第58話―ミリアンとの戦いが始まる―
俺は今、逃げたミリアンを追っている。屋敷の中は、あそこにいた奴らと、入り口で俺達を迎えた女、それに倒れた女に付き添っていった、男以外の従者は居ないようだ。
更に言えば、ここで生活していたという雰囲気などは感じられない。家具は一通りそろっているが、どれも、うっすらと埃が積もっている。
デカい屋敷なのに、勿体ないなあと思いながら、走って行くと、通路の先に、扉が見えた。開くと、そこから階段を降りるようになっている。なので、そこからは地下を走ることになる。そして、結構な距離を走っている。
外で見た屋敷の大きさに比べると、明らかに長い。マシロの町の下にこんなのを作っていたのか?
にしても、ここで閉じ込められたり、敵に囲まれたら最悪だなあと思いつつも、今は奴を追うことが先決だ。俺はひたすら走っていく。
すると、大きな空間にたどり着いた。ミリアンは居ない。空間の奥にも通路が見える。俺はそこを目指し、走ろうとする。
しかし、俺が広間に一歩踏み入れた瞬間、ボコッボコッといって、地面のいたるところが盛り上がる。何だ? と思い見ていると、そこから白骨化した人間の手が現れた。
そして、俺の目の前には動くガイコツとでもいうようなものが武器を持って迫ってくる。もともと、眼球があったであろう箇所には赤い光が映り、肋骨のあたりも何やら、光っているようだった。
その数は、およそ300といったところか……そいつらはゆっくり俺に近づき、武器を振り上げる。
「あ? やろうってんのか?」
俺がガイコツに話しかけるが応答はない。ただ、武器を持って迫ってくるだけだった。はい、そうですと言っていると考えて良いんだな……。
「悪いが、急いでんだ。どいてもらおうッ!」
俺は、大斬波を横向きで放った。EXスキルひとごろしにより、強化された斬撃は大きく、ガイコツどもをなぎ倒し、俺の目の前に一直線の道ができる。
「なんだ、弱いな……」
残ったガイコツを薙ぎ払おうと、さらに、斬波を放とうする。すると、先ほど斬ったガイコツたちの骨がカタカタと動き出す。
そして、それぞれから、肋骨の辺りで光っていた赤い球が浮かんできて、その周りに骨がくっついていった。再生したそいつらは、再び、俺に歩き近づいてくる……。
再生能力か……めんどくさいな……。俺は無間をガイコツどもに向け、力を込める。
「奥義・飛刃撃」
スキルすべてをきるものを発動させ、ガイコツの切れ目を見る。どうやら一個みたいだ……やはりというか、あの胸の赤いやつだな。無間からガイコツ一体につき、一つの刃が降り注いでいく。
ガイコツどもの「切れ目」を斬っていくと、もう再生はしなかった。俺が放った刃が無間に戻ってくる。
と、その時、地面から大きな赤い光の塊が出てきた。そして、俺が斬ったガイコツ全ての骨が、その光に集まっていく。
無数の人骨はそのまま大きな龍の形を形成した。
「……ほう、最後の足掻きというわけだな。まあ、関係ないが……」
そのガイコツで出来た龍は俺に向けて口を大きく開けて突っ込んでくる。俺は無間を振った。
先ほどガイコツの軍勢を蹂躙しつくした刃が奔流となって、無間から飛び出てくる。俺の攻撃はそのままガイコツの龍を呑み込み、辺りには何も残らなかった。
「ふむ。足止めくらいにはなるんだな……余計な時間を使ってしまった。先を急ごう」
俺は広間を抜けて、先を急いだ。ミリアンに時間を与えるわけにはいかない。奴自体は、大したことないが、ツバキの言うように、切り札というのは気になる。あまり、うかうかしているわけにはいかないと思い、更に進んでいく。
そして、たどり着いた通路の先は階段だった。俺はそれを駆け上る。
……ん? 行き止まりだな。間違えたのかと思ったが一方通行だった。そんなはずはない。どうしようかと思ったが、とりあえず目の前の壁の切れ目を斬ってみた。
「うおっ!?」
突如、大量の水が降ってくる。俺は水流に巻き込まれないように地面に無間を刺して耐えている。
そして、水流が止まり、上から光が差してきた。どうやら日光らしい。俺はそこから地上へと出た。
辺りを見回してみる。何やら見覚えがあるな。
どうやらここは、俺がよく来ていた、噴水のある広場らしい。あれ、ということは……
そう思い、振り返ってみると、噴水が破壊されていた。
ああ、やっぱりか。破壊されていた、というか、俺が破壊したんだな、さっき。あの水は噴水の水だったか……。
事が済んだら、皆に謝って弁償しよう……。
「……さて、ミリアンはどこだ?」
俺は辺りを見るがミリアンは居ない。どうしたものか、と考えていると、
