第57話―ミリアン邸での戦いが始まる―
今回は、ムソウ視点、ツバキ視点、リンス視点と話が進んでいきます
無間は輝き、普通の大きさの刀になる。それと同時に俺の力が漲ってくる。一回だけ使っただけで、極めてしまったこのスキルにはあといくつか、変化が加わった。
まず、俺の持っている普通のスキルが全て極めた状態になる。サネマサと同じような能力だが、俺の場合は、剣術、気功、武術の三つくらいしか戦闘向きのスキルがない。だから、実質この三つを極めた状態になっているということになる。
まあ、それでも充分なのだが……。
それから、俺に魔法が効きづらくなっている。魔法とはもともと、人族だけが使っていたものである。よって、人族が使う魔法を弱めているのではないかと、考えている。
具体的には、ミサキの使う、火球程度なら、何も感じないくらいか。今なら、魔法使い1000人の軍勢の中を、鼻歌を歌いながら、散歩できそうな感じだ。龍言語魔法だと、きついかも知れないが……。
EXスキルの変化については、あと、もう一つあるのだが、それはまた後だ。今ではない。
さて、俺は未だに驚愕の表情を浮かべる、ミリアン達に視線を向ける。揃いも揃って、まだ状況を理解できていないんだなと、呆れて、笑みを浮かべると、俺に苛ついたのか、ミリアンは震えながら、口を開いた。
「な……? いつからだ!」
「あ? 何がだ?」
「いつから、我々の計画に気付いたのだッ!」
「計画を知ったのはさっきさ……」
マリーとリンス、それにツバキがが死んだと思って、こちらが聞くまでも無く、勝手にべらべら喋っていたからな……。最終的には、王都にまで手を伸ばそうとしているとは思っていなかった。それほど、ロウガンとミサキを手中に入れたと思ったことが嬉しかったらしい。
「なんで呪われていないのよ!」
と、横から、俺に握手を求めてきた女が叫ぶ。
「ああ……やはり、呪いをかけようとしていたのか……テメエは俺が直々に手を下そう……」
「ヒッ!」
俺の返事に、女はおびえる。すると、今度はカリヴが口を開く。
「質問に答えろ! なんで呪いが効かない!? どこで俺達の計画を知った!?」
計画を知ったのは、ここだって言っただろうが……チッ……めんどくせえな……。
―死神の鬼迫―
「「「「「ゔっ!」」」」」
周りの奴らは俺の殺気に当てられ、ふらついている。俺はそのまま、ミリアン達に説明し始める……。
「……さっきも言ったように計画を知ったのは後だ。だが、テメエらの陰謀に気づいたのは今朝。明らかに皆の様子がおかしいし、テメエら、ことを急ぎ過ぎなんだよ。何かおかしいって気づかない方が珍しい……。
そして、俺は仲間たちの話を聞き、ここまで来たというわけさ。一番良かったのは、原因が呪術であることを突き止めたミサキと、一昨日のワイツ卿の誕生日会でお前らの顔を覚えていた、ここに居るツバキだな」
俺はツバキに笑顔を向ける。ツバキもにこりと笑って頷いた。
「……ああ、そうだ。さっきのお前らの話を聞いて思っていたんだが、ミサキは呪いを受けていなかったぞ。握手も何もしてないんじゃないか?」
俺の言葉に、ミリアン以外の者達が目を見開き、そんな……とか、馬鹿な……とか言っている。
「お前ら一人一人が、他の誰かがやったと思っていたのか?
