第423話 海賊団を斬る ―各地で激戦が展開される―
ムソウが二体の龍族と相対し、アートルムでは、ツバキ達と海賊団の第二陣との衝突が始まろうとしていた時、モンクから援軍に向かっていたリエン達の船も、リオウ海賊団の船とぶつかっていた。
異名持ちの冒険者達、ギルド支部長含む5000の援軍を迎え撃つのは、リオウ海賊団の第十五師団から二十師団の部隊。ただし、第十六師団はモンクで壊滅した為、この場には居ない。
しかし、それを差し引いても、戦力は総員3000の海賊に、災害級三体を含む5000の魔物達である。
圧倒的な数と地の利を生かして優位に戦いを進め、厄介な者達は、災害級の魔物達と、超級以上の魔物と合成した船長達で迎え撃つ。
例え、負けたとしても、相手に負わせる痛手は相当なものになると思っていた奇襲戦だったが、戦況は突然現れた一人の男ともう一体の魔物により一変する。
「オラオラオラアアアア~~~ッッッ!!! テメエら! よくもこれまで俺らのもの搔っ攫っていきやがってッ! 今日こそその報いを受けさせてやるッッッ! 奥義・斉天大聖ッッッ!!!」
「グワアアアアアアアア~~~ッッッ!!!」
最初は、強大な魔物達に浮足立っていたリエン達だったが、我先にと飛び出した、十二星天レオパルドと、レオパルドが喚び出した神獣、天狼トウガにより、海賊団の艦隊に風穴が開いた。
宙を駆け、一気に懐に入り込んだトウガにより、災害級の魔物が一瞬でバラバラになる。
レオパルドは、一番大きな第十五師団の船に乗り込み、トウケンの力をその身に宿し、気で出来た棒を振り回す。
その度に、棒から放出される斬波により、空を飛んでいたワイバーンや極楽鳥などの魔物は一撃で海へと落ちていき、海を泳いでいたシーサーペント、グレンデル、ブルーワイバーン、オウガやゴブリンなどの船代わりになっていたキラーシェル等は、そのまま倒れていく。
無論、その上に居たオウガ達も、海でおぼれて沈んでいった。
魔人のようだが、凶暴性や力などは桁違いの海賊達を見て萎縮していた援軍の冒険者達だったが、レオパルドによりその数をどんどん減らしていく光景を見て奮起。
レオパルドが暴れている隙に、海賊達に近づき、次々と戦場に流れ込んでいく。
「良いか! ここはまだ、アートルムでの戦いの前哨だ! 全員生き延びて、早急に救援に向かうぞッ!」
冒険者達の指揮を執るのは、冒険者ギルドシルバ支部支部長であり、騎士団シルバ師団師団長のジャンヌだ。白銀に輝く全身鎧を身にまとい、大きな盾を左手に、右手に剣を掲げて号令する。
ジャンヌの言葉に雄たけびを上げて、冒険者達は海賊達と闘う。一対一は無理でも、それぞれ何人かに分かれて、強力な力を持つ海賊達を倒していた。
集団戦において比類なき指揮能力を発揮する騎士団師団長ジャンヌが居るからこそ出来た戦法である。
次々と数を減らしていく海賊達。すると、ここでそれぞれの船から怒号のような声が響き渡った。
「調子に乗ってんじゃねえええええッッッ!!!」
声とともに、それぞれの船から十五師団の船に、大小五つの影が躍り出る。
一人は、第十七師団船長モリアナ。リオウ海賊団全二十師団あるうちの、五人の女船長の一人で、主に奴隷売買の指揮を執っている。合成されたのは、上級魔物クインハーピィ。背中から翼を生やし、炎を纏う鞭を構えてジャンヌを睨んでいる。
その横に立つのは、第十八師団船長アドラー。フードを被った暗殺者風のいで立ちで、海賊団での主な役割は、暗殺と諜報の統率で、合成されたのは迷彩トカゲ。今も、目を凝らさないと見えないほどに、気配を断っている。
横に立つ大男は、第十九師団船長グスタフ。ギャンザには劣るが、殺人意識の塊のような男で、また、好色家でもある。この男に殺された幼い命は数知れない。
合成された魔物は、オウガに並ぶ巨漢の魔物トロール。よだれを垂らしながら、嫌らしく笑みを浮かべるグスタフに、ジャンヌは身震いする。
