第50話―騎士団に付き合う―
次の日、いつものように朝起きて、飯を食べた後、昨日と同じようにマシロの街の中を歩いている。とり合えず、散歩だ。……爺さんみたいになってしまったな。
今日もハクビは現れなかった。奴も歯ごたえのない討伐依頼ばかりなので、またミサキたちと行動でもしているんだろう……。
そう……今日も誘われなかった。昨日、似たようなことをしたし、採集依頼でも別に構わないのに……。皆は俺を、戦闘狂か何かと勘違いしているみたいだ。
……完全には否定しきれないが。
そんなことを思いながら、マシロの街を歩く。外套をしていても、無間の所為か、やはり、チラチラと見られながら、ヒソヒソ話をされる。
「あ、ムソウさんだ……」
既に、名前も知れ渡っているらしい……。
「駆け出しなのに、ミサキ様について行ったってさ」
「聞いた聞いた。デーモン討伐だったわよね」
「そうそう。しかも、その中にはデーモンロードも居たってさ」
「よく生きて帰ってこれたわよね……」
「ミサキ様のおかげでしょ。本当に、運のいい人よね」
……ああ、やっぱり、俺がデーモンロードを倒したのではなく、ミサキがデーモンロードを倒し、俺はその手伝いに行ったと、住民たちは思っているらしい。
何となく、癪な気分になるが、訂正させようとも思わず、ため息をついてそのまま歩いていった。
今日は、普段とは違うところに行ってみようと思い、いつもの噴水のある広場とは違う方向に歩いていく。
この辺りは、民家は多いが、店は少ないようだ。武器屋でもあれば、何か買っていこうと思っていたのだが、当てが外れたな。
仕方なく、店のある方向に向かおうとした時だった。
「よし、次は走り込みだ!」
ふと、聞きな慣れた声が聞こえた。声のする方を向くと、騎士たちが広場で訓練をしているみたいだ。先ほどの声は……コウカンだな。
コウカンは騎士達を並ばせて、訓練の指導をしている。
……騎士の訓練か……面白そうだな……。
少々、興味が沸いた俺は、広場の中に入っていく。
「よう!」
俺はコウカンに声をかけてみた。すると、コウカンはこちらを振り向き、俺だと気づくと、訓練を中止して寄ってきた。
「ああ、ムソウ殿か……。こんなところで何を?」
「いや、散歩しててな。で、お前らを見つけて気になってここに来ただけだ。ちょっと見学しててもいいか?」
俺がそう言うと、コウカンは頷いた。そして、俺は広場の隅の方へと行って座り、騎士たちの訓練を見学していた。
走り込みのあとは、重りを付けての走り込みも始まる。その後は剣の素振りなどだ。皆、重そうな鎧を身に着けて行っている。今日も暑いというのに、鉄仮面まで着けて大変だな。実戦になるべく近い方法でということらしいが、倒れないのか……。
まあ、この世界の武具は、色々な付与効果もあるので、見た目よりは快適なのかも知れない。
そんなことを思いながら、ぼーっと眺めていたが……なんと言うか、やはり地味だな。前の世界のものと変わらない。他人の訓練など見学しても、やはりつまらないな……。
俺が退屈そうにしていると、コウカンが寄ってきた。
「ムソウ殿……退屈か?」
「ん? ああ、まあな……」
「ムソウ殿は普段、鍛錬は?」
「素振りぐらいはやるが、あれは元々、心に落ち着きが欲しい時にやるな。他の皆が茶を飲んだり、絵を描いたりするときと同じ感覚だ」
「このように走り込みなどはしないのか?」
コウカンの問いかけに俺は首を傾げた。確かに、ああやって腕立て伏せや、模擬試合をしている仲間たちはいたが、俺はそんなことしなかった。体がなまらないように時々はするが、体を鍛えようと思ってはやったことがない。
なにせ、俺は実戦の中で鍛える性質の人間だからな……。仲間達を鍛えるために、模擬試合そする時も、いつも真剣でやっていた。感覚が鈍るからな……。
「しないな……実戦に勝る鍛錬があるか?」
俺がそう言うと、コウカンはしばらく黙って考え込んでいる。悪いことを言ったかな……。そして、顔を上げて、俺に口を開く。
「ムソウ殿、良ければ私に協力してくれないか?」
……ん? よくわからないが、今日は暇だし、俺がコウカンの申し入れに頷くと、コウカンは、訓練していた皆を呼び寄せた。
「皆の者! 今日の訓練ではこちらの冒険者ムソウ殿に協力してもらう。わかったな!?」
