第42話―温泉に入る(男性陣)―
今回は、前半ムソウ目線、後半ミサキ目線となっております
俺が、ミサキの契約獣どもを叱っていると、先に風呂に入っていた、ミサキたちが戻ってきた。これで、俺達もようやく温泉に入ることが出来る。
あ、リンガが、ぴよちゃんとジンラン、サンロウシを殴っている……。とても、痛そうだが、庇う必要もないかと、温泉に向かおうとした。
ふと、エンテイが俺に両手で何かを渡してくる。
「なんだ?」
「いえ……この子、どうしましょう?」
エンテイが手を開くと、寝ているリンネが居た。うるさくて目が覚めて、また、ひとしきり遊んで疲れたみたいだな。口元を指でつつくと少しもじもじしながらも、目は覚まさなかった。このまま起こさないようにしておこう。
「……悪いが、エンテイ。そのままにしておいてくれ、頼む」
「かしこまりました」
エンテイは頷き、その場に座り、膝の上にリンネを置いた。うん、これで大丈夫そうだな。
「エンテイ、ミサキたちがうるさかったら……わかってるな?」
「はい……」
「え? 二人とも何か言った?」
「いや、別に……」
「何でもないですよ」
首をかしげるミサキは放っておく。……エンテイ、もうお前だけが頼みなんだからな。本当に、頼む……。
さて、では温泉に行くか……と思ったら、ぴよちゃんたち、がまだリンガの説教を受けている。仕方なく、ウィズと先に入ることにした。
今日もいい天気だ……。星が良く見える。
「いやあ~、気持ちがいいですね。久しぶりのお風呂です……♨」
ああ、ずっと囚われていたんだもんな。入りしなに爺いみたいなことを言って頭を抱えたが、こればかりは仕方ないか。
「やっぱり、普段はお前も魔法を使って風呂に入るのか?」
「ええ。火炎鉱石って意外と高いんですよ」
それは知らなかったな。精霊人たちは普通に使っていたが……。近くに採掘場でもあるのか?
聞けば火炎鉱石自体は割とどこにでもあるのだが、採集が難しいらしい。なんせそのままでも熱いからな。熱を遮断する道具と、異界の袋は必須だという。精霊人たちはおそらく、魔法により持ち帰っているのかもしれません、とウィズは付け足した。
「どこにでもあるものだけど、採集、捕獲が困難なものを、一般の家庭でも使えるようにしたいという願いも、ギルド創設の理由の一つとも言われています」
「なるほどな。だから火炎鉱石の依頼も割と報酬が高めだったんだな」
マシロのギルドの依頼では確か銀貨100枚だったな。精霊人たちが普通に使っていたものがそれほどまでになるのかと思っていたが、そう言う理由だったか。
「そう言えば、ウィズはどんなスキルを持っているんだ?」
「俺ですか? 鑑定眼でも使えばいいのに……」
「いや、必要最低限の時には使わないようにしているんだ。こうやって聞いた方が早いからな」
「ああ、そう言う人もいますね。……けど練習もしないと、いざというときに困りますよ」
それも、そうだ。今後、採集依頼をすることになったり、調合をしたりするときには鑑定スキルは必要になってくるって精霊人の長老も言ってたしな。この際に、ウィズを鑑定してみるとしよう。
「では、失礼する……」
俺は鑑定眼でウィズを視た
・・・
名前:ウィズ・ケイロン
年齢:20
出身:不明(現段階では視れない)
職業:冒険者、魔法使い
種族:人間
所持武器:キメラの手袋、キメラの皮衣
スキル:鑑定、調合、調理、武術、剣術
技:不明(現段階では視れない)
……
惜しい! 出身と技だけが見られない。だが、前と比べて視えるものが増えたみたいだ。
「お、剣術と武術スキルも持ってんだな」
「ええ。魔法戦士であるうちの家系ではもって生まれることも多いみたいです」
「その、魔法戦士って具体的にはどういったものなんだ?」
ウィズに聞くと、魔法戦士というのは、その名の通り、魔法も使えて、肉弾戦でも闘える者のことを差すらしい。また、魔法を武器に宿し、威力を上げるという戦法も取るという。
魔法を使えるということは、剣術のみならず、魔法を覚えることもしなくてはならないため、この大地で、魔法戦士と呼ばれる人間は少なく、ウィズの兄弟含め、王都ウィニアで王宮戦士として活躍している者数名のみ存在するという。
ただ、ある程度の実力を持つ者、例えば、ギルド支部長くらいになると、独学でそういった技を使う者も多いという。そう言えば、ロウガンは毒の魔法を刀に宿していたなあとふと、思い出した。
「……さて、俺のことは話しましたが、ムソウさんのことはまだですね。視させていただきます」
「俺のことは試験の時に話しただろう?」
「それから強くなっているでしょう? 何か変化があるかもしれませんからね」
どこか、うずうずした様子で、ウィズは鑑定眼で俺を見る。
「あ、技が増えていますよ」
「だろうなあ、結構増えたと思うぞ。もともと、俺が前の世界で使っていたやつに、この世界のスキルで覚えた戦法と混ぜたらどんどんできるようになったからな」
「他は……特に変わってないですね……。剣術も、武術も極めていません……極めてなくて、あの強さってことですか……?」
「どうだろうなあ。逆に極めるとどうなるのかな……?」
俺とウィズはぼんやりと俺がその二つを極めた時のことを想像してしまった。ウィズが何を考えているか知らないが、俺の場合、刀を振っただけで、山一つが消滅、拳を出しただけで、城が崩れるところを想像して、思わず吹いてしまった。
「……ハハハハッ!いや、ないな……」
「ムソウさんが何を想像したかわからないですが、俺はあると思いますよ……」
俺とウィズがそんな話をしながら星を眺めていると……
「やれやれ、ひどい目にあったわい……」
「いや、まだ続いているだろ……」
「どうしたものか……」
お、四神達がリンガに解放されたみたいだ。皆ぐたっとしている。こってり、絞られたようだな。
「おう、終わったみたいだな」
「おお、ムソウ殿……そうだな、えらい目にあった」
「何かあったんですか?」
「ミサキ様がな……いや、何でもない……」
ん? ぴよちゃん、なんか歯切れ悪いな。何か気になるな……。コイツ等が歯切れ悪い時は、何かしらあるもんな……。何だろう……?
まあ、良いか。皆もそろそろ疲れているだろうし、早く入れてあげるか。……って、ぴよちゃんはそのままか……。
「ぴよちゃん様はそのまま入るのですか?」
「う……うむ。やはりこの姿のままの方が落ち着くからな」
「そう……ですか。では先にお湯で汚れを流した方がよろしいですね」
「あ、ああ。そうしてくれ」
ウィズがぴよちゃんを洗おうと立ち上がろうとする……。
その瞬間、俺は、妙な気配を察知した。
……なんと言うか、敵意でも殺意でもないが、変な気配だ。何となく、このままウィズを立たせるわけにはいかないと思ってしまった。
「待て! ウィズ!」
「はい?」
俺がウィズを止めると、ウィズはやはり不思議そうな顔をしている。
「俺が洗うよ。お前は久しぶりの風呂なんだろ? それに病み上がりだ。温泉くらいゆっくり浸かれって」
「ムソウさん……お言葉に甘えさせていただきます」
ウィズは頭を下げて、再びゆっくりとし始める。
よし、これでいいはずだ。俺は、風呂桶で温泉のお湯をすくい、ぴよちゃんにかけてやる。ぴよちゃんは何かぶつぶつ言っているようだが聞こえない。
何だろうな……。
一通り、ぴよちゃんを洗い終えた俺達は、ゆっくりと湯に浸かる。だが、やはりぴよちゃんが入ると少し狭いな。
「むう、ぴよちゃん殿、もう少し寄ってくれんか?」
「いや、限界だ、サンロウシ殿!」
「ええい、仕方ないな……ウィズ殿、すまんがもう少し寄ってくれんかの?」
「あ、はいわかりました」
若干、余裕があるウィズが皆の為に移動しようとした。
だが……またしても妙な気配がした。ウィズを動かせたら駄目だと、なぜか直感的に思った。
「ああっ! さすがに俺はのぼせてきたな! ……ウィズ! 動かなくていいぞ。俺はそこの岩に腰かけて涼んでおくからな……」
「あ、はい」
俺はそばにあった岩の上に座り、ウィズはその場から動かないようにした。……よし、なぜかわからないが良し! と思った。
四神たちは目を見開き、どこか諦めたような顔をして、項垂れる。やはり、何かしていたのか? まあ、妙な気配は……まだ若干あるが、そこまで感じないし、このままゆっくりとしておこう。
「む? ムソウ殿は体中に傷があるみたいだな……」
ふと、ぴよちゃんが俺の方に顔を向けた。すると、ウィズもジンランもサンロウシもこちらを見ている。
そんなに、ジロジロみられると、少し、恥ずかしい。傭兵やってて傷だらけになるなど、当たり前のことだろうと思っていた。
「ん? ああ。お前らにもあるんじゃないのか?」
「めったには無いな」
「ある程度なら回復薬や、魔法で治せますからね」
「ああ、そう言うことか。俺らの世界ではそんなものなかったからな」
「なにっ? そのような状態で、怪我をしたらどうやって治すというのだ?」
「そりゃ、薬草を塗り込んだりだが、傷自体を縫うというやり方もあるぞ。ちょうど、この傷だな」
そう言って、俺は左肩から、右側の腰に掛けて、斜めに入った傷を皆に見せた。
「こいつは、仲間を護ろうとして付いた名誉の傷だ。斬られたが、俺も敵を斬った。仲間は助けてやったというのに、ボロボロ泣いてたな」
俺が笑っていると、皆は感心したように頷く。
「凄まじい話じゃの~。ではこれはなんじゃ?」
「おお、サンロウシ! これはな……」
そうやって、皆は俺の傷跡について、色々聞いてくるが、それに全部応えていった。傷の数だけ、俺の中に物語があるからな。
「……だが、それも減ってきたな。俺が傷を負わなくなった。ウィズ、なぜだかわかるか?」
ウィズはじっくりと考え込んだ後に、おずおずと口を開く。
「ムソウさんのお仲間も強くなったからですか?」
「そうだ。だから、どんな時でも、俺はあいつらを信じられた。さっきしてやった砦の話もそうだ。
俺を信じ、小刀を渡した奴、名前はツバキという。あいつもどんどん強くなっていってな、俺と共に密偵をすることも増えていき、その度にあいつの機転の良さに助けられたものだ……。
そして、その時の隊長で作戦だと言い張っていた馬鹿、名前はハルマサ。少し抜けているお調子者で、砦の戦いのときも俺を怒らせたが、その分、幾度も俺を助けてくれた。
……俺の人生で一番辛かった時、奴は命がけで、俺を救ってくれた。
二人以外にもたくさん、俺の仲間は居た。皆、俺よりずいぶん年下なのに、俺のことを仲間の一人と認め、一緒に笑い、一緒に怒り、一緒に泣き、一緒に戦い続けた。
……もう、あんな仲間たちはいないだろう」
星空を見ながら、前の世界の仲間たちの顔を、一人一人思い出す。もう、ずいぶんと会っていない気がする……。もう、会えないからかな……。
ふと、温泉の側にある茂みが気になり、目を向けた。
「……そして、この世界に来てから、俺は仲間たちとも離れたことになるが、どうしようもできないからな。変な感じだが、諦めはついている。
……だが、お前たちという新たな仲間もできた。だから、俺は、今も幸せなんだ。過去にどんなにつらいことがあったとしても、その後、俺を救ってくれた友のために、そして、俺に忘れさせまいとしてくれた家族のために、俺は明日も笑って、生きていきたいのさ」
茂みは何やらガサガサと動いていた。……やっぱりか。まあ、いいや。俺も疲れたし……。
「……ムソウさん?」
「ああ、ウィズ、何でもない」
そうですか、と呟き、ウィズはニコッと笑いながら、しばし、四神たちと風呂を楽しんだ後、上がった。続いてぴよちゃん、ジンランも上がっていく。
俺はサンロウシと年寄り同士、二人で湯に浸かりながら、ぼーっと空を眺めている。
「……なあ、サンロウシ」
「……なんじゃ? ムソウ殿」
ふと、気になったことがあったので、サンロウシに尋ねてみた。
「長生きするのもいい話ばかりじゃないよな……」
「そうじゃのう。じゃが、儂に限ってはそんなことはないぞ?」
「何故だ?」
俺が聞くと、サンロウシは笑って、
「儂は昔も今も楽しい……」
そう言って、笑みを浮かべたサンロウシは、のぼせそうじゃと言って、風呂から上がっていく……。
俺はサンロウシの言葉を聞き、しばらく星空を眺めていた。
……昔も今も楽しい、か。
サンロウシの言葉を思い出し、少し可笑しな気持ちになって、笑った。その後、そろそろ眠くなってきたということもあり、俺も風呂から出た。
皆の話し声が聞こえる……近づいていくと、ミサキが俺に気付き、にこっと笑った。そして、寝ているリンネをそっと手渡してくる。
ミサキは人差し指を口の前にやり、また、にこっと笑った。俺は、そんなミサキの頭を撫でて奴た。いつもより、何となく嬉しそうだな。頭に手を当てて、へへへ~とか言ってる。
その後、俺達はミサキの家に移動し、皆で共に寝た。頭の横にはリンネがいる。すやすやと寝息を立てるリンネの頭を指で撫でた。
―……サヤ……カンナ……こっちでも、家族みたいのが増えた……―
俺は布団をかぶり、皆より少し早く、そのまま眠っていった。やっぱり歳かな……。
◇◇◇
お風呂から上がって、ムソウさんたちの方に行くと、ムソウさんが覗きをした3人を叱っている。何、自分たちだけで楽しんでんだ、とか、ウィズを放って置くなとかいろいろ言っている。
それを目にした途端、リンガが、三人をグーで叩き始めた。
リンガって意外とああいうので怒るんだ……。
「ねえ、リンガ、その辺にしたら?」
「い~や、ミサキ。もう少しお灸を据えねえと俺の気が収まらん」
リンガはそう言って、三人に説教を始めた……。言動も何もかも男らしいリンガが、覗きで怒っているのは少し新鮮だなあと感じる。
ふと、私の名前が呼ばれたような気がした。見ると、ムソウさんとエンテイが何やら話しているみたい。
「え?二人とも何か言った?」
「いや、別に……」
「何でもないですよ」
二人は、真顔で私に返した。……なんか、怪しいなあ~……。
その後、ムソウさんは異界の袋から、寝る時用のなのか、服を取り出した。一見すると洋服に近い。何か、民族的な模様が描かれていて、とてもきれいなものだった。
「ねえ、ムソウさん。それ、なあに?」
「ん? 前に行った精霊人の集落で貰ったんだ。ちょうどいいから寝間着に使っている」
あ、そうか。ムソウさんこないだまで精霊人の森に居たんだもんね。それなら、持っていて当たり前か。
精霊人の服って、あまり出回らないからなあ……私も欲しいかも。ムソウさんには関係ないかも知れないけど、魔力操作向上の付与効果がついているものも多いし……。マシロに居る間に買っておこっと。
……って、あれ? ウィズ君は? 何も持たずにお風呂に行ってる……。
「ウィズ君、着替えは?」
「持ってきてないですからね……またこれに着替えるしかないかな……」
そう言って、ウィズ君は自分のローブの中の普段着を指さす。どこもボロボロだ。これだと、お風呂に入っても意味がない……。
「駄目だよ! それじゃ、せっかく入っても汚れたままじゃない! ……ちょっと待ってて」
私は異界の袋から、男物の下着と、浴衣と、タオルを出して、ウィズ君に渡した。何で、持ってるかって? ジンランとかサンロウシ用なんだけど、新品だし、良いよね。
「それで、体拭いて、それに着替えてね!」
「……よろしいのですか? ありがとうございます。これは、クレナの方で、よく見るユカタというものですね……着方がわかりませんが、何とかします」
「あ、それなら後で私が――」
「お、それなら、俺が教えてやるよ、ウィズ」
私の言葉を遮り、ムソウさんがウィズ君に浴衣の着方を教えることになった。む~~~!!!
「さて、じゃあ、そろそろ行くか……ってあいつら、まだ……」
ムソウさんはぴよちゃんたちの方を向きながら、頭を抱えている。三人はまだリンガの説教を受けていた。
「仕方ない。ウィズ、先に行くぞ」
「え、あ、はい」
ムソウさんはウィズ君を引っ張って、温泉の方に向かった。ムソウさん、意外と、温泉好きなのかな。昔話でも、出てきたし……。サヤさんと初めて会った日も温泉で、色々あったみたいだし、見たら、色々思い出すのかも……。
私は二人を見送ったあと、エンテイのところへ行った。そこではエンテイの膝の上で眠るリンネちゃんを、ハクビさんとレイカちゃんが眺めていた。
……なんだろう、超可愛いい~! なんと言うか、今まで泣いていた、赤ちゃんがようやく静まって、それを眺めているお母さんと、お姉ちゃん達みたいな構図がたまらんのですなあ!
いけないいけない……。また、変なこと考えちゃった。私がそっと近づいていくと、エンテイと、レイカちゃんは私に気付いたようだ。
「あ、ミサキちゃ――」
レイカちゃんが話そうとするのを、エンテイが口を押さえて止める。
ムスッとするレイカちゃんにエンテイとハクビさんはリンネちゃんを指差し、人差し指を口の前に持っていき、しーっとしぐさをした。
それを見た、レイカちゃんもしーっとした。ふふ、レイカちゃんも可愛いなあ。やっぱり年上って言っても精神的には子供かな……。
私はエンテイの横に座り、リンネちゃんを眺めた。さっきまで私たちを沈めようとしていた子とは思えないくらい、可愛い寝顔をしている。
……何の夢を見ているんだろ。さっきから前足を上げては下げて、上げては下げてを繰り返している。そして、また上げて……、あれ、下げない。そのまま止まった……と思ったらポテッと下げて、
「キュウゥゥゥ~」
……私たちはその場で悶絶した。少なくとも私とエンテイはしたはずだ。エンテイもいつになくだらしない顔で笑っている。ちょうど、お母さんが、あらあら、まあまあ、というような顔だ。ハクビさんも、手を顔に当てて、尻尾をすごく振っている。
うん。ハクビさんも可愛いよ……。
良いなあ、リンネちゃん、ずっと見てみた――
「……って言ってるだろ!」
「それは嫌だな」
「我もだ」
「儂だって、いやじゃ」
……ん? リンガたちがうるさい、何をそんなに白熱してるの?
って、あーーーーっっっ! リンネちゃんがもぞもぞと動き出した。起きようとしてる。やばいよやばいよ。
「キュ……キュウウウ?」
やばい、今にも起きそうだ、……って、え~~~~~!? エンテイがすごく怒っている。炎を飛ばそうと魔力を高めている! 私は急いで念話でエンテイに語り掛ける。
『駄目だよ! エンテイ! あなたが怒って炎を飛ばしたら、確実にリンネちゃん、起きちゃうよ! ここは、「癒しの炎」でリンネちゃんを癒してあげて!』
『ハッ……私としたことが……申し訳ありません、ミサキ様。早速、取り掛かります』
『うん。その間、私は、リンガたちをおとなしくさせとくからね』
私は立ち上がり、リンガたちの方へ歩き出す。背後では、レイカちゃんがリンネちゃんをゆっくり優しく撫でて、エンテイが柔らかくあったかい炎を出していた。エンテイの使っている技は、癒しの炎。戦場で傷ついたり、パニックになった人たちを落ち着かせる優しい炎。
幻術魔法による錯乱状態からも回復させることが出来る暖かい炎により、リンネちゃんは段々と落ち着いていく。
ちなみに、ハクビさんはオロオロしている。
「きゅっ?……キュウウウゥゥゥ~~~~……」
良かった。リンネちゃんはまた眠ったみたい……。
もうッ! あの子たちったら、何をしてるのよ!
私がリンガたちの所へ行くと、リンガと三人が言い争いをしていた。
「ちょっと、あんた達!」
「おお、ミサキ、ちょうどいいところに――」
「こっちに来なさい!!!」
私が怒鳴ると、四人は目を見開いて、私に近づいた。私が怒鳴ることなんて、めったにない事だからね。私も皆には出来るだけ怒りたくない。だって、いつも迷惑かけてるって自覚してるから。でも、これは仕方ないよね!
「な、なんだよ、ミサキ……」
「そうじゃぞ? たかだか覗きくらいで……ゴニョゴニョゴニョ」
たかが、覗きって、サンロウシは反省しないなあ~。でも、まあ、今はこの際どうでもいい。
「あのね、あんた達がうるさいから、リンネちゃんが起きそうになって大変だったんだからねッ!」
私がそう言うと、皆はエンテイたちの方を眺めて、また、私の方に向き直った。
「……そうだったか……そいつは悪かったな、ミサキ」
「儂との遊びに疲れていたのにのお。悪いことをしたな……」
「我もすまなかったな」
「我もだ。少し、羽目を外し過ぎました……」
四人が謝ってくれた。皆にとっても、リンネちゃんは大切な神獣の後輩だからね。分かってくれるのが速くてホッとする。私は、四人を許した。
「……それで、何をそんなに言い争っていたの?」
私が聞くと、リンガが口を開いた。
「三人への罰さ。ミサキの言うことを三つまで何でも聞くって言ったら、こいつら反論しやがったからさ、つい声を荒げてしまった……」
え、反論するの? 私の契約獣だよね? 私の言うことを聞くっていうのは当然のことだよね?
「ミサキ様の言うことを聞くというのは、つまり、炊事などを、今までエンテイ殿がしていたことをするということだな。我は出来ないぞ……」
「無論、我もだ」
「儂もじゃな……」
ぴよちゃんが言うと、二人も続けて頷いた。
「あ、そういうことね。でも、何かしらの罰は必要よね~」
私がそう言うと、リンガはうんうん、と頷く。
今までこういうことなかったからなあ……。どうしよう。私、皆に罰を与える立場にもなっていたってことに今更ながら気づいたよ……。
何しようかな……。
あ、そうだ。良いこと思いついた!
「ねえ、リンガ。私に考えがあるから、エンテイたちのところに行ってて」
「ん? そうか。ミサキに考えがあるなら、そうするわ」
そう言って、リンガは皆の居る所へ歩いていく。どうせ、ろくな考えじゃねえだろうな……とか呟くのが聞こえる……。
その通りだよ、リンガ君!!!
私はキョトンとしている三人に近づいていく。
「ねえ、これから私の言うことをしてくれたら、今回のことは許してあげる」
私はニッと笑って、三人に言った。三人は何か微妙な顔をしている。
私は三人を連れて、温泉の近くまで行った。そこはちょうど茂みの多い場所で、温泉からは見えない場所になっているけど、温泉のある一部分だけ見える。簡単に言うと、覗きに最適な場所なのね。
というか、さっきぴよちゃんたちが私達を覗いてた場所なんだけどね。
そう、私はさっきの「男子が女子の裸を見ちゃって、男子が女子を意識し始める作戦」を変えて、ウィズ君の裸を覗いちゃおう作戦に変更したのだ……!
「いい? これから、あの手この手を使って、ウィズ君をちょうど、あの岩と岩の間のところに誘い込むの。わかった?」
私が三人に指示すると、やはり、微妙そう、というか、嫌そうな顔をしている。
「ミサキ様がウィズ殿に抱いている感情については察しがついていましたが、ここまで来ると我も何も言えませんな」
「全くだ。つまり、我らは覗きで咎められているが、それを許す代わりに、覗きの手伝いをしろ、と言われているのだからな……やれやれ、どうしたものか」
「ミサキ殿は変なところに気が回るからのう……。して、バレそうになったらどうするんじゃ?」
お? サンロウシは流石、ちょっと乗り気みたい。辛辣なことを言っているようで、声は弾んでいる……。やっぱり亀でおじいちゃんは助平って相場は異世界でもおなじみたい……。
「その時は念話で指示するから、よろしくね」
私は三人に指示を出すと、ぴよちゃんとジンランは、はあ、とため息をついて、どこか呆れながら、ムソウさんたちの方へ向かって行った。サンロウシだけは、少し、楽しそうな足取りだった。
こういう、テレビのドッキリ的なノリはやっぱり何年経っても好きだなあ~。
さて、じゃあ、作戦決行~~~!!!
まず、第一関門はムソウさんにバレない様にする、だけど、上手くいったみたい。今のところは大丈夫ね……。
けど、やっぱりここからじゃ見えないな……。
そう思っていると、ウィズ君がぴよちゃんに声をかけた。
「ぴよちゃん様はそのまま入るのですか?」
「う……うむ。やはりこの姿のままの方が落ち着くからな」
「そう……ですか。では先にお湯で汚れを流した方がよろしいですね」
「あ、ああ。そうしてくれ」
お、ぴよちゃんナイス! そこで、洗ってもらったら、確かにここからウィズ君の裸が見られる!
はよ来い~、はよ来い~。は、鼻血が出そう……もう少しで……ウィズ君の……!
「待て!ウィズ!」
……と、ここでムソウさんの声が響いた。え、何事?と思っていると。
『ミサキ様、どうやら、ムソウ殿がウィズ殿を気遣って、私の体を代わりに洗い流してくれるみたいです』
……なんだって~~~~~!!!???
なんという、タイミングの良さ! ムソウさん、感づいてるのかな?
『……バレてる?』
『いえ、そんな気配はしません。どうしますか? 無理やりにでもウィズ殿に洗ってもらいますか?』
『う~ん、ここでそうしちゃうと、ますます怪しいから……仕方ない。そのままにしておいて……』
『了解しました……』
むう~、あと少しだったのに~。
ムソウさんがぴよちゃんの体を洗い始める……。もう、ムソウさんの裸って誰得なのよ~。私が見たいのはウィズ君なのに~。
って、ムソウさんの体、すご! 傷、多! どれくらい戦ったらああなるの……?
おっと、そんなことはどうでもいいわ。
次の作戦を考えないと……。えーとえーと……。
というか、ぴよちゃんも、なんだかんだ、少し楽しそうな気配が念話から届いてきた。また、皆の意外な一面が知れて、ますます、楽しくなってくる。
『ミサキ殿?』
突如、サンロウシからの声が聞こえた。
『……何?』
『儂に考えがあるのじゃが、やってもよいかの?』
お、さすがサンロウシ。無駄に歳とってない! それにやっぱり、ノリノリみたい! 未だに何も言ってこないジンランと違って、協力的だ! 私達を覗いていた時とは逆に、これほど頼もしい味方は居ない!
『いいよ! やっちゃって!』
私はサンロウシの言葉に頷き、温泉の方に耳を傾ける。ムソウさんはぴよちゃんを洗い終えたようだ。
そして、ぴよちゃんがウィズ君とは反対側に座った。あれでは、いっぱいいっぱいに違いない……。窮屈そうだなあ、なんて思っていると、サンロウシの声が聞こえる。
「むう、ぴよちゃん殿、もう少し寄ってくれんか?」
「もういっぱいみたいだぞ!」
「ええい、仕方ないな……ウィズ殿、すまんがもう少し寄ってくれんかの?」
「あ、はい、わかりました」
おお~! サンロウシ、ナイス! そう、そのままウィズ君がちょっと寄ると、ちょうど私に見える位置に来るのだ! ありがとう! サンロウシ。
これで私は、ウィズ君の体をじっくりと見ることが出来る!
さあ!
さあ!!
さあ!!!
「ああっ! さすがに俺はのぼせてきたな! ……ウィズ! 動かなくていいぞ。俺はそこの岩に腰かけて涼んでおくからな……」
またしても、突然ムソウさんの声がした。ムソウさんはそう言って、私の見えている岩の上に腰かける。ウィズ君は動かず、ちょっとも姿が見えない。
DA~KA~RA~! ムソウさんのじゃないの~。ウィズ君のがみたいのおおお~~~!!!
確実に気付いているよね、これ……。若干、パニックになる私。
『ねえ、どうなってるの!?』
『こっちでもわかりません!』
『ただ、ムソウ殿は何かに感づいているようではあるが……』
『別の話をして、気でも紛らわそうか……』
そう言って、サンロウシはムソウさんの体の傷について触れた。最初は肩口から腰についた大きな傷跡について。
仲間を護るためについた傷だって……。うわあ~、凄まじい話だな。護られた仲間は、泣いていたって……私でも、もしムソウさんが私を護ろうとして、あれだけ斬られたら卒倒しちゃうよ~。
次の傷は、肩についたものについて。罠に引っかかって四方から矢の雨が降ってきた時に、仲間をかばおうとして、刀を振り回して防いだけど、防ぎきれなかったものらしい。罠にかかった仲間を護ろうとして……か。私も今日ギロチンに斬られるところだったんだよね……。ムソウさん、昔から苦労してるんだな……。
その後もサンロウシや、皆からの質問にムソウさんは答えていく。仲間との稽古中につけられた傷、この時は流石にその仲間も泣いていたらしい。
仲間の飼っていた狼に噛みつかれたときの傷、狼を殴ると、その仲間にひどく怒られたが、ムソウさんも怒鳴り返したら、その仲間と狼が震えあがっちゃったって。
100人に囲まれて一人で戦ったときについた傷、あと少しで100人全滅というところで仲間たちが来て、怒っちゃって、仲間たちに呆れられたという……。
私はいつしか、ムソウさんの話を皆と一緒に夢中になって聞いていた。ジンランに頼んで聞いてもらった手の甲にあった傷は、夫婦げんかの際に出来たものだという。包丁を投げられて、それを手の甲に受けたら刺さってしまったらしい。その後、子供が泣いて、二人とも従者にこっぴどく怒られたという。サヤさんとカンナ君と、エイシンさんのことだ……サヤさん……怖い……。
お腹の所にある傷は、結構新しいもので、ムソウさんが今までで一番強い敵と戦った時に、つけられたもので、これも、仲間を護る時にやられたって言いながら、ムソウさんは笑っていた。
「……だが、それも減ってきたな。俺が傷を負わなくなった。ウィズ、なぜだかわかるか?」
「ムソウさんの仲間も強くなったからですか?」
話を聞いているとムソウさんの問いにウィズ君が答えた。ムソウさんは頷いて、また、話しだす。
「そうだ。だから、どんな時でも、俺はあいつらを信じられた。さっきしてやった砦の話もそうだ。
俺を信じ、小刀を渡した奴、名前はツバキという。あいつもどんどん強くなっていってな、俺と共に密偵をすることも増えていき、その度にあいつの機転の良さに助けられたものだ……。
そして、その時の隊長で作戦だと言い張っていた馬鹿、名前はハルマサ。少し抜けているお調子者で、砦の戦いのときも俺を怒らせたが、その分、幾度も俺を助けてくれた。
……俺の人生で一番辛かった時、奴は命がけで、俺を救ってくれた。
二人以外にもたくさん、俺の仲間は居た。皆、俺よりずいぶん年下なのに、俺のことを仲間の一人と認め、一緒に笑い、一緒に怒り、一緒に泣き、一緒に戦い続けた。
……もう、あんな仲間たちはいないだろう」
ムソウさんは、ふと、星空を何か、懐かしいものを見るような穏やかな目で眺め始めた。昨日の夜、ムソウさんの記憶を覗いたとき、私は辛くて、途中で止めてしまった。
ムソウさんは、怒るどころか、なら、その先も見ろって言ってた。あの辛い出来事の後にあった出来事。それがこのことなのかな……?
なんて思っていると、ムソウさんがこちらを見て、目線が合った気がしたが、気の所為だったと思ったのか話を続ける。
「……そして、この世界に来てから、俺は仲間たちとも離れたことになるが、どうしようもできないからな。変な感じだが、諦めはついている。
……だが、お前たちという新たな仲間もできた。だから、俺は、今も幸せなんだ。過去にどんなにつらいことがあったとしても、その後、俺を救ってくれた友のために、そして、俺に忘れさせまいとしてくれた家族のために、俺は明日も笑って、生きていきたいのさ」
ムソウさんの言葉に、私は思わず泣きそうになってしまった。昨日会ったばかりなのに、ムソウさんは私たちに対して、そこまでのことを思っていたなんて……。
もともとはサネマサさんが言うような人なのか気になって、私は見極めに来ただけなのに……そして、良い人なら、もしよかったら……。
そう思っていただけなのに……。
ムソウさんの中では私たちはもう、前の仲間と同じくらい、大切な仲間になってたんだ……。
私は泣くのを我慢できずに手で顔を抑えるのに必死だった……。
……しばらくして、ぴよちゃんとジンラン、サンロウシが風呂から上がって、私の方に帰ってきた。皆、目を腫らしてしまった私を見て、無言で慰めてくれた。
……その後、私たちは皆のところに戻った。リンガも機嫌が治ったのか、リンネちゃんを起こさないように、静かに、おかえりと、ぴよちゃんたちに言った。
そして、エンテイも私に、おかえりなさい、と言った。
私が、ただいま~って言ったら、皆、笑ってくれた。ハクビさんも、レイカちゃんもウィズ君も。
そうか……私はこの後、この皆と一緒に旅をするんだね。
こっちの世界に来て、十二星天の皆以外の人と旅するのって初めてかも。皆が言うように、私が弟子をもって、皆を引っ張っていくなんて、出来るかなって、正直に言うと、不安だった。
でも、不安じゃないなって思った。だって、皆、私に、おかえりって言ったから。私もただいまって言えたから。だから、何も怖くない……。
次からの旅は、私もこの大きな家族、仲間たちをしっかりと護っていこう……。
ふと、そんなことを思っていると、ムソウさんが戻ってきた。ムソウさんが明日も楽しく生きていけるように、私は私なりにムソウさんを幸せにしよう。
そう思って、エンテイからリンネちゃんを預かり、しっかりと抱いて、ムソウさんに渡した。そして、しぃーってやって、笑った。
ムソウさんは、一瞬キョトンとしたけど、フッと笑って私の頭を撫でてくれた。
前もされていたけど、今日はなんだか、あったかい気持ちになった。
その後、私たちは家に帰って、寝る準備をした。俺はもう寝る、って言って、ムソウさんが先に家に入っていった。
そして、私達も火を消して、片付けを終わらせて、家の中に入った。
ふと、ムソウさんの方を見ると、ムソウさんの人差し指をぎゅっと抱いて、リンネちゃんが寝ていた。子供が親に体を預けて安心するように。
―リンネちゃん……私たちの代わりにムソウさんを護ってね……―
私はリンネちゃんの頭をつついて、眠りについた……。
作中でも言及しているように、ミサキと出会ってまだ二日しか経っていません。もっと言うと、ムソウがこの世界に来てから、一か月も経ってません。
この辺の時間調節もうまくできるようになりたいです。




