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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
411/534

第410話―“冒険王”の夢―

 その後、夜遅くまで続いた宴会だったが、リンネとオリビアが船を漕ぎ出したので、お開きとなる。

 明日の予定を決めた後、ムソウ達はジーンの転送魔法により家へと帰っていった。


 その後、明日の事もあるので片付けは任せて、というリチャードとリーデルの言葉に甘え、ジーンはオリビアを連れて寝室へと向かう。

 眠そうな目をこすりながら、布団を被るオリビア。このままでもすぐに眠りそうだったが、お話を聞かせてとジーンにせがむ。


「お話なら、これから毎日できる。今日はもう、早く寝なさい」

「いや~……おおじいちゃん、あしたもいそがしい……いまのうちに……ききた~い……」


 困ったな、と苦笑いするジーン。しかし、このまま何も話さないままだと少しもったいないと感じ、少し付き合うことにした。


「分かった。では、儂の“友”の話を聞かせよう」

「おおじいちゃんのおともだち?」

「ああ……儂の、この世界のかけがえのない友達だ……」


 そう言って、ジーンはオリビアの頭を優しく撫でながら、静かに語り出す。

 二十年以上前、壊蛇を退いてから数年。王都で共に過ごした、十二星天との日々を……。


 ◇◇◇


 時は遡ること二十数年前。当時、壊蛇の災害で自暴自棄になっていたジーンは、同じく違う世界から転生、あるいは召喚されたという者達により、生きる目的を取り戻し、その者達と共に、人界を治める為の機関、十二星天の一人として、王城より、“冒険王”の称号を与えられ、壊蛇の災害で荒れた世界の復旧の傍ら、後に自らが設立した「旅行公司」の準備に取り掛かっていた。

 王城より与えられた十二星天という立場のおかげで、かつて共に世界一周を成し遂げた冒険団の者達のみならず、王都やコクロ領の貴族達から援助を受け、他の者達よりは比較的早い段階で、旅行公司の設立に至ることになる。

 当面は、ミサキやジェシカが復旧を完了させた地の調査を行うとし、その日も、王都にて、地図の書き換え作業を行っていた。

 壊蛇の災害以前から思っていたが、ミサキとセインにより生み出された魔法地図の性能。ジーンの持つ地図を書き直すと、他の地図も連動して改正が加えられるなどと言った効果に、相変わらず驚いていると、作業部屋の戸を叩く音が聞こえてくる。


「……ん? 誰だ?」

「え~っと……ミサキだよ、ジーンさん! それから……」

「セインだ。入ってもいいかい?」


 外から聞こえてきたのは、今まさに感心していた、同じく十二星天である“魔法帝”ミサキと、“ギルド長”セインだった。

 特に断ることもないので、もちろん、と言うと、戸が開かれ、二人が部屋の中に入って来る。

 二人とも、服がどこか薄汚れていたことに、不思議な思いとなった。


「何かあったか? 二人とも」

「何かって……今日は、100年戦争について、皆で報告する日でしょ~?」

「その他に、自分が設立する機関についての進捗状況の報告もあるけど……ジーンさん。まさか、忘れてた?」


 二人の言葉を聞き、ジーンは、あ、という顔をする。

 未だ世界の一般常識では謎とされる、100年戦争について、他の十二星天に調べてもらうついでに、この世界というものを見て欲しいという頼みを出したことを。

 ここに来るまでの間にも、しっかりと世界中を飛び回っていたようだ。


 そして、今日がそれぞれの報告会で、ついでに、それぞれの仕事の進捗状況をすり合わせる日だったことを。

 寧ろ、そっちが本題ではあるが、ジーンは既に、自らが望んだ旅行公司を完成させていた。

 その為、会合の事など、すっかり忘れていたのである。


 ジーンの表情から全てを悟ったセインは、はあ~とため息をつく。


「まったく。僕のギルドやリー君の騎士団、特にレオさんの魔獣宴とかも、旅行公司と提携するかも知れないって話もあるんだから、その辺はきちんとして欲しいかな」

「む……すまん、セイン。お主らのこの地図が、面白くてな」


 そう言って、小さく頭を下げるジーン。少し申し訳なかったと反省したが、その瞬間、ミサキとセインの顔がにんまりと笑顔となった。


「でしょ~? 頑張って作ったんだからね~! 衛星が無いからどうしようかと思ったけど、風魔法と地魔法、それに光と闇魔法で何とかなるもんだね~!」

「そして、ミサキちゃんが生み出した、難解な魔法を簡略させ、一枚の紙に組み込む技術……流石、僕だね!」

「ちょっと、セイン君。僕、じゃなくて、僕達でしょ!」

「アハハ、そうだったね。いやあ~、流石ミサキちゃん!」

「えっへん!」


 胸を張るミサキに拍手するセイン。どちらも、自分が生み出した魔道具については絶対の自信を持っているという事がよく分かる光景に、ジーンはやれやれと感じる。

 一応、もう一人、“鍛冶神”コモンも、この魔法地図の作成に少しかんでいるのだが、二人は忘れているようだ。

 この後、コモンとも顔を合わせるのだが、何も言わないでおこうと決めたジーンだった。


「それで、会合はもう始まるのか?」

「あー、いや、まだだけど、そろそろ皆が集まって来たからね。迎えに来たってわけさ」

「ジーンさんも早く行こうよ~!」


 セインとミサキはジーンの腕を片方ずつ持って、外へと連れ出す。一応歳なのだから、もう少しゆっくりとして欲しかったが、仕方ないかと思い、二人についていった。


 案内されたのは、城の中庭。そこでは、既に到着していた、壊蛇にとどめを刺した、“武神”サネマサと、これより少し前に、人界の各領とそこに属する町々を守護する「騎士団」を設立し、現在は、その育成機関となる「士官学校」の準備に励む“騎士団長”リーが手合わせをしていた。

 サネマサの胸くらいの高さしかない少年が、鎧兜を身に着け、左手に盾、右手に剣を持って、軽装のサネマサと闘っている。

 サネマサは余裕でリーの攻撃を躱したり、受け止めたりしているが、リーは必死でサネマサの攻撃から逃れていた。

 ほとんど弱い者いじめにしか見えない構図だが、あくまでこれは手合わせであり、リーの顔は楽しそうだった。


「くっ! やっぱり、サネマサさんは強いですね! まだまだ追いつけそうにないです!」

「いやいや、強くなってるぞ! ま、確かに、俺には到底及ばないがな」

「クレナにはまだまだ強い方々も生き残っているんですよね? また牙の旅団の皆さんに、会ってみたいです!」

「おう! 今度、クレナに来た時には紹介してやる! だが、せめて、ジロウの目に適うくらいには強くなっておけ!」

「はいっ! お願いします!」


 リーはサネマサの指導に応えるように、剣を振るっていく。時々、サネマサの虚を突いた攻撃を繰り出したり、設置型の魔法を起動させたりもして、追い込んでいくが、サネマサには効かない。危ねえっ! と焦ったような声を出して、軽々と回避している辺り、本当に危機感を抱いているのか怪しい程だった。

 そして、リーの後ろでは、双子のジーナとミーナ、壊蛇襲来の際に、王都に巨大な結界を張り、人々を護った“双星の守護者”と呼ばれる少女達がリーを応援し、サネマサの背後では、魔物を調査する為の機関、「魔獣宴」の設立を指揮している“獣皇”レオパルドがヤジを飛ばしていた。


「「リーく~ん! 頑張れ~!」」

「サネマサー、まけんなよ~。でも本気も出すなよ~。城も吹っ飛ぶし、第一、大人げねえから~。まあ、その時点で、大人げねえけど~!」


 リーは、ジーナとミーナの応援に応えるように頷くが、サネマサはレオパルドにうるせえ! と怒鳴っていた。

 リーとサネマサの間に立ち、審判のようなものをしているのは、“聖母”ジェシカが何故か担当していた。怪我をするなと言って、真っ先に止めそうなものだが、と思っていると、ミサキが教えてくれた。

 曰く、ジェシカが来た時には二人が既に乗り気だったため、止める気も起きず、どちらかが危なくなったら止めると言って、審判役となったらしい。

 頼むから怪我をするなと言いたげに、二人の様子を眺めているジェシカ。時折、リーの策にサネマサが引っかかりそうになると、ハッとしながら、闘いを止めようとするが、すぐに態勢を立て直すサネマサを見て、胸を撫で下ろす姿が見える。


 いつもの楽しそうな光景だなと、ジーンが思っていると、横から声を掛けられた。


「あら、ジーンさん。ようやく出て来たのね。ミサキちゃんも、セインもお疲れ様」


 声を掛けて来たのは、ゴルド領にある龍の里に召喚され、レオパルドが使役している神獣達と共に、太古より生きてきた龍族に寵愛されている女、“龍心王”エレナだった。

 ミサキとセインは、ジーンを連れ出したことをエレナに褒められ、嬉しそうに頷いたが、ジーンとしてはどこか不服な思いだった。


「う~む……儂を、引きこもりの老人のような見方で見るのは辞めてくれんか?」

「実際、そうらしいじゃない。もう何日も部屋から出てこないって聞いたわよ? 偶には、散歩でもしたら?」

「むう……神帝龍様も似たようなものだと聞いたが――」


 そう言った瞬間、エレナはジーンをキッと睨む。


「ジーンさん……例え貴方でも、龍じいの悪口は……」

「悪口では無いだろう! 神帝龍様も、ずっと、龍の里から出ないと聞いたと言っておるだけだ!」

「龍じいの事を引きこもりみたいに言うのは辞めてくれない?」

「お前もだ……まったく……」


 日ごろから、冷静で心優しい性格だが、神帝龍を始め、他の龍族が絡むと頭に血が上るエレナ。

 恩儀を感じているのは立派な事だが、もう少し節度を持って欲しいと、ジーンは願った。

 やれやれと思っていると、ミサキとセインが心配そうに口を開いた。


「その様子だと……龍じいちゃん、まだ、弱ってるの?」

「ええ。壊蛇の災害から、こんなに経ってるのにね」

「僕に出来ることがあったら、いつでも声をかけてよ」


 ミサキとセインも、壊蛇の折には神帝龍に世話になっている。特にミサキは、龍言語魔法や、人界ではあまり使われていないような、魔物が行使する魔法などを、エレナと共に、神帝龍から手ほどきを受けたこともある為、とても懐いていた。

 自分以外にも、龍族達の事を心配し、慕っている人が居る。エレナは、それがうれしくて、二人に微笑んだ。


「フフッ、ありがとう、セイン。それにミサキちゃんも、心配してくれてありがとね。龍じいをただの年寄扱いする誰かさんと違って、優しいわ」


 神帝龍の事を気遣うセインとミサキには優しく、ジーンには冷たい目を向けるエレナ。

 だからなあ、と更にジーンが弁明しようとすると、今度は横から、クスっと笑う声が聞こえてきた。


「相変わらず楽しそうですね、皆さん。ご無沙汰しております」


 ジーン達が声のした方を見ると、そこに立っていたのは、魔道具や武具の作成に置いて、この世界で右に出る者は居ない、“鍛冶神”コモンだった。


「お、ようやく来たか。君で最後だぞ、コモン君」

「あ……やっぱりですか……どうも、すみま――」


 他の者達よりも遅れて、この場に来たことをまずは謝罪するコモンだったが、セインが肩を組んで止めた。


「いや、良いって。どうせ、魔道具とか武具作りに夢中になっていたんだろ? なあ、今はどんなものを作ってるんだ?」


 コモンの謝罪よりも、コモンの技術により生み出される魔道具の方が気になる様子のセイン。

他の者達よりも、発達した文明から来たであろうセインとミサキは、元の世界にあったものを詳しく説明するが、そのほとんどを、この世界にあるもので、再現してきたのは、コモンだ。それも、セインのスキルに頼らず、自らの手で行っている。

これにより、この世界の住民達でも、セイン達の世界にあるものが、大量に生産できることが可能となった。

ジーンが持つ、魔法地図も材料はセイン、魔法はミサキだが、その二つを組み合わせたのはコモンである。その他、二人の要望にしっかりと即したものを生み出し続け、コモンが何を作り、何を完成させたか、ということは、ギルドを設立するセインにとっては、かなり重要なことなのだった。

ワクワクと期待に胸を膨らませながら問うと、コモンは再び、クスっと笑った。


「え~と、今は、ミサキちゃんが教えてくれた、離れた所に居る相手と会話が出来るものと、どんな大きさのものでも入る、亜空間を作る魔法を備えた魔道具に着手してます」


 その言葉を聞いたセインは、更に笑顔となった。


「お! 「異界の袋」を作ってるのか! それは、良いなあ。完成したら、量産して、ギルドの方で使いたいと思っている! 冒険者一人一人が持って、魔物を倒したら、苦労なく、素材を持って帰ることが出来るからな。それに、大きくて煩わしい鞄を持つことも無いし、何なら家とかも入れたりして、旅先で自由に――」


 白熱するセインを、ミサキが止めた。


「ストップ、ストップ、セイン君。ちょっと、落ち着いて! コモン君も困ってるよ~」

「ハッ……! あ……ごめんよ、コモン君」


 我に返ったセインがコモンを見ると、ぽかんと口を開けて、真顔になっていた。

 しかし、すぐにフッと笑みを浮かべながら、気にしないでくださいと告げる。


「いえいえ。使い道を考えながら魔道具を作ることも大切なので」


 幾ら、優れた性能を持っていても、上手く扱えなければ意味は無い。コモンにとって、セインの意見は、その魔道具をどのように使うか、どんな目的で使うか、また、その目的で使う際、どのような利点と不具合が生じるかを予測する為には必要な事だった。

 気兼ねなく意見してくれるのは嬉しいと頭を掻くコモンに、ミサキも頷いていた。


「そうそう。性能が良くても、一般の人が使えないと意味無いからね~。あ、そうだ、コモン君! さっきの話だと、「スマホ」も作ってるってことだけど!?」

「あ、はい。少し難航してますが……」

「良いよ、良いよ! 後でゆっくり聞かせて~! さっすが、コモン君だね!」

「僕も、出来る限りは協力するよ。足りない部品とかあったら、すぐ創るから、何でも言ってくれ!」


 セインのEXスキルは「創造主」。これは、セインが望むものなら何でも作ることが出来るというものだが、材料と、仕組みが分からなければ作ることが出来ない。

 セインは、自分の居た世界にはあった便利なものがどういうものかは説明出来る。しかし、その構造の詳しいことは分からない。

 ミサキも同様に、ある程度は分かるが、細かいところは分からなかった。

 しかしコモンは、二人から話を聞いただけで、それがどのような仕組みで動いているのか、それは、この世界で再現が可能か、可能ならば、ミサキにどんな素材を生み出してもらえば良いか、セインがどのような部品を創造すれば良いのか、全てを判断できる力を持っている。

 壊蛇も居なくなったこの世界の生活水準や文明を今よりも数段良いものにしようと、セインとミサキは、惜しむことなく、その考えをコモンに提供していく。

 少し大変だなとは思いつつ、コモンも、二人からの提案に応え、自分にとって、未知のものを作るということは好きだった。一緒に、二人の世界にあったものや、新しい装備品や魔道具を生み出しては、喜びを分かち合うのが好きだった。

 これからも、沢山のものを作って、人界を良くしていこうと、二人に笑顔で頷いた。


「あっ、そうだ。エレナさんに渡すものがあるんです」

「私に? 何?」


 コモンは次に、エレナに声をかける。その顔はセインとミサキに見せたものよりも、笑顔で、少々顔が赤くなっている。ははーん、と何かに感づいた二人はにやにやしながら静かになっていく。

首を傾げるエレナの前で、コモンは懐から綺麗な袋を取り出し、中から首飾りのようなものを取り出した。

 赤、緑、青、黄、透明、白、黒の宝石のようなものを、一つの台座に嵌め込み、細い鎖を通したもの。

 受け取ったエレナは、それが何か分からず、不思議そうな顔をしていたが、何かに気付いたようにハッとした顔になった。


「これって……まさか!?」

「はい。龍族の皆様からお預かりした、素材の一部を一つに合わせたものです。地、水、火、風、雷、氷、全ての属性攻撃を無効にし、持ち主の魔力と肉体的な力を底上げする効果を持っています」


 呆気にとられるエレナの前で、嬉々とした顔で、首飾りの説明をするコモン。

 素材の希少性は勿論、その効果も珍しく、強力なもので、鑑定スキルを使うまでもなく、神具という事が、すぐ横にいるジーンにも伝わった。

 自分の考えが正しかったと同時に、少々戸惑った思いとなるエレナ。


「え、な、何で、こんなものを私に?」

「いつも珍しい素材をくださるので、そのお礼です……あ、でも壊蛇のものも一部使っていますけど……お気に召しませんでしたか?」


 自分の贈り物が不服だったのかと感じたコモンは不安そうな顔で、エレナの顔を見つめた。

 エレナは、そんなことは無いと、慌てて首を振る。


「いえ……ちょっと、驚いただけよ……ちょっとというか、かなり……まあ……でも、それ以上に嬉しいわ、コモン君。皆の一部を使って、これほどのものを作ってくれるなんて……大事にするわ。ありがとうね」


 そう言って、首飾りを下げるエレナ。似合ってる? という言葉に、エレナは目を輝かせて頷いた。


 その光景をにこやかな顔で眺めていたミサキとセイン。茶化すようにセインは、コモンを小突く。


「ホント凄いな、コモン君は……このまま落としちゃえよ」


 耳元で囁くセインの言葉に、コモンはさらに顔を真っ赤にする。


「い、いえ! 僕はそう言う気では……」

「いやいや。隠さなくて良いだろう? 僕達も、もう全員気付いてるから安心してくれ」

「いやいやいや! 勘違いですって! それより! もう皆さん、揃っているのでしたら、お部屋に行きませんか!?」


 このままセインに付き合うと、自分に面倒な展開となることを悟ったコモンは、十二星天での会合を始めようと切り出す。

 クスクスと笑っているミサキの横で、エレナは首を傾げていたが、コモンの言葉に頷いた。


「そうね。そろそろ、サネマサとリー君の手合わせも終わらせて、行きましょうか。多分、陛下もお待ちになっている事でしょうし……陛下はまだしも、シンジさんはうるさいからね」


