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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
413/534

第412話―危険海域に入る―

 さて、海賊船の残骸を片付けて、ひょっとしたら、船を設置した際に、何か残されてないかと思い、周辺を改めてみたが、特に何も無かった。

 まあ、海から運んで、海に消えたなら、島に何か残るわけもないかと皆と話し、俺達も島を後にすることにした。

 船に戻ると、休憩していたモルガン達に、島であった事を話し、改めて船と船員を調べる旨を話した。

 少し動揺していたようだが、リアの、


「やましいことが無いなら、協力してくれるよね?」


 という言葉により、全員、いそいそと自分の全ての持ち物を俺達に見せてきたり、冒険者達は、自分の腕輪の情報を提示した。

 早速か、と思ったが、リアの行動力に、頼もしいものだと思いながら、俺はルイと共に船内を調べる。

 船室、動力室、操舵室、見張りの部屋などなど、全ての部屋を隅から隅まで探したが、特に何も見つからなかった。


「この魔道具は無いようね。というか、これって、十二星天様達以外に、持ってる人っているの?」


 ルイがスマホを見せながら聞いてきたので頷いた。


「リエン商会が試作品として作っていると言っただろ? そこから海賊団が奪ったとしたら?」

「あ、なるほど~……あら? でも、そういう事なら、隠密の可能性って、モルガンさん達だけにあるわけじゃないって話にもなるわよね?」

「どういうことだ?」


 何かに思い当たったように、ルイは深刻そうな顔をする。

 詳しく聞くと、海賊団がリエン商会からスマホを奪ったとして、それを持たせた大量の隠密をアートルムや、他の島々にばら撒いている場合、それらを手にした者達が、隠蔽スキルや擬態スキルを使って、俺達に近づき、コソッと話を聞いたうえで、情報を手に入れ、海賊団本部に伝える事が可能ではないかということだ。

 それなら、わざわざ、モルガン達の中に紛れ込み、俺達の近くに行くという危険を冒さずに済むし、調査の予定についても、何気ない会話の中でサラッとやることも多いので、簡単に聞き出すことが出来る。

 俺は勿論、リアやツバキも、常に気配を探っているわけではない。それに加え、スキルを使って、姿や気配を隠されては、近づいて来ても、気付くことは無い。バッカスが良い例だな。

 そうやって、例えば、朝にモルガン達と調査の打ち合わせを行っている間に、近くに来てから、話を聞き出して、今日のような小細工を行ったのではないかというのが、ルイの考えだった。


「ふむ……確かに、それは言えるな」

「まあ、あくまで可能性の段階だけど、そういうのも不可能じゃないってことね。それに、頭領やリアが、ここに来た時から感じてる違和感ってのも、もしかしたら、そういう人達によるものじゃ……?」


