第59話―ミサキたちの状況を聞く―
突然の出来事に俺が唖然としていると、ツバキが俺の足に巻き付いていた蔓を切り落とし、リンスがガイコツどもを斬っていく。
「大丈夫ですか? ムソウ様……」
「あ、ああ」
心配してくれるツバキに俺は、状況を呑み込めず、頷く。
「なあ、この状況はなんだ? 何故、ここにワイツ卿が居るんだ?……で、お前らも」
そう言って、リンスたちを見た。リンスは笑って口を開く。
「あ、それはですね、あそこに居た人たちを倒した後、残った二人も倒そうとしていたところ、ミサキ様たちがワイツ卿を連れて、突然乱入してきて、その二人をあっという間に倒してしまったんですよ」
「その後、ミサキ様の魔力感知という魔法に、強い魔力が反応し、来てみるとムソウ様が闘っているのを見て、私達も参戦したという流れになります」
リンスの説明に、ツバキがそう付け加えた。ほう。この二人は奴らを倒せたのか。よくやったな。
特にツバキには感謝だ。俺の代わりにあの女を斬ってくれたみたいだからな。
よく見ると、着物のあちこちがボロボロだ。薬で治っているようではあるが、ほとんど、全身に傷を負ってるようだな。特に、右手に巻かれている包帯には血がべっとりとついていた。こんなになってまで、俺との約束を守ってくれるとは、本当にありがたい……。
……で、その後ミサキたちと合流したというわけだな。
「おい、ミサキ……何があった?」
「えっとね~……」
とりあえず先にミサキに事情を聞く。ミサキは、ワイツ卿に防御魔法を纏わせながら、俺達と別れた後のことを説明しだした。
◇◇◇
私達がムソウさんたちと別れた後は、ワイツさんの家を目指して急いでいた。私はリンネちゃんに跨り、私たちの前をコウカンさんと、リュウガン君……だっけ、二人が先導して向かっている。
リンネちゃんもすごく速いけど、それについてくる、騎士団の二人もすごいと思った。リュウガン君は、今日は鎧を着てないから、体が軽いですとか言いながら、走っている。確かに、騎士団の人たちって、いつもそうだし、偶に見る訓練の時でも鎧をつけているよね……。今日は二人とも私服だからか、未だに息切れ一つなく、リンネちゃんの前を走っている。
そして、しばらくすると、ワイツさんの家に到着した。するとコウカンさんが槍を手にして、私に言った。
「ここも、何が起こるのかわかりません。先に私が行って中を確かめてきます」
コウカンさんは緊張した感じで、一人中に入ろうとした。私はそれを止めた。
「待って、コウカンさん。何が起こるのかわからない以上は、バラバラになるほうが危険だよ。……ちょっと待っててね」
私は、魔力感知という魔法を使って、辺りの魔力を探ってみる。人は、扱える、扱えないというのを別にして、誰しもが魔力を持っている。
だから、魔力を感知するということは、そのまま人を感知するということに使えるのだ……。
「……家の中は五人分の魔力しか感じられないよ」
私はコウカンさんと、リュウガン君に、魔力感知の結果を伝えた。二人は驚いて、私を見ている……。
「……すごいですね、ミサキ様はそのようなこともできるのですか?」
コウカンさんは私に魔法の説明を求めてきた。素直に、褒められている気がして嬉しくなった私は、コウカンさん達に魔法の説明を始める
「うん!土魔法と、風魔法の一部を少しいじって、そこに感知系のスキルを組み込んで、作ったものだよ! その後も色々改良を加えて、結構簡単な魔法になったから、覚えてみたら?」
私の言葉に、二人とも頭を掻いた。
「いや、私は魔法というものの才能は無かった。だから、武芸のみを鍛えてきましたからね……」
「ええ、私もです。ですから、簡単な魔法と言われても覚えられる自信はないです」
と、二人は言った。
確かにこの世界の騎士には魔法も使えて、武芸もできるという人は少ない。居るとすれば、ウィズ君の家族のような魔法戦士達くらい。どちらかをうまくするのは出来るけど、どちらもというのは少し、難しいみたい。
「まあ、我々には武芸がありますからね。それだけに集中して、日々鍛錬です」
「うむ。魔法が無くても、街を護るという思いを大事にすることが大切だからな」
と言って、リュウガン君の言葉に、コウカンさんも頷いている。なんとなく、流石サネマサさんの弟子だな~と思った。あ、コウカンさんはカイハク君だっけ。あの子も、武闘派の子だからな~。
「フフッ!」
二人を見て思わず吹き出してしまった。同じ十二星天の人たちが、自分の弟子に自分の考え方をきっちり伝えられているなあ、と考えてしまった。
良いなあ~、こういうの。私も頑張らないとな……。
と、急に笑い出した私に、二人はキョトンとしていた。
「ミサキ様?どうされました?」
「あ、ごめん。何でもないよ~。それで、どうするの?」
そう言って、コウカンさんはしばらく考え込み、口を開いた。
「ミサキ様、先ほどの魔力感知ですが、誰の魔力かはわかるものなのですか?」
