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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
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第418話―リンと仲良くなる―

 さて、ジーン達との会議も打ち合わせたいことはしっかりと話すことが出来たので、昼飯を食べた後は、俺達も皆に加わって遊ぶことにした。

 なお、ルイは派手な、扇情的な水着から、少し落ち着いたものに着替えた。これならどうかとレオパルドに確認すると、


「そっちの方が良いなッ!」


 と言われて、ご満悦の様子だ。顔を赤らめるルイを見ながら、普段は見られない姿を見れて、何とも楽しい気分となる。

 ツバキとリンネは、ジーンと共に、キキ、リンとオリビアに泳ぎの練習を行っていた。

 浅いところに居る皆と違い、俺は、リンを探す際に目にした海底の光景に少しばかり感動し、しばらく深いところで泳いでいた。

 極彩色の魚が群れを成して泳いでいたり、海藻が揺らめいていたりと、地上に居るだけでは絶対に見られない光景。40年生きてきて初めて見るものに、年甲斐もなく胸が躍る思いを抱いていた。

 初めて見るものというのは、どんな絶景よりも絶景なのだろうなと思っていると、視界の端から大きなものが泳いでくることに気付く。

 それは、ハルキだった。ハルキは、何か長いものを持っていて、「何か」にそっと近づき、その長いもので、「何か」を突いた。

 どうやら、魚捕り等で使う銛のようだ。そして、ハルキが突いたのは、海のように綺麗な青い鱗を纏った魚。

 ハルキは嬉しそうに腰に下げた網袋に魚を入れていた。

 すると、俺が見ていることに気付き、身振り手振りで、


「やりましたよ!」


 みたいな感じで、俺に手を振ってくる。


 俺は、ハルキに近づき、腕を掴んで、無理やり海中から放り投げた。


「うわっ! と、頭領! 何するんすか!?」

「やかましい! テメエ、ふざけんなっ!」


 突然の俺の行動に驚いているハルキを砂浜まで吹っ飛ばし、詰め寄っていく。

 皆も何が何だかと言う顔でぽかんとしていたが、俺は意に介さず、ハルキに怒号の声を上げる。


「おいコラ……俺が、海の絶景を眺めている中で無粋な真似しやがって、ふざけんじゃねえぞ。そう言うのは俺の居ないところでやれ!」

「そ、そんなあ~~~! 美味そうっすよ、これ」

「そういう目で見るなっつってんだ!」


 せっかく、綺麗な海の景色の中で、生き物を殺すということを行ったハルキ。魚の血が海に揺らめいた時点で、その光景は台無しになる。

 落ち着いていた胸の内も、一気に燃え上がっていた。

 周りで見ている者達は、そんなことで、という顔をしているが、俺は意に介さない。効くかどうかわからないが、ハルキから取り上げたデカい魚を網袋から取り出し、回復薬をかけてやった。

