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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
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第416話―レオパルドがコクロに来る―

 さて、翌朝は、いつもより更に元気なリンネにより、俺とダイアンは起こされる。早く着替えてと急かすリンネに、何度も頷きながら顔を洗い、寝間着から着替えた。


「ふわ~あ。こんなに急がなくても良いんじゃないか?」

「だめ~! さっき、レオおにいちゃんがきたって、ジーンおじいちゃんがいってたもん!」


 どういうことかと、飯を作っていたツバキに聞いたところ、俺達が起きる少し前に、ジーンから、魔道具スマホを通じて、レオパルドがすでにコクロに来ているという連絡が届いたらしい。

 こんな朝早くからかと思ったが、実は、昨晩のうちに来ていたらしい。

 ジーンからコモンを通じて、海賊についての俺達の作戦を聞いたレオは、どういう状況になってるんだと、昨日のうちに残りの仕事を終わらせ、終わったのなら、早くコクロに行こうと急かす麒麟の二人に半ば便乗し、トウショウの里の皆への挨拶もそこそこに、コクロに来たという。

 そんな無理をしなくても、と思うが、そうは言っても、ジゲンにたま、祝言を挙げたシロウとナズナ等、思っていたよりも挨拶に回る人間も多かった為、アートルムに来たのは、昨日の夜だったという。

 そういう事情もあり、俺の所にも、ジーンの所にも行くわけにはいかず、昨晩はギルドで過ごしたという。

 そして、今朝、王都に戻る前に、胸にしこりが残ったままと言うのはもどかしいので、さっさとこちらの事情を聞いて、今日は久しぶりにたっぷり遊びたいと、こちらも朝食を食べていたリチャード邸に、レオパルドがやってきて、説明するのを手伝ってくれというジーンからの要望が、俺の元に届いたわけである。

 麒麟の二人も居て、ジーンとレオパルドもまともに話し合いをしながら、オリビアの様子を見ることは難しいだろう。リチャードは仕事だろうし、屋敷の従者達はそれぞれの仕事があるだろうし、残ったリーデルの負担は大きいだろう。

 一応、ルイが早めに朝食を食べて、既にリチャード邸に向かっているようである。

 お……早速良い感じになってるな……ではなく……。ルイが行っているならひとまずは安心だな。キキとリンもおとなしくしてくれているだろう。


と言うことで、レオパルド達は、朝からジーンの所で、わいわい楽しんでいる。早くご飯を食べてオリビアの家に行こうと言うリンネの言葉に、分かったと何度も頷きながら飯をかきこんだ。


 そして、準備が整い、俺達は家を出る。リチャード邸は海に面している。海で遊ぶことも考えて、水着を手にするダイアン達。

 いつの間に買ったんだ聞くと、昨日のうちに買ったらしい。本来ならば、海賊団討伐を終えた後に、コクロでゆっくりと楽しむつもりだったが、予定が早まったと笑っていた。


「頭領のもあるっすよ」

「お、気が利くなあ。ただ、俺はジーン達と話すだけで、遊べないかも知れないが……」

「まあ、一応っすよ。準備は念入りに、ですよね?」


 皆が依頼に出る際に、俺が常日頃から言っている言葉である。一本取られたなあと思いながら、水着を受け取った。


 さて、アートルムの街中を抜けて、リチャード邸に到着する。気配を探るわけでもなく、中から、オリビアの楽しそうな声と、ルイの慌ただしい声が聞こえてくる。

 その声を聴いたリンネは、更にうずうずとする。呼び鈴を鳴らして、家の人間を呼ぶと、リーデルが出迎えてくれた。


「おはようございます、皆さん」

「ああ。今日は俺達も、よろしく頼む」

「助かります。リンネちゃん、今日もありがとうね」

「はやく、みんなとあそびた~い!」


 リンネの態度に、こらっ、とツバキが反応するが、リーデルは気にした風もなく、くすくすと微笑んでいた。


「子供は元気が一番ですね。オリビアと、キキちゃん、リンちゃんは、砂浜で遊んでおりますので、ご案内いたします。ムソウさんは、御爺様とレオパルド様との会談でよろしいですか?」


 リーデルにそう言われて、皆にもどうしたいのか伺った。すると、ダイアンとリアが、皆を代表して俺について来てくれると申し出たので、二人を伴って、ジーン達の所に行くこととなった。

 リーデルは頷き、侍女の一人を呼んで、俺達を案内させる。ツバキ達は、リーデルの後についていった。


「じゃあ、リンネ。ツバキ達の言うことをきちんと聞いているんだぞ」

「うん! おししょーさま、ダイアンおにいちゃん、リアおねえちゃん、おしごと、がんばって~!」


 大きく手を振るリンネに俺達は頷く。リーデルの言うように、子供はあれくらい元気な方がちょうどいいのかも知れないな。


 さて、侍女に案内されて、俺達は客間に通される。中に入ると、向かい合って座り、既に話し合いをしている二人が目に入った。

 一応、大体の事はすでにレオパルドに伝わっている。しかし、今でもジーンの説明に戸惑うように苦々しい顔をしているようだった。

 腕を組みながら思案を巡らせるレオパルド。すると、俺達に気付き、少し顔を明るくさせながら、手を振ってきた。


「おお、ムソウ! それに、リア、ダイアン!」

「お、元気になった」

「祝言以来っすね。クレナでの調査、お疲れ様っす」

「今日はわざわざ、ありがとう」

「……何か、寂しくねえか?」


 俺達を満面の笑みで迎えるレオパルド。そうは言われても、さっきまでの様子を見たら、こっちもそれなりの対応になるし、ダイアンの言うように、レオパルドと別れてから、まだそんなに経っていない。久しぶりに会ったという感覚は元より持ち合わせていなかった。