ミサキは誰にでもすぐ握手を求められたら応じる奴だからな。……まあ、それもあいつの良いところなんだが……」
ミリアンは忌々し気に他の奴らを見る。仲間が馬鹿だとあいつも大変だなとふと思う。俺には良い仲間ばかりで最高だ……。
「……ちなみに俺に呪いが効かないのは、秘密だ。まあ、喋って知ったところで、お前らは、俺に殺されるんだがな……!」
俺はそう言いながら、殺気を強めた。常人なら失神しそうなほどの圧倒的な殺気をうけてもなお、奴らは、意識を保っている。腐っても冒険者、もしくは、コイツ等も、殺意というものに慣れているのだろうな。
とは言うものの、苦しそうだ。このままだと、俺がすっきりしないまま終わるなあと思い、鬼迫を解いた。
ハッとして、武器を構えだすカリヴ達……。そして、俺達も武器を構える。
「これまでの償い……命を以って詫びろ!!!」
俺はミリアン達の方に突っ込んで行く。そして、懐からあるものを取り出した。
「マリー! こいつを使って自分の身を守ってくれ!」
それは以前、四神達と稽古をしたときに使った、ミサキの結界魔法、天岩戸が封じられている、魔道具だ。来る前に、あの赤い汁と共にくれた。
「ありがとうございます! ……えいっ!」
マリーは魔道具に、魔力を込める。すると、マリーの周りにだけ結界が張られた。以前、ジンランが使った時は、辺り一帯に大きな結界を張るだけだったが、今回はマリーだけを囲うように展開されている。
「すごいですね、マリーさん。こんな魔力操作……」
「これくらいは簡単です! 精霊人の魔法はすごいんですよ!」
リンスの問いかけにマリーはそう返した。流石だな。あれなら、マリーの身は大丈夫だろう。俺達は闘いに専念できる。
「ムソウ様! 我々は貴方の援護でよろしいですか!?」
「ああ! 俺はカリヴと、ミリアン、それにそこに居る俺を嵌めようとしたクソ女をぶった斬る! ツバキは援護、リンス! そいつは任せたぞ!」
「了解!」
「かしこまりました!」
「ムソウさん、お気をつけて!」
二人はそう言って、指示に従う。ツバキは俺の背後から、カリヴとミリアンに刀を振って、小さな斬波を乱れ撃ちする。そして、リンスは大剣を持っている、武術家風の、体格のいい男と対峙した。
よし、これでこちらの準備は整った。
俺は跳躍し、ツバキの放つ斬撃と共に、カリヴ達に斬りかかる。
「オラアアアッッッ!」
ガキンッ! と、無間とツバキの斬波が弾かれた。カリヴの前に結界が張られ、俺達の攻撃を防いだらしい。結界を張ったのは、どうやら、あの、女の魔法使いのようだ。
「よくやった! ビビ!」
ミリアンは体勢を立て直し、俺に魔法を撃ってくる。だが、今の俺にはかすり傷も負わせられない。
「な!?」
驚いているミリアン達に向けて、もう一度、無間を振りかざす。
「は! 無駄よ! 何度も弾いてみせ――キャッ!」
女は再度魔法を唱えようとしたが、何かに阻まれる。それはツバキだった。ツバキは瞬時に女に詰め寄り、当て身を食らわしていた。訓練の時から思っていたが、ツバキの動きは速いだけでなく、気配が分からない……。
「ムソウ様! 今です!」
ツバキは俺に向かってそう言った。
「ありがとな!……オラアッ!」
俺は無間を振った。刃がもう少しでミリアンに届くかというところで、カリヴがそれを止めた。
「ふん! 先ほどは多少驚いたが、ミリアンを殺させるわけにはいかない……」
カリヴは持っていた武器を振る。俺の一撃を受け止め、弾いたそれは大きな斧だった。ほう、カリヴとミリアンは、実の親子ではないか。……まあ、そんなことはどうでも良い。俺は、いったん距離を取って、無間を構え直す。
「よくやってくれた! カリヴ! ……私はこの隙に……」
そう言って、ミリアンは逃げ出した。
「てめッ! 待て!」
俺はそれを追おうとしたが、カリヴが前に立ちはだかる。
「行かせるわけないだろう……貴様は俺がこの「爆散斧」で、一撃で葬ってやる……」
カリヴは斧を構えながら、俺を睨みつけている。あの斧、無間による一撃を止めた。普通じゃない。何だろうと思い、鑑定スキルを使って視てみた。
・・・
爆散斧
ドラゴンキラー。斬撃と同時に爆発の効果を与える。太古の遺跡より発掘されたもの。価値金貨200枚。斬る度に血をすすり、力を強めていく、自ら成長する武具。別名「数多ノ命ヲ喰ライシモノ」。魔刀。込める気や魔力の量により、爆発の威力と範囲が広がる。
・・・
お、今の俺は鑑定スキルも極めているんだっけか。情報量がいつもより多いな。しかし、この武器、こんな奴が持っていていいのかよ。すげえ武器じゃねえか。
つっても、数多の命を食らってるってなら、俺の無間もそうだ。そこは重要じゃない。気を付けるべきは、衝撃と共に、爆発するというところか。どの程度のものなのか分からないから、何とも言えない。少し、本気を出した方が良いだろう……。
「やれるものならやれよ。テメエを斬って奴を追うだけだ……」
「減らず口は……そこまでだ!」
カリヴは斧を振り上げ俺めがけて下ろしてくる。俺はそれを無間で受け止めた。それと同時に、斧が爆発を起こす。