更に現れたのは、第二十師団船長リード。リオウ配下二十人の船長の中では一番の新参だが、殺した騎士の数は、ギャンザに届く勢いで、他の船長よりも圧倒的に多い。その残忍性を買われ、若くして船長になった男。
合成された魔物は、下級の魔物ゴブリンと、スライムという二種類の魔物の力をその身に宿している。
グニャグニャと手の形を変えながら、どの武器でジャンヌを殺すかと愉悦の笑みを浮かべる。
そして、最後に現れたのは、グスタフよりも大きな体格の男。モンクからの援軍の迎撃を任された、第十五師団船長ギドラ。捕らえて従属させた魔物達の管理を行う船長の一人である。
その異様ないで立ちに、ジャンヌは息をのむ。おおよそ、人の原型はとどめておらず、全身を強固な鱗が覆っており、背中からは翼、腰からは太い尾、手足からは鋭い爪が伸びており、その姿はまるで、直立し武装したワイバーンだった。
鋭い牙をちらつかせながら、爬虫類のように縦に伸びた瞳孔で、ジャンヌを見据えるギドラ。
「いい加減、鬱陶しいと思ってたんだ……十二星天は無理でも、俺達なら、テメエだけでも殺すことが出来るッ! 覚悟しろッ!」
ギドラはそのまま、手にした剣を振りかざし、ジャンヌに襲い掛かってくる。
他の船長達も、ジャンヌを八つ裂きにしようと飛び出した。
目下最大の敵は十二星天レオパルドと天災級に位置する神獣天狼である。
しかし、その二人は、現在はこの船から離れている。あの二人が無理でも、騎士団の師団長であり、冒険者ギルド支部長のジャンヌを倒すことが出来れば、敵の士気を一気に下げることが出来る。
何より、これまで海賊としての活動を行うのに、目障りだった冒険者ギルドと騎士団。モンク、コクロ、シルバ、ゴルド、それぞれの支部や師団に対する恨みは大きい。
今までの借りを返す為と、ありったけの殺意を以って、ジャンヌに襲い掛かる船長達。
しかし、ジャンヌは盾を構えてその場を離れず、その顔に微笑を称えた。
「甘いな、リオウ海賊団……」
「あ? ッ!? ――」
ジャンヌの笑みを見て、ギドラは不思議に思うも、動きを止めなかった。何か企んでいようとも、それは無駄な行動だと。
そう思った瞬間、ギドラの意識は体から離れていく。
更にその瞬間、ジャンヌの背後から、迷彩トカゲの外套や迷彩龍の装備の効果により姿を隠していた、“破壊鉄球”のジーゴ、“影無し”のバッカス、“堅鎧”のジェイド、“ムソウ一派”ツルギが躍り出て、その他の船長の動きを止め、それぞれの冒険者が率いるパーティにより返り討ちにされる。
ジーゴの鉄球により、グスタフが全身を砕きながら吹っ飛んでいき、バッカスにより姿を消す前にアドラーは切り刻まれ、魅惑を耐えきったジェイドが動きを止めている隙に、アイリーンとシータ、フジミにより、モリアナの全身が貫かれ、突然現れた冒険者達に慌てて体を硬直させたリードは、ツルギの一刀のもとに斬り伏せられた。
船長達を返り討ちにし、血を払う冒険者達の前に、ギドラの首を咥えた天狼トウガが、スッと降り立ち、ジャンヌが胸を撫で下ろしながら、その場にいた者達に頭を下げた。
「助かった。皆の協力に感謝する」
「ったく……自分が囮になるって言われた時は驚いたが、何とかなって良かったぜ……」
ジャンヌの言葉に、ジーゴがやれやれと言いながら肩を上げ下げする。
わざと目立つところに立ち、全員を指揮するように行動すれば、騎士という自分に恨みを持つ海賊達ならば、必ず攻めて来る。
一体多数ならば、敵の心にも油断が生じる。その隙を突けば、一気に敵の指揮官を落とすことが出来るというジャンヌの作戦に、戸惑いながらも承諾したジーゴ達は、騎士というのはここまでの無茶をするのかと、ツバキを知る者はツバキとジャンヌを重ねてため息をついた。
「しかし、人間と魔物の合成魔人の話は聞いていたが、まさか、上級や超級と混ざっている奴が居るとは思わなかったな。天狼様が居てくれて助かった……」
ギドラの首をゴトっと足元に放るトウガに若干引きつつも、バッカス達も駆けつけたトウガに頭を下げる。