「う~ん……さすがにそこまではわからないなあ~……年齢くらいはわかるけど、呪いに掛かっているかどうかまではわからないよ~」
「それだけで充分です。……ちなみに、その五人の中に、子供は居ますか?」
「えっとねー、居ないよ~。……それがどうかしたの?」
私がそう言うと、コウカンさんはハッとして、また考え込む。リュウガン君も何かに気付いたみたいで、なんかそわそわしてる。
私はそんな二人をしばらく眺めていたけど、じれったくなってリュウガン君に聞いてみた。
「ねえ、何かあったの?」
私がリュウガン君にそう尋ねると、リュウガン君は教えてくれた。
「ワイツ卿には一人娘がいらっしゃったはずです……。でも、ミサキ様の感知には反応はなかった……。ということは……」
「え、まさか……」
私はリュウガン君の言葉に驚く。確かに、この家の中からは、子供の魔力はなかったはず。すべて、大人の平均的な魔力の量しかなかった。仮に、ウィズ君のように、小さな時から膨大な魔力を持っていたとしても、何らかの異変くらいは私にもわかる。
間違いなく、家の中には大人しか居ない……。
「……急いだほうがいいな。リュウガン、これから家の中に突入する。お前は援護を頼む。ミサキ様には、呪われている人を見つけたら、結界に閉じ込めるか、魔法を使って気絶させていただきたい」
コウカンさんは私達にそう指示を出した。魔法での気絶の方法ならいくつかある。私はコウカンさんに頷いた。
「そして、リンネ。君にもついてきてもらう。ワイツ卿を見つけたら、背中に乗せてこの場から離脱させてほしい。……できるか?」
「クワン!」
コウカンさんがリンネちゃんに指示を出すと、リンネちゃんは大きく頷いた。すごいなコウカンさんは……。リンネちゃんの役割もきちんと考えているなんて。
そして、リンネちゃんも、そんなコウカンさんをしっかりと信じている。聞けば、昨日、ムソウさんとリンネちゃんは、騎士団の人達と、一緒に鍛錬という名の、遊びをしたらしい。一緒に遊べば、もう友達っていうのは、地球も、この世界も、変わらないらしい。
「では、行くぞ!」
そして、コウカンさんの合図で、私たちは、ワイツさんの家の中に突入した。
家の中に入ると、常駐の騎士だろうか、二人ほど、武器を上げて迫ってきた。私達を押込み強盗かなにかと勘違いしているみたい。
けど、コウカンさんの制止も無視して、迫ってくる。どうやら、呪いに掛かっているみたいだね。
コウカンさんと、リュウガン君は、その騎士のお腹に、それぞれ、大きな薙刀みたいなものと、槍の柄で思いっきり突いた。
騎士は、ウッ! と言って、その場に倒れこむ。
「……ふむ。この者たちはワイツ卿専属の者達で間違いないか?」
「ええ、間違いありません。ですが、師団長の制止を無視して襲い掛かってきたというところを見ると、呪いに掛かっているとみて間違いないですね……」
二人は騎士たちの兜をとり、顔を確認しながら、そんなことを話している。
「……私の制止を全く無視とはな……呪いの力が大きくなっていると考えた方が良いのか。ミサキ様、この二人を結界に閉じ込めることは出来ますでしょうか?」
「え……? できるけど……起きたら呪いも消えてるんじゃない?」
コウカンさんの頼みに対して、私はそう返した。通常、呪いは相手の意識を途絶えさせたら、解けてしまうもの……って言っていたらしいからね、サネマサさんが。
だから、結界を張ったところで、何もしなければ意味もないと思っていた。けど、コウカンさんは私の言葉に首を横に振った。
「普通の呪いならそうですが、先ほどから、この呪いはだんだんと強力なものになっているような気がします。
ミサキ様の家に行くまでは普通に私との応対くらいは出来ていたが、今は違いました。私の言葉は耳に届いていないようです。
この呪いは明らかにおかしいものです。ですから、万が一のために閉じ込めておいた方が良いと思いまして」
コウカンさんの言葉に、なるほどと頷いた。確かに、呪いはあくまで、自分の思ったように相手を動かすように誘うものであり、相手の人格そのものを変異させるものじゃない。だから、師団長であるコウカンさんの言葉も届くと思っていたけど、この二人は違ったもんね。
私は異界の袋から、私の結界魔法が封じられた、魔道具を取り出した。
「あ、それは先ほどムソウ様にお渡しになっていたものですね。どういうものなのですか?」
すると、興味津々な表情で、リュウガン君が尋ねてきた。
「ムソウさんに渡したものとは違うけどね、これはね~、中級結界魔法の「城郭障壁」が封じられた宝珠だよ。魔力を込めると、辺りに結界を作り出せるの。あなた達には破られそうだけど、この二人には問題ないかな~」
そう言いながら、私は宝珠を気絶した騎士二人のそばに置いて、魔力を込める。すると、宝珠が輝きだし、その二人の周りに結界を張った。
