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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
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第417話―海賊団の本拠地が掴める―

 俺とリアが茶を持って帰ってきた時、部屋からはレオパルドとジーンの笑い声とダイアンの大声が聞こえてきていた。

 何があったのかと聞くと、暇だったからダイアンを弄り倒していたらしい。

 俺もその場に居たかったが、と悔しい思いになり、うちの人間に、十二星天二人がかりでいじめるのはやめてくれと言うと、ハイハイと頷いていた。


 そして、持ってきた茶を飲みながら、再び話し合いを開始する。

 後、残っている問題は、海賊団の本拠点である。危険海域にあるというのは、今のところの最大の可能性だ。戦いの際、俺はその辺りを目指すことになっているが、的確な位置が分からないと、残党なども残る可能性がある。

 海賊団の船は勿論潰すが、本拠点も勿論、確実に潰す必要もある。的確な位置とまではいかないが、目ぼしい場所と言うのは知っておきたいと地図を広げて、危険海域を指した。


「この辺りの島、お前らも直接調べたらしいが、本当に何もなかったのか?」


 天気が荒れたとはいえ、何かしらの手掛かりは掴めるものと思っていたが、二人からの返答は、あまり芳しくないものだった。


「ああ。あの時は、トウガ達とも協力したが、まず、トウガの鼻が利かない、トウウの目も、視界が悪くて利かないと、散々だったからな」

「天狼様曰く、少なくとも島内から妙なにおいはなかったとのことだ」

「ちなみに、目でも鼻でも駄目ならってことで、ミサキの魔力感知の魔法も使ってみたが、一つの場所に多くの魔力が、と言う反応もなかったんだよな……」


 やはり、結構本気でやっていたようである。トウガ達が居て、ミサキも居るとなると、今の俺達よりも、精密な調査が出来ていただろう。

 しかし、トウガの鼻は、荒れ狂う風や雨により、上手く使えず、かなり集中して使ったところで、海賊団の匂いは感じなかったそうだ。

 トウウの方も、暴風雨は大した脅威にはならなかったが、視界を遮ることには成功されたようで、空から見ても、厚い雲と滝のような雨、濃い霧により、何も見えなかったという。

 ミサキは、俺と違って気配を探るということは出来ないが、一定範囲内の人間や魔物など、魔力を持つ者を察知できる魔法を持っている。

 五感が役に立たなくても、ミサキの魔法ならばと思ったが、全ての島を調べても、洞窟や隠された入り江などから、魔力の反応は見つけられなかった。


「あの魔法は、アンタらの気配察知と違って、隠蔽スキルとかで隠されていても使えるからな。てことで、本当に島には居ないって結論になったわけだ」


 と言うわけで、こうなってくると、今更島を探索すること自体、間違った方法なのかも知れない。

 まあ、これまではそれで、精密な調査が出来たから良しとしておこう。


 さて、島には拠点が無いとなるとどこにあるのか。地図を見ながら、どこが怪しいかと思っていると、ダイアンがおずおずと口を開く。


「ちなみに、なんすけど、海上はどうなんすか?」

「良い質問だ、ダイアン殿。島が駄目なら海上ということは勿論考えたが、捜索範囲が広過ぎて調査は困難を極めた」


 ジーンによると、ダイアンのように島が駄目なら海に拠点があるのではと言うことで、一時期、大規模な海上捜索も行われたらしい。

 しかし、島と違って、探す範囲も広いが人員は少ないので、調査そのものが難航したらしい。


「しかも、海での調査を行うと、孤立した調査船が海賊に襲われるって事件も増えてな。結局、計画自体を凍結したんだよ」


 加えて、コクロ、モンク、ゴルド、シルバ、そして、レインの騎士団で艦隊を組み、調査を行っても、孤立した状況では、海賊団に分があり、いくつもの船が襲われたという結果となり、この事態を重く見た当時のセインとリーは、海上での捜索を断念、王都が定めた航路以外は、何人も立ち入りを禁止するという決まりが出来たそうだ。

