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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
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第415話―鬼神化を確認する―

 家から、こういうこともあろうかと持ってきていた手甲と胴当てを身に着けた後、ツバキと向かい合うように、闘技場の立ち位置に立った。

 ここは、ギルドの建物の側にあり、コクロのギルドらしく、海上に並べられた船を鎖でつないで足場としている。足元は不安定だが、まあ、関係ないだろう。

 ギルドと闘技場そのものを壊さないように……と思ったが、最悪、ギルドだけでも影響がないようにしておこう。足場については、知らん。

 そう思っていると、ギルドの執務室の窓から、ぎょっとした顔のギャッツと目が合った。

 固まっているギャッツに、ニッと笑ってやると、全てをあきらめたように、しかし、何かを願うように手を合わせているのが見える。

 どうか壊さないでくれと言う言葉が聞こえてきたようだったので、適当に手を振ってやった。


 そして、ツバキの準備も整ったようで、ツバキから感じられる気配が、少々引き締まった。


「ムソウ様……よろしいですね?」


 斬鬼の柄に手を置きながら問うてくるツバキの言葉に、俺は無間を抜きながら頷いた。


「ああ……行くぞッ!」


―すべてをきるもの発動―


 俺は、スキルを発動させ、視界に切れ目を浮かばせながら足元を蹴る。思った通りツバキは、俺の進路上と自身の周りにすでにほとんど見えない障壁を浮かばせていた。

 切れ目によって、その存在を明らかにした俺は、まっすぐツバキに向かいながら、障壁を斬っていく。

 ツバキは一瞬、苦々しい顔をしたが、すぐに新たな障壁を自身の背後に出現させ、それを蹴り、ものすごい速さで俺に突攻を仕掛けてきた。


「抜刀術・瞬華ッッッ!」


 自分は突攻し、その間にも刃状の障壁を俺に飛ばしてくる。

 その全てを叩き落としながら、俺はツバキの気配に集中。どこを斬ってくるのかを察知し、ツバキの刀を無間で止めた。

 しばらく無言で鍔迫り合いとなったが、俺は力を抜いてツバキを自分に引き寄せながら、膝蹴りを食らわせる。

 しかし、ツバキは自分の腹に障壁を出現させ、それを防いだ後、宙返りし、俺の背後をとる。

 更に足元に障壁を出現させ、距離を取りながら、斬波を放ってきた。

 即座に無間を背中に回してそれを防いだ後、ツバキに向き直る。

 その時点で、ツバキはすでに、自身の周りに無数の刃状の障壁を展開させており、刀を俺に突き出した。


「桜吹雪ッ!」


 その瞬間、更に多くの刃が俺に向かって飛んでくる。


「ッ! ウオオオオオオオッッッ!!!」


 ―かみごろし発動―


 俺は鬼人化し、いくつもの鬼火を生み出し、ツバキの攻撃を防いだ。

 そして、鬼火を武者の形にして、ツバキに向かわせる。


「百鬼夜行ッッッ!!!」


 武者の形をした鬼火は、刀を手にしてツバキに襲い掛かる。

 光葬針のものと違い、鬼火で出来た武者は、冥界の波動そのものだ。天界の波動のものよりも、命を刈り取る形態のようで、近づくだけで、相手に不快感を与える。

 ツバキは障壁を展開させて、鬼火の武者達の猛攻を防ぐが、それだけで手いっぱいのようであり、反撃は無かった。

 その隙をついて、俺が障壁を斬ろうと地面を蹴った時、ツバキは斬鬼を握りしめる。


「くっ……まだ、早いですが、仕方ありません。よろしくお願いしますッ! 偶像術・奥義・闘鬼神ッッッ!」


 ツバキが手にする斬鬼が輝き、そこからエンヤが飛び出した。


「ウオオオオラアアアアアッッッ!!!」


 現れたエンヤは、ツバキが障壁を解くと、その場にいた鬼火の武者をたちどころに斬り伏せていく。

 全力の偶像術ではないにしろ、やはり、流石だなと感じたが、そんな余裕もなく、鬼火の武者を撃退した後は、ツバキと共に、俺に向かってきた。


「行くぞ、ツバキッッッ!」

「はいっ!」


 エンヤの重い連撃とその合間を縫って、ツバキが鋭い技を放ってくる。鬼火を展開させる暇もなく浴びせられ続ける攻撃。EXスキルひとごろしも発動させて、二人の攻撃に対応していく。

