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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
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第424話 海賊団を斬る ―レオパルドが分析する―

 モンクからの援軍に交じり、海賊団を迎撃したレオパルドは、念のためにとトウケンをリエン達に預け、自身はトウガと共にアートルムに向かっていた。

 アートルムに居るジーンより、敵の首魁であるリオウが自分達と同じく迷い人であり、EXスキルを宿していると聞き、アートルムの戦力を少しでも増やすためにとトウガの背に乗って、コクロの空を駆ける。

 その間、レオパルドは現在の状況と、実際に対面した海賊団についてトウガと整理していた。


「海賊団の長、リオウも迷い人……か。EXスキルは、何でもかんでも爆発させるって話だが……トウガ、聞いたことは?」

「無いな。向こうでエンヤが言ったように、この世界に来た時に得た、新たなスキルだろう」

「それほどまでに強い思念か何かを抱いていたってわけか……」

「もしくは、抱くようになったってところだな。流石にEXスキルを宿しているとなると、保護した時点で分かるだろ?」


 確かに、とレオパルドは頷く。十二星天以外の迷い人は、EXスキルである、言語理解と言語行使を宿していないので、それだけで目立つ存在である。

 なので、発見することも、保護することも簡単だった。保護した人間達も、この世界で唯一言葉が通じ、意思疎通が出来る相手である十二星天を慕うようになった。

 その際に、保護した者達の能力や素性は、徹底的に調べ上げた。スキルや魔法などを使い、どのような人間なのかを把握した。

 無論、リオウのように、元の世界では無法者とされた者達も多かったが、突然、この世界に放り込まれた状態では何も出来ない。むしろ、生きる気力さえ見失っている者達を憐れと思い、せめて、この世界で最低限、普通に生きていけるようにと、文字の読み書き等を教育していったのが、この施設が出来た目的である。

 設立責任者は王城、つまり、人界王オウエンと宰相シンキ。十二星天は、それぞれが分担して、迷い人の管理を行っていた。

 ただ、数年が経ち、保護した迷い人が立て続けに死んでいった事をきっかけに、最後くらいは、世界を見て回りたいと言った者や、施設で過ごし、施設で死ぬのは嫌だと言う者も出始め、迷い人達は、十二星天に認められたうえで、一人、また一人と保護施設を出ていき、最終的に誰も居なくなったその施設は、閉鎖された。

 施設を出ていった者達については、十二星天の管理は行き届いていない。普通の民達同様、自由に過ごして貰う為である。

 恐らくリオウは、その頃に施設を出て、その後、海賊として名乗りを上げたと考えられた。


「何があったか知らねえが、やっぱり保護した奴らの事は、最後まで面倒見るべきだったな」

「保護した者達のその後は、本当に誰も分からないのか?」

「当時、自らの足で出ていったのは、三十人ほどだったか。そのうち、十人ほどは施設を出てから死んだと、ギルドと騎士団からの報告に上がっていた。後の二十人はどうなったか分からない……いや、そう言えば……」


