第43話―寝起きに魔法の練習に付き合う―
うおっ! くすぐってえ! なんだ!?
ぐっすり眠っていたはずなんだが、いきなり、頬をくすぐられる感触があり、飛び起きた。
何が起こったのかと、辺りを見回すと……。
「キュウ?」
すぐそばにリンネが居る。どうやら俺の頬を舐めていたようだ。
俺はリンネの頭を撫でて、軽く、伸びをする。皆は既に起きているらしく、家の中は誰もいない。
……あ、良い匂いががする。誰か朝飯を作っているようだ。俺は着替えて外に出ると、ウィズが料理をしていた。
「あ、ムソウさん。おはようございます」
「おう。皆はどこだ?」
「はい、ミサキ様と四神の皆さんは、洗濯しに川へ、ハクビさんは稽古だ!って言って、嫌がるレイカさんを連れて、森の奥のほうまで行きました」
で、ウィズが料理を作っていると……。ハクビめ、鍛錬するんだったら、俺を起こしてくれればよかったのに……。
「なら、俺も手伝おう。何かないか?」
「いえ、もう大丈夫ですよ。後は器に盛るだけですから」
ウィズはそう言って、焼けた魚を器に盛り始めた。
むう、そうなると、皆が戻ってくるまで暇だな……。
あ、そうだ。
俺は異界の袋から、この辺りで採れた薬草と、精霊人から貰った、ワイアームとヒュドラの乾燥させた肝を取り出した。調合でもして、時間を潰そうというつもりだ。
俺は、ちょうどいい木陰を見つけ、そこで薬草と、まずワイアームの肝をすりつぶしていく。
ゴリゴリゴリゴリ……
お、もう白くなってきたな。気づかないうちに、調合スキルの上達もしていたみたいだ。どうやら、スキルの中には、意識してつかうものと、そうでないものがあるようだ。気功スキル辺りは意識して使うが、剣術も、調合も、採集も、今のところは使っているという感覚はない。
だが、様子を見る限りだと、それぞれのスキルの熟練度も上がっているようだな。
「キュウ?」
出来た白い薬をリンネがまじまじと見つめる。時々、匂いを嗅いでは、不思議そうに首を傾げていた。人間が作ったものは、やはり珍しいのか……。
俺はリンネの前に、回復薬の素の白い粉を差し出した。リンネは、俺の顔を見て、安心したのか、ペロッとそれを舐めた。
「キュッ! ……キュウゥ~~~……」
舐めた途端に、ぴくッと硬直し、そのまま、パタッと倒れた。……苦いからな。リンネには強すぎたらしい。さっき俺の頬を撫でた仕返しだ。
「ハハハ! ではこれならどうだ?」
俺は、森に実っていた、木の実を横たわるリンネの横に置いた。リンネは飛び起きて、その木の実を食べる。
「キュウウ~~~~~!」
喜んでいるみたいだ。これは甘いからな。砂糖と一緒に煮つめて、かき氷か何かにかけるのもいいかも知れない。
さて、じゃあ次は、薬草とヒュドラの肝だ。俺は二つの素材をすり潰していく。
ゴリゴリゴリゴリ……
……なかなか、難しいみたいだな。まだ白くはならない。
ゴリゴリゴリゴリ……
むう、ヒュドラの肝は若干硬いみたいだな。なかなか潰れてくれない。
ゴリゴリゴリゴリ……
お、ようやく肝の方がまんべんなく粉になってきたな……。
ゴリゴリゴリゴリ……
……できた! 回復薬と同じ白い粉だ。早速、鑑定眼で視ると……
毒状態回復薬
飲めば、毒状態回復及び、小さな傷なら治る
よし、成功みたいだな。俺はその粉を瓶に入れて、異界の袋の中に入れておいた。
後で、水と混ぜれば、回復薬の完成だ。味は悪いが、薬が完成したことには変わりはない。調合スキルもますます上達していくだろうと、そのまま、しばらくリンネを撫でていた。
「え~ん……疲れたあ~~~……」
お、森の方からレイカの声が聞こえてくる。見ると、レイカとハクビが戻ってきたようだ。
「レイカは、もう少し早く攻撃を撃てないとだめだな」
「ハクビさんが速過ぎるんだよ~!」
レイカの悪いところを指摘するハクビにごねるレイカ。おい、レイカ。年上の言うことは聞くもんだぞ……。あ、レイカの方が上か……。
「……そう言うなら、レイカ。あそこに何もせずに座っているムソウが居る。あれに当てて見せろ」
ハクビは俺を指差した。……何で、俺なんだよ。寝起きなんだ、ゆっくりさせろよ。
「おい、ちょっと待てハクビ!俺は今——」
俺が文句を言い終わらないうちに、レイカはりょーかーい! と言って、俺に矢を放った。
……うん。ハクビが言うように、遅い気がする。矢を射るまでは速いが、俺にとってはなんでもないな。
パシッ!
