第429話 海賊団を斬る ―二体の龍族と闘う―
嵐帝龍と水帝龍との戦い。想像していたよりも数段階面倒くさい。
暴風雨で煽られ、嵐帝龍だけでも戦いづらいのに、更に海から水帝龍が、極細にした水鉄砲を放ってきたり、巨大な水泡を出現させて、俺を閉じ込めようとしたり、更に、辺りの島を飲み込まんとする巨大な高波を起こしたり、九頭龍の時とは比べ物にならないくらい、きつい状態を味わっている。
無論、その高波は避けたところで、どこかの島を滅ぼすだろうし、アートルム方面に行けば最悪だ。
ギャッツ達は、荒波がゆりかごとか言っていたが、絶対これは無理だ。切れ目を斬って、波を打ち消しているが、その隙をついて、嵐帝龍が凄い速さで近づき、爪を振りかざしてきたり、俺を食おうとして来る。
最初は、光葬針の武者を出して、二体を弱らせながらと思っていたのだが、しばらくしていると、向こうもイラついたのか、一瞬で振り払われた。
もしくは、食われたりして、天界の波動の塊である武者を食らった嵐帝龍と水帝龍が更に強くなるという事態も発生した。
そこからは、武者を出す力を無駄と判断し、一人で戦うようにしている。
その所為で余裕はなくなったが、嵐帝龍と水帝龍が海賊団に無理やり従わされている原因は探っていた。
恐らく、魔獣封環のようなものを使われていると考えて、じっくりと鑑定スキルを使いながら観察しているが、今のところは見当たらない。
体内に何かしらあって、その影響でこうなっているのだとしたら面倒だなと舌を打つ。
しかし、そう言う兆候も見られない。
九頭龍の時の様に、大量の魂の力で、遠隔で操っているのだとすれば、向こうの戦いが終わるのを待つしかない。
とりあえず、嵐帝龍達の攻撃を、俺が死なないように躱したり受けたりしながら、俺もあの二体を殺さないようにして時間を稼ぐことが、今のところの俺が出来る事だった。
「はあ……疲れるなあ……」
九頭龍の時のカドルの様に、向こうから対話を試みてくれれば楽なのだが、今回は、あの時と違って、九頭龍には操られてはいたが、牙の旅団の魂が居て、それが、九頭龍の意識となっていて、カドルは別の意識として混在していた存在であり、だからこそ、単独で俺と対話することが出来たのだが、今回は、本体の嵐帝龍、水帝龍の意識のまま、ここまで俺に闘志を燃やしてきている。
これが、結構厄介な問題だ。九頭龍の時は、本体となる牙の旅団は操られていたが、カドルは操られていなかった。正しくは、封じられていたわけだが、今回は、本体の魂が操られている。
その為、向こうも、どうすることも出来ないのだろうと考えられた。
一息ついたのもつかの間、一気に距離を詰めて、風刃や爪で俺を引き裂こうとする嵐帝龍の攻撃を無間で弾く。
いったん、危険海域の外に出て、態勢を立て直してからという思いもあったが、龍族の攻めが苛烈なことと、ここで逃げて態勢を立て直して、再びここに来たとしても、こいつらがここに居るという保証はない。
更に、この二体が、海賊団の援軍としてアートルムに向かう事も考えられる。そうなったら、例え勝つことが出来たとしても、街は大損壊となる。
お互いがこの場から動かないようにするために、俺はその場にとどまり、とりあえず体力を削る為に、何度も立ち向かっていった。
……にしても、こうして目の当たりにすると、凄まじいな。二体の龍族の力は勿論、海賊団は、それほどの力を有しているという事だ。
ツバキやリンネをここに連れてこなくて良かったのか、良くなかったのか、少し分からなくなってきた。
まあ、ここで荒れ狂った龍族の相手をするよりは、幾分かマシか。エンヤも居ることだし。
……どちらかというと、アイツが居るから心配になるんだがな。
そんなことを思っている時だった。不意を突いて、嵐帝龍が幾つもの竜巻を生み出し、俺にぶつけて来る。
「うおっ!」