コウカンがそう言うと、騎士たちの中からどよめきが聞こえる。
「あれが、冒険者ムソウ……」
「デーモン討伐の旅にお供していたという……」
「ロウガン殿にも勝ったとか……」
ほう、俺の噂は騎士団の方にも行きわたっているみたいだな。だが、騎士団の連中にも、俺がミサキのお供をしたと思われているようだ。なんか腹立つ……。
「……で? 俺はどうすりゃいいんだ?」
どよめく騎士たちのことはとりあえず無視し、コウカンに尋ねた。
「ああ、とりあえずこの者たちとそれぞれ一対一で闘ってくれ。その後は全員と一人で模擬戦闘だ」
俺じゃなかったら、本当に倒れそうな内容だな。まあいいや。
え~っと……今日ここで鍛錬している騎士は全員で二十人ほどか。これなら、大丈夫そうだな……。
「……わかった。では、早速やってみるか」
俺は広場の中心に立った。それをコウカンや騎士たちは不思議そうに見ている。
「うん? どうしたんだ? 誰からでもかかって来いよ」
「いや、ムソウ殿、準備運動などは良いのか?」
「……さっきも言ったが、コウカン殿。実戦に勝る鍛錬はない。お前らは突然の敵にわざわざそんなことをして挑むのか?」
俺の言葉に、コウカンは納得という顔で頷いた。騎士の中にも、戸惑いながらも、納得した様子になる者達がちらほらと見える。
「なるほど……そうだな。では最初の者、前へ」
コウカンがそう言うと、一人の騎士が前に出た。得物は……剣か。ザっと見た所、騎士は一人一人、異なる武器を手にしている。槍の者も居れば、剣の者も居る。統一はされていないのだな。
最初に前に出た騎士は、俺の前へ来る。俺達は向かい合い、お互いに武器を構えた。
「では、お互い……はじめ!」
コウカンの合図とともに、俺は目の前の騎士に突進した。慌てて剣を俺に向けるが、遅い。
そして、そいつの胸のあたりを無間の柄で一突き。すると、後ろに態勢を崩した騎士をそのまま蹴る。ガシャンと音をたてて、騎士は仰向けに倒れた。首筋に無間の刃先を向ける。
「終わりだ」
「ま、参りました……」
一人目は両手を上げて、そう言った。コウカン、そして騎士たちはこちらを固まったまま眺めている。おいおい、騎士の皆、鉄仮面越しでも表情が分かるぞ……茫然としているか……?
そりゃそうだ。……弱いなあ。こいつら……。
速攻で、しかもほぼ無間を使わなかったことを考えると、前の世界のエイシンよりも弱い……。いや、あいつも充分強くなったが……。どこの世界に行っても、一般兵は一般兵なのかと、頭を抱える。
俺の目の前で倒れていた騎士はゆっくりと立ち上がり、集団の中へ戻っていく……。凄く落ち込んでいるのが分かるな。そして、他の奴らから、肩を叩かれたりと、励まされている。そんなに悪いことをしたかと、更に頭を掻く。
「で、では次の者、前へ!」
コウカンがそう言うと、また騎士が一人、俺の前に来る。そして、コウカンの合図。先ほどとほとんど同じ戦法で倒した。次の奴も、次の奴も……。
……これは……想像以上に退屈だ。
途中から俺は自分からその戦法を説明し始めるが、こいつら、学ばねえ。見てみろ、コウカンも頭を抱え始めたぞ。あっという間に十八人を倒した。
「つ、次の者、前へ!」
コウカンがそう言うと、また一人騎士が俺の前に来た。……ずいぶんと小柄だな。これなら今までと同じように……いや、最初の一突きでも倒れそうだな……。
俺は無間を構えた。相手の騎士も武器を抜く。……お、得物は刀か……。何となく親近感を覚える。まあいいか、どうでもいいや……。
また、今日も暇な一日になりそうだ……。俺は一つため息をついた。
「では、はじ――」
ヒュッ
突然、コウカンが合図を出そうとした途端、相手の騎士は素早く俺に近づき、刀を振るってきた。エイシンも使っていた抜刀術というものだ。
「ッ!」
俺はその刀を紙一重で受け止めた。なんだ……こいつ。いきなり攻撃しやがった。俺達はそのまま鍔迫り合いの態勢に入る。
すると、コウカンの怒号が聞こえてくる。
「コラ! 私は、まだ合図を出してないぞ!」
俺の相手は俺と競り合いをしながら、しばらく黙っているが、ふと口を開き俺に問いかけてくる。
「……ムソウ様、実戦に合図がありますか?」
……女か? 声が女のそれだ。そう言えば、街に帰ってきたときに門番をしていた騎士も女のような気がしたが、コイツか……?