俺は目の前まで来ていた矢を握った。そして、そのままレイカ達の方へ思いっきり投げる。矢はそのままレイカとハクビの間を通り過ぎて行って、ウィズが皿に盛ろうとしている、ひと際大きな魚に当たった。
唖然とする三人を尻目に
「ウィズ~! そのデカいの、俺とリンネで食うからな~」
と言った。リンネは横でぴょんぴょん跳びはねている。リンネは魚料理が好きみたいだからな。たらふく食わせねえと。
我に返った、レイカは泣きそうな目でハクビを見ている。ハクビは顔を抑えて、俯いた。
「で、では、次は魔法だ。魔法で、奴を攻撃してみろ!」
「わ、わかった!」
レイカはハクビに言われて、両手を前に出す。そして、そのまま掌から、風の塊のようなものを撃ちだしてきた。
「はあ、仕方ない……」
俺は片手で、魔力の球を弾いた。お、痛くないな。対魔法防御力のようなものも備わって来たのかな……ってそうか。今つけている鎧に、何かそういったものもついていたな。これくらいなら……と思い、なおも続くレイカの連弾を防いでいる。
「……いや、もうダメ……魔力が尽きそう……」
しばらく続いたレイカの魔法は止み、レイカはガクッとうなだれた。そこへウィズが近づいてくる。
「レイカさんは、魔力を込めるのが速いみたいですね。いったん魔力を溜めて撃つという戦法みたいですが、違います?」
「そ、そうだよ……。でも、それだとやっぱり早く撃てないな~」
ウィズ曰く、レイカは魔力を込めて、攻撃を撃ち出すまでが速いらしい。つまりは、力を溜めて撃ち出すという動作が、他の魔法使いと比べて早いのだが、威力はそこまで大きくない。だから、大きく魔力を込めて、攻撃に変換し、撃ち出すという戦法となっている。
だから、攻撃の感覚が大きく、俺としても、どこに来るのかすぐに分かって、対処のしようがあるという感じだ。
「でしたら、まず、魔力を大きく溜めてください。こういう風に……」
そう言って、ウィズが手を前に出す。すると、ウィズの魔力が腕のあたりに集まっている。
「こう?」
レイカもウィズの真似をし出した。すると、レイカの腕にも魔力が溜まっているのが分かる。
「そのままです。そして、掌に小さな穴をあける感覚を持ってください。そして、そこから魔力を射出するイメージで、魔法を撃ってみると……」
パンッ!
ウィズの手のひらから、高速の魔法弾が飛んでくる。何とか弾いたが、レイカのものとは比べ物にならないくらい速い。……っていうか、俺に撃ってくんなよ。リンネが驚いているじゃねえか。
「うわあっ! すごい! ……よぉ~し!」
レイカも意識を集中し始める。すると……
パンッ!