「はっ! 粉みじんに吹っ飛んだか?」
カリヴは俺を倒したと思い、そんなことを言っている。俺は爆発で舞っている土煙の中から、無間を振るった。
「な!?――」
そして、カリヴの首を斬る。
カリヴの首は吹っ飛び、胴体は血を噴き出しながら、ぐらりと倒れた。
意外と、爆発の威力は低かったな。本当は大したことの無い武器なのか、こいつ自体が弱いか……。まあ、後者だろう。
「……本当に一撃で終わったな。……さて」
俺は辺りを確認した。リンスの方はまだ戦っているみたいだ。ツバキも、女の使う魔法攻撃に苦戦している。
どちらかと言えば、リンスは余裕そうだ。流石、試験官だなと思い、女の魔法使いを倒すことを優先させる。
あいつは直接、俺を呪おうとしたからな……。
「待たせたな」
俺はツバキと闘っている、女の魔法使いの前に立った。女は驚いた様子でこちらを見てくる。
「なっ!? カリヴはッ!?」
「ああ。斬ってやったよ。……次はテメエの番だ!」
俺はそう返して、無間を振り上げ、女の魔法使いに攻撃を仕掛けようとする。その時だった。
「お待ちください!」
突然ツバキが、俺を止める。何事かと振り向くと、ツバキは冷静に口を開いた。
「ムソウ様は先を急いでください。……先ほどの会話の中で、ミリアンは「切り札」があると言っていました。
また、何かをしでかす前に、ムソウ様はミリアンを追ってください!」
むう……確かにそんなこと言っていたな……。この後、ワイツ卿を襲うための切り札があるとかなんとか。早めに何とかした方が良いのも分かるが……
「ふざけんな! こいつは俺を嵌めようとしたんだ! 俺はそんな奴を絶対に許せねえ性質なんだよ!」
落とし前はきっちりとしなくては俺の気が済まない……。俺は女の方を向きなおし、また飛び出ようとする。すると、ツバキに、肩を掴まれた。
「……ムソウ様、貴方のお怒りはわかります。しかし、マシロがこういう事態になって、私も怒っております。此度の騒動は貴方一人の怒りではありません」
「だから、俺がこいつを斬って、その後、ミリアンを斬れば問題ないだろうが!」
更に怒鳴る俺に、ツバキは息を大きく吐き、真っ直ぐ俺を見てきた。
「では、こうしている間にミリアンがその切り札を使ってワイツ様を討ったとしましょう。その後、ムソウ様がミリアンを斬ったとして、貴方の怒りは晴れますか?」
突然出た、ツバキの問いに、何も言えなくなる。……その言葉は、俺がデーモンの時に、ハクビに言ったセリフと、全く同じ意味を持っていた。
「……少なくとも、私の怒りは収まりません。領主を守れなかった悔しさを胸に、これからも生きていくでしょう」
「そ、それは……」
「ですから、ムソウ様は先を急いでください。そうなる前にミリアンを討つことが先決です」
「だが、テメエにはこいつは……!」
俺はそう言いかけて、ハッとする……。ついカッとなって言い過ぎた……。名前が一緒なだけに、俺の世界のツバキも、度々自分よりも強い相手に挑んでいたからだ。その度に、俺はツバキを説教していた。
だが、ここに居るツバキと、あっちのツバキは違う……分かっていたはずなのに……。
俺が気まずそうにツバキを見ると、ツバキは優しく微笑んでいた。
「……ムソウ様はそんな状態になってもお優しい方なのですね。
……大丈夫です。私の刀は、私も死なない。皆も死なない。その誓いのもと、握られておりますので……ですから、ムソウ様は早く行ってください」
ツバキは俺に背を向け、抜刀術の構えで、女に向き直る。俺はそんなツバキをジッと見ていた。
―姿も雰囲気も全く違うのに、こういうところは似ているな……―
「……まだ、私が勝てるというのを信じられませんか?」
ツバキは俺にそう言って、にこりと笑った。
俺はその顔を見て、安心した。やはり、名前が一緒なだけはあるな。アイツも、ここぞという時にはそう言って、いつも、俺を驚かせるような活躍をしていた。
……うん、大丈夫だ。ここはこいつに任せよう……。
「……すまない、ツバキ。俺はどうかしていた。怒りで自分を見失ったら終わりって、前にも教えられたのにな……」
そう言うと、ツバキはキョトンとした顔になる。
「それは……どの「ツバキ」ですか?」
目の前のツバキは意地悪そうな笑みを浮かべていた。
しまった……前のツバキと混同して、話してしまった……。
……すごく恥ずかしいな、こういうときって……。
「フフッ……ムソウ様のお仲間に負けないようにしなくてはいけませんね!」
「ああ……すまない。ではここを頼んだぞ! そして、俺の代わりに奴を頼む!」
「かしこまりました!」
ツバキの力強い返事に全てを任せた俺は、その場を離れ、ミリアンが逃げた方向に駆けていく。
「……では、参ります」
「はっ!かかってきなさい!」
後ろで、ツバキと魔法使いのやり取りが聞こえた。だが、俺は振り返らない。この世界でも、俺の背中を仲間が護っている。だから、俺は前に進めるんだ。
さて、切り札とやらを使わせないようにしなくてはな……。そして、必ずミリアンをぶった斬ってやる!
