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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
423/534

第422話 海賊団を斬る ―リオウの正体が判明する―

 海王蟹が死んだ。


 第一陣が出陣し、更なる攻勢を仕掛けるために準備していた海賊達は騒然となる。

 見張りに出ていた者は、自らの目が信じられなかった。アートルムから突然現れた「何者か」が、先鋒を務めた第五師団を蹂躙し、災害級の魔物であるクラーケン、グレンデル、海坊主、ロッカクその他、超級を含む魔物達を全滅させた後、海王蟹に突撃し、あっという間にその機能を停止させた。

 先ほどまで続いていた城全体を揺るがすほどの衝撃は収まった。

 しかし、自分や仲間達の心を襲った衝撃は収まらない。

 この事実はあっという間に海賊団全体に伝わり、外の様子を見ていた幹部達が控える指令室にまで伝わった。


 報告を聞いた船長達は、動揺を隠せない。アートルムには、冒険者ムソウは居ない。ムソウが龍族との戦闘を開始したことは確認していた。

 そして、モンクから向かってきている敵方の援軍、トレイズ島で防衛線を張っているギャッツ達にも奇襲を仕掛けたことを確認し、向こうの目が他方に向いている間に、アートルムを一気に襲うという作戦が、出鼻からくじかれる。

 先遣隊があっという間に海の藻屑となったこの状況で、次に誰が出陣するか、そもそも出陣する必要があるのか、このまま撤退するべきか、円卓の間は船長達の声が飛び交う。


「聞いてないっ! あんなのが居るなんて! 海王蟹は何してたの!?」

「知るか! そんなことより、次はどうするんだ!? というか、追撃はお前らが行くことになっているだろうが! とっとと準備を始めろ!」

「はあ!? あんなのが居る時点で、出るわけないじゃん! アンタ、馬鹿なの!?」

「なんだと!?」


 いつも以上に罵り合いで満たされる円卓の間。誰もが、“確実に近づいてくる恐怖”に、怯え、それをごまかすように虚勢を張っている。

 このまま退却する案も出てきた。しかし、今からでは城に残っている財宝や奴隷達を手放すことになるし、背中を見せた途端に、アートルムから追撃が来ることは目に見えている。

 どこに逃げようとも、ギャッツ達が展開させている防衛線とぶつかり、挟み撃ちになる可能性が高い。

 たとえ、現在ギャッツを襲っている仲間達と合流しても、アートルムの戦力も合流することになり、戦力差は変わらないこととなる。

 そればかりか、こちらがアートルムに攻め入らないと知った、先ほどの圧倒的な力を持つ者がムソウと合流し、二人で龍族を圧倒した場合、龍族が向こうに寝返る可能性もある。

 そうなったら、たとえ逃げ切れたとしても、嵐帝龍、水帝龍の力により、すぐに居場所を特定され、捕らえられるか、もしくは殺されるか……どちらにせよ、自分達が危険な状態になるのは目に見えていた。

 ここからどうするかと、押し付け合いになる船長達。今までのように商人や冒険者の船や小さな村を襲うのとはわけが違う。

 天災級の魔物や災害級の魔物を味方につけ、転界教から強力な魔道具を手にし、いつものように、余裕だった気持ちが一気に崩れ、その場は混乱状態だった。


 船長達の怒号が飛び交う円卓の間。その中で唯一、何も語らず、戦況を眺めている頭目リオウ。報告を聞き、慌てる船長達を眺めながら、ふう、と息を吐く。

 それから、窓越しに戦場を見渡し、アートルムの街を眺めた。

 港湾の部分に障壁が張られ、高波から街を護っている。障壁が及んでいない場所は、波が陸地に侵入したり、係留されていた小舟が島に乗り上げたりしていた。

 攻めるなら、あそこから海を進んで上陸し、街を襲う。主力は、正面で障壁を破る為に猛攻を仕掛ける。

 街の中と外から挟み撃ちを仕掛ければあるいは、とリオウは口角を上げる。


 海王蟹が敗れ、船長達が慌てていても、リオウの心には、未だ、アートルムに侵攻し、領主ノワール、十二星天ジーン含む、街の人間達に暴虐の限りを尽くし、その先で世界に打って出るという野望が渦巻いている。