レイカの方からも、風の塊が高速で射出された。先ほどのは、風の弾という感じだったが、今回のは、風の針だ。お確かに先ほどのものとは比べ物にならないくらい速い……。
「すごい……でも、魔力が漏れているみたい……」
「それで、良いんです。体内から魔力を出し続け、限界が来たら、穴を開ける感覚です。水鉄砲や空気鉄砲と同じ要領です。穴の開け閉めを早くするイメージで撃つと……」
ウィズはそのまま、魔力弾を連弾してきた。弾の出る感覚がすごく短い。例えるなら、レイカの場合は、矢を弓にかける、狙う、弓を引く、矢を放つという感じだが、ウィズの場合は、矢を射ると、次の者が即座に矢を撃ってくる感じだ。
精霊人の中にもそんなの居たっけな。あれは確かに、避けるのはしんどかったな……。
「そうかあ~。じゃあ、私も!」
ウィズの魔法を見たレイカも連弾を始めた。お、上手いな。ウィズがやったように、レイカも高速の魔法弾を撃ってくる。
精霊人の遊びと違って、こちらは当たってもいい。避けることなく、二人の魔法弾を俺は弾いていく。……と、ここで気づく。
「ウィズ~! 俺を的に魔法の練習するのは良いが、やはり少しずつ、魔力を射出する分、威力は落ちている気がするぞ!
速さでそれを補っているようだが、それでも不十分だ!」
俺がなおも撃ってくる、ウィズたちに向けて叫ぶと、二人は攻撃を辞めた。
「あ、ムソウさん、すみません! つい夢中になっちゃって……」
「いや、気にするな。それよりも……」
「ええ、威力が落ちる件ですね。確かにこの方法だと、初撃を当てて意表を突くことくらいしかできません。もしくは、下級の魔物の集団討伐くらいですかね」
あ……この威力だと、下級の魔物くらいなら一撃で倒せるのか。これが出来れば、殲滅系の依頼でも、すぐにできそうだな。
しかし、レイカはウィズの言葉に不思議そうな顔をして、ウィズを覗き込む。
「え~、じゃあ、なんで教えたの?」
「それはですね、魔法の連弾の基礎だからです。もっと、上達すれば、このように……」
ウィズはレイカの前で、両手を広げた。
「まず、自分の目の前にいくつも風船が浮いているイメージを持ってください。そして、その風船に自分の魔力を流し、溜めておきます。このように……」
そう言って、ウィズは集中する。すると、ウィズの前に、火の玉がいくつも現れた。ん?あれは、確か、試験の時に見たやつだな。
俺も若干警戒し、手に気を集め、研いでおく。
―すべてをきるもの発動―
念のためスキルも発動させておく。リンネには、懐に入ってもらった。
「そして、この魔力たちを、後ろに引っ張りつつも、相手の方に押し出すような感覚をもってください。相手に押し出す強さが、後ろに引っ張る力にギリギリ勝ちそうなときに、その魔力を引っ張る感覚を一気に解きます。すると……」
ドオン!
