第407話―ツバキが合流する―
その後、一応コモンにも、現在の調査報告を行い、コモンのこれからについても話し合った。
引き続き、人界中の外壁を修復、強化を行い、その後はソウブの巨大橋の建設に移る。詳しい日程や作業計画が決まったとのことだが、話を聞く限り、外壁の作業よりは、コモンの負担も少ないようだ。
コモンの仕事は、設計図の作成と、橋の建造に関わる職人たちの手配、職人達の護衛となる冒険者達の手配、資金繰りくらいだそうで、今日は、俺達に装備を届けるついでに、ノワールとギャッツにもその旨を伝えにきたようだ。
「というわけなので、コクロからも、人員の手配をお願いしたいのですが……」
「ふむ……まあ、海賊団の事が解決したならば、手配しましょう」
まあ、そうだよな。コモンには悪いが、コクロはそれどころではない。海賊団に対抗する為に他の領からも冒険者が集まる予定もある。ソウブの橋の件は、もう少し先の方が良いのでは、と言うギャッツの言葉に、コモンは頷いた。
「分かりました。では、最初は最低限の人員だけで始めておきます」
「申し訳ございません。領主アオシには、また別の形で借りを返すと伝えていただければ幸いです」
「ハハハッ! ノワールさんらしいですね。必ずお伝えしておきます」
ノワールの申し出にコモンは快諾した。何が、ノワールらしいのか分からないが、うまい感じに話が纏まって何よりだ。
その後、コモンからクレナの様子を聞いた後、騎士団のルーカスにも海賊団の調査報告を行う為、ノワールの屋敷を出た。コモンとも、ここで別れる。港に用事があるらしい。
せっかくだから、泊って行けば良いのにと言ったが、牙の旅団の武具の修復をした今、ジゲンからも、刀の強化を頼まれたとのこと。
少し苦笑いになっているところを見ると、どんな頼み方をしたのだろうかと、皆で顔を見合わせて笑った。
急いで完成させないと、と言うコモンに手を振り、騎士団の駐屯地へと目指す。
その間も、リンネは獣の姿のまま、俺達に話しかけてきていた。
「キュウ、キュ~ウ~? (おししょーさま、きこえる~?)」
「ああ、聞こえるぞ」
「キュウ、キュ~ウ~? (ダイアンおにいちゃん、きこえる~?)」
「おう。聞こえるぜ、リンネちゃん」
「キュウ……キュ~ウ~? (ルイおねえちゃんも……きこえる~?)」
「ええ、問題ないわよ」
「キュウ……キュ……キュウ~…… (ハルキおにいちゃんも……はぁ……なんかつかれた~……)」
「え……何で、俺の時に? というか、それ、魔力の使い過ぎじゃ……」
皆と話しているうちに、リンネは顔色を悪くしながら、俺の肩の上でうつぶせになっていく。
心配するハルキを見ながら、はあ、とため息をつく。
「おい、リンネ。確かに俺達も楽しいが、コモンにも気を付けろって言われただろ。ツバキの時の為に、獣人の姿でおぶされよ」
「……キュウ (……うん)」
俺の肩の上でぐたっとなっていたリンネは、そのまま獣人化し、俺の背中に回った。つかれた~、とか言いながら、俺に体を預けて来る。
魔力回復薬を渡し、次から気を付けろと額を小突くと、楽しそうに頷いていた。
そして、騎士団の駐屯地に着いた俺達。調査の報告に来たと、受付に伝えると、俺達を駐屯地内の訓練場へと案内する。
付いていく間に、剣戟の音が聞こえてきて、何をしているのだろうかと思っていたが、訓練場に着いて、謎が解けた。
ツバキから聞いていたように、ルーカスとツバキが、騎士達の前で手合わせを行っていた。
三叉の槍を振り回すルーカスの攻撃をツバキがさばいていくが、ルーカスもツバキの動きについていき、攻撃を躱したり、受け止めたりしている。
二人とも、闘いに集中し、俺達には気づいていないようだった。一つ得物を合わせては、ルーカスの指導の声が、訓練場に響く。
「ふむ。噂通り、動きは及第点だ。武器の性能にも、しっかりと追い付いている。騎士団全体で見ても、ツバキ殿に敵う者は少ないだろう」
「ありがとうございます」
「だが、少し視野が狭くなっているようだな。目の前の敵に集中するのは良いが、それだと、足元も掬われやすいぞ」
と、ルーカスは、槍を振り回しながら、地面に手を置き、ツバキの足元から魔法で水を噴出させる。
ツバキは、水を浴び、足元をとられて態勢を崩す。そこをルーカスが狙うが、クナイを投げて、ルーカスの動きを制し、距離をとった。
流石、とお互いに言い合って、ツバキとルーカスは、得物を構え直す。
両者の動きに、俺達は揃って、感嘆していた。
「ルーカスさん、ツバキさんの動きに着いていってるっすよ。凄いっすね」
「いや、どちらかと言うと、ツバキの動きを、魔法を使って、自分の思い通りに誘っているように見えるな」