 このころは、二人もまともな考え方をしていたようだな。


 自分の意見が真っ向から否定されて、ダイアンは少し落ち込んだ様子だが、俺も良い案だと思った。

 まあ、海上にそんな目立つものを創られても、すぐにばれそうなものだし、常に海の魔物に襲われるという欠点もあるので、考えられないと言えば、考えられないか。


「でも、それだと、王都指定の航路以外の海は、何年もそのままってことよね?」


 リアの言葉に、ジーン達は頷く。だとすれば、怪しいのは危険海域意外だと、そこくらいだ。今調べれば、何かしら見つかると思うが……。


 なんなら、俺がこれから一っ飛び行こうかと提案してみるが、それだと、危険海域の天候を操る者に気付かれ、意味がないと言われた。


「そうなったら、俺がやり返せば……」

「それで行くと、決戦が今日ってことになる。こっちの準備は済んでないんだから、そこはこらえてくれ」


 ため息交じりに、レオパルドからそう言われて、渋々頷く。

 アキラの手紙から、面倒なことは棄てて、俺なりの考えを出したが、流石にそれは許容できないみたいだな。

 まあ、これは仕方がない。横でリアも、


「それなら、今日にでも海賊団を潰せることは出来るかも知れないけど、コクロが受ける被害は大きくなる。これは、些事じゃないと思うから、こらえてね」


 と、言ってきているので、あきらめることにしよう。


 とは言っても、この様子では、決戦の日までに本拠点を見つけることは無理そうだ。

 戦いの間に、俺がどこから海賊達が現れるかを見極め、対処するという方法もあるが、果たして上手くいくだろうか。

 まあ、こうやって、ここで考えても何も始まらないと思い、今のところは、それで行くことにした。


「まあ、天災級の魔物とか出てこなかったら、俺もトウガ達とムソウに合流するつもりだからな。そうなったら、成功確率も上がるだろう」


 仮定の話だが、天災級の魔物がアートルムに現れる可能性が低い。こちらに余裕が生まれるようなら、レオパルドが俺に合流する。

 そうなれば、俺にも余裕が生まれる。今の段階では、それが一番良い策かも知れないな。

 リアもそれで納得しているし、レオパルドの提案に、頷いた。


「分かった。そうなったら、レオ、頼んだぞ。まあ、俺も本気になっているから、死なねえように」

「怖ええ……ああ、分かってる」


 横でダイアンが、流石レオ様、勇気があると呟いているのが聞こえる。

 俺の隣で戦うのがそんなに怖いかと、ダイアンを小突き、会議を終わらせた。


 茶をすすり、しばし休憩した後、リンネ達と遊ぶ予定だ。

 しばらく互いの近況などを話している時だった。


 コンッコンッ


「ん?」


 突然、部屋の戸が叩かれる。


「誰だ……?」

「リア、誰だか当ててみろ」


 リアの気配を探るという特技を面白がって、レオパルドはリアに、扉の向こうは誰なのかと尋ねる。

 リアは小さくため息をついて、意識を集中させた。


「これは……ツバキさん?」


 確認するように、俺にそう尋ねるリア。流石と思いながら、笑ってやった。


「多分、正解だ」


 そう言って、扉を開ける。


「うおっ!?」


 そこに立っていたのは正真正銘ツバキだったが、モンクの海で遊んでいた時のような、「水着」の姿となっていたので、少々驚いた。


「あ、ムソウ様……お邪魔いたしましたでしょうか?」

「い、いや、大丈夫だ。それより、何の用だ? そんな恰好で……」

「申し訳ございません。少し、レオパルド様に用事がございまして」

「ん? 何だ?」


 俺がツバキの姿に驚いたところをクスクスと笑っていたレオパルドだったが、ツバキの様子に何事かと顔を上げる。

 ちなみに、リアも俺の事を笑っていたようであるが、ダイアンはツバキに見とれていたようで、リアに小突かれて、慌てていた。

 後で、アザミに言ってやろう……。


 濡れたままで申し訳ございませんと言うツバキに、ジーンは気にするなと言って、ツバキは今起きていることを説明し始めた。

 ツバキ達は外でかくれんぼをしていたが、そろそろ昼飯だということで、おにのオリビアと共に、隠れている者達を皆で見つけていったのだが、どうしてもリンの姿が見つからないとの事だ。