◇◇◇
……ムソウ様がミリアンを追って行く背中を見て、ひとまず安心しました。デーモンロードを倒すほどの方が、ここで暴れられては、大変ですからね。
ですが、これは私のことを信頼してくださったから。その期待に応えなければなりませんね……。
私が、ムソウ様とお会いしたのは、実は、昨日の鍛錬の時からでは、ありません。
あれは……私が、この街の門を守護する任に就いていた時でした。ボロボロの着物を纏い、大きな刀を背負ったムソウ様が、夜、詰め所にやってきて、
「宿に泊まる金が無い。ここらで寝てても良いか?」
と、言ってきたのは、しっかりと覚えています。最初は、本当に不審者かと思いましたが、腕を見ると、ギルドの腕輪を着けていて、冒険者だとわかりました。
なのに、無一文というのはどういうことかと思いましたが、そこに居た、同僚の方々と相談し、二日ほど詰め所の倉庫に泊まらせました。変わった人間だなと思ったのが、初対面での印象です。
しかし、後日師団長から、その冒険者からお礼をいただいたと聞いた時は、見た目は、粗暴そうな方でしたが、きちんと礼節を心得ているということを知り、私は驚きました。
騎士というのは、その街で困っている方が居れば、手を差し伸べる存在。それが当たり前のことだと思ってはいたのですが、あれくらいのことで、金貨を渡してきた、あの冒険者は一体何者なのかと興味を持つようになりました。
そして、師団長から聞かされた、ムソウ様のご活躍。悪政を敷く、ロイドという貴族から、精霊人を護ったこと、たった一人で、数百のワイアームの群れを殲滅し、ヒュドラを討伐し、更に、十二星天のサネマサ様と手合わせをして、勝利するという“規格外”の力を持っていること。私達は、とんでもない男を倉庫に泊めたと笑っていました。
それからしばらくして、デーモン討伐への参加。帰ってきたムソウ様たちを見て、安心しました。
少しだけ、変なところはありますが、心根は素晴らしいお方だと思っております。
そして、ムソウ様は、どうやら、違う世界から来た迷い人、それも、十二星天と同じく、強力なEXスキルを持つお方……。ですが、十二星天の皆様と違うのは、私達の前に立つのではなく、私達と共に、困難に立ち向かっていく方です。
ムソウ様は、元の世界に、「ツバキ」というお仲間も居たようで、時々、私をその方と混同されているみたいですが、今のように、私のことも、信頼してくださっていますので、嬉しい限りです……。
さて、ムソウ様が去って、私は改めて、敵に向き直ります。
すると、こちらの方も、ムソウ様を目で追い、姿が消えると、安心したように、余裕の笑みを浮かべながら、私を挑発してきました。
「あはっ! あの男を行かせるのは、失敗だったんじゃないの~?」
「行かせて良かったのですよ。あなた方の一人を倒すほどの腕前なんですからね……
まあ、先ほどの方がムソウ様を倒せるほどの実力を持っていたとは思えませんけどね……」
ここに居る方たちは、恐らく腕は大したことが無いはず。自身があるのなら、呪いなんて使わないと考えています。現に、ムソウ様は一撃で、カリヴを倒しました。
そう思っていると、目の前の魔法使いの女性の目つきが鋭くなり、手を上げて魔力を込め始めます。
「……よくも、カリヴを侮辱したわね……許さない」
女は怒りの形相でなおも魔力を込めます。恋仲とかだったのでしょうか。悪いことを言ってしまいましたね……。
