第61話―リッチを斬る―
無間から出た輝きが収まると、俺の背中には翼が生え、髪が伸び、上半身から顔にかけて紋様が浮かび上がって神人化が完了した。
……そう。俺は別に魔物族と闘っていなくても、神人化できるようになっていた。これが、最近気づいた俺の変化である。
おにごろしと同様でひとごろしも同じく、極めたこの二つのスキルは、別に闘っていなくても、任意に発現できるようになった。極めたという感覚が無い以上、俺も困惑しているが、まあ、悪いことではないので、気にしないでおこう……。
そして、俺は飛び立ち、櫓の上に立つ。なんか下からミリアンの驚愕する声が聞こえるが、まあ、気にしないで、あっちはミサキに任せておこう。
今のところは、拮抗状態だ。街中だからか、ミサキは龍言語魔法など、広範囲に渡る魔法は使っていない。あくまで、ミリアンからの攻撃を防ぐように闘っている。まあ、それでも、余波で辺りに居る魔物を消し飛ばしているがな。
ふと、ミサキと目が合うと、ニコッと笑った。大丈夫そうだ。
俺は、辺り一面に向けて無間を振るった。
「解呪術・光霊波」
無間から優しい天界の波動が放出されていく。鑑定宝珠を使って自分を知ったときに見つけた、神人化した時のみに使える術だ。
神人化した俺は解呪術というのが使える。その名の通り、呪いを解くものだ。具体的には無間から出ている天界の波動を呪われた者に当てることで、それが出来る。
そして、もう一つの光霊波は、俺から出ている天界の波動をより強くし、本来は魔物族に対してよく効く攻撃に使われるものだ。
つまり、この二つの技を混ぜると、強い天界の波動を放ち、呪われたものを正常にし、魔物を倒す技になる。
俺の技は、辺り一面を覆っていく。そして、ミリアンの召喚したガイコツは動きを止め崩れていき、下級の魔物たちは消滅していった。
更に、呪われた者達の動きは止まっていき、目の赤い輝きが消えて、バタバタと次々に倒れていくのが見えた。
俺の技が収まると、辺りは静寂に包まれた。リンスたちは、安心したように、胸を撫で下ろしている。
だが、ツバキはまだ闘っているようだ。呪いが解けても狂人化しているからな、ハクビの奴は。
俺は飛び出し、ツバキの元へと向かう。ツバキも、もう限界みたいで、刀を杖にして、肩で息をしている。動けないツバキにハクビが爪を振りかざした。
―死神の鬼迫―
ハクビの動きが止まり、俺はツバキとの間に立ち、ハクビの腕を掴んだ。
「よう……皆、寝てんだ。テメエも……寝とけッ!!!」
俺はハクビの顔を掴み、地面に叩きつけた。ハクビはそのまま気絶したようだ。
「……大丈夫か? ツバキ」
「はぁ、はぁ、はぁ……む、ムソウ様……ありがとうございます……私は大丈夫です……」
ツバキはそう言って座り込み、俺に笑った。体のあちこちに、また新たな傷を作っているようだ。俺は回復薬をツバキに手渡し、ミリアンの元へと向かおうとした。
「ムソウ様……お気をつけて」
「おう」
ツバキは背後からそう声をかけてきた。
そして、ミリアンの元へと歩いていく。辺りを見ると、リンスも座り込んでいる。そばには倒れたロウガンが居た。
リンスもボロボロだな……。一応、リンスにも回復薬を投げ渡しておいた。リンスはそれを受けとり俺に笑いながら手を振っている。
マリーの方に行くと、リリーの頭を肩に乗せ、エリーに膝枕をしていた。
そして、マリーはにこりと笑って、俺を見ながら、人差し指を口の前に持ってきて、静かにしてくださいという仕草をした。俺も笑って、頷き、回復薬を手渡す。
リンネは小さくなって地面に突っ伏している。だが、俺が近づくと、尻尾を振って、俺の肩に乗った。俺はリンネの頭を撫でてやった。
「よくやったな。偉いぞ、リンネ」
「キュウッ!」
ミサキの魔法によって、若くなったというのに、リンネは俺のことが分かるようだ。嬉しいな……。
最後にミサキとミリアンの所に着く。ミサキはニコッと笑って、掌を俺に向けた。……ああ、偶にギルドでみる、冒険者たちがよくやるやつだな。そう思い、ミサキの手のひらを叩いた。ミサキはリンネとも同じことをする。
そして、ミリアンの様子を確認する。ミリアンは地面に膝をつきガタガタと震えているようだ。アイツも、元は人間とは言え、今は魔物のような存在らしい。下級の魔物たちのように、天界の波動を浴びて消滅するということは出来なくても、弱体化させることは出来たようだ。
ミリアンは、悔しそうに俺の顔を睨みつける。
「……私の……私の計画を……よくもぉぉぉぉ~~~!」
「テメエの計画なんざ、もともと知るか。テメエの敗因はな……テメエが俺達に喧嘩を売ったこと……ただ、それだけだ」
「ぐうううぅぅぅ……許さん……許さんぞおおオォォォ!!!」