 その思いの根底には、リオウの出自に関する問題がある。


 リオウは、元々、この世界の人間ではない。リオウだけでなく、海賊団の第一師団を率いるギャンザも、リオウと共に、別の世界からこの世界に、突然やってきた。

 いや、やってきたのでなく、壊蛇と十二星天との壮絶な戦いの際、“魔法帝”ミサキが使用した時空間魔法、それで生じた、空間の歪みにより発生した、他の世界との接触に巻き込まれ、この世界に現れた。

 元の世界でギャンザを含む、多くの仲間達と海賊団を結成し、その日も航海していた時の出来事だった。

突然発生した大嵐に船ごと吹き飛ばされ、仲間達を目の前で失い、その後、意識を取り戻した時には、ギャンザと共に、見知らぬ島へと流され、そこに住む者達に保護された。

 その者達と全く言葉が通じずリオウ達は混乱したが、同じく言葉が通じないことに気付いたその者達により、王都に「迷い人」が現れたという報告が成され、リオウとギャンザは、十二星天“騎士団長”リー・カイハクに保護される。

 この世界に来て初めて言葉が通じるという事に感激し、促されるまま、二人は王都に向かった。

 そこでは、同じく壊蛇の影響で別の世界からこの世界に飛ばされた者達が保護されている施設があり、リオウ達もそこで言葉を覚えながら、この世界で生きていった。

 初めは平和に過ごしていたが、数年経ったころ、その施設でとある変化と事件が発生する。

 何ともなく生きていた迷い人が、ある日突然、意識を失い、そのまま死亡していった。

 原因が分からず、治癒院を設立したジェシカでさえも、その原因は分からなかった。

 恐らく、この世界の環境と、元の世界の環境が合わず、寿命が短くなった影響かもしれないという推測が成され、保護施設に居た迷い人達に動揺が広がっていく。

 自分もこのまま死んでしまうのか、と絶望したリオウとギャンザ。次々と倒れていく迷い人達を看取っていき、ついに、迷い人は自分達だけとなった時、二人にとある変化が起こる。


 恐怖の中で得た、生への渇望。今よりももっと強い“力”への願望。

 そして、多くの仲間を喪うこととなったこの世界の理不尽。戦いに巻き込まれて、自由に生きていた自分達を、この世界に閉じ込めただけでなく、早々と死なせたことへの怒り。

 様々な感情がリオウとギャンザを包み込み、その“魂”に大きな力を与える。


―……EXスキル・爆ぜるものを習得……―

「……あ?」


 突如、脳内に浮かび上がる文章。突然の事に動揺するリオウ。

 ふと見ると、ギャンザも似たような顔をしている。


 そこから、改めて二人で確認したところ、リオウとギャンザは、この世界の人間は獲得しないとされる強力な“力”、EXスキルを取得したことに気付く。

 その効果を知った二人は、これで、この世界への恨みを晴らせると、とある貴族の手引きにより、施設を出て、この世界で真なる自由の身となる。


 それから一年後、コクロにて「リオウ海賊団」を旗揚げする。


 そこからは、ただただ略奪と殺戮の日々だった。前の世界のように、自分達の自由に海を渡りながら、船を襲っていく日々の連続だった。

 EXスキル獲得の影響か、二人は寿命を迎えることなく、寧ろ、更に強くなりながら、この世界の海賊団として生きていく。

 その途上で、多くの仲間を得て、コクロの危険海域に拠点を築き上げる。


 数年後、この海で名前を知らぬ者はいないと言われるほどになった頃、「転界教」という、自分達と同じく、この世界を壊すことを目的とした者達と接触する。

 転界教の“総帥”の正体に驚きつつも、すぐに意気投合し、共同戦線を張ることとなった。

 強力な魔道具とEXスキルで、壊蛇との戦いの傷を癒していた龍族を屈服させ、海王蟹を縛り、海賊団の基盤をより強固にしていく。

 全ては当初の目的を果たすために、今日、人界に打って出た。

 第一陣が破られようとも、海王蟹が破られても、人界への強い恨みにより、リオウは進むことを止めない。

 ギャッツ達と闘っているギャンザからも、「負けた」という報告は入っていない。

 そもそも、負けることは想定していない。ギャンザも、リオウと同じくEXスキルに目覚めている。

 その力を以ってすれば、ギルド支部長止まりの人間など目ではなかった。

 冒険者ムソウについても、相手にしているのは、真の力を取り戻した二体の龍族である。負けることもあるかも知れないが、ムソウも痛手を負うだろう。

 そこをギャンザと突けば、ムソウを殺すことも出来る。その後で、龍族を再びこの手に取り戻せばいいだけの事。

 退路は確保できている。今はまだ慌てることは無い。


 アートルムを眺めて、港湾に騎士団師団長ルーカスと十二星天ジーン・シルヴァスが居ないことに気付き、代わりに、クレナの格好をした女騎士と女の冒険者が居ることを確認する。