 どこか不服そうな顔をするレオパルドをジーンが、まあまあと諫めている。

 その間に、俺達も席に着くと、まあ、良いかと言って、レオパルドから口を開く。


「さて……とりあえず、これまでの調査、お疲れさん。色々と大変なことになっているようだが……?」

「あくまで、仮説だがな。俺達は確実なものと思っているが」


 そう言うと、レオパルドは再び、思案を巡らせるように黙り込む。

 そして、地図を広げながら、ヴァン島辺りを示す。


「確かに、この海域の調査はそこまで進んでいないな。騎士団や冒険者が足を踏み入れた途端に、天気が崩れたり、海が白波立てたりな。これは、なんかあるなと思った、ジーンと俺で、一回転送魔法で飛んだこともあるが、しばらくしたら、大荒天となったからな。こちらの作戦をどこかで得ているというのは確かだろうとは思っていたが……」

「やはり、そう簡単な話ではないか?」


 レオパルドはなおも、思案を巡らせたが、頭を掻きながら、渋々と言った感じに頷いた。


「いや……クレナでの一件もあるし、ここ最近、アイツらが姿を隠しているって事実もある。奴らが海賊に関わっているのは確かだろう」


 どうやら、レオパルドもこれまでの事件等を鑑みて、俺達の話を信じる気になったようである。

 これで、話が進むと思い、皆でこれからの事について話し合った。


 まず、俺達が想定している「敵」についてだが、かなりややこしい状態となっている。ノワール達や、レオパルドだけではなく、当初はジーンも俺も信じられなかったからな。

 この仮説を唱えたのは、エリオットである。一般的にこの世界で生きている者だから、そういう考えに行き当たったというのは分かるが、遠隔的に、しかもコクロ領全域を監視するということが果たして可能なのか、まずは確認してみることにした。


「結論から言えば、可能だろう。流石に全ての人間の会話を、と言うのは難しいだろうが、気配を消して特定の人間の、と言うことならば、可能だ」


 レオパルドによれば、コクロで生きる者達の事を同時に監視するということは難しいが、狙った相手の会話や動向を監視するということは可能のようだ。

 と言うことで、ノワール達に頼んでいる住民達の避難は、より隠匿性を高めて行う必要があるということが判明した。

 とはいっても、一度に領民達がアートルムに移動するとなれば、どれだけ隠していても必ずバレる。

 戦いは、避難を開始した時から始まっていると思った方が良いという結論となった。


「なら、最低でも明日から、島の住民達をこちらに移動させないとな。ジーン、手配を頼む」

「分かった。儂も、力を思う存分発揮しよう」


 住民の避難の際に何か起こってはいけない。事前にそれを察知することが出来るジーンのスキルには大いに活躍してもらおう。

 そして、気配を察知することが出来るリア、ツバキ、そして、俺も、その他の島で異変が起こらないように、近くで待機することで、安全性を高めることにする。

 こうすれば、少なくとも避難行動については問題ないだろう。

 気になっているのは、俺が、危険海域で決戦に臨んだ際、海賊団がアートルムに本当に攻めるのかどうかと言う懸念だ。

 今までの、転界教との戦いから考えればそれはありうる話だが……。

 まあ、念には念をと言うことで、海や街の防衛は固めておいた方が良いというレオパルドに頷いた。


 続いて、敵の戦力について話し合う。

 モンクで俺達、もとい、エンヤが潰した海賊は、自分達を「第十六師団」とか言っていたらしいからな。最低でも、それくらいの船長と船員は居るってことだ。

 それに加えて、危険海域の天候を操る存在含め、強大な力を持っている魔物を多数使役している可能性も考えられている。

 この辺りに主な魔物が居ないというのが証明になるのかどうかは分からないが、用心に越したことはないだろう。


「ちなみにだが、モンクでの事件の際、双頭ワイバーンって危険な奴らを操っていた魔道具。あれは、どの程度の魔物まで操れるんだ?」

「ああ、操獣石と魔獣封環だな? 魔獣宴で扱っているものは、災害級下位までなら操ることが出来るぞ。もっとも、素材が希少だから、数は無いがな」


 レオパルド曰く、操獣石と言うのは、魔物が好む波動、つまり、邪神族の波動をわずかに感じさせる石らしく(邪神族の存在が明るみにされるまでは、壊蛇の波動と思われていた)、込める力の入れようにより、操ることが出来る魔物の強さが変わる。

 一般の冒険者では、下級から上級の魔物を操ることが可能で、レオパルドなど、十二星天級になると、災害級下位くらいなら、言うことを無理やり聞かせて、従えることは無理でも、気を落ち着かせることは出来るようだ。

 ちなみに、デーモン種のように、ある程度、知識が高い者には通用しない。また、常に興奮状態にあるような魔物、例えば、噴滅龍などにも効果は薄いとのことだ。

 俺がリンネを連れているように、幼体の頃から世話をして、懐いた場合を除いて、従魔を使役したい場合に使われたり、魔獣宴では飼育している研究用の魔物を落ち着かせたりするために使われているらしく、魔獣封環は、仮に操獣石の力を振りほどかれ、暴れないようにするための、緊急安全装置として作ったそうだ。