「私がここに残って結界を張り続けるわけにはいかないからね! ちょっと高いけど、使っちゃおっと」
私がそう言うと、リュウガン君がまた、尋ねてきた。
「ちなみに、おいくらですか?」
「えっとね~……これは大体金貨300枚くらいかな……。あ、ちなみにムソウさんに渡したのは私の作る結界の中では最強なものだから、金貨10000枚くらいの価値はあるね!」
と、私は言った。リュウガン君と、コウカンさんは目を見開き、そして、項垂れた。
「……私の今までの給金全て合わせて足りるかどうか……」
「師団長……我々、カイハク様から怒られませんか……?」
などと、二人はぼそぼそと呟いている。そこに大きいリンネちゃんが寄って行って、前足で二人の肩をポンポンと叩いていた。
時々、この二人は漫才のようなやり取りをするから、面白いな~。
私は笑って、気にしなくていいよ~と言うと、二人は表情を明るくして、この場を後にした。やれやれ……。カイハク君、君の部下の人たちは、なかなか面白い人たちだね……。
私達が次の部屋へ行くと、そこには誰も居なかった。……だけど、私の魔力感知からは逃げられない。
「隠れても無駄。そこね!」
私は壁の一か所に、火炎弾を撃ち込んだ。壁はガラガラと崩れ、その中から、執事っぽい人と、メイドさんっぽい人と、白ひげの人が出てきた。
最後に出てきた、白ひげの人をみて、コウカンさんが叫んだ。
「ワイツ卿? ……ワイツ卿ではありませんか!?」
「お前は……おお! 師団長のコウカン殿か! まさか、私を助けに……?」
コウカンさんが頷くと、白ひげの人は、安堵したように、その場に座り込んだ。執事っぽい人と、メイドさんも一緒だ。
どうやら、白ひげの人はマシロ領主のワイツさんらしい。攻撃が当たらなくて良かったと、心底感じた。危ない、危ない……多分、ムソウさんが居たら、怒られてたな~……。
そして、後の二人はワイツさんの従者らしい……と、思っていた……。
「んっ!? あ、あなたは奥様のシーロ様!? 何故、そのような恰好をされているのですか!?」
と、コウカンさんは、メイドさんっぽい人を見て、驚いている。
「主人の趣味です……」
「いや! 違う! 違うぞ! コウカン殿! これは敵の目を欺くためにだな……」
メイドさんっぽい人の言葉に、慌ててワイツさんは訂正している……。どうやら、メイドさんっぽい人は本当に、ワイツさんの奥さんみたいだ。
若い……。ワイツさんに比べてもだし、普通に若そう……。でも私よりは上かな……。22~5ってところかな……。しかも肌も綺麗で美人だし。私の世界でいうところのミスキャンパスみたいなそんな感じ……。
ワイツさん……すごい……。
私がぼんやりと、夫婦を見ている間に、コウカンさんとリュウガン君は今の街の状況を説明している。
それを聞き、ワイツさんは、何か慌て始めた。そして、今朝のことと言って語り出す。
ワイツさんは今朝、普通に奥さんと一人娘と一緒に朝食を食べていたらしい。すると、突然食卓の間に居た警護の騎士達が剣を抜き、一人娘をどこかへと連れ去って行ったという。
慌ててそれを追おうとしたけど、残った騎士二人……さっきの二人がそれを邪魔した。
そして、騎士二人は武器を上げて、ワイツさんと、奥さんを襲おうとした。
けど、傍に居た執事の人は、武術に心得があったらしく、二人の騎士を倒し、ワイツさん夫婦と共に、先ほどの隠し部屋に隠れていたらしい。
「街がそんなことになっているなんて……早く、娘を助けに行かなくては!」
「落ち着いてください! 助けると言っても、どこへ行く気ですか!?」
コウカンさんはそう言って、はやるワイツさんを止める。ワイツさんはどけろ! とか言っているけど、コウカンさんはどかない。
私はそんな光景を見ながら、立ち尽くしていた。優しそうな人ほど怖いもんね……。
しばらく問答が続いた後、コウカンさんがワイツさんに口を開いた。
「分かりました。そこまで言うのなら、我々も行きます。しかし、それは我々と一緒に闘ってくれている者達と合流した後……それでいいですね?」
コウカンさんの言葉に、ワイツさんは黙った。そして、白ひげに手を当てて、何か考えている。
「……その者達は信用できるのか?」
「はい。今のマシロであの人たち程信用できる方々は居ません。さらに言えば、私よりもはるかにお強いですしね」
「そんなにか?」
「ええ。そんなに、です。呪われた方々の中には、ギルド支部長のロウガン殿も居ます。そんな方々を相手に戦うのは、我々だけでは難しいかと思います」
コウカンさんの言葉を聞き、ワイツさんは手を下ろし、ふう~とため息をした。
「ふむ……なるほどな……であれば、仕方ないな。分かった。私もその者達と合流したうえで、娘の救出に向かう。それでよいか?」
「はい。大丈夫です」
ようやくワイツさんは納得したようだ。うん! ここで争ってても時間がもったいないだけだからね! 良かった良かった~!