ですが、魔力を込めている今がチャンスです。その隙を狙って、私は女に近づき、刀を抜きました。しかし、またしても、ガキンッといって、刀は障壁によって阻まれてしまいます。
どうやら、相手の障壁は魔道具か何かを使っているようです。向こうは先ほどから、単発ずつしか魔法を撃ってきています。ならば、そこまでの魔力は無いはず。同時詠唱とは考えづらい。
私はそう思い、女の周囲を注意して見た。すると、足元に何か宝珠のようなものが置かれていることに気付きます。
恐らく、あれですね。ムソウ様がマリーさんに渡していたミサキ様の魔法を封じた魔道具もあのような形でした。つまり、あれがある限り、私の攻撃は女には届かない。
そんなことを思っていると、
「なにボケーっとしてんの? これでも喰らっときなさい!」
女は出来上がった、大きな氷塊を飛ばしてくる。……女の周りの障壁は女の攻撃は通すみたいです。自分の攻撃は通しつつ、相手の攻撃は防ぐ。何とも、騎士団に欲しい魔道具ですが、これならば、何とかなりそうな気がします……。
私はその氷塊を躱して、女に刀を向けました
「その程度では私を倒せませんよ。もっと大きな攻撃でないと駄目ですね……」
私が女を挑発すると、簡単に女は乗ってきました。
「……そこまで言うなら見せてあげる。私のとっておきを!」
女は両手を上げて魔力を込め始めます。先ほどまでとは比べ物にならない量です。
そして、女の頭上に大きな六面体の氷塊が現れました。どうやら、とっておきというのは嘘ではないようです……。私の立つ場所まで、冷気を感じます。
……ですが、なんでしょうか……。昨日、ムソウ様と手合わせしていただいたり、ムソウ様と師団長二人を相手にした時の方が、もっと身震いが止まらなかった気がする。
やはり、あの方は私の想像の遥か上にいらっしゃる方なんですね……。
何となく可笑しな気持ちになり、息を大きく吐き、女の攻撃に耐えるため、気を全身に纏わせた。
「あなた、これで終わりよ。せっかく心に決めた人が居るのに、残念ね……」
魔力を溜め終えた女が私にそう言いました。
ああ……そう言えば、一昨日の警護の時に、ミリアン達にそんなことを言いましたっけ。確か、あの場にこの人たちも居ましたね……。
あれは、ああいう輩を巻くためによく言う方便なのですが……。そんなこと言われても、特に何も思わないです……でも……今は違うか。
「ええ……そうですね。ですが、私は騎士。
この街を護りきるまで私は死なない、皆も死なせない。もちろん、私の愛するお方も……私の刀はそういう刀ですから」
私は刀を納刀した。サネマサ様から教えていただいた、「居合」という技の構えをとり、女に向けて、走っていく。
「玉砕覚悟~? なら、そのまま死んじゃえ! 呪氷圧撃!」
女はケラケラ笑いながら、氷塊を私に向けて撃ってきます。私は刀に手をかけ跳躍し、その氷塊に向けて突っ込んで行きます。
そして、体を回転させ、その氷塊を躱しながら、障壁の中へと入った。
攻撃をすると同時に障壁に穴が開くなら、そこを目指して、私が通り抜ければいい。
ですが、その氷塊の冷気はやはり凄まじく、気を纏っていても、私の体の、氷に近い箇所を凍らせていく。そして、私の刀を握る手も凍っていきます……。
「あぁ! ……ぐッ!!!」
私は歯を食いしばり、凍傷による痛みに耐えます。
ムソウ様は、私を信じてくださいました。自分の代わりにこの女を私が斬ることを!