 これまで、龍族の力を使って目にしていた、冒険者ムソウの仲間であることを確認し、その状況から、あの二人が指揮を執っていることが分かった。

 そのうち、海王蟹などを打ち破った力は、女騎士の方が行ったものであるという事は、モンクの事件の報告から、既に判明していた。

 その力が、すぐに失われるという情報も掴んでいる。

 そうなった時に、自分が正面から一気に進軍し、敵の目がこちらに向いている隙に、障壁が及んでいない場所から、余った戦力を投入する。


 リオウの作戦は決まり、未だ慌てふためく船長達に向き直った。

 すると、向き直った先の窓越しに見えた外の光景を見て、動きを止める。

 そして、フッと笑みを浮かべながら、報告に円卓の間に入ってきた男に口を開く。


「おい、お前……」


 その瞬間、円卓の間が静かになる。今まで沈黙していたリオウが口を開き、これからどうするのかという顔の船長達と、何故、自分が呼ばれたのかという顔の伝令の男。


「そこ、どいていた方が――」


 しかし、リオウから放たれた言葉は、そこをどけという言葉だった。こんな時に何を、と思った瞬間、部屋に怒号と衝撃が響き渡る。


「ウラアアアアアッッッ!!!」

「ガフッ――」


 突然壁が破壊され、外から「何か」が入ってきた。「それ」は壁を打ち破ると同時に、伝令の男を蹴り殺す。

 唖然とする船長達だったが、すぐにその存在が、先ほどまで外に居て、第五師団及び、海王蟹を殺した存在だと気づき、動揺し始めた。


「き、来たアアアアああああ!!!」

「な、何で、ここが!?」

「ひぃ! は、はやく、逃げ……!!!」


 混乱する船長達。武器を抜いて構える者、我先にと避難しようとする者、しかし、扉の前に敵が立ち、どうすることも出来ないと悟った者等様々居る中、リオウは冷静に、その存在を見据えていた。


 ◇◇◇


 海王蟹を止めたことを確認したエンヤ。天災級の魔物を倒したにも関わらず、そこまでの力は使っていない。所詮、ただの蟹だったか、と大刀を収める。

 思ったほどの力を使わなかったおかげで、もうしばらく、刀に戻らなくても良いことに気付き、これからどうするかとエンヤは思案する。


「こうなったら、一気に俺が……って、駄目か。ここで暴れたら、城が崩れる……」


 このまま一気に海賊団を殲滅しようかと思ったが、城に突っ込み大刀を振り回せば、海賊団の城が崩れる可能性が高い。自分は大丈夫だが、そうなってしまっては、生き残った海賊を確認することも困難になるし、囚われているだろう人間も助けることは出来ない。

 出る前にリアに確認した手前、そうなると、すごく非難されると思ったエンヤは、攻め込まないことを選んだ。

 ならば、このまま帰ろうかと思ったが、その時エンヤは、とあることを思いつき、城の動きを外から眺めた。

 すると、見張り台から一人の男が離れていき、しばらくすると、城の最上階の窓が開かれ、そこから外に目を向ける人間に気付く。

 よく見ると、見張り台の男も中に居ることを確認したエンヤは、その部屋が海賊達の指令室であると考え、そのまま特攻していった。


 やすやすと壁を突き抜け、その勢いのまま、伝令の男を蹴り殺す。

 騒然となる、その場にいた者達を眺めながら、装備や状況から、その部屋の人間達が、いわゆる船長級の者達だという事を確認。

 自分の登場に慌てるだけの姿を見ながら、こんな奴らにこの世界の人間は、長年苦労させられていたのかと、ため息をつく。


 しかし、その中で唯一、ジッとその場に立ち、自分を観察するように目を向けている男に気付く。

 両肩から胸にかけて刺青を入れ、長い髪を後ろで縛った壮年の男。手に持った大刀と、腰に下げた巨大な魔法銃。そこから伝わってくる力は、神刀級だった。

 それと同時に、男から伝わってくる得体の知れない気配。ムソウやシンキ、そして、自分ほどではないが、エンヤが今まで見てきた十二星天の何人かよりも強く大きな力を感じ、エンヤは少しばかり、気を引き締めていた。