 首輪が壊れたら爆発するというのがその効果で、基本的に、石に首輪をつけただけなので、効果が上がったりはしていない。


「だからこそ、アイツらが操られているというのは信じがたい話だが、クレナでの一件から、少し改良すればって思うとな……」

「改良と言うか、魂の力を使って、効力を上げたんだろう。まあ、その話は置いておいて、レオ」

「ん?」

「実際に、どれだけの数の魔獣封環と操獣石が海賊の手に渡ったか分かるか?」


 海賊の手に、魔物を操るものが渡っているのは確実だ。それがどれだけなのかが分かれば、少なくとも魔物の数に関してはある程度の予測を付けることが出来る。

 レオパルドは、少し待ってくれと言って、懐から、資料を数枚取り出した。


「これが、一応、ここ数年の被害をまとめたものだ。100は超えているな……」


 操獣石は、魔獣封環の材料と共に、大量にリヨクから運ばれる。魔獣宴でそれらを加工し、魔獣宴で扱うのだが、それらの行動は、関係者以外には秘匿としている。

 しかし、この数を見る限り、海賊団に、その情報は筒抜けのようだ。海賊団の被害が出始めた頃より、このやり取りは、レオパルドが直接行っているようである。

 ただ、魔獣宴には、ロイドと言う貴族に、ワイバーンを持ち出されたという過去もある。警備体制や人員の調査については、そこまで厳重と言うわけではない。

 つまり、海で盗られたもの以外にも、多くの物品がどこかに流れているという可能性もある。

 モンクでの闇競売の事もあるし、実際の所、どれだけの量が海賊団、並びに転界教に渡っているかはわからないが、少なくとも、魔獣宴から紛失したものは分かっているとのこと。

 レオパルドは、そこから海賊団の戦力を推測し始めた。


「操ることが出来る魔物は100は超えているだろう。そして、魔物達の力は、上級以上と考えた方が良い。この辺りにそれくらいの魔物が減ったというのは確かだ。海賊に操られているというお前らの考えは当たっている可能性が高い。

 そして、それだけの魔物を操ることが出来る力を、奴らが持っているというのも、これで証明されている。構成員一人一人は不明だが、少なくとも師団船長級は超級、大船長リオウは、それ以上を操る力を持っていると考えた方が良いな」

「え……てことは、天災級が他にも……?」


 ダイアンの言葉に、レオパルドはそうじゃない、と首を振った。


「いや、それは無いと思う。さっきも言ったが、操獣石で操ることが出来るのは、災害級下位までだ。アイツ等を従えているとは言え、他に天災級をと言うのは無いだろう。それに、アイツ等以外に、それだけの力を持つ奴が居たとしたら、ムソウやリアなら気付きそうなものだからな」


 そう言われて、ダイアンは心配そうな顔を俺達に向けてくる。

 確かに、想定している存在ならば、天災級の力を持っていても、気配を感じさせないということは出来るだろう。

 しかし、それ以外に居るとなると、流石に気付く。雷雲山に行った際に、俺もリアも九頭龍と言う正体は分からなくとも、強い存在の気配には気づいたし、後で聞いたところ、リア以外の調査隊や、皆を保護したサネマサ達も何か感じるものはあったらしいからな。

 それほどの気配は、違和感以外に感じてはいなかったとダイアンを落ち着かせた。


「ただ、仮に現れたとして、ソイツをこの街にぶつけてきた場合、こちらの戦力で足りるのか? 災害級も居るってことを考えると……」


 レオパルドの疑問に、俺達は頭を抱える。今のところ、こちらの戦力は援軍含めて、災害級が何体か現れても大丈夫な布陣だ。ギルド支部長のギャッツ、ジャンヌ、騎士団師団長のルーカス、それに、援軍として駆けつけてくれる、バッカス、ジーゴ、ジェイド、そして、ダイアン達闘鬼神と、ツバキ、リンネ。

 その他、多くの冒険者達も居るから、災害級が現れても何とかなるという想定だ。ジーンも居るし、今のところの推定では、そこまでの被害は無いだろう。

 しかし、天災級が現れるとなると話は別だ。九頭龍のような奴が現れたら、こちらの被害も甚大なものとなるだろう。

 ただ、心配しかないわけではない。一応、アートルムにも切り札と言うのは残しておくつもりだ。


「一応、ジーンとエンヤが居るから何とかなるとは思っている」

「ああ……エンヤ様か……確かに、あの人が居れば、俺達が確認してきた天災級なら何とかなりそうだな」


 レオパルドが言うところの、確認してきた天災級と言うのは、主に、サネマサが倒してきたものの事を指す。

 サネマサよりも圧倒的に強いエンヤならば、例え天災級が現れても、ツバキらと共闘すれば、倒せるという目算だ。

 とは言うものの、心配は尽きない。エンヤはそもそも、ツバキの“力”だからな。天災級を相手にするとなると、ツバキが戦闘を行えなくなる可能性がある。

 その為に、ツバキの補佐として、皆を指揮する為のリアなのだが、念には念を入れておきたい。

 もう少し、こちらの戦力を、と思っていると、ジーンがゆっくりと口を開く。


「そういえば、レオ。向こうに連絡は届いたのか?」


 ジーンの言葉に、レオはハッとした様子となり、頷いた。


「……ああ、一応な。俺がやると喧嘩になりそうだからって、コモンに任せた。もう一方の奴にも連絡は済んでいる」

「反応は、どうだった?」

「どちらも、信じられないってよ」


 レオパルドの返事に、ジーンは、そうか、と項垂れる。

 コモンが連絡を行った相手と言うのは、俺達も把握している。この状況ならば動くかと思ったが、そう簡単にはいかないらしい。

 もし、コクロに来るのならば、こちらの戦力増強にもなるのだが、それは望めそうにないな。

 もっとも、俺の敵として来るか味方として来るか、怪しいところではあるがな。元々期待はしていない。

 こうなったら、レオパルドにもここに残ってもらうかと言ったが、レオパルドは苦々しい顔をしている。


「俺もそうしてやりたいが、セインやリーがお前らに何するか分からないからな。少し、悩んでいるところだ」


 まあ、当然と言えば、当然の返事が返ってくる。恐らく、二人にも俺達の考えと言うのは伝わっているはずだが、今日まで何もないということは、「信じられない」と言う結論なのだろう。

 人界の平和よりも、俺の動向を気にするとは、何とも平和な頭をしているんだなと呆れた。

 隣でダイアンとリアも呆れているようだ。ため息をついた後、リアはジーンとレオパルド、二人に視線を向けた。


「ちなみにだけどさ……頭領や私達が、海賊団討伐に失敗したら、あの二人はどうする気なの?」


 冷静を装っているが、結構怒っているな。リアの凄みに、流石のジーンとレオパルドも少々動揺を隠せないでいる。

 リアが言うところの「失敗」と言うのは、俺が想定している敵に負けて、アートルムが崩壊、海賊団がコクロを占領するということである。

 そうならないように、俺達は色々と考えている。

 しかし、そうならない為ならば、俺だって、セインやリーだけではなく、天災級と言う敵も想定するのだから、世界中に協力を要請したいところだ。

 俺に固執して、協力をしない、あまつさえ、未だに他の領の協力を止めていることが信じられないし、失敗したら、どう責任を取るのか、それは俺も知りたいところである。

 俺が黙っていると、ジーンとレオパルドは言いづらそうに口を開いた。


「仮に……今回の討伐が失敗すれば、ムソウは冒険者資格を剥奪。これまでの、悪い業績を理由に、セインもリーも、ムソウを罪人としてとらえる為に行動するだろうな」

「そして、闘鬼神の者達も、冒険者ムソウに協力した者達と言うことで、何らかの処置を下すだろう。無論、クレナで住むことは許されないだろう」


 二人曰く、俺が海賊団討伐に失敗した際は、俺はこれまでの、ケリス討伐、ロイド殺害の罪を咎められ、また、強大な力を持つ個人と言うことで、捕らえられ、処刑される。

 闘鬼神の者達は、俺の協力者として、冒険者は冒険者としての資格を永久的に剥奪。装備と財産は取り上げられることとなる。

 ツバキに関しては、恐らく俺と同じで、騎士を続けることが出来なくなり、恐らくは王都の、それもリーの監視下に置かれる生活を送ることとなる。

 リンネは、神獣として魔獣宴で管理される可能性が高いが、最悪の場合、災害級魔物として討伐対象となるかも知れないとのことだった。

 また、海賊団討伐を俺に任せると提言したアヤメも、何らかの処罰を受ける可能性もあり、最悪の場合、領主、ギルド支部長の座を下り、俺と言う危険人物に、人界の命運をかけた依頼を持ち出したとか、様々な理由で、俺と共に処断される可能性があるという。

 なお、ジゲンに関しても、これまでの功績もあるが、それと同様に、理由はどうあれ、貴族には疎まれた存在である。

 放っておいたら、王城にとって、面倒な存在として処断される可能性が高い。

 その他の女中やたまは、どうなるか分からないが、少なくとも、俺やダイアン達と一緒になるということは難しくなるそうだ。

 皆、俺と言う、王城が危惧している人間の関係者と言うことで、「罪人」として扱われるかも知れないと二人は語った。

 ちなみに、ロロに関しては、ジェシカが管理する立場であるので問題ないと思うが、今の十二星天の関係性から、それも危ないかも知れない。その他、コモンやサネマサ、ミサキ、そして、目の前に居るジーンやレオパルド、俺に力を貸したというだけで、何らかの責任問題を追及される可能性も、今のセイン達からは感じられるという。


 なるほど……ここまで来ると笑えて来る。俺がどうなろうとも、リンネは無事みたいだから、そこは安心する。

 そんな思いになるくらい、わけのわからない理屈だなと感じた。リアもダイアンも、あほらしいという顔つきになっている。

 ロロの話を聞いて、既に闘鬼神内でも、セイン達に対する見方は変わっている。俺が負けたら、最悪の事になるのは分かっているが、こうやって、俺と同じ考えになってくれるというのは、何とも安心するな。

 ジーン達の話を聞いて、更に無言になる二人に、念のためと思い、尋ねてみた。


「ちなみに……お前ら、今なら間に合うぞ。俺が失敗する前に、俺の元から離れたら――」

「愚問ね。そんなこと聞かないでよ、頭領」

「俺達は、何があっても、頭領に着いていくって決めてるんで。無論、チョウシ達も、アザミ達もな」


 頼もしい言葉に、だよな、と頷く。ここまで信じてくれているんだ。海賊団は、確実に、何が起きても潰してやろう。

 それも、セイン達が文句を言えないくらい、完膚なきまでにな。

 そう思っていると、リアが二人に答えるように口を開いた。


「十二星天の事は分かったわ。聞いといてなんだけど、私達は頭領に着いていく。仮に、討伐に失敗しても、頭領を信じる。それは変わらない。

 けど、貴方たちはどうするの? 頭領が失敗するってことは、貴方たちの身も危ないのよ? ジーン様は、このままで良いと思っているの?」


 リアの問いに、ジーンは即座に首を振って、先ほどと違い、すぐに返答した。


「いや。天災級を想定するのならば、儂も今の状況では駄目だと思っておる。海賊団を討伐できても、天災級を倒せても、こちらの被害が甚大ならば、確実にセインとリーはムソウ殿を認めないだろう。やるのなら、徹底的の完全勝利でないとな」