ふと、胸を撫でおろしていると、ワイツさんが私に目を向けていることに気付く。
「……それで、コウカン殿。先ほどから気になっていたのだが、こちらの女の子は?」
「はい。こちらにいらっしゃる方は、十二星天のお一人、ミサキ様でございます」
コウカンさんは私をワイツさんに紹介した。その言葉にハッとする。
「あ……うん! 私が“魔法帝”ミサキだよ! よろしくね!」
そっか。ワイツさんとは、初対面か。レインで会ったことあるような、と思っていたけど、違ったみたい。
握手しようと手を伸ばしたけど、ワイツさんは目を見開き、驚いた顔をしていた。
「おお……領内の問題にまたも十二星天の方が力を貸してくれるのは心強い。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
こないだは、サネマサさんで、今回は私。確かにこんな短期間で、十二星天が関わるなんて、ほとんど無いもんね~。ま、私の場合は偶然だけど。
なんて、思っていたら、ワイツさんが、私に頭を下げようとした。私は慌てて、ワイツさんを止める。
「ちょ、ちょっと! りょーしゅさまなんだから、そんな簡単に頭を下げちゃだめだよ!しかも、こんな女の子にさ!」
「いえ……しかし……」
「あのね、私がここに来たのはムソウさんが、私に頼むって言ってきたからなの! だから、領主様が頭を下げるのは違うんだよ?」
私はワイツさんにそう伝えた。すると、ワイツさんは再び、目を見開かせながら、頭を上げた。
「ム……ムソウ? ……あの、精霊人の村の問題を解決した、冒険者ムソウ殿ですか!?」
「そうだよ~。今回も巻き込まれちゃったみたいだけどね。それでもムソウさん、一生懸命になって、どうするか考えていたよ~!」
私がそう言うと、ワイツさんはフッと笑った
「そうか……またしても私は……マシロはあの男の世話になるのだな……」
そう言って、執事のおじさんが持っていた、マシロ領主の証、純白の羽織を身に纏った。
そして、私達に向き直る。
「……このままでは領主の面目丸潰れだ。急ぎ、ムソウ殿と合流して、必ずこの問題を解決しようぞ!」
「りょ~か~い!」
「はい!」
「かしこまりました!」
「クワン!」
ワイツさんの言葉に、私たちは頷いた。
すると、シーロさんがワイツさんに駆け寄ってくる。
「あなた。必ず、あの子を……あなたも無事に……」
「無論だ。今の私には、コウカン殿が居る。ミサキ様が居る。そして、“規格外”の男、冒険者ムソウが居る。必ず、あの子を救い出し、二人で帰ってみせる」
ワイツさんの言葉に、シーロさんは微笑みながら頷いた。こんな時に、良い夫婦だな~と思ったのと、ワイツさんの口から、ムソウさんが“規格外”って言葉を聞いて、何となく可笑しな気持ちになって、コウカンさん達と笑った。
そして、ワイツさんはリュウガン君と一緒に、リンネちゃんに跨る。珍しい、妖狐に跨ったワイツさんは、感動したようで、今度、娘も乗せて欲しいとリンネちゃんに頼んでいた。リンネちゃんは嬉しそうに頷き、走り出す。私は魔法で空を飛んで、ムソウさんたちが闘っている、ミリアンの家へと向かった。コウカンさん……まだ、走れるんだ……すごいなあ~……。