 すると、船長達が慌てる中、その男は拍手をうちながら自分に近づいてくる。


「クックック……敵ながら、見事なもんだな。あっという間に本陣突入か……」


 少したどたどしさを感じる言葉遣いに違和感を覚えるも、明らかに他とは違う存在感に、エンヤはその男が、この海賊団を率いる“頭目”、リオウであることを感じとった。


「テメエも余裕だな……俺を前にして、そこまで落ち着いてる奴は珍しい……」

「ほう……会話など通じない、ただの“化け物”かと思ったが、そこまででは無いようだな……」

「あ゛?」


 リオウの挑発ともとれる言葉に機嫌を悪くするエンヤ。威嚇も込めて、少しばかり気を放出させる。

 船長達は、何故、挑発のような真似を、という顔でリオウを見るが、本人はそんな視線も、エンヤの行動にも動じることなく、フッと笑みを浮かべる。


「おいおい、辞めてくれよ。ここで暴れたら城が壊れちまうだろ? そうなったら、大事な「商品」共も海の藻屑になっちまう」

「……チッ!」


 リオウの言葉に、舌打ちしながら気を静めるエンヤ。敵の思惑に乗るのは気に食わないが、やはり、ここには連れ去られたりした者達が居ることが確定となり、暴れるわけにはいかないと、リオウの言うとおりにし、大刀を収めた。


「それで良い……それで、何しに来た? わざわざお越しになったってことは、何か言いに来たんだろ? 用があるならさっさとしろ。テメエも、後わずかしか、この世に居ねえんだろ?」

「あ? 何で、そのこと知ってんだ?」

「モンクのリエンほどじゃねえが、俺達にも優秀な情報屋って奴がいるんだよ」


 エンヤは再び舌打ちをする。この様子だと、偶像術の他、今まで隠してきた今回の戦いでの作戦なども、既にリオウは把握している可能性が高い。

 だからこそ、ここまで大胆に攻め入ってきたのかという確証も得られたが、海王蟹を倒したところで、船長達はともかく、リオウが落ち着いている理由は、更に準備をしているからかと納得した。

 ここでごまかしても無駄だと悟ったエンヤは、正直に自分の事と、ここまで来た理由を話し始めた。


「その通りだ。俺はもうすぐ居なくなる。同じように現れるにはしばらく時間が必要だ。俺より強い奴はあの街には居ないから、攻め込むのは好機だろうな。まあ、こちらの防衛線は固い。すぐにモンクからの援軍もここに到達し、テメエらを一網打尽にするだろう」

