第408話―無人島を探索する―
翌日、準備を整えて、モルガン達と、ツバキが加わったことによる調査方法の変更について打ち合わせる。
今日から、部隊を二分し、より効率的に探索や聞き込みを行う。最初は、俺、リンネ、ツバキとダイアン達、という分け方にしていたが、戦力が偏るのは避けた方が良いと、リアに申し出され、話し合った結果、リア、チャン、チョウシ、ルイの部隊と、ツバキ、リンネ、ダイアン、ハルキの部隊に分かれることとなった。
俺は、調査する島々の上空に控え、気配を追いながら、二つの部隊の様子を伺い、何かあれば光葬針の武者達を送り込むか、俺自身が救援に向かうこととなった。
ただ、基本的には、リア達の近くに居る事になる。ツバキの部隊には、ダイアンとリンネと言う、空から調査を行うことが可能な者が二人居るからな。
いざとなれば、エンヤも出ることだし、特に心配はしていない。
今日から明後日に掛けては、それぞれの人員で、連携が取れるように、という事で、慣らしのつもりで、調査を行っていく。
というわけで、必要な船は二隻だと言うと、モルガン達は頷き、準備を進めていく。漁もしたいと言われたので、俺は皆とモルガン達、それぞれの気配を追わないといけないんだなと、苦笑いした。
そして、打ち合わせが済んだ後は、船に乗り込んでいく。ちなみに、アートルムから見て十三番目の島であるトレイズ島には俺達で向かい、ノワールから頼まれた、魔物の殲滅を行う。装備の調子が確かめられると、リア達はやる気になっていた。
無論、ツバキ達の方も、島に魔物が出れば超級以上は倒せと伝えている。少し心配にはなるが、ツバキとリンネは超級の魔物を相手に出来るし、先ほども言ったが、いざとなればエンヤも居る。
ダイアン達に加え、ツバキも斬鬼以外の装備を一新しているから、よほどのことが無い限り問題ないだろう。
余談だが、ツバキが俺達の元に戻ったという事で、簪とコウカの人形は、再び、リンネの手からツバキの元へと帰った。
リンネが不貞腐れるかなと思ったが、昨日までの五日間、しっかりと、簪に宿るちっこいツバキとハルマサ、人形に宿るコウカを護ってきたと、ツバキがリンネを褒めると、嬉しそうにしていたので、良かったと胸を撫で下ろした。
さて、船に乗り込んだ後は、しばらく俺も甲板でゆっくりしていたが、俺達が安全を確認した十二番目の島を通過したところで、ここからは魔物も増えるという事になるので、俺は神人化し、光葬針を鳥の形にして編隊を組みながら船を護るように飛ぶこととなった。
モルガン含めた二隻の船の船員達は、流石に六日目で、もう慣れたと言わんばかりに、特に何も気にした様子もなく、警戒を怠ることなく、船を走らせる。
この様子だと、ジーンが合流しても頼りになりそうだと、可笑しな気持ちで笑った。
そのまま、海上を進んでいくうちに、目的地であるトレイズ島と、もう一つの島が見えてくる。
トレイズ島に俺達の船が着岸すると、ツバキ達の船は、ここから俺ではなく、ツバキとリンネが向こうの船の警戒に当たるようになる。
気配を追えるツバキと、鼻が利き、船を見えなくする幻覚魔法を使うリンネにより、安全に次の島へと向かったことを確認し、俺達は下船した。
無人島だからか、昨日に比べると、幾ばくか緊張感を醸し出す島だった。船をつけた場所は平地だが、上から見ると鬱蒼としている部分が多い。
船をつけた場所に小高い丘があり、ノワール達は、そこに砦を築き、島を一周するように、見張り台のようなものも作るようだ。
なので、取りあえずは頼まれた地点付近の魔物を倒しながら、調査を進めるようにと指示を出したうえで、上空から島を調査する為に、再び飛び立つ。
その際、リアに、
「何かあったら、絶対来てよ。来なかったら、下から頭領を撃ち抜くからね」
と言われ、それくらい元気なら大丈夫だなと笑い、空へと飛び立った。
さて、いつものように、島の外周を取りあえず一周してみる。今までの島とほとんど変わりはない。沖に出ているからか、少々波が高いくらいで、その影響で岸壁が、他の島よりも荒れているくらいだ。