突如、ウィズの前にあった火の玉が俺の方に飛んできた。俺は、手刀でその魔法を斬る。火の球はそこで霧散していった。
「そして、その感覚を繰り返すと……ムソウさん! 行きますよ! 火球連弾!!!」
ウィズが次々と火の玉を撃ち出してくる。要は、先ほどの魔法弾の連弾が威力を増したようなものだ。
すごいな……。意識を変えることで、ここまで威力を上げるのか。おもむろに何発か、掌で受け止めてみたが、痛みや熱さは感じなかったが、俺の手をちょっと押すくらいには威力が上がっている。
まあ、全然効かないがな……。
……ある程度撃ってきて、ウィズは攻撃を辞めた。
「はぁ、はぁ、はぁ、さすがムソウさん。俺も、魔力切れです……」
ウィズは手を膝についてうなだれている。魔力というのは、そのまま体力のようなものらしく、ある程度、魔法を使ったりすると、ああやって、肉体の方がばててしまうらしい。
熟練の魔法使いは、難しい魔法を使うということはもちろん、少ない魔力で魔法を使うということも出来るようだ。
例えば、火球という魔法をウィズが使う場合は、魔力を5ほど使うらしいが、ミサキだと、1の力で使えるという。更には威力も大きい。
自分の魔力全体で、いかに効率よく魔法を使うかが、魔法使いの熟練度に影響するのだという。
ウィズは、魔力回復薬を飲み、レイカは、さっきウィズが言っていたことを復唱しながら、練習しているようだ。
ハクビは……
「ム、ムソウ!大丈夫か?」
と、俺に心配の声を上げた。
「あ? 問題ねえよ。ウィズ! お前の魔力、自在に扱えるようになったら、これ以上もできるのか?」
俺が尋ねると、ウィズは顔を上げて
「恐らくですが……。今は火球だけですが、そのほかの魔法もより早く連弾できるようになると思います。もちろん強力な魔法も……」
「そうか! それは、楽しみだな……あ、ハクビ?」
「……なんだ?」
「……最初に俺に攻撃をけしかけたのはお前だったな? ……覚えてろ……」
俺がそう言うと、ハクビは愕然とした。昨日の話が相当頭に残っていたらしい……。俺は何か言おうとしているハクビを無視して、リンネを肩に乗せ、皆のところに行こうとした。すると……
「へ~、やるじゃん! ウィズ君!」
と、ミサキの声が聞こえた。四神と一緒に帰ってきていた。洗濯が終わったらしいな。
「あ、どうも、ミサキ様。見ていらっしゃたので?」
「う、うん! 皆、真面目にやっていたから、声かけづらくって……」
ウィズの問いに、ミサキは顔を赤らめながら答えた。
「ねえ、ムソウさん! ちょっとそのままでいてくれる?」
ミサキは俺の方を見て、そう言った。……まだ何かやる気なのか?
「ああ、俺は構わんが、無間を用意した方が良いか?」
「ああ~……いや、だいじょぶ~! 威力弱めで行くから~」
いまいち信用できないがまあ、良いだろう。俺は少し前に出た。すると、ミサキはウィズに指導を始める……。おお、こうしてみると、師匠っぽいぞ、ミサキ。
ミサキはいつになく、少し真面目な顔で、真面目な口調になっている……。
「あのね、ウィズ君。その連弾系の魔法は魔力を大きく消費するから、一般の人間にはあまり向かないと思うの。一回やったら今のウィズ君みたいにばてちゃうからね。
私も昨日初めてやってみたけど、使う魔法が大きければ大きいほど、やっぱり、くらっと来るものがあったよ」
ああ、そう言えば、ミサキは特大の火の玉を、高速で撃ち出していたな。そんな感じには見えなかったが、我慢でもしてたか?