竜巻は俺を閉じ込め、上下左右あらゆる方向に、俺の体を飛ばしていく。さながら、巨大な何かに捕まれて、ぶんぶんと振り回されているような感覚だ。
まあ、それだけだから、大した痛みとかは無いのだが、普通の人間なら、バラバラになるんだろうなと思った。
それと同時に、戦いの最中に気を抜いたらこうなるんだな、と少し反省する。
とりあえず、無間で竜巻の切れ目を斬り、その場から脱出するが、その瞬間に、水帝龍が海の水をひも状にして、俺を拘束し、海の中に引きずり込んでくる。
海中は、空中よりも自由が利かず、ただただ藻掻いていると、水帝龍が大きな口を開けて俺に向かってきた。
流石にまずいと思い、おにごろしを解除。そのまま、身体能力向上が期待できるひとごろしとおにごろしを発動させて、鬼人化する。
だいぶ泳ぎやすくはなった後、海中で鬼火を水帝龍にぶつけて何を逃れた。
「グギャウッ! グルオオオオオオオッッッ!!!」
やはり鬼火は嫌なんだな。すごく怒って、更に俺を追い込む水帝龍。こういう時が困るんだよな。
威力を上げると、傷つけることになるし、殺してしまうことになるかも知れないし。
そうなったら、奴に、また変な疑いをかけられるだろうし……。
ただ、やられるわけにはいかないので、口を大きく開く水帝龍の下に潜り込み、鬼火を纏わせた蹴りをあごに叩き込み、水帝龍を海上へと蹴り上げる。
その勢いのまま、空中の水帝龍を足場に、嵐帝龍に向かって突撃し、幾つかの鬼火を嵐帝龍に向けて放った。
「グギャアアアアオオオオッッッ!!!
何発かは躱されたが何発かは嵐帝龍の体に命中し、その身を焦がしていく。
苦悶に満ちた顔の嵐帝龍と水帝龍が海に落ちて、大きく水しぶきが立った。
俺は落ちながら、かみごろしを解除し、再びおにごろしを発動させて、その場にとどまる。
鬼神化しても良いのだが、アレは後先考えずに使うものではない。それに、こういう状況だと力加減を間違えそうだから、本当に、もしもの時、俺が、死にそうになる時に使おうと思っている。
やはり、こういう時間稼ぎが主な戦いは、俺の得意分野じゃないんだなと、鬼火で受けた傷を癒し、更なる怒気をぶつけて来る二体の龍族を眺めながら、ため息をついた。
ちなみにだが、封印術は既に試してみた。というか、今もその効力は……あ、いったん鬼人化したから効果は切れたか。まあ、元々意味のない行動だったがな。
というのも、俺が封印術で封じることが出来るのは、一つの対象につき、一つの能力だ。嵐帝龍と水帝龍、それぞれ、何を封じれば良いかと思ったが、やはり、風や水を操る能力を封じようとした。
しかし、効いたと思ったら、今度は両者とも、魔法を使って風と水を操り始めたのである。どうやら、龍族が能力を使う時、魔法とは別の何かによって、それぞれの名を冠したものを操るようで、それを封じたからと言って、自然現象を操るという龍族の能力を封じるという事にはならないらしい。
そして、流石と言うべきか、魔法だけとなっても、龍族の魔力は膨大だ。何の疲労感もなく連発しているところを見ると、封印術は本当に無駄だったことがよく理解できた。
おまけに、闘鬼神の奴らはまだしも、龍族相手に封印術を使うとなると、俺の力も結構減るようで、鬼人化して、封印術が解除されてだいぶ体が楽になった事を、実感していた。
意味のない技は使わずに、このまま戦っていくとしよう。
さて、態勢を立て直した嵐帝龍と水帝龍は再び、俺に向かって攻撃を仕掛けて来る。
今度は海から同時に水と風の小さな弾丸を飛ばしてくる。今までに比べて小規模の技だな。
難なく廻旋刀で防ぐ。数は多いし人間が飛ばしてくる同様の魔法に比べて威力もあるが、余裕で弾くことが出来る。
何がしたいのだろうかと思っていると、海に居たはずの嵐帝龍の姿が消えていた。
「どこだッ!?」
未だに水を飛ばしてくる水帝龍を気にしつつ、辺りの気配を探ると、すぐ後ろから巨大な気配を感じた。
振り返ると、嵐帝龍が俺の後ろに移動し、そこから無数の風刃を飛ばしてきた。