「ええ、そうね。その為には……」


 ジーンもリアも、俺が考えていることとほぼ同じことを考えている。

 海賊団がどんな奴らで、どれほどの戦力を整えていようが、殲滅するという目的は変わらない。

 ジーンも、十二星天である前に、コクロ出身の人間だ。それに今は、ジーンの家族もここに住んでいる。

 いろいろな思惑が交錯しているが、なりふりは構っていられない状況だということには納得しているようだ。

 これに関しては、俺自身もありがたいことだと思っている。

 そして、この場で、相手の戦力に天災級が居る可能性がある、もしくは、想定通りだとしても、こちらの戦力を上げなければならないということは確実なものだ。

 俺、ジーン、リア、そして、普段は頭を使うことが苦手そうなダイアンまでも、その為には、という思いで、レオパルドの方を見つめた。

 全員から見つめられて、少々戸惑った様子のレオパルド。

 だが、しばらく熟考した様子となり、頭を掻きながら、ため息をついた。


「……分かった。この作戦を聞いた以上、俺も動かないわけにはいかない。俺も海賊団討伐に参加させてもらうぜ」


 期待していたものの、改めてそういう決定を出したレオパルドに、ジーンは戸惑っているようだった。


「……良いのか? 儂はまだしも、他の十二星天も、海賊討伐に関し、ムソウ殿に協力するなと言っておったが……?」

「関係無え。俺も、操獣石を奪われたり、魔獣宴管理の魔物を使われている可能性があるんだ。セインとリーに何か言われたら、そう答えるつもりだ」


 レオパルドは、自分も、海賊団の被害者なので、俺達とは別行動と言う体で、海賊団討伐に乗り出すようである。

 コクロでの行動も、モンクで確認された合成魔獣について調査することを第一の目的とすれば、流石に王城も文句は言わないだろうとのことだ。

 セインやリーが駄目でも、人界王とシンキなら分かってくれるだろうと、レオパルドは腹を括った。

 リアも、これならと納得しているようである。試すようなことをしてごめん、と頭をs上げているが、レオパルドは気にするなと笑っていた。


「それに、爺さんには昔から世話になっているからな。手伝えることなら手伝う。ムソウじゃなく、爺さんをな」


 レオパルドは、フッと笑ってジーンの肩に手をポンと置いた。

 俺に協力して駄目だというのならば、ジーンに協力したということにすれば良い。それなら、なおの事、文句は言わせないというレオパルドの言葉に、ジーンは深く頭を下げた。


「レオ……本当に、ありがとう」

「気にすんなって。それに……コイツの友人って奴が言っていたらしいぜ。「未来の不確定要素を考えるくらいなら、目の前の大勝利に全力を注げ」ってな。出来る事は何でもかんでもやっておこう」


 と言いながら、レオパルドは俺を指す。


「俺の友人って……誰の事だ?」


 不思議に思い、聞き返すとレオパルドはニッと笑った。


「アンタの友人で、アキラ大先輩の夫って奴だ。確か、名前は、エイキって言ったか? っと、そう言えば、アキラ大先輩からアンタに渡すものがあるんだった」


 そう言いながら、レオパルドは懐から一枚の紙きれを取り出す。

 何でも、ここに来る前に、クレナには、これから長く寄ることもないということで、アキラにも、最後の挨拶を刀精の祠にて行ったらしい。

 その際に、アキラが俺に何か言いたいことがあったらしく、ここではコモンも居ないので伝えることが出来ないということで、手紙をしたためたようだ。

 レオパルドが取り出したそれを、開いてみると、アイツの、綺麗だか、汚いのかわからないが、何とか読める文字が書かれていた。


『よう、ザンキ。そっちでも頑張ってるようで何よりだ。事情は、レオを介し、ある程度は把握している。そっちでも、大きな戦いになりそうだな。

 それで、その戦いに関して、多分、色々と面倒な、ややこしいことで頭の中がいっぱいだろうと思う。

 そこで、ツバキちゃんと一緒に、玄李の戦いをお前と共にした俺から、一つ、お前に言いたいことがある。俺の旦那様が言っていたことだ。

 良いか? 旦那様曰く、「ザンキ殿が考えていることは、俺にとっては些事同然。ザンキ殿も、ああ見えて真面目だから、色々と背負うことは、よくあることなのだろう。そう言うのは、俺達に任せて、ザンキ殿は前だけを見ていて欲しいものだ」ってことらしい。

 俺も難しいことはよくわからない性質だから何とも言えないが、ザンキが今悩んでいることも、実はそんなに大したことのないものって可能性もある。

 だから、あまり無理すんな。レオとか、エンヤとか、ツバキさんとか、お前の、今の闘鬼神とかに後ろと周りは任せて、お前は前だけを見ていろ。変なところで疲れてんじゃねえぞ。