エンヤの気配を追い、ツバキの気配を追い、受け、躱し、流していく。

 エンヤもツバキも、必死そうな顔をしている。偶像術に際し、込められた力はそこまで多くない。だからこそ、俺はまだ、エンヤの猛攻に耐えられている。

 このまま、エンヤが消えるまで受け続けてやることも、やろうと思えば出来る。


 だが、それでは、ツバキの期待に応えられない。エンヤも、そのことは分かっているらしく、先ほどから、俺の本気を引き出すような戦い方をしている。

 普段は、軽口の一つでも叩いてくるのだが、今日ばかりは真剣な顔つきで、静かに刀を振っている。静かと言えども、いつも通り重い攻撃で、気を抜けば危ないのだが。

 もちろん、戦いに集中し過ぎたエンヤも脅威と言えば脅威なのだが、そんなエンヤと、本気で来いと言ってきたツバキの期待に応えないというのは、可笑しな話だと思った。


 だから……ここから、本気を出すことにした。


「オラアッ!!!」


 少し力を入れて、二人の攻撃を弾く。一瞬生まれたこの間に、俺は最後のスキルを発動させた。


―おにごろし発動―


「ウオオオオオオオッッッ!!! ガアアアァァァッッッ!!!」


 俺の周りで天界の波動と冥界の波動が溶け合い、全身に力が漲ってくる。それと同時に、俺の背中に二対四枚の翼が出現する。


「ッ! ツバキッ! 距離を取れ!」

「ハイッ!」


 俺の変化に、エンヤとツバキは距離を取り、ツバキは障壁を展開させた。その間にも、俺の鬼神化は止まらない。


―みなごろし発動―


 頭に、その文言が思い浮かび、俺は鬼神となった。背には四枚の翼、頭には片角。手足の爪は伸び、口には鋭い牙が伸びている。

 無間からは常時、天界の波動と冥界の波動が揺らめくように立ち上り、刀身には葉脈のような模様が浮かんでいた。

 そして、自分でもわかるくらいの、ほとばしる力の波動が俺の身から天へと昇っていく。

 視界は、先ほどまでは見えなかった空間の切れ目の他、ツバキが持つ斬鬼、エンヤの持つ大刀などにも切れ目が見えるようになっていた。

 空には、クレナで見たものと同様な、邪神族を封じているであろう、巨大な魔法陣と切れ目。

目にチラついて邪魔だなと思っていると、消えたり浮かんだりし始める。どうやら、俺が意識すると、視える切れ目と言うものが消えたり、現れたりするようだ。

 必要のない切れ目は除外し、エンヤとツバキを見据える。二人とも、少々驚いたように顔を強張らせながらも、臨戦態勢を崩さなかった。


「ツバキ……俺に、もっと力を送れるか?」

「そうすると、私は動けなくなります。EXスキルも思うようには……」

「……そうか……なら――」

「はい……ここからは、もっと気合を入れていきます」

「……フッ。良い答えだ」


 二人の中で、何か作戦でも決まったのか、ツバキは周りに障壁を展開させながら、斬鬼を構える。

 エンヤは、背中から、大刀で出来た風車を手に取り、投げる態勢をとった。


「貪狼ッッッ!!!」


 頭上で風車を回転させ、俺の廻旋刀のように竜巻を作り出した後、俺に向かって投げてくる。それと同時に、ツバキは障壁で身を守りながら、その風車と共に、俺に向かってきた。

 遅れてエンヤも新たに大刀を二振り握り、俺に向かって突撃してくる。


 俺は、まず飛んできた竜巻と大刀を一刀のもとに斬り伏せる。ただ、無間を振り下ろしただけで、そこから大斬波よりも大きな斬波が飛び出て、エンヤの攻撃をかき消した。

 二人が驚いた顔をしているが、俺も驚いている。これは制御が難しい。どうにか出来ねえかと、ぶんぶんと無間を振ってみる。その度に、斬波が飛び出していき、いくつかはエンヤとツバキに向かっていった。


「ウオッ!? オラアアアッ!!!」

「くっ!」


 二人は慌てて、斬波に対応する。エンヤは、力を込めて二本の大刀を何度も振りまわし、斬波をかき消す。

 ツバキは、障壁を展開させるが、一枚だと無理だと判断し、幾重にも重ねた障壁で、動きを一瞬だけ止めた後、斬波を避けることで難を逃れる。

 後の斬波はどこかへと飛んでいく。普通に撃っても、空に浮かぶ雲を斬るんだ。海の先の島とかに行きついたら、本気でどうしようと思っていると、海を割りながら飛んで行った斬波が消えた。