離れていたところで戦っていたトウガだったが、強い力を持つ人間がジャンヌの元に集結したことを匂いで感じ取り、慌ててこの船まで戻ってきた。
トウガは呆れたようにジャンヌを見ながら口を開く。
「無茶をするな、女騎士。そう言うのは、俺が近くに居る時にやってくれ」
「トウガ様が近くにいらっしゃると、そもそもおびき出すという事が不可能ですので……」
「姿を現すことが出来れば、俺が対処していた。自分の身を危険にさらすな。お前は、ムソウやツバキと直接の関りは無いようだが、ここの連中の一人でも死なせたら、俺はあいつらに怒られてしまう。次からは気を付けろよ」
援軍に駆け付けた冒険者の死に対して、というよりも、その後でムソウに怒られることを恐れている様子のトウガ。
神獣でさえも恐れさせる冒険者ムソウという男と、女騎士ツバキに、ジャンヌはますます興味を持った。
ジーゴやジェイドなど、ムソウと関わりを持ったことのある人間は、トウガの言葉に笑って頷いていた。
「了解です。俺達もあまり無茶なことはしないことにします」
「と言っても、船長を落とした今、残るは雑兵。ジャンヌ殿の言うように、さっさとここを片付けて、アートルムに向かいましょう。先ほどレオパルド様に届いた連絡も気になりますし……」
ジェイドの言葉に、その場にいた一同は、少しばかり表情を暗くさせる。
ジーンからもたらされたリオウの正体とEXスキルを持っているという報告はすでに伝わっている。
これから先の戦いはより熾烈なものになると、覚悟を決めたつもりだったが、不安な気持ちはぬぐえない。
そんな冒険者達を見たトウガは、皆を安心させるようにフッと笑みを浮かべた。
「心配するな。EXスキルを持っているという点では、レオとツバキも同じだ。俺やトウケン……天猩も居るし、向こうには麒麟も居る。戦力の上では、まだまだ優勢だ。
まあ、ムソウは居ないようだが、代わりに俺達がお前らを護ってやる。だからお前らも全力でこの領を護るんだ。わかったな?」
トウガやトウケン、麒麟という神獣の存在、アートルムに居るジーンと、今も海賊達の残党や、魔物達の中で獅子奮迅の活躍を見せるレオパルドという十二星天という存在、そして、アートルムを護るツバキやダイアン達闘鬼神という存在。
向こうに龍族がついていようと、災害級の魔物がついていようと、こちらの戦力は一海賊団などではどうすることも出来ないほど、大きなものであることを思い出すジャンヌ達。
トウガの言葉を聞いた冒険者達は、戦意を取り戻し、トウガに強く頷いた。
「かしこまりました。私も全力を以ってコクロ領を護ります」
皆を代表してトウガに感謝するジャンヌだったが、威勢を取り戻したジーゴ達から、すかさず突っ込みを入れる言葉がかけられる。
「いや、アンタはさっさとシルバに戻った方が良いだろ。海賊団がコクロだけを襲ってる確証も無いんだからよ」
「そもそもこの状況、大丈夫とは言っていたが、“ギルド長”や“騎士団長”が知ったら、絶対何かして来るぞ。あの二人は、ムソウという男を敵視しているらしいからな」
「向こうでムソウやノワール様、それから、コクロ師団長のルーカスに小言を言われても、俺達は知らねえからな~」
ジェイドの言葉に、他の冒険者達もうんうんと頷く。呆気にとられるジャンヌと、楽しそうに笑うトウガ。
ジャンヌは顔を赤くしながら、取り繕うように話し出した。
「仕方ないだろう。私も、ロロ殿から聞いていた冒険者ムソウ殿の事も気になっていたし、ツバキ殿の事も……」
「一番の目的はそれか……流石、“戦乙女”。やることが大胆だな」
「むぅ……これは、まずい状況なのだろうか……」
今更ながら、個人の目的のために動いたことに、ジャンヌは自分の行動が間違っていたかと思案する。
「まあ……大丈夫じゃない? ジャンヌ様のお力は、これからの世界には必要なものですし」
「それにムソウさんやツバキさんの事が気になるって言うのは分かる気がするから」
このまま落ち込まれても困ると、シータやアイリーン等、女性の冒険者がジャンヌをフォローする。