 じゃあ、そういうわけだから。また、今度、リンネと遊ばせてくれよ~

 アキラ』


 以上が手紙の内容である。よくわからないが、エイキが俺の事を馬鹿にしているのか、そうでなかったのか、少し、疑問に思ったというのが、正直な感想だ。

 相変わらず、人の気遣いをきちんとできているな。玄李侵攻戦の時もそうだったな。やり方は間違えていたが、俺の事をツバキと一緒に気遣ったりもしてくれていた。

 俺の中で、アキラとエイキが一番の常識人ということは、やはり何千年経っても変わらないらしい。

 ふと、どんな内容かと皆にせがまれたので見せてやることにした。皆、アキラの手紙に書かれたエイキの言葉に、少々呆れたような顔をしているが、同じ「呆れ」でも、セイン達に対してと比べると、面白がるような感じだった。


「頭領の悩みが些事って……例の、すごく頭が良い鬼族の人?」

「ああ、そうだな。おまけに、俺と同じくらい強い」

「完全無欠っすね……」

「大先輩、とりあえず言いたいことは、あれか? 面倒ごとは俺達に押し付けて、ムソウは、正面から暴れるだけ暴れろってことか? 何とも……なあ?」

「逆を言えば、海賊団はムソウ殿に丸投げし、儂達はセイン達がムソウ殿に手を出さないようにするようにしろと言うことだろうな。なるほど。ムソウ殿にとって、些事と言えば些事か」


 今も、レオパルドの持つアキラが宿っている髪飾りから、俺達のこの様子を見ているのだろうか。

 何を思っているのだろうか。主に、俺に対して。

 らしくないとか、聞こえてきそうだな。また、要らぬ世話を焼かせるわけにもいかないし、俺も改めて腹を括ることにした。


「……じゃあ、アキラの言うとおりにするか」

「やっちゃうの? 頭領」


 不穏な言葉ながらも、微笑をたたえているリアに、強く頷いた。


「ああ。今のところ、俺達が想定している敵については、どんな存在であろうとも、敵は敵。それ相応に相手する。例え、その影響でアイツがここに乗り込んできても、叩き潰してやる。ジーン、レオ、悪いが俺はそうするが、良いな?」


 改めてそう聞くと、どこか諦めたかのように、ジーンとレオパルドは頷いた。


「うむ……向こうがその気なら、儂も我慢の限界だ。頭を冷やさせるという意味も込めて、ムソウ殿には全力で相手をして欲しい」

「その後の些事は任せろ。何も気にせず、敵を斬っていけ」


 頼もしいなと、レオパルドの胸を小突く。ダイアンとリアも笑っていた。


「町の護りに関してはこれまで通りの流れで良い。天災級が現れても、エンヤとレオが居る。それに、目には目を歯には歯を、天災級には天災級。レオ、必要なら、トウガ達も呼べ。そっちも全力で敵を蹂躙し尽くしてやれ」

「言うことが怖いな……まあ、良いだろう。過剰戦力くらいがちょうどいいかも知れないからな」

「リアも、ツバキと共に、指揮の方をしっかりと頼む。いきなり頼んで、すまないと思っているが、勘弁してくれ」

「フフッ。正直なのは、頭領の良いところよ……任せて。言ったでしょ? 私も、海賊には、イライラしてるの。頭領やエンヤさんが、海賊団を叩き潰すことに集中するように、私は私で皆を安全に戦わせるわ」

「俺もやるっすよ、頭領!」


 おまけとばかりに、ダイアンも凄まじいやる気を見せる。俺は、頭を使うのが苦手だから頼む、とリアに言っている。

 俺が、しっかりこき使ってやれと言うと、リアは頷き、ダイアンは頭を掻きながら苦笑いした。

 コイツはこんな調子だが、せめて師団船長か、もしくは、リオウの首くらいは討って欲しいものである。


 と言うわけで、戦いに関して、色々と発生しそうなものだが、それらをも凌げるようにと、レオパルドが俺達の作戦に加わるということは決まった。かなり大きい全力増強に、ますます、海賊団討伐が成功するという確信が得られる。

 無論、そのあとの事は些事と割り切って、エイキの言うように、目の前の問題に全力を注ぐとしよう。


 さて、レオパルド達は俺達に協力すると言っても、今日からコクロに住むというわけではない。

 レオパルドほどの強者が居るとなると、海賊団も引っ込んだまま終わるという可能性もあるからな。

 いったん、王都に戻り、魔獣宴で仕事を整理し、戦いとなると、転送魔法でここに来るとのこと。

 その契機はジーンが、未来予知して決めるという。魔物と海賊の艦隊が現れるとともに、レオパルドが来るのが丁度いいということで、レオパルドはジーンに、頼むぜ、と胸を小突いていた。

 さて、レオパルドが加わって、嬉しくなったことがもう一つだけある。

 戦力をアートルム守護に集中させたおかげで、トレイズ島の砦が手薄となる可能性が高い。

 そこで、戦闘となれば、機動力の高いトウウをそちらに回すそうだ。とりあえず、アイツが来ることは確定。

後は、様子を見て、戦いにはトウガ、住民の避難や守護などにトウケン、麒麟の二人を連れて来るとのこと。

 出来そうなことが増えて何よりだと、レオパルドの作戦に頷いた。


 とりあえず、今のところの話し合いたい内容は話し合えた。後は、情報の洗い出しなどを行い、更に詳細なことを決めていくのだが、ここで区切りがついたので、少し休憩に入ることにした。