 エレナがそう言うと、ミサキとジーンは確かに、と頷いた。


「あの人、固ったい性格してるからね~。これ以上待たせるのは良くないかも~」

「まあ今は、儂らの所為で、いつもより忙しくなっているのも分かるがな……」


 この時のシンジは、十二星天が設立する機関の予算繰りと共に、壊蛇の被害の整理に、未だに追われていた。

 常に、忙しく執務をこなすシンジの時間をこれ以上減らすと良くないのでは、という考えには、その場に居た者達が同意し、サネマサ達に声を掛ける。


「お~い、サネマサさ――」

「オラアアアアっ!!!」

「ハアアア~~~ッッッ!!!」


 しかし、激化するサネマサとリーの手合わせ。二人の声にセイン達の声はかき消される。叫んでも駄目かと思ったセインは、腰から自身の得物を抜く。

 刀と銃が一緒になったような武器で、セインが図面を引き、コモンが完成させた、特別な武器である。

 どんな弾丸でも、強力な魔法を撃ち出せるように、全ての部品がミスリルかアダマンタイトで出来ており、セインのEXスキルと相性も良く、ただ弾丸を撃ち出すだけでも、大砲以上の威力を持つことが出来る。

 無論、セイン以外の者には簡単には扱えない。EXスキルで創られる強力な弾丸や魔法を放つには、相応の力が必要になる。しかし、セインはそれを、絶妙な魔力操作で補っている。

 それと合わせて、サネマサやリーから教わった武器術のおかげで近接での戦いにも対応し、この武器は、セインを象徴するものとなっていた。

 それ程の強力な武器の銃口を、セインはサネマサとリーに向ける。


「わわっ! セイン君、どうする気!?」


 ミサキ、エレナ、コモンは慌て始めるが、セインはケロッとしていた。


「二人を止めるんだよ。大丈夫。狙い通りに行くから」

「あれだけ動いてるのに? 砲術スキルも完全じゃないのよ!?」

「大丈夫だって。威力は抑えるから」

「ほ、本当に抑えるんですよ! 普通に撃っても、永久金属に穴を開けるくらいなんですから!」

「ホント……良い武器をありがとう、コモン君。でも、皆、僕を心配し過ぎだよ。大丈夫だって。ね? ジーンさん。二人は無事でしょ?」


 セインは、唯一平然としていたジーンにそう尋ねた。既に未来を予測し、何事もない光景が見えていたジーンは、コクっと頷く。


「……まあな。じゃが、儂の見る未来は変わることもあるからな」

「おっと……それは怖いな。まあ、良いや。せ~の!」

「「「ちょッ――」」」


ジーンの忠告を聞いたセインは即座に銃の引き金を引く。突然の行動に、ミサキ達はセインを止めることが出来なかったが、すぐに、大丈夫だと気付いた。

 セインが銃弾から撃ち出した「弾丸」は、柔らかい毛玉のようなものだ。それが、速いとは言っても、目で追えるくらいの速さでサネマサとリーに飛んで行く。

 そして、それは、セインの銃から放たれた大きな音に驚いて動きを止め、こちらに視線を移したサネマサとリーの顔にぽふっと当たる。


「……あ?」

「……え? って……あ、セイン君!」


 一瞬、何が起きたか分からないと言った顔の二人だったが、リーは即座にセインに気付き、サネマサは、その隣に立つジーンを見て、察したように頭を掻いた。


「ジーンとコモンが来たってことは、時間か。集中しすぎて気付かなかったぜ。しかし……今日は決着が付かなかったな、リー、前よりも順調に強くなってるぞ。今なら、一人で災害級を倒せるかもな」

「ありがとうございます、サネマサさん。僕も、今後は全ての騎士の見本にならないといけないので……今後もお願いします」


 深々と頭を下げるリーに、サネマサはニカっと笑って頷いた。


「おう。いつでも声を掛けてくれ……そして、そんなにセインの所に行きたかったら、速く行ってやれ」

「良いんですか!? ありがとうございます!」


 セインを目にしてから、様子を伺うようにそわそわしていたリーは、サネマサに再び深々と頭を下げて、セインに駆けて行く。

 そして、サネマサとの手合わせの感想を求めるリーと、セインにくっつき過ぎだというコモンとミサキに、頬を膨らませるジーナとミーナと、それを諫めるジーンを眺めながら、サネマサはやれやれと肩を上げ下げした。