だが、そんなことはどうでもいい……。今までの相手とは少し考え方が違うようだ。少し、面白そうな相手だな。
「……コウカン殿! このまま続行だ!」
俺の言葉に、コウカンはキョトンとする。
「え!?」
「お前の所にも骨のある奴は居るみたいだな!」
俺は、無間に力を込めて振りきった。相手の騎士は、後ずさる。その隙を狙い無間で追撃を仕掛けた。
無間を大きく上げて斬りかかるが、相手の騎士は体を回転させてそれを躱し、そのまま、俺を背中から斬りつけようとした。俺はそれを屈んで躱し、相手の足を掴もうとした。
騎士は大きく跳躍しそれを躱すと、刀を地面に突き刺そうとする。……速いな。鉄仮面と全身鎧を着ているとは思えない俊敏さだ。俺は前転し、その一撃を躱す。
起き上がると同時に、その騎士が刀を振り上げ、迫ってきていた。俺は素早く相手の懐に飛び込み、その手を掴む。
そして、そのまま相手の刀を奪い、足を払って転げさせた。立とうとする騎士の首筋に二本の刀を向ける。
「終わりだ」
「はい……参りました……」
騎士はそう言って降伏した。そして、そのまま立ち上がり、皆の居る所へと戻っていく。
「おい……忘れものだ」
振り返る騎士に、奪い取った刀を投げた。すると、その騎士は鞘を抜き、空から落ちてくる刀を、手を使わず、そのまま納刀した。そして、小さく頭を下げ、再び歩いていく。
へえ、やるなあ……面白い奴がいるじゃねえか。
コウカンはその騎士を怒っているみたいだ。先ほどみたいなことは我慢できないみたいだな。コウカンらしいが、今のところ一番楽しめたぞ、俺は。
「コウカン殿、説教は後にして、次の者を!」
俺がコウカンに言うと、一つ咳ばらいをして、また、次の者を呼んだ。すると、騎士の中から、薙刀のようなものを構えて、俺の方に突進してくる騎士が一人。最後の奴だな。注意してみると、薙刀に気を集めて、いつでも準備万端といった感じだ。
「おい、待――」
コウカンの制止も聞かずに、なおも俺の方に突進してくる。
「師団長! 戦場で攻勢に出るときは、風のごとく迅く、です! あなたの合図など待っていられません!」
突進してくる騎士はそう言いながら、こちらに来る。今度は男だ。ま、それもどうでも良いがな。
……なんだ、コウカン、居るじゃないか。俺の退屈な時間を潰してくれそうないい人材が二人も……。
命令違反は騎士としてどうなのかと思ったが、俺も無間を抜いて、その騎士に向かって駆け出した。
「コウカン殿! このまま戦闘開始だ!」
呆気にとられるコウカン、更に力を込めて、薙刀を振り上げる騎士。俺も、力を込めて無間を振り上げた。
ガキンッ!
