第53話―状況が分かってくる―
この二日間のロウガン、リリー、エリーについては取りあえず、ワイツ卿の誕生日会で、例の権力者とやらに何かされた、というところで話は落ち着いた。
「……だが、分からないな。なぜ、マリーさんを陥れようとしたのかな?」
俺が二人に聞くと、二人も首を傾げて考え始める。
マリーは、俺も良い奴だと思っている。……というか、嫌いな奴なんて居ないんじゃないか、というくらい出来た人だと思う。だからこそ、謎が深まっていくな……。
別の考え方をしてみるか。マリーに焦点を当てすぎると、分かるものも分からなくなっていく。
さて、今の状況は、マリーはギルド全体……リンス以外の奴らに嫌われている。そうすると、マリーはギルドを去ることになるな。マリー自体がそう言うようになっていたし……。
そうなれば、次はリンスか? 話を聞く限りでは、おかしくなっていないのは、冒険者、職員合わせても、ギルド内ではリンスくらいだからな。仮に、リンスがギルドを去るような結果になったとしようか。加えて、俺は何も知らない状況というのも考えておこう。
そうなると……あれ? ……やばそうだな……。
「……ひょっとして……まあ、敵というものがあると考えると、その敵はマリーじゃなく、ギルドそのものを狙っているのかもしれないな」
二人は俺の言葉を聞いて、きょとんとしている。わかってないみたいだな。俺は考えていたことを二人に説明した。すると、二人の表情が青くなっていく……。
「……では、マリーさんが辞めると?」
「俺が敵だったら、ギルド内でおかしくなっていない奴を探して、そいつもおかしくさせるか、今回のマリーのように、立場を無くさせるように仕向ける。
……ああ、そっちの方が楽だな」
リンスは頭を抱え、項垂れる。これでも副支部長だからな。俺の考え通りということになれば、ギルドの大半を敵に責められているという事実は、結構堪えられないものらしい。
「……もし、私がこのまま親御さんの所に行くとどうなりますか?」
震える声で、マリーが聞いてきた。
「……まあ、もっとやめるように仕向けるな。慰謝料が足りないとか、謝罪の気持ちが伝わらないとか言って。
精霊人の集落を人質にとって、やめないとどうなるかわからんぞとか言って脅してくるのも考えられる。そいつは、ワイツ卿の次に、マシロ領で権力を持っているのだからな。
……最悪の場合、慰み者にするか、確実にマリーさんをギルドから居なくさせるために……殺すな」
俺がそこまで言うと、マリーはおびえ始めた。すると、リンスが口をはさむ
「ムソウさん、嘘でもそんなことは……」
「いや、嘘じゃない。お前も見ただろ?
今日のリリーとエリーを。あの様子じゃ、マリーさんの首だけになったところを見ても、あいつらはなんとも思わないだろうよ」
マリーとリンスは青い表情のまま、無言で俺の話を聞いている。むう……少し刺激が強かったか?