「居たぞ! あいつだ!」
と声が聞こえる。声のする方を見ると、何人かの冒険者や騎士たちが武器を構えて俺を指差していた。
「あいつが、ミリアン卿を討とうとした、逆賊ムソウだ!皆かかれ!」
そいつらは俺に向かってきた。まだ、呪われていた者達がこんなにも居たというわけか。
だが、先ほどまでと比べて目がおかしい。赤く、怪しく光っている。
「ハッハッハ!!! かかったな! ムソウ」
突如、ミリアンの声があたりに響く。その方向を見ると、ミリアンは何やら櫓のようなところに立ち、俺を見下ろしていた。そばには布で隠された何かがある。
わざわざあそこに上って、俺が来るのを待っていたのか。なかなか暇なことをする男だな。
「お、そんなところに居たのか……とっととてめえを斬って、この事件も収拾させるから、そこでおとなしくしてろよ」
俺の言葉に、ミリアンは笑いだす。
「ハッ! 何を言うかと思えば……。
よく聞け!こいつらに施した呪いの力を上げた! もう気絶ごときでは解呪できない。気絶していった者達も起こしておる! この街の呪いに掛かった者達全てがお前に襲い掛かってくるぞ!」
ミリアンは尊大気に手を広げながら、俺を嘲笑し続ける。
にしても、呪いの強化か。それは考えつかなかったな……。ふと、俺に迫ってくる奴らを見ると、その中にはロウガンも、リリーもエリーも、ハクビたちまでも居た。皆、目を怪しく赤く光らせて俺の方に駆けてくる。
俺は更に、向かってくる群衆に目を向けてみた。
……ふむ……ミサキやコウカンとリュウガン、屋敷に置いてきたツバキたちは居ないみたいだな……。少しだけ安心した。
更に言えばワイツ卿も居ない。ミサキ……上手いことやってんだな。
「何を笑っている!?」
俺が少し気を緩ませ、笑っていると、ミリアンががなり立ててくる。俺はミリアンを見上げた。
「ああ、いやすまない。……で、これがてめえらの切り札ってやつか?」
「ああ、そうだ!これも、私の切り札だ! “猛将”ロウガンをも支配するこの呪いは「憤怒」の呪い! 簡単には破らせないぞ!」
俺の問いに、ミリアンはそう言った。呪いにも種類があるのか……。俺がそんなことを思っていると、さらにミリアンは手を上げる。
「そして、私はさらなる力を手に入れるため、人間を辞めたのだ!!!」
ミリアンは、手の上に魔法陣を浮かび上がらせた。そして、魔法陣から出た光がミリアンを包んでいく。光が収まると、そこに居たのは、ミリアンの服を着て、杖を持った大きなガイコツだった。先ほどのガイコツの軍勢と同じく、胸のあたりに大きな赤い光が見える。
「この、魔導士の最高峰たるリッチになった私に 貴様は滅ぼされるのだ! 光栄に思え! そして……」
リッチ……よくは分からないが、先ほどよりも、ミリアンの魔力が上がった気がする。ただ、それでもミサキよりは少ない。人間辞めたミリアンがあの程度なら、ミサキは更に化け物なんだなと、改めてミサキの力に気付かされ、感心していた。
そんな中、ミリアンは再び、手の上に魔力を溜めた。そして、それを地面に向けて放つ。地面には大きく魔法陣が描かれ、そこから、ボコッボコッと先ほどのようにガイコツの軍勢が次々と姿を現す。
先ほどよりも多いな……。1000は居るんじゃないか?
ロウガンたち冒険者も合わせると、1300といったところか……。中途半端な……。
「この兵力! そして我が魔力! 「憤怒」の呪い! これらを以ってマシロを掌握した後は、世界に打って出る!」
ミリアンは俺に向かって、高らかに吠え、手を上げた。それを合図に、ガイコツの軍勢と、呪いに掛かった者たちが俺めがけて一斉に襲い掛かってくる。
ガイコツはともかく、他の奴らは斬るわけにはいかない。俺は無間をしまい、スキルも解除して、手に気を纏わせた。
そして、冒険者たちの攻撃を避けながら、ガイコツだけを斬っていく。
今回は切れ目……というか、胸の赤い輝きを斬っているので、再生はしない。ガイコツの方は大丈夫だ。
だが、問題は冒険者や騎士たち。一応、殴ったり、蹴ったり、投げたりして攻撃をやり過ごしているが、数が多すぎる。それに、吹っ飛ばしてもすぐに起き上がって俺に攻撃を仕掛けてくる。
チッ、面倒だな……俺が苦戦していると、ミリアンは挑発するように叫ぶ。
「フン! 最初のころの威勢はどうした? そのまま手を出せず死んでいくがいい!」
「てめえ……高いところで好き放題言いやがって!」
ミリアンに苛ついた俺は、何人かの冒険者や騎士たちを足場に、櫓の上に向けて、跳躍した。
すると、突然、何かが空中で俺に迫ってくる。それはロウガンと、ハクビだった。ロウガンは剣を、ハクビは爪を振りかざし、俺に攻撃を仕掛けてくる。
「死ね!ムソウ!」
「あの世で後悔してろ!」
すでに、強化された呪いで、俺のことすらも仲間としては思っていないらしい。普段向けてこないような怒り顔で、俺を睨みつけながら迫ってくる。
「どけッ! ボケがッ!」
―死神の鬼迫―
気絶するとまでは言わないが、動きを一瞬止めたハクビの腕を掴み、二人を纏めて蹴飛ばした。地面に向けて落ちていく二人に、心の中で謝りながら、上を向く。さっきので勢いがなくなって、俺も地面に落ちていった。再度、誰かを足場にして、跳ぶかと思い、辺りを見回す。
すると、今度は間髪入れずに、ウィズと、レイカ、そして精霊人の姉妹が俺に魔法を撃ってくる。俺は転がりながらそれを避けて、四人に迫ろうとするが、次々生み出されるガイコツどもが邪魔をする。
「死人はもう寝てろッ!」
俺はガイコツどもを斬ってまた、櫓に向かおうとする。しかし、突然足が動かなくなる。見ると、俺の足に、蔓のようなものが巻き付いていた。
「ムソウさん……捕まえました……」
ふと、エリーの声が聞こえた。声のする方を見ると、リリーとエリーが地面に手をついている。
どうやら、二人で精霊人特有の植物を活性化させる魔法を使っているらしい。引きちぎろうとしたが、その度に、新たな蔓が俺の足に巻き付いていく。
「チッ……やはり精霊人の魔法はすごいな」
「ムソウさん……私たちの目的のために死んでください」
「私も辛いけど……仕方ないのよね~……」
エリーとリリーはそう言うと、二人でまた、地面に手を着く。すると、そこから、木が生えてくる。木の先は鋭くとがっており、それが俺に向かって飛んできた。
「てめえら姉妹の為に、死ぬわけにはいかねえんだよッッッ!」
俺は足元に気を大きく溜めた拳を放つ。俺の足に巻き付いていた蔓は消し飛び、再生する間を与えずに、俺はその場から離れ、エリーたちの攻撃を躱した。
「剛掌波ッッッ!」
掌から木を撃ちだし、二人が生やした木を消し飛ばすと共に、そこらに居たガイコツもいったん、消し飛ばす。
再生に時間がかかっている今のうちに、ミリアンに近づこうとしたが、今度は冒険者や、騎士の者達が、襲い掛かってくる。
ただ……こいつらは、問題ない。普段から仲良くしているわけではないから、思いっきりぶっ飛ばせる。呪われているからか、騎士団も、昨日のような集団戦に特化した戦い方ではなく、各々がばらけて向かってくるので、何とも攻略しやすかった。
だが、どれだけ殴っても、蹴り飛ばしても、投げても、奴らはすぐに起き上がり、俺に向かってくる。このままだと埒が明かない。無間を抜いて、奴らの得物を斬り、少しでも無力化させようと思っていた時だった。
「なッ!?」
急に、再び俺の足が重くなる。また、エリーたちの魔法かと思ったが、今回は、再生したガイコツが数体、俺の足に絡みついていた。チッ……命の気配がほとんど無いから、気が付かなった。まして、この混戦状態で、足元に目を向けられなかったな。
そのガイコツを斬っても、すぐに他のガイコツが俺に絡みついてくる。身動きがとりづらくなっていくと、エリーとリリーによる、拘束魔法が、更にガイコツの上から、俺に巻き付いてきた。
それを合図に、ウィズとレイカが、火炎連弾を放ち、ロウガンとハクビが俺に斬りかかってきた。
「ムソウ……お前はお前の仲間によって、死んでいけえええっっっ!!!」
ミリアン自身は何もせず、櫓の上から高見の見物をしながら、高笑いをしている。絶対許せねえ……。
……止むをえん……こいつらを斬ろう……。斬れば動きは止まるだろう。その隙にミリアンに近づき、奴を殺した後、すぐに回復薬を使えば、あるいは……。
俺は無間に手をかけた。
その時だった。突然、空から何かが降ってくる。そして……
ガキンッ!
俺に向かってきていたロウガン達の攻撃が止まった。何事かと周りを見ると、ウィズとレイカの攻撃をミサキが、エリーとリリーの攻撃をマリーとリンスが、ロウガンの攻撃をコウカンが、ハクビの攻撃をツバキが防いでいた。
「ふう~~~、お待たせ! ムソウさん!」
俺が、ポカンとしていると、結界を張っていたミサキは笑顔を見せてくる。
そして、冒険者たちを押しのけながら、リンネが駆けてくるのが見えた。
「クワ~~~ン!!!」
リンネは俺達のそばまで来て、止まった。背中にはリュウガンと……何と、ワイツ卿が跨っている。
「済まぬ……ムソウ殿……」
いきなり来て、ワイツ卿は、何も知らない俺に頭を下げてきた。
……いつも思うことだが……。
状況がわからねえ!