人を斬ったことが無いという私のことを、最後の最後で、頼ってくださいました。
……でしたら、私はムソウ様のために……
「よ……ようやくこの結界の中に入れました。これで、あ……貴女を斬れます!」
私は目を見開き、驚いている女に抜刀し、胸を切り裂きました。
「抜刀術・鬼蜻蛉ッッッ!」
「ぐあっ!?」
女の胸から血が噴き出し、女はそのまま、胸に手を当てて倒れていきます。
私は、刀の血を払い、納刀した。私の手は凍っていて、柄に張り付いている。私が力を込めて、手を放すと、皮膚も肉も裂けて、私の手が刀から離れた。
「な……なんで……この私が……」
倒れている女は、そう呟いている。斬られたのに自分の負けが信じられないようですね……。
そして、これが、人を斬るという感覚。魔物と違い、同じ種族の生き物を殺めるということに、やはり、少しばかり抵抗感はあります。
しかし、私を殺そうとしていた以上は、魔物もこちらの女も同じ。慈悲はありません。
……それに……
「……貴女の敗因は、私を甘く見たこと。
……そして……私の愛する方を嵌めようとしたことです……そのことをあの世でずっと後悔してください」
私は、手に包帯を巻きながら、息絶える女の元を去っていった。
さて……私はお役目を果たしました。リンスさんは、ご無事でしょうか……?
◇◇◇
ムソウさんがツバキさんの所から移動していくのが見えました。ところどころ、話し声が聞こえてきますが、私のこと、忘れていませんよね?
確かに私は「副」支部長として、勤務していることが多いですから、支部長と比べて影が薄いと言われがちです……。
「何、よそ見してんだっ!?」
おっと、そんなこと考えている場合ではありませんでした。私、ただいま、交戦中でしたね。……しかし、私の相手もこれまた……。
冒険者の一団としてのリーダーっぽいカリヴと、ムソウさんに直接呪いをかけようとした女に比べて、この方もまた、ムソウさんの眼中にはなかったみたいですね。
地味な私から見ても、地味ですもの。
私は男の持つ大剣から繰り出される攻撃を細剣でいなしています。
……どうやら、この方たち、実力はそこまで高いというわけではないですが、持っている武具や道具はかなり希少で、高い能力を持つものばかりみたいですね。ムソウさんに斬られたカリヴが持っていた斧もそうでした。
魔刀級のものを繰り出してくるとは思わなかったです。そして、ツバキさんの相手の女が持っている宝珠もそうですね。ムソウさんの攻撃を弾くだけでなく、女の攻撃は通すという攻防一体型の障壁魔法を封じ込めた宝珠なんて聞いたことがありません。
ちなみに、私の相手の大男のもつ大剣も、どうやら、名刀の様です。なんでも「腐尽剣」といって、斬った相手の肉を腐らせるという追加効果を持っているようです。
腐ってしまっては、回復魔法も、回復薬も効きづらくなりますからね。私も斬られたらお終いですね……。
……まあ、斬られたら、ですけど。先ほどから私の相手の男は、大振りで大剣を振り回すだけで、すぐに狙いが分かってしまいます。狙われているところが分かっていれば、武器の物量の差など意味を持ちません。私は彼の攻撃を躱したり、いなしたりして、防いでいます。
「どうした、どうした!? テメエは攻撃すらできない腑抜けなのか?」
などと、言いながら、意味のない攻撃を繰り返してくる男。正直、こんな男に付き合うのは疲れます。ギルドの試験なら、初級から頑張れ! というところなのですが……。
「はあ……しかたありません」
私は、思いっきり大上段に構えている男の喉元に、細剣を向け、刺さない程度に触れさせます。
「うっ……!?」
「そのまま、動かないでくださいね。動くと刺しますので……」
私は男の動きを封じ、更に続けます。
「あなたの技は全て見切りました。……もう、貴方の勝ちは無いです。しかし、貴方も負けなくて、私も勝てない、いい方法があります。知りたいですか?」
私の言葉に男は、キョトンとした顔をして、
「何を言っているのだ? そんな方法あるわけないだろう」
とか言ってきます。なんと……武術だけではなく、頭も悪いとは……。私は思わず頭を抱えてため息をついてしまいました。
「はあ~……分からないのでしたら、お教えしましょう……降参しますか?」
「なっ!?」
男が驚いた様子で、私を見てきました。……本当にわかっていなかったようですね。
「何を驚いているのですか? 私にあなたを殺す理由は特にないです。ならば、貴方を捕らえ、情報を聞き出したうえで、その見返りとして、貴方を見逃すまでのことですよ」
私がそう説明すると、男は剣を下した。
「ほ、本当か!?」
「ええ、もちろん。情報は時として、大いなる武器になりますからね」
私も武器を離しました。男は、安心しきったのか、顔に、笑顔を浮かべてきます。
「いやあ~、そうか。なら、俺はアンタについていく! 俺もここで死にたくはないからな」
男は笑って、私の誘いに乗りました。
「そうですか。では、一応縄をするので手を……」
私はうなずき、差し出された男の腕に縄を結ぼうとしました。
ザシュッ!