だが、今の状況を、「まだ何とかなる」という心持ちではダメな気がする。「もう遅い」という覚悟を持って貰わねばこの先、もっとひどいことになったら、心がくじけてしまうからな……。
正直、俺も辛いが、許してくれ、2人とも……。
「さて、敵が俺の考えているような奴なら、そろそろ……」
俺がそう言った時だった。突然、荒々しく戸を叩く音が聞こえた。
「おい! マリー! それに、リンス! 居るんだろッ! 出て来い! もう逃げ場は無えぞ!」
外からはロウガンの怒鳴り声が聞こえる。……ああ、やっぱりか。案外早かったな……。
リンスとマリーは何が何だかわからないという表情で物陰に隠れている。そして、小声で俺に話しかけてきた。
「……どうなっているんですか!? ムソウさん!」
「思ったよりも早かったな……。だが、これで、敵は居るという仮定の話は、確定のものとなったな……」
俺が真顔で落ち着いて、そう話すものだから、リンスが驚いた表情になって俺の肩を叩いている。
「落ち着いて分析してる場合ですか! 僕たちはどうすれば!?」
「慌てんな。こういう時こそ、落ち着いて対処しろ。……リンス、マリーさん、ちょっとそこに隠れていろ。絶対、声を出すなよ……出したら斬るからな」
俺がそう言うと、指差したところに二人は移動し、口を手で押さえた。そして、リンネに頼んで、二人が居ないように、部屋の風景を幻術で変えていく。これなら、二人が声を発しない限り、ここに居るということが、ロウガンにはバレないだろう。リンネにも、声を出すなと言って、俺は戸に近づいていく。
「おいこら! 出て来いって言って―」
ロウガンがそう言い終わらないうちに俺は戸を開いた。すると、刀が降ってくる。ロウガンは戸が開くと同時に刀を下ろしていたみたいだ。だが、ロウガンは俺だと気づいて、刀を止めた。
「……チッ、危ねえな~! 何しやがんだッ、テメエッ!?」
「ム、ムソウ、何でお前がここに!?」
「マリー引きずり出して、謝りに行くって言っただろうが! 何、言ってんだコラ!」
ロウガンの問いにそう答えながらも、俺は周囲を見ていた。ロウガン以外にも大勢の冒険者っぽい奴らや、何人かの騎士の姿も見える。
「そ、そうだったな……」
普段は見せない剣幕に、若干の殺意を込めた俺の様子に、ロウガンは少しドキリとしながらも、頷く。
「ここには、もう居ねえ! あのアマ、リンスと一緒に逃げやがった!」
俺がそう言うと、部屋の前に居た奴らは慌て始める。
「本当か、それは!?」
「……ああ。急に飛び出してきたと思ったら、リンスと共に俺を張り倒して向こうの方に走っていきやがった。クソッ!」
俺は忌々し気に壁を殴る。少し力を入れたからな。壁は少し砕けた。……後で修理費は出すよ、マリーさん……。
俺がイラついているのが分かると、ロウガンと周りに居た奴らは俺を信じてくれたみたいだ。俺が指差した方向に駆け駆け出していった。
「おい、ロウガン。状況を説明しろ」
「ああ、分かった。正式にお触れが出たからな。この街の権力者である、デイヴ・ミリアン殿の実子、カリヴ・ミリアンを危険な依頼に行かせ、失敗させ、傷を負った彼に対し、違法とも言われるやり方で違約金の取り立てに行ったマリーと、それについていき、怪我をしたカリヴ及び、家の女中達に暴行を働いたリンスの身柄拘束の要請があった。ムソウ……二人は見つけ次第、拘束、若しくは……斬れ」
おお、話をここまで大げさにしてくるとはな。何気にリンスも加わった。俺の考えはほぼ確定じゃねえか……。
だが、敵の大元っぽい奴は特定できたな。しかし、斬れとはまた実力行使が過ぎるな……。俺ならもう少し泳がせるが、そこまでは頭に入っていないみたいだな。
何を焦ってんだ……?
「おい、ムソウ! 聞いているのか!?」
……と、考えていた俺にロウガンは怒鳴った。
「あ? いちいちうるせえな……苛ついてるときにいちいち怒鳴ってきてんじゃねえ……」
半分本音を撒きながら、無間の柄を掴む。殺意を更に強めると、ロウガンは慌てて謝ってきた。
「お、す、すまねえ、ムソウ」
「ったく……街からはまだ出てないのか?」
「そのようだ。騎士達からの連絡はない。まったく、コウカン殿が非番の時に限ってこれだ……」
お、またいいことを聞いた。コウカンはこの騒動に加わっていないみたいだな。
「……よし、分かった。俺も二人を見つけたら対処してみせる。気をつけろよ、ロウガン」
「おう、任せとけ!」
そう言って、ロウガンは俺に笑って、皆のあとを追うように出ていった。
ロウガンが離れていく所を確認し、俺は部屋の中に戻る。
「……ふう。もういいぞ、二人とも、リンネ」
リンネが幻術を解き、二人の姿が露になる。様子を見ると、膝を抱えて、落ち込んでいるようだ。
「……うぅ~……指名手配だなんて……」
「駄目だ……終わりだ……」