 ダイアンは厠に行きたいと部屋を出て、俺とリアは、何か飲み物は無いかと、厨房に向かった。

 人の家で図々しいかと呟くと、それこそ些事よ、とリアに笑われて、俺も思わず笑ってしまっていた。


 ◇◇◇


 会議後の部屋では、ジーンとレオパルドが残って、まだ、話を続けていた。

 ジーンは、改めて、コクロ領を護る為に戦うというレオパルドに頭を下げる。


「本当に、感謝する。お前も大変なことになろうと言うのに……」

「だから気にすんなって。アキラ大先輩も、出来る事なら俺に手伝えって言っていたからな」


 ちなみに、ジーンの連絡を受けたコモン、サネマサも、コクロに来ようとしていたのだが、コモンは街の防衛強化を遅らせるわけにはいかないと、ジーンが止めた。

 サネマサについては、人界最強のサネマサに何かあれば、本当に人界が大変なことになるし、仮にムソウ達が敗れた際に、ジゲン達やアヤメの側にいた方が良いと、レオパルドが進言した為、渋々、コクロ入りを断念した。

 レオパルドがコクロにてジーンと共に戦うというこの結果は、ある意味、予想はしていたことだと、本人は笑っていた。


「それによ……「困ったときは助け合うのが十二星天」、だからな……」

「そう……だな……」


 レオパルドの言葉は、かつて、セインが常日頃から言っていた言葉である。

 EXスキルという強大な力を持っていても、一人で出来る事には限りがある。誰かが何かに行き詰った時でも、セインは率先して、


「困ったことがあったら、僕に言ってよ。何でも手伝うからさ!」


 と、常に他の十二星天の手助けをしてきた。スキルを使い過ぎて倒れるほどになるまで、セインは皆の為、世界の為に力を使ってきた。

 ジーンはしばらく黙り込み、懐の中から十二星天発足の際の写真を取り出した。


「レオ……」

「……ん?」

「もう……あの頃には戻れぬのだろうか……?」


 レオパルドは、ジーンが出した写真を見つめ、深く考え込んだ。自分が良い返事を出来るのかどうか怪しかった。

 先日行われた天上の儀でも、些細なことでリーとぶつかり、十二星天に更に大きな溝を作るきっかけとなったくらいだから。

 俺に、そんなことを言う権利などあるのかと、何度も考えたが、意を決して、レオパルドは口を開いた。


「……さあな。だが、どうにかしたいという気持ちは俺にもある。確かに、現状、ムソウにとっては些事だろうが、俺達にとってはこれまでとこれからも続く“大事”だろうからな……」


 ジーンと同じく、レオパルドもかつての十二星天に戻って欲しいようである。

 出会った当初のように、皆で仲良く、人界に何が出来るのか、助け合って協議していきたいと。

 ジーンにとっては、そんなレオパルドの本音が聞けただけで満足だった。


「……セインが変わったのは言うまでもない。だから、儂らも変わる必要はあるのだろうな」

「だな。俺も、大先輩とサネマサに、熱くなりすぎるなと説教されたものだ」

「サネマサにか……? それは……」

「何となく癪だったから言うことを聞くことにしたよ」


 苦笑いするレオパルドに、ジーンも笑いそうになってしまった。普段は誰よりも熱く、直情的なサネマサに、落ち着けと言われたのはたまったものではない。

 むしろ、支部長会議にて、アヤメに鎮められるくらいセインに刀を抜きそうになったサネマサこそ、もう少し落ち着いて欲しいものだと笑い合った。


「他の皆の考え方はどうなってんだ?」

「リー、ジーナ、ミーナ、エレナは相変わらずセインと同調している。まあ、エレナは大地の事、龍族の事を想う気持ちが強いから、まだ良いが、問題はリーだな。お前ともぶつかるくらいだからな……」

「あー……まあ、それについてはさっきも言ったが、ほとんど、俺の責任だからな。俺からは何とも言えない」

「ふむ……ジェシカは、会議の際にセインとぶつかるところだった。彼女が本気で怒ったところは久しぶりに見た。あの分だと、和やかにセインを変えるというのは無理そうだな」

「サネマサとミサキは?」

「サネマサは……まあ、自分でも言っていたように、最近は落ち着いた様子だ。クレナの一件から、心に余裕が出来たと言ったところだろう。シンキ殿もこちら側と言うことが明らかになったからな。

 ミサキちゃんは、相変わらず、今のままで、誰とも角が立たないようにしているといった印象か」

「自由人に見えて、アイツは意外と真面目だからな……コモンは……どうすれば良いか分からないって言っていたな」

「まあ、それは儂らも同じだから、何も言えんがな……」


 今のところの十二星天の立ち位置と、それぞれの考え方を洗い出すジーンとレオパルド。その中で、自分達に何が出来るのか模索する。

 クレナの一件から、邪神族の存在が明らかになった今、かつてのような、サネマサやレオパルド達による、セイン達に対する反発も、若干ではあるが和らいでいる。

 少なくとも、力づくで分かりやすく敵対するということは減ってきた。出来るだけ、波風を立たせずに、今の十二星天の現状を維持しているという状態だ。

 気がかりなのはジェシカだが、彼女には新たな弟子ロロや、交流を深くしてきたサネマサの変化と言う要素も加わり、ギリギリのところで自分を律していると、二人は結論付ける。