 どうやらこれも、俺の思い通りに消えたり発現したりするらしい。

 と言うことで、斬波を出さないように、その力を無間に留める思いで、無間を振ると、斬波は出てこなかった。

 その代わり、ただの斬撃の威力の方が増す。これなら安心と思っていた矢先、体制を立て直したエンヤとツバキが再度、俺に向かってきた。


「破軍ッッッ!」

「大雀蜂ッッッ!」


 エンヤは二振りの大刀を振り上げ、ツバキは刀を抜き、気を纏わせて、大きな突き技を放ってきた。

 俺は、両手を前に出し、二人の攻撃を……


 ガキンッ!


「なっ!?」

「くっ!?」


 止める。エンヤが振り下ろした大刀も、ツバキが繰り出した斬鬼の切っ先も、俺の掌で止まっていた。

 別段、気を纏わせているわけでもない。止められると思ったから、手を前に出したら、止まったというだけの話だ。

 鬼神化はこれほどの力なのか、と更に自分で驚いてしまう。本気でやると言ったものの、本当に本気でやると、本当にヤバいかも知れない。

 そう思い、出来るだけ精いっぱい加減して反撃に出た。


「光極滅破ッ!」


 掌から天界の波動を撃ち出す。力を抜いたが、ワイバーンが口から出すあの攻撃よりは遥かに強い威力の光線が二人を襲う。


「ぐあっ!」

「くっ……ハアッ!」


 エンヤは、俺の技を受けて吹っ飛ぶが、ツバキは即座に障壁を出現させて、俺の技を流しながら、上空へと跳躍。吹っ飛ぶエンヤの背後にも障壁を出現させて、エンヤはそれを蹴り、ツバキは上から刃状の障壁を飛ばし、エンヤは再び突っ込んできた。


「フンッ!」


 俺は、今度は無間を横に薙ぎ、ツバキの攻撃の全てを叩き落とし、エンヤの刀を片手で受け止めた。

 エンヤは再び驚いた顔をするが、すぐに何度も俺に斬りかかってくる。そのことごとくを片手で受け流し、最後に振り下ろされた重い一撃も受け止めると、ここでようやく、エンヤは何時ものように、手合わせのさなか、笑いながら口を開く。


「……余裕じゃねえか……ザンキ。自在に使いこなしているというわけじゃなさそうだが……?」

「……ご名答。さっきはすまなかったな」

「少し痛かったが、まあ、良いだろう。アレでも“本気”じゃねえんだろ?」

「……ああ。……なあ、エンヤ」

「……あ?」


 世界が変わっても、どれだけ俺が姿を変えても、力を手にしても、俺の“親”であり続けてくれるコイツに、実は心配していた俺も、笑いながら聞いてみた。


「俺は……俺達は……勝てそうか?」


 そう言うと、エンヤは一瞬、目を見開いたが、すぐに、ニカっと笑った。


「勝てるさ。確実にな。そして、こっちも、誰も死なせねえよ。ツバキとリンネ、リアやダイアン達も居るし、何より、この俺が居るんだからな。お前は何も気にせずに、前だけを見てろ。後ろは任せとけ」


 そう言いながら、エンヤはいったん距離を取った後、上空に展開された障壁を蹴り、急降下しながら、大刀を振り下ろしてくる。

 流石頼りになる女だと思いながら、俺は無間を下段から斬り上げる。

 バキンと大きな音とともに、エンヤの持つ大刀は砕け散る。


「……ありがとう」

「お~う。そろそろ時間みたいだから、ツバキには悪いが俺は戻る。まあ……一言、助言を与えるとすれば、もう少し、自分の力は制御しろよ。それだけの力を持っているということは自覚しておきな。それから、同じ失敗は何度もするものじゃねえってことは忘れるなよ」


 エンヤの言葉に頷くと、フッと笑いながら、エンヤの体は光の粒子となり、上空で障壁の上に立っていたツバキの元へと還っていった。

 本当に、良い助言を貰った気分だ。鬼神化は確かに、何でも出来そうな力ではある。

 しかし、制御が少し難しいというか、気を抜いて戦うと、二次被害も大きくなりそうなものだ。

 あまり、本気を出し過ぎて、また地形を変えたりしたら困るもんな。

 後で、ジーンやリア達にお小言を貰わないようにするには、もう少し、意識して戦った方が良いのかも知れない。


 そんなことを思いながら、上空のツバキを見据える。

 エンヤが居なくとも、闘志を消さず、鬼神化した俺を恐れず、まっすぐと見つめ、刀を構える姿は素直に称賛してやる。

 だが、先ほどまでで、すでにツバキの一撃は届かないことも明らかになったはずだ。こんな時までも、無謀な無茶をやらかす気か?


