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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
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第414話―作戦をノワール達に伝える―

 翌朝起きてから顔を洗っていると、後ろからリンネが飛びついてきた。


「おはよ~! おししょーさま~!」

「おお、朝から元気だな。一緒に顔を洗うか」

「うん!」


 リンネは袖をたくり、顔を洗う。今日はリチャードの所に遊びに行くのだからな。綺麗にしないと。

 ツバキはルイと飯を作っているし、今日は俺が髪を解こう。

 櫛を持って、リンネの寝癖を直していると、リンネは鏡越しに話しかけてくる。


「おししょーさま。おししょーさまがおしごとしてるあいだ、リンネはあそんでいていいの? おししょーさまについていっちゃだめなの?」

「駄目ってことはないが、海に出たり、魔物と戦うわけでもないからな。今は、お前もゆっくりしてくれて良い。その代わり、「その時」が来れば、また、頼らせてもらう。英気を養えってことだ」

「えいき……おししょーさまのおともだち?」


 ……少し面白かった。深呼吸して気を落ち着かせた後、首を振る。


「いや、違う。また、大きな戦いになりそうだから、そうなるまでに力を蓄えておけということだ。それに、俺やジーンにとっては、オリビアと遊んでもらうのも、リンネにやってもらう、立派な仕事だと思っている。今日も任せたぞ」


 そう言うと、リンネは目を輝かせて頷いた。


「うん! リンネにまかせて~。おししょーさまががんばれるように、リンネががんばる!」

「ハッハッハ。本当に、リンネは頼りになる。……良し、綺麗になったぞ。美味そうな匂いもしてきたし、居間に行くか」


 頷くリンネの手を引いて、居間へと向かった。そこでは、ダイアンとチャン、ハルキが何か話しており、リアは、この街の地図を眺めていた。この、休みの間に色々と回り、いざ、ここが戦場となった際に、どう動けば良いのか、今から戦略を練っているようだ。

 いつもは目立つチョウシの姿が見えないと思っていると、朝から鍛錬をしていると、ダイアンが教えてくれた。朝から真面目だなとほくそ笑む。

 この際にと思い、リンネをツバキ達の手伝いに向かわせ、俺は外に出た。

 家の前で、海に向かってチョウエンが持っていた刀「金剛刀」を振り回しているチョウシに近づく。


「よお。朝からせいが出るな」

「お、頭領。どうもっす」


 チョウシは大刀を置いて、俺に頭を下げる。改めて見てみるが、コモンの改造前は、まだ、刀の形状をしていたが、戻ってきてからは、大人の胴体分の幅があり、柄は長く太くなっている。


「それ、少し持っていいか?」

「良いっすよ。ちょっと、まだ癖が強いっすね」


普通の人間なら重たくて使えないだろうが、付与効果と共に、チョウシ本来の力もあって、自在に振り回せることは出来ている。

しかし、形状が大きく変わったことで、皆以上に新しい武器に慣れておくつもりのようだ。

 確かに重いし、間合いが掴みづらくなる感覚がある。軽く振ってみたが、細かいことは出来なさそうだ。これで、ジゲンやツバキのような、素早い奴の相手は、無間以上に無理だろうな。


「やっぱり、この武器の長所を生かした戦い方は、力いっぱい存分に振り回すようにした方が良いかもな」

「チョウエンさんもそう言ってたっす。活路を開く為の大きな一撃を入れられるようにって」


 ジゲンとロロを除く、現在の牙の旅団の主な戦い方は、リアが後方で指揮と補助、ダイアンとチャン、ハルキ、チョウシが敵の中に突っ込み、ルイがその補助を行う。

 その中で、チョウシの役割は、単発で超攻撃力の技を放つことが出来るハルキと違って、いつでも持ち前の力で、強力かつ広範囲に影響がある攻撃を放つことが出来る。

 有利な時でも、不利な時でも、戦況を大きく変える戦いを行うのがチョウシで、それを可能にするのがこの武器である。


「ふむ。なら、ただ振り下ろすだけじゃなくて、もう少し技の種類を増やした方が良いかも知れないな。出来ることが増えれば、様々な局面に対応することが出来る」

「そっすね。けど、大体の技は使えるっすよ。斬波とか、神突とか……」

「いや、基本技はもう良いから、俺の技を教えてやるよ」

「え……」


 チョウシが使えると言ったのは、この世界における剣術の基本技である「斬波」と「神突」だ。もちろん、使えることは分かっているし、チョウシも、この二つの技を、更に昇華させていることも知っている。普通に戦うには充分だろう。

 しかし、どうせなら、もっといろいろな面で活用できて、攻撃にも防御にも使える技を知っておいた方が良いと思い、かねてより教えたかった、あの技を教えておくことにした。


「お前に教えるのは、廻旋刀。そこから螺旋斬波までは使えるようになって欲しい」


 これだけ巨大な刃を持つ刀なら、廻旋刀と相性が良い。振り回せば、敵に囲まれた時も薙ぎ払えるし、防御にも使える。竜巻などが使えるようになれば、更に活躍の場が広がる。

 そこから派生して、螺旋斬波を使えるようになれば、チョウシもハルキに負けない超攻撃力を宿すことが出来るということなので、皆の戦術の幅も広がる。

 ぜひとも覚えてほしいと言ったが、チョウシは驚いて固まったままだった。


「と、頭領の技っすか……? 自信無いんすけど……」

「そんなに難しいわけじゃない。刀を回すだけだからな」

「いや、その理屈が分かんねえんすけど……」


 よく聞かれる質問だが、俺も、口では上手く説明が出来ない。一応、マシロのロウガンは、すぐに使えるようになっていたと言ったが、サネマサの一番弟子であり、“猛将”の異名を持つロウガンは、比較して参考にする対象にならないと言われた。


「刃風なら出来そうなんすけど……」

「あれは駄目だ。多分、お前がやったら、想定以上にデカくなると思うし、そうなると、場合によっては危険だ。それにあの技は、回っている間は、意外と無防備だから、廻旋刀の方が良いと、サネマサも言っていたぞ」


 ちなみにサネマサは、ロウガンから廻旋刀を教えてもらったらしい。体中を回転させて発動させる刃風よりも、敵に竜巻をぶつける際に狙いを定めやすいと喜んでいた。

 今は、派生技も編み出したらしく、この技に関しても、俺の事をあっという間に抜いていった事には、少し悔しい思いとなった。

 まあ、そうは言っても、俺が考えた技を色んな奴が使うということは、何となく嬉しいことなので、このまま、コイツにも教えたいと思っている。


「でもな……」

「つべこべ言わずに、とりあえずやってみろ。まずな……」


 いささか乗り気じゃないチョウシに廻旋刀を伝授していく。すると、刀を回すところまではすぐに出来た。

 この技、ここまでは意外と簡単だ。あとは、矢なり魔法なり飛んで来た時に、横に向ければいいだけだが、これが難しい。下手をすれば、刀がどこかに飛んでいくからな。

 絶妙な力加減で行うことで、刀の向きを真横にして、そのまま盾にすることが出来る。


 次に、竜巻を起こす方法だが、これについては、刀の回転力を上げて、刀に気を送り込むことで可能となる。

 やってみろと言ってやらせたが、こちらは上手くは出来なかった。

 しかし、回転を速くすることで、横に倒しても刀の向きを制御することには成功したようで、チョウシは徐々に喜び始めた。


「おお! 頭領! 出来るようになったっすよ!」

「廻旋刀はな。これでお前は、強力な矛と盾を手にしたことになる。大概の攻撃は防げるだろうし、そのまま敵に突撃すれば、群衆に風穴開けることも可能だ」

「面白いっすね、この技。にしても、頭領って、意外と教えるのが上手いんすね。昔、やってたんすか? ハルマサ様とかタカナリ様に」

「意外とって……いや、あの二人には教えていない。別の友達には教えてやったがな……」


 そういや、廻旋刀を他人に教えたのは、ゴウキが初だったか。俺から技を教わって嬉しそうにしていたゴウキが、この世界の武術の基本となる技を編み出していたという話をタカナリから聞いた。

 それもまた、何となく面白い話だなと笑い、朝飯が出来るまで、チョウシの鍛錬に付き合ってやった。


 その後、しばらくチョウシに付き合っていると、飯が出来たとリンネがやってくる。続きはまた今度ということにして、居間へと向かった。

 ただ、少しチョウシが汗臭かったので、神人化して体を浄化してやった。チョウシは微妙な顔をしていたが、他の奴らからは喜ばれた。

 朝飯を食いながら、再度、今日の全員の動きを再確認する。

 俺とツバキは、ノワール達に作戦の説明を行っていく。事前連絡とかは取っていないが、まあ、大丈夫だろう。

 リンネはルイと共に、リチャードの家にて、朝からオリビアと遊ぶ。ジーンも居るから大丈夫だとは思うが、モンクでのこともある。きちんと大人の言うことは聞くんだぞと言うと、リンネは笑って頷いた。

 ダイアン達は、家で留守番だ。買い物なり、釣りなり、自己鍛錬などやりながら、時間をつぶすという。

 リンネにも言ったが、今のうちに、皆にも心と体をしっかりと休めてもらいたい。俺も、今日の用事が済んだ後は、明日の事もあるし、少し体を休めるつもりだ。

 ここに来てから、調査だけの毎日だったが、久しぶりに気を緩めるとしよう。


 さて、朝飯が終わった後は、皆で食器を片付けて、俺はツバキを連れて、家を出ることにした。念のためと、無間を背負い、外に出ると、リンネとルイが、俺達を見送ってくれた。


「おししょーさま、ツバキおねえちゃん。おしごと、がんばってね!」

「ああ。お前も、しっかりと遊ぶんだぞ」

「ジーン様や、リチャードさんにご迷惑をおかけしてはいけませんよ」

「は~い!」

「じゃあ、二人とも。夕方には私達も帰るようにするからね。行ってらっしゃい」


 ルイに頷いて、俺とツバキは、まず、ノワール邸へと向かった。

 海沿いの道を歩いていると、さざ波と風の音が聞こえてきて、何とも心が休まる気がする。ただ、俺達の仮説通り、監視されているということを思い出すと、それも何だか、微妙な思いとなってくるがな。

 ツバキはどうだろうと、横顔を見ると、こちらも監視されていることなど忘れているからのように、時折海を眺めたり、風を体で浴びたりとしていた。


「今日は気持ちいいですね」

「そうだな。やはり、海育ちだと、海が近くにある方が良いものなのか?」

「ここ最近は何時も海に居るので実感は無いですが……まあ、嬉しいものです」


 モンクとコクロとでは、発展度と言う見方では、全く雰囲気が違う領だ。

 しかし、海が近いという共通点は、やはり、ツバキを懐かしい気持ちにさせるようだ。

 ただ、やはりツバキも、監視されていなければ、なお嬉しいとのことなので、さっさと海賊団を潰そうと笑い合った。

 ちなみに、今も違和感はある。しかし、こちらから監視に気付いたとばらすわけにもいかない。そんな中で、いつも通り、何気ない会話を続けるのはなかなか骨が折れる。

 少し早めにノワールの所に行って、建物の中に入ろうと思い、少し、速足で向かった。


 そして、ノワール邸へと到着し、領主に会いに来たと、門番に取り次いでもらうと、すぐに案内してくれた。

 暇だったのだろうか。部屋に入ると、何かの本を読んでいたノワールが、ニっと笑って出迎える。


「おお、ムソウ殿。それに、騎士のツバキ殿。今日はどうしたんだ? 昨日は、ジーン様も来て、色々と聞いたが、海賊団について、また何か分かったのか?」

「ああ、ちょっとな……」


 正直、今の陽気なノワールに、俺達の考えを話すのは、何となく忍びないとツバキと顔を見合わせて困った。

 しかし、本当に海賊団を潰すには、ノワールの「領主」としての力も必要になってくる。

 仕方ないと思い、ノワールに現時点で得た情報と、海賊団についての、俺達の考察、そして、今後の動きについて話していく。

 陽気だったノワールの顔も、だんだんと神妙なものになっていき、最終的に、眉間にしわを寄せて、訝しげな顔つきになっていく。


「……そうは言ってもたかが海賊団と思っていたが……ムソウ殿達の話を聞く限り、これは、コクロ領一つが判断できる範疇を超えているな。これは、ジーン様も、納得している話か?」

「ああ。だから、今後、アンタに――」

「……ちょっと待ってくれ。一度、頭の中を整理する」


 今後の動きについて話そうとすると、ノワールは黙り込み、机に置かれた茶をすすり始める。

 ここまで来て言うのもなんだが、俺達の作戦は思いつく限り、最悪の状態を表す。

 やはり、そう簡単には受け入れられないかと思っていると、おもむろに、ノワールは立ち上がり、紙と筆を持ってきて、何かを書き始めた。

 書き上げたそれに、領主としての判を押して、俺達に渡してくる。


「……結論から言うと、俺も、ムソウ殿達を信じることにする」

「信じてくれるのか? 結構、荒唐無稽だと思うが……?」

「リエン商会、ギルド、騎士団、そして、コクロ、シルバ、モンク、ゴルド領が何十年も捕らえられない海賊だ。そこまでの事が起きていると考えても良いだろう」


 どうやら、信じてくれたようである。無論、事実はどうかわからないが、過去から現在までの海賊団の動向と、俺が解決した、これまでの転界教に関する事件などを鑑み、ノワールも俺達の結論に至ったようだ。

 ならばと、これから、ノワールにして欲しいことを伝える。しかし、ノワールはそれを見透かしていたようで、先ほど渡してきた書類には、これから、俺とツバキが騎士団とギルドに向かうことを見越し、ルーカスとギャッツに、これからの海賊団討伐の全権を、領主ノワール、騎士団師団長ルーカス、ギルド支部長ギャッツではなく、俺とジーン両名に任せるという指令書のようなものだった。

 簡単に言えば、全てを俺とジーンに任せるということで、俺達の願いにはとことん聞くというものだった。


「……まあ、早い話が、責任をムソウ殿達に丸投げするということだ……すまないな」


 まあ、そういう風にも取られるよな、これは。頭を下げるノワールを見ながら、俺は、どれだけ、領主と言う立場の者達の頭を下げさせるのだろうかと頭を掻いた。


「元より覚悟の上だ。天上の儀で決まったことなんだからな」

「本当に、すまない。次からの天上の儀では、俺も“暴れ姫武将”と同じく、ムソウ殿を擁護する立場に立つと誓おう」


 飄々としているようで、何とも義理堅い男である。俺としては、そういう先入観なしに、中立的な存在が居てくれた方が、安心するんだがな。

 ただ、領主にここまでされたなら、受け取らないわけにはいかない。適当に、それはありがたいと頷いておいた。


「次の天上の儀では良い報告が出来るように、海賊団をどうにかしないとな。そこで、ノワール殿。相談というか、さっそく、頼みなんだが……」


 何でも言ってくれと言うノワールの言葉に甘えて、本当に何でも言ってみた。

 一つは、住民達の避難と、海賊団からの監視について、内々に周知させること。少なくとも屋外に居る間は監視されているので、大規模に避難させていると、流石に気付かれてしまう可能性がある。

 何気なく、島々に点在している集落の者達を、どこか一つの島か、アートルムに避難させてほしいと願い出た。

 これについては、あちこちに人が居るのでは、戦いづらいだろうし、護りづらいからである。出来るだけ、死傷者は出したくない。

 期間が短いから、早急に取り組んでくれと頼むと、ノワールは勿論と頷いた。

 次に、現在建造中のトレイズ島の砦について、海賊団討伐を行う前に、完成させてほしいという事。アートルムの防衛戦は、アートルムが本部になるが、海上での拠点が一つ欲しいと思い、ちょうど、人が住んでいる範囲と無人島群の境と言うこともあり、アートルムを攻めた海賊たちを逃がさないようにするための防衛線と、敵の増援を防ぐための境界を作っておきたい。

 これについては、後でルーカスやギャッツとも話すつもりだが、こちらも、砦建設の体で、あの島に物資と船を集めるようにと願い出ると、ジーンは、すぐに手配すると答えた。

対応が早く、なんとも安心する。


「作戦開始は何時ごろになりそうだ?」

「リエン商会からの増援準備に、五日ほどかかるらしい。だから、最低でも一週間後くらいだ」

「ふむ……それだけあれば、こちらも何でも出来る。早急に、行動を開始しよう」

「任せた。ただ、さっきも言ったように、屋外ではこの件についてかん口令を敷いてくれ。破った者には、罰を与えると言っても良い」

「罰については大丈夫だ。ジーン様から、と、一言加えれば問題ないだろう」


 少々手荒な手段を取ろうとしたが、言われてみれば、それで大丈夫そうだな。

 ここの領民は、ジーンの事を慕っている。ジーンからのお願いと言うことにしておけば、大概の者は素直に従うだろう。


 一応、今回の件について、ノワールに頼みたいことは解決した。これから忙しくなると苦笑いするノワールと別れて、続いて、騎士団へと向かった。

 つい先日まで、ツバキもここで働いていたということもあり、すんなりとルーカスの元に案内される俺達。

 難破船についての話も交えつつ、ここに来た理由を問われた俺達は、昨晩の話し合いでの内容を伝えるとともに、ノワールから預かった書状を渡した。

 話の内容に驚きつつも、書状を読んだルーカスは、やはり、渋い顔をして頷いた。


「思った以上に大掛かりなことになりそうだな。ある程度、大変なことになるとは予想していたが……」

「それで、昨日の難破船については、どういう結果になったんだ?」

「ああ、アレか。まだ、結論は出ないが、十中八九、ムソウ殿達の答えと同じ様なものだ。あの船は、こちらの意識を、ディズヌフ島、ディズユイ島付近で止めさせるものだろうな」


 どうやら、騎士団でも俺達と同じ結論に至ったようである。

 根拠としては、やはり、誰かが乗っていたという形跡が全くないことが大きい。念のため、以前見つかった難破船の件も合わせて、警戒の目的で、今日もあの辺りを巡回しているらしいが、今日のヴァン島以降の海域は、濃霧に包まれているらしく、近づくことは無理だそうだ。

 ちなみに、難破船が見つかってから、シルバ領からも巡回の船を出しているようだが、こちらも濃霧で、あの海域に近づくことすら出来ないらしい。


「あ、戦いになるなら、シルバ領にも警戒するように伝えた方が良いな」


 そういえばと思い出す。今まで、リオウ海賊団と言えば、コクロ領だったが、今回俺達が想定している「敵」は強大な力を持っている。離れた位置にあるとはいえ、シルバ領にも影響があるかも知れない。

 しかも、海賊団とぶつかる際は、ギルド支部長と騎士団の師団長を兼任しているジャンヌが、コクロに居ることになっている。

 そんな中で、海賊団にシルバ領も襲われるとなると、被害は甚大なものとなる。

 ルーカスは、早急に伝えておこうと言って、俺の言葉に頷いた。


「まあ、向こうはレインともゴルドとも隣接しているからな。いざとなれば、そちらから援軍が向かうだろう。流石に、ここまでとなると、リー様も、大陸守護の為、出陣するであろうし、向こうには神話の頃より生きているシンキ様がいらっしゃる。向こうは気にせず、こちらはこちらに集中した方が良いだろう」

「そう言われたら……そうだな。リーも、自分達が決めた変な決まりを最後まで守るよりも、人民の命をとるだろう」


 逆に、そうならなかったら、大問題だ。セインが掲げる、覇道も何もあったものではない。

 近くに居ながら、人界に住む民達を護らなかったとなると、もはや、俺がどうこうせずとも、セインもリーも終わりだろう。むしろ、民衆達の支持を得るために、俺だったら、率先してシルバ領を護るがな。

 ちなみにだが、こういう状況になっても、ジャンヌはコクロに来るようだ。これに関しては、指揮官が何やってんだと少し呆れた気持ちとなる。

 まあ、シルバ師団には、ジャンヌ以外にも、優秀な騎士が多数在籍しており、ギルドの方は、ほとんどの業務を副支部長に任せているとのことなので、正直な話、居ても居なくても変わらないという。

 いまいち、ジャンヌという人間がどういう奴なのか分からなくなってきた。


 ……今は、良いか。他の領の事を考えてもキリがない。向こうは向こうで任せるとしよう。


「さて……問題は、我等がコクロ領だが、砦の完成は流石に不可能だな」

「簡単に、拠点としての機能が整っていれば何でも良い。長期戦になった場合の、補給や、救護班の設置、海上での指令場としての役割を果たすようにしてくれ」

「それなら、可能だな。監視の目についても、ちょうど建設中だからこそ、物資の他、人員も船もある程度送り込むことが出来る」


 自信ありげなルーカスだが、ある程度と言うのはどれくらいかと聞くと、これから、領内の人間が、全てアートルムに避難し、それらを護るのに、騎士が300、港湾での戦いに備えて、船に20ほど割いても、30の船と、200以上の騎士を送り込むことが可能だそうだ。

 トレイズ島で指揮を行うのは、現在も巡視艇で海に出ているヴィクソンだ。ツバキも、納得と言う顔で頷いている。


「防衛戦に関しては、ヴィクソンに任せた方が良いだろう。加えて、こちらにも、リエン商会の冒険者連合を向かわせて欲しいところだ」

「海だとどうなるか分からないからな。ジーンに伝えておく」

「うむ。それで、ツバキ殿。貴殿は、前々から言っていたように、その時は、私達の指揮下に入ってくれ。と言っても、役割はすでに決まっている。闘鬼神の者達や、騎士、冒険者達と共に、港にて、海賊団の侵入を防ぐことだ。現地では、皆の指揮を任せたいが、問題ないか?」


 ルーカスの言葉に、ツバキはすぐに頷いた。


「はい。私は大丈夫です。ただ、闘鬼神には、私よりも優秀で、常に冷静な判断を下す方がいらっしゃいます。当日は、その方と共に、迎撃の指揮を執りますので、私共の指揮下に入る皆さんには、そのようにお伝えください」


 ツバキが言うところの、ツバキよりも指揮官として優秀な奴は、言わずもがな、リアだ。当日は、リアと共に、的確に人員を配置し、ジゲンから叩きこまれたという牙の旅団の戦法を以って、海賊団の迎撃に当たるという。

 この話は、リアの方は納得しているのだろうか。後で、何も知らないリアが、天上の儀でのオウエンとの件のように、何勝手に自分の事を話しているのだとならないようにしなくてはな。

 ルーカスの方は、そんな人間が居るのかと首を傾げるが、ツバキの判断力については、騎士として正当に評価しているらしく、すぐに頷いた。


「その者含め、闘鬼神の者達と、打ち合わせを行いたい。連れて来られるか?」

「かしこまりました。では、明後日に伺います」


 結局、アートルム防衛には、ダイアン達も参加することになるので、明後日に、当日、どのように動くのかを決める会議を開くことを約束し、騎士団を去った。


 次に向かうのはギルドだが、ちょうどお腹がすいてきたので、昼飯を摂る。

 通りに並んだ飯屋に入り、ツバキは魚介のタスタ、俺はハムラを食べた。

 旨いなあと食べていると、ツバキが、リチャード邸に居るリンネを心配する。口周りだけでなく、家具を汚していたらどうしようかと苦笑いしていた。

 まあ、ルイも居るし、リンネは注意すれば辞めるので、飯を食べる前に、ルイが気を利かせて、リンネに忠告してくれている可能性が高い。

 そこは心配するなと、ツバキを宥めると、そうですね、と頷いた。そんなツバキの口周りは綺麗である。

 それを見て、俺は口元を拭った。ツバキは布を手にしながら、あ、と言って、悔しそうな顔をしている。

 そんな手に乗るかと思い、得意げに笑ってやった。


 さて、飯を食べ終えた後は、ギルドへと向かった。初日とは打って変わって、真面目に対応する受付の女を通し、ギャッツと面会する。

 部屋に入ると、訝し気な顔で資料を手にしていたギャッツは、俺の顔を見るなり、慌てた様子で駆け寄ってきた。


「あ、ムソウさん! これ、どういうことっすか!?」


 何が何だかわからないので、とりあえず落ち着かせて事情を聞くと、すでにノワールの方から、これからの事について聞いていたようだ。

 しかし、ギャッツにとっては信じられない内容だったので、事実確認をしたいとのこと。


「結構、荒唐無稽っすよ! こんなことが、ありえるんすか!?」

「分かった、分かった。全部話すから、少し落ち着け」


 そう言って、俺達の推測と、これからの作戦について話していく。

 時折、そんな馬鹿なと口をはさんでくるギャッツだったが、無視して話を進めると、だんだんと静かになっていった。


「……確かに、今の状態で考えられる事っすけど……これは、俺達の手に余るものなんすか?」

「だから、ジーンに各方面に連絡してもらっているところだ。例え、セインやリーが何か言ってきても、場合によっては押しとおるつもりだ」

「……まあ、そうっすね。元々、リオウ海賊団については、うちだけじゃなくて、モンク、シルバも関係しているし、本来なら、全軍で対処しないといけないっすからね……それで、ギルドは何をすれば良いっすか?」


 どうやら納得してくれた様子のギャッツにも、ルーカス達に頼んだものと同じことを話していく。

 決戦の際の、アートルム防衛に関わることと、海賊団との戦闘について、その他、屋外では、この件に関しての口外は禁止、そのうえで、来るべき日に備えて、領民の避難を終えることなど、冒険者達にやってもらうことは多い。


「なるほど……わかったっす。ひとまず、リオウ海賊団討伐の依頼は、災害級から、天災級に引き上げるっす。んで、かん口令は即時通達して、その日まで、他の依頼は見送り、冒険者達には、領民避難と、防衛強化に当たるようにするっす」


 ギャッツはそう言いながら、指令書を書いていき、ギルドの副支部長を呼んで、その男に渡した。

 元海賊と言うこともあり、見るからに人相も悪く、粗暴そうな男ではあったが、動きは早く、あっという間に、話は伝わっていく。

 無論、動揺も大きいようだが、ジーンの名前も入っている指令を見て、文句を言う人間は居なかった。

 こういう時の連携力は流石だな、と思っていると、ギャッツは更に口を開く。


「さて……こうなった以上は、俺も出陣るっすよ。港湾の防衛じゃなくて、海に出て、海賊団の侵入を防ぐっす。ツバキさん、良いっすか?」

「はい。ギャッツさんには、アートルム近海での交戦に際し、冒険者の皆さんの指揮をお願いします。後ろは、私達に任せてください」

「頼もしいっすね。ちなみに、ジーン様はどうする予定なんすか? ムソウさんと一緒に、最前線っすか?」

「いや、ジーンはこの街に残って、領民達の側に居てもらう。領民の希望となるとともに、未来予測で総指揮を執ってもらうことにする。アレでも、戦いは苦手って言っていたしな」


 苦手と言えども、サネマサや、他の武闘派の十二星天に比べて、である。ジーン自身も、戦いに関しては、一人で災害級を倒すほどの力はあるらしい。

 そういうこともあり、何らかの手段で、騎士団やギャッツ達をすり抜けて、アートルムに、強大な魔物や、手練れが現れた時の為の、保険と言う意味で、ジーンには町に残ってもらう。

 その方が、オリビアの事もあるし、ジーンも安心するからな。

 ギャッツもそれで納得し、そうっすね、と頷いた。


 さて、ギャッツとの話し合いも一通り終わり、俺達はギルドを後にした。

 これで、俺達がやることの準備は整った。後は、ノワール達がそれぞれで良いように動くだろう。

 この他、俺に出来る事は、海賊団の調査をこのまま進めて、危険海域に乗り込むか、今朝、チョウシに行ったように、この間にでも、少しでも戦力を上げておくくらいだ。

 海賊団の調査は良いとしても、今日はまだ、時間がある。ギルドの建物の横に併設されてある、普段は、ここで冒険者の登録などを行う闘技場にツバキを誘った。

 夕方まで、模擬戦でもやろうと言うと、ツバキは、すぐに頷いた。


「かしこまりました。しかし、いつもよりも、本気でお願いします。以前の、特別依頼のような遊びではなく、本気で死合うつもりでお願いします」

「ん? 何か、狙いでもあるのか?」


 ツバキがこういうことを言ってくるということは、何か、目的があるからだ。ふざけている時よりは真剣なまなざしに、どうしたのかと聞くと、ツバキが俺にして欲しいことは二つ。

 出来るだけ、全力で戦って欲しいということと、鬼神化を使って欲しいとのことだった。

 現在、俺達が想定している、海賊団の敵方には、それほど強大な力を持つ者も居て、俺はそいつと戦うことになっている。

 俺の力については、信用はしているが、不安な気持ちは残っていると言うツバキ。

 安心する為にも、俺の全力がどの程度のものなのか、エンヤと共に、自分の体で確かめたいとのことだ。


「私も本気でお相手します。ですので、ムソウ様も、本気でお願いします」

「無茶するなあ、相変わらず……特別依頼も、ほとんど本気だったんだがな……」

「ムソウ様が本当に本気でしたら、私達が勝てるはずございません。皆さんとの稽古や手合わせの時にされていたような手加減は、今回は無しです。今回は、ムソウ様の稽古ということです。自分でも、無茶を言っているのは分かっておりますが、よろしくお願いします」


 スッと頭を下げるツバキ。まあ確かに、いきなり本番で、鬼神化を使うのも、恐ろしい気がする。

 きちんと、自分の力と言うものを把握しておいた方が良いか。

 コクロギルド支部の闘技場は、屋外にある。海の上に、足場を作った、少し特殊な環境となっている。

 こうなると、海賊側にも、俺の強さと言うものが伝わる可能性もあるが、すでに、俺の情報は出回っているし、向こうへのけん制の意味も込めて、その辺りは特に気にすることはないと感じた。


 まあ、本気でとは言いつつ、ツバキにけがをさせたくないので、ほどほどにしようと思いながら、ツバキに頷いた。


「分かった。なら、お前も本気でやれよ。俺が、俺の力を確認できる程度にはな」

「かしこまりました。エンヤ様も、ご容赦なきよう、お願いします」


 この際、ツバキは、エンヤの本当の本気と言うのも測定したいようだ。ツバキの言葉に頷くように、一瞬だけ光る斬鬼。

 今日の晩飯はさぞ美味いんだろうなと思いながら、手合わせの準備を始めた。


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