俺達はそのままぶつかり合う。無間の一撃を耐えるとはな。見事なもんだ。よく見るとそれは長柄の先に柳葉刀のような幅の広い刀がついている。噂に聞いたことがある、偃月刀というやつか……。かなり、重たいらしいが、それを軽々と操っている。声の感じから、若いというのが伝わってくるが、大したもんだな。
俺とその騎士はしばらく打ち合う。柄の所は金属で出来ているのか、斬ることが出来ない。さらに言えば、そいつは刃の所だけでなく、武器全体に気を纏わせているみたいだ。更に斬りづらく、攻撃も他の奴らに比べると段違いに重たい。
強いな……この男。
俺がそう思っていると、その騎士は打ち合うのを止めて、後方へと下がった。そして、刃に気を集中させる……。
「大斬波!」
騎士はそう言って偃月刀を振った。おお、俺と同じ技だな。だが、俺のモノよりは威力が低いみたいだ。
しかし、こういった技を使って反撃してくる騎士は、コイツが最初で最後。その気概と、コウカンも頭を抱える若さというものに、俺は感嘆していた。
「面白い! ここまでの闘いの礼だ! 教えてやる……この技は鍛えればこうなる!」
俺は無間に気を集中させて、高く上げた。そして、そのまま振り下ろす。
「大斬波!」
無間から奴の放ったものよりも大きな斬撃が放出される。俺の斬波は奴の斬波をかき消し、そのまま、空へと向かって行く。そして、またも空に浮かんでいた雲を斬った……。
コウカン達、待機している騎士たちは茫然としていた。それは相手の騎士も同じ。俺はそのまま相手の騎士に近づいていく。ハッとした騎士が偃月刀を構えるが、重たい一撃を与えて、奴の手から、偃月刀を弾き飛ばす。
そして、がら空きになった懐に入り込み、一本背負いで地面にたたきつけた。
衝撃で上手く立ち上がれない様子の騎士に、無間の切っ先を向ける。
「終わりだ……」
「ま……参りました。ムソウ様」
男は降伏を認め、俺に礼をする。
すると、騎士たちを連れて、コウカンが微妙な表情で近づいてくる。そして、その騎士にも説教を始めようとしたが、俺はそれを止めた。
最後の二人はある意味、一番いい戦い方だったからな。
だが、それは有る意味、コウカンに言わせれば、騎士としての矜恃を持ち合わせていない戦い方だということらしい。ああ、やはり騎士の中にも美しい戦い方というものがあるみたいだな。
前の世界で、確かハルマサも持っていたっけな。あいつは、お互いの力を出し切るために、自らも常に全力で戦えるように、一騎討ちともなると、相手のけがなどを回復させて行うというものだったな。そんなくだらないもの捨てちまえ、と、言ったときに笑いながら
「ハハッ! ザンキはそう言うの持ってなかったか。だがな、そう言う決まり事みたいなものを自分の心の中に打ち付けていれば、ただの闘いも楽しくなる。……斬られて死ぬその瞬間まで命をさらに実感できるんだ……。俺が生きているということをさらにな……」
と、語っていた。まあ、その後、ツバキをはじめ仲間の皆から、くだらないと呆れられ、回復した奴が、他の仲間を殺したらどうするの? という、主に後方で俺達の治療をしていた部隊の人間に怒られ、シュンとしていたが……。
まあ、たぶんこいつらもハルマサと同じように、騎士として生きている自分を実感したいんだろうな。
立派な考え方だとは思うが、まだ、こいつらには力が足りないよな……。
「……士官学校でお前たちが何をどう習ったのか、俺は知らない。だが、いざ実戦ともなるとその教えに反することもあるだろう。その時、お前らは街を護るか、教えを守るかの二択を迫られることになる。そういうことも頭に入れておけ」
俺がそう言うと、騎士の皆は頷く。
「……ただ、話を聞く限り、コウカン殿はその二つを守れるらしいがな。お前らも一人一人、そのように強くなっていけ」
最後にそう付け加えると騎士たちは、はい! と返事をした。コウカンは頭を抱えて俺を見ていた。俺はそこまで強くないとかぼそぼそ言ってるが、聞こえないふりをした。
さて、次は集団での模擬戦闘だったな。いっちょやるか。
退屈になりそうだった、一日は楽しくなりそうで、俺は年甲斐もなくワクワクしていた……。
その後、俺はコウカンの指示に従い、広場の端の方に立つ。すると、反対側で騎士団の連中はそれぞれ三人ずつくらいにばらけて、配置に着いた。
「よし! ではこれより、集団での模擬戦訓練を行う!」
コウカンがそう言って手を上げて、始めようとする。
「ちょっと待ってくれ、コウカン殿! 俺はどうすればいいんだ?」