 なるほど。気づかれることなく近づいて、話を聞いているだけでは、俺達も特に何も感じない。

 しかし、意識はこちらに向いているから、それに対して、違和感を抱いていたというわけか。


 ルイの話は、面白いものだったが、一つだけ、疑問に思う点もあった。


「確かに、その可能性も考えねえとな。だが、俺はダイアンと空を飛んでいる時も、変な違和感に襲われていた。流石に、空までは追ってこないと思うぞ」


 一般の領民に擬態、あるいは、姿を消していたとしても、流石に空までは追ってこないだろう。

 浮遊スキルや魔法で飛ぶことが可能と言えば、可能だが、魔法で空を飛ぶ場合、魔力を使ったという気配は感じられるからな。

 それに、俺とダイアンは空を飛ぶことに関しては、天鷹トウウに教わっている。自慢ではないが、スキルや魔法の飛翔術には絶対負けない自信がある。

 普通に街に居る時ならまだしも、あの時に関しては例外だろう。


 そう言うと、ルイはそれもそうかという顔で頷いた。


「確かに……結構、良い線いってたと思ったんだけどね~」

「いや、隠密をばら撒いてってのは、参考になった。リエンも似たような事をしているからな。今後は、そういう会話をする時は、少し気を付けることにしよう」

「そうね。ところでさ、情報戦に関しては、リエンって人の事、頭領も一目置いてるのよね? 連絡取れるなら、取ってみたりしないの? 何か、聞けるかもよ?」

「ああ。それは、今晩にでもやってみるつもりだ。向こうでも、裏の販路から海賊団の痕跡を追っているからな」


 現在リエンは、アマンが使っていたとされる、転界教や海賊団とやり取りしていた販路を辿り、海賊団の拠点や、情報を集めている。

 何か分かったら、連絡してくれることになっているが、連絡がこない所を見ると、何も分かっていないのだろう。

 だが、情報戦において、リエンの右に出る者はそう居ない。島に居た時も、援軍についての打ち合わせなどで、一報を入れたいと思っていたし、今晩、家に帰ってから、アイツと少し話してみよう。


 その時は、またスマホの操作を頼むと頭を下げると、ルイは任せてと頷く。

 そして、あらかた船内を調べて、何も見つからないことを確認し、リア達の所に戻った。


 確認してみたが、もちろん、モルガン達は潔白だった。調査の為とはいえ、少し強引すぎたと頭を下げるリアに、モルガン達漁師も、エリオット達冒険者も、気にしないでくれと、リアを許していた。


「まあ、これまでの事と、俺達からの期待で、少々焦らせていたのは事実だからな。ムソウさんや、アンタ達にも迷惑をかけた」

「しかし、海賊共も、小賢しい真似をするなあ。だが、アンタ達の言うように、あの海域に居るのは確実、か」

「まだ、確定ではないが……っと、そうだ……」


 モルガン達が、海賊団について話しているのが聞こえてきて、俺は、ふと思いついたことが出来た。

 先ほどのリアではないが、俺も少々強引になるとしよう。


 そう思って、皆に指示を出した。


「リア、ルイ、ハルキ、チョウシ。俺はこれから、一人であの海域に入る。お前らは先に、ツバキ達とアートルムに戻っていてくれ。その際、ジーンに、船の残骸を渡し、アイツには一足先に戻ってもらって、残骸を騎士団かギルドに届けるようにしろ」


 その指示に一瞬、ぽかんとした皆だったが、すぐに慌てたように口を開いた。


「え……これから? 何しに行くつもりなの?」

「別に、何かする気じゃねえ。ただ、入るだけだ。それで、奴らの反応を伺ってみる」

「それにしたって、一人でって……ま、まあ、それは頭領だから大丈夫だと思ってるけど、ここから見える限り、ちょっと荒れているみたいよ? その辺は大丈夫なの?」

「コモンの装備を信じる。まあ、さっきも言ったが、少し入ってみるだけだ。明日、ダイアンが駄目そうなら、今晩、その事を伝えられるしな」

「仮に海賊団を見つけたらどうする気っすか?」

「当初の予定通り、拠点を暴く。無理でも、あの海域に海賊が居るってことが仮定では無く、確定となるなら儲けものだ」

「え~っと……あ、もう、特に言うことが無い」

「良し……では、行ってくる。この後、ルイ、ジーンに連絡とって、海上にて合流しろ。万一の事を考えて、安全な海域に行くまでは、ジーンと一緒に居ても良い。全員、分かったな?」


 皆の質問に、全て返しながら、俺は神人化を完了する。例え、誰に何を言われても、今日のうちに、あの海域の様子を、少しでも見ておきたい。

 目的は二つ。一つは、先ほども言ったように、俺があそこに行く事で、海賊団を無理やり動かすことが出来れば儲けものだ。

 下手な小細工をせずに、単身突っ込んだ俺に向かってくるならそれもまた良し。ある程度傷めつけて、後で本拠点を洗い出すつもりだ。

 もう一つの目的は、危険だ、危険だと言われているが、どれほど危険なのかを身を以って感じておきたい。明日から始まるのだからな。

 皆にも言ったが、あの中ではダイアンも、飛ぶのは難しいかも知れないと言っていたし、リンネだって無理だろう。となれば、今までのやり方が通用しない可能性がある。

 二つの部隊に分けるのではなく、一つの部隊で動くことにもなりそうだ。その判断材料を得るために、これから、あの海域に向かう。


 神人化の状態で、空へと飛び立つ俺。一応と思い、光葬針を武者の形にして、二十体ほど生み出した。

 これなら安心だろうと、皆に笑うと、やはりというか、皆も、フッと笑みを浮かべて頷いた。


「まったく……頭領らしいと言えばそうだけど、いつもいつも、行動が突然なんだから」

「頭領。このまま海賊団殲滅しちゃっても良いんすよ? 俺達は全力で逃げるんで」

「ただ、余計なお世話かも知んないっすけど、無茶は駄目っすよ。あと、深入りも。もしもの為に、頭領の「あの力」を使った方が良いかも知れないっす」


 ハルキの言う「あの力」とは、鬼神化の事である。天候によっては、確かにそれもやむなしだ。

 まあ、使った後の疲労が半端ないから、あまりやりたくはないがな。ただ、珍しく、皆が俺を心配してくれているので、おう、と頷いた。


「頭領。ついでに、この違和感の事も調べてくれるとありがたいんだけど……」


 リアも、この際に、と言わんばかりに、俺も今なお感じている、コクロを取り巻く違和感について頼んできた。


「分かってる。いい加減、俺も、これには苛ついていたからな。期待しないで朗報を待ってろ」

「フフッ、期待してる」


 ……そんなに、ニッコリと笑顔を見せて来られると、頷くことしか出来ない。努力はしよう。

 その後、モルガン達に、必ず追いつくから、出来るだけ速度を上げて帰ってくれと頼み、俺はその場を後にした。一応、魔物の気配は無いが、念の為だ。

 そして、ディズヌフ島の上空にて、ツバキ達の船がこちらに向かって来ていることを確認した俺は、そのまま、未だ分厚い雲がそびえている、その下の明らかに大雨が降っている海域へと突っ込んでいった。


「おおぅ……結構辛いな……」


 丁度、ヴァン島近くに入った辺りだろうか。ポツポツと雨が降り始め、ヴァン島の上空に着いた頃には、体に当る雨粒が面倒だと感じるくらいには強く降り始め、風も強く出てきた。

 装備の効果もあってこれか。ダイアンやリンネは難しいだろう。俺の方は、風を掴んで空を飛んでいるわけではないので、そこまで辛くないが、気を抜くと、その場にとどまることは出来ない。

 視界は悪いが、ディズヌフ島の方向、つまり、俺が来た方向、晴れている所は見える。

 しかし、ヴァン島以降の島は、三つほど先しか見えず、その先は曇っていてよく分からない。

 一応、シルバ領までの間に、28の島があるが、この変な天候はどの範囲で発生しているのだろうか。少し面倒だが、他の所から調査をした方が良いのかも知れない。

 まあ、調査の予定については、帰ってから決めるとして、今は確認したいことを確認しておこう。


 まず、天候については、先ほども思ったように、俺は何とかなりそうだが、風の影響を直接受けるリンネには、空からの探索は難しいかも知れない。ダイアンの方は、装備の性能によるだろうが、この視界の悪さでは、探索もままならないだろう。

 島に下りてみたが、地上は幾分か、嵐の影響は少ないが、こういう天候になりやすいのであれば、最初から、俺達も固まって行動した方が良い。

気配を探ることも、普段よりは数倍、集中しないといけないし、リアやツバキの事も考えて、ヴァン島からは、部隊を二つに分けることは辞めにしておこう。

 一つの島を皆で調べた後、ジーンの転送魔法で次の島に移動して、を繰り返すことになりそうだ。

 次に、魔物や海賊らしき気配があるのかどうかだが、海賊、つまり人間の気配は、今の所無いが、魔物の気配は感じる。天候の所為か、ジッとしているようだ。

 海の方はと言うと、正直、雨や風の所為でそれどころでは無かった。何も無い時と違う状況になると、俺でも厳しいんだな、という事が分かった。

 つまり、島には魔物が居る、海の方は居るかどうか分からない、という事になるので、いよいよ、モルガン達は、ディズヌフ島辺りに居てもらった方が良いのかも知れない。


 そして、この天候がどういうものなのかについてだが、ここでも、自然に発生している割には、何か違和感を覚える。

 俺がこの島に入ってから、幾分か、風も雨も強くなっている気がする……というか、強くなってるな。雷も出てきて、そこらで竜巻のようなものも起き始めている。上空から海を見ると、高く強い波同士でぶつかり合い、そこかしこに渦を作っていて、ますます魔物の気配を感じさせる状況では無かった。