「クックック……舐められたものだな。よくぞそこまで喋るとは、よほど自信があるのか、ただの馬鹿か……」

「喧嘩売るのが得意みてえだな……バラバラにするぞ?」

「怒んなよ、これしきで……それに、舐めて喧嘩売ってんのはテメエもだろ? わざわざ、それだけ告げに、ここに来たのか?」

「なわけねえだろ。絶体絶命のテメエら屑共に、この俺がありがたく、提案に来たんだよ」

「提案?」

「このまま降伏すなら、命までは取らない。ちゃんと騎士、王都の縛につくなら、俺達はこれ以上、危害は加えない」


 エンヤの提案は、元々の作戦にあったものではなく、今ここでエンヤ個人が考えたものであり、仮に、海賊団がエンヤに応じた場合、ツバキ達にこのことを伝える考えだった。

 攻め込んできた海賊に関しては仕方がないが、エンヤの心の中には、ツバキの信念である、「誰も死なせない刀」という思いがある。

 覚悟を決めたとはいえ、出来る限り、ツバキやリア、ダイアン達には直接、人を殺すという事はさせたくなかった。

 それは自分達の役目と、圧倒的な力の差を見せつけ、海賊団が降参することを望んでいた。

 また、こんな人間でも、自分達が護ってきた人間である。そんな人間同士の戦いは、今もツバキと共にいるコウカの心を悲しませるものであることは分かっていた。

 出来る限り戦うという事はせず、このまま、戦死者を増やさず、戦いを終わらせたいとエンヤは心の中でリオウに懇願しつつも、表に出すことなく、答えを待っていた。

 しかし、そんなエンヤの心の内を気にすることなく、リオウは腹を抱えて笑い始める。


「ククク……ハッハッハッハ! 何、寝ぼけてんだ、テメエ。ここまで来て、言う事にかいて、降伏するか、だと? バカも休み休み言え!」

「……あ?」

「降伏して、騎士に従え? どっちにしろ俺達は死罪だろ! 後で死ぬくらいなら、今を生き抜く道を選ぶのは当然だろ! バカな提案してんじゃねえよ、ボケがッ!」

「てめえ……!!!」


 エンヤは、腹を抱えるリオウに憤り、先ほどと同じく気を放出させて威嚇する。

 船長達は怯えた顔となっていくが、リオウはそれを振り払うように前進し、エンヤの目の前で、更に口を開く。


「それで良いんだよ! 俺達に隙を見せることなく、殺意だけをぶつけて来い! 覚悟を決めて殺しに来い! 奴隷共が居るからここでは暴れない時点で甘え奴だとは思っていたが……まあ、それなら、俺も満足だ! 向こうの女どもに覚悟しなって伝えとけ! すぐにコクロを堕としてやるッ!」

「交渉……決裂……この結果になって……俺がこの場でお前をやらねえとでも……?」


 リオウの意思は分かった。ならば、この場でリオウだけでも殺し、海賊達の士気を一気に下げることにしたエンヤ。虚空から大刀を出現させ、振り上げる。


「おっと……食らいやがれッッッ!!!」


 しかし、リオウはそれを紙一重で躱し、エンヤが蹴り殺した男の首を掴む。

 そして、エンヤに向けて投げた途端、エンヤの目の前で、男の体がブクブクと膨れながら輝きだす。


「ッ!? チィッ――」


 エンヤは何が起きるのかをすぐに察知し、その場から外へと飛び出る。

 船長達が自分達の周りに障壁を展開させた瞬間、リオウが投げた男が轟音とともに大爆発を引き起こした。

 その影響で、その部屋から上が吹き飛び、再び、城全体が揺れる。一応、城自体は無事だが、中に居た海賊達は、とうとうリオウが“力”を使ったことを確認し、エンヤが起こした恐慌を忘れ、リオウに対する恐怖で頭がいっぱいとなっていく。

 城の上部の爆発は、アートルムからも見えていた。エンヤが特攻したことも見えていたので、あれもエンヤが引き起こしたものと思われたが、直前に、城から離れるエンヤを目にし、更にそのような力を持っていないと知っているツバキ達は、一体何が、と困惑していた。

 目の前で起こった奇妙な出来事にエンヤは困惑しながら、城を眺めていた。

 すると煙の中から、パンっという破裂音と共に、目視できるのがやっとの速さでいくつもの弾丸が飛んできた。


 大刀を手にし、弾丸に対処していると、晴れた煙の中から、魔法銃の銃口を向けるリオウが姿を現す。


「こっちも、世界を壊すのに命かけてんだよ! 今更降伏なんぞするか! この世界に俺達を閉じ込めた人界の頂点、十二星天共ッッッ! 首を洗って待っとけ! この‟力”をもって、すぐに攻め落としてやらあっ! 総員、出撃体制を整えろオオオオオッッッ!!!」