釣りなんかは出来そうにないな。船がある場所ならば、あるいは出来るかも知れない。
ちなみに、漁師達は俺が見える範囲で漁をしている。今の所、魔物の気配は感じないが、少し離れた所には居る。
と言っても、感じられる力は、中級くらいだ。そう冒険者達に伝えると、自分達に任せてくれとのことだったので、上級以上の気配が近づかない限り、俺が手を出さなくても良い状態となった。
探索に集中できることはありがたいと、リア達の気配を追う。こちらも、近くに魔物は近づいていないようだ。
コモンが持ってきた、新調の装備には迷彩龍の素材も使われている。島に入ってから、リア達は魔物の気配から逃れつつ、更に自分達の姿を隠しながら、島を進んでいる。
よほどの魔物が出ない限りは大丈夫そうだ。
そう思っていると、もう一つの島の方からリンネの気配が近づいて来る事に気が付く。
俺の方から近づいていくと、パタパタと飛んでくるのが見える。
―あ、おししょーさま~!―
近づいていくと、頭の中にリンネの声が聞こえてくる。
「おう。何かあったか?」
―えっとね、リンネたちもしまについたから、たんけんはじめたけど、たきびのあとがあったから、おししょーさまにつたえてって、ツバキおねえちゃんがいってた―
「焚火? 魔物のものじゃないのか?」
―うん。まもののにおいはしなかったー―
つまり、魔物以外の何かが島に居たということか。無人島を調べて、早速手掛かりがと思ったが、それだけでは海賊団のものとは分からない。
とはいえ、せっかく見つけたものだから、しっかり調べてもらうとしよう。
「分かった。ツバキ達には、その辺りをしっかり調べるように伝えておいてくれ」
―は~い! あっちのしま、つよいまもの、すくなかったから、しんぱいないって、おねえちゃんいってた―
「おう。リンネの方は大丈夫か?」
―うん! ダイアンおにいちゃんととぶの、たのしい~!―
「そうか。それなら、そっちは任せても良さそうだな。しっかりやるんだぞ」
―は~い!―
大きく頷き、リンネは島に戻って行く。向こうは向こうで大丈夫なようだな。
さて、俺は探索を再開させようとしたが、その時、島から本当に、俺に向かって矢が飛んできた。
避けて、気配を探ったが、当然、闘っている感じでは無い。向こうと同じで、何かあったのだろう。
呼び出し方は考えて欲しいものである。そんなことを思いながら、気配の元、リア達が居る場所へと向かうと、それは森の中で、何かの周りをリア達は、何かを囲うように立ち、俺の事を待っていた。
「おい、リア。呼び出すにしろ、俺に向かって矢を撃つのは辞め――」
「あ、頭領。これ、どう思う?」
「あ? って、これは……」
俺がその場に行くと、人間のものと思われる躯がリア達の前に横たわっていた。数は三人分。それなりの時間が経っているのか、完全に白骨化している。
ボロボロになっているが、着物のようなものは纏っており、刀傷のようなものも見られることから、魔物ではなく、何者かに襲われたような感じだった。
「海賊っすかね?」
「さあ……それにしては綺麗な感じがするな。ただ、魔物じゃないことは確かだろ」
「そうね。これが魔物の仕業だとしたら、バラバラになってるから」
昨日確認した難破船の死体を思い返し、それと比べても、目の前の躯は綺麗なものだった。それだけで、とは言えないが、海賊がやったとは思えない。
また、リアの言うように、これが仮に魔物の仕業だとすれば、食われているはずなので、その線も考えられなかった。
結局、この島に来た人間が、飢えかその他の要因で死に、その成れの果てなのではないかという結論に至った。
「にしても、無人島とはいえ、少なくともここ最近に、この島にも人が居たってことか。ツバキ達も、それらしいものを見つけたようだ」
「え、何かあったんすか?」
「焚火の跡を見つけたらしい。もっとも、この骨は結構な時間が経っていそうだから、それとは関係ないだろうがな」