 こうなってくると、若干、俺でも空に居ることが辛いくらいだし、光葬針に至っては、吹き飛ばされそうになっているくらいだ。

 戦闘になることは無さそうなので力を解いたが、俺は、とうとう自然にまで嫌われたかと、少しだけ苦笑いをする。


「……なわけ無えか。となれば、これは人為的に……」


 仮に、この島付近に海賊が居るとして、俺の事をどこかからか見て、俺をこのまま、この海域に捕らえるか、長居させないように、魔法で天候を操っているのだとすれば、まだ納得できるが、ここまで大規模な魔法、どれだけの数の魔法使いによる集団術式なのだろうか。

 しかも、俺に気付かれずやるというのがそもそも難しいはずなのにな。流石にあり得ないか。


 そして、リアに頼まれた違和感の件だが、この、怪しい海域に入ったくらいでわかるわけないと思っていたのだが、これについては想定外のことが起こった。

 コクロで感じていた違和感のようなもの、他人の意識が広がっている感覚が、ここにきて強くなった。

今では、はっきりと、何者かの意識のようなものを感じる。殺気ほど強くはないが、明らかに「向こう」がこちらの存在に、「目を向けている」状況である。

それと同時に、天候も荒くなっているところから、この違和感の正体と、荒れた天候に関連性があることが示唆される。

 俺、というか、人を近づけさせまいと嵐を起こしているという可能性がさらに大きくなった。

 一応、海賊団が確認される以前から、この海域は危険地帯ということだったが、今のこれは、別問題だろう。確実に、俺を狙ってきている。あらゆる方向から突風が襲い、雨はさらに激しさを増し、時折、竜巻のようなものが海上で発生し、俺に向かってきたりもしていた。

 慌てず、竜巻の切れ目を斬り、試しに海や空に斬波を放った。

 だが、空へ向けた斬波は、雲の一部を斬っただけで、またすぐに黒い雲が広がり、さらに強い風を起こし、海へと放った斬波は、大きなしぶきを上げただけで、流石に斬ることは出来ず、荒れ狂う波にもまれていく。

 もう少し本気を出して、空間も斬る勢いでやろうと思ったがやめた。さらに天候が悪くなり、雷まで鳴り始め、島の木々と共に、俺に向かって落ちてくるものもあった。

 ハルキと共に、カドルと練習していてよかった。以前に比べると、落ちてくる瞬間が分かる。

 無間を振り回し、雷を弾きながら、とりあえずこの海域を抜けることにした。


 黒い雲の下を出るころには、雨が降っている区域と、晴れている区域がはっきりとわかるくらいに、天気が違う。海の様子も落ち着いていたが、ふと、後ろを振り返ると、別世界かというくらいに、天候も何もかもが違う。


「なるほど……あれじゃあ、誰も近づこうとしないわけだな。だが、逆を言えば……」


 確かに、荒れ狂った天候の時の海は、まさしく、何人も近づけさせないような感じだったが、それだけ、身を隠すには絶好の場所とも思った。

 落ち着いた天候になる時もあるので、この海域に、海賊が居るということはほとんど黒だ。まあ、これまでの調査で言われてきた、こんなところに拠点を作る、作られるわけがないというのは、何となく理解できるが、ここまで海賊を追ってきて、どこにもいなかったということは、逆を言えば、向こうも姿を隠すのが上手いということになる。

 改めて、ここからはジーンの力にも頼り切って、徹底的に調べ上げるとしよう。

 

 そして、俺や、ツバキ、リアがコクロに来た時から感じている違和感の正体も、海賊関連と見て間違いないだろう。

 どういう手段で、どういうものなのかはわからないが、奴らは俺達をここから、監視している。

 監視したい相手を遠隔視する魔道具は、ケリスとの一件で、奴が持っていたことは確認しているからな。

 もっとも、ケリスの場合は、呪った相手を介してだったが……海賊団と転界教がつながっているという疑いも、さらに濃厚なものになってきたな。


 今回、俺が確かめたかったのは、この海域に足を踏み入れたら、どういう反応になるかだったが、直接姿を現さなかったにしろ、それは何となく証明出来たということにし、その場を後にする。

 モルガン達の船は、すでに視界には見えない。少し急ぐとしよう。

 難破船の発見からここまで、今日の成果は割と大きなものだったことを実感しつつも、色々と面倒なことになるかもな、と思いながら、船を追った。


 ◇◇◇


 船に追いついたのはトレイズ島の辺りだった。船は、二隻を連結させて、二つの動力で進んでいる為か、少し速い。

 近づいていくと、見張りの男が俺に気付いたようで、徐々に速度を落としてくれる。

 甲板へ降りると、リア達と、すでに合流していたツバキ達は安どの顔を浮かべる。


「おししょーさま、おかえり~!」

「ムソウ様がヴァン島に向かわれるのが見えて、何事かと思いました。ご無事で何よりです」

「ああ、心配かけてすまなかったな」


 まったくです、と頬を膨らませるツバキをなだめながら、リンネの頭を撫でる。

 あれから、ジーンにも伝言を守ってくれたようで、ここには居ない。すでにアートルムの方に戻っているようだ。

 この後、俺達が船でアートルムに戻った後、俺達の家に来て、ヴァン島の様子を聞きたいとのことで、俺が船に戻ってから、船の速度も若干上がっている。


「分かった。じゃあ、お前らには先に、あの海域で思ったことを共有しておこう」


 そして、俺達は船の一室を借りて、今日の調査の結果と、先ほど、俺が確認した、コクロの危険海域についての打ち合わせを始めた。

 なお、今後の調査で、船を島に近づけるか否かについても決めるので、モルガンとエリオットにも参加してもらっている。

 地図を開きながら、ひとまず、あの海域で分かったことを説明した。俺が、足を踏み入れた時から、違和感と共に、天気が荒れ始めたことを話すと、全員の顔色は一様に悪くなる。


「本当に、監視されてたのね、私達……」

「俺達だけじゃないかもしれない。ひょっとすれば……」

「コクロ全体か……?」


 俺の言葉を、エリオットが紡ぎ、それに頷く。モルガンなどは、そんな馬鹿なという顔をしているが、実際に、クレナで遠隔視することが特定の魔道具で可能であるということを知っているツバキ達と、冒険者であるエリオットは、すぐに受け入れたようだった。


「クレナでの一件で、そういう魔道具もあるとは聞いていたが……まあ、規模は分からないが、海賊団の魔法使い達でそういうことは出来るだろうな。

 ちなみに、俺達は全く気付かないんだが、その「変な感じ」ってのは、いつから誰が感じているんだ?」

「俺と、ツバキ、リンネ、リア、それから、獣化したダイアンが、コクロに来た瞬間から感じている」

「ほう。人は見かけによらないようだ。リンネは凄いな」


 そう言いながら、リンネの頭を撫でるエリオット。嬉しそうな顔をするリンネを見ながら、若干、場の空気が軽くなった。


「エリオット……こんな事実知って、よくもまあ、楽観的でいられるな。コクロ全体が監視されているんだぞ?」


 そんなエリオットに、モルガンは苦言を呈するが、エリオットはフッと笑みを浮かべる。


「まあそうだが、俺達もおかしいとは思っていただろ? 海賊団が襲うのは、決まって冒険者か騎士団の船だ。漁師達は襲われない。盗るものがないからな。

 それにしたって、この広い海で、それだけ狙う、しかも、明らかに向こうはこちらの動きを読んでいるかのように、陸から離れた場所で、正確に位置を割り出し、徹底的につぶしている。こちらの情報が洩れていることは明らかだった。

 無論、内通者の線も疑ってきたが、確たる証拠や証人も見つからず、約二十年。俺達もアンタらも仲間内で疑心暗鬼になっていたが、今回のこれで、そこだけははっきりして良かったと思っている」


 コクロで冒険者稼業をやっているエリオットは、長年、海賊団の横行が減るどころか、何も変わらないことに違和感を抱いていたようだ。

 ギルドや騎士団の対応を、まるであざ笑うかのように、海賊団の被害は続いている。何かしらの原因があると思っていたが、その正体が、コクロ全土を監視しているという事実だったことに、戸惑いよりも嬉しさを感じているようである。

 ただ、モルガンは未だに、苦い顔をしていた。


「う~む……にしたって、気持ち悪いな。一日中昼夜問わず監視されているとは……」

「一応、建物内では、その気配もない」

「あ……だから、この部屋で話し合いになったのか……」

「今のところ、日常での生活には何の問題もないようだ。とは言うものの、俺達やモルガンさんは、ムソウさんの手伝いしているからヤバいかもな」


 へらへら笑うエリオットに、モルガンは少し怒ったような顔になる。


「恐ろしいことを言うな! ……だが……そう言われたら不安になるな……ムソウさん、どうしようか……?」


 本気で困った顔をしている。確かに、エリオットの言うように、海賊団にとって邪魔な存在である俺の手伝いをしている時点で、モルガンもエリオットも、その他、この船に乗っている冒険者や漁師達は少々危ないかもしれない。

 このまま、俺達の協力をするかどうか悩んでいるようだ。

 しばらく考え込んだが、多分だが、という前置きの元、モルガンに口を開いた。


「お前らは大丈夫だろう。現にここまでの調査で、お前らに被害は無かったからな。俺が近くにいたから、向こうも手を出さなかったんだろうよ」


 恐らくはそういうことだと思っている。向こうが俺の動きを監視しているのならば、俺が、常にモルガン達の船が近くにある所に居るから、何か起こそうと思っても、何もできなかったんだと思う。

 今日に関しても、俺達の動きを止めるために、難破船を思わせる船を設置したまではよかったが、近くに、俺が居たから手を出さなかった。

 まして、今日からはジーンが居るから、余計に手出しできなかったんだろう。俺か、十二星天のジーン、もしくは、闘鬼神の誰かがこの船に居るだけで、モルガン達に海賊団の手が及ぶことはない、仮に及ぶとしたら、俺達が海賊団の痕跡を見つけた時に、強硬手段に出る時くらいだと思っている。

 そう言うと、モルガンの顔は少しばかり明るくなった。


「じゃあ、これからの調査は、ムソウさんが俺達の船に残るってことか?」

「あー……それはだな……」


 モルガンが安全に船を動かすには、恐らくそれしか方法はない。

 俺が船に残り、ツバキ達がジーンの指揮の下、調査を行えば大丈夫だが、一つだけ、気がかりなことがある。

 少し悩んでいると、リアが話に入ってくる。


「危険海域では頭領の力が不可欠よ。そんな状況なら、なおのことね。頭領が船に残って、モルガンさん達の護衛に加わるくらいなら、私達の誰かが残った方が良いわ」


 危険海域の環境は、先ほど感じたように、結構厳しいものとなっている。空からの探索は、ダイアンやリンネでは恐らく無理だろう。無理ではないにしろ、監視されている中、危険な状況にそれぞれを一人にするわけにはいかない。

 地上からはジーン達、空からは俺が調査することにしようと思ったが、モルガン達の護衛に加わるなら、少々調査に遅れが出ることになる。

 なので、リアは、俺が船に残るくらいなら、ツバキとリンネ含めた、ダイアン達の誰かが残った方が良いと提案する。

 候補とすれば、防御に絶対的な信頼がおけるツバキとリンネだ。特にリンネを嵐の中に連れていくこともしなくて良いので問題はない。想定以上に海賊団が強くても、こちらも向こうの想定の遥か上を行くだろうエンヤが居る。

 エリオットは信用されてねえなと苦笑いするも、海賊団の恐ろしさは分かってると言って、すぐに機嫌を取り戻した。

 とりあえず、次回からの調査については、俺はジーン達と共に危険海域に入り、俺は上空からの探索、ジーン達は地上の探索を行い、ツバキとリンネは船に残って、エリオット達と共に、漁師の護衛を行う。

 一応、ツバキには、ジーンと連絡を取れるように、魔道具を渡しておくとする。これにより、不測の事態にも、素早く対応可能だ。

 これで良いかと、最後にモルガンに確認したところ、それならば、と承諾してくれた。無理ならば無理と言ってくれた方が良いのだが、ここまで来ると、例え、明日から俺達と関わらなくなったとしても、海賊団から狙われる可能性が高いので、確実に、俺達が海賊団を討伐するのを見届けたいと、今後も調査の協力をしてくれるそうだ。

 ちなみに、エリオットも同じ気持ちである。納得しながらも、顔色を悪くしながらため息をつくモルガンの肩をエリオットはポンと叩いた。


「まさしく、乗りかかった船ってやつだ。最後まで付き合おうぜ」

「当初の予定じゃ、俺達は海賊との戦いに巻き込まれないって取り決めだったのにな……危険手当をギルドに申請しねえと……」


 モルガンの言うところの当初の予定とは、モルガン達、俺の協力者達は、あくまで、海賊の拠点を暴くまでの協力であり、総力戦になる場合は、俺達は、ギルドの用意する船に乗る予定だった。

 しかし、今回の事で、調査中に総力戦という可能性も出てきて、モルガンは落胆している。

 その申請、通ると良いなと思いながら、二人を眺めていた。

 ダイアン達も今回の決定を了承していた。ただ、コモンの新しい装備もあるので、大丈夫そうなら、ダイアンも空からの探索に挑戦してみるとのことだ。

 探索の進捗を今のままに維持することを目的に、という気持ち半分、自分の力がどこまで通用するかを確認したいらしい。

 あまり、おすすめは出来ないが、とりあえず頑張れと言っていた。


 さて、調査についての新しい方針と、手法を確認し終わった後、出来るだけ、ここで決まった話は、甲板上ではしない、するのなら、帰ってから、それぞれの家の中で、といった後、少し風に当たりながら、アートルムに帰ろうとした。

 その時、モルガンを諫めていたエリオットが、あ、と何かを思いついたように口を開く。


「……しかしよ、こんな状況で、ムソウさんが調査に出て、海賊達が姿を現すか? 俺が海賊なら、例え、ムソウさんが船から離れようが、島から離れようが、出ていかないぞ」


 そう言われて、俺達は再び、思案を巡らせる。確かに、俺が危険海域に入った瞬間、そこから追い出す為に、天候を荒れさせるほどだ。

 今日も、足止めの為に、あの不審船を設置し、何とか、俺と接触しようとしていなかった。

 このまま、俺が調査に参加するとしても、現状が続くことが予想される。

 つまり、危険海域はさらに危険になり、俺が居ないところで、海賊団の被害が発生するという事態になる可能性が高い。

 そもそも、俺が調査をすればいいのか、駄目なのか、よくわからなくなってきて、俺は何も思い浮かばなかった。

 ひとまず、皆の意見を聞いてみよう。


「リアは、どう思う?」

「そうね……エリオットさんの言うように、向こうが最大限、頭領を警戒しているなら、頭領が出た時点で、私なら、手を出さないわね」

「私もです。手は出しませんし、ムソウ様が危険海域に入った後は、そのまま、そこに居るようにします」

「最悪、魔物を送り込めばいけるっすね。俺なら、明日辺りから、ヴァン島付近に魔物をばら撒くっす」


 リアに続くように、ツバキ達も、自分の考えを口にする。皆、俺が調査に出ることになれば、今日までのように、身を隠しながら、俺を足止めするように行動すると口にする。

 何気に、チョウシの、魔物をばら撒くという案も、ありえそうで怖い。というか、足止めするなら、俺でもそうする。


「ジーン様については、皆、どう思う? 私なら、仮に十二星天様と言えども、関係ないと思うけど……?」

「だな。ジーン様がアートルムに居ようと居まいと、海賊団は行動するだろうな。あの海域に足止めできるなら、儲けものだ。頭領とジーン様を動けなくして、他の海域を襲ったりして、動きを翻弄するな」

「まあ、頭領なら、魔物の大群くらいはなんとなるから、そういう状態になったら、ジーン様は、俺達を連れてアートルムに帰るだろう。

 んで、頭領を一人にして、頭領が居なくなった俺達を襲うってところまで考え付くな」


 ルイ、ダイアン、ハルキは、俺ともう一人、警戒しているであろうジーンについても、話し合っている。

 ジーンの行動がどうなろうと関係ないという三人の発言に、エリオットとモルガンは少しばかり驚くが、リオウ海賊団が転界教とつながっている場合、例え、十二星天であろうとも、意のままに操ることが出来る可能性は存在する。

 実際、クレナの一件では、コモンも操られたし、もっと昔のことを言うのならば、ジゲンだって呪われたからな。

 それに、コクロ領全体を監視しているのならば、オリビアあたりを人質にとって、ジーンを意のままにすることだってありうる。

 向こうがジーンの弱みを知っている以上、ジーンの行動をいちいち海賊団が気にしているとは思えなかった。


 というわけで、ジーンの動きは念頭に置かず、話し合いを進めたが、やはり、俺が調査に出ると、海賊団は出づらいのではという結果となり、さらに頭を抱えることとなった。


「……どうすりゃ、良いんだ?」

「一番いい手は、頭領はアートルムにお留守番。調査は私達とジーン様だけで行って、海賊団が出た時は、これまで通り、拠点を暴くために泳がせる。海賊団と即時ぶつかりそうなら、安全を考えて、アートルムに帰還……まあ、その後、また同じ展開にはなりそうだけど……」


 俺の疑問に、リアは答えるが、それだとイタチごっこだ。何度も同じことを繰り返し、結局、海賊団を討伐することは叶わない。

 一応、エンヤという切り札もあるが、天候さえ操るほどの相手だ。エンヤが手加減できるわけない。

 向こうの戦力は減らせるだろうが、本隊を潰すことは叶わないだろう。向こうも、引き際というものは分かっているだろうからな。

 つまり、海賊団を殲滅するときは、一度だけ。俺も戦闘の前線に居て、海賊を確認した後、拠点を暴き、そのまま、総力戦になるようにしないといけない。

 もう少しこのことに、早く気づけば良かったと、更に頭を抱える。


 何かいい方法はないものだろうか……。流石に、リアもツバキも黙っている。部屋全体(リンネ以外)に重苦しい空気が漂う。

 もうそろそろ、アートルムに着くだろう。話し合いは帰ってからジーンも交えて行い、決まったことを、改めて明日、エリオットとモルガンに伝えることにして、今のところは、リアの言った案に乗ると決めようとした時だった。

 再び、エリオットが、あ、と言って、口を開く。


「……いっそのこと、海賊団をおびき出すか?」

「……はあ?」


 困惑する俺達に、エリオットは、少し考えていたんだが、という前置きの下、自分の考えを話し始めた。

 その内容は、少々、取り留めのない様なものだったが、言われてみれば、確かに、と納得するものだった。

 そして、最終的に俺達がどうすれば良いのかを提示されると、今のところ考え得る、最善の策だと感じた。

 リア達も、それなら、無理をすることもないし、ジーンやツバキ達の負担も減ると納得していた。

 ツバキだけは、俺だけに負担が来ることを危惧していたが、その際の対応策をリアが思いつき、それを聞いたツバキともども、俺も、それは良いなと納得した。


「なるほど……エリオット、ありがとう。一応、後でジーンとも相談してみる。可能性があるとは言え、結構低いものだからな」

「だろうな。この案はきっちりと精査して挑むべきだろう」

「ああ。だから、少し時間をくれ。とりあえず、明日の調査は中止だ。こっちもその方向で準備を進める」

「分かった。皆には俺から伝えておく。モルガンの旦那も良いな?」

「おう。なんか、ますます不安にはなるが、今は、ムソウさんもジーン様も居るからな。出来るだけ、「その時」に混乱しないよう、仲間達にも話を通しておこう」


 どうなることかと思った、これからの調査は、こうやって、エリオットの考えに即した動きとなることが決まった。

 これにより、結構予定に狂いが出たが、海賊団討伐の可能性は高くなった。考えを提示してくれたエリオットに深く感謝し、俺達はアートルムへと帰還した。


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