ミリアンは叫び、両手を上に向ける。すると、頭上に巨大な魔法陣が輝いた。そして、辺りに散らばっていたガイコツどもの骨が集まっていく。
「ガアアア……グアアアアアアア~~~~!!!」
骨はどんどんと集まって行き、俺達の前で積み重なっていく。その光景に、先ほどまで安堵していた皆も、ハッとし、空を見上げた。
そして、ミリアンを中心として、骨は巨大なデーモンのようなものを形作った。それはこの街を飲み込むような大きさだ。
「コノ……虫ケラドモメ……全員マトメテ……地獄ニ送ッテヤル……!」
異形のものと化したミリアンは、巨大な掌を俺達に向けて動かしてくる。でけえな……。手だけで、この広場一個分はあるぞ。俺はリンネをミサキに預けて、結界を張るように指示した。
ミサキは頷き、結界を張っていく。
「……って、ムソウ君! なんで結界の外に居るのよ!」
俺は高い建物の屋根の上に素早く移動し、ミサキの結界を逃れていた。
「あ? 結界の中に居たら俺の攻撃が当たらないだろうが!!!」
そして、ミリアンの方を向き、無間を構えた。
恐らく、これで最後だ。アイツを斬り、なおかつ街に一切の危害が及ばないようにしないといけない。住民たちは今も、家の中で怯えているだろうからな。
―護る為に斬る……か。どこ行っても、難しいものだな……―
昔、誓ったことを思い出しながら、俺は苦笑いした。そのまま、掌に天界の波動を集中させる。
「光葬針」
俺の周りに、光で出来た棒が幾本も現れる。
―すべてをきるもの発動―
スキルを発動させて、ミリアンを見る。デカい分、切れ目は多いな……よし……。
俺は無間を握る手に力を込め、、ミリアンに突っ込んで行く。光の棒も俺について、ミリアンに向かって行った。
「ムソウ君!!!」
「「ムソウ殿!!!」」
「「ムソウ様!!!」」
「「ムソウさん!!!」」
「キュウウ~~~!!!」
皆の心配する声が聞こえるな……大丈夫だ……。
絶対……死なねえからなッッッ!
「死ネエエエ!!! ムソウッッッ!」
ミリアンは巨大な手を俺に向けて振り下ろしてくる。俺は更に力を入れて、それに向かって、無間を振るった。
「ウオオオオオッッッ!!! 奥義・光葬裂刃撃!!!」
俺の周りに飛んでいた光の棒が刃の形を成して、分裂しながらミリアンの切れ目目掛けて飛んでいく。斬られたところは聖なる光を浴びて、消滅していく。
そして、無間からも、天界の波動を帯びた刃がミリアンの体を切り裂いていった。
この技は、いわば、飛刃撃に天界の波動を纏わせたものである。骨だけで出来たミリアンの体をバラバラにしながら、その力を削いでいく聖なる刃。
「ウオオオ~~~ッッッ!!!」
そして、全ての切れ目を斬った、光葬針と斬波は無間に戻ってきた。ばらばらになり、落ちていくミリアンの体。ふと見ると、先ほどのガイコツの胸の辺りにあったような、赤い輝きが見える。俺は、それに向けて、無間を振るう。
「地獄に落ちるのは……テメエだ! ミリアン!!!」
「オ……オノレエエエエェェェェ~~~!!!」
無間から、聖なる光を浴びた刃の奔流が飛び出し、ミリアンの体を飲み込んでいった。
「グ……ギ……ギャアアアアアァァァ~~~ッッッ!!!」
断末魔を叫びながら赤い光は俺の技に呑み込まれていく。
……そして、後には何も残らなかった。破片も大して落ちてないみたいだな……。
ミリアンはようやく、滅んだらしい。
その後、俺は皆の居る所に降り立っていった。
すると、皆、笑顔で駆け寄ってくる。
「ムソウ君! おかえり~!」
ミサキはそう言って、俺の所に来た。
「ああ、ありがとな」
俺はそう言って、ミサキの頭を撫でる。すると、リンネが俺の方に跳んできた。
「キュウッ!」
俺はリンネを受け止め、肩に乗せた。リンネは俺の頬をぺろぺろと舐めた。
「ハハッ! くすぐったいじゃねえか~!」
俺はそう言いながら、リンネの首をくすぐる。
「キュウ~~~!」
リンネは俺の肩の上で悶絶している。すると、ここで神人化が解けて、俺は元に戻った。
「ふむ……元に戻ったようだな」
ワイツ卿は、俺の姿が戻ると、一歩前に出た。
「ムソウ殿……本当にありがとう。娘ばかりか、この街そのものを救ってくれて……。領主として感謝する」
「ああ。だが、そういうことなら、マリーさんにも頼む」
俺はマリーを指さす。キョトンとした顔になるワイツ卿。そして、マリー。何のことだか分からないという顔で、あたふたしていた。
「え、私ですか?」
「ああ。精霊人の村の時と一緒だ。マリーさんが俺を頼ってきたから、俺は異変に気付き、この街を救うことになったんだ。だから、マリーさんにもワイツ卿の礼を受け取る権利がある」