というか、ミサキでも辛い、魔法の連弾……。子供でもできていた分、やっぱり精霊人の魔法はすごいんだな。まあ、子供と言っても、俺と同い年くらいだと思うが。
ミサキの言葉に、ウィズが口を開く。
「では、やめた方が良いのですか?」
「ううん。ウィズ君の魔力はコントロールできれば私の魔力を遥かに超える量だから、大丈夫だと思う。あ、もちろんレイカちゃんもね。エルフの魔力は人間の数倍多いはずだから」
「うん!」
ミサキの言葉に、ウィズもレイカも目を輝かせた。
「そして、この魔法を極めるとこういうこともできるよっていうのを見せるから、見ててね……」
そう言って、ミサキは手を出した。来るな……。
「じゃあ、行くね! ムソウさん!」
「おう、かかってこい!」
ミサキはそう言いながら、ウィズたちにやり方を教える。
「まず、敵の周りに、自分の分身を生み出す。これは、闇魔法の上級魔法だけど、練習すれば、普通の人でもできる……」
ミサキが念じると、ミサキの影が俺の方に伸びていき、七つに分かれた。そして、影が宙に伸び、人の形を作っていく……。
そこに居たのは、七人のミサキだった。リンネが驚いた様子で、目を見開き、俺も若干驚きつつも、何が来ても良いように、手に気を集中させる。
「そして、出来た分身に魔力を与える。これ自体は、もともとのこの魔法に備わっている要素だから、すぐにできるようになるよ」
ミサキが念じると共に、鑑定眼で視ると、七人のミサキが魔力を帯びていく。この魔力の量だと、一人一人が、普通の人よりも少し多いくらいかな……。
「あとは、分身に、さっきウィズ君がやった感覚を伝える。……多分これが一番難しい。分身と本体はつながっているとは言え、感覚は別だからね。
感覚共有の魔法を覚えるのが一番いいんだけど、あれは私のオリジナルだから、既存の魔法に組み合わせることも考えると、使えるようになるのは大変かも。でも、それが出来たら、こうなるよ」
ミサキが念じると、七人のミサキの前に火の玉が現れた。いよいよだな……。
「じゃあ、行くね、ムソウさん! 火球大連撃!」
ミサキが叫ぶと、七人のミサキは、火球を撃ってくる。しかも、七人一斉にじゃない。精霊人の遊びのように、俺が避ける、あるいは斬るかしたら、その隙を狙って、撃ってくる者もいる。
俺は意外と本気で避けているが、さすがミサキというか、意外だな、ミサキ! これが、強力な魔法だったら、流石に俺も素手なら危ないぞ。たまらず、俺はその場から移動する。
「キュウウウ~~~~!!!」
あ、リンネを忘れてた……。懐から、俺の襟に必死でつかまっている。何とか、動きを無くして、ミサキの猛攻を耐える。
ウィズとレイカはミサキの様子をまじまじと見ていた。あいつらがこれを覚えたらすげえな……なんて言ってる場合じゃないか……。
ふと、七人のミサキを視たら、切れ目はあるみたいだ。なら、斬れるのか。そう思って、一人のミサキに近づき、手刀を放った。すると、そのミサキは消えていった……。だが……
「甘いよ! ムソウさん!」
ミサキがそう言うと、すぐに、また分身が現れる。今の所、ミサキは恐らく、分身する魔法と、火球を撃ち出す魔法の二つだけを使っている。まだまだ余力がある分、キリがねえな。確かにこれなら弱い魔法でも疲れさせることは出来るか……。
大したもんだな、“魔法帝”さんは……と思っていると、上方、左右、前後ともにミサキに囲まれてしまった。チッ……逃げ場が無え。
「キュ、キュウウウゥゥゥ~~~」
ああ、リンネが怯えているようだ。普通ならここで万事休すだからな。
……だが、俺には秘策がある。こういう時はこうするのさって言うのがな。
「リンネ……安心しろ。俺は負けねえからな」
俺は笑ってリンネの頭を撫でた。すると怯えていたリンネだったが、顔を上げ、にこっと笑う。
「キュウッ!」
俺を信用してくれたようで嬉しい。震えを止めて、俺と一緒に、七人のミサキと、ミサキ本体を見据えた。
さて、やるか!