 やれやれと思っていたが、ふと、ツバキは力を抜いたように、フッと微笑んだ。


「……なるほど。私が言い出したこととはいえ、すでにムソウ様は、「本気で手合わせ」と言うこと自体が難しいのですね……」

「まあ……そういうことだ。悪いが、お前らは勿論、十二星天も俺の相手は務まらないだろう。まあ、鬼神化に関して、だがな……」

「そのようですね。ですが、これなら私も安心です」


 そう言って、ツバキは刀を収め、展開させていた障壁を消していった。ツバキ自身は足場の障壁ごと、ゆっくりと降りてくる。

 ふむ。最後に突攻してくるかと思ったが、そこまでの無茶は、今日はやらないらしい。ツバキの中で、俺が海賊団との最前線に向かうことに関しての答えが出たようだ。

 俺の方も、エンヤが言ってくれたおかげで、少しは残っていた不安な気持ちは取り除けた。安心して、皆に任せて、俺も敵に集中できる。

 今日はよく動いたし、やはり、今晩の晩飯は美味しいんだろうなと思いながら、鬼神化を解く。


「ッ! おっと……」


 それと同時に襲い来る強烈な脱力感。今回は鬼神のまま少しは戦ったこともあり、いつもより反動が大きい。

 慌てて懐から気力回復薬と活力剤を取り出し、服用した。


「……はい。隙ありです」

「……は?」


 薬を飲みながら一息ついていた俺の背後から、急にツバキの声が聞こえてくる。振り返ろうとしたところ、背後から斬鬼を当てられているようで、顔の横から斬鬼の刃が伸びる。


「ムソウ様のお力は強大です。しかし、スキルを一気に解いたときに現れる、そちらの脱力感と疲労は、それに比例して大きいようです。この間は、私でも簡単に、後ろを取ることが出来ますし、傷をつけることも出来ます。そのことを忘れないでください」


 得意げなツバキの声。どうやら、鬼神化が解けて、俺が脱力した今を狙っていたようだ。

 「戦いは終わった」とは言っても、これは俺達が勝手に決めた終わりであり、本番の戦場ではありえないことだ。どちらかが、倒れるまでが戦いである。

 まして、相手はツバキだ。こういう手合わせでも、開始の合図を待たず飛び出してくるような奴である。

 らしいと言えば、らしい行動。最後の最後に気を抜かず、鬼神化している俺に挑むことは諦め、鬼神化を解くまで、好機を伺い、力が抜けた今を狙うという作戦は見事と言うほかない。

 ……ああ、エンヤが言っていた、同じ失敗はするなってのはこのことだったか。クレナでも、空中で鬼神化が解けて、真っ逆さまに落ちたんだっけな。

 大きな力を使って、地形や環境を変える事じゃなかったのか、と苦笑いする。


 未だ、振り返ることは出来ないが、恐らくツバキは得意げな顔をしているのだろう。海賊団との戦いにおいて、前線に出ることは納得しながらも、自分の力もきっちりと示したことは、評価に値する。

 しかし、これでは悔しいと、俺は隠し持っていた煙球を袖から落とした。


「……えっ?」


 俺の足元で炸裂する煙球。俺達を中心に大量の煙が発生し、互いに姿が見えなくなる。

 一瞬にして、戸惑いと焦りの感情がツバキから伝わってくる。

 その隙をつき、ツバキの足を払い、襟元を掴んで闘技場に立っていた柱にツバキを押さえ込んだ。


「くあッ!」

「……なるほど……最後まで気を抜いたら、確かに駄目だな……」


 鬼神化を解いた影響で力が抜けているとはいえ、薬は飲んだし、何の装備も付けてない状態の時くらいには動ける。鬼神化の時も、そこまで力を振るったわけではないしな。反動は小さい。