突如、私をめがけて、男が下段から大剣を振るいました。そして、私の左腕をかすめます。
「ハハハ! 誰が命乞いなどするものか!」
そう言って、男は私を嘲笑の眼差しで見てきます。
「こっちも死ぬ気でやってんだ! そんな誘いに乗るか、ばあか!
そして、ついに斬った! お前はその傷口から腐って死んでいくんだ!」
男は何やらそんなことを喚いています。
私はまた、ため息をついて、男を見ました。
「やれやれ……頭は悪いなと思ってはいましたが、目も悪いとは……」
「ハッ! 減らず口は死ぬまで直らねえみたいだな!」
私の言葉に男はそう返します。まったく……本当に、よく見て欲しいものです。
私は、左袖をちぎりその中を男に見せました。そこにあったものを見て、男は何やら驚いている様子です。
「き、貴様! その腕は!?」
それは、肩から指先に至るまで、銀色に輝く腕。人間の柔らかな皮膚は感じさせず、鋼のような重厚さと、強固さを感じさせます。先ほどの剣でどこを斬られたのかも定かではないほど、傷一つついていません。
「見ての通り義手です。支部長からいただいた、クレナの職人が作った最高級品です」
そう、私の左腕は義手です。昔、ある依頼で失った左腕……。それを、ロウガン支部長が馴染みの職人に頼み込み、作ってくださいました。素材に永久金属が使われており、強度も素晴らしいものです。
私は剣を構え、男ににじり寄ります。
「く、来るんじゃねえ!」
男はそう言って、大剣を振るってきます。私は男の腕に剣を刺し、それを止めました。男の手から、大剣がずり落ちます……。
「ぐ、があああ~~~!!!」
「騒がしいですね、全く」
「……ゆ、許してくれ! 騙すつもりはなかったんだ! 本当だ! ……つ、ついはずみでだな……」
男は痛みで涙目になりながら、私に命乞いをしてきます。体格に反比例し、心は小さいようですね。
……が、私は聞く耳を持ちません。
「……私はもともと、あなた方を許す気はありません。しかし、世界のために、貴方から情報を聞き出そうとしたのは間違いないです。
それがこの世界に必要だというのならば、私は私情を殺し、世界のために動きます。ですが、貴方はそれを反故にしました。ならば、私にとって、あなたはもう用済みです」
「た、頼む! 助け……てくれッッッ!」
「いいえ、助けません。
貴方たちは私の上司である前に大恩人であるロウガンさんを操り、ギルド内を混乱させました。
さらに私の愛する人をも呪い、実の姉と仲たがいするようにしました……私にはそれが……許せない」
私は剣を抜き、中段に構え、狙いを定めます。
私は、感覚的に敵の弱点がどこなのか何となくですが、分かるという特性を持っています。流石に、超級の魔物は無理ですが、上級くらいなら、一撃で仕留めてきました。
この男は……考えるまでもありませんね。私達と同じ、人間ですから。
……まあ、本質は魔物以上に、許せない相手でしたが……ね……
「私の大切な方々を奪った報いはきちんと受けていただきます」
「た、助け――」
そして、私は男の胸を一突きしました。ガクガクと震える男。だがそれも段々と静まり……。
男はそのまま絶命していきました……。
私は男から剣を抜き、鞘に納めました。
さて、と。こちらも終わりましたし、ツバキさんの応援にでも……と、思いましたが、ツバキさんも片が付いたようですね。こちらに歩いてきます。あとは……ミリアンとそう言えば、この屋敷にはもう二人ほどいましたね。
とりあえず、ミリアンはムソウさんに任せるとしましょう。
……ムソウさん、あれだけの啖呵を切ったのです。必ず、このマシロに災いをもたらした元凶に報いを与えてくださいね……。
ツバキさんの様子を見ると、女の魔法使いにやられたのでしょうか、体の至る所に傷を負っていました。特に右の手のひらが重症です。肉が裂けて、血がぽたぽたと落ちていました。私は回復薬を彼女に手渡し、傷を治します。
「ありがとうございます。リンスさん」
「いえいえ。貴女も無事敵を倒すことが出来たのですね」
「無事かどうかはわかりませんが……」