 叫びながら、魔法銃を狂ったように乱発する。簡単に止めていた弾丸だったが、とある変化が起きて、エンヤは驚愕する。

 弾丸が刀に当たった途端、大爆発を引き起こすようになった。それだけでなく、エンヤから逸れて海に向かった弾丸も大爆発を起こし、周りに水の柱を打ち上げる。

 エンヤは、とてつもない怒りをリオウに対して感じながらも、その場から退却。得た情報をツバキ達に伝えるために、アートルムに戻っていった。


 ◇◇◇


 海賊団の城の上部が爆発し、更に、海から上がる水柱と、空中で発生する大爆発。その衝撃で、自身が展開させた障壁や、結界魔法が揺らぎ、ツバキ達は驚愕していた。

 海王蟹よりも強力な武器を備えている……いや、そのような話ではない。明らかにそれ以上の力を、海賊団は有している。

 少しだけゆとりを持った心境が、すぐさま、緊張状態となっていく。海賊団の力はこれほどなのか。

 それ以上に、エンヤは大丈夫なのか。未だ、斬鬼に戻ったことは確認されていない。

 エンヤは普通の偶像術と違い、肉体が滅べば、エンヤの魂も無に帰す。

 エンヤの力は信じているが、エンヤが未だに戻らないという事実に、心が揺らぎそうになっていた。


 その時、海の方から人影が近づいてくるのが見える。それは、海賊団の拠点から帰還しているエンヤだった。

 ツバキは、ひとまず安心し、展開させていた障壁に小さな穴をあけて、エンヤを迎える。


 ツバキ達の元へと戻ったエンヤは、先ほどまであったことと、自分が海賊団に降伏を促したが、聞き入れてもらえなかったこと、そして、掴んだリオウの正体について語り始めた。

 一応という事で、リアは魔道具を使い、ジーンにもエンヤの言葉が通じるようにした。


「それで、エンヤ様。リオウの正体というのは……?」

「ああ……アイツは恐らく、「迷い人」だ。それも、EXスキルを持った、な……」


 エンヤの言葉に、ツバキ達は自分の耳を疑った。スマホ越しのジーンからも、驚く声が聞こえてくる。


『なっ!? エンヤ様、それは一体どういう……!?』

「言葉通りだ。奴は言っていた。「自分達を閉じ込めたこの世界を、“力”を以って破壊する」と……恐らくはそう言う事だと考えられる」

『儂達やムソウ殿以外にも迷い人が……いや……そうか! あの時の生き残りか!』


 何かに思い当たったジーンは、どういうことかと戸惑うツバキ達に、かつて、壊蛇と闘かった直後に、大きな戦いの影響で世界各地に迷い人が現れたことを説明した。

 ムソウと同じ様に、ケアルやエンマが、召喚、あるいは転生という方法を用いて呼んだのではなく、何かのはずみで現れた迷い人。

 その者達は、十二星天と違い、言語も通じず、EXスキルも持たない者達で、この世界に生きることは困難とされ、当時、王城が設立した迷い人の保護施設にて保護し、最低限、この世界で生きていけるように、教育を行っていた。

 しかし、理由は分からないが、数年を経たずして、迷い人は倒れていく。当時ジェシカや王城は、この世界の環境が合わず、迷い人は寿命が短くなったとされていた。

だが、この世界の秘密が明らかになった際に、エンヤ達とは違い、若くして命を落とした初代人界王シンラにも、それが当てはまったことが明らかとなり、その節は立証された。

 恐らくは、当時の迷い人の中に、リオウも居たのだろうというジーンの言葉に、ツバキ達は戸惑いながらも、それしかないと頷く。


 しかし、EXスキルについてはどうなのか、という疑問についてはエンヤが答える。

 EXスキルはもともと、違う世界の人間の魂がこの世界に来た際に発現するものであり、個人の強い願望や特性により、魂がそれに応じて変化するものであると、“始まりの賢者”ムウによって明らかにされている。

 リオウも何かしらの強い意志により、その魂に変化を及ぼし、十二星天やツバキのように、エンヤ達から継ぐ形で得たものではなく、ムソウのように、新たなEXスキルを自ら生み出したのではないかとの事だった。

 寿命が長くなったのもその影響だろうと考えると辻褄が合う。エンヤの言葉に、ツバキ達は再び、頷くしかなかった。


「それで……その“力”というのは?」

「恐らく、物質を爆発させるもののようだ。丁度、あんな感じにな……」


 そう言いながら、エンヤは障壁の外を忌々し気な目で見つめる。

 今なお海面に大きな水柱が上がっている。

 エンヤは先ほどの、リオウとの戦いを思い返しながら、自身の考えの根拠を語る。

 最初は、死体となった海賊の男。次は、リオウが放った弾丸。ただの弾丸だったものが、突如、次々と大爆発するようになった。

 このことから、リオウのEXスキルは、何かしらの物質を爆弾に変える、あるいは内側から爆発させるような能力であることと推測した。

 魔法や、ツバキの障壁そのものに触れた際に爆発できるのかは定かではないが、リオウが自分に触れなかったところから、少なくとも気や魔法で出来たものには効果がないのではと考えられる。