元々の話は、マリーが辛い思いをしたことから始まったのだからな。あの時、酒場でマリーの話を聞いてなければ、もっとつらい結果になっていたかも知れない……。今回の一件の一番の功労者はマリーだ。少なくとも、俺はそう思った。
「いえ……ですが……」
「ムソウ殿の言うとおりだな……ギルドマシロ支部職員マリー殿。重ねてここに礼を申す。本当にありがとう……」
ワイツ卿はそう言って頭を下げた。
「マリーさん、ギルドを代表して私からも礼を言います。本当にありがとうございました」
マリーと同じく追われる立場になったにも関わらず、リンスも頭を下げた。……いや、お前は良いだろうとも思ったが、黙っとこ……。
「も、もう! お二方やめてください! そこまで言われたら受け取るしかないじゃないですか……」
マリーは慌て始める。俺はその光景を笑いながら見ていた。
辺りを見ると、ロウガン達がその場で静かに眠っているのが見える。俺が叩き伏せたハクビは別として、皆、大した大けがは負っていないようだ。良かったなあと、胸を撫で下ろす。
「……それで、ムソウ様、そのお姿は一体……」
すると、ツバキが俺を見ながら、そう尋ねてきた。見ると、コウカンもリュウガンも目を丸くさせている。
「ああ、これはミサキの魔法だ。おい、説明してやれ」
俺がミサキにそう言うと、ミサキは、は~い! と手を上げて、皆に時間魔法の説明をした。皆は口々に、やっぱり“魔法帝”……すごいな、とか、十二星天とはこれほどなのか?とか言っている。
正直、今回ばかりは、俺も、ミサキはすごい奴なんだと改めて実感している。普段が普段だからな……。
そして、ミサキの説明を終えると、皆は俺の体をまじまじと見て、
「この姿が若い時のムソウ殿か……。なんと言うか、迫力があるな……」
「年下とは思えない貫禄と言いますか、なんというか……」
「睨まれただけで、背筋が凍りそうです……これで同い年くらいなんて、とても思えません」
「でも~、カッコいいと私は思うけどね~」
「小生意気なとっぽい青年のようにも見えるが……いや、失礼したな、ムソウ殿」
「このムソウさんでは、ホリーはどう思うのかしら」
と、思い思いに感想を言ってきた。騎士の二人とリンスはまだいい。ミサキにはなんか馬鹿にされたような気がする……。ワイツ卿に関してはほとんど悪口だな。言っとくがこの頃は妻も居て少し落ち着いた頃だからな。まあ、謝ってきたから、別に良いが。
マリーに関しては……よくわからん。何故、ここでホリーの名前が出るんだ?
ん? ツバキは何も言わないな……。そう思ってツバキを見ると、
「え、私ですか? 私は特に何も思いませんよ」
ほう、ツバキは何も思わないか。……それはそれで、何となく寂しい気持ちになるな。何か、言えよとツバキを眺めると、皆もツバキの方を見る。そして、コウカンがツバキに口を開く。
「何も思わないことはないだろう……。ほとんどお前やリュウガンと同い年くらいだぞ」
「そうですね……。でも、私にはそういうのは関係ありませんよ」
皆はツバキの言葉に首を傾げる。リンネも俺の肩の上で、首を傾げた。そして、ツバキは、
「どんな見た目でも、どんなお姿になっても、心はそのままの、私の愛する、ムソウ様のままですから……」
と言って、俺の方にニコッと笑う。
皆はぽかんとしている……しばらく続く沈黙……。
そして……
「「「「「え~~~!!!」」」」」
皆は一斉に叫んだ。うるさいな……。リンネも俺の肩の上で固まっている。そして、コウカンが口を開く。
「ツ、ツ、ツバキ……? 今、何と……?」
「どうしたんですか? 師団長。そんなに慌てて……?」
「いや、お、お前……ムソウ殿のこと……」
「ええ、愛しております」
コウカンの質問にさらりとそう返すツバキ。するとミサキが寄ってきて、
「待って待って! 何言ってるの!? ツバキさん! ムソウさん、今はこうだけど魔法が解けたらおじさんだよ! 駄目だよ!」
自分でやったくせに、失礼なことを言ってくるミサキ。そんなミサキに、ツバキはふう、とため息をついて、口を開く。
「先ほどから申していますように、どんな姿になっても、ムソウ様のお心が、私は好きなのです……」
「な、なんで、そんなにはっきり言えちゃうの~~~!?」
「自分の気持ちははっきり言わないといけません。いつ死ぬかわからないですからね。サネマサ様の教えです」
「サネマサさ~~~ん!!!」
ミサキは倒れこみ、地面に手をつきながら、すごい……私にはできない……とぶつぶつ何か呟いている。
ただ、皆の中で、リュウガンは知っていたという顔で笑って頷いている。流石、付き合いが長いだけのことは無いな。
リンスはミサキと同じで俯き、何やらぶつぶつと呟いていた。マリーの方は微笑みながら、ライバル出現ね、とか言っている。
ん? らいばるってなんだ……?