 魚の体が輝き、傷がふさがる。ただ、息は弱かったので、すぐさま海の中に放してやると、元気よく泳ぎ出したので、ひとまず胸を撫で下ろした。


 そして、再びハルキに目を向ける。名残惜しそうに、先ほどの魚を眺めるハルキに、更に一喝した。


「漁なら向こうでやれ!」

「い、いや、あっちは、そんなに捕れな――」

「良いから、行けっ!」


 魚が居るか居ないかは関係ない。大事なのは、俺の視界じゃないところなら、漁をしても良いということだ。

 俺はハルキの体を持ち上げて、明後日の方向に思いっきり投げた。


「うおああああああ~~~っっっ!!!」


 絶叫を上げながら空を飛んでいくハルキは、そのまま海に落ちていく。それを確認した俺は、再び海の中に入っていく。


「む、ムソウ様、流石にやり過ぎでは……?」


 皆が沈黙する中、ツバキが駆け寄ってくる。心配そうな顔を見て、少しばかり気を落ち着かせた俺は、ふうと息を吐いた。


「今日は仕事じゃねえんだ。ゆっくりしてえのに……まったく……」

「だからって……ムソウ様も、釣りとかなさるじゃないですか」

「俺の見えないところでやって欲しいんだよ。ゆっくりしている中で、目の前で、あんな綺麗な魚を突きさす所を見せられてみろ。多分、お前でも怒るぞ」

「それは……」


 そこまで言って、ツバキは黙り込む。腑には落ちないが、理解はしてくれたようだ。

 ただ、他の者達は、未だに呆れたような顔をしている。俺は別に納得してもらわなくても良い。

 再び、はあ、とため息をつきながら、この荒れた心を癒すためにと、海の中へと足を進ませる。


 すると、リンが近づいてきて、俺の足をツンツンとつついた。


「おい、こわもて」

「あ? ……どうした?」


 リンは、まっすぐと俺の顔を見上げていた。一体、どうしたのだろうかと思っていると、リンは拳を自分の前に持ってきて口を開く。


「僕も、気持ちはわかるぞ! こわもての気持ち、わかる!」

「お前……」


 力強く、頼もしい言葉に、俺は感動した。リンには俺の言いたいことが分かるらしい。

 確かに、俺も普段は依頼や狩りなどをすることがある。しかし、それは仕事だからだ。

 だが、今日は休日で、俺は海の景色を楽しんでいた。太陽の光が差し、白い海底と、色とりどりの珊瑚が張り付いた岩の間を、綺麗な色の魚が泳いでいる。その光景が綺麗だと思って、見蕩れていた。

 そこに現れたハルキは、そんな光景を創っている魚を、その光景を楽しんでいた俺の目の前で捕まえようとした。

 普段なら、まあ、確かにツバキの言うように、俺も漁というものはするから、何とも思わないだろうが、先ほどの行動は、俺の楽しみを邪魔しているようにしか感じなかった。だから、俺は怒った。

 そして、リンも、偶に自然の美しい景色を見て瞑想したり、自然に触れるということ自体を楽しんだりするという趣味があるという。

 自分が最高だと思ったものを見る事こそが至福ということで、その光景の中で、気に食わないことがあれば、その時点まで楽しんでいた気持ちも、何もかもが嫌になるらしい。

 このことは、キキも、レオパルドも、ましてトウガ達も気にならない感性らしく、自分が瞑想している際に、何らかの要因で邪魔されたときにイラついていたとしても、誰にも分かってもらえないとリンは語った。


「こわもては、良い景色を壊していくとジーンから聞いていたが、お前にも、美しいものを美しいと思う気持ちはあるんだな!」


 何てことを子供に言ってるのだと、ジーンを睨むが、プイっと視線を逸らされた。

 というか、そもそも、俺はそこまで風景を変えるようなことはしていない。

 むしろ、魔獣の大山や、グリドリの森林など、汚染されたところを綺麗にしただけだ。

 ……ああ……休みにああいったところに行って、一日中落ち着くという過ごし方も良いかも知れないな……。


 兎にも角にも、リンには俺に通じるものがあるということは確認した。

 まっすぐ俺を見つめてくるリンに、俺は頷いた。


「じゃあ、一緒に海の中を楽しむか?」

「うむ! 僕は泳ぎつかれたからな! こわもてと一緒に、海の中の景色を楽しむぞ!」

「よしっ! じゃあ、行くぞ! リンネ達はどうする?」


 一応と思い、リンネ達も誘ってみたが、リンネはオリビアと顔を見合わせて、首を傾げていた。この人たちは何を言っているのかと、戸惑っているような感じだ。

 すると、キキが二人の手を取って、自分の方に引いた。


「リンネとオリビアは、ここで私と、ツバキお姉さまに泳ぎの手ほどきを受けますわ。ね、リンネ?」


 危機に手を引かれたリンネは少し悩んだようだが、コクっと頷く。


「うん。よくわかんないから、リンネ、ここでおよいでる~」

「わたしも~。おおじいちゃんがいるから、ここでリンネちゃんとおよいでる~」


 オリビアも、ここでリンネ達と泳ぎの練習をしたいと言っている。まあ、そもそも、リンネはまだしも、オリビアは長い時間潜っていられないからな。

 分かったと頷き、ツバキに任せた後、リンと一緒に海の中に入っていった。


 ◇◇◇


 ムソウとリンが海に潜ったことを確認した一同。もう大丈夫かと思ったレオパルドは、長い息を吐いた。


「ふう~~~……おっかないな、お前らの頭領は」


 そばに居るルイにそう言うと、呆れた様子のルイが頷いた。


「沸点が分からないわ……」

「だな……あ、だが、ジーンは何となくわかるんじゃねえか?」


 絶景を見ながら心を落ち着かせるということは、レオパルドには分からない。だから、ムソウの怒りも分からないが、ジーンならば何か思い当たることがあるのではと思い尋ねると、ジーンは少し悩みながらも頷いた。


「まあ、分からないでもないが、あそこまで怒ることは無いな」


 普段から、ジーンがあまり怒らないことを知っているレオパルドは、だよな、と頷く。


「ちなみに、ジーン様が激怒する時って、どういう時っすか?」


 興味本位で訪ねてきたダイアンに、ジーンはフッと笑みを浮かべてすぐに口を開く。


「そこはムソウ殿と同じだ。儂の“家族”に何かあった時は、時々我を忘れるな」


 ジーンが我を忘れるほど怒る姿というのは、想像もつかないと一同は目を見開く。

 レオパルドまでも、少々驚いた様子だった。それほど、ジーンが本気で怒るということはあまりない。

 リンネ達と楽しそうにはしゃいでいるオリビアを微笑まし気に見つめるジーンの肩をポンと叩き、


「シルヴァス家は安泰だな」


 と、笑うと、ジーンも、当然だと笑い返した。


「頭領は、そんな“家族”にも厳しいっすけど……」


 ハルキが落ちた辺りを見ながら、ダイアンがボソッと呟く。調子を取り戻したのか、現在ハルキは、ムソウの見えないところで、大きな魚を突いては、海面まで浮上し、皆に見せつけるようにして、更に漁を続けていた。

 確かに、休日に何をしているのだろうかという気持ちも芽生えてくる光景に、リアはため息をつく。


「あー……でも、私も、頭領みたいな気持ちになってきたかも……」


 そんなリアに、チョウシとチャンも頷いていた。


「俺もだ。アイツ、あの魚どうする気だろうか」

「頭領に見せたら、またぶっ飛ばされるぞ……」


 何となく、今日のハルキを待つ結果が見えた気がして、三人は静かに手を合わせていた。

 それを横目に見ていたレオパルドは、可笑しな気持ちで笑みを浮かべる。


「こいつらも、安泰そうだな」

「うむ。見ていて飽きないな。さて、そろそろ儂らも遊ぶとするか」

「童心に帰ったつもりで、海中鬼ごっこでもするか?」


 レオパルドの提案に、そこに居た者達は頷いた。

 「鬼ごっこ」という単語が聞こえたリンネ達も混ざり、その後しばらく、ツバキ達は海中での鬼ごっこを楽しむようになっていった。


 ◇◇◇


 さて、リンと共に海の中に入ったわけだが、相変わらずの景色に、先ほどの怒りも忘れて、心を穏やかにしていた。

 リンの方も、静かに景色を楽しんでいたが、時折、レオパルドからの知識を俺の脳内に、直接、「念話」で伝えてきたりもしていた。


『お……見ろ、こわもて。珊瑚が産卵しているぞ』


 リンが指さす方向を見ると、珊瑚から星のような小さな粒が放出されている光景が目に入る。この一つ一つが、珊瑚の卵らしい。


―へえ……石のような珊瑚だが、やはり生物なんだな……―

『綺麗だな……あ、こわもて、あっちには星ヒトデが居るぞ。あれが夜になったら、体から光を放つんだ』

―ほう……そうなると、夜の海も綺麗なんだろうな―

『うむ。だが、普通は真っ暗だから、人間のこわもては入らない方が良いぞ』


 などと、海に入る時の注意点なども解説してくれたりもする。

 子供から教わることは多いとよく聞くが、恐らくこういう意味でもないんだろうなと苦笑いした。

 ちなみに、リンは俺の体に捕まっている。普段はレオパルドやトウガに捕まっているらしいが、リンネと同じく、獣の姿になれば泳ぐことも出来る

しかし、人の姿だと、泳ぐことがまだ難しいようだ。だから、先ほどまで、ツバキとリンネにより、泳ぎ方を練習していたそうである。

麒麟は、どんな環境でも適応できる能力を持っている。いわば、「環境変動無効」の効果付与がなされている装備を常時纏っている感じだ。

 それにより、海の中でも、魚のように息継ぎなしで、居続けることが出来る。


 そうやって、常に俺のそばに居て、何か面白いものがあれば、逐一報告してくれている。

 感性が似ていることに喜んでくれたのか、もともと、そういう性分なのか定かではないが、初めて、リンに優しくされているような気がして、嬉しくなった。


『……なあ、こわもて』

―ん?―


 ゆっくりと海中を楽しんでいると、少し沈んだリンの声が頭の中に響く。

 顔を見ると、どこか心配しているような感じだった。


―どうした? 皆と遊びたくなったか?―

『違う……あのな、こわもて。僕たちも、ここに悪い奴らが居るのは知ってる。こわもてがそいつらと戦うためにここに居るのも知ってる。

 もし戦うなら、ここの、この景色も、もう、見られないのだろうか?』


 不安そうな顔で見上げるリン。確かに、ここで海賊団と戦うということになれば、この辺りの海は荒れ、俺達が今見ている景色も見られなくなるかもしれない。

 俺としてもそれは寂しいことだと思っている。


 しかし、いざ「戦」ともなると、そうも言ってられない状態となる。

 俺はこういうことには慣れているが、やはり、リンもこういうところは、まだ幼い考え方だな……。

 だが、それもまた良いことだと思っている。子供ながらに、戦の後の事を気にするとは、普段はやんちゃだが、やはり、本当は優しいんだな……。


―大丈夫だ。その時は、“魔法帝”やレオ達に元通りにして貰えばいい。もっとも、そんな状態にはさせない。俺達がさせない。だから、お前は安心していてくれ―


 海賊団と戦って、海が荒れようとも、この世界には「十二星天」という存在が居る。

 壊蛇とやらが荒らした世界を元通りにした連中だ。リンは、その十二星天の一人である、レオパルドが大切にしている存在だ。

 そんなリンの為なら、ミサキだって大切に思ってくれているはずだ。仮に、この景色がボロボロになっても、ミサキの魔法でなら、元に戻すことが出来ると確信している。

 ただ、元からボロボロにはさせないつもりでもいる。どうなるかは無論、今の時点では不明だが、俺が居て、ツバキが居て、リンネが居て、ダイアン達が居て、そんなことはさせない。

 人だけじゃなく、この領を守り抜く。そういう思いで、リンの頭を撫でると、普段は反抗するリンが、今回は驚いたように目を見開き、しばらく考え込んだ後、コクっと頷いた。


『……うん。僕は、お前を……ムソウやリンネ、ルイ達を信じる。そして、レオ達を信じる。

 だから……僕に、もし、出来る事があったら、言ってくれ。僕も、ここを護る為に、何もしないわけにはいかない。この、美しい光景を、悪い奴らに汚させるわけにはいかないから……だから……』

―ああ。俺はリンの事も信じている。信じて、頼らせてもらう。一緒に、頑張ろうぜ―


 再び、リンは強い目で頷いた。建前ではなく、本気でリンとキキにも、大切な仕事を任せたいと思っている。

 レオパルドも、海賊団討伐に協力すると決まった時から、麒麟の二人についても、俺達の頼れる戦力として考えていた。


 初めて俺の名前を呼んでくれたリン。俺は、小さくも力強いリンと握手を交わし、ともに闘うことを約束した。


 ◇◇◇


 その後もしばらく海の中を楽しんでいたが、泳ぎ疲れたのか、リンが眠たくなってきたと言い始めたので、砂浜に上がった。

 すると、既にリンネ、オリビア、キキが並んで木陰で昼寝をしていたので、ウトウトとするリンを横に寝かせた。

 三人は手をつないで寝ている。リンも、夢うつつとなりながら、リンネの手を握った。本当に兄弟のようで、そばで様子を見ていたツバキとジーンと共にほっこりとする。


 他の皆はどこに行ったのかと聞くと、家の中で休んでいて、休みながら海賊団について、レオパルドとリアが説明を行っているとのこと。

 ツバキは、既にジーンから聞いていたらしく、多少戸惑いはあったが、これまでの経緯からすぐに納得し、対策を練ると言った。


「海中、というのは、考えが及びませんでしたね……」

「思ったよりも、多くの敵がここに攻めてくる可能性が高い。明日のルーカス達との作戦会議でも話し合ってもらうが、アートルムの守護は、ジーンとツバキ、お前達が鍵だ。しっかりと頼むぞ」

「はい。“冒険王”様と共に、ここを護り切って見せます」


 お願いします、とジーンに頭を下げるツバキ。その顔は、若干、悪戯な笑みが見え隠れしていた。

 それに気づいたジーンは、やれやれと肩を上げ下げする。


「ふむ……コクロ領民だけではなく、ツバキ殿の期待にも応えねばな。レシア様も、ハルマサ様やあちらのツバキ様と連携しておったと聞いたからな……」


 そういえばそんなことも言っていたっけな。ハルマサとちっこいツバキが人界の集落の守護、レシアは、未来予知で迫り来る危機を予言し、二人とリーの前任者であるブランって奴と共に、人界各地の命を護ってきた。

 今回も、それと同じようなものだ。レオパルドも居るし、確実に大丈夫だろう。


 とりあえず、この場は二人に任せて、家の中に入った。ひとまず体を洗おうと、風呂を借りて、居間でゆっくりとする。

 家の従者たちが持ってきた菓子と茶を飲んでいると、会議を終えたダイアン達がぞろぞろと俺の周りに集まってきた。


「う~っす。話は聞いたっすよ、頭領。結構、面倒そうっすね」

「だな。戦力の分断も、考え直す必要があるかも知れないが、まあ、それは明日だ」

「了解っす……あー、それから……頭領? 少し話が……」


 気まずそうながらも苦笑いを浮かべているダイアン。どうした、と聞くと、皆の背後、レオの背中から、ハルキが顔を見せる。

 ひどく怯えている顔に、あー、なるほど、と思いながら、面白くなってきたが、ぐっとこらえた。


「なんか用か? ハルキ……」

「と、頭領……俺は……」


 皆が道を開けて、ハルキが俺の前にやってくる。俺の機嫌を損ねたことを謝りたいらしい。

 まあ、反省してくれているのなら、俺もやり過ぎた面もあったし、すぐに許してしてやろうと思っている。

 そのまま、ハルキの言葉を待っていたが、ハルキは俺の予想に反したことを言ってきた。


「頭領! 俺は、まだ納得してないっす! あれは、どう考えても横暴っす! 魚捕りも、海での立派な遊びと思うっす! 頭領の所為で、あれから十分に楽しめなかったんすよ!」


 ハルキの言葉に、目が点になった。ダイアン達は分かっていたらしく、苦笑いしながら、あーあ、と呟いていたり、レオパルドなどは、頑張れとでもいうように、ハルキの背中に手を合わせていた。

 なるほど……ゆっくりと頭の中を整理して、ハルキの言葉を考えてみる。そうか。反省したわけではなかったか。

 あれから、俺の目につかない所で魚捕りを行ってはいたが、どう考えても、俺がおかしいという思いながらやっていたらしい。

 腑に落ちない中で行う魚捕りは楽しくなかったと訴えてくる。

 しかし、先ほどちらっと厨房をのぞいてみたところ、多くのこの家の料理人が、大きな魚をさばいていたり、大きな貝を焼いていたりと、料理の下ごしらえを進めていた。

 何か、祝い事でもあったかと聞くと、


「ハルキさんが持ってきてくださったんですよ~」


 と、オリビアたちが教えてくれた。その量から、しっかりと楽しんでいたことは明白。

 悪いことをした気持ちもあったが、ハルキがあの後に楽しんでいたうえ、この屋敷の分まで魚を捕っていたとなれば、今回の件については俺からは不問にし、この後もなあなあで帰る予定だったが、堂々とハルキが「反省していない」と言うのなら、俺も、このままハルキの文句を受け入れるわけにはいかない。


「ほう……それで、お前は俺にどうして欲しいんだ?」

「自分のやったことを反省して、俺に謝って欲しいっすね」

「それはこっちの台詞だ。俺もお前に詫び入れて欲しいんだが……?」

「……なるほど。俺らの言うことは平行線って事っすね……?」


 少しだけ場の空気が固まる。まあ、俺が固まらせたんだが。

 ハルキはごくりとつばを飲み込み、おもむろに異界の袋から、自身の得物である槍を取り出した。

 どうやら、力でどちらが正しいのかを証明したいようである。


「おっと……何する気だ?」

「言っても分からないようなんで、力づくでどちらに非があるのか決めるとしましょう」


 ハルキは槍を握り、俺に向かって、表に出てくださいと言ってくる。

 流石にダイアン達は止めに入るが、聞く耳を持たない。

 俺は、やれやれと頭を掻き、ハルキの前に立った。


「……穏やかじゃねえな。そんな、無駄なことをして何になるんだ?」

「……へ?」


 キョトンとするハルキ。まるで信じられないものを見ているという顔だ。

 他の皆も同様の顔をしている前で、俺はハルキを座らせて、俺も向かい合うように座って、にこりと笑う。


「力を以って相手を説き伏せても意味は無いだろう。ここはひとつ、互いに舌戦を繰り広げ、言い負かされた方が負けということにしよう」

「は? え……何で? と、頭領らしくない……?」

「今日は休日だ。わざわざ疲れることもないだろう。俺に頭を下げさせたいんなら、どれだけ自分が正しいのか示せ。俺も、そうする。最終的に、相手に納得したら負け。もしくは、どちらがダイアン達からより多くの賛同を得られたかで勝敗をつけよう」


