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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
427/534

第426話 海賊団を斬る ―リオウが動く―

 ピイイイィィィィィィィッッッ!!!


「ん? ……ああ、来たか」


 休んでいたジーンだったが、突如響き渡る甲高い音に空を見上げる。

 すると、未来予知で視えた神獣、天鷹トウウがこちらに向かってきていることに気付く。

 空を旋回しながらゆっくりと降りてくると、トウウはその場に広がっていた光景を、少し驚きながら見まわしていた。


「これは……お前がやったのか、“冒険王”?」

「ああ。まだ生きている者も居るから、丁重に頼む、天鷹様」

「ふむ……そして、俺がここに居ることに、さして驚いている様子ではないが、事情は全てわかっているということで間違いないか?」


 トウウの問いにジーンはコクっと頷く。ならば、話は早いとトウウはこれからの動きについて確認する。


「レオからは、空から街の者達に援護を、と言われているが……」

「西側の海岸はどうだったのだ?」

「知ってるくせに……少し押されていて、俺が手を貸したから今はもう、戦いは終わっている」


 トウウがこの島に着いた時点で、戦いが激しかったのは、リオウが襲っていた正面の港湾と、ルーカス達が闘っていたアートルム西側の海岸。

 上空から見たリオウは、確かに脅威だと思ったが、今のところはツバキの力で港湾には近づけないようだし、僅かに港湾内に侵入した敵についても、闘鬼神含む冒険者達が上手く対処していた。

 だから先に、西側の海岸へルーカス達の応戦に向かった。魔物の力を宿し、騎士団を押していた船長達を瞬殺し、大技で魔物を駆逐したトウウは、東の海岸を一人で護っているジーンの助太刀にとルーカスに言われて、ここまで飛んできた。

 闘っている姿というのはあまり見たことが無かったが、レオパルドから、


「本気になったジーンは強い」


 という言葉を聞き、ある程度は戦えているという思いではあった。

 しかし、万が一という事も考えられたので急いで空を駆けてきたのだが、その場に到着し、凍った海の上に横たわる海賊達と、魔物達を見て、ここまでだったかと驚いていた。


「あと、残っているのは正面だけだ。そして、街に海賊の奴らが入った形跡はない。ここの処理は騎士団に任せて、アンタは避難区域に戻った方が良い。俺は、ツバキ達の援護に向かう。レオ達が来るまで、時間を稼ぐ……が、俺がリオウって奴を倒せばこの戦いは終わると考えているが……?」

「ああ、そうしてくれ。どうなるかは分からないがな……」

「……そこは、結果が分からないんだな……」


 ジーンが視る未来は、海賊団とジーンのように、戦力差が圧倒的に開いている場合ははっきり視える。

 しかし、拮抗している場合は最後まで結果が分からないことが多い。今回も、自分とリオウ、天鷹とリオウが当たった場合の未来を視ようと思ったが出来なかった。

 だが、その場に立っていた人間は予知することが出来た。最終的に、港湾に立っていたのは……


「……まあ、すぐにレオも来る。大勢の味方を引き連れてな。それまで、儂もツバキ殿達と合流し、海賊団の本体を押し止めておこう」

「分かった。じゃあ、乗れ、“冒険王”。あそこまでひとっ飛びだ」


 トウウは、そう言ってジーンに背中を向ける。ジーンがトウウに乗ると、そのまま空へと飛んでいく。

 港に向かう間、トウウはふと思い出したことがあり、ジーンに尋ねた。


「あ……そういや、アイツがこっちに来てるんだが……」

「ああ、知っている。来るかも知れないとは思っていたが、本当に来るとは思わなかったな」

「……大変なことになりそうだな。主にムソウが……」

「かもしれないな……まあ、それは儂やレオも同じだろう。だが、あ奴らが何を考えているのか分かれば……」


 ジーンの答えに、トウウはそうだなと、簡単に頷いた。

 ムソウやジーン、レオパルドを取り巻く、「面倒な事態」。正直、自分には関係ないが、レオパルドが面倒なことになると、自分やトウガ、トウケン、麒麟の二人まで面倒なことになることは何となくわかっている。

 こんな時、エイキが居ればなあと、トウウは、かつての主であるアキラの伴侶を思い出す。

 皆が、どんなに困るような事態でも、エイキは話し合いで解決してきた。文句を言わせぬ理路整然とした態度に、他の者達は口答えも出来ない。

 それは、前の世界でも、この世界でも同じ。この世界では、更にもう一人、理屈で相手を丸め込める人間がいた。

 よく、エンヤやゴウキが丸め込まれて、二人に上手いようにこき使われたり、更なる面倒ごとを押し付けられたりしているところをよく見たことがある。


 ―アイツの力を継いだなら、レオとも仲良く出来ると思うんだがな……―


 トウウはどこか寂しい思いとなりながらも、今は目の前の敵に集中。面倒なことは、後で任せられる奴に任せればいい。そう思いながら、空と飛び続ける。


 そして、ジーンと共に港湾にたどり着いたところで、相手を威嚇する為に一声上げる。

 伝説の神獣、天鷹トウウの登場により、海賊達は驚愕し、港湾の冒険者達は一気に活気づいた声を上げた。


 ◇◇◇


 突如現れた伝説の神獣に、ツバキの障壁を攻撃し続けていたリオウは舌打ちを打つ。

 流石のリオウの表情にも、もう余裕は消えていた。障壁をすり抜けた海賊達も、どんどん数を減らしていくのが目に見えている。

 向こうの勢いに、こちらの手勢も委縮している。どこからどう見ても、海賊側の不利は明確だった。


「クソが……!」


 なかなか破れない障壁と、増えていくアートルムの防衛陣。苛立ちを抑えきれないリオウに、更に悪い知らせが届く。


「あの……リオウ様」

「……どうした?」

「全師団……全滅と……」


 一人の海賊がもたらした報告。それは、西と東に分かれてアートルムの侵入を試みた部隊が、コクロの騎士団、冒険者、そして、“冒険王”ジーンによって、全滅させられたこと。

 更に、リオウの腹心ギャンザも、ギャッツ達が居るトレイズ島の防衛線にて、最初は敵を圧倒していたが、突如現れた「存在」にて、全滅させられたことを知った。


「ギャンザも……逝ったか……」

「その……ようです……」

「……そうか」


 リオウは、攻撃の手を止め、思案を巡らす。

 そばに居た海賊達は、悲報を聞いたリオウが、怒り任せに自分達の命を奪うものかと覚悟していたが、あまりにも落ち着いたリオウの行動に驚いた。

 無論、リオウは怒っていないわけではない。静かに、そして、強く、怒りの炎を心中で燃え上がらせている。


「ブルスク……ボーラン……アニータ……ウォルター……ヴェイロン……セブルス……ザッカス……フラウ……リーアム……ヴィルヘルム……クリード……ギュンター……ステル……ギドラ……ネリエル……モリアナ……アドラー……グスタフ……リード……そして……ギャンザ……すまなかったな。俺が……不甲斐ないばかりに……」


 この戦いで死んだり、捕らえられたりしたリオウ海賊団二十師団全船長に哀悼の意を示すリオウ。

 海に向かって頭を下げた後、再びアートルムに向き直った。

 そして、残った海賊達に声を上げる。


「……テメエら! 今この時を以って、リオウ海賊団は俺達だけとなった! だから、ここから先の戦いは、死んでいった奴らへの弔いも兼ねることになる! ……が、俺は、テメエらにそれを強制しない! 去りたければ去れ! テメエらだけでも生き延びろ! そして……俺がどうなっても、俺達の意思を継げ!」


 リオウは、ただの悪党ではない。仲間の事は、船長は勿論、下っ端の構成員に至るまで、きちんと信頼している。

 ギャンザと共にこの世界に投げ出され、王都の迷い人の保護施設を脱走した後、自分を支え、ここまで大きくなったリオウ海賊団を続けられたのは、リオウが海賊一人一人を信頼し、更に、リオウの事を海賊団の一人一人が信じていたからこそ出来たことである。

 ギャンザだけでなく、船長達も、船員達も、もとはこの世界で悪行を重ね、王都から追われる身となった者達。

 そんな者達でさえも受け入れるリオウの器。それに惹かれた海賊達から、この場から去るという答えは返ってくるわけなかった。


「“頭目”……俺は残るぜ。ここで戦おうが逃げようが、どうせいつかは人間死ぬんだ。俺は、ギャンザさんやギドラさんみてえにはならねえだろうし、なら、ここで最後まで戦うことを選ぶぜ」

「俺もです。最後まで、“頭目”と闘います!」

「最後まで派手に行きましょうや!」


 天鷹の登場に委縮しきっていた海賊達はここで威勢を取り戻す。それぞれ武器を構えなおし、更に魔人になる魔道具に最大限力を込めていく。

 ほとんど理性を失い、魔物と化すギリギリにまで力を引き出し、雄たけびを上げる海賊達。

 リオウは、最後まで付き従うと決めた海賊達に目を見開き、フッと笑ったのち、自身も懐から、魔人と成る魔道具を取り出した。


「クックック……この世界に来て、初めて、俺は幸福だと思えた。感謝するぜ、テメエら! そして、俺も覚悟を決めた! 俺はこれより、化け物になってコクロを落とす! 人界を落とす! 行くぞオオオオオオオォォォ~~~ッッッ!!!」


 リオウの声に、海賊達は答えるように、更なる雄たけびを上げる。

 そして、リオウも他の者達と同じく、魔道具を発動する。強い輝きがリオウを包み込み、その身に変化を与える。

 光は徐々に、元のリオウを越えるほど大きくなっていき、その背中からは翼が生えてくる。

 手足の爪も鋭く伸び、口腔には鋭い爪が何本も伸びた。あごの下にはえらのような切れ目が出来、手足の指の間には、水かきのような膜も出現した。

 更に全身を強固な鱗が覆い、頭からねじ曲がった角が生えたところで変化を終える。


 変化を終えたリオウ……それは、超級の魔物デーモン、そして、災害級の魔物噴滅龍、天災級の魔物海王鮫を合わせて宿したもの。

 デーモンロードのように、知性が高く、魔力の強い魔物の力を宿す場合、常人の魂は耐えられないが、リオウはそれを屈服させ、更に天災級の魔物の力を宿すことにも成功した。

 それはまさしく、天災級の魔人以上の力を持つ存在。十二星天並みかそれ以上の存在となった。

 この姿になった事により、残っていた魔物達も、拘束や従属の魔道具が無くとも言う事を聞くようになる。

 そして、リオウは持っていた異界の袋を、そばに居た海賊の男に渡し、最後の指示を出した。


「龍族共を抑えている魔道具はこの中にある。お前はこれを守り抜いてくれ。いざとなれば、アイツ等を暴れさせればいい」

「はいっ!」

「後は、俺の武器が残ってる……出してくれ」

「了解ですっ!」


 海賊の男は頷き、二丁の拳銃……いや、今の巨大化したリオウに合わせた大きさなので、ほとんど大砲となっているものと、同じく巨大化した回転式機関銃(ガトリング)、更にワイバーンや噴滅龍でさえも一刀のもとに斬り殺すことが出来そうなほど巨大な刀を異界の袋からリオウに渡した。

 全ての武器を身に着けたリオウは、再び回転式機関銃(ガトリング)をツバキが張った障壁に向ける。


「オラ……止められるもんなら、止めて見ろ!!!」


 そして、そこからいくつもの弾丸を放ち、障壁にぶつかったと同時に大爆発を発生させる。

 最初は耐えていた障壁だったが、幾つか繰り返すうちに徐々に押されていき、最終的には歪み、ひびが入り始めた。

 間髪入れずに、リオウはその場から跳躍。思いっきり刀を大上段から振り下ろした。


 バリイィィィン!!!


 障壁のひびの部分に叩きつけた刀は、いとも簡単に障壁を破壊することに成功した。

 間髪入れずに、天鷹が竜巻を展開させながら突っ込んでくるが、リオウは更に連射し、弾を空中で爆発させる。

 爆風により、天鷹は上手く近づくことが出来ず、リオウとは距離を取りながら、周りの海賊達に対応することとなった。

 リオウは天鷹だけに集中。その間に、更に勢いを取り戻した海賊達が、どんどんと港湾内に侵入し、闘鬼神他冒険者達との戦いは苛烈になっていく。

 港で指揮を執るリアは、EXスキルを破られ、過度の疲労に陥ったツバキに肩を預けながら、合流したジーンと共に、目まぐるしく変わる戦況に、ただただ唖然とするしかなかった……。


 ◇◇◇


 ついに魔人化したリオウの攻撃。その衝撃に耐えられず、ツバキの障壁は砕けてしまう。

 その影響でツバキは力を使い果たし、その場に倒れる。


「クワンッ!」


 慌ててそばに居たリンネがツバキに駆け寄り、その身を支える。リアもツバキに肩を貸しながら、まずはツバキの様子を確認した。


「大丈夫!?」

「ええ……大丈夫です……ですが……力を取り戻すまで……時間が……」

「もう、ツバキさんはスキルを使わなくて良い。エンヤ様に集中して」


 ツバキは、力なく頷き、斬鬼に手を当てる。

 ツバキのスキルが破られた以上、結界魔法の魔道具も意味を成さない。他の海賊達の攻撃ならばある程度防ぐことが出来るが、それも、用意したものは既に破損されていた。

 もう、向かってくる敵に、全力で迎え撃つしかない。多少の犠牲も覚悟したうえでの戦法に移るしかなかった。


「……ジーン様。この未来は視えていた?」


 リアは、合流したジーンにそう尋ねる。ジーンは、少し苦い顔をして、首を振った。


「いや……リオウの変化に儂も驚いている。どうやらリオウも、「未来を変える」ほどの力を持つ人間だったようだ」

「早い話が、EXスキルを持つ人間がそうなのかもね。未来を変えたり、未来が視えない存在っていうのは……援軍は、いつ到着しそう?」

「トウウ様によれば、リエン殿が率いる本体とは別に、レオが先行してこちらに向かってきている。到着はまもなくだ」

「……分かった。それまで、耐えきるしかないわね……」


 目まぐるしく変わる戦場の様子に、頭が真っ白になっていたリアだったが、冷静に状況を整理し、これからの動きを決めていく。

 現在分かっていることは、アートルムに攻め入った海賊のうち、東西から侵入しようとしてきた海賊達は全滅。トレイズ島の防衛線も、突如現れた援軍のような者により護り切ることに成功した。

 そして、リエン商会が要請した冒険者5000の援軍も、ここに向かってきており、リオウの正体に危機感を抱いたレオパルドがこちらに向かってきている。

 唯一現状が分からないのは、龍族を抑えているムソウ。大丈夫だと信じているが、ここまで時間が掛かっているとなると、少々不安になってくる。

 だが、ムソウを心配しても、この場の戦況が変わるわけでもない。龍族を倒したムソウがここに援軍に来ることは元から頭には入れていない作戦だ。

 ツバキがエンヤを喚ぶことが出来るようになるまで、もしくは、レオパルドが来るまで、時間を稼ぐように戦うしかないと、リアは結論付ける。

 拡声魔法の魔道具を口に当て、その場に居た者達に指示を出した。


「総員! ここからは最後まで死力を尽くして! もうすぐ、十二星天レオパルド様もこの街に来る! それまで、必死に耐えて! リオウの事は気にしなくて良い! 敵の兵力を少しでも下げるのよ!」


 それは、作戦というには、あまりにも雑な指示とリアは自分が情けない気持ちとなる。

 だが、これしかない。強大な力を持つ海賊達からアートルムを護るには、この方法しかない。

 リアの「指示」は、まるで「懇願」のように、全員の耳に届く。

 その必死な思いが伝わり、真っ先に闘鬼神が頷いた。


「任せろ、リア! ここからは、俺達も攻める! まずは、一発、お見舞いしてやるぞ! 闘鬼神特別攻撃部隊「牙の旅団」! 武器を構えろ!」

「「「「おうっ!」」」」


 ダイアンの言葉に頷き、ルイ、ハルキ、チャン、チョウシは船に一列に並び、それぞれの武器に気を込めていく。

 周りの冒険者達が、ダイアン達に敵が近づかないようにする中、闘鬼神の者達の背後に、それぞれ、巨大な刀精が姿を現す。

 ルイの背後には包帯まみれの女怪、ハルキの背後には巨大な槍を手にした戦士風の大男、チャンの背後には三面六臂の姿をした鬼神、チョウシの背後には全身鎧に身を纏い、肩から大砲、右手には大刀、左手には大きな盾を携えた武神、そして、ダイアンの背後には、背中から翼を生やした筋骨隆々の大男が、それぞれ出現し、武器を構えた。

 大きな攻撃を行うと判断したトウウはリオウから離れていく。それを確認したルイが、最初に動いた。


「まずは私から! 奥義・万蛇羅(まんだら)ッッッ!!!」


 ルイが鞭を振るうとともに、背後の女怪から、幾本もの包帯が飛び出していき、ルイの視界に入る、多くの海賊や魔物達を拘束していく。

 リオウにもそれが及び、煩わしそうに体をよじったり包帯を引きちぎったりしているがルイの拘束は強力で、段々と体の自由を奪われていく。

 仕方なくリオウは、二丁の大砲のような拳銃を抜き、そこにデーモンの力を宿して得た大量の魔力を込めていく。


 ルイが敵の動きを封じたことを確認したダイアン達は、頷き合い、呼吸を合わせて得物を振った。


「行くぞッ! 集団奥義・天壊紅牙ッッッ!!!」


 ダイアンの合図により放たれた技は、牙の旅団から習った偶像術での一斉攻撃。単純かつ強力なものだ。

 ハルキとチャンの刀精が放った巨大な槍と交差する三つの斬波。それは、ダイアンの刀精が放つ巨大な気の塊に後押しされ、威力を上げながらルイが拘束した海賊達を一瞬にして塵にしていく。更に、広範囲に広がる敵に、チョウシの刀精が波状攻撃を仕掛け、一網打尽にしていく。

 勢いを落とすことなく迫り来る闘鬼神の攻撃。威力も申し分なく、その気迫、表情から、この一撃こそ、現状、敵方が放ちうる最強の攻撃であることを感じとったリオウ。

 この後の事も考えていないような覚悟を感じ、ルイに拘束されながらも、海賊達は臆するどころか、笑っていた。


「リオウ海賊団、万歳! リオウ様! 俺達の思いを託す! 人界をオオオオォォォ――」

「リオウさん! アンタが世界を――」

「最後にテメエらに一矢報いて――」


 無駄だと分かっていても、迫り来る攻撃からリオウを護ろうと前に躍り出たり、限界を超えて魔物と同一化したりする海賊達。

 しかし、ダイアン達の攻撃を浴びて、大体数の海賊達が死んでいった。

 海賊の最後の言葉を聞き、目に見えて分かるくらいに味方が減っていく中でも、リオウは動けず、ただただ、大砲に魔力を込めていく。

 しかし、その表情は、死んでいった海賊達と同じく、愉悦の笑みにまみれていた。


「噂は聞いていた……闘鬼神……か……良い“覚悟”だと思うぜ。最初の女よりは幾分かな……その覚悟の前に、アイツ等は敵わなかった……それだけの話だ……。

 だからよ……アイツ等の“心意気”を一身に受けた、この俺の“覚悟”……テメエらは受けることが出来よなあッッッ! 護ってみろよ、この人界を! 世界を! 大地を! この俺から! 俺達から! 止めてみせろ! 奥義・破界葬魂滅破(はかいそうこんめっぱ)ッッッ!!!」


 リオウが持つ大砲の輝きが更に増していく。リオウは、魔力と共にあるものを大砲に込めていた。

 それは、デーモンの力を身に宿したことで得た、死んでいった者達の魂を集める能力により、死んでいった同胞達の魂を大砲に込めていく。

 そこには、そこで死んでいった者達の他、東西の沿岸部で死んだ者の魂、リエン商会の援軍を迎撃した者の魂、そして、トレイズ島で散ったギャンザの魂も含まれている。


―先に逝ってるぜ……地獄から、お前の覇道を見届けてやるッ!―


 己の魂でさえも、リオウの力と化した海賊達。リオウの耳に、前の世界からの仲間の声とともに、多くの覚悟の声が聞こえた瞬間、リオウは万感の思いで大砲の引き金を引く。


 大砲から飛び出した一撃は、ダイアン達の攻撃とぶつかり、その場で拮抗する。

 ぶつかった衝撃となおも続く余波で海は荒れ、高波がアートルムの街を襲った。


「くっ……! トウウ様、お願い!」

「あ、ああ!」


 リアの要請に頷いたトウウは、アートルムから海に向けて強風と竜巻を起こし、高波から街を護る。その所為でリオウに追撃を加えることは出来なくなったが、気にしていられなかった。

 港湾に配備された冒険者達も、それぞれで防御魔法を使ったり、気を打ち込んだりして、高波を打ち砕いていく。

 リンネは結界を張り、ジーンも氷魔法と風魔法を使い、波を押し返していた。

 ぶつかり合う両者の攻撃とトウウの起こす風により、その場は嵐のように荒れ狂っていく。


「良い風だ……まさしく、海賊の船出にふさわしい! テメエら、帆を下ろせ! 錨を上げろ! アーハッハッハッハッハ!!!」


 狂ったようなリオウの笑い声に同調するように、リオウの攻撃の威力が上がっていく。


「だ、だめ……もう……」

「クソッ……!」


 押され始める攻撃に合わせ、闘鬼神の表情も苦悶に満ちていく。

 リオウを拘束しているルイも、必死で鞭を掴んでいるが、気を抜けば、海に落ちてしまいそうになっている。

 これ以上は無理だと思った瞬間、ついにダイアン達の攻撃を打ち破り、その勢いのまま、巨大な光線がアートルムに襲い掛かってきた。


「ッ! 総員、防御を! ツバキさん、エンヤ様を!」

「は……い……くっ!」


 リアの言葉に頷き、よろよろと立ち上がるツバキ。しかし、斬鬼を構えようとするも、力が抜けてその場に倒れ込んだ。


「クワンッ!」

「ツバキ殿、無理はするな! ここは儂らに任せろ!」


 ツバキを支えるリンネと、ブーメランに力を込めていくジーン。止められなくても威力を抑えることが出来れば、それで良い。もしくは逸らすことが出来れば良い。

 ジーンはありったけの力を込めて、ブーメランを投擲、トウウは、ジーンの攻撃の威力を上げる為に、風を吹き付ける。

 しかし、その甲斐もなく、ジーンのブーメランはあっさりとリオウの攻撃により破壊され、なおも進み続けた。


「むう……かくなる上は……! 大氷壁ッッッ!!!」


 ジーンは、ダイアン達がリオウの攻撃の進路上から退避したことを確認し、地面に手を置き、巨大な土壁を生み出すとともに、その周りを分厚い氷で覆って強化した。

 恐らく、この壁もリオウの攻撃には意味を成さないが、あくまでこれは、アートルムへの被害を軽減させるものである。

 急激な魔力の低下に、立ち眩みが襲ってくるも、ジーンは魔法を止めなかった。


「ぬおおおおおおおお~~~ッッッ!!!」

「よくやった、“冒険王”ッッッ! 後は俺が、何とかする! お前達は身を護ってくれ! 奥義・天裂(てんれつ)ッッッ!!!」


 トウウは付近を荒れ狂う風を集め、その身に纏い全身を硬質化させ、更に嘴の先一点に、鋭く尖らせた風を集中させ、リオウの攻撃に突っ込んでいく。

 再びぶつかり合う強力な攻撃。このまま、上空へと逸らすことが出来ればと思っていたが、リオウの攻撃は予想以上に強力なもので、トウウの身を傷つけながら、なおも勢いを緩めることなくアートルムに迫っていく。


「俺の本気でも駄目なのか!? なんつー人間だ!」

「伝説の神獣だろうと、十二星天だろうと打ち砕くッ! 人間を舐めるなッッッ!!!」


 人間やめた奴に言われたくねえ、とトウウは苛立つも、すぐにまた気合を入れて、リオウの攻撃に対処していた。


 その場に居た者達は、僅かに残った海賊達も、冒険者達も、それぞれ対象は違うが、どちらも、手を合わせて祈っていた。トウウが押し負ければ、アートルムが沈む。リオウの攻撃を打ち砕けば、海賊達は滅ぶ。

 双方、互いの命運をリオウとトウウそれぞれに賭け、それぞれに祈りを捧げていた。

 ダイアン達も、全ての知恵を出し切ったリアも、なおも土壁に魔力を込めていたジーンも、柄にもなく祈っていた。


 だが、ルイだけは何とかリオウの態勢を崩そうと未だちぎれていない拘束を解かずに、血のにじむ手で鞭を掴んでいる。


「ルイ……もうあきらめろ。後はトウウ様に――」


 ダイアンがルイに、鞭を放すようにと声をかけるが、間髪入れずにルイは首を振った。


「嫌よ……ここまで来て、あきらめるわけにいかないじゃない。トウウ様も頑張ってる……私も……頑張らないと……!」


 ルイはなおも力を込めるが、リオウはピクリとも動かない。

 しかし、ルイの覚悟を知ったダイアン達は、こんな状況下でも、やれやれと苦笑いしながら、ルイが掴んでいる鞭と、女怪から伸びている包帯を掴んだ。


「分かった……なら、俺達もとことん付き合うとしよう」

「これは、良い土産話に出来るな。ジゲンさんやサネマサ様が羨むくらい自慢してやろう」

「リアも、ツバキさんも、リンネちゃんもまだまだ頑張ってくれている。俺達だけが休んだら、後で頭領に怒られちまうよな……」

「エンヤ様にもな……悪あがきってやつを……してみるか!」


 ダイアンに続き、チャン達も笑みを浮かべて、リオウに結び付けられている包帯を引っ張っていく。

 ルイは、そう来なくっちゃと笑い、鞭に込める気を高めていく。

 だが、ダイアン達が加わっても、リオウの巨体が揺らぐことは無かった。


 しかし、そこから伝わってくる力が増えたことに、リオウは気付いた。

 ふと、天鷹にぶつける攻撃の維持を行う傍ら、チラッと力の加わった方向に目をやると、直接自分を拘束してきた女の他に、数人の男達も加わり、自分を引っ張っていることに気付く。

 リオウは再び、フッと笑みを浮かべながら静かに思った。


―テメエらに会ってたら……テメエらの頭領に会ってたら……俺も今とは違っていたのだろうか……―


 闘鬼神もリオウ海賊団も、元は街からあぶれた者達により構成された組織である。リオウ海賊団は、この世界に迷い込み、閉じ込められることになったリオウとギャンザによる、この世界への復讐のために結成されたものであり、その思想に、同調するように数と規模を増やしていった。

 闘鬼神は、この世界を破壊するという思想は無い。ただ、ムソウと出会う前は、花街の浮浪者として盗みや夜鷹をしながら生きてきた。ダイアン達も、この世界を恨んだことが無いわけではない。

拾った人間が変われば、ダイアン達も、リオウ海賊団の様になっていた可能性は、決して低くない。

 両者の同じところは、長と認めた人間が、この世界にとって、悪か味方か。ただ、それだけだった。

 そして、自らが認め、信じることになった者の為に、自分達が生きていく。

 そのことは、闘鬼神も海賊団も同じだった。

 もしも、リオウを含め、海賊団に居た人間達がムソウに拾われていたら……。

 ギャンザと共にこの世界に落ち、早い段階でムソウと出会っていたら……。


 ここに来て、違った未来もあったかも知れないと、リオウは静かに感じていた。


 しかし、ここまで来た人生もまた、リオウが歩いてきた道であり、その途上で得た感情や仲間達は、かけがえのないものとなっている。

 もう、後戻りも脱落も出来ない。

 雑念を振り切り、リオウは攻撃に集中していく。


「ウオオオオオオオオオアアアアアアアアアァァァ~~~ッッッ!!!」


 更なる気合と共に、攻撃に使う気と魔力、魂の力を高めていく。光線は更に太くなり、凄まじい衝撃がトウウを襲った。


「くぅっ! 負けるかああああああ~~~!!!」


 トウウも更に魔力と風を集め、自身を強化し、リオウの攻撃を押し返す。邪心大戦以来負ったこともないほどの傷を負いながらも、トウウは人界を護る為、コクロ領を護る為、何より、ムソウの“家族”を護る為、リオウの攻撃とぶつかっていく。


「駄目ッ! トウウ様! もう良いから! 後は私達に任せて! トウウ様は休んで!」


 風に混じってトウウの体から真っ赤な鮮血が飛び散る光景を見て、ルイは泣き叫ぶ。それでもなお突き進むトウウ。

 このままトウウが死ぬよりも、自分達で何とかリオウの態勢を崩し、アートルムを護る、もしくは、多少街が崩れても、被害を受けなかった冒険者達総出で、リオウとぶつかった方がマシだと思えた。

 何より、ルイにとってレオパルドが後で悲しむような事態は、絶対にさせたくなかった。何度もトウウに引く様に声を上げるが、その声は届くことは無かった。


「お願い! 頭領には後で私から言うから! トウウ様は、もう良いからあああ!」


 声を上げながら、ダイアン達と共に、鞭を引っ張るルイ。

 しかし、リオウの体はピクリとも動かなかった。

 ルイの声を聞きながら、リアもリンネと共にツバキを安全な場所に移動させたり、ジーンは目についた近くの冒険者達を転送魔法で避難させたりしていた。

 未だ、未来は視えない。というか、魔力の過剰な使用で視ようとすることすら困難だった。

 残った魔力回復薬を避難の為に使い果たし、ジーンはここで、これ以上、自分に出来る事は何もないと悟る。

 リアとリンネは、トウウが負けてアートルムに攻撃が及んだ後、力を使い果たしたリオウを一気に攻めることが出来るように、ツバキが持つ斬鬼に気を送り続けていた。


 やがて、トウウにも限界がきて、その身から飛び出る血の量が多くなってきた。


「ぐああぁぁぁッッッ!!!」

「トウウ様!」


 トウウの勢いが緩み、ルイが泣き叫ぶ声が響く。いよいよ限界かと思い、無理やりにでもトウウをどかせようと、ルイが、トウウの方にも気で出来た紐を放とうとした時だった。


 戦場に、一つの声が響き渡る。


「よくやった、トウウ! 後は俺達に任せろ! 奥義・三天神獣装ッッッ!!!」

「え……?」


 その声が響いた瞬間、ルイが握る鞭の感触が緩む。よく見ると、リオウの体もぐらつき、大砲の角度が上空へと向かった。

 それに合わせて光線もトウウから逸れ、街からも逸れ、上空へと向かっていき、アートルムの上空で、炸裂。凄まじい衝撃が雲を吹き飛ばし、海を揺らし、街を襲った。

 だが、その被害も軽微なものであり、建物に影響なかった。


 そして、力を使い果たし海に落ちていくトウウだったが、突然、その身が輝き、光の粒子となって、ルイの元へと飛んでくる。

 正確にはルイの前で、リオウに絡みついている包帯を手に取る男の元へと飛んでいく。

 男は、獣人の様に、手足の爪を伸ばし、腰から細長い尾を伸ばしており、頭からはとがった耳を生やしていた。

 更に、光の塊になったトウウをその身に浴びた瞬間、男の体が輝き、背中から雄々しい翼が生える。

 呆気にとられるルイやダイアン達に、その男は振り返る、ニッと笑った。


「待たせたな、ルイ。それに、闘鬼神の諸君。俺が来たからにはもう大丈夫だ」

「レオ……さん……?」


 その男は、リエン商会の援軍から先行してアートルムに向かっていた、十二星天“獣皇”レオパルド。

 呆気にとられるルイ。思わず偶像術を解除し、その場に倒れそうになる。

 レオはそれを優しく受け止めた。


「おいおい、大丈夫か? いつもの元気はどうした?」

「え……っと……あの……」


 突然の事に、顔を真っ赤にしながらうつむくルイ。レオパルドはやれやれと言いながら、ルイに回復薬を渡した。


「色々あったようだが、話は後だ。俺はアイツをぶっ倒す。お前らは残党の方を頼む。ジーンは……っと、あそこだな。

 お~い、ジーン! お前はそこで休んでろ! んで、いざって時の為に、エンヤ様の準備を頼む~!」


 離れたところで膝をついているジーンを見つけ、声をかけるレオパルド。ジーンは、分かったと小さく手を振った。


「やれやれ……ようやく来たか……」

「これで……安心できる……」


 リアが胸を撫で下ろすとともに、ジーンはコクっと頷いた。ようやく、先に視えていた未来に追いついた。

 ここからは未知の世界だが、ジーンにとっては、これほど頼もしい援軍は他にないと思った。

 突然現れたレオパルドは、いつものような、一体の神獣をその身に宿しているわけではない。天狼トウガ、天猩トウケン、そして、天鷹トウウを同時に宿し、その力を使っている。

 トウケンがレオパルドに宿っているという事は、援軍もすぐ近くまで来ていて、海賊達の影響は全く考えられなかったという事。

 いつの間に、三体の神獣を同時に宿らせるという事が可能になったのか分からないが、不安な気持ちなどなく、全てを託せるという思いで居る。

 念のためにと、エンヤを喚べるように、ここからジーンも、斬鬼に力を込めるという作業に集中していく。


 ジーンの返事に頷いたレオパルドは、指を鳴らしながら、体の調子を確かめる。


「さて……じゃあ、行くか……あ、そうだ。ルイ、ダイアン、それにお前ら。リオウは俺に任せてくれても良いが、一つ気になることがある」

「気になる……こと?」


 レオパルドがもたらした薬により、元気を取り戻したルイは、レオパルドに顔を向けた。

 他の者達も、これ以上、何かが起こるのかと戦々恐々とした顔でレオパルドに近づいていく。


「い、一体……何が?」

「多分、今のお前らにとっては大したことないと思うが、向こうの海王蟹の死骸から嗅いだことのある匂いを嗅ぎつけた」

「というと?」


 レオパルドは、ダイアン達にその匂いの正体を話す。それを聞いたダイアン達は驚くが、それと同時に、嬉しさのようなものがこみ上げてきた。

 その様子の変化に気付いたレオはニカっと笑って、ルイの肩に手をポンと置く。


「というわけで、奴らはお前らに任せるからな」

「ええ……任せて、レオさん!」

「よ~し。じゃあな、ルイ。もう、今日の宴会のメニューを考えておけよ!」


 そう言って、レオパルドは翼を大きく広げて、リオウの元へと飛んでいく。

 リオウは、攻撃が逸れたことよりも、突然現れたレオパルドを見て、今日は本当に運が悪かったと自嘲しながら、大刀を抜いた。

 仲間の魂はもう無い。あるのは己の力だけ。着々と近づいてくる“破滅”に臆することもなく、寧ろまだまだ戦えるという喜びを覚えて、レオパルドを迎え撃った。

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