焚火に関しては、最近のものなので、この島の躯と、向こうの島は特に関係ないだろう。
リア達は、せっかく何かを見つけたと思ったら、海賊団とは関係なさそうだという事実に、少し落ち込んだ顔をしたが、俺としては、今までの島には無かったものが、こうやって次々と出てくることに、少しだけ手ごたえを感じた。
「一応、この躯は持って帰って、調べたうえで、きちんと弔うことにしよう。この先、同じように変なものを見つけたら、また呼んでくれ」
「分かったわ」
「あー……矢を飛ばすのは辞めろ。危ねえだろ。せめて魔法を打ち上げろ」
「でも、あそこまで飛ばしたのは凄くない?」
「いや、それは凄いと思ったし狙い通りだったから良かったが、辞めてくれ。心臓に悪い」
「ハイハイ、分かったわ~」
本当に分かっているのだろうか……いや、またやるのだろうな。何となくそう思い、ため息をつきながら再び、空へと飛び立つ。
意外と色々と見つかるものだなと思い、今度は島の外周の海側ではなく、岸側を回ってみた。何か居たなら、その痕跡があるだろうと思っていたが、結局見つかったのは、リア達が見つけたものと同じ様な白骨死体と、かつて、この島に住んでいた時に使っていたであろう、小さな集落の成れの果てだ。
レンガが積んであり、窓のようなものが付いている。屋根は崩れ落ちているが、それが元々、民家だという事はすぐに分かった。
中には、家具のようなものと、本棚のようなものもある。いつ頃のものなのだろうかと思い、そこに置かれた本に目を通したが、やはり時間の影響で、中の文字は掠れていたり、破れていたりして、中は確認できなかった。
日記でもあれば良いのだがなと思ったが、そんな上手い話は無く、取りあえずそこらに落ちていた躯を異界の袋の中に入れて、更に島内を巡る。
二回ほど、魔物と遭遇した。一度目は沿岸部で何体かのスライムと遭遇した。数は少なく、集まって進化しそうなほどでもない。なので、ノワールに言われたように、追い払うだけにしておいた。
二度目は、闘人狼という、直立した狼のような見た目の魔物だった。狂気スキルを上手く扱えず、狂人化した者から生まれた魔物の末裔という事で、元が人間なので、それなりに知能と、魔物として鋭い牙と爪を宿していると鑑定スキルで出た。
闘人狼は、更に、この島にあった躯から剥ぎ取ったのだろうか、服のようなものも纏っている。
追い払う前に、咆哮を上げながら向かって来たので、容赦なく叩ッ斬った。数は三体ほどだが、同じような気配が森の中にも数体居る。
取り合えず、コイツ等は倒したが、森の中の奴らも来たら面倒だなと思っていると、リア達の気配とぶつかったことに気付き、直後、森の中から闘いの音が聞こえてきた。
姿を隠していても、見た目通り、鼻は聞くようだ。多分、バレたんだろうな。
助けに行こうかと思ったが、リア達の気配は変わらずそこに居て、闘人狼達の気配がどんどん減っていく事が伝わってきた。
圧倒的に優勢だなと感心しているうちに、闘人狼の気配が全て消える。これで安心と思っていると、その辺りから空に、魔法が打ち上げられた。
どういう用事かは分かっているが、無視するのも良くないと思い、リア達の方に向かった。
合流すると、闘人狼の死骸を異界の袋に入れながら、リアが手を振って来る。
「あ、頭領。魔物が居たから、一応倒したけど……」
「ああ。俺の方も出た。もう、この辺りには居ないようだな」
「コイツ等、中級の魔物っすけど、大丈夫っすかね?」
チャンは、闘人狼の死骸を異界の袋に入れながら、心配そうな顔をするが、俺は大丈夫だろうと頷いた。
「襲って来たんだから仕方ねえだろ。それより、俺の方は集落の跡を見つけたが、お前らの方はどうだ?」
「あ、私達も見つけたわ。でも、海賊とか魔物に襲われたって感じじゃなかったわよ」
「俺も似たようなものだな。てことは、一先ず移民した者達は、やはり何か起こる前に島を出たと考えた方が良いだろうな」
「残っていた死体は、漂流者とかかも知れないっすね。この島に流れ着いて、身を隠すためにあそこに行って、そのまま飢え死んだか……」