 思案を巡らせていたレオパルドは、ふと、不穏な顔つきになった。

 トウガは不思議に思い、首を傾げる。


「どうかしたか?」

「いや……クレナの事件を引き起こした貴族、ケリス卿の屋敷を調べた際、眷属化の実験で、迷い人が実験台にされたという報告があったな……」


 レオパルドが思い出したのは、ケリスが行った眷属化についての実験。それを記した手記の中に、迷い人も何人か居たという事をシンキから聞いていた。

 恐らく、保護施設を出た後の迷い人の何人かが、その中に居た可能性が高い。

 死んだことを確認した十人以外の迷い人の数とケリス卿が実験した人数を照合すれば、当時の迷い人がその後どうなったのか判明するかも知れない。


「ふむ……ちなみに、その中にリオウという人間は居たのか?」

「名前まではなあ……だが、リオウなんて名前が載っていたとしたら、海賊団の事と何か繋がりがって、シンキも考えるだろうよ。となると、載っていなかったんじゃねえか?」

「いや、迷い人のリオウと海賊団のリオウが同一人物という発想はシンキもしていないだろう。だからこそ、この状況だ。まあ、これでその説は証明されたようなものだがな」


 とりあえず、リオウが海賊団として暗躍するまでの経緯は、のちの調査によって明らかにさせていくとし、レオパルドは次の疑問について、トウガと話し合う。


「ジーンの予言を聞いた時は驚いたが、実際目にして更に驚いたな」

「海賊共がやっていた、魔物との合成の事か。ほとんど、お前やアキラと同じ感じだったな……」


 一緒にするなとぼやくも、特殊な魔道具を使い、魔物と合成した海賊達の姿は、まさしく「獣装体」を使ったレオパルドと同じ様な力だった。

 だからこそ、レオパルドは困惑している。魔物の力を人間が宿すという事は、それだけ難しいことだからだ。

 普通なら、魔物の血や思念により、心も体も支配され、暴走、あるいは、破滅……つまり、死を招く。

 しかし、海賊達にそのような影響はなく、自分の力と融合した魔物の力を自在に使っていた。

 レオパルドは更に首を傾げる。


「あれはほとんど自殺行為だよな……ミサキの弟子の、ウィズって奴も、キマイラの思念に操られることがあると言っていたが……」


 レオパルド以外に、人の身に魔獣の力を宿した人間に、かつて、マシロにて、ムソウと共に冒険者登録を行い、現在はミサキの弟子であるウィズが居る。

 ウィズは、その身にキマイラの膨大な魔力を宿しているが、魔力と共に、キマイラの思念も宿っており、時折、魔力が枯渇したり、肉体が危機的状態になると、キマイラの思念により、魔力が暴走し、ウィズも暴走する。

 ミサキの指導の元、ウィズはその力を自在に操る為の修行を行っているが、それだけ、魔物の力をそのまま人の身に宿すという事は困難なことである。


「どうしたらあんなことが出来るんだろうな……?」


 そう呟くレオパルドに、恐らくだが、とトウガが口を開く。


「俺が倒したワイバーンの奴だが、魂は、人間の方だけだったな……」

「どういうことだ?」

「ウィズって奴は確かに、一つの肉体に、本人の魂と、それに交じるキマイラの思念を感じたが、さっきの奴からは、さっきの人間の魂しか感じられなかった」


 トウガ曰く、魔物と交わった人間からは、一つの肉体に、その人間本来の魂に重なり合うように、混ざった魔物の魂も感じられることが出来る。

 獣装体を行使している状態のレオパルドからはトウケンやトウガの魂を感じることが出来ることと同じ様に、以前、魔獣宴を訪れたウィズからは、ウィズの魂とキマイラの魂を感じていた。

 しかし、先ほど闘った海賊達からは、海賊の魂は感じる事が出来たが、魔物の魂は感じられなかった。

 恐らく、海賊達がその身に宿らせたのは、魔物の魔力や能力だけであり、思念などは何らかの方法を用いてすでに失われていたのではないかというのがトウガの考えだ。


「ちなみに、お前が俺達の力を使っている時は、スキルの力で、俺達の思念は眠りについているという状態だ。魔力が暴走しないのは、その名の通り、スキルによって“従わせている”と、アキラが語っていた」

「なるほど……要は、魔物の素材を使った装備と同じってことか。魔物が持つ力だけを引き出して、その身に宿していた、と……」


 そう考えると辻褄が合う。無論、人間の魂に、魔物の魔力を受け入れられるだけの容量が無ければ、暴走を引き起こしてしまうこともある。ワイバーンを宿していた者は、それだけの魔力を元から持っていたと考えられ、早々に倒せて良かったと、トウガは語った。


「人間どもが魔物染みた変化が出来たのは、魔物達の魂に合わせて、人間の肉体が変化したというところだな」

「考えれば考えるほどやべえ魔道具だな……しかし、魂の一部を切り取って、力だけを引き出すのは……可能か。その辺りは、装備に効果付与を行うのと同じ原理だからな……」

「恐らくはそう言う事だな。ある意味、お前が目指している「人族の進化」に繋がるような代物ではないか?」


 そう言われて、レオパルドは少し考える。

 十二星天として、魔獣宴を設立し、魔物の生態などを調べる傍ら、レオパルドが目指しているのは、「人族という種の進化」である。

 人間の他に、魔物という存在も居て、普通に生きていくには少々困難なこの世界で、よりよく生きていけるように、人族も更に進化する必要があると、レオパルドは考えていた。

 これから襲来してくるであろう邪神族に対抗する為にも、その必要性は高まったと最近になって感じ始めている。

 過去には、天界の波動を浴びると人族から神族になり、冥界の波動を浴びると鬼族になるという事も、シンキによって明らかにされた。

 精霊人や魔人、エルフ、ドワーフと言った「亜人」という、人族でありながら、普通の人族よりも特徴を持った者達も居る。

 このことから、普通の人族が更に進化するという可能性は、無限に存在する。

 その中で、レオパルドが目を付けたのは、自身やエレナが行っているような、魔物の力を使う人族の存在である。

 人族の生活を脅かすほどに、魔物達の力は強力だ。ならば、その力を人族が利用できるならば、更なる進化が見込めるだろうと思っている。

 一応、コモンにより魔物の素材を使った装備が解明され、人族も魔物に対応できるようにはなったが、それはあくまで、人族本来の力ではなく、装備によって付加された力であり、種の進化とは言えない。