 そこで、遊びの上では禁止していた、気配の探知をツバキが行い、キキとリンネで嗅覚や魔法などを使って、リンを探していたのだが、一向に見つからないという。

 どこか、心当たりはないだろうかと、相談しに来たようだった。


「……と言うわけなんですが」

「はあ~……アイツは、例え遊びでも、負けん気が強いからな。子供では到底見つけられないところに居るんだろう」


 なるほど、想像がつくな。ツバキ達は困っている状態だが、リンらしくて、というか、年頃の男の子らしくて、可愛らしいなと思った。

 そういえば、カンナもあのくらいの時には、天井裏に隠れたり、床下に隠れたり、果ては木の上に隠れたりしていたな。

 その度に、サヤが怒って……と言う話をエイシンから聞いていた。大変だったなと笑っていると、甘やかさないでとサヤによく怒られたものである。


 兎にも角にも、そろそろ昼飯だということは確実だ。とっとと見つけてやろうと思い、俺達もレオパルドとツバキについていき、皆と合流した。

 家の裏手にある砂浜を中心として、総出でリンを探しているという光景は少し笑える。

 しかし、オリビアとリンネは仲良く手をつないで、茂みをのぞいたり、物陰をのぞいたりしていて、ジーンと共に、ほのぼのとしていた。


「あ、おししょーさま!」

「おおじいちゃん!」


 二人は俺達に気付き、タッタッタと近寄ってくる。


「おー、二人とも、大変そうだな」

「儂らが来たからには、もう大丈夫だぞ」


 とりあえず、後の事は任せろと言うと、二人は両手を上げて喜んでいた。

 ルイ達も探しているが、なかなか見つからないようだ。ちなみに、どこを探したのか聞くと、ひとまず、建物の中だったり、そこらに生えている木の上だったり、更には、屋根の上だったりを探したのだが、全然見つからないという。

 屋根の上を探したのは、キキがそこに居たためである。近くに居るのだろうと思ったが、見つかってはいない。

 その、キキによると、流石に家の外には出ていないとのこと。レオパルドに、本当に知らないんだな? と言われて、知りませんわ! と反抗していた。


「本当に、どこに居るのでしょうか……?」

「さて……」


 心配そうな顔で覗き込んでくるツバキ。家から出ていないのであれば、人攫いなどには遭っていない。モンクの時のようにはなっていないと言ったが、まだ、不安そうな顔をしていた。

 ひょっとしたら、空の上かと思い、ジーンが舞空スキルを使い、ダイアンが部分獣化して上空に飛んだが、見つからなかった。


「お……ダイアン、獣化が上達してるな。反動も無さそうだし、俺も狂人スキルが欲しいな……」


 ダイアンの様子に、レオパルドが感心したように頷いている。狂人スキルは、上手く使いこなせなければ、魔物の血に飲まれて、理性を失う他に、肉体への負担を軽減することも出来なくなる。

 逆を言えば、魔物の力を体現する際に、狂人スキルが上達していれば、肉体への負担が軽くなり、最終的に、どれだけ力を使っても、獣化から元に戻っても何とも感じなくなるらしい。

 EXスキルで、トウガ達の力を使うことが出来るレオパルドだが、魔人ではないため、元に戻った時の肉体への負担は大きい。まして、トウガ達は、世界最強の神獣だ。使う力が大きければ大きいほど、肉体にかかるものは大きくなる。

 EXスキルを極める事よりも、普通のスキルである狂人スキルを上達する方が楽だと思っているレオパルドは、ダイアンを羨ましそうな顔で見つめる。

 そんなレオパルドに、肩で息をしながらダイアンが呆れた顔で答えた。


「はあ、はあ、はあ。いや、結構今でも辛いっすよ。というか、そんなこと言わずに、レオ様も真面目に探してくださいよ」

「いや、俺は今のままじゃ飛べないし、部分獣化なんて出来ないしな……」


 レオパルドが獣人化するときは、ダイアンがよくやっているように、体の一部を魔物のように変化させるのではなく、完全に獣人化しないといけない。

 つまり、0か100だということだ。少し空を飛ぶのに、わざわざトウウの力を借りるわけにはいかないという。反動が大きいからな。当たり前だ。


「ちなみに、レオさんは、リンがどこにいるか分かる?」

「お、ルイ。また、派手な格好してんな」


 ツバキと違って、派手な色と胸部を見せつけるような水着を着たルイは、キキと手をつなぎながらやってくる。

 身体能力向上を期待してか、万が一の為か知らないが、「龍尾鞭」を腰に下げていた。

 呆れたように自分の体を見ているレオパルドに、ルイは顔を赤くさせた。


「え……えっと……こういうのは嫌いだったかしら?」

「え? いや、そう言うことじゃねえよ。ただ、子供も居るんだし、ここは人ん家だから、もう少し、地味な奴の方が良かったんじゃねえかと思ってな」


 なるほど、もっともな意見である。まあ、今は俺達以外に誰も居ないし、好きな格好をすれば良いとも思うから、俺からは何も言わなかった。


「お昼からは、着替えます……って、そうじゃないわ。話を戻しましょう」

「ああ、そうだな。リンか……キキ、本当に分からないのか? 二人で示し合わせて隠しているとなると――」

「しつこいですわ! 本当に分からないって言ってるじゃないの! リンは、皆が絶対に見つけられない場所で、絶対に見つからないようにするって言ってたのは知ってるけど、後は知りませんわ!」


 しつこく聞かれて、プンプンしているキキを、ルイが宥める。

 困り果てた様子のレオパルドは、俺とジーンに視線を移した。


「誰も見つけられない場所、か……お手上げだな、俺は」

「諦めるのが早いな」

「もう少し考えろよ」

「ぐぬ……そういうお前らは分かったのか?」


 悔しそうな顔をするレオパルドと、どうなの? という顔のリンネとオリビア。俺は笑って頷いた。


「「まあ、大体はな」」


 俺と同時に、同じことをジーンも言って、思わず、二人で顔を見合わせた。


「なんだ、ジーン。お前も同じことを思っているのか?」

「恐らくな。コクロの子供達がかくれんぼするとなると、一人はこういうことをする人間が居るというのは、今も昔も変わらないらしい」


 ジーンの言葉に、リン探しを手伝っていたこの屋敷の従者達は、ハッとした顔になる。

 中には、そんな馬鹿な、という声も聞こえてきた。ジーンは、その者の方を向いて、フッと微笑む。


「ああ、あり得ないだろうとは思うが、リン君は神獣だ。だからこそ、出来ているのだろう」


 ジーンの言葉に、あー、なるほど、と納得した様子の従者達。後はお任せしますと言って、昼飯の準備へと向かった。

 ジーンと俺以外の者達は、未だに何のことだか分からないようで、不思議そうに首を捻っている。たまらず、オリビアとリンネ、それからキキが、どういうことかと説明を求めてきた。


「おししょーさま、リンおにいちゃん、どこにいるか、わかったの~?」

「多分な。空にも居ない、屋敷の中にも居ない、藪の中にも木の上にも居ない。加えて、リンネの鼻が利かないとなると、答えは一つだろ」

「ジーンおおじいちゃん、どこなの~? わたし、わかんな~い」

「すぐに分かる方がおかしいものだと、儂は思っておるから安心するのだ。普通はあんなところに隠れない。隠れる方が辛いからな」

「もったいぶらないで教えてくださいまし! というか、頭領……さんは何故、着物を脱いでいるの!?」


 ちなみに、シロウとナズナの祝言から、キキから俺への態度は軟化している。軟化、というか、畏れと言う方が近い。

 若返ったジロウと共に、色々とやったからな。少したどたどしいが、俺の事を皆と同じく「頭領」と呼んでいる。

 そんな俺は、着物を脱いで、上裸となっている。


「それは、簡単な話だ。これから、海の中に入るからな」

「な、なぜ、海に……って、まさか!?」


 どうやらキキも、リンがどこにいるのか分かったようである。

 恐らく、リンは海中に居る。リンネの鼻でも分からない、少なくとも、地上のどこにもいないとなれば、考えられるのは砂の中か、海の中だ。

 砂の中と言うのは無いだろう。掘り返した後も無いし。ツバキとリア、更に俺が、気配を追えないのも、元から海の中に居ることを想定して、気配を探っているわけではないので、追えなかっただけの話。