その間、ジーゴ達を、言い過ぎと窘めるフジミ。ジーゴ達は、笑いながら、ハイハイと頷いていた。
ジャンヌは、今後は気を付けようと言って、再びトウガや皆の方に顔を上げる。
「……どんな男かは知らないが、冒険者ムソウの名のもとに、これほどの冒険者や神獣様が集まったのは僥倖だ。ムソウ殿には、龍族を止めてもらうという大役を担ってもらい、ツバキ殿にはアートルムの戦場の総指揮を任せている。
二人に応えるべく、そろそろ我等も動こう。天狼様は、この後もレオパルド様と共に上級以上の魔物達を、冒険者の諸君もこれまで通り、三人以上の部隊で行動し、残った魔物と海賊達の対処を頼む」
「「「「「おうっ!」」」」」
「私は、リエン殿が居る本艦に戻り、防衛に力を尽くす。皆、誰一人欠けることなく、アートルムに向かうぞ!」
ジャンヌの号令に冒険者とトウガは頷き、その言葉通りに動き始める。船長達が死んだことを知った海賊達は浮足立ち、なすすべもなく、冒険者達に倒されていくか、あるいは、制御を失った魔物に食われていった。
ジャンヌは一時退却し、援軍を率いるリエンに戦況の報告を行う。報告を聞いたリエンは、満足げに頷くが、改めて全員に気を抜くなと檄を飛ばし、戦場を見守った。
その後、しばらくも経たぬうちに、自分達を迎撃してきた海賊団を全滅。ジーンからの報告を聞いたレオパルドは、リエンの承諾を得て、その場にトウケンを残し、トウガと共に、一足先にアートルムへと向かっていった。
◇◇◇
時同じくして、もう一つの戦場であるトレイズ島の防衛線では、冒険者ギルドコクロ支部支部長ギャッツと、騎士団コクロ師団師団員ヴィクソンが、突如現れたリオウ海賊団の第一、第二、第三師団の海賊達と、こちらも災害級を含む多くの魔物達に苦戦していた。
海中を進んでくるという可能性があったため、そちらへの対策も取っていた。なので、奇襲に関しては上手く迎撃できたと感じた。
しかし、予想以上に魔物が多く、しかも強力な個体だったことと、海賊団を指揮する男の強さが尋常ではなく、あっという間に防戦一方となる。
繋がれた船の上にまで乗り込まれ、こちらが撤退すると、船を破壊し、足場を無くされていく。
トレイズ島の砦に撤退しようにも、海には多くの魔物や魚型の魔物と合成された海賊達が居て、身動きが取れない。
どうすることも出来ない中、ギャッツ達は風や水の魔法を使い、壁を作り出して海賊達の猛攻を食い止めていた。
しかし、それらの障壁も、リオウ海賊団を率いる、第一師団船長のギャンザの前では意味を成さない。
ギャンザが手をかざすと、そこから巨大な竜巻が発生し、風の防壁を吹き飛ばす。
また、海面に立ち、海に手をかざすとギャンザを中心として巨大な渦潮が発生し、足場となる船を海へと沈めていった。
魔法とも違う、普通の人間の域を超えた力に驚愕していると、ギャッツの元に、ジーンからの連絡が入る。
『リオウ海賊団“頭目”リオウは、EXスキルを持った迷い人である』
その一方に驚くも、もしかしてと思ったギャッツは、単身ギャンザの元へと突っ込んでいく。
ギャンザと同じく海を走り、魔法で高波を作り出し、その上に乗って、手にした刀を振りかざす。
「鮫牙斬ッッッ!」
「ふんっ!」
水刃をいくつも纏わせたギャッツの攻撃は、一つの気合の元振り下ろされた、ギャンザの大刀から発せられる竜巻によりかき消され、ギャッツの身は吹き飛んでいく。
「うおっ……と! やっぱり簡単には近づけねえ……だが、アイツの正体は分かったな……」
ギャッツは、ギャンザとの距離を縮め、鑑定スキルにて、ギャンザの正体を確認した。
それによれば、先ほどのジーンの報告と同じく、ギャンザもリオウと同じ迷い人であり、EXスキルを有しているという事。
スキルの名は、渦巻くもの。ギャンザの思うがままに、どんなものにでも「渦」を生み出すものであり、先ほどの竜巻は、この場の風の中に渦を作り、竜巻にしたものと推測。