ルーカスは、ツバキの足元を水魔法で濡らし、足をとらせて動きを鈍くしている他、ツバキが、不可視の抜刀術、ジゲンから教わっている「瞬華」を使おうとすると、水の塊を自身の周りに展開させ、刀の動きを遅らせて対処しているようだ。
「あ、なるほどー。でも、あれくらいなら、EXスキル使ったら、防げそうな……って、さっきから、ツバキさん、スキルも偶像術も使わないっすね」
ツバキがEXスキルも使わず、どんな状況でもエンヤを喚ばないという、クレナでの鍛錬ではあまり見ない戦い方に、皆は首を傾げていたが、俺には思い当たることがあったので、笑っていた。
「あー、それはアレだ。騎士としての矜持ってやつだ」
そう言うと、皆はなるほどと頷く。
「あくまで、正々堂々ってことね。ツバキさんらしいわ」
「スキル使えば、圧勝よね?」
「いや……ルーカスも良い動きしてるぞ、あの槍捌き。ハルキも敵わねえんじゃねえか?」
「う~ん……悔しいっすけど、そうっすね。性能の差で勝つことは出来るかも知れないっすけど……」
騎士団の師団長は、ギルド支部長と比べると、個人の強さはそこまで基準は高くない。
求められている条件は、指揮官としての能力と、防衛戦に長けた能力だ。護りに特化した力と、攻めに特化した力とでは、個人の強さに大きく差が出る。
コウカンも、ロウガンには敵わないと聞いたことがあるからな。
しかし、ルーカスは違うようだ。どちらかと言うと、攻めに特化している気がする。持ち前の槍の技術に加え、魔法を使いながら、ツバキを攻めていることが多い。
これは、海の魔物や海賊が、優位な立場になりやすい、海の戦い方に合わせたと聞いた。元から防衛戦に不利な状態だからこそ、こちらも攻めなければ、護れるものも護られないという考え方から生まれたらしい。
なおも続く二人の手合わせだが、一向に決着はつかない。水の魔法で足場を悪くし、ツバキの動きを悪くしながら闘うルーカスが、僅かに分があるくらいだ。
久しぶりに、ツバキが苦戦している姿を見たなあと思っていると、ルーカスが動く。
「ふむ……このままだと勝負がつきそうにないな。そろそろ、終わらせるとしよう」
そう言うと、ルーカスは槍に魔力を込める。ハッとしたツバキは、地面を蹴り、ルーカスに一気に距離を詰めた。
何をするのか分かったらしい。抜刀術の構えで迫っていくが、ルーカスは笑みを浮かべ、槍を地面に突き刺す。
「細かい攻撃を与えても駄目だったな。ツバキ殿。EXスキルを使わなくて感謝する。大瀑布ッ!」
「ッ!?」
ツバキの間合いに、ルーカスが入ると思われた瞬間、突き刺した槍の辺りから、まるで高波のように大量の水が吹き出てツバキを襲う。
大量の水を相手にぶつける魔法で、俺もアヤメにやられたことがある。圧倒的な水の勢いに、ツバキはなすすべもなく押し流されていく。
「がはっ! ――!」
「そこだっ!」
水の中で足掻くツバキに向かって、ルーカスは飛び込んでいき、まるで魚のように素早く泳ぎながら、ツバキに向かって三叉の槍を向ける。
抵抗しようとするツバキだったが、流石に水の中では動きが悪い。あっという間に、槍の穂先に捕らえられ、地面に押し付けられた。
水が引いていき、思いっきり水を吐いた後、観念したように斬鬼から手を放す。
「はあ、はあ、はあ……ま、参りました」
「何の。なかなか楽しめたぞ、ツバキ殿。だが、咄嗟の動きには乱れがある。どんな状況にも、瞬時に対応できるようにな。
ちなみにだが、コウカン殿ならば、私に最後の攻撃は使わせずに勝負を決めていただろう。相手を傷つけずに、戦闘不能に追い込む力。それもまた、騎士の戦いの終わらせ方と言うものだ。今後も、励むのだぞ」
コクっと頷くツバキから槍を引き、立たせるルーカス。指導者としての一面も持ち合わせているようだ。
戦いのさなか、ルーカスが言っていたように、ツバキは目の前の敵に集中し過ぎる時がたまにある。相手を倒すという意思は、依頼に取り組んでいる時は良いことだと思うが、騎士としては、周りがどうなっているのかを気にしながら闘わないといけない時が来る。
無論、他の皆に指示を出す立場になった時は、その能力が発揮されることはある。
しかし、ツバキ自身が前線で闘い、考えていた以上の事が起こった時に、上手く対応できるか、今後の課題だなと感じた。
まあ、今回はEXスキルもエンヤもおらず、ツバキに余裕が無かった戦い方だ。
今回使わなかった能力を使えば、ツバキにも余裕が出て来る。その場合だと、騎士としての上手な戦い方というものは出来るだろう。
その後、ルーカスは他の騎士達に、ツバキの戦い方や動きを見習いつつ、真似できるものは真似しろと説き、ツバキは、教えを乞うてくる騎士達に、体の動きや、クレナで得た戦術などを伝えