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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
414/534

第413話―海賊団殲滅の会議を行う―

 アートルムに戻ったのは、すっかり日も暮れた後だった。今日は長くなったと背伸びをしていると、エリオットとモルガンも帰路についていった。

 新しい予定と計画が決まったことにより、明日から数日は休みになるかも知れないと言うと、会議で決まったように、「それまで」に準備を進めると笑っていた。

 心なしか、モルガンの顔が、会議中に比べて、だいぶ落ち着いている。これからジーンと行う話し合いの結果次第では、もう、無理をすることはないからな。

 度々、予定を変えてすまないと頭を下げたが、気にすんなと満面の笑みで、市場へと向かっていった。


 やれやれと思いながら、俺達も家に戻る。皆にも改めて、予定をころころと変えてすまないと頭を下げたが、ダイアン達が、


「俺達は頭領の決定に従うだけっす!」

「結果的に、海賊を潰せるなら、何でもいいわ~」

「今回は、私の方も、上手く作戦を立てられなかった責任もあるしね……」


 と言いながら許してくれた。リアには逆に謝られたので、気にしなくて良いと言っておいた。こいつの頭の良さは、たかだか、一つの失敗くらいで信用を失うようなものじゃないからな。

「その時」が来れば、存分に発揮してもらうというと、リアは息を取り戻したように、任せて、と頷いた。


 さて、俺が謝らなければいけないのは、エリオットやモルガン達、目の前にいるダイアン達だけではない。明日は休みもとったし、謝罪行脚に行かないとな……そう思っていると、リンネが俺の袖を引っ張る。


「おししょーさま、あしたはおやすみなの?」


 会議では、リンネに少し難しかったようで、ツバキの膝の上でうつらうつらとしていた。話の内容はあまり入っていなかったらしい。

 まあ、まだ確定ではないから、後でゆっくりと教えてやることにし、リンネの質問に頷いた。


「ああ。明日は一日休みだ。とは言うものの、俺は用事があるから、一日、ここで皆と遊んでいて良いぞ」


 ここに来てからは、リンネも俺達と共に働きっぱなしだったからな。この際に、遊んでいても良いし、せっかくだから、ファース島にて、サヤと遊んでもらっても良い。

 俺も用事が済んだら、リンネの所に行って、サヤ達と少しばかり息抜きしても良いだろう。

 そんなことを思っていたが、リンネの顔は少し戸惑っているようだった。


「どうした? 嬉しくないか?」


 そう尋ねると、リンネはおどおどした感じに口を開いた。


「うーんと……あしたやすみなら、あさってはやすみじゃないの? あさっては、キキおねえちゃんとリンおにいちゃんとレオおにいちゃんがくるって……」

「「「「「あ……」」」」」


 困っているリンネを前に、俺はそういえば、と思い出す。そばで話を聞いていたツバキ達も、すっかり忘れていたようで、明後日、クレナでの用事を済ませたレオパルドが、麒麟の二人を連れてくる。

 昨日、ジーンから聞いたばかりなのに、今日、色々とありすぎて、すっかり忘れていた。この後のジーンとの話し合いがどうなるにしろ、明日は休みだと決まっているが、明後日はどうなのかと、リンネは心配している。

 少し黙った俺達に、まさか、という顔をするリンネ。遊べないのかと思っているようだから、すぐに頭に手をポンと置いた。


「大丈夫だ。明後日も休みにするからな。じゃないと、キキとリンがうるさそうだ」


 はるばる来たというのに、俺達が仕事をしているとなると、キキとリンが面倒そうだし、レオに後で悪態つかれるだろうし、何より、リンネが可哀そうだ。

 まあ、もともと、リンネとツバキだけを残して調査に出れば良いのだが、それはそれで、リンネの機嫌は悪くなりそうだしな。

 更に、今日のエリオットが提示した作戦は、恐らく、一部レオパルド達も関わることになりそうだし、この際に説明しておくのも良いかと思った。

 ひとまず、明後日も休みだと言うとリンネはぱあっと笑顔になる。


「ほんと!? じゃあ、キキおねえちゃんとリンおにいちゃんといっぱいあそぶ~! あと、オリビアちゃんと~!」


 リンネは明後日の事が待ちきれないとばかりに、その場で小躍りしながら喜んだ。

 やはり、子供だな、良い意味で。リンネにはこういう時間の方が大切だろう。

 ついでに、俺はどうなるかわからないが、ダイアン達にもちょっとした暇を与えた。仕事ばかりではつまらないし、この際に、買い物とか、釣りとかを楽しんでおけと言うと、喜んで、と頷いた。


 その後、風呂に入り、晩飯を食い、明日は休みだからと、少しだらっとしていると、家の扉を叩く音が聞こえてくる。


「ムソウ殿、儂だ。ジーンだ」

「お、来たか……」


 扉を叩いたのは、ジーンだった。晩飯を終えて、話し合いの為に来たらしい。

 戸を開けて出迎えると、やはり、深刻そうな顔をしていた。


「無事だったようだな。ルイ殿から大体の話は聞いていたが――」

「悪ぃ。そういった話は「家の中」でだ」


 船で行った大体の話は、すでにルイから魔道具を通じて、ジーンに伝えてもらっている。

 コクロ全体が、海賊団に監視されているという可能性がある以上、聞かれたくない話は建物の中で行う。

 俺の意図を感じとったジーンは、口を閉じて、コクっと頷き、ササっと家の中に入った。


「ふむ……誰かに意識を向けられている気配……か。儂は何も感じないが……」

「今は何も感じないが、さっきもびんびんに感じていたぞ。今日あったことから、まず、監視は間違いないだろう」

「なるほど……では、ひとまず、何があって、ルイ殿の言ったような結果となったのか、詳しく聞かせてもらうぞ」


 おう、と頷き、ジーンを居間に招く。すでに卓を囲んで、ダイアン達は席に着き、ツバキとリンネで、皆にコーヒーと茶、酒、菓子を並べていた。

 気が利くなと、二人を褒めると、嬉しそうな顔をする。夕方、少しだけ眠っていたリンネは、まだ、眠気はそこまでではないようだ。

 改めて、リンネにも説明する意味も込めて、俺はジーンに、船での話し合いがどのように行われたか、その結果、何が決まったのか、危険海域の事についても触れながら、話していった。

 話し終えるまで、ジーンは黙って聞いていた。時折、やはり、どこか驚くような反応をしていたが、その度に、再度思っていたことを説明すると、戸惑いながらも、納得したように頷いた。

 そして、全ての話を終えると、ジーンは、大きく息を吐く。


「なんと……確かに、信じがたい話だが、これまでの事件などを考えると、その可能性も低くはない……か」

「ああ。俺達もそういう結論で、この作戦で進めようと思っている。ただ、この作戦では、アイツの力も必要になるだろう。そこで……」

「うむ。急ぎ、儂から連絡を入れておくとしよう。もっとも、今日は遅いから、明日の朝にはなるがの」


 考えを言わずとも、俺のやって欲しいことをやってくれるジーン。本当に頼もしい男だと感じた。


「頼んだ。それと……だが……」

「……ああ。そちらにも連絡を入れる。ただ、どういう状況になっても、儂に責任が取れるかどうか……」

「それでも良い。そちらも頼んだぞ」


 俺の頼みに、ジーンは静かにうなずく。少し、損な役回りを押し付けてしまったが、仕方ないと思っている。

 どうなるにせよ、これで、俺は奴と正面から向き合うことになるだろう。黙って進めるよりは、可能性という段階でも、事前に伝えておいた方が良い。

 まったく、面倒なことだと思いながらも、話し合いを進めた。


「さて……それで、仮に、こちらの思惑通りに事が運んだ場合、つまり、海賊団と雌雄を決することになる。そうなると、援軍も必要になってくるが、リエン殿にはいつ伝えようか?」

「ああ、そういえば……ちょっと待てよ……」


 さて、次に話し合うのは、海賊団と戦う時だ。海賊団の戦力が俺達の想定通りならば、援軍とかも呼ばない方が良いのかもしれないが、それは、戦場の最前線での話。

 このあたりの防衛に、援軍は必要となる。当初の予定では、拠点を暴いた後、俺達が出撃するのに合わせて、ジーンがリエンに事前に要請することになっているが、こうなってくると、こちらに合わせてもらう必要がある。

 どこで、援軍要請をすればいいかというジーンに、俺は本人に決めてもらおうと思い、リエンと連絡を取る用の「スマホ」を取り出した。

 流石に、夜も遅いし、明日にした方が良いかと思ったが、ジーンも居る、この際に決めてもらうとしよう。


 ルイに頼み、魔道具に魔力を込めてもらった。すると、しばらく時間が空いた後に、魔道具から声が聞こえてくる。


『……ムソウか?』

「ああ。リエンで合ってるよな?」

『お~う。コクロに入って海賊調査を始めたってのは聞いていたが、ようやく連絡してきたか。しかも、こんな夜に……』


 魔道具から聞こえてきたリエンの声は、少しばかり、不機嫌そうだった。


「悪いな。こちらに来てから、忙しくて……ひょっとして、寝ていたか?」

『いや、そうじゃねえよ。海賊団について、分かったことがあってな。それも、少々面倒なことになりそうだから、現在、絶賛、苦悩中ってところだ』

「分かったこと?」

『ああ。実はな……』


 俺が夜遅くに呼び出したことについて不機嫌だったのではないことに安どしたが、リエンが手に入れた、海賊団の事について気になった俺は、すぐに確認してみることにした。

 リエンによると、ここ最近進めていた、アマン、もしくはルーザーが使っていた海賊団への販路の調査をしているうちに、予想以上に多くの物資が、リエンが管理しない、謎の場所に運び込まれていることが明らかとなった。

 その物資の内容は、食料品から建材は勿論、魔道具の材料となる素材の他、試作機として大量に保管されていた、今現在、俺達も使っている「スマホ」、魔獣宴で開発された、魔物を操る効果を持つ「操獣石」、それを改良し、首輪の形にした、「魔獣封環」など、明らかにきな臭いものもあったという。

 更には、違法にとらえられていた合成魔獣なども居たらしく、海賊団と転界教とのつながりが確定するものとなったのは良いが、強力な魔道具や魔物が、海賊団の手に渡っていることを目の当たりにし、しかも、それほどの品が動いているにも関わらず、海賊団の拠点は今なお不明ということに頭を抱えているようだった。


『呪いを発生させるものについては明らかになっていないが、間違いなく、海賊団は転界教と繋がっている。うちの商品を使って、勢力拡大とはな……そっちの調査も、上手いこと進んでねえんだろ? すまねえな。うちの商品で、手を煩わせちまって……』

「いや……」


 何故か、リエンに謝られる。リエンは悪くない。悪いのは、ルーザーやアマンだ。

 それでも、上手く監督できてなかったことについて、再度謝ってくる。本当に、義理堅い男だなと感心しつつも、ひとまず、リエンに、俺達が掴んだ情報を共有することにした。


「まあ、その辺りは俺達も感づいたことだから、別に気にしていない。それよりも、聞いてくれ。少し、予定が変わりそうなんだ」

『ん? 予定が変わる……? どういうことだ?』


 困惑するリエンに、これまでの会議の事を話す。ジーンと同様、俺達の考えに驚いている様子だったが、きちんと、その考えに至った経緯を話すと、なるほど、と納得していった。


『ふむ……結構、大事になっているようだな。これは、セイン様やリー様の事は無視して、お前のやりたいようにやった方が良いんじゃねえか?』

「元よりそのつもりだ。だから、その辺りは、ジーンも協力してくれることが決まっている」

『そうか……ジーン様も、そこにいらっしゃるのか?』

「ん? ああ。変わろうか?」


 俺の問いに、頼むと返すリエン。何か用事があるらしい。魔道具をジーンの前に持っていくと、ジーンは口を開いた。


「儂だ。何か用か?」

『そちらの話は理解しました。しかし、こうなってくると、私共が用意する援軍も、戦力を上げる必要があります。そこでですが、ジーン様の旅行公司の人員も派遣してくださると助かります。もちろん、相応のお代は支払います』


 リエンが、ジーンに申し入れたのは、リエンが手配する予定の冒険者達のことだ。俺達の想定通りならば、冒険者の数も増やさなければならない。

 その為には、冒険者達の装備や人員を運ぶ、高性能な船を大量に用意する必要がある。

 その船をジーンが運営する旅行公司から手配したいとのことだ。ギルドや騎士団が用意するのが妥当だが、セインとリーにより、コクロ以外の領は、協力不可となっている為、それ以外の機関から用意するしかない。

 リエンの頼みに、ジーンはすぐにうなずいた。


「承知した。では、こちらの準備が整い次第、二十の船と物資をモンクに送る手はずを整える」

『充分だと思います。それで、海賊団との決戦は何時ごろになりそうですか? モンクからコクロまで普通の船なら一日、ジーン様の用意する船ならば、半日ほどだと思いますが……』

「明日、さっそく旅行公司本部に話を伝えるが、順調にいったとして、レインからモンクまで四日、そこからすぐに動くとなっても、今から一週間は掛かるな……良し。それだけの期間があれば、こちらも戦いの準備を終えることが出来る。もう、リエン殿の方も、動いてくれて構わない」

『分かりました。いつでも出られる準備を、五日後までには済ませておきます。そして、貴方からの要請があった瞬間に、そちらに援軍を送り込みますので、そのようにお願いします』


 二人により、あっという間に、援軍についての話し合いは終わった。正直、俺は置いてけぼりである。不測の事態となっても、素早く予定を変えることが出来るあたり、流石、世界一の商人と、十二星天だと感じた。

 俺も、何か言わねえとと思い、一応、援軍にはどんな人間が来るのか聞いたところ、バッカスとジーゴは勿論、スーラン村から、ムソウ一派も何人か参加することになっているらしい。

 また、スーラン村で一緒に仕事をした、ジェイドも名乗りを上げており、その他、何人か誘ってみると、返事を受けているそうだ。

 更に、ルーカスの言っていたように、シルバ支部支部長の、ジャンヌという女も手勢を率いて、あくまで「個人的に」参加するとしており、シルバからも、ゴルドの冒険者達と共に、コクロに集まることが決定しているという。

 構図的には、モンク、コクロ、シルバ、ゴルドの連合で、海賊団を討伐するということになっている。

 ここまで来ると、セインか、リーか、何かしら言ってくると思ったが、あくまで皆、コクロの海賊団を討伐するという個人的な思想に基づいて行動しており、その報酬を貰う先は、王都でもそれぞれの領でもなく、依頼主である、一商人のリエンなので、文句を言われる筋合いは無いとのこと。

 結構な戦力になりそうだなと思っていると、具体的な人数は、五千ほどとのこと。海賊団を倒し、そいつらが率いている魔物も倒し、そのうえで、コクロの領民達の安全を守るとなると、それでも果たして足りるかどうか、とジーンは考えている。

 それに加え、俺達の考え通りならば、こちらの被害も大きくなる。むしろ、もう少し増やした方が良いのではという意見もあったが、時間が足りないということと、その時は、前線で俺に頑張ってもらうということで話が付いた。


 次に行ったのは、海賊団の拠点についての話し合いだ。恐らく、危険海域にあることは分かっているが、具体的な位置は今なお不明だ。

 情報通のリエンでも、そこまでは特定できていないらしい。落胆する声が、魔道具から聞こえてくる。


『物資が流れたってところまでは掴めたんだが、どこに流れたかはさっきも言ったように、未だ不明だ。ちなみに言っとくが、転界教についても不明だ』

「まあ、そっちは拠点が無いかも知れないって聞いたからな。それは良いんだが……」


 転界教については、天井の儀にて、そういう結論に至ったと聞いている。特定の場所に、本拠地のようなものを創って、各領の構成員に、強力な魔道具や指示を送ったりしているのかと思われたが、どんなものでも収納することが出来る、異界の袋という魔道具がある以上、「拠点」というもの自体が無いのかも知れないと聞いた。

 ひょっとすれば、海賊団の拠点も無くて、船とかは異界の袋に……と言ってみたが、流石にそれは無いだろうと、ジーンに否定された。


「船はまだしも、海賊の船員は異界の袋で収めるわけにはいかないからな。それだけの人数を収納する、何らかの施設のようなものはあるだろう」

『ムソウ、俺も同じ意見だ。確実に拠点はある。それも、コクロ領、もしくは、シルバ領にな』

「まあ……そうだよな……しかし、お前でも分からないとなると、本当に分からないな。やはり、あの海域をきちんと調べるか、もしくは……」

「おびき出すか……」


 俺の言葉を、リアが引き継ぐ。最初は、海賊団が姿を見せない場合、俺達が普通に冒険者として依頼に取り組み、海賊団をおびき出す作戦も考えていた。

 しかし、現在、俺達が考えている通りに海賊団が動いているとなると、それも難しい。俺が出たら、確実に海賊団は姿を見せないからな。

 まあ、それでもやりようはある。夕方、エリオットが提示した作戦を話してみた。一応は、その方法を今後の動きの要として、これから動く予定だからな。

 それを話すと、リエンも、ふむ、と納得したように口を開いた。


『……まあ、さっきの件も考えると、それが、現状の最善策だな。では、ジーン様。作戦決行の前日には、こちらにご連絡をお願いします』

「うむ。まあ、少なくとも五日の猶予はある。念入りに、準備を整えておいてくれ」

『かしこまりました。ということで、ムソウ。「その時」が来れば、また、よろしくな』

「おう。他に、何か話しておきたいことはあるか?」

『まあ、今でなくても、何か分かったら……っと、あー、そうだ。一つ確認したいんだが、アンタ、最近、“死神”って――』

「無いようだな。じゃあな、リエン」

『ちょっ――』


 何か話したかったようだが、大したことではないと判断した俺は、魔道具の使用を終わらせた。


 リエンのおかげか、俺のおかげか、場の空気は少しだけ和んだようだ。クスクスと笑っていたり、笑いをこらえたりしている皆の前で、ため息をつきながら口を開く。


「……さて、取り合えず、今後の動きは決まったな。俺は明日、ノワール達に、この決定を伝えてくる。ツバキ、付き合ってくれるか?」

「はい。かしこまりました」


 ノワール達への報告は、大人数で行ってもあまり意味からな。ツバキさえ居れば良いだろう。ダイアン達は、ここで待機だ。各々、自由に過ごして貰って大丈夫だ。


「む? 儂は良いのか?」


 ジーンは、不思議そうな顔をしている。確かに、ノワール達への報告は、ジーンを通した方が良いのかも知れないが、コイツもコイツで色々と動くことになりそうだし、色々と、面倒なことを抱えさせることになるかも知れない。今ばかりはゆっくりして貰おうと思っている。

 というわけで、と思い、俺はリンネをジーンに指しながら笑ってやった。


「ああ。ジーンも、明日は自由に過ごして貰っていい。もちろん、オリビアと遊んでいて貰っていいが、その時は、リンネも誘ってやってくれ。ここに来てから、仕事ばかりだったからな。明後日には、レオが麒麟の二人を連れて来るし、頼めるか?」


 そう言うと、ジーンとリンネは目を見開き、みるみる嬉しそうな顔になっていく。二人同時に、同じ反応で面白い。


「おししょーさま、いいの!? リンネ、オリビアちゃんとあそんでていいの!?」

「ああ、構わない。存分に楽しんでいてくれ。とは言うものの、ジーンの了承が必要だが――」

「無論、構わない。リンネちゃん、明日からよろしくな」

「は~い!」


 俺の言葉を遮り、ジーンは、リンネを預かってくれることを了承してくれた。

 これで、俺とツバキが離れていようとも、ジーンが常にそばに居てくれるので、リンネの身は大丈夫だろう。

 一応、闘鬼神からも、誰かリンネ達について貰おうと思っていると、ルイが名乗りを上げる。これには、ツバキもすぐに安心した。ツバキがコクロ師団で仕事をしている時も、ルイはリンネの面倒を見てくれていたからな。

 それに、明後日来ることになっている麒麟の二人も、ルイに懐いているようだったし、何故か、きちんと言うことを聞いていたし、適任だと思った。

 とは言うものの、何もやることが見つからなければ、ルイの手伝いに、ダイアン達も行きたい、つまり、遊びたいとのことだったので、別に構わないと頷く。

 ……何となくだが、ギルドでも動くことになりそうだから、そちらに回される可能性がは高いがな。一応、伝えると、皆に、そうっすね、と苦笑いされた。


 ということで、明日からの動きは決まり、俺達は会議を終えた。


 リチャードの家に帰るジーンを見送った後、俺達もそれぞれの部屋へと戻る。


 明日からも、なんだかんだ大変っすね、と言うダイアンの言葉に、苦笑いしながら頷きつつ、俺達は眠りについた。

 何はともあれ、と言う感じだが、恐らく、これからが、今回の海賊団調査のヤマ場だ。

 改めて、気を引き締めていくとしよう……。


 ◇◇◇


 同時刻。ツバキとリンネの部屋。

 翌日から、オリビアと遊べることが出来るとはしゃぐリンネ。夕方に少し眠っていたこともあり、まだまだ、眠気は無さそうだ。

 やれやれと思いつつも、自分は早く寝たいので、ツバキはリンネを布団の上に寝かせようとする。


「早く寝ましょう。私も眠たいですし、夜更かしされますと、明日、寝坊して、オリビア様と遊ぶ時間も減りますよ?」

「あっ……それは……やだ……」


 ツバキの言葉で、リンネはスッと落ち着いた様子になる。単純だなと思ったツバキは、フッと笑みを浮かべながら、リンネを寝かせて、頭を撫でた。


「さあ、もうおやすみなさい。リンネちゃんが寝ましたら、灯りを消しますね」

「……うん」


 ツバキの優しい手で撫でられながら、リンネの目がトロンとなっていく。

 そのまま、眠りにつくと思われたが、リンネは、じっと天井を見つめながら、なかなか眠らない。

 どうしたのだろうかとツバキが首をかしげると、リンネはボソッと口を開く。


「ねえ……おねえちゃん……」

「どうされました?」

「おししょーさま……また、むりしようとしてる?」


 リンネの言葉に、ツバキは手を止め、目を見開く。

 ジーンとリエンも交えた先ほどの会議で決まった方針は、エリオットが提示した考えに基づくものだ。可能性は低いとはいえ、無いとも言えないし、今のところは、その可能性が高い。

 仮に、真実だとすれば、海賊との戦いにおいて、最前線で戦うことになっているムソウは、今回も大きな力を使う可能性が高い。

 ツバキもそれが不安だったが、リンネも同様に思っていたようだ。

 ムソウは強い。それは分かっている。生まれてから今まで、ムソウより強い生き物をリンネは見たことが無い。

 しかし、それと同時にリンネは、クレナの一件から、ムソウが力を使えばどうなるかということを知っている。

 魂が弱くなり、長い眠りについたムソウとツバキを、ずっとそばで見守っていた。

 リンネも、もう、あのような思いはしたくない。大切な存在が、戦いに出向いて、戻らないという経験は、もうしたくない。

 これからの戦いについて不安だったリンネは、ツバキをまっすぐと見つめた。


「リンネね、もうね、おししょーさまとツバキおねえちゃんが、うごかなくなるの、いやなの。

 でも、おししょーさま、リンネとおねえちゃんをまもろうとして、また、むりしようとしてるの、わかるの。また、うごかなくなっちゃう……そんな、きがするの……おねえちゃんは……どうおもう?」


 どうか、自分の考えが間違っていてくれと言う顔になるリンネ。リンネの中では、今回もムソウは無茶な力を使い、長い眠りにつくだろうと思っている。

 無論、あの頃よりは、力の使い方を理解している。そこまでの無茶をしなければ、眠りにつくことはない。

 だが、万が一の事もある。自分達の想定以上の敵が現れた際、自分やツバキが危険にさらされた場合、あるいは、ダイアンやリア達、ジーン達、コクロの人間が危険にさらされた際……様々な者達を護る為、ムソウは、また、自分の力を更に引き出すだろう。


 そうなった時……。


 リンネはそれが怖かった。しかし、ツバキも、リンネと同様の想いだった。


「私も……リンネちゃんと同じ思いです」

「……おねえちゃん……リンネ、どうすればいいの? どうすれば、おししょーさまをまもれるの?」


 リンネがムソウと出会ったのは、デーモンに故郷を蹂躙され、ひどく弱った時だった。

 オウガ達にムソウにより渡され、傷を癒してもらい、食べ物を与えられ、命を救われた。

 そして、強くしてくれた。強く、生きていけるようにしてくれた。

 その為の、充分な力を手に入れることが出来たと思った。


 しかし、クレナではケリスに力を封じられ、モンクでは捕らえられ、ムソウやツバキに、大きな迷惑をかけてしまう結果となった。

 どうすれば良かったのか、ムソウとツバキに与えられた力を、どのように使えば良かったのか、リンネは今でも考え続けている。


 ツバキやムソウからすれば、リンネは知らず知らずのうちに成長している。こちらが何も教えなくとも、様々なことを、自らの力で得ている。

 無論、年相応なところもあるが、それでも、大抵のことはこなせる、強い“子”だと思っていた。

 しかし、ここに来て、今までため込んでいた、リンネの本音を聞いたツバキ。

 じっと、自分の目をまっすぐと見てくるリンネに、ツバキはしばらく、黙ったままだった。


 だが、何かに思い当たったように、フッと笑みを浮かべて、リンネの頬に、優しく手を当てた。


「リンネちゃんは……そのままでよろしいです」

「……そのまま?」

「ええ、そのままです。そのまま、ムソウ様を好きと思い続けてください」


 ツバキの言葉に、キョトンとするリンネ。


「それだけ……?」

「それだけ、です……ですが、これがなかなか難しいものなのです」

「んー?」


 更に混乱するリンネ。そのままでいることの何が難しいのか。一体どういうことかと目を白黒させる。

 そんなリンネを落ち着かせるように、頭を撫でながら、ツバキはゆっくりと口を開いた。


「ムソウ様をお守りする為に、私やリンネちゃんが出来る、一番大切なことは、どんな時でも、どんなことがあっても、ムソウ様を愛し、お慕いする気持ちを持つことです」

「それって……むずかしいことなの?」

「はい。人という生き物は、どれだけ長く好きで居ても、何かのきっかけで、簡単にその人を嫌うものなのです。

 それは、本当に簡単なきっかけ。例えば、今まで見なかった一面を見たり、どこかで、考え方が違うと気づいたときだったり……」


 ツバキはあくまで、「人として」の弱さを提示し、リンネに何が大切かを説いていく。

 人は、どれだけ付き合いが長くとも、些細なことで、すれ違い、心が離れていくものだ。

 現在の十二星天も同じような状況である。最初は、些細なすれ違いだったのだが、今となっては、完全に分裂し、大きな溝までできている状態。それはとても深く、すでに簡単には埋めることが出来ない。

 そうなった時の人間は弱い。今まで築き上げてきたものが崩れた後は、どんな存在よりも、脆く、弱いものだ。

 人間の弱さとは、そう言うもの。そして、それはムソウも抱いているとツバキはリンネに語った。


「仮に、ですが、ムソウ様が、“死神”として、刀を振っていた時、タカナリ様や、ハルマサ様、ツバキ様がそばにいらっしゃらなかったとしたら、今のムソウ様は、存在しません。ムソウ様ご本人が仰っていたように、どこかで倒れていたと思います。

 しかし、ムソウ様は、皆様が側に居てくれたからこそ、今なお、誰よりも強い存在になったと思います」


 かつて、サヤを喪い、カンナを喪い、仲間を喪い、国を喪ったムソウ。

その後は、死に場所を求めるように、大陸を彷徨い、まさしく“死神”となって、敵を蹂躙し尽くした。

 並みいる敵を斬り続け、誰からも恐れられるようになったが、ムソウ本人は、どれだけ敵を斬っても満たされず、どれだけ仇を討っても、その心には何も残らなかった。


 そんなムソウを救ったのは、当時、“死神斬鬼”としてのムソウを常に慕っていたタカナリやハルマサ達だった。自分達にとって、ザンキと言う存在がどのような人間なのか、ザンキにとって、自分たちがどのような存在なのかを、命がけで教えた。

 その甲斐あって、ムソウは、自分の中の空虚だった心を埋め、前を向いて進むようになった。

 世界を跨いでも、ムソウの心には、深い傷は残っている。しかし、それを埋めるほどの繋がりをすでに手にしている。

 闘鬼神という名の、クレナの“家族”や、冒険者仲間達、これまで世話になってきた、領主、ギルド支部長、騎士団師団長、あるいは、商人、普通の民など、様々な繋がりを手にしていた。

 その中には、無論、リンネとツバキも入っている。自分達も、ムソウの大きな力の一因だと、ツバキはリンネに説いた。


「ですから、リンネちゃんに出来ることは……これからも、誰よりも強くて、気高いムソウ様のままでいらっしゃるように、リンネちゃんがすることは、私と同じく、何があっても、どんな時でも、ムソウ様がどうなろうとも、例え、この世界中が、ムソウ様の敵になっても、リンネちゃんは、ムソウ様を信じ、愛し続けることです。もちろん、私も……」

「おししょーさまを……すきでいる……?」

「居続けること、です。前に、リンネちゃんは私に言ってくださいました。私の事を、ずっと好きだと。それと同じです。

 それだけで私は、強いままで居ることが出来るのです。リンネちゃんが、私の事を守ってくださるから、私は、私のまま、強く生きていられるのです」


 そう言って、フッと笑みを浮かべるツバキの顔を、リンネは目を見開いて、見つめた。

 たったそれだけで、自分がツバキを護っているということが信じられなかった。

 それだけで……と、何度も頭の中で反芻する。


 ……しかし、リンネ自身、ツバキやムソウ、ジゲン、たま、闘鬼神の面々に加え、ミサキ等、マシロで出会った人々、アヤメ等、クレナで出会った人々、更に、ここ、コクロで出会った人々に、色んな優しい言葉をかけられて成長してきた。

 多くの嬉しい思いをしてきた。その思いは、どれもきちんと、心の中に大切に残っている。


 そして、故郷で一緒に過ごし、最期まで自分を守ってくれた母親。生まれた当初の記憶はほとんど残っていないが、朧げに焼き付いているのは、母親からの絶大なる愛。

 母親の事を思い出すのは辛い。しかし、それ以上に、あたたかな、優しい気持ちに包まれていく感覚はする。その気持ちは、いつしか、リンネが強く生きていく為の、力の源となっていった。

 そう思い、リンネはハッとした。そうか、これが、と思ったところで、ツバキは再び、フッと笑みを浮かべて、リンネの頬に手を当てる。


「分かりましたか?」

「……うん」


 この時、リンネは、今まで皆から貰っていた「あたたかい気持ち」が、自分が強く生きる力になっていることに気が付く。

 そして、同じものを自分からも他者に与え、ムソウとツバキは、それを受け取り、リンネと同じ思いになっていることを知る。

 誰もが恐れるムソウの力に、すでに自分という存在も入っているということに気付いたリンネは、更に誇らしい気持ちとなっていった。

 だから、これからも自分に出来ることは、ムソウに精いっぱいの、「好き」という気持ちを渡していく。自分が強く生きていけば、ムソウも強くいられる。

 ずっと、信じていれば、“おししょーさま”をずっと、護っていられる。


 そのことを理解したリンネは、ニコッと笑みを浮かべながら、自身の頬に当てられた、ツバキの手に自分の手を重ねた。


「……おねえちゃん」

「はい。何でしょう?」

「だいすき……おししょーさまも……おねえちゃんも……ずっとだいすき」


 リンネの言葉に、ツバキはくすっと微笑み、自分の額をリンネの額に重ねた。


「私もです」


 リンネもツバキも、ムソウが作ってくれたこの繋がりを、いつまでも、ずっと、大切にしていこうと、改めて誓った。自分達がムソウを想い続ける限り、ムソウは強く居続けることが出来る。

 だったら、これからも強く生き続けよう。ツバキと共に。不安だったリンネの心は、ゆっくりと落ち着いていった。


 やがて、リンネはそのまま眠り落ち、意識が無くなったところで変化が解けて、小さな獣の姿となる。

 それを確認したツバキは、灯りを消して、自らも布団を被った。

 いざ、寝ようかと思ったが、ふと見ると、そばに置いてあるコウカの人形、ムソウから貰った簪、神刀「斬鬼」が、ぼおっと輝いていることに気付いた。

 全部見ていたなと、フッと笑みを浮かべ、やれやれ、と思いながら、ツバキも眠りについていった。


寝る前に厠に行こうとしていたルイ(聴覚スキル使用中)『ちょっと、押さないで、リアッ!(小声)』


同じく厠に行こうとしていたリア(聴覚スキル使用中)『押してないわよ! と言うか、大きな声出さないで!(小声)』


二階が騒がしかったので一階から華々しい女子トークを期待しているハルキ「おい、チャン。どうだ? 聞こえるか?」


部屋の中で唯一の聴覚スキルの持ち主チャン(聴覚スキル使用中+会話の内容をメモ)「部屋の前にリアとルイも居るなあ……って、ハルキ。お前が想像しているものよりも……良い話だ……」


二階の音がうるさくて何が起こったのかと気にしたダイアン(聴覚スキル使用中)『(おぉ……頭領に聞かせてえ……でも、起こしたら、怒られそうだしな……)』


同じく二階の音がうるさくてすぐに目が覚めたムソウ(気配探知中)「(リンネとツバキ……だけじゃねえな……休日前だからって夜更かしすんなよ……ったく)」


チョウシは爆睡


一部始終を見ていたコウカ「本当……二人とも、良い子だなあ~……ザンキには、もったいない……って言ったら、サヤとシンラに悪い、かな……」


一部始終を見ていたハルマサ「……毎回、こういうの見る度思うんだが……俺は目を瞑っていた方が良かったのか? 俺、男だし……」


ハルマサと一緒に一部始終を見ていたちっこいツバキ「良いものは……見た方が良い……」


一部始終を見ていたエンヤ「…………………´; A ;`」


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