俺は体中に気を纏わせた。その瞬間、分身たちは一斉に魔法を撃ってくる。
だが、もう遅い。俺が体に気を纏わせた時点で、俺の攻撃は始まっている。
俺は正面のミサキの分身めがけて突進した。纏わせた気のおかげで、衝突した瞬間、分身は吹っ飛び、消えていく。
「穴は出来たな! くらえッ!」
囲まれていた俺だったが、消えていった分身のおかげで、隙を見つけた。その場に移動し、火球を躱しながら、目の前の二体の分身に、剛掌波をぶつけて消滅させていく。
俺はそのまま、開けた道一直線に、ミサキ本体に特攻をかける。ミサキは動揺し、分身を作りなおそうとしても、上手くいかないみたいだ。
―死神の鬼迫―
俺の殺意に当てられたミサキはビクッとして、硬直する。俺はそのまま、手に纏わせた気を長く刃のような形にして、構えながら、ミサキに突っ込んで行く。
「わああああぁぁぁ~~~~!!!降参だよおおおおおぉぉぉぉぉ~~~~!!!」
ミサキは泣きながら、そう叫んだ。俺はミサキの目の前でピタッと止まり、一息ついてから、リンネの頭を撫でてやった。
「キュウッ!」
リンネは俺の手を前足で触りながら戯れている。
「エグッ……ひどいよお~……」
なおも泣いているミサキの肩にリンネがぴょんッと飛び移った。そして、ミサキの頬をポンポンと叩く。
「慰めてくれるの~……ありがと~……」
ミサキはリンネにお礼を言った。……む、少しやり過ぎたな……とも、思ったが、相手はサネマサと同じく、人界の頂点、十二星天の一人だ。これくらいで、丁度良いのかも知れないと、自分に納得していた。
その後、ミサキは泣き止むと、くるっと回って、ウィズとレイカの方を見た。
「……ごめんね、二人とも……かっこいいところ見せたかったのに……」
ミサキが頭を下げると、二人は首を横に振った。
「そんなことないですよ! いい勉強になりましたし、これからの目標も決まりましたから!」
「うん! 最後に大人げなかったムソウおじちゃんは置いといて、ミサキちゃんの魔法、私も使えるようになりたくなった!」
二人はそう言って、ミサキを励ましている。……レイカ、ちょっと傷つくぞ……。
二人の言葉を聞いて、ミサキも機嫌を良くしたようだ。明るい表情になっていく。
「ありがとう、二人とも。この魔法は、発動した後が結構大変なの。戦況を見て、どういう風に指示を出すか、考えた上で、それぞれに指示しなきゃいけないからね。
……あと、もう一つ、決定的に気を付けないといけないことがあるんだけど……実際戦ったムソウさん、分かる?」
リンネを撫でながら、ミサキはこちらに視線を移す。ミサキが言いたいことは大体分かっていた。
「ん? ああ。この魔法をしているとき、術者は無防備になるよな。そういや、本体のお前は何もしてなかったし。
……で、最後みたいに術者に危険が迫り、突然の出来事が起こると、上手く作動しないことも欠点の一つか?」
俺が答えると、ミサキはそのとーり! と言って、二人を見る。
「この技はね、たぶん一人ではできないの。必ず二人以上が側にいるときの支援として使った方が良い魔法よ。もっとも、あなたたちなら既にそう言う仲間もいると思うけどね」
ミサキの言葉を聞いたウィズとレイカはちらっとお互いを見て、ミサキを見て、ハクビ、四神、最後に俺を見た。
そして、笑って、はい! と頷いた。
ミサキ、なかなかいいことを教えるじゃないか。この光景は確かに師弟っぽいぞ。
「よしっ! ……じゃあ、皆! ごはんにしましょ!」
ミサキがリンネを自分の頭に置いて、そう言うと、皆を連れて、ウィズの用意した朝飯のところへ向かって行く。俺も後をついて、席に着いて、朝飯を食べた。
何となくだが、マシロへ戻った後、俺はこいつらから離れるのか、と考えると少し寂しくなったが、俺と一緒に魚に食いついているリンネを見たら、少し、元気が出てきた。
さあ、今日は皆でマシロに帰って、ロウガンを早く安心してやらないとな……。
ちなみに、さっきのお仕置きとして、ハクビには後で俺の無間を手入れしてもらった……。
天真爛漫なミサキと師匠なミサキと十二星天なミサキをかき分けるのは意外と楽です。