 しかし、油断はしないこと、直接爆発させなくとも、小さな弾丸が大爆発を無尽蔵に引き起こす爆弾になること自体がすでに脅威と、ツバキ達に話すエンヤ。

 動揺するツバキだが、確認してみないことには先へ進めない。このまま、援軍が来るまで障壁は展開させ、出来るだけ近づけさせないと言うと、それで良いと、エンヤは頷いた。

 この情報は、ジーンを通じて、即座に戦場全域及び、援軍のレオパルド、防衛線のギャッツに行き渡る。

 ギャッツからの返事は返ってこなかったが、レオパルドからは「了解」という返事が返ってきた。

 ギャッツに一抹の不安を覚えるも、向こうにはそろそろ天鷹トウウも到着するという事で、ひとまずは待機という事にした。

 リオウの正体について明らかになっていくも、取り乱すことなく次の行動を構築させていくツバキ達。

 エンヤは、ふう~、と長い息を吐いた。

 そこへ、心配そうな顔のリンネが近づいていく。


「キュウ?」

「……ああ、大丈夫だ、リンネ。そんなに心配するな」


 そう言って、リンネの頭を撫でるエンヤ。安心したように笑うリンネを見ながら、エンヤは、ノアとの日々を思い返していた。


 人界を護る為に、自分達を命がけで残したノア。そして、リンネを生み、自身の願いを全て託し、命の炎が尽きるまで、最後まで、人界を想いながら死んでいった。

 ノアも、コウカと同じ様に、今の、この海賊団との戦いには抵抗を見せるだろう。

 自分達が護ってきたものが、自分達に強い敵意を向けてきている。それを打ち破るのは仕方のないこと。

 エンヤもそれは理解している。憎悪をぶつけてくる人間に、憎悪で返す戦いというのは、前の人生でも、嫌というほど経験し、今回も覚悟は決めてきていた。

 心の中で、許せと念じながら、更にリンネを撫でていく。


 すると、時間が経ち過ぎたのか、エンヤの体が輝き始め、手の先から徐々に光の粒になっていくことに気付いた。


「そろそろか……」

「あっ……」


 エンヤが斬鬼に戻る時間に気付いたツバキは、障壁を展開させながら、エンヤに頭を下げる。


「お疲れさまでした……ですが、また、すぐに喚ぶかもしれませんが……」

「それで良い。俺は、ザンキの代わりにお前らを護るって誓ったんだからな。その為に、お前も俺を、存分に使ってくれ」

「ありがとうございます……やはり、エンヤ様が味方ですと、私達も大きな自信となります」

「リオウの正体にはまだまだ驚いたままだけど、海王蟹の他に、クラーケン、海坊主の討伐は、本当に良かったと思う。それに、エンヤ様は本気で降伏を促していたようだけど、向こうはただの挑発と受け止めて、ここから退くって選択肢を消すことになった。

 これで、殲滅かこちらの全滅か、勝敗の条件が分かりやすくなった分、こっちも全力で相手できる。感謝するわ」

「ククッ……やっぱり、リアはそっちの方が良い。その冷静さを失くすなよ。失くしそうになった時こそ、俺を呼べ。さっきまでの力は無いかも知れないが、戦況をひっくり返してやる。

 それから、ジーン……奴は十二星天に強い恨みを持っている。そっちにも海賊達が何らかの手段で向かうかも知れない。充分に気を付けろよ」

『はっ。龍族と闘っているであろうエンヤ様の“息子”殿が後悔せぬように行動する。海賊が街に入り込んでも、追い出してやる』

「その意気だ。お前も、今度こそ自分の“家族”を、どんな困難からも護るんだ。分かったな?

 じゃあ、俺は戻る。だが、すぐに出て来て、あの野郎をぶった斬る。無理し過ぎないように、力を貯めていてくれ、ツバキ」

「かしこまりました。では、それまで休息を……」


 ツバキの言葉に、エンヤは頷き、そのまま斬鬼の中に戻っていった。

 戦場からエンヤが消失したというだけで、少しばかり不安な気持ちが心に宿る。

 リアは苦笑いしながら、早く呼べるように力を込めようと言って、斬鬼に自分の気を込めていく。

 他人が込めた気で、偶像術が発動するかどうかは分からないが、リンネの魔力でも出来たのだから出来るだろうと、リアは注ぎ続ける。

 おかげで、ツバキはEXスキルに集中できる。どんどん近づいてくる水柱と、態勢を立て直し、攻め入ってくる海賊の船団と魔物達を見ながら、ここからが本番と呟き、更に力を込め始めた。


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