ちなみに、リンネは意味が分かっているのか、いないのか、俺の肩の上で小躍りしていた。皆の様子が面白いんだろうな。
……正直、俺は特に何も思わなかった。いや、嬉しくないのかと言われれば、嬉しいがな……。
だが、もう歳だし、サヤも居たし、カンナも産まれていたからな……。
どうしたもんかとツバキの方を見ると、俺の気持ちを察してか、ツバキが微笑んだ。
「今すぐどうの、という話ではありません。ですが私はムソウ様が好きです。その気持ちは変わりませんから」
そんなツバキの言葉に、俺は頷いた。
「そうか……。まあ、その方が俺もありがたいし、そう思ってくれることは嬉しいと思っている。今後も、よろしくな」
そう言って、手を出して、ツバキと握手をした。
すると、皆がぽかんとした顔でこちらを見ていることに気付く。
「ムソウさん、いきなり告白されても、動じないのですね……」
「ああ? ……まあ……な」
マリーの言葉に、昔のことを思い出した。改めて、若くなった自分の体を眺める。丁度こんな時だった。サヤが、俺に思いを伝えてきたのは。
そして、俺も、サヤに自分の気持ちを伝えられた。ほとんど、頭に言わされた感じだったがな。
あれから……二十年か……。色々あったなあと、感慨深くなってくる……。
ふと、気が付くと、周囲から、がやがやと声が聞こえる。呪われていた者たちが目を覚ましたようだ。ロウガンたちも、目を覚まし、キョロキョロと辺りを見ている。
そして……
「う……うん?」
ワイツ卿に抱えられていた、シロンが目を覚ました。皆は慌てて、シロンの様子を伺い始める。
「おお、シロン! 目が覚めたか!? 痛いところはないか!?」
「うん……大丈夫……」
ワイツ卿の言葉に、シロンがコクっと頷き、皆は胸を撫で下ろした。どこも、怪我をしている様子も無いし、意識もはっきりしているようだ。目をこすりながら、シロンは地面に立ち、辺りを見回していた。
その光景に、ワイツ卿は、フッと優しく微笑んでいる。
「そうか、そうか。良かった……ほら、あの人がお前を助けてくれたんだよ」
そう言ってワイツ卿は俺を差した。シロンと目が合う。だが、俺が誰だかわからないようだ。シロンは首を傾げていた。
あ、そうか。この姿じゃあなあ……。
俺はミサキに頼み、元の姿に戻すように言った。ミサキが手をかざすと、俺の体が光って、俺は元の姿に戻った。それをみて、シロンがハッとする。
「おじ……ちゃん……? それに……リンネちゃん……?」
「ああ、そうだ。無事で……よか……」
シロンと目が合い、リンネが跳び下りる。俺も、近づこうとした瞬間だった。
突如、俺の視界がぐらつき、全身の力が抜けていく。そして、俺はそのまま地面に倒れた……。
「あ、あれ!? ムソウさん!? どうされました!?」
「ムソウさん!?」
リンスとマリーの慌てる声が聞こえてくる。皆は突然の出来事に、目を見開き、バタバタとし始めた。
……ああ……そういや、一時的に体を強くする魔法は一気に解除すると疲れが一気に出てくるっていう欠点があったな……。
さらに言えば今回は、EXスキルも重ね掛けして、ミサキの時間魔法も相まって、肉体への負担がかかり過ぎたのかも知れない。起き上がろうとしても、腕が動かなかった。
そして、段々と、意識も遠のいていく感覚がある。
「ムソウ様!? ムソウ様!」
「ちょ、ちょっと大丈夫!? ムソウさん!」
「キュウ~! キュウ~!」
ツバキたちの心配する声が聞こえてくる……大丈夫……けど……体が動かねえ……。
眠く……なってきた……。
そういや……前にも……こんなこと……
あれは……いつだったか……
皆の声……遠く……。
そのまま、俺は、意識を失った……。