 長年、エレナやミサキと共に、どうすれば、魔物や龍族、神獣の力を、一般の人間でも自由に宿すことが出来るのか考えてきた。


 海賊団が行使した魔道具は、確かに強力なものだった。敵にすれば恐ろしい代物であることには間違いない。

 しかし、魔物の思念を消し去り、その力だけを肉体に宿らせ、肉体そのものを変化させるという事は、上手くいけば、レオパルドの目標を達成することが出来る。

 危険に見えるがやってみる価値はあると考えていた。

 ただ、海賊が世界を滅ぼすために使った力を利用するのもどうかな、という考えも頭を巡っている。

 顔を真っ赤にしながら、頭から煙を出しそうな勢いで、考え込み始めるレオパルド。

 声が聞こえなくなったことを心配し、トウガがレオパルドに顔を向け、少しばかり、申し訳なさそうに頭を下げた。


「……すまん。戦争中に要らんことを言ったな」

「……あ……いや、良い。気にしないでくれ」

「言い出した俺が言うのもなんだが、あの魔道具は使わない方が良いかも知れない。思念は残っていないが、性質は残っていたようだからな」

「というと?」

「魔物本来の、凶暴性や残虐性はそのままってことだ。流石にそれは、進化ではなく退化だろ?」

「……まあな」


 レオパルドは苦笑いしながら頷く。魔道具によって、一時的に強制進化したところで、それは、進化とは呼べない。

 種の進化とは、本来、数世代にわたって実証されていくべきものであるという事は、レオパルドも分かっている。

 力を手にしても、性質まで変化し、人族が魔物のようになってしまっては意味がない。

 そう思い、この話を終わらせた。


「まあ、どちらにせよ、あの魔道具は後でしっかりと調べるとしよう。無論、持って帰ってるよな?」


 トウガにそう尋ねると、トウガは、ニッと悪い笑みを浮かべながら、コクっと頷く。


「二十もあれば足りるな?」

「充分だ。これで研究も進むだろう。ちなみに、操獣石は回収できたか?」

「ああ。ワイバーンの奴と、あそこに集まっていた偉そうな奴らが持っていた。改良して災害級の魔物も操ることが出来るほどだったぞ」

「盗んだうえに改良とはな……なかなかふてえ奴らだ。他にも、ここ数年で盗られたものは多い。中にはマジでやべえものもある。一応、ジーンに連絡するか」

「そうだな。こちらの状況も交えて、俺達がアートルムに向かっていることも伝えて置かないと……」


 トウガに頷き、レオパルドは懐から、魔道具スマホを取り出し、ジーンに連絡を入れようとした。

 このまま、アートルムに行き、さっさと海賊団を倒し、ジーンと一緒に、また、色々と調査する。仕事は山積みだな、と苦笑いしながら、魔道具を起動させようとした。


 その時、トウガが、鼻をぴくッと動かし、何やら訝し気な顔をした。


「んっ!? ちょっと待て……この匂いは……」

「どうした、トウガ?」


 急に空中で止まるトウガ。そして、アートルムとは違う方向に顔を向ける。

 一体どうしたのか。早いところ、アートルムに行きたいんだがと、レオパルドは首を傾げた。

 しかし、トウガが向いた方向から、ものすごい速さで何かがこちらに向かっていることに気付き、目を凝らす。


「はあ!? ありゃあ……!」


 そうやって見えたものがあっという間に、二人の前にやってきた。

 大きな翼をはためかせ、少しばかり慌てている様子でそこに居る。


「やっと追いついた!」

「トウウ!?」


 それは、レオパルドが連れてきた神獣、天鷹トウウだった。

 突然現れた、現れるはずがない存在に、レオパルドとトウガの二人は、言葉を失っていた。


「お、お前、何してんだ!? トレイズ島の防衛線に行けって言っただろ! ひょっとして、迷子になったのか!?」

「こんなところでふらついてねえで、さっさと人間達の救援に向かえ! 結構な事態になっているんだぞ!?」


 二人は、トウウを叱責する。アートルムには迷い人でありEXスキルを宿した存在であるリオウが海賊団本体を率いて現れ、モンクからの援軍には、多くの魔物を連れた海賊団が現れた。

 実際のところは不明だが、トレイズ島のギャッツの所にも、何かしら、強大な力を持った海賊と、災害級を含む多くの魔物が向かっている可能性が高い。

 援軍にはレオパルドとトウガ、トウケン、アートルムにはジーンと闘鬼神が居るので、何が来ようともまだ、安心だが、ギャッツ達のところで一番強いのはギャッツであり、想定以上の事が起きた場合、一番危険にさらされる場所である。

 後はムソウが居るが、現在ムソウは、龍族と闘っている。

 だからこそ、最後の神獣として、ギャッツ達の応援に行き、ギャッツもそのつもりで戦っているはず。

 なのに、当のトウウは、未だにアートルムの近くであるこの場所に居る。理由は分からないが、この事態は敵の動き以上に予想していない。

 さっさとギャッツ達を助けに行けと、まくしたてるレオパルドとトウガ。

 トウウは、更に慌てて口を開く。


「ちょ、ちょっと待ってくれって! 俺の話を聞けって! 俺も、何もしないで戻ってきたわけじゃねえんだよ!」

「そんな時間も無えんだよ! 多分、あっちはあっちで、お前が行ってないから大変なことになっているかも知れないんだぞ!」

「お前、ムソウに怒られたいのか!?」


 その後もがみがみとトウウを叱る二人に、トウウも我慢の限界だと口を開いた。


「いいから話を聞け! というか、レオ! このこと、お前は把握していないのか!?」

「はあ? 俺が何を把握しているってんだ!?」

「把握してないんだな!? なら話すから、本当にちょっと黙ってろ! 時間は取らせねえ!」

「ほう、そこまで言うなら、話せよ。下らねえことなら、後でムソウに告げ口するからな!」


 トウガの言葉に、少し顔色を悪くするトウウだったが、大きく息を吐いて、二人に語り掛けていく。


「……最初は確かに、地図で示された場所に向かって飛んでいたんだ。そしたらよ、とんでもねえ奴が現れて、とんでもねえこと言って、俺に、レオのところに戻るようにって言ってきたんだ」