いい歳した大人がここまで落ち込むのは見るに堪えないな……しょうがない。
「リンネ、頼む……」
「キュウッ!」
リンネは頷き、二人の肩にそれぞれ跳び、頬をポンポンと叩いて慰めている。二人はありがとうとか言いながらリンネの頭を撫でた。少しは元気になったようだな。
「……さて、お前ら。あんまり落ち込むんじゃない。今はまだ、俺も居る。安心しろ」
俺がそう言うと、二人は目を輝かせて、顔を上げる。
「それに、面白い情報も聞き出せたからな。解決へ一歩前進だ。むしろ喜べ」
「ええ、そうですね。しっかりしないといけませんね」
俺の言葉にリンスは頷いた。そして、これまでの一件に何か裏があることを確認したマリーも、
「私も頑張ります!」
と言って、いつもの調子に戻ったようだ。本当に世話のかかる姉妹だな……。
「……さて、ではロウガンとの会話だが、お前たち聞こえていたか?」
「はい。ミリアン殿のことですね?」
「ああ、そうだ。マリーさん、間違いないか?」
「間違いないです。例の冒険者はの親は彼です」
「ふむ。では、リンス。そのミリアンとかいう奴が誕生日会に出席はしていたか?」
「していたかどうかは私は行っていないので定かではないですが、出席予定者の欄にはありました」
「なるほど。では本丸はそいつとみて間違いないな」
取りあえず、ミリアンって奴が、何か知っているということは明白だ。お触れを出して、街全体に、マリーとリンス包囲網を作り上げているのだからな。
そして、さっきの様子を見るに、ロウガンなどギルドの職員だけでなく、冒険者や、騎士の一部もおかしくなっているということには気づいた。手が付けられなくなる前に、俺も早いところ動いた方が良いだろうな。
「……それで、これからどうします?」
「とりあえず、騎士団のマシロ師団長、コウカン殿は動いていないみたいだな。まあ、昨日の時点で何かおかしいところもなかったし。というわけで一度接触してみることとしようか」
コウカンの性格だと、こういう状況なら、非番でも出てくるものと思っている。ギルド支部長であるロウガンが直々に出ているほどの、街の危機だからな。家でゆっくりとしている彼ではないだろう。
ただ、コウカンは昨日の時点ではどこもおかしな様子は無かった。訓練中も二人のことはまったく話していなかったし、何より、カリヴって奴のことも一言も言わなかった。コウカンは、おかしくなっていないと考えても良いだろう。
マリーとリンスも俺の提案に頷く。
「それはいい考えですね。味方は多いほうが助かりますし……では、早速、コウカンさんの家に向かいますか? 場所は私が分かります」
「おお、そうか。だが、それはまだいい。その前に、おかしくなったのがロウガン、リリー、エリーの三人だけなのかどうなのか確認する必要がある。周りの奴らはロウガンの指示についてきているというだけという可能性もあるからな……」
「なるほど……で、どうするんです?」
「アイツの力を借りるほかないな。おそらくこの街で一番それが出来そうだしな……」
「アイツ……とは?」
マリーの言葉に俺は笑って見せた。俺が今の状況で一番頼りにする人物など一人しかいないだろう……。
リンネは誰なのか、気づいたみたいだ。俺の肩の上でぴょんぴょんと跳ねている。
「“魔法帝”ミサキだ」
俺がそう言うと、二人の顔もパッと明るくなった。あれでも十二星天だからな。二人は、俺よりも頼りになると言った感じで嬉しそうだ……。
そういうわけで、俺達は、まずミサキと会うことを目標に部屋から出た。一応、二人には魔法防御の外套を被ってもらい、顔を見えなくさせた。そして、すぐに逃げ出せるように、大きくなったリンネに乗ってもらっている。
ミサキの家は、冒険者の管理上、マリーが知っているということなので、マリーの案内で向かった。
馬鹿だが、仮にも十二星天の“魔法帝”。ミサキ~、期待しているからなッ! 俺達はそう思いながら、ミサキの家へと急いだ。
◇◇◇
「へっくち! 誰か噂してるのかな……」
……なんて言っている場合じゃないのよね。
「出してください! ミサキ様~!」
「ミサキちゃ~ん、酷いよ~!」
「クソッ! ミサキ殿! ふざけるのも大概にしろ! ここから出すんだ!」
……今、私の目の前にはそう言って結界に閉じ込められているウィズ君とレイカちゃんとハクビさんの三人が居る。
……まあ、閉じ込めているのは私だけど。
「ミサキ殿! いい加減にしないとッ!」
三人の中でも、一番暴れている様子のハクビさんが、私の結界、「天岩戸」に攻撃を仕掛けてきた。それを皮切りに他の二人も魔法で攻撃をしてくる。
まあ、天災級の魔物の一撃も耐える私の最強の結界魔法。三人の攻撃は全然効かないけど……
「ミサキ様! 出してくださいって言ってるでしょう!」
「ミサキちゃんのばか~!」
「ミサキ殿! ここから出られたら覚えていろッ!」
怖いよおお~~~~~!!!