 そこまで言うと、レオパルドや、ツバキ達も、なるほどと頷いていた。

 水中と言うのは、気配を追うことが難しいのである。意識を集中することが難しいからな。

 ただ、この世界では、俺の世界よりは水中での自由度も上げることが出来るので、問題ないと思っている。

 リンネの尾の髪飾り、ピクシーの首飾り、それから、手甲など、身体能力向上の付与効果が得られる装備を身に着けて、準備を終えた。


「さて……ジーン。俺がリンを連れて来る未来は視えたか?」


 ある程度の位置で潜らないと、さっさと見つけることが出来ない。そこで、リンがどこから浮上するのかジーンに確認した。

 ジーンは、にっこりと笑って、海の一点を指さす。


「うむ。あの辺りだな」

「良し。じゃあ、行ってくる!」


 皆にそう言って、俺は海の中に入っていった。中に潜ると、信じられないほどに、透明だった。

 モンクで一度、海の中に潜ったが、あの時は戦いの最中だった。こうやって、普通に潜るのは、恐らく生まれて初めてである。

 海底は、綺麗な珊瑚だったり、貝などが岩にくっついていたりと、それはそれは綺麗なものだった。

 太陽の光が波によって揺らめき、心を落ち着かせる。気持ちのいいもんだなと思いつつ、まだ、息が続くことを確認して、リンの気配を追った。


 すると、時を待たずして、子供らしい、わんぱくさを必死で隠そうとする気配に気づく。そっと近づいていくと、岩陰に身を隠しているリンの姿を見つけた。

 ジッと固まっているようだが、水中では、地上の声がほとんど聞こえない。飯だと言っても、すぐに上がれるわけないかと納得。

 頑張って、見つからないようにしているところ悪いが、俺も腹が減ってきた。皆も待っているしと思い、後ろからそっと、リンの肩を叩く。


「っ!?」


 パッと振り返るリン。その顔は、驚愕そのものに、目を見開き、口や鼻から、あぶくがあふれ出した。

 そして、何故だか逃げようとするリンの体をグイっと引き寄せて、そのまま海上へと顔を出す。


「はあっ! 海ってのは、気持ちいいんだなあ~」

「お、お前、強面! なんでここに!?」

「いや、飯時だってのに、お前が戻らないから、迎えに来たんだよ」

「なんで、僕の居場所が分かった!? 絶対ばれないと思ったのに~!」


 悔しそうな顔をするリン。見つかっても逃げようとしたりして、最後まであきらめようとしなかったという点では褒めてやりたいな。


「いやいや、大したもんだぞ。お前で最後だからな。レオも、見つけられなかったし」


 そう言うと、リンはだんだんと落ち着き、少しだけ顔を緩ませた。


「レオも……見つけられなかった?」

「ああ。観念していたぞ」

「そうか……レオも見つけられなかったのか。と言うことは、僕は、レオを越えたんだな!」

「まあ……そう言うことになるんじゃないか?」

「ハッハッハ! なら、満足だ! おい強面! 早く、家に帰るぞ! 僕は腹が減ったからな!」


 恐らく、俺が見たこともないリンの笑顔。一瞬で、いつもの調子に戻る。

 ハイハイと、頷きながら、リンネ達の元へと戻った。


 砂浜に近づいていくたびに、リンネとオリビアが、


「「み~つけた~!」」


 と、喜ぶ声が聞こえる。キキは、少しむすっとしているようだが、他の者達は、何かの事件に巻き込まれなくて良かったという顔だ。

 ジーンは、無論、全てを知ってたという顔をしている。オリビアに、


「おおじいちゃん、すご~い!」


 と、褒められてご満悦だった。


 リンは早速、ため息をつくレオパルドと、安心した様子のルイの前で、大きく胸を張った。何となく、良い背中だなと思いながら、ツバキから貰った手拭いで体を拭いていた。


「どうだ、レオ! お前も出し抜いたぞ! 僕の勝ちだな!」

「言ってる場合か! 少しだが、心配したんだぞ!」

「リンの所為で、私もお腹ペコペコですわ!」

「とりあえず、皆に謝りなさい、リン」


 可哀そうなくらい、リンに乾いた言葉を向ける三人。流石のリンも、少しばつの悪そうな顔をする。


「い、いや、でも……魚じゃないんだから、どうせ、いつかは浮いてくるんだし……キ、キキとリンネなら、見つけてくれると思ったから!」

「そこに隠れてると思わないですわ、普通! 隠れるなら、普通のところに隠れなさいまし!」

「む……き、キキも、もう少し、可能性を広げて探せば良かったんだ! 海の中に隠れる奴なんて、ゴロゴロいるぞ! 世界は広いんだぞ~!」

「そういうことを言ってるのではないのですわ!」


 キキとリンの言い合いは激化している。というか、迷走している気がする。何に怒っているのか分からなくなってきて、少し微笑ましい。

 すると、ルイが二人の間に入って、喧嘩を止めた。


「ストップ、二人とも。変な言い合いしてないで、とりあえず皆、ご飯待ってるから行きましょ。お腹いっぱいになったら、また、午後からも遊ぶんだから」


 ルイの言葉に、ぴたっと止まるキキとリン。段々と真顔になっていき、コクっと頷いた。


「そうだな。僕は腹が減っていたんだった。ルイ、行くぞ」

「リンネとオリビアも、ついてくるのですわ」

「「は~い!」」


 キキの言葉に、リンネとオリビアは両手を上げて三人についていく。チャン達も、これでようやく昼飯が食べられると言いながら、屋敷の中へと入っていった。

 横でツバキが、安心したように、胸を撫で下ろしながら、話しかけてくる。


「ふう……何事も無くて良かったです。さて、私達も中に……」


 ツバキは、俺の手を引きながら顔を覗き込んでくる。


「ムソウ様?」


 しかし、俺はその時、キキとリンの会話を聞きながら、別の、あることに思案を巡らせ、ツバキの言葉が聞こえていなかった。


 ……まさか……いや……だが……。


 一つの疑問から、様々な疑問が思い浮かんでくる。しかし段々と、一つの答えに向かって、俺の頭の動きが急加速していく感覚があった。

 そして、とある結果へと到達し、ハッと意識を取り戻す。


「ジーン、レオ。話が――」


 たどり着いた答えを、ジーン達ともすり合わせしようと声をかけようとした。その瞬間、二人と共に、同じように、その場に残っていたリアが、俺に頷く。


「分かってる。だが、ここでは駄目だ」

「ああ。中に入るぞ、ムソウ」

「多分、同じこと思ってる。ツバキさん、悪いけど、私達は遅れて皆の所に行くから、先に始めていて」

「え……あ、は、はい。かしこまりました」


 リアの頼みに、ツバキは首を傾げながらも頷き、皆に続いて屋敷の中に入った。

 俺達は、話が漏れないように、再び、会議をしていた部屋に向かい、地図を開いた。


 そして、顔を見合わせて、皆の考えを確認し合う。


「三人とも、やっぱり考えていることは一緒か?」

「ああ。そう考えれば、全ての辻褄が合う。それと同時に……」

「ええ。結構、こちらの戦術も変わってくるかもね。体制を見直さないと……」

「ひとまず、儂らが考えていることが一致しているのか、確認しよう。良いか? せーの……」


 ジーンの合図に、俺達は同時に、地図上の危険海域の辺りを指しながら口を開いた。


「「「「海賊団の本拠地は海中!」」」」


 そして、全く同じ文言を言い放つ。やはり、俺達の考えは一致していた。

 トウガの鼻が利かない、海上にそれらしきものが見当たらない、海賊団はどこからともなく突然現れる……。

 これらの事から考えて、少なくともコクロ領に点在する島、つまり陸上に海賊団の本拠地と呼ばれるものはないという考え方になる。

 トウガの鼻も、トウウや眼力スキルを持つ者達の視界、そして、俺やミサキの探知能力から逃れられる場所は、一つしかない。

 先ほどまで、リンが隠れていたような海中だ。

 海の中に本拠地があるならば、騎士団やギルドからの調査から逃れつつ、そこから誰にも気付かれずに、商船や客船などを襲うことが出来る。

 逃げるのも楽だ。目くらましを発生させて、海の中に潜ればいいだけの話だからな。


 さて、俺達の考えが一致したことは確認できたが、まだ、謎は多い。一つ一つ確認していくこととしよう。


「正直に言って、可能なものなのか?」


 まず、そもそも海中に本拠地を創ることが可能なのかどうか、皆に確認してみた。すると、ジーンとレオパルドは、すぐに頷く。


「うむ。理論上は可能だ。水中で活動する為に必要なのは、大量の空気だが、これは、「吸気岩」、「エアリーフ」という素材で賄うことが出来る」


 ジーンが挙げた素材は、空気を貯めることが出来る岩と、空気を発生させる葉っぱだ。原理は、給水石と同じ様なものと受け取って良いようだ。

 例えば、亜空間コア等で、海底に空間を作り、ミサキの結界の魔道具で海流などの影響を無くすことが出来れば、とりあえず、海底に何らかの施設を作る準備は整う。

 しかし、陸上とは隔絶されているので、そこに生き物が生きていくに必要な空気は存在しない。

 そこで、この二つのような空気を貯めこみ放出する素材を用いた魔道具を使うことで、結界の中限定ではあるが、海中でも人が住むのに適した空間を作ることが出来るそうだ。


「他には、海洋魔物の魔人達ならば、そんなことしなくても可能だ」


 ジーンによると、海洋魔物と人族の間に生まれた魔人、一般的に、「海人」と呼ばれる者達は、白餓狼の血が流れるハクビが狼の爪や牙を持っていて、グリフォンの血が流れるダイアンが、翼を生やしたりできるように、海人も、体を鱗で覆われていたり、指と指の間に鰭があったりと、海で生活する生き物の特徴を宿していることが多い。

 更に特筆すべき特徴があり、水陸両方の土地で生活することに適応し、肺呼吸とえら呼吸が出来るようになっている。

 その為、吸気岩などが無くても、海中を自由に動くことが出来るそうだ。

 なるほど。とりあえず、海底にも拠点となりうる建造物を創ろうと思えば可能と言うことは分かった。


「まあ、一か所に拠点を築くのではなく、拠点そのものを海中で動かすということも考えられるがな」


 海底に拠点を創っているとしたら、どの辺りなのだろうかと、リアと共に地図を眺めている俺達に、ジーンとレオパルドは、更に考えを話し始める。


「それは、どういうことだ?」

「ミサキやセインの世界にはあったらしいものだが、潜水艦、もしくは潜水艇と言うものがある。言うなれば、海上ではなく、海中を進む船の事だ。スクリューと海流の力で進む船で、セインの世界には、何百人もの人間を収容できる、巨大なものもあったらしい」


 二人に言われて、俺もミサキの世界の記憶を見せてもらった時のことを思い出す。

 空を飛ぶ「ひこうき」という乗り物や、多くの人間を凄い速さで大量に運ぶ「れっしゃ」というものを視させて貰った他に、確かにそういったものがあったなあと思い出した。

 見た目はまるで鯨のように大きく、様々な兵器を積んで、海の中を進むというものだったな。

 セインの世界にはあれよりも巨大で、ほとんど城のような創りになった潜水艇と言うものもあったらしく、そういったものなら、海賊団の拠点にしつつ、常に海中を動き回ることで、調査の目から逃れ続けることが出来るとのこと。

 ちなみにだが、俺達が遭遇した海賊船が、そう言うものだったかどうかは不明だ。

 エンヤが、ボロボロのバラバラにしたからな。まあ、それについて、今更どうこう言うつもりは無いが、少なくとも、俺達がディズヌフ島で見つけた船は、普通の船だった。

 なので、実際に、どんな船を使っているのかは分からないが、海中にある以上、潜水機能も付いた船を大量に所持しているということは間違いないだろうと、ジーンは語る。

 潜水機能の付いた船と言うのは、先ほどの拠点設営と同じく、浸水を防ぐ結界魔法の魔道具と、空気確保のための吸気岩を使った魔道具などがあれば良いとのことだ。

 ただ、それは簡易的なもので、本格的な潜水艦となると、海中での動きは、普通の船に魔道具を搭載したものと比べると、格段に、性能の差が出るとのことだ。

 転界教からの物資支援と、騎士や冒険者の精鋭でもやられることが多い以上、並みの装備ではないだろうと、ジーンは結論付ける。


「それから、デカい魔物の甲羅や外殻に居住空間を創るということも考えられる。今のところ思い浮かぶのは、海霊亀とか、海王蟹とかかな」


 更にレオパルドは、飼いならした魔物を改造して、拠点にすることも可能だと続ける。

 海中に拠点や建物を創ることは出来ても、魔物達の脅威にさらされているということには変わりない。更に、海流や天候などで海が荒れた場合、海中でも荒れ模様となる。

 危険海域は大概、海も空も陸も荒れ模様だ。そんなところで、同じ場所に拠点を築くということは難しいのではないかと、二人は語る。……それは最初に言って欲しい……。


 そこで二人が考えたのは、強大な力を持ち、なおかつ巨大な魔物の体の一部を改造し、人が生活できる居住空間を創ったのではないかというものだ。

 レオパルドが挙げた二体の魔物のうち、一体は、モンクとカキシの領境の目印となっている、かつて存在したであろう、霊亀と言う亀の魔物の亜種で、その名の通り、海に棲む霊亀と呼ぶべきものだ。

 レオパルドの人生では確認されていないが、ジーンによれば、昔から、コクロやシルバで、それらしきものの目撃情報などは存在したという。

 何でも、昨日まで無かった小島が見つかり、その翌日には忽然と姿を消していたというものだ。

 その特徴と、大きさから、恐らく霊亀の別個体が海で進化し、長く生きた結果、そういった存在になったのではないかとレオパルドは推測。

 居るのだとすれば、きちんと調査をしなければならないので、魔獣宴で長年追っている魔物の一つだという。推定だが、ギルド基準での強さは、天災級とされている。

 もう一方の海王蟹は、海王鯨や、海王鮪と同じく、「海王」の名を関する魔物で、こちらもその名の通り、巨大な蟹の事だ。こちらは、サネマサが倒した海王鯨と共に、実際に現れた魔物である。

 街の外壁よりも分厚い外殻と、巨大な鋏を持ち、海底の岩盤を破壊しながら生きているというはた迷惑な蟹だ。

 熱に強いという特徴があるが、コモンのスキルには敵わず、討伐されたというが、水生魔物も、昆虫型と同じで、ひとたび卵を産むとなると、大量に産卵するので、ひょっとしたら、この時代に居るかも知れないとのこと。

 ジーンとレオパルドは、そう言った魔物の外殻や甲羅、他にも、「海王貝」という、巨大な貝の魔物に文字通り寄生し、この海の中を自由に動き回っているのではないかと推測した。

 確かに、それならそこらの魔物は手を出さないし、潜水艦の機能を持った船があるなら、そこから自由に海上へと浮上し、船を襲った後、安全に拠点となる魔物に戻ることが出来る。

 最初に提示した、一つの場所に拠点を築いているよりも、現実的だなと感じた。


「海王級になれば、多少海が荒れても平気だからな。それに、アイツ等の存在もあるし、上手く隠れ続けることも出来るだろう」


 レオパルドの言葉に、大きく頷く。一つの海賊団が拠点にするほど大きな魔物なら、強い気配なども感じることが出来るが、俺達が想定している「相手」なら、そのような魔物達の存在も、上手く隠せるだろうと思っている。