「まあ、そうだろうな。島に入ったのは良いが、森は魔物が出るし、かと言って、釣りとか出来る場所も限られているだろうし」
結局、島で見つかった躯についてはそういう結論に至り、丁度昼時になったので、飯にすることにした。焚火を起こして、ルイが持ってきた食材で料理を作る。リア、チャン、チョウシは辺りを警戒しつつ、ゆっくりとしていた。
俺は、闘いの影響で血だらけになった場所を浄化し、その後はルイを手伝った。
飯が出来ると、焚火を囲んでルイの料理を口にする。その間は、午後からの動きについて話し合っていた。
「この島での探索は、大体終わった。昼からは、砦予定地付近の魔物を狩ることにしよう」
「そうね。大した魔物は居ないようだけど、数は多いみたいだからね」
「モルガンさん達は大丈夫っすかね?」
「さっきチラッと見えたが、問題なさそうだったな。ゆっくり、漁をしていたよ。まあ、俺としては、ツバキ達も気になるから、魔物の方は、お前達に任せようと思うが、いけるか?」
「大丈夫っす。リアが居れば、問題ないっすよ」
「あまり頼られても困るんだけど……」
「戦いになったら、俺達に任せろ。しっかり護ってやるからな」
頼もし気に、ドンッと自らの胸を叩くチョウシ。反動で、飯が変なところに入り、少し咳き込んだ。
その様子が面白く、皆で笑いながら、昼飯を食い終えた。
そして、砦建設予定地に移動。騎士団が後日ここに来て、すぐに作業に入れるように、チョウシとチャンで、邪魔な木を切り倒していく。
流石、今のクレナの家を建てる手伝いをしていただけに、作業が早い。リアとルイは、少し休みながら、辺りを警戒している。
離れる時に、リアと共に辺りの魔物の気配を探ったが、そこまで強い魔物の気配は感じない。
安心してその場を離れ、取りあえずモルガン達の船に降り立った。
海の様子を見ていた船員達は、俺が甲板に下りると少し驚いた顔になる。声を掛ければ良かったと、少し後悔した。
「お~、ムソウさん、驚いたぜ……」
「ああ、すまない。漁が順調なのかと言う確認と、海の様子を聞こうと思ってな」
「そうだったか。え~っと、今の所、漁は順調だ。やはり、漁場が違うと、獲れる量も多いな。魔物の方も出るには出るが、ほとんど魚の下級のものが多い。久しぶりに、一杯になった網を引き上げた時は、思わずにやけちまったぜ」
そう言いながら、船のいけすを俺に見せて来るモルガン。覗いてみると、確かに、今までよりも多く、身振りも良い魚が大量に入っていた。
普通の魚とは別に、少し凶暴そうな魔物が入っている水槽もあり、そちらもちらほらと入っている。
文句なしの大漁だとモルガンはご満悦だった。
「ふむ……漁の方に一区切りついたら、船を島の所に戻してくれ。日暮れの頃に、戻って来るからよ」
「分かった。もう一勝負した後に、島に着けておく」
頷くモルガンに、頼んだと言った後、今度は漁師たちの護衛を務めている冒険者達に話を伺った。
今日の俺達の船に乗っている冒険者の代表者は、エリオットという名の男の冒険者だ。
歳は、二十代くらいで、同世代のダイアン達とは出港前から意気投合していたが、俺に対しては、どこか怯えたような感じだった。
しかし、それもこの五日の間に慣れたようで、今は気兼ねなく話せるようになっている。
「島の方は、今日も問題なかったが、海の方はどうだ?」
「こっちも特には、何も無い。だが、何も無いという事が少々不安になるな」
「魔物が出ないってことか?」
「ああ。少し前まで、この辺りにも上級の魔物は結構出ていた気がするからな。ごっそりと消えている。モルガンさん達は嬉しいようだが、俺達は、寧ろ不安だ。魔物達がどこへ行ったのか……もっと遠くの海、コクロとシルバの領境に、集約しているのだとすれば、結構な事件だな。
ただ、仮にリオウ海賊団が魔物を集めていた場合、魔物が集まる場所に、拠点があるのではとも思っている。魔物の巣窟に飛び込む勇気は俺達には無い。ムソウさん、任せても良いか?」
「今更だな。そういう面倒ごとは喜んで引き受けよう。しかし、良いことを聞いた。今後の調査方法の参考にさせてもらう。お前達は引き続き、この船の護衛を頼む。手に負えない状況になれば、救援信号の意味合いで、魔法を空に打ち上げてくれ。文字通り、飛んでくるからな」
了解と頷くエリオット。なかなか、面白い話を聞くことが出来た。
確かに、かつては居た魔物達が居なくなることは、何かの前触れかと不安にはなるが、魔物と海賊団が繋がっている場合、居なくなった魔物達を追えば、海賊団を見つけることも可能になるかも知れない。
今後は、調査する島の他に、海の方もよく調べた方が良いかも知れないな。
そう思い、モルガン達の船から飛び立った後は、俺達が調べている島、トレイズ島とツバキ達が居る島、キャトズ島の付近の海を調べる。と言っても、潜るわけにはいかないので、そこに潜む魔物達の気配を追うだけだ。
モルガン達の言うように、海の魔物は少ないと感じる。しかも、特に強い気配、モンクで出会ったシーサーペントのような気配は感じない。
つまり、上級以上の魔物は居らず、居たとしても、中級くらいの魔物がちらほらで、ほとんどが下級のものばかりだった。
安全なのは良いことだが、実際に目の当たりにすると、確かに不気味だと感じる。
一応と思い、明日明後日調べる島まで飛んでみようかと思ったが、地図で確認したところ、それなりに距離がある。
皆が何かを見つけても何も出来ないので、離れることは辞めた。
取りあえず、海の調査が終わった後は、二つの島の中間地点にて待機し、それぞれに動きがあれば、対応することにした。
やがて、少し日が傾き出したところで、本日の探索を終え、それぞれに船に戻るように指示を出す。
部隊を分けているので、甲板での話し合いは出来ないから、帰りはゆっくりし、家で総括を行うことにした。
ちなみに、モルガン曰く、明後日くらいまでは良いが、それ以降から、距離もあるので日帰りが難しいという意見が出てきた。
よって、来週あたりからの調査は、島か船で夜を過ごすこともあるという事にし、ダイアン達にも了承をとったうえで、モルガン達と別れた。
そして、家に帰り、今日も晩飯を囲みながら、探索の結果を話し合った。
特に聞きたいのは、ツバキ達の話だ。昼前からは何も知らないからな。あの焚火以降、何かあったのかと尋ねると、ツバキは首を振った。
「いえ、特には何も無かったです。ただ、焚火は新しいものでしたので、ここ最近、あちらに人が居たという事は確実だと思います」
「火を起こした者の手がかりは無かったのか?」
「あ、それなんすけど、焚火の跡があった近くに、小舟の残骸みたいなものがあったっす。だから、あの焚火は、最近あそこに漂着した人間のものじゃないかって思ってるんすけど……」
ダイアンの言葉に、ツバキ達は頷く。詳しく聞くと、ダイアンが見つけた残骸のようなものは流木にしては、きちんと人の手によって加工されていたものだったらしく、破れた帆のようなものもあったので、あの近くで何らかの事故に遭い、あの島に漂着したのではないかと言う考えに至ったようだ。
ちなみに、リンネに匂いを追ってもらおうとしたが、既に、そこに乗っていたものの匂いは無く、焚火付近の匂いも無くなっていたとのことで、関連性は結局分からなかったという。
しかし、状況から、恐らく同一人物だろうという結論に至ったようで、俺もその考えに頷いた。
「こっちの島にも、漂流者とみられる人間の躯が結構あったな。あの辺りは、そういうのも多いのか?」
「それは分かりませんが、少なくとも、キャトズ島に居た人間は、島を脱出することが出来ております。沖に出ない以上、アートルムを目指せば安全なので、漂流されていた方々は、もっと遠くの海で、何かあったのかと思います」
ツバキによると、島の位置と海流の関係により、どこか遠くで何らかの事故に遭い、海を漂流することになったとしても、何も無ければあの島辺りに流れ着くという。
トレイズ島やキャトズ島の島民たちは、そう言った者達の末裔であると、騎士団から聞いていたようだ。
実際、こないだ見つかった難破船も、あの辺りで見つかったらしく、今までも、海賊団の被害に遭った船は、主にトレイズ島の辺りに浮かんでいるという。
結局、ツバキ達が見つけた焚火を起こした者も、そう言った状況でキャトズ島に漂着し、何日か過ごした後、小舟か何かで島を脱出したと考えられた。
そいつが見つかれば、詳しい話を聞けるのだが、少なくとも、ツバキが騎士団に居た間はそういった報告は無く、焚火の主が、現在どうなっているのかは不明。
ひょっとすれば、今なお、コクロの海のどこかを彷徨っているか、アートルムを目指している途中に、力尽きたか……。
まあ、どういう状況でも、それは難しそうなので、そいつを探し出すことは諦めた。
「他に気付いたことはあったか?」
その他、特に何も無ければ、今日はもう切り上げて、ゆっくりしようと思った。
しかし、ここでダイアンがスッと手を上げる。
「あ、良いっすか?」
「おう。何だ?」
「頭領は気付いてなかったかも知れないっすけど、沖の方、シルバの方角の海に、霧が出てたんすよ。それも、俺達があそこに行って、帰るまでの間、ずっと。何かおかしくないっすか?」
そんなことがあったのかと、詳しく聞いたところ、ダイアンは、島の周りを探索する前に、今後、俺達が調べる方角の島々がどんなものかと、獣人化の影響で高まった視力と、眼力スキルにものをいわせて、キャトズ島以降の島々を眺めようとしたそうだ。
しかし、四つほどの島は見えたが、それ以降は霧が出ていて、何も見えなかったという。
時間が経てば、晴れるだろうと午前中の時点では特に気にしていなかったそうだが、夕方になって、帰る時になっても、霧は晴れていなかったそうで、何かおかしいなと感じたそうである。
俺は、視力は普通の人間より少し高い程度だし、眼力スキルは持っていない。そこまで、遠くの景色は見えないから気付かなかったし、近くに気を遣う事に精いっぱいで、そこまで頭が回らなかった。
ダイアンの話を聞き、確かにおかしいなと思い、ツバキに確認してみた。
「というわけなんだが、どうなんだ?」
「はい。騎士団によると、その辺りは気候が安定せず、霧もよく出ますし、波は荒く、天候もころころと変わるとのことです。
ですから、コクロからシルバ、もしくは王都に行く船の航路は、その海域から少し外れているそうです」
ふむ。つまり、ダイアンや俺が抱いた不審点は、昔からある話だという事で、コクロに置いては、何ら変わった話では無いという事だ。
ただ、その辺りも一応調査することにはなっている。自然環境により、何が起こるか分からないとなれば、いよいよジーンの力が必要だ。
上手く日程を調整して、少なくとも俺達だけで、その辺りを調査するという事は辞めよう。
ツバキの説明を聞き、ダイアンは納得するが、なおも首を傾げている仕草をする。
「なるほど……でも、身を隠すなら絶好の場所って事っすよね? 当然、他の人間は近づかないわけだし……」
「しかし、かねてから行われた調査でも、何も無かったという報告例しかございません。そもそも、あの辺りの島に、拠点を作ったところで、暴風や高波により、船が出せないという状況となっておりますから」
ツバキの言うことはもっともだが、俺も、どちらかと言うと、ダイアンの考えに賛成だ。
普段なら、人が近づけない環境であるという事は、人に追われている奴らからすれば、それほど好条件の場所は無い。
更に、それほどの悪環境ならば、調査の方も上手く出来ていないのではと考えられる。
そう言うと皆も、確かに、と頷き、あの辺りの調査は、徹底的に行うという結論に至った。
さて、最後に疑問を出し合ったところで、会議を終えて、ゆっくりと寝ることにした。
やはり、ツバキが居るだけで、調査の仕方も効率よく進むので助かる。それに、他の皆も、俺の指示が無くても、自分の頭で出来ることを考えて、その場その場で、最適な行動をしてくれている。
最初は、皆を上手く統率できるか不安だったが、結局杞憂だったなと笑ながら、眠りについた。