海に発生した大渦は見たままだと、ギャッツは結論付ける。厄介な能力だが、それだけなら、少し腕のある魔法使いならば出来る事と、そこまでギャッツは気にせず、再びギャンザに近づこうとする。
しかし、次の瞬間ギャンザは、空へと手をかざし、再びスキルの力を行使した。
すると、今度は海の大渦が幾つも出現し、更に複数の巨大な竜巻が戦場に出現し、その場は更に混乱に満ちていく。
敵も味方も関係なく大渦に飲み込まれたり、竜巻により打ち上げられたりしている。
ギャッツはまだ知らないが、ギャンザはリオウと共に、この力を以って、手負いとは言え、二体の龍族を屈服させたほどの力を持っている。
更に、風を司る嵐帝龍と、水を司る水帝龍の鱗や牙などから、ギャンザに相性の良い装備を作り出し、今も身に着けている。この場はまさしく、ギャンザの独擅場と言っても過言ではないほどふさわしい場所だった。
ギャッツは急いでヴィクソンや、残る冒険者の元へと戻り、集団魔法でやっとの思いで高波を生み出した後、それに乗ってトレイズ島へと辿り着く。
ギャッツ達が撤退したことを確認したギャンザは、避難させていた海賊達を率い、更に自らの船の周りにいくつもの竜巻を出現させたまま、トレイズ島へと侵攻していく。
「おいおい、アイツ、やべえって! お頭……じゃなかった。ギャッツ支部長、アイツ何なんすか!?」
「一応、視てきたが、多分お前ら、戦意喪失するぞ?」
「構わないです。私も、心のどこかに「諦め」という言葉が思い浮かび始めておりますので……」
「ヴィクソン……まあ、気持ちはわかるっすけど、天鷹様が来るまでは、俺達も耐えるっす。で、アイツの情報だが……」
多くの騎士と冒険者達を喪い、半ば自棄になっていたヴィクソン。準備はしていたはずと思っていたが、こういう結果になるとは思っていなかったと項垂れる。
ヴィクソンだけでなく、他の騎士や、異名持ち含む冒険者達も同じである。
ギャンザと闘いながら、その他の船長級と思われる二人の海賊と、一体の災害級魔物を倒すことには成功したが、ギャンザ一人で、災害級以上の力を有し、他の船長級、それも、上級以上の魔物と合成された者達よりも、何倍もの戦闘力があることを知り、もはや、生きてアートルムに変えることは絶望的だとされた。
希望は薄いが降伏するか、冒険者ムソウが使わせたとされる、神獣天鷹が来るまで、恥も何もかも捨てて逃げ回りながら、防衛していくか。
重々しくなるその場だが、万が一、生きて帰った時の為にと、ギャンザの正体を話して欲しいというヴィクソン達に頷き、ギャッツは、鑑定スキルで視た情報を話していく。
アートルムのジーンよりもたらされたリオウの正体。それだけでも驚愕するところだが、それと同様に、ギャンザも迷い人であり、EXスキルを使う者だという事に愕然とするも、先ほどまで見てきたギャンザの力を思い出し、納得するしかなかった。
渦を生み出すと口では簡単に言えるが、あそこまでの威力になるとはと、誰からも言葉が出なかった。
「ふむ……こういう事なら、このことはいち早くアートルムのツバキ殿やジーン様に伝えた方がよろしいな。ギャッツ殿。魔道具を出して欲しいのだが……」
一刻も早くこの情報を伝えたいというヴィクソンに、ギャッツは懐をあさりながら、あ、という顔をした後、苦笑いしながら頭を掻いた。
「失くし……ちまった……」
「……馬鹿」
ギャッツの言葉に、思わずそう返すヴィクソン。普段なら、目上の人間に暴言を吐くことは無いヴィクソンだが、この時ばかりは、呆れを通り越して、怒りを覚えていた。
ジーンからの報告を聞き、ひょっとしてと思って、ギャンザの正体を確認するために飛び出したのは分かる。それで、目的を達成したのだからなおさらだ。
しかし、それを伝える手立てを喪ったというのは許せない。こちらにも強大な力を持つ敵が居ると伝えることが出来れば、アートルムから少しでも援軍をジーンの転送魔法によって呼ぶことも出来ただろうにと頭を抱えた。
普段は寡黙で人づきあいも苦手なヴィクソンからの、明らかな暴言に、騎士達は本気で怒っているという事が伝わり、元々ギャッツの率いる海賊の人間だった冒険者達も、思わず張り詰めた空気となった。
天を仰ぎ、口調もしおらしく戻ったギャッツが何度も、ほんと、すんませんと気まずそうな顔で頭を下げてきているのを見て、全てに諦めがついたヴィクソンは長い溜息を吐く。
「……まあ、後にも引けない、先にも行けないというのは、変わらない……か。各所へ連絡がつかない以上、天鷹様もいつ来るのか、果たして来るのかどうかも分からないが、その中で私達が出来る事は、それまで耐えることだ。
正直、このままギャンザという男にはアートルムを目指して欲しいところだが、恐らくギャッツ殿を確実に亡き者にする為に、敵は今でもこちらに向かってきている。ある意味、足止めに成功しているという事で、このまま、私達は耐え、逃げ切ることにしよう」
「つまり……俺が……囮っすか?」
「戦いが始まる前から言ってるが、その通りだ。だが、ここまで来ると、ギャッツ殿が一人逃げていけば良いと思うかもしれんが、ここまで来ると、私達も無事では済まされないだろう。ともに、ギャッツ殿を守り抜こう」
とうとう敬語も使わなくなったヴィクソンの言葉に、他の者達はただただ頷くしかなかった。
そして、防衛戦の作戦を立てていくが、向こうの力が未知数な以上、会議は難航した。
「渦作るって……風とか海だけじゃないっすよね?」
「恐らくな。多分、地面にも渦を作り、そこに私達を飲み込ませることも出来るだろう。他は、こちらが放つ魔法や気などもあるいは、な」
「おいおい……そんな理屈以上の事、本当に出来るのか!?」
「それがEXスキルだ。お前も見ただろ? 今朝のムソウさん。あんな、あり得ないことを可能にするのが、EXスキルで、その力でこの世界に奇跡をもたらしてきたのが十二星天様だ」
「それくらいの力が、現在私達を襲っている……はあ~。考えたくないな……」
「とりあえず、隠蔽スキルと、迷彩トカゲの隠密機能でこの島中に逃げ隠れるっすか? 多少は時間稼ぎが……」
「良い案だとは思うが、島を破壊されては終わりだ。それに、向こうの戦力を減らすことも出来ない。やはり、打って出るのが一番かも知れないな……」
「ああ……今日が人生最後の日になるとは思わなかった……こんなことなら、昨日、もう少し良いものを食うんだったな……」
「まだ死ぬと決まったわけじゃねえ。最後まで足掻いてやるぞ」
項垂れる“海牙”パウルに檄を飛ばすギャッツ。かつての船長にそう言われたら仕方がないと、パウルは顔を上げ、やってやると頷く。
その他の冒険者や騎士達も、このまま戦い抜くという作戦に頷き、奮起した。
1000人以上居た戦力も、今や300人足らず。ギャンザの力により、吹き飛ばされたり、海に飲み込まれていった同志たちに黙とうを捧げ、ギャッツ、ヴィクソン率いる防衛部隊は再び動き出した。
◇◇◇
竜巻を海賊団の船の周りに展開させつつ、更に自分達の周りに竜巻を生み出し、周りの竜巻の影響を軽減させながら、トレイズ島に近づいていくギャンザ。
目指すは、ここの全滅、ただそれだけ。アートルムで戦う、長年の友であり、相棒であり、前の世界から、ともに海賊団を率いてきたリオウの完全勝利の為、ギャンザは進む。
スキルを使って戦うギャンザの姿は、海賊達の中でも見たことがある者は少ない。せいぜい、海に渦を出現させて船の進行を止める程度に使っていただけだが、その力を持って、人も船も直接海に引きずり込ませたり、空へと打ち上げたりする姿は、始めて見た。
敵も味方も巻き込む圧倒的な力に、海賊達は強い恐怖を抱きながらも、確実に勝てるという思いでいっぱいになっていた。
「へへへ……ギャンザさん。このままアイツ等を一網打尽に……」
調子に乗った一人の海賊が軽口をたたく。
ギャンザは、その海賊を一瞥し、小さくため息をついた。
「気ぃ抜くんじゃねえ。相手は、曲がりなりにもギルド支部長ギャッツ。そして、“海牙”パウル、“龍斬り”アンジェ、その他多くの異名持ち冒険者が未だに残っている。油断してると、テメエだけ死ぬぞ」