「舐めんなっ! 剛錬掌波ッッッ! 螺旋斬波ッッッ!」
向かってくる風刃に威力を上げた剛掌波をぶつけて攻撃を防ぐ。水帝龍には、廻旋刀から竜巻を発生させ、そこから斬波を放った。
水帝龍は海の中へと消えていき、嵐帝龍は竜巻を纏って俺の剛掌波を逸らす。
俺は攻撃を止めて、一気に近づき、嵐帝龍が竜巻を解いたことを確認し、目の前に姿を見せる。
「グルアアアッ!?」
「逃がすか!」
再び逃げようとする嵐帝龍の体の一部を掴み、近くから鑑定スキルを通して、体全体を眺めてみた。
何か、気付くかと思ったが、その効果はあったようだ。
先ほどまでは気が付かなかった、妙な魔力の流れを視ることが出来た。それは、嵐帝龍の頭部と胸の辺りから体内を全体的にめぐっているようである。
どうやらあれが、海賊団が嵐帝龍を縛る際に用いている「何か」のようだ。
俺を振りほどこうともがく嵐帝龍。身をくねらせ、俺の手を離させるとともに、巨大な尾で、俺を叩きつけて吹っ飛ばした。
痛みは感じなかったので、そのままの勢いで海の中に飛び込み、姿を消していた水帝龍に近づき、同じ方法で鑑定したが、やはり、嵐帝龍と同様、頭と胸から何か、嫌な感じがする波動のようなものが、体内を駆け巡っている。
「……厄介だな」
二体の龍達が暴れている原因が、体内にあるとは……となれば、こいつらを斬る以外に、正気に戻す方法は、アートルムでツバキ達がリオウ海賊団に勝利し、術を発動させている魔道具、あるいは術者本人を無力化させなければいけないという事だ。
本格的に、俺はこいつらの時間稼ぎを担当することになり、やりづらいとため息をつく。
まあ、元からそれも可能性の一つとして考えていたから、文句は言えない。
とりあえず、戦いやすいように場を整えることにしよう。
「鬼神化ッッッ!」
俺はいったん鬼神化し、無間にありったけの気を溜めた。
そして、ヴァン島の上空へと飛び分厚い黒い雲の中に入って、無間を振り回しながら気を開放する。
「奥義・天葬乱舞流ッッッ!!!」
無間から放たれるいくつもの巨大な斬波で、とりあえず、この付近の雲を消し飛ばした。
青い空が見えて、太陽の光が降り注ぐとともに、周囲の荒天が収まる。
これで幾分か戦いやすくはなったが、嵐帝龍と水帝龍が再び、天候を荒れさせる可能性もある。
そこで、二体の龍族に封印術を施し、二度と天候を操れないようにする。
これで、より優位に戦いを進めることが出来る……じゃないな。これで、ようやく「普通」になった。
鬼神化を解除して、再び神人化のまま、まずは嵐帝龍を弱らせることに集中した。
水帝龍は動きさえ気にしていれば、正直放っておいても良い。海から出ることは無いのだからな。
しかし、嵐帝龍は空でも陸でも海でも、お構いなしに攻めて来ることが出来る。
コイツさえ無力化に成功すれば、少しはゆっくりできる。
何より、コイツの能力で、俺達は今まで自由に行動できなかったのだ。少しは、その憂さ晴らしもしたかったので、ちょっと懲らしめることにした。
「恨みは無え……いや、あるか。少し手荒になるが許せよ!」
「グルウウウウアアアアアアッッッ!!!」
雄たけびを上げる嵐帝龍の顔をとりあえず蹴る。さして効いていないようで、すぐに爪を振りかざしてきた。
好機と思い、迫ってくる爪を叩き切る。
「グオッ!? グルルルアアアアッッッ!!!」
「二個目ッッッ!」
嵐帝龍は、少し驚いた様子になるも、すぐに片方の前足を振りかざしてくる。無論、その爪も叩っ斬り、これ以上の爪撃が出来ないようにした。
狼狽する嵐帝龍の頭上に行き、頭にかかと落としする。
「グギャアアアアアウウウッッッ!!!」
落ちていく嵐帝龍の尾を掴み、振り回してヴァン島に放り投げた。島の木々をなぎ倒しながら嵐帝龍は地面に激突する。
流石にこれくらいじゃ倒れないだろうが、弱らせることには成功した。島に横たわりながら、体の傷を修復しているが、先ほどよりは遅い。明らかに体力は落ちている。