ツバキさんはそう言って笑った。傷も癒えて、大丈夫そうです。それに、ムソウさんが心配されていた、人を斬るということについても、問題なさそうですね。ひとまず、安心です。
私達がそんな会話をしていると、マリーさんが歩み寄ってきました。
「それで……これからどうしましょうか?」
マリーさんの言葉に、ツバキさんも、こちらに伺いを立てるように、私を見てきます。
あ……やはり、この場では、ギルドの副支部長である私を頼ってくださるようです。少し、嬉しいですね。
そんなことを言っている場合ではありません。私は思いついたことを二人に説明していきます。
「我々のできることは二つ。一つはこの屋敷に残る、あと二人も倒すこと。もう一つはムソウさんの救援に行くことです……どちらが良いでしょうか?」
私は二人に尋ねます。家の入口で遭遇した、あの二人はここにはいませんからね。女の方が目を覚まし、男と共に攻めてきたら挟み撃ちになってしまいます。
しかし、奴らがいう「切り札」というものも気になります。ひょっとしたら、ムソウさんの救援に行った方が良いのかもしれませんが。
私がそう考えていると、ツバキさんが口を開きました。
「ムソウ様でしたら大丈夫だと思います。あのお方は、とてもという言葉では足りないくらいお強いですから」
私とマリーさんは、彼女の言葉に思わず笑ってしまいました。
「確かにその通りですね。ムソウさんはどんな時でも、その圧倒的な力で全てを解決させてきましたからね」
「そうでしたね。ここで救援に向かっても心配損かもしれません。……では一度戻って、残った二人を倒すとしましょうか」
私が二人に言うと、二人は頷き、家の入口の方へ歩き出しました。
「……そう言えば、リンスさん?」
ふと、マリーさんがこちらを見ます。
「はい、なんでしょう?」
「先ほどの、「私の愛する人」について、後で聞かせてくださいね」
マリーさんはにこり悪戯っ子のような顔をしてそう言ってきました。
……やってしまいました。つい、私も敵が許せなくて、口走ってしまいました。いろんな人にバレると面倒そうだから、内緒にしようと思っていたのに……。よりによってマリーさんにバレるとは……。
「よ、よろしいですけど、支部長やエリーさんには内緒ですよ」
私は慌てて、そう言っておきます。噂というのは怖いですからね。ロウガンさんに伝わるのも嫌ですが、あの人に直接伝わるのだけはもっと嫌です。可能性を潰すといことも考え、一応、釘を刺しておきましょう。
私の言葉に、マリーさんは更に笑いながら、
「ということはリリーですね……分かりました。もう大丈夫ですよ」
と、言いながら、何か企むような顔をする。
……また、やってしまいました。マリーさんはこういうことに関してはすごく勘の働くお方です。いえ、今のは私の言葉に大きな問題がありましたね。
……そうです。私はリリーさんのことを密かに想っていました。彼女の……なんと言いましょうか……公私ともに、裏表のない様子が、私にとってはすごく魅力的に感じるのです。
他の人は微妙そうな目で見ていることが多いですが、そんな彼女を見ていると、私も楽しくなって、いつしか、彼女のことを好きになっていました。
「ほ、本人には絶対内緒ですよ!」
「さあ~どうしましょうかね~」
私の言葉にマリーさんは嬉しそうに鼻歌を歌いながら、そう返してきました。
……今後はマリーさんの頼み事は断らないようにしましょう。というか、断れそうもないです……。
「……お二人とも、先を急ぎますが、よろしいでしょうか?」
ふと、前を歩いていたツバキさんが振り向いて、私たちに問いかけてきました。
「あ! すみません。今行きます!」
マリーさんは、そう言って、駆けだします。私もその後を追いました。
まあ、内緒にしておくことの方が疲れますからね。これで良しとしましょう。見た感じですと、マリーさんも悪い気にはなっていないみたいですし……。
全て終わったら、リリーさんとお茶でもしましょうか……。
なんてことを思いながら、私は二人の後を駆けていきました。
次回は再び、ムソウ視点です。