 セインとリーはどうするか分からないが、少なくともエレナやジーナ、ミーナは自ら、力づくでどうこうしようとはしない。

 十二星天の今を変えるのなら、やはり、セインと、セインに心酔しているリーから、という結論になったが、ここに来て、一つの問題が二人の頭を悩ませていた。

 それは、ムソウが十二星天の一人と、対立する状況がこれからすぐの未来に起こる可能性が高いという事。

 先ほどの会議で、それは些事と割り切り、ムソウもダイアン達も、自分達もコクロ領の為に全力で戦うという結論には至ったが、その影響で、ムソウがかつての仲間と本格的に対立した時、自分達はどうすれば良いか、どのように立ち回れば良いか、コモンと同じ様に結論が出せずにいた。

 一応、ムソウからは、ジーンとレオパルド、それぞれに任せるという言葉を預かっている。

 だからこそ、どうするのが自分にとって、ムソウやその十二星天にとっていい結果を生み出すのか分からなかった。


「爺さん……相変わらず、俺達の未来は視えねえか……?」

「うむ……何度試してもな……それほど、大きな選択と言うわけなのだろう」

「ふむ……ちなみに、爺さんはどうする気だ? 今のところ、ってことで構わない」

「儂か? ……そうだな……一番は、二人が争わないようにすることだな。その為なら、儂が二人の敵になることだっていとわない……が……」


 ジーンの出した答えは、あくまでムソウとその者とは中立と言う立場を貫き、両者が対立しないようにすること。

 その為なら、二人の共通の敵として立ち回ることも可能だ。

 ただ、この考えには、ジーンにとって、大きな障害がある。レオパルドはジーンが何を言いたいのか察し、フッと笑みを浮かべた。


「……アンタには、可愛い末裔や孫達が居る。それは、考える事じゃないと俺は思うぞ」


 コクロにはジーンの家族が居る。ジーンの後ろには、自分を信じる貴族や領民の他に、可愛い孫も居る。

 ムソウと十二星天、双方と対立するということは、ジーンの身が危険になるという事。オリビア含む、家族の為なら、そういう考えは棄てろとレオパルドは示した。


「まあ、あの様子じゃ、ムソウがアンタと敵対する可能性は限りなく低いがな。問題は……アイツだな。まあ、そういう状況になったら、俺が爺さんの立ち回りを演じてやるよ」


 レオパルドの言葉に、ジーンは目を見開いた。それはつまり、レオパルドがジーンの代わりに、ムソウと十二星天の間に立ち、敵対関係を仲裁するということだ。

 敵対関係になれば、危険も大きい。その役目を、あえて自分が負うと言う決定に、言い出した本人であるジーンは戸惑ってしまった。


「良いのか? もっと他に方法があるかも知れぬぞ?」

「いや、今のところ考えられる、最善手はこれだろうと、俺も思っていた。二人が争わないようにするために、俺も、力を尽くすさ」

「だが、あ奴はまだしも、ムソウ殿と敵対するというのは……」

「まあ、それについては少々恐ろしいものがあるが、可能性は低いだろう。何せ……」


 レオパルドはそう言って、自分の髪飾りを手に取って、ジーンに見せつけた。


「俺には、アキラ大先輩がついているし、神獣たちは、ムソウの戦友だ。ムソウも俺に悪いことはやりづらいだろうよ」


 不敵に笑うレオパルド。神獣達はともかく、アキラは確かにムソウの戦友であり、先ほども、アキラの手紙により、ムソウの考え方も変わったようであった。

 そういった存在が、レオパルドについている以上、ムソウがレオパルドと本気で敵対するとは思えない。

 しかし、アキラがレオパルドと、と言う可能性も……と、ここまで考えたジーンだったが、すぐに、無いなと感じた。


「まあ、そうだな……ムソウ殿の周りは、かつての儂らそのものだ。いや……儂ら以上かもしれんな。世界を越え、時を越えてもなお、彼らは、強い絆で結ばれている。半端することはあっても、敵対することはないだろう」


 ジーンの言葉に、レオパルドは頷いた。


「そう言うことだ。少し、男として情けないかも知れないが、ムソウと俺がヤバそうでも、俺は、大先輩を頼ることにする。

 そのうえで、俺達も前みたいに戻るとしよう。色々と、各自言いたいことはあるだろうが、それは、全部終わってからだ。異論はあるか?」

「もちろん、無い。手を貸すのだぞ、レオ」

「アンタもな、ジーン爺さん」


 そう言って、二人は固く握手を交わす。

 何もかもが変わって、一人で思い悩んでいても、何も始まらない。

 信頼し、これからも頼りになる“友”となら、何だってできる。

 お互いにそう感じていたジーンとレオパルドは笑い合った。


 すると、部屋の扉が開き、外からダイアンが入ってくる。二人の光景を見て、キョトンとした顔になった。


「おぉ……流石、十二星天同志……楽しそうっすね」

「ん? いつもの事だろ? なあ、爺さん?」

「うむ。ダイアン殿の所もいつも楽しそうではないか」

「いや、まあ、そうなんすけど……」

「アザミって女とは上手くいってんのか?」

「あ、いや、それは……!」


 けらけら笑うレオパルドとジーンに焦り始めるダイアン。まあ、十日以上もクレナを開けていたら、心配にはなるかと茶化すと、ダイアンは顔を真っ赤にしながら、アザミを信じていると、二人に啖呵を切る。

 コモンの他に、他人の色恋沙汰で面白いという状況に、長く接していなかった二人は、その後、ムソウとリアが帰ってくるまで、ダイアンをいじり倒していた。


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