これをこのまま続けるのは結構辛いが、今はこの方法しかない。
完全に回復しきる前に、嵐帝龍に近づこうとする。
しかし、ここで水帝龍が、ひも状にした海水をいくつも俺に結び付けて、動きを止めてきた。
「邪魔をするな! テメエは後だ!」
ありったけの殺意で死神の鬼迫をぶつけ、水帝龍の動きを止める。少し緩んだ拘束を振りほどき、再び嵐帝龍に向けて突っ込んでいく。
僅かに再生させた爪を再び砕き、その後は何度も拳や蹴りで嵐帝龍を弱らせていく。
じわじわといたぶるようなことはあまりしたくないし、カドルやアティラと仲良くなったという事もあり、今の自分の行動に若干の罪悪感を覚えるが、これは仕方ないと思っている。
まあ、カドルの時に関しては、実際に肉体を斬ったからな。アレに比べればマシだろと思いながら、何度も拳を打ち付ける。
「グルルルルルゥゥゥッッッ!」
ずっと思っていたんだが、コイツ等、人の言葉を話さないな。操られている影響だろうか。
「念話」も使えないのだとすれば、意思の疎通は不可能だ。
「語り合おうぜ、拳で!」
……前の世界で仕事の合間に俺を呼び出しては、そんなことを言いながら、俺に向かってきたゴウキの顔がちらつく。
今になっても、あの言葉の意味が分からない。ゴウキなら、この状況下で嵐帝龍や水帝龍の気持ちが分かるのだろうか……。
ズゥン……。
ある程度嵐帝龍を痛めつけていると、島全体が揺れる。何事かと思っていると、水帝龍が上陸し、俺に向かって襲ってきた。
陸地もいけるのか……突進しながら、俺に向けて大量の水を放ってくる。
ひとまず上空へと飛んで、それを躱すと水帝龍の攻撃は嵐帝龍に当たり、吹っ飛ばされていった。
弱っているところに更に追い打ちをかけられた形となった嵐帝龍。それでも闘志は燃えているらしく、地上から俺に風刃を放ってくる。
水帝龍に怒っているわけではない。あくまで、俺は、二体の「敵」とみなされているようだ。陸地で二体の龍族が、また共闘してくるとは思わなかった。
今度は、島内にて、俺と龍族二体の戦いが始まる。その影響で、ヴァン島は壊滅状態となっていく。
……俺は反省しないからな。ジーンにも謝らないぞ。
例え、岩山が無くなろうが、森が更地になろうが、島自体が割れようが、俺は絶対に、ジーンに頭を下げない。
下げるのはこいつ等だ。下げさせるためには……。
「勝たねえとな……」
俺は二体の攻撃を躱しながら、地上へと降り立つ。そして、神人化を解除し、鬼人化した。
これにより、奴らの封印は解除されることになったのだが、そんな隙を与える気はない。
「百鬼夜行ッ! 行けッ!」
すぐさま、鬼火を大量に出現させて、それらを武者の形にして二体に襲い掛からせた。
天界の波動ではないので、奴らに力を与えることにはならない。更に、冥界の波動は、龍族が嫌うものなので、食らおうともしない。
人が羽虫を嫌うがごとく、それぞれ風を起こしたり、水をぶつけたりしながら、百鬼と闘っている。
無論、これだけで龍族に勝つことは出来ない。あくまで、百鬼は隙を作るだけだ。出来た隙をついて、俺が重たい一撃を叩きこむ。
そういうやり方で、最初に比べて、着々と体力を減らしていった。
その後、しばらくして、水帝龍と嵐帝龍から伝わる気配が、出会った時のカドルくらいになる。それでも、災害級よりも少し強い程度だが、龍族にとっては大きな疲労のようで、明らかに、それまでに比べて動きも悪いし、発動させる魔法の威力も、無間を使わずともいいくらいまでに落ちている。
頃合いかと思い、百鬼を手元に戻し、そのまま鬼火を手に集めた。
「原因が解けるまで、おとなしくしておいてくれ。黒縄ッ!」
ルイが気をひも状にして伸ばして相手の動きを止めるように、鬼火を細長く紐の様に射出して、二体の龍族を縛っていく。
「グルルルルアアアアア~~~ッッッ!!!」