俺がコウカンを呼び止めると、忘れてたと言って、この模擬戦の説明を始めた。まったく……。
騎士団の後ろには旗が立っている。それを、俺がとれば俺の勝ち。時間いっぱい守り切れば騎士団の勝ちというものだった。
なるほど。街の防衛をする騎士団には必要そうな訓練だ。
ふと、俺が頷いていると、傍にリンネが駆け寄ってきた。リンネは尻尾を振っている。
「ん? なんだ?」
「キュウッ!」
リンネは前足を使って、旗を差している。
「……やりたいのか?」
「キュウッ!」
俺の問いかけにリンネは頷いた。さっきまではずっと俺の応援をしていたからな。リンネも暇だったのだろう。仕方ない……。
「コウカン殿、今回の訓練、リンネが行ってもいいか?」
俺が聞くと、コウカンは頷いた。
「ああ、構わない。魔物が相手なら、より実戦に近づけるからな!」
コウカンは俺の頼みを了承してくれた。リンネは喜んでいる。騎士たちは、そんなリンネを見て、安堵したのか、こちらを指差して笑っているようだ。鉄仮面越しでも、舐めているということがよく分かる。
……よし、驚かせてやろう。
「……では、リンネ。いつもみたいに大きくなってくれ」
「キュウッ!」
リンネはその場で変化し、大きくなった。騎士たちの笑い声が止まる。
「クワンッ!」
「よし、リンネ。今回はその姿のまま相手をするんだ。あの旗をとってくる、出来るな?」
俺がそう言うと、リンネは頷き、尻尾を振らせた。
「……よし、いい子だ。コウカン殿! こちらの準備は出来たぞ!」
俺が言うと、コウカンは頷き、
「では改めて、集団模擬戦闘訓練始め!」
コウカンがそう言うと、俺はリンネをけしかけた。リンネは旗を目指して走り出す。変化に驚いた騎士団は浮足立っていた。
「……クウッ!?」
すると、突如、リンネの足元が崩れた。落とし穴らしい。いつの間に作ったんだ……。いったんは穴に落ちていくリンネをみて、騎士たちは態勢を整えなおす。落ち着いて、武器をとり、穴の方に向かう。
だが、リンネは崩れていく地面を足場にして、ピョンピョンと跳ねて出てきた。
「クワアアアッッッ!」
地上に出てきたリンネは近くの騎士団に突進を仕掛ける。しかし、ここで、リンネの前に大きな盾を持った騎士たちが割り込む。
「クワッ!」
盾に弾かれて、リンネが吹っ飛んだ。……上手いな。個人で闘っていた時の動きとは雲泥の差だ。騎士団はこういう集団戦法のほうが上手いのかもしれないな。
吹っ飛ばされたリンネに剣を構えた騎士たちが突っ込んで行く。
「クワンッ!」
リンネは素早く起き上がり、その騎士たちを跳び越えて、再び、旗を目指して駆けて行った。そして、狐火を纏い始める。いいぞ、リンネ。そうすれば、相手の攻撃を怖がることなく突っ込んで行ける。俺はリンネの戦法を素直に褒めた。
だが、またも目の前に先ほどの盾を持った騎士たちが行く手を阻む。すると、リンネはまたその騎士たちを越えようと大きく跳ねた。
「甘いですッ!」
盾の騎士たちの後ろから、先ほどの個人戦において、良い闘いっぷりだった騎士が跳躍し現れる。そして、空中で抜刀し、居合斬りの要領で抜刀し、リンネに攻撃した。
「クワンッ!」
相手からの攻撃を受けたが狐火のおかげでリンネは無傷だ。そして、リンネから狐火が放出され、その騎士を焼いた。
「くっ!」
炎を浴びながら、その騎士は落ちていく。すると、一人の騎士が近づき、落ちた騎士に回復薬を与えた。落ちた騎士の体が光っている。どうやら火傷を治したみたいだな……。
リンネの方は、攻撃をやり過ごし、そのまま着地。そして、辺りに騎士が居ないことを確認すると、走って旗を目指していく。しかし、ここで先ほどの偃月刀の男が現れる。お、ここで来るか。こいつは前衛かと思ったが……。
男は偃月刀を振り上げて、斬波を放った。リンネはそれを尻尾で受け止めた。……ちなみに大きくなったリンネのしっぽは三つになる。親は九尾だったし、成長すれば増えるのかな……? などと思っていると、リンネは尻尾を使い、斬波を受け流す。おお、すごいな。あんな器用なことで来たんだな……。斬波は、リンネの後方、つまり先ほどの盾の騎士達の方へ飛んでいく。騎士たちはそれを盾で受け止めるが、衝撃が強かったらしく、吹っ飛んでしまう。すぐさま、何人かの騎士たちが駆け寄って回復薬を与えている。
先ほどから見てきたが、良い連携だな。弱った相手への追撃、大きな攻撃に対しての防御、不意を突く強者の一撃、さらには補給及び医療部隊の動き。どれをとっても素晴らしい。そして、最後の防衛線として、あの男か……。なかなかやるな。