誰でもいいから、誰か助けてえええ~~~~!!!
◇◇◇
さて、俺達は、マシロの町中を歩いている。
マシロの町の様子はというと、マリーとリンスの人相書きがあちこちに貼られていて、冒険者や、騎士の連中が行方を追っているみたいだ。住民はほとんど居ない。何しろ、例の権力者……ミリアンだったか? その家の者を襲ったという話になっているみたいだからな。危険な奴らが、この街のどこかに潜んでいるということで、戸にかけて、家の中に避難しているようだ。
一度は元気を取り戻した二人も街の様子を見て、流石に愕然としているようだ……。
俺達が歩いていると、何人かに声をかけられたが、なんとかごまかすことは出来た。ちなみに、二人は俺が最近知り合った冒険者の知り合いで、二人ともひどい火傷の跡が顔に残っていて、他人に見られたくないのでそっとしておいてくれということにしている。
不信感をあらわにされたり、最後まで疑いの目で見てくる奴には、
「あ゛? 何か問題があるか……?」
と、無間を握りながら死神の鬼迫をぶつけると、皆信じてくれた。おかしくなっていても、俺の言うことは聞いてくれるようで、本当に、ありがたい。
さて、街に居る奴らの顔色を見る限り、やはり違和感はあった。なんというか、何故そこまで本気になって探しているんだ? と、普通なら聞きたくなるような形相だ。皆、血眼になって二人を探している。
ちなみに、騎士の中には、コウカンを始め、昨日俺が知り合ったリュウガンも、ツバキも居ないみたいで何となく安心した。あいつらまでおかしくなったら、どうしようかと考えていたが、杞憂になりそうだ。……いや、まだおかしくなっていないだけ、ということも考えられるな。やはり、コウカン達に接触するのを早めた方が良いか……?
などと考えているうちに、見たことのある建物の前に着いた。デーモン討伐の折に、ミサキが出した家だ。
ようやく着いたみたいだな。俺はミサキに会おうと、戸に手をかけようとした。すると……
「クウウウゥゥゥ……!」
リンネが唸り出した。何かあるのか? と尋ねようとした時だった。突然、
「だ~れ~かあ~!助けてええええ~~~!」
と、中から、ミサキの叫ぶ声が聞こえてきた。俺達は顔を見合わせ、戸を開けた。
そこで見たのは、ミサキが、ウィズ、レイカ、ハクビを結界の中に閉じ込めているところだった。三人は思い思いに攻撃して、結界を破ろうとしている。ミサキは半泣きだ。
呆気に取られていると、
「あ! ムソウさ~~~ん! それに……リンネちゃん!? 大きくなったね~! って、そんなことより、助けて~~~!」
と、ミサキが助けを求めてきた。いきなりの展開で訳が分からない。
「なんだ!? 何が起きてる?」
「説明は後でするから! ねえ! どうにかしてよ~!」
ミサキは俺にそう訴えかけてきた。どうにかと言われても、どうしようも出来ない。リンネも二人を背負っている以上、上手く動けず、俺の方を見てきた。
ひとまず、状況の確認ということで、リンネを制し、どうしたものかと思っていた。
「ん!? ムソウか!? ちょうどいい! 私達をここから出させてくれないか!?」
俺に気付いたハクビがそう言ってきた。結界を斬れと言っているらしい。そんなことを言われても、訳が分からない。説明を求めても、ハクビは怒鳴り散らしながら、結界に拳を当てたり、爪で引き裂こうとしていた。
「ウィズ! 何があった!?」
ハクビは駄目だなと思った俺は、とりあえず、こんな状況でも落ち着いて説明できそうなウィズに説明を求めた。……だが、
「説明は後です! 俺達をここから解放してください!」
おお……なんてことだ……ウィズがあの様子じゃ、どう頑張っても無理だ……。俺が愕然としていると、