嵐帝龍も水帝龍も暴れるが、冥界の波動の塊である鬼火のひもは、何もしなくても、龍族の体力を奪っていく。
「グルルルル!」
「……良し……で、このままで調整……難しいな……」
今の龍族の状態は、気分は高ぶっているが、肉体がそれについていかないという感じだ。
精神的な面は、リオウ海賊団の「何か」だろうが、肉体の方は、俺の所為で力が奪われているという状態なので、これ以上やると、肉体が滅ぶ可能性も出て来る。
だから、冥界の波動の強さを、龍族が拘束を解くことを気にしつつ、緩めないといけない。
最初から最後まで面倒だったなと思いながら、冥界の波動を弱めていき、良い感じのところで止めて、とりあえず、この場での戦いは終わった。
二体の龍族は、未だに、俺に対しての敵意をむき出しにしている。
暴れる原因を、体を解体する以外に、何か方法は無いのだろうか。
そして、今は落ち着いている、というか、無理をしてでも俺を殺そうとする意思は感じないが、こういった感情の起伏のようなものも操ることが出来るのだろうか。
海賊団が追い込まれた時に、嵐帝龍と水帝龍を暴れさせるように仕向けたら嫌だな。
などと思いながらも拘束は緩めない。偶に対話を試みるも、聞こえてくるのは唸り声のみ。
全く見たことのない、それも、この大地の味方とされる龍族に、ここまで敵意を向けられると、流石に堪えるものが……って、これまでの俺の所業を考えると、例え正気でも、敵意は向けられるか。
これは……例えば、この場に奴が来たら、完全に誤解されるだろうな……。
「……っと……あ?」
龍族の動きを止めて考え事をしている時だった。何かが、遠くからものすごい速さでこちらに近づいてくる気配があった。
気配から感じられる強さは、十二星天並だ。サネマサよりは弱いが、コモンよりは強いという感じ。
更に、高ぶるような感情が伝わってくる。何かに本気で怒っているような、強い感情。それが合わさって、気配の方も、すごく大きく感じる。
何が来ているのかと思っているうちに、一つの閃光が上空を飛んでいるのが見えて、それは一気に、俺の元に向かってきていた。
「うおっ!? 今はやめてくれ~~~ッッッ!!!」
ここで邪魔されたら、龍族の拘束が解ける。頼むから、違うところに行ってくれという、俺の願いもむなしく、光の塊は俺にぶつかり、俺はその場から吹っ飛ばされる。
「「ギャオオオオオオオッッッ!!!」」
それと同時に、拘束が解けた龍族は一吠えした後、体中の傷を再生していった。
これで、振出しに戻ったというわけである。
ふざけんじゃねえと内心叫びながら、一体、何が俺を襲ったのかと、飛んできた光に目をやる。
光はスッと嵐帝龍と水帝龍の頭上へと浮かんでいき、更に光を増す。
まぶしくて目を閉じ、再び開けると、そこには一人の女が空を飛んでいた。
深紅の長髪を風になびかせ、俺の事を睨んでいる。背中からは翼、頭からは角を生やしているが、鬼族や俺の様に天に向かって伸びたものではなく、まるで鹿の様に雄々しくひろがっていた。
特徴的なのは、腕と足。ダイアンが部分獣化した時の様に、明らかに人のものではない。
まるで、龍族の様に、鱗で覆われ、爪は鋭く伸びていた。
ここまで来ると、誰が来たかはすぐに分かる。
一応、ジーンを通じて連絡はとったが、セインやリーの事もあって、また、ギリギリまで来ないかと思っていた。
しかし、龍族が関わる以上、何らかの形で関係を持つことになるだろうという事も考えていたので、まさかこんなに早い段階で会えるとは思わなかった。
まあ、向けられている感情は、龍族と同じ、ちょっとの怒気。話は合いそうにない。
だが、意思の疎通くらいは出来るといいなと思いながらため息をつき、無間を構えた。
「……“龍心王”……か……?」
女は、縦に伸びた瞳孔を宿す瞳で俺を見据え、少し苛立ったように口を開いた。