 正直な話、俺も疲れている。さっきまでリンと一緒に海中の景色を堪能していたからな。

 それもあって、今はハルキに対し、そこまで怒っていない。わざわざ無間を持ち出して手合わせというのも面倒だし、この方法で話をつけることにする。

 まあ、それでも戦うと言うのなら応えてやるが、面倒なのは面倒なので、ダイアン達を巻き込むことにした。

 未だぽかんとするハルキだが、俺の考えを聞いたダイアン達は、笑いながら口を開く。


「あ、良いっすね。平和なんで」

「子供達も眠っているしね……」

「俺も、さっきまで重たい話していたから、ちょっと疲れてる。やるなら二人とも、さっさと始めてくれ~」


 レオパルドも乗り気になり、既に俺達が力で分からせるという空気は、この場にはない。

 ハルキは黙って槍を異界の袋に戻し、茶を一口飲んで、俺に向き合った。


「分かったっす……じゃあ、まずは……」


 そう言って、ハルキは自分の意見を述べ始める。俺も自分とついでに、リンの意見を語っていく。

 偶に俺の方に話が傾くと、横から、それはどうかしら、とルイがハルキの援護射撃を行ったり、レオパルドが反論したりする。

 しかし、途中から俺が不利になったりすると、リアが援護してくれたりと、話は盛り上がっていく。


 その後も日が暮れそうになるまで舌戦を繰り広げ、最終的にツバキとジーン、目を覚ました子供達も加わり、結果、俺に賛同してくれたのはリンだけ、後の皆は、俺がやり過ぎた、ということでハルキの味方をして、俺が負けた。

 改めて俺が頭を下げ、ハルキの機嫌は元通りとなる。


 ちょうど、話がついたところで、ハルキが捕ってきた魚介の料理が終わり、リチャードも家に帰ってきたので、夕飯を皆で食べた。

 今日は何があったかと尋ねるリチャードに嬉しそうに報告するオリビアを横で見ながら、何ともほっこりとした気持ちとなる。

 これから、数日後には海賊団との起こるということを、今だけでも忘れそうだった。


 やがて、飯を食い終えて、俺達がリチャード邸を後にする時間が来る。

 レオパルド達もレインに帰るので、オリビアは少しばかり寂しそうだった。


「リンおにいちゃん、キキおねえちゃん。また、あそんでくれる?」

「当り前ですわ。私、ここが気に入りましたもの。次に遊べることを楽しみにしてくださいまし」


 キキの言葉に、オリビアはコクっと頷く。良い子ですわとオリビアの頭を撫でるキキとリンネ。

 何が基準なのか分からないが、キキもオリビアと接する時はかなり優しい態度だ。今も、本当の姉のような、優しい顔をしている。

 何をしたらああなるのかと、レオパルドは困惑していたが、オリビアにも新しい友達が出来たと、ジーン、リチャード、リーデルの三人はにこやかな顔をしていた。


「ムソウ……も、また、僕と遊んでくれるよな? リンネと、ルイも……」


 そして、更にレオパルドが愕然とする光景。普段は小生意気なリンがおずおずとした態度となって、俺達の顔を見上げている。

 更に困惑するレオパルドは無視して、俺達は頷いた。


「ああ。また、俺に色々と教えてくれ」

「リンネにも~!」

「リンが思ったよりも早く会えるかも知れないから。そんなに、寂しがらなくて良いわよ」


 そう言いながら、ルイはリンの頭を撫でる。キキとリンには、海賊団との戦いにレオパルドが参戦するという話はまだしていないようだ。

 きっと、すごく驚かれて、すごく怒られるんだろうなと、少々レオパルドに対して、憐みの感情を覚えたが無視して、俺もリンの頭を撫でた。


 その後、レオパルド達は手を振りながら転送魔法にて、王都へと帰っていく。

 そして、俺達もリチャード邸を後にした。リチャードとリーデルに、今日何があったのかを話していたオリビアのように、リンネもツバキの背中から、今日あったことを話していく。楽しそうな声を聴きながら帰路についた。

 さて、明日から、海賊団との戦いに向けて、本格的に動くことになる。昨日今日と満喫した休暇は本当に良いものだったと笑いつつも、これから始まるであろう忙しい毎日の思いを馳せながら、家へと向かった。


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