個人戦で、弱いと思ったことを撤回する。やはり、騎士団は集団戦に置いて、その真価が発揮されるようだ。ただ、そうなれば、先ほどの女と男は、命令無視をしたということで、コウカンの気持ちも分かる気がする。
まあ、今は、きちんと他の奴らとも歩幅を合わせている気がするから、問題ないと言えば、問題ないのだろうがな。
斬撃をいなしたリンネはそのまま走って旗の下へと走っていく。目の前には偃月刀の男が立ちふさがるが、リンネは雄たけびを上げながらなおも突っ込んで行く。
……ああいうところは、まだ、子供か、それとも野生の本能か……リンネは目の前の男に飛びかかる。男は、リンネの爪と牙の攻撃を偃月刀を使い、防いでいる。
引け……引くんだ、リンネ。お前の近接攻撃だけじゃ、そいつは倒せないぞ……。そこは、狐火を展開させるか、幻術でも使った方が早い……。俺の思いもリンネには届かない。リンネは繰り返し同じように攻撃を続けた。
すると、男と戦っているリンネが気付かないうちに、散らばっていた騎士たちが二人を囲んだ。
「ここまで、見事だったぞ! それっ!」
辺りに騎士が並んだことを確認した男は、闘いながら懐から何か取り出し、地面に叩きつけた。
「!?……クワアアア~~~!」
それは、一種の閃光玉のようで、リンネは強い光を間近で浴び、その場でフラフラとし出す。そして、男の合図と共に、辺りを囲んでいた騎士達が一斉に、縄をリンネに投げた。リンネは暴れるが縄はちぎれない。藻掻くリンネは、最後に網をかぶせられた。
「ク~~~~……」
しばらく暴れたリンネだったが、思うように動けなくなり、そのまま動かなくなった。
「それまで! 皆、よくやった」
コウカンがそう言うと、騎士たちは喜んだ。
俺は皆に近づいていく。
「いや、良い戦いだったな、コウカン殿」
「集団での連携では冒険者たちにも引けを取らないぞ」
俺の言葉にコウカンは笑ってそう答えた。周りの騎士たちも喜んでいる。
そして、俺はリンネに近づいた。
「……リンネ、よく最後まで戦ったな、えらいぞ」
「ク~~~……」
リンネは泣きながら、俺を見ている。悔しそうだな。
「ク~~~……ク~~……」
「なんだ? 動けないのか?」
俺が聞くと、リンネは頷く。確かに縄や網が絡みついて上手く動けないみたいだ。だが、あれすればいいだろう。わからないのかな……?
「……はあ……リンネ、元の姿に戻るんだ……」
「クウ? ……クワンッ!」
俺の言葉に頷き、リンネは小さくなっていった。すると、縄はほどけ、網の隙間からピョンッと飛び出てきた。
「キュウッ!」
リンネは喜んで俺の肩に乗った。俺はリンネの頭を撫でる。やはり、まだまだ子供といったところだな……。
「ハハハ! ムソウ殿の従魔は噂通り可愛らしいな。だが、お前も強かったぞ」
コウカンはリンネを褒めながら、頭を撫でた。リンネは嬉しそうにコウカンに鳴いた。それを見て他の騎士たちもリンネを撫で始める。リンネは騎士たちにもみくちゃになりながらも、嬉しそうにしていた。
「キュ、キュウ~~~♪」
すると、一人の騎士が俺に近づいてきた。例の刀を持った女騎士だった。
「あの……ムソウ様の従魔は妖狐と聞きました」
「ん? ああ、そうだ」
「……ではなぜ幻術を使わなかったのでしょう?」
騎士の言葉に俺も首を傾げる。戦闘中にも思ったが、幻術を使えば、騎士団の者たちを足止めにし、その隙に旗を取れたかもしれないのだが……。
俺はリンネを呼び、聞いてみた。
「リンネ、何故、幻術を使わなかったんだ?」
リンネは俺をじっと見ていた。何のことだかわからないみたいだ
「使えなかったのか?」
「キュ、キュウ!」
リンネは首を横に振った。違うみたいだ。すると、リンネは騎士たちの周りを走り、そしてコウカンを前足で差した。
……あれ……これは、ひょっとして……
「……まさか、幻術を使わず、正々堂々とやりたかったとかか?」
「キュウッ!」
リンネは前足で俺を差してそう鳴いた。正解みたいだ。まさか、こいつが騎士の矜恃というものをするとは、驚きだ。
それを見て、コウカンと刀の騎士は笑っている。
「ハハハ! リンネはなかなか見どころがあるな」
「まったくですね。私なんかよりもよほど騎士らしいです!」
二人に続いて、騎士たちも笑い、さらにリンネの頭を撫でていた。リンネは嬉しそうにしている。
俺もその光景を、笑いながら眺めている。そして、子供とはいえ、体や、技だけでなく心までも成長していくことを楽しみに感じ、リンネを眺めていた。