「セイン君、見てた? 今日は結構いい線いってただろ?」

「どうかな……? あのまま続けていたとして、果たして勝てただろうか?」

「え~、追い詰めたと思ったんだけどな~。コモン君もそう思うよね?」

「え? う~ん……どうでしょうか?」

「ミサキさんも、そう思うよね?」

「魔法の使い方は完璧だったけど……」

「エレナさんも……そう思うよね?」

「どうだろう……?」


 上手く戦えていた事を自慢したいリーだったが、ミサキ達の言葉を聞いて、徐々に自信を無くしていく。

 そして、最後の頼みだとジーンに、物悲しそうな顔を向けた。


「……いや、そんな目で儂を見ないでくれ」

「ジーンさん……あの結末を予知していたのでしたら、教えてください」

「やれやれ……良いぞ、リー君」


 ジーンは、手合わせのさなか、セインが「止めなかった結果」がどうなったかを未来予知していた。その光景を頭の中に思い浮かべる。

 リーは、EXスキルで自分とジーンを繋ぎ、ジーンの思い浮かべている光景を自分の頭の中に映した。


 その結果、ガクッと項垂れる。ああ、やっぱりという顔のミサキ達。盛大にため息をつくリーを、皆で慰めた。


「まあ、サネマサさん相手にあそこまでいけたのは凄いことだと思う。自信持てよ」

「さっきも言ったけど、設置魔法とか、剣を振りながら撃ち出す魔法のタイミングとかは私より完璧だったよ。後は、魔法の威力を上げたら、何時かはサネマサさんに届くと思うよ。今度、コツを教えてあげるからね!」

「僕が創った装備を、最大限生かしてくれていましたし、見事という他ないです」

「「リー君、カッコよかったよ~」」

「これから、本当の意味での“騎士団長”になるんだから、頑張りなさい」


 皆から、激励の言葉を受ける度、項垂れていたリーの頭は、徐々に上がっていき、最終的に、これ以上ない程の笑顔をセイン達に向けた。


「やっぱり? 僕も成長しているんだなあ……次は、サネマサさんに負けないようにしないと! セイン君! また後で、稽古に付き合ってね!」

「ああ。僕も、“ギルド長”になるんだからね。少なくとも、支部長候補に思っているマシロのロウガンさんや、クレナのジロウさんには負けないようにしないと」


 そう言って、セインとリーは拳を当て合い笑っていた。相変わらず仲の良いことで……そして、立ち直りも早いのも相変わらずだなと、ジーン達も、リーを笑っていた。


 すると、そこへサネマサとジェシカ、レオパルドもやって来る。


「ジロウより強くなるって? てことは、俺よりも強くなるってことだぜ、セイン。俺とアイツは五分五分だからな」


 サネマサの言葉に、レオパルドは、少し顔色を悪くする。


「マジか……クレナの“刀鬼”は流石だな……実は神獣より強いんじゃねえか?」


 それは無いと、すぐには言えなかったサネマサ。支部長として迎え入れたいセインは、苦笑いしながら、頑張ります、と言っていた。


「ロウガンさんは、確か、サネマサさんのお弟子さんでしたね。一筋縄ではいきませんよ、セインさん、リー君。無茶をして、怪我とかしないように」

「アハハ、分かってるよ、ジェシカさん。でも、貴女が居てくれるから、僕達も無茶できるんです。これからも頼りにしてますよ」

「う~ん……嬉しいような、そうでないような……」


 苦笑いしながらため息をつくジェシカに、その場に居た者達は笑った。壊蛇が居なくなったとは言え、魔物は多い。

 それらと人界との闘いは続く。そうした状況を打破するために、セイン達は動いている。

 今は少し無理をしてでも、未来の為に頑張ろうと、改めて、セインは皆に告げた。


「勿論、リー君、ジーナちゃん、ミーナちゃん、エレナさん、コモン君、ミサキちゃん、サネマサさん、レオさん、ジーンさんの事も、僕は世界で一番頼りにしている。皆で、平和な世界を創造していこう」