「……ええ。初めまして、冒険者ムソウ。私は、十二星天が一人。“龍心王”エレナ・ドラゴニア。今日限りだけど、お見知りおきを……」
俺の質問に返し、鋭い眼光で俺を睨みつけ、闘気を放つエレナ。シンキやアヤメから聞いていたように、本気で俺に怒っているようである。頼むから話をしたいところだ。
まあ、こうして、明らかに俺を嫌っている十二星天と、最悪な邂逅を果たすことが出来た。
今のところの最悪の出会いだったミサキを更に抜いていったな。
さて、これから、どうしたものか……。
◇◇◇
トレイズ島のギャッツとヴィクソン、それに生き残ったパウル達、冒険者や騎士達は、目の前の光景を、口をあんぐりと開けて呆然と見ていた。
結果から言えば、ギャンザを倒し、自分達を救ったのは、あらかじめ聞いていた天鷹トウウではなく、十二星天エレナだった。
拮抗していたギャンザとギャッツ達の攻撃。激しくぶつかり合うも、ギャッツ達側の魔力が尽きてきて威力が落ちてきたことを皮切りに、ギャンザの技が、じりじりとギャンザ達に近づいていく。
しかし、ここで両者にとって、思いもよらない事態が発生した。
「どきなさい……!」
「なあッ!? ――」
突如、十二星天エレナが現れ、ギャンザの体を雷で打ち抜くと同時に、その首を切り裂いた。
あっという間にギャンザを倒した後は、龍言語魔法・白銀の地獄と大神の雷撃で、全ての海賊や魔物達を雷で打ち砕き、強烈な冷気を当てて全滅させた。
その後、驚愕するだけのギャッツ達に、自分がここに来た経緯を説明し、冒険者ムソウの行方を確認した後は、一人でヴァン島まで飛んでいった。
魔物や海賊、船ごと海を凍らせ、白だけの景色になった海を眺め、冒険者の一人パウルは、小さく震えていた。
それは、冷気から来るものではなく、単純な恐怖心からである。
「こ、これが……十二星天の本気……!」
壊蛇襲来以来、十二星天が闘うことは滅多になくなった。ギャッツをはじめ、その場に居た若い世代の冒険者や騎士達は、十二星天が闘った跡を目にして、完全に言葉を失っていた。
「……まあ、エレナ様がこっち側で良かった。これならムソウさんも……いや、天上の儀の段階では、エレナ様もセイン様達と同じ考えだったな……どうなることやら……」
支部長会議にて、セインが冒険者ムソウに対して、強い敵意を抱いているという事はその場で感じたギャッツ。
そこから、天上の儀が終わるまでに、ムソウを巡って、十二星天内でも亀裂が入っていることは周知の事実である。
エレナが海賊達と敵対しているという事は明らかになったが、ムソウに対してはどうなのか、ギャッツも不安を隠しきれない。
仮に二人が本気でぶつかったら……そう思うと、更に体の震えが止まらない。
そんなギャッツに、とりあえず、この場の後処理をしようと、騎士団のヴィクソンが提案した。
「ムソウ殿とエレナ様がどうなるかは、私達が気にしても仕方ないことだと思います。ひとまず我々は、この場を片付けて、次に備えることにしましょう」
「……そっすね。アートルムの様子も分からない今、素早く態勢を立て直すことにしましょう。ちなみに、ヴィクソンさん。騎士団本部との通信は可能っすか?」
「いや……どうやら闘っている時に壊れてしまったようです」
「そっすか。なら、とりあえず、生き残った皆の体力を回復することに専念しましょう。船がまだ、三隻ほど残ってるんで、そこを仮の保養所にして……」
ギャッツとヴィクソンの指示で、生き残った冒険者達は次の行動に移る。この場は随分と減ったが、アートルムは果たして大丈夫なのだろうか。
ギャンザがEXスキルを宿していた以上、海賊団の頭目であるリオウも、同等以上の力を宿している可能性が高い。
覚悟はしていたが、これほどまでに熾烈な争いになるとは思っていなかった。
次にまた、同じような敵が現れたら、今度こそ終わりだ。少しばかりの不穏な気配を残しつつ、トレイズ島の防衛戦は、いったんの収束となった。