「私達ね! 早くここから出て、悪い人たちを捕まえるの!」
と、レイカが言った。ん? ひょっとして……
「おい! レイカ! 悪い人たちというのはこいつらか!?」
俺はそう言って、マリーとリンスの外套をとった。すると、攻撃を辞めて、こちらを向く三人。
そして、しばらく沈黙。ミサキも俺の方を見ている。俺はミサキに結界を張ったままにするようにと、合図を送った。すると、ミサキは何かを察したのか、コクっと頷いた。
次の瞬間、
「そいつだ! ムソウ! そいつらを斬り棄てるんだ!」
「おじちゃん! やっつけて!」
「ムソウさん! お願いします!」
結界に寄ってきて、三人はリンスとマリーを指さしながら叫ぶ。三人の言葉を聞いて、目を見開くミサキ。そして、俺の方を向いた。
……チッ、どうやら、三人もどこかおかしくなっているようだな。
さて、どうするか……。先ほどのロウガンたちの様子を見る限り、リンスとマリーが居る以上、こちらの話を聞いてくれそうな雰囲気はない。かと言って、先ほどのように三人に俺が合わせるわけにもいかない。
……仕方ない。俺はゆっくりと無間を抜いた。そして、二人の方に向ける。
「……斬ればいいのか?」
俺がそう言うと、三人は口を開いた。
「ああ! ぶっ殺せ! ムソウ!」
「おじちゃん! そんな奴ら斬っちゃって!」
「一思いに斬ってください! ムソウさん!」
三人は俺に殺せ殺せと頼んでくる。
俺は二人を見た。二人は真顔になり、俺に頷く。マリーとリンスも、三人がおかしくなっていることには気づいたようだ。そして、俺がこれから何をするのか、察してくれたようだ。
二人の了承もとり、こちらを見ていたミサキの方を向いて、頷いた。ミサキも、俺の意図を理解したのか頷いた。……よし。
「……わかった。だが、確実に殺したという確認と証人がいるだろう。ミサキ、こいつらを解放してやれ。お前らもその方が良いだろ?」
俺が言うと三人とも強く頷いた。
「……わかったよ、皆。いちにのさんで開放するからね……」
そう言ってミサキは三人にニッコリと笑った。そして、俺に視線を移す。……上出来だ、ミサキ……。
「いちにの……さん!」
ミサキは合図とともに、結界魔法を解く。すると、ハクビ達は、俺が二人を斬ることを待たずに飛び出し、マリーたちに襲い掛かろうとする。
―死神の鬼迫―
俺は三人に対し、今までよりも圧倒的に強い殺意をぶつけた。すると、三人の力は抜けていき、マリーたちの前でパタッと倒れた。俺の殺意に当てられ、失神したみたいだな……。
俺達はふう、と胸を撫でおろし、安堵する。
そして、俺はぺたんと座り込んだミサキに近づき頭を撫でた。リンネも小さくなり、ミサキの肩に乗って、頬をポンポンとしている。
「よくやったな……だが、ウィズたちに対しては、こうするしかなかった……すまない」
「……気にしなくていいよ。弟子の不始末はししょーである私の責任でもあるからね……」
そう言って、ミサキはマリーたちに頭を下げた。マリーたちは慌てて、気にしなくていいですとか言っている。そして、ミサキは俺の方に近づいてきた。
「……で、何がどうなってるの?」
ミサキはまっすぐ俺を見て、そう尋ねてきた。
いつになく、真面目な表情のミサキに、これまでの経緯を説明すると、ミサキは俺達に先ほどまでの状況を語り出した。
今朝、皆で朝食をとっていると、戸を叩く音が聞こえた。
ミサキが出ると、数人の騎士が居たという。そして、例の人相書きを渡され、リンスとマリーの捕縛もしくは殺害を依頼されたという。ミサキは何事かと聞こうとしたが、騎士の奴らは、すぐさま移動して、話す余裕もなかったという。