「ハハッ! 何だよ、セイン君。改めて言う事じゃないだろ、そんな当然の事」

「リーの言う通りだ。ギルドってのはいまいち、どういうものかというのは分からないが、やろうとしている事ってのは、分かっている。上手くやれば、俺の武王會館とも連携出来そうだし、これからも頼むぜ、セイン」


 サネマサに背中を叩かれたセインは、少し咳き込むが、こちらこそ、とニッと笑った。


 そして、全員が揃い、少し落ち着いたことを確認したセインは、そろそろ行かないと、シンジさんに怒られると言って、会合の場へと皆と共に向かった。

 その間も、セインを中心として、それぞれの機関の事や、近況報告、他愛の無いやり取りを楽しむ十二星天。


 どんな場所でも、どんな時でも、皆と居る時が一番楽しいと、ジーンのみならず、その頃は十二星天の誰しもが、そう思っていた。


 この時間が、永遠に続くものだと思っていた……。


 ◇◇◇


「……ッ!」


 ふと、真っ暗な部屋の中で意識を取り戻すジーン。ぼやける意識のまま、すぐそばに目を向けると、オリビアがすやすやと眠っていた。

 窓から月の灯が差し込み、さざ波の音が聞こえてくる度に、徐々に頭の中がはっきりとしてくる。

 どうやら、オリビアに十二星天の事を話しているうちに、眠ってしまったらしい。

 申し訳ないことをしたと思ったが、話し始めた時点で、オリビアはかなり眠そうだったし、起こされるという事もなかったところから、寂しい思いはさせなかっただろうと、自分に言い聞かせた。


 その間に、少し昔の事を夢として見ていたのだろうと思い、小さくため息をつく。

 オリビアの頭をそっと撫で、窓辺に立った。

 そして、懐から一枚の写真を取り出し、ジッと眺める。


 そこには、セインを中心とし、十二星天の面々と人界王オウエンが楽しそうに並んでいる光景が写っていた。

 十二星天発足の際、記念にと撮影されたものである。

 一人一人の顔を眺めた後、先日行われた天上の儀を思い返し、最後に、中心に居るセインと、リー、ジーナ、ミーナ、エレナを再度見つめた。


「……もう……戻れないのか? セイン……儂は……戻りたいぞ……いや、儂だけではない……皆も、再び笑い合う日が来ることを願っている……。

 頼む……誰でも良い……儂に答えを……儂らの結末を……教えてくれ……」


 教えを乞うように、懇願するように、ジーンは天に上る月に祈った。

 様々な未来と結末を見通し、仲間達の助けとなっていたジーンだったが、十二星天の未来は、視えなかった。

 いつも、霧がかかったように、何も見えない。人の未来は視えないものなのか、それとも、自分が視たいと本心から思っていないのかは分からない。

 だから、ジーンはいつも、答えを求めている。どうすれば良いのか、どうすれば良かったのか。

 ミサキ達と同様に、何とか、あの頃に戻れる為の答えを渇望していた。


 ……だが、都合良く、その答えが思い浮かぶことは今日も無かった。

 再び、ため息をつき、写真を大事にしまった。


「……そうだ。今は、儂も目の前の事に集中せねば……」


 ぐっすりと眠るオリビアの顔を見て、少なくとも、この子の事は護ると決めた事を思い出し、気持ちを切り替える。

 翌日からは、ムソウと共に行う海賊団調査も佳境となる。目の前にある、この大きな課題を解決に導き、その後で、十二星天の事を考えようと思うジーン。


「その暁には……すまぬ……今一度……儂に力を貸してくれ……ムソウ殿……」


 ミサキやコモン達のように、十二星天が昔のように戻ることを望んでいる者達が、現状、最も頼りにし、可能性として、最もこの頼みを叶えてくれそうな者を思い浮かべながら、ジーンは再び、眠りについた……。


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