 海賊の拠点は海中で、大きな魔物に寄生しているというのは、ほぼ確定だな。


「でも、それなら、仮にアートルムを海賊団が攻めるとすれば、海中を侵攻してくるってことも考えられるわよね?」


 と、ここでリアから、海賊団とぶつかる際のに生じるであろう問題点について提示された。

 今までは、海上を艦隊と魔物達で攻めてくることを想定していたが、海中を進めるとなると、トレイズ島での防衛線も意味をなさない可能性もある。

 一応、囮として普通に海上を進み、そちらに目が行っている間に、より強力な部隊が、アートルムのすぐ近くまで来ることをリアは危惧している。

 そんなリアに、ジーンとレオパルド、そして、俺は正直に頷いた。


「もちろんそうだろうな。想定よりも、こちらで相手する規模は大きくなるかも知れない。だが、俺達にはジーンが居る。どこに浮上してくるか予知して貰えば、早めに対応出来る」

「それに、レオに加えて、トウガとトウケンも居るからな。アイツ等が居れば、海王蟹だろうが、海霊亀だろうが、必ず倒すだろうよ」

「更にモンクからの援軍も合わせると、今までの想定よりも、海賊団の戦力が大きくなっても、まだ大丈夫だ。儂は、スキルで海賊の動きを読む。そこから、リア殿とツバキ殿で、騎士団と協力し、皆が安全に戦えるように指揮してほしい。儂も補佐をするから、安心するのだ」


 ジーンは頼もし気な顔で、リアの肩をポンと叩く。横で、レオパルドがもちろん俺も、と笑う前で、リアは目を見開き、ぽかんとしていた。

 二人の言うように、例え、防衛線を越えて、アートルムに想定以上の敵が流れ込んだとしても、午前中に言ったように、過剰戦力くらいが丁度良い。今だって、とりあえず、トウガとトウケンを呼ぶことも決まったので、俺からすれば、海賊団が可哀そうだと思うくらいだ。

 もちろん、同情の余地は無いが、これで、戦力差については問題ないだろう。

 奇襲されるという懸念にも、ジーンのスキルの前では無意味だ。EXスキルを鍛えているジーンだが、今では、予知できる範囲と、おおむね三日以内の未来までは視えることが出来、一日以内なら、いつ発生するかは分かってきたという。

 トレイズ島の防衛線に海賊団が現れた段階に、ジーンがアートルムの最終防衛線の未来を予知すれば、どこからどのように、どのくらいの規模で、海賊団が現れるのかを、事前に把握することが出来る。

 それらの情報さえあれば、後は、リアとツバキの指揮の出番だ。

 俺が最後に、もちろん、リアの能力も頼りにさせてもらうと笑うと、リアはフッと笑みを浮かべた。


「どうなることかと思ったけど……変わらないなら良いか。トウガ様達が、私の言うこと聞いてくれるといいけど……」

「大丈夫だ。アイツ等、お前の事気に入っていたからな。特にトウガが」


 あ、そういえば、俺の死神の鬼迫をどうにかする為に、殺気を受け流すリアに、トウガが少し手ほどきを受けていたこともあったな。

 なるほど。その件もあって、トウガはリアに対しても、良いように見てくれているようだな。ありがたいことである。

 それなら安心と、リアは胸を撫で下ろす。実際は、そんなに心配していたわけではないだろうということが、その表情から伝わった。


「なら、トウガ様やトウケン様にも、たっぷり活躍してもらわないとね」

「おう。俺の代わりに、しっかりこき使ってやれ」


 俺の言葉に、リアは強く頷いた。横で、ジーンとレオパルドが、怖い女だの、流石、オウエンが気にかけたことはあるだの言っている。

 しかし、リアがジトっと睨むと、二人は慌てて口を閉じた。


 さて、とりあえず、今日話せることは話せた。このことは、明日改めて、ノワール達に伝え、ツバキやダイアン達には、後でリアと共に伝えるということで、会議を終わらせる。

 そして、皆が待っている昼飯の場へと向かった。


 ……なお、海賊団の居場所について、考えるきっかけをくれたリンに、俺からはコクロ特産の、例の甘い果実、ジーンからは手料理、リアからは香水、レオパルドからは、一つだけ願い事を叶えてやるという権利と、何でも好きなものを買ってやるという約束と言う名の褒美を渡した。

 変なところに隠れて皆から注意を受け、俺達の食事が遅くなったことで、少しムスッとしていたリンだったが、何度も感謝しながら、


「お前は凄い子だ!」


 と、四人で褒めていると、首を傾げる一同の前で、リンも首を傾げていたが、徐々に気を良くしていき、最終的には満足げな顔で、昼飯を頬張っていった……。


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