念のためと思い、ミサキは三人にそのことを伝えた。すると……
「私が話した途端、皆、顔色を変えて、家を出ていこうとしたの。止めようとしたら、ハクビさんに突き飛ばされて……」
「突き飛ばされた?」
俺の問いにミサキは頷いた。変だな……。ハクビはミサキに時々呆れることはあるが、十二星天として敬っているようなところも何度か目にしたことがある。突き飛ばすだなんて……。
その時、ミサキも同じようなことを考えたらしい。そして、様子が変だと考えたミサキは三人を結界に閉じ込め、まずは話し合おうとしたという。だが、三人は聞く耳を持たず、攻撃してきたらしい……。
「……で、ムソウさんが来るまで、ああやって結界を張り続けていたってわけ。三人ともすごく怖かったよ~……。」
ミサキは項垂れている。魔法を使った疲れは特に無いが、豹変したウィズたちの様子に、精神的にまいっているようだ。それを見たマリーとリンネはミサキを元気づけているみたいだ。
「……なるほどな。ちなみに、ミサキは二人について、どう思う?」
念のため、俺はマリーとリンスを指さして聞いてみた。
「手配書と説明だけ聞いてもわけがわからないよ。二人はそんなことするはずないって分かってるからね」
ミサキは二人にニコッと笑った。マリーとリンス感動し、ミサキに頭を下げる。
「ありがとうございます。ミサキ様」
そう言われて、ミサキは若干照れている。ふむ、ミサキはどうやら本当に平常らしいな。
「……さて、ここに来た目的だが……」
「分かってるよ。ムソウさん」
そう言って、ミサキは真剣な顔になって俺を見た。
「皆の状態でしょ?」
「ああ。何かわかるか?」
「……残念だけど、鑑定スキルを使っても何もわからなかった」
ミサキは悲しそうにそう語った。ふむ……。ミサキでもわからなかったとはな。じゃあ、何が原因なんだろうと、考えるが、何も思い浮かばない。
そもそも俺はこの世界の住民ではないからな。俺が考えつくことなんてたかが知れてる。……こういう時、本当に俺は無力だな……。
「……ムソウさん? どうしたの?」
項垂れている俺を心配してか、ミサキが声をかけてきた。
「……俺は元々この世界の人間じゃない……何が原因なのかさっぱりだ……。こういう時、皆の力になれないのが悔しくてな……」
俺は自分が今思っていることを正直に話した。すると、マリーが俺の肩を叩く。顔を上げると、三人ともこちらをジッと見ていた。
「しっかりしてください! 貴方のおかげで、今、私たちは無事にここまで来れたんです!無力なんかじゃありません!
それに貴方は私の故郷と妹を救ってくださったじゃありませんか!」
「今はあなた一人じゃないんです。我々も居ます。考えついたことを皆で出し合いましょう。そうすればきっと答えが出てきます。大丈夫です。先ほどまでの展開はほとんどムソウさんの読み通り。
ムソウさんの推理力をもってすれば、このまま解決できるはずです!」
「ムソウさん! デーモンの時と一緒! この十二星天の一人、“魔法帝”ミサキちゃんも居るんだから、だいじょーぶだよ!」
三人は思い思いに俺を元気づけてくれた。そして、リンネが肩に上って、皆にやっていたように、俺の頬をポンポンと叩く。
……そうだな。一人でやろうとしたのが間違いだった。リンスもマリーも、先ほどまでに比べて、俺より元気になったな……。簡単なことだった。俺一人でわからなかったら、皆に聞く。いつもやっていたことだ……。
「……すまない、皆。おかしくなった奴らを見て、俺もどうにかなっていたようだ。……では、ここからは、皆の考えも聞いておきたい。良いな?」
皆は大きく頷く。
そして、皆で向き合ってこれからの対応を決める会議を始めた。