「う、うっす……すんません……」
思ってもみなかった慎重なギャンザの言葉に、その海賊はすごすごと下がっていく。
ギャンザが長年、リオウの右腕として活躍してこられた要因の一つは、この慎重さだ。どれだけ力を手にしても驕ることなく、どうすれば、ギルド、騎士団という巨大な組織から逃げ続けられるか、どうすれば、リオウと二人だけで龍族を倒すことが出来るか、どうすれば、この巨大なリオウ海賊団を存続させ続けることが出来るか。
綿密な策略の元、海賊達を指揮し、結果を出し続け、更に自身の力もあり、前の世界からの縁もあり、リオウの信頼は厚かった。
―必ず目的は果たす……そして、この世界への恨みを晴らす……最後まで、暴れてやろうぜ、リオウ……―
ギャンザもこの地で、第二、第三師団の船長を喪い、多くの船員を喪った。完全勝利を収める予定が、その予定が狂ってしまっている。
それによりリオウからの信頼を失うことは無いという自信はあるが、失望される可能性もある。
ギャッツの首を土産に、アートルムに進撃することを誓う。
そして、ギャンザはその場で、懐からとある魔道具を取り出す。
それは、リオウ海賊団の人間全てが持っている、魔物の力をその身に宿すための魔道具である。
これまで、素体の状態だったギャンザは、確実にギャッツや他の戦力を零にする為、その肉体を強化させた。
「ウオオオオオオオオオォォォ~~~ッッッ!!!」
その瞬間、ギャンザから凄まじい衝撃と気が放たれ、更に雷も放たれた。海賊達は慌てて、身を護っていく。
そして、体の変化を終えたギャンザはその身に宿る、先ほどまでとは比べ物にならない力を感じていた。
口腔から牙を伸ばし、その眼光は睨んだだけで、そこらに居る海賊の腰を抜かせるほど、鋭く、まがまがしいものとなっていた。
目を引くのは、全身を、雷帝龍カドルのように雷を纏った毛皮で覆われ、手足には鋭い爪が伸びていた。
ギャンザがその身に宿したのは、災害級の魔物、キングベヒモス。ムソウがマシロで倒したベヒモスの上位個体であり、岩山を砕く突進力と、強力な電撃を操る。
ギャンザは、自身を襲う破壊衝動と、己が肉体を焼く勢いの雷を制御し、展開させた竜巻に纏わせた。
スキルによって雷が走る竜巻が完成する。
そして、掌に雷を貯めて、トレイズ島に巨大な電撃砲を放った。
トレイズ島に建てられていた砦は大爆発を起こし、見るも無残に砕け散っていく。
呆然とするギャッツ達の前で、ギャンザは高らかに吠えた。
「この“力”を以って、この世界を破壊し尽くす! 全てを壊し、全てを飲み込んでやるッ! 人界の守護者共ッッッ! 死ぬ気で護ってみろおおおおッッッ!!!」
島にいくつもの雷を打ち込み、竜巻を振らせながら、ギャンザ自身も、自分の周りに渦を作り、その斥力と引力を操りながら、空を駆ける。
そして、上空からギャッツ達が集まり、態勢を整えている場所を見つけ、大刀を振り上げ、急降下していった。
「来るぞッ! テメエらッ! 覚悟を決めろッッッ! 集団奥義・海群鮫烈斬波ッッッ!!!」
「意地を見せる時だ、コクロの騎士と冒険者達よ! 集団術式極大魔法・天貫地突龍撃槍ッッッ!!!」
ギャッツは、パウル、アンジェなどの冒険者達や武芸が得意な騎士達と集団で呼吸を合わせ、魔法により大量の水を生み出し、気の力で巨大な鮫をいくつも作り出し、斬波としてギャンザに放つ。
ヴィクソンは、魔法使いを指揮し、地面から巨大な槍を生み出し、ギャンザに向けて放った。
集団で行うことにより、一人一人の相互効果で威力と範囲を高めた二つの技は、災害級の魔物でさえも一撃で屠ることが出来る。
無論、ギャッツ達の力の消耗も激しいが、ここでギャンザを止める為なら、全員、惜しみなく力を振るった。
「「「「「ウオオオオォォォ~~~ッッッ!!!」」」」」
ギャッツ、ヴィクソン、冒険者、騎士、そして、ギャンザの雄たけびが混じり、両者の攻撃がぶつかる。
その日、その瞬間、トレイズ島を中心として、凄まじい衝撃がコクロの海を揺らした。