「あ? とんでもねえ奴? それがとんでもねえこと言った? もっとわかりやすく言ってくれ」

「ああ。実はな……」


 苛立つレオパルドに、トウウはこれまでの経緯を説明した。

 早く話せよと急かすレオパルドだったが、トウウの話を聞きながら、徐々に唖然とした顔になっていき、最終的に、困惑したような驚愕したような顔つきになっていく。


「……って、わけで、俺がここに――」

「はあ!? アイツが!? 何で!?」


 トウウが話し終えた途端、今度はレオパルドからトウウに質問攻めを行う。

 ただし、それは見越されていたようで、トウウは落ち着けと、レオパルドを諭していく。


「詳しいことは俺にも分からないが、そう言う事らしい。ただ、アイツがここに来るって言うのは何となく予測はついていただろ? だから、大丈夫かと思ってな……」

「大丈夫……だとは思うが、ややこしいことになるのは確実だろ……というか、何故、アイツが……」

「ちゃんと聞けば良かったんだが、向こうが今のお前らと同じ様に、時間がないって言ってな。俺に、レオ達に合流するようにって言った後、すぐに飛んで行っちまった」

「となると……あそこは、心配しなくても良いのか?」

「恐らく……」


 トウウの話によれば、自分がトレイズ島に行かなくとも、恐らくすでに、片は付いているのではないかとのことだ。

 レオパルドも、その者の強さについては熟知している。トウウの話が本当ならば、例え、海賊団がどれだけ未知の力を持っていたとしても、自分と神獣五体、ムソウ、ジーン、エンヤを含めた闘鬼神、リンネ、そして、コクロの総戦力とモンクからの援軍にその者が合わされば、今回の海賊団討伐は確実に成功すると考えられた。

 しかし、それだと更にもめ事が増えそうな状況でもある。どうしたものかと悩んだが、ひとまず、アートルムに向かって海賊団を倒すのが先だと言って、考えをまとめた。


「……分かった。じゃあ、俺達はこのまま、アートルムでジーン達と合流だ。トウガ、引き続き頼む。街に着いたら、トウガは俺と闘おう。で、さっきも言ったように、結構ヤバい状態だから、トウウは先に向かっていてくれ。その後、ジーンと情報共有して、お前は上空から街の奴らの援護を頼む」

「街では勝手なことするなよ、トウウ」

「勝手なことしたつもりは無いんだが……まあ良いや。汚名返上といこう」


 やれやれと言いながら、トウウは翼を翻し、アートルムに向けて飛んでいく。

 いろいろと面倒なことになりそうだが、アートルムにトウウが居ることは、当初の作戦には無いが、ツバキ達の大きな力となると、レオパルドは感じていた。

 先ほど聞いたこと含め、今回の戦いについて新たに判明したことについては、戦いの後でじっくりと解明していこうと思い、トウガを走らせていった。


 ◇◇◇


 トウウが向かったアートルムでは、現在、息を吹き返した海賊達がリオウを先頭に猛攻を仕掛けてきた。港湾を護る冒険者達に加え、ツバキとリンネも、障壁を展開させて、海賊達の侵入を押し止めていた。


 だが、ツバキの障壁が届かない場所をくぐり、魔物や海人、水棲魔物の力をその身に宿した海賊達が港湾内に侵入したことを皮切りに、いよいよ港は戦場と化す。

 港湾内で扇形に展開していた船上で戦うダイアン達は、船を越えようとする敵を、その場で倒していく。

 海を進み、船を越えた者達については、港湾のあちこちに展開された、騎士や冒険者の部隊が、矢や魔法、気など、遠距離攻撃により対処したり、リンネが狐火を飛ばして、海賊達が街に上がらないようにしていた。

 また、リアも各部隊に指示を出しながら、自身も矢を放ち、敵の侵入を阻んでいる。


「冒険者の皆は、何としても街に入れないこと! 空から来る敵はダイアンの指揮の下、弓兵、魔法部隊に! 一人でも侵入したとしても、最低三人で対応すること! 海賊の力は強大よ! 最後まで油断しないで!」


 その場にいた者達は、リアの言葉に頷き、その通りに動いていく。

 海賊団にも、海からではなく空を飛んで街に侵入してくる敵が居ることに気が付いたリアは、対空の指揮をダイアンに移譲。ダイアンは、地上の投擲攻撃部隊に攻撃の指示を出す傍ら、直接、自分で空の敵を倒していた。