 動揺するツバキを抑えるくらいの力はある。

 ただ、ツバキも、まだまだ戦う力は残しているし、最後まで勝利と言うものを諦めていない。なので、柱にツバキを押さえながら、死神の鬼迫を当てて、更に、今度は俺がツバキの首元に、クナイの切っ先を当てた。


「諦めるか……?」


 苦々しい顔をしていたツバキは、ふうーと息を吐いて、手から斬鬼を放した。


「はあ……負けました」

「終わりで良いか? 何か、ここまで来ると、終わらない気がする……」

「ええ、構いません。ムソウ様の珍しいところを見つけることが出来ましたから、私も満足です」


 ツバキを開放すると、斬鬼を収めながら、ツバキはクスっと微笑んだ。


「珍しいところって……何だよ?」

「意外と、小賢しくてずるいところです。そして、勝利には貪欲で……」

「ずるいって……」


 ツバキには言われたくない。戦略だったと言ってくれ……。


 さて、結局どちらが勝ったか、どういう勝ち方だったかについては、もう、気にしなくて良いだろとツバキに言い聞かせて、俺達は闘技場を後にする。

 俺が闘ったのに、闘技場が無事だというのは面白いとツバキに言われ、俺もギルドの闘技場を見渡して可笑しな気持ちとなった。

 細かに傷はついているが、大部分は残っている。まあ、周りは海だからな。壊れるところが無いということが要因だろうが。

 ふと、ギャッツの部屋に視線を移す。窓辺で、顔色を悪くしながらも、どこかほっと胸を撫で下ろし、苦笑いしながら手を振るギャッツに、俺も振り返した。

 鬼神化して戦うとしたら、あの危険海域だ。思いっきりやっても、島さえ傷つけなければ、思いっきりやっても良いだろう。

 元から、天候も荒れ狂っているし、生態系も何もないだろう。後で、ジーンにも確認しないといけないが、昨晩の時点で、何も言われなかったので、恐らく大丈夫だ。

 一応、ツバキに確認してみたが、ツバキも大丈夫だろうと笑って頷いた。


「手合わせの前までは、本当に少しばかり不安が残っていましたが、大丈夫だと思います。むしろ、力を出し切ってくださっても構いません。ただ……」

「ああ。戦いが終わった後は、気を付けないといけないな。せめてアートルムに戻ってから鬼神化を解くとするよ」


 海のど真ん中に落ちるわけにはいかないからな。アートルムに戻るか、最悪、トレイズ島に戻るかしてから、鬼神化を解くとしよう。


 さて、そのまま闘技場を後にし、家に戻るまでの間、鬼神化になった時の、俺の能力について、ツバキと共にすり合わせを行った。無論、監視されていることも視野に入れているが、手合わせ前にも確認したように、けん制になれば良いと思っているし、俺の力に対して、総力戦を挑んでくるようになれば、なお良いと思っている。


 俺が闘いのさなか、感じていた鬼神化の特徴は、基本的に、全ての攻撃の威力と、俺自身の耐久性が格段に上がっているという事、天界の波動と冥界の波動を同時に操ることが出来るという事である。

 技の威力については、少々制御しないと危ない時もあるが、今回の一戦でだいぶ慣れたと思う。無間からすでに放たれていた斬波が、俺の意思で消えたことは驚いたが、アレもよくよく考えれば、光葬針や鬼火と同じ様な原理だと思われる。

 あれなら、飛刃撃などの技の時も応用が利きそうだな。これに関して試すのは、エンヤ含め、仲間には出来そうにないが、今度の戦いで可能かもしれない。

 ぶっつけ本番だが、まあ、何とかなるだろう。

 ツバキが感じていた鬼神化した俺について、一番の特徴は、途方もない相手を前にしているという圧迫感が凄まじかったこと。神人化の時のような清らかな気配も、鬼人化の時のような、大きな恐怖も感じることもなく、ただただ、目の前に得体のしれない強大な力が存在するという感覚が襲っていたという。

 また、俺は意識して使っていたわけではないが、死神の鬼迫のような感覚もあったらしく、正直なことを言うと、リアによる死神の鬼迫を対処する術を知らない者達からすると、一般の騎士や冒険者は耐えられないほどの気配を漂わせていたという。

