですか? 外には行かせませんよ?」

「違う。腹が減った。なんか食い物あるか?」


 外に出るなら、腹ごしらえをして、と思っていると、ツバキは頷き、部屋を出ていった。俺はリンネに手を差し出した。リンネは俺の腕を駆け上り、肩に座る。

 そして、リンネの頭を撫でながら、どうやって、外に出られる口実を作ろうかと考えていた。


 しばらくすると、ツバキが食事を持ってきてくれる。と言っても、かゆのようなものと、野菜の盛り合わせだった。俺はそれを見て、嫌そうな顔をする。


「じじいじゃねえんだが……」

「起きたばかりなのですから、こちらで我慢してください」


 ツバキはそう言って、俺の横に座り、食事を摂りはじめる。ツバキのものは俺に比べて普通だ。ついでに言えばリンネのも。いい匂いがする焼き魚を食べては、嬉しそうな顔をしていた。

 良いなあと思いつつ、仕方ないか、と諦めて、かゆの方をすすった

 ……なかなか美味かった。ちょっと香草……というか、薬草でも入ってるのかな。その味は一口食べると、もう一口食べたくなるような味だ。腹に入れるごとに、身体が温まり、気持ちが落ち着いていく感覚がする。


「……うん。美味いな」

「お口に合いました? 久しぶりに腕を振るった甲斐がありました」


 俺の言葉にツバキは笑顔でそう言った。


「え……お前が作ったのか?」

「はい。と言っても簡単なものしか作れませんが……」


 すげえな……米を使っている以上、この世界の食べ物ではないはずだが、若いツバキにも、こういうものが作られるのかと聞くと、ツバキが話してくれた。

 なんでも、ツバキが生まれたころには米は既にあったらしい。どういうことかというと、ツバキや、リュウガンがまだ生まれる前、ミサキが産み出したものだという。


 ミサキがこの世界に転生したのは今から約五十年ほど前だという。まだ、転生者という言葉がなかった時から、ミサキは自らのEXスキルで様々なものを産み出していた。

 なので、大体ロウガンくらいの年代より若い世代の者達にとっては、ミサキの産み出したものというのは、さほど珍しいものという意識は無く、生まれた時にはすでにこの世界に存在していたもの、つまりは、この世界のものという印象でしかないという。


 俺は再び、ミサキに思わず、感心してしまった。というか、あいつ俺より年上だったのか……サネマサも言っていたよな。転生者は自分の死んだ年齢くらいになると、不老になるって。


 俺がそう考えていると、ツバキが口を開く。


「ちなみにですが、壊蛇討伐を除けば、この世界に最も大きな貢献をされている方は、私の考えている中では、ミサキ様だと思います」


 と、ツバキは語った。ミサキの産み出した、素材や、植物、食材、資材、建材によって、人々の暮らしはより豊かになったという。また、ミサキがしたことはそれ以外にも、たとえば、今ツバキが着ているような、俺達の世界で言うところの、衣と袴の製法を伝えたのも、ミサキだという。

 サネマサが着ているのを見て、憧れたこの世界の者達に教えていたそうだ。また、ミサキの世界の料理や建物の製法など、さまざまな知識を他の十二星天と共に、この世界に広めたという。


「以前、レインにある王立図書館で見たのですが、ミサキ様の広めたものをまとめた本がありました。そうですね……このくらいの厚さで、大体二百巻以上はあったでしょうか……」


 ツバキは親指と人差し指で大きさを示した。鈍器と言われても差し支えないほどの厚みだ。

 それが、二百……すげえな。ここ最近は身に染みてわかってはきているが、やっぱりあいつって、すげえんだな……。


「……ただ、本の題名が、『魔法帝・ミサキ様のいろんな秘密教えちゃう☆』なので、いろんな意味で見づらいですけどね……」


 ……前言撤回。やっぱりあいつはちょっと馬鹿だ。そんな題名の本を誰が見るんだよ。仮に見ている奴を、俺が見つけたとしたら、俺はただの変態だと思うぞ……。

 そして、自分のことを様付けで呼んでいるあたり、馬鹿だなあと感じる。

 まあ、それを抜きにしても、流石、“魔法帝”だな。ツバキが褒めるのも分かる気がする。


 ……と、ふと疑問に思った。


「……しかし、ツバキだったら、サネマサとか“騎士団長”の……誰だったっけ? ……カイハクか。その二人をもっと褒めるかと思ったがな」

「ええ。もちろん、あのお二人も素晴らしい方々ですよ。

 しかし、サネマサ様は時々、鍛錬をさぼって、私達を置いて、魔物狩りなどしていましたからね。

 カイハク様は少しお堅いところがあるのですが、ギルド長のセイン様と一緒の時はくだけた感じで過ごすのです。お二方とも私達と一緒に居る時にも、そういう姿で居てくれたら、嬉しいんですけどね……」


 ツバキは俺の問いに、そう答えた。ああ、なるほど。ミサキはどんな奴とでも分け隔てなく接するからな。ギルドでいろんな奴と握手をしていたり、町中でミサキに手を振っていたりするところを見るたびに、俺はそう思う。やはり、その人柄がツバキにとっては、サネマサや、カイハクとかいう奴よりも嬉しいのだろうな……。


「……もちろん、ムソウ様も、いろんな方と裏表なく接していますからね。……だから、私はムソウ様のことが好きなのです」


 ツバキがそう言うと、俺は思わずむせてしまった。


「ゴフッ、ゴフッ! ……急に変なこと言うな……」

「ふふ……申し訳ありません。……しかし、ムソウ様はこんなにお強いのに、それに驕らず、今回の一件では師団長や、ミサキ様たちの考えをしっかりと聞き、解決へと導いていました。

 さらには未熟な私達をも信じ、共に戦わせてくださいました。そのお心は、本当に素晴らしいものだと思います」


 ツバキはまっすぐに俺を見て、そう言った。


「俺が皆を闘わせたせいで、今面倒なことになっているんだがなあ……」


 今の状況を思いながら苦笑する。だが、ツバキは首を横に振った。


「それは違いますよ。皆さんが闘いたいと思った相手というのは、それぞれ救いたいと思っていた相手です。ムソウ様が指示しなくても、同じ相手と闘っていたはずです。

……ですから、あまり御自身を責めないでください」


 ツバキは頷きながら、俺の手を握る。俺はツバキの言葉を聞いて、少し、救われた気分がした。

 押し付けたような感覚では居たが、皆もそれぞれの相手に、何かしらの思いが、やはりあったようだ。一番信頼している相手と闘っていたからな。だからこそ自分の手で、止めたいと思っていたのかも知れない。


 ……俺の仲間たちもそうだった。あの時、全てをうしない、ただの鬼になっていた俺を、命がけで止めてくれた。俺を人間に戻してくれたんだ。

 ……こちらの世界にもあいつらみたいな奴らが居るなんてな……。


「……ありがとうな、ツバキ。お前がそう言ってくれると嬉しいよ……」

「どういたしまして……。まあ、私がハクビさんという方と闘ったのは、単なる興味でしたけどね。ムソウ様と何度も依頼をこなしている方というのはどんな方なのか、気になってしまいました」


 ツバキの言葉を聞いて、笑った。……だが、そんなハクビだったからこそ、俺に気を遣ってツバキは闘ってくれたのかも知れないな……。本当にこいつには、助けられることばかりだな……。


 ふと、そんなことを思っていると、ツバキが俺の腕を見て、


「……ところで、ムソウ様。前から気になっていたんですけど、そちらの腕輪は何ですか?」


 と、聞いてきた。ギルドの腕輪ではない。前の世界からつけていた腕輪だ。この世界に来た時に無くしたんだが、この前、不思議な夢を見てその時に、見つけたんだよな……。

 気に入っているから、あれからずっとつけていたものだ。


「……ああ。前の世界に居た時の仲間たちと一緒につけていたものだ。ちなみに、この彫り物はツバキが考えた


 俺がそう言うと、ツバキはまじまじと腕輪を見る。


「刀を構えた……鬼? ……ですか?」

「ああ。俺を見て彫っていたからな。ツバキは俺にそういう印象を抱いているみたいだ」

「ふふ……。以前から、名前が一緒ということで気にはなっていたのですが、やはり面白そうな方ですね」

「まあな。見た目は小娘で、無口、無表情。だが、俺を信頼し、俺も仲間たちの中では特に信用していた奴だからな」

「へえ~……それは、どんな方なんですか?」

「ああ、それはだな……」


 そこまで言って、俺は黙り、考え込む。


 しばらくそのままでいると、ツバキが首を傾げて、困ったような顔をした。


「ムソウ様……?」

「……ああ、すまない。……ツバキ、悪いが昔の仲間の話は、次の機会だ」


 俺がそう言うと、ツバキはガクッと落ち込んだ。


「すごく気になるのですが……?」

「まあ、そう言うな。次というのは明日だ」

「明日……ですか?」

「ああ。明日の例のアレの時に、皆に話そうと思う」

「それは……なぜですか?」


 俺は、腕輪に触れながら、前の世界のことを思い返した。


「……ようやく吹っ切れたんだ。俺は昔のことを話すのはあまり好きじゃないが、この世界に来て、あの頃と同じように楽しむことが出来る仲間が出来た。……だから、俺のことを皆にもっと知ってもらいたいと、今思ったんだ……」


 俺がそう言うと、ツバキは優しく微笑み、


「……そうだったのですね。確かに、明日の件は、皆様の関係を修復するためのものですからね……。ピッタリかもしれません。

 ……わかりました。では、明日の夜を楽しみにしておきますね」


 と言ってくれた。


 俺は頷き、飯を食うのを再開する。盆の上では、リンネがおいしそうに、今度は野菜を食べていた。俺達はそれを眺め、笑いながら、リンネをくすぐっていた。


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[一言] ここまで読んだ感想?というか疑問です! 何故この作品の総合評価はひくいんですか!? こんなに面白くて文章や表現力も良く物語に引き込まれるのに なぜこんなに低いのか、納得いきません! たまにあ…
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