 ダイアンだけでは分が悪いと、リンネがツバキ達の元から離れて、ダイアンの援護を行う。

ダイアンの肩に乗りながら、空から地上に狐火を放ったり、広範囲への幻術で敵の動きを止めたりと、多種多様の技で、皆の補佐を行っている。


「すまねえな、リンネちゃん。ツバキ姐さんの側に居たいだろうに……敵が近づいていったら、俺から離れても良いからな」

「キュウッ! (うん!)」


 ダイアンの言葉に、少し戸惑ったような顔のリンネだったが、今のところ、空にはワイバーンのような超級の魔物は居ない。ダイアンなら、一人でも大丈夫な状況なので、もしも、ツバキの元に敵が近づくようなら、迷うことなくダイアンから離れると頷いた。

 そんなツバキは、一人でリオウの動きを止めている。未だ海王蟹から出て来る海賊団の大軍勢の先頭に立ち、ツバキの障壁を破ろうと、他の海賊と共に、ツバキの障壁に向けて、爆弾と化した弾丸を撃ち続けている。


「いつまでもつか見ものだな。者共ッ! ここを越えたら、一気に攻めるッ! 気合入れて、俺についてこい!」

「「「「「ウオオオオ~~~ッッッ!!!」」」」」


 リオウの号令に、更に苛烈になる海賊達の攻撃。リオウが手にする巨大な回転式機関銃(ガトリング)から放たれる連続爆撃に加え、魔人のように変化した海賊達の、魔法と魔物の技を受け止める。

 神怒ほどの威力は無いが、広範囲にわたる多種多様な攻撃を止めるという事は困難を極める。

 ツバキは、斬鬼に送っていた、気の供給を止めて、全力で障壁を展開させていた。

 その中でも、冷静にリオウや海賊について分析も行っている。

 これまでの攻撃で、リオウのスキルについて分かったことは二つ。リオウのEXスキルで出来る事は、エンヤの言っていたように、物質を爆弾に変えること、というか、物質を任意に爆発させることである。

 このうち、物質というのは、生き物は含まれていない。ただ、死んだ魔物の死骸を投げて爆発させていたことから、死んで魂が抜けた肉体ならば、爆発させることが可能のようだ。

 もう一つ分かったことは、ツバキが作り出したスキルによる障壁や、魔法によって生み出された障壁などはその対象ではないことが分かる。

 このことから、リオウを倒すには、近づいて直接刀で切ったり、槍で刺すのではなく、遠距離から、気や魔法などを使わないと、確実に倒すことは出来ないと推測した。

 ムソウのすべてをきるもののように、単純な能力だが、だからこそ手ごわいと感じるツバキ。


 そして、リオウ海賊団の強さは、リオウ個人の力に起因しているのではなく、リオウ自体に優れた統率力と、一種のカリスマ性のようなものがあり、群としての性質がそもそも高いという事を、ツバキとリアは感じていた。

 本来、「悪党」と呼ばれる山賊や盗賊、普通の海賊などは、戦略というものはなく、ただ、己の本能のまま戦う節がある。

 しかし、現在闘っているリオウ海賊団は、リオウという頭目の元、それぞれが彼の行動に付き従っている。

 本腰入れて、頭を使わないといけないと感じながらも、リアは各地の指揮を執る。


「ルイ、チャン、チョウシ、そこの防衛線は何としても死守して! 敵は手練れよ! 気を抜いたらやられる! 頭領と闘う気持ちで、全力でぶつかって!」

「「「了解ッ!」」」

「ダイアンとリンネちゃんはそのまま、空の敵を落として! その場で倒さなくていい! 落ちたところを私達が倒すから!」

「分かったッ!」

「キュウッ!」

「遠距離攻撃部隊も、それで良いから! 空の敵は弱らせるだけで良い! 後は私達に任せて!」

「「「「「おうっ!」」」」」

「「「「「はいっ!」」」」」

「海の敵は雷属性に弱いッ! ハルキ、今よッ!」

「任せろッ! 力の充填は済んでるッ!」


 リアの指示に頷いたハルキは、バチバチと穂先が輝く覇槍を握り、船のマストから見張り台に飛び移る。

 そして、大きく跳躍した後、空から海に向けて、槍を突き出した。


「奥義・雷豪龍尾一閃ッッッ!!!」


 覇槍最強の技である、龍尾一閃に、雷属性を付与した技。さながら、巨大な落雷そのものだ。

 ハルキから放たれたそれは、海に大爆発をもたらすとともに、海に居た海賊や魔物達を感電させることに成功。下級の魔物は死に、わずかに生き残った敵も、船からの追撃により、その場で倒れていく。