 ツバキも、集中しなければ、戦意を喪失するくらいの殺気が、俺から常に放たれていたとのことだ。


「無理すんなよ……」

「慣れたつもりではいたのですが……エンヤ様には通用していないようでしたが……」

「まあ……コイツは特別だからな……」

「エンヤ様がお隣にいらっしゃることで、私も戦えたという感じですね」


 そう言いながらも、戦えたかどうかは微妙だとツバキは語る。まさか、俺が素手で、そのエンヤの一撃でさえも止めたことには、やはり驚いたようだ。まるで、岩山に一撃入れるかの如く、刀をぶつけた瞬間に、倒すのは完全に、無理だと悟ったそうだ。

 この他、無間から伝わる力の気配も、通常よりも強いものであったらしく、俺が無間を振り上げる度に、絶望感のようなものが体中を襲っていたという。

 果たして、鬼神化をした俺を倒す存在が居るのかと、今なお、疑問だと、ツバキは続けた。


「恐らく、十二星天様と神獣様が総がかり……いえ、この世界中の生きとし生けるもの全てが一丸となっても、ムソウ様には敵わないでしょう。冗談ではなく、本気でそう思いました」

「大げさな……」


 ツバキの言葉に苦笑いするが、その目は真剣だった。そういう気は全くないが、この世界を滅ぼそうと思えば、すぐにでも滅ぼせるくらいの力を手にしてしまったらしい。

 なるほど。セインやエレナが、俺の事を嫌う理由がよくわかる。

 もっとも、あり得ない話だから、その辺りは気にしない。逆を言えば、俺は、人界にとって、本当に最大の味方で居ることが出来るようだしな。


「……まあ、お前らも安心してろよ。この力で、海賊だろうと邪神族だろうとどんな敵からも、お前らを護ってやるさ」


 冗談抜きな、真剣な眼差しのツバキの頭をそう言いながら撫でてやった。

 ツバキは、少し目を見開いた後、優しく微笑みながら頷く。


「……はい。私の事も、リンネちゃんの事も、ジゲンさん、たまちゃん、皆さんの事も護ってあげてくださいね。私も、ずっとおそばで、ムソウ様を御護りしますから」

「ああ、知ってる。引き続き、頼んだぞ」


 結局は何も変わらない。今まで通りだ。更なる力を手にした俺を、ツバキやリンネ達が護ってくれれば良い。

 俺は、手に入れた力で皆を護れば良い。ただ、それだけだ。改めて、そのことを確認した後、俺達は帰路についた。


 家に帰ってから、既に帰っていたリンネに出迎えられる。大人しくしていたかと聞くと、きちんとジーンやルイの言うことを聞いたと得意げだった。

 それは何よりと、ツバキと共に、頭を撫でてやる。

 家に入ると、リアに、何かしていた? と聞かれた。流石、気配には敏感なんだなと思いながら、鬼神化の確認をしていたと説明。

 また、無茶なことをと呆れられたが、言い出したのはツバキだと言うと、リアは深くため息をつきながら、


「ツバキさんも、頭領に毒されたのね……」


 と、呟く。ツバキは不服そうにしながらも、今日の戦いの事と、明後日騎士団に皆で行くことについて説明。

 リアはまたしても、目立つ存在になるかもと嘆き、ツバキは、やり返したと、得意げになっていた。

 まあ、ツバキ自身も、騎士団ではすでに目立った存在だからな。そればかりか、天上の儀で目立った存在だったと聞いている以上、領主やギルド支部長の間でも、目立った存在である。そのことは忘れないで欲しいものだな。


 飯の席では、リンネが上機嫌だった。何せ、明日はレオパルドが麒麟の二人と共に、コクロに来るからな。オリビアと何しようかと楽しみそうにするリンネ。

 俺も、一応明日はレオパルドに会うつもりだ。今回の事について、ジーンと共に、詳しく説明しないといけないからな。

 明日もツバキと共に、と思っていたが、だったら、皆で遊びに行きたいというリンネに頷き、明日は皆でリチャードの家に行くことにした。

 リンネと、なんだかんだ麒麟を通してレオパルドとの仲を深めていたルイが乗り気だ。

 少しだけ、頬を赤く染めながら、リンネの頭を撫でている。

 これは……上手くいけば、上手くいくんじゃないかと皆と示し合わせ、明日は出来るだけ、二人へ気遣う行動をしようと決めた。

 俺からのこういう提案に、最初は驚いた様子の皆だったが、乗り気になったようで何よりだ。

 何か、いつもより皆と距離が縮まった気がする。


 色んな意味で、明日が楽しみだと思いながら、俺達は早々に寝床についた。


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