 力を使って落ちていくハルキは、ルイによって引き戻され、回復薬を飲んだ後、再び、船上での戦いに戻る。


「これで少しは……ツバキさん、大丈夫?」


 港湾内が若干静かになった事を確認したリアは、ツバキの様子を伺った。離れた場所に、しかも強力な障壁を展開し続けるツバキの体力が気になっていた。

 ここにはジェシカも居ないので、ツバキの体力は減る一方だという事は分かっていた。

 回復薬を渡すリアに、ツバキは気丈にも笑みを浮かべながら頷く。


「ありがとうございます。正直に言いますと、思ったよりも辛いです。ですが、援軍が来るまでリオウだけを止めるのならばなんとかなるかもしれません。

 しかし、気になっていることもありまして……」

「何? 何でも言って。全部私が解決するから」


 自分の胸に手を当てながら、頼もしい笑顔を見せるリアに、ツバキは安心し、頷いた。


「正面は護り切れます。ですが、それ以外の場所は、今は手いっぱいです。万が一、あちらから上陸されれば、挟み撃ちとなる可能性が……」


 ツバキが不安に思ったのは、自分の障壁が及んでいない場所から、海賊達がアートルムに上陸する恐れがあるという事。

 そうなれば、街の中や街の外で避難している者達の身が危ない。更に、避難民を越えたところで、自分達は海と陸からの挟み撃ちになってしまう。

 どうか、そう言った事態にならないで欲しいと思っているが、ツバキは正面のリオウを抑えるのに精いっぱいだ。

 ここでもう一度エンヤを喚び出し、リオウを任せて自分がそちらの防衛に向かうかと悩んでいた。

 しかし、ツバキの心配事を聞いたリアは、不安になる顔をするどころか、ニッと笑みを浮かべた。


「なんだ、そのことか……実は、左右に向かって、何隻かの船が動いていたことには気づいていたんだよね」

「え!? では、既に海賊団が――」

「あ、大丈夫。心配しないで。すでにその時点で、向こうの人達には動いて貰っているから」


 そう言って、リアは魔道具スマホを取り出す。ツバキは、納得、という顔で安心した笑みを浮かべながら頷いた。


「そういうことでしたら、私は引き続き、リオウを止めながら、エンヤ様の準備を進めます」

「分かったわ。ここは任せて、ツバキさん」


 二人は頷き合い、戦闘を続行させる。


 ツバキは、自分の横で、いついかなる時も、冷静に、的確な指揮を執るリアを改めて凄いと思った。

 戦場の総指揮を務めるとなった時は、嫌な顔をしていたが、やる時は本気でやり、騎士団の師団長級にも負けず劣らずの戦略を練っていく。そんなリアが、友としてますます好きになっていた。

 それだけではなく、リアの指示で空を飛び交う敵を、リンネと共に撃墜するダイアン、船上で戦う者達の補佐と援護をつつがなく行うルイ、中型の魔物を相手に臆することなく大刀「金剛力」を振り回し活路を開くチョウシ、敵の奇襲部隊を的確に迎撃し、戦場を駆るチャン、そして、海の敵に大打撃を与えたハルキ……この場に集まる騎士や冒険者達と比べてもひときわ輝いた動きを見せる闘鬼神の面々を見ながら、ムソウが繋いだ縁を、これほどまでに誇らしいと思ったことは無かった。

 向こうが群として優秀でも、それはこちらも同じ。必ず勝てると信じ、なおもリオウの侵入を食い止めていた。


 その時だった。激戦が続くアートルムに、一体の神獣の鳴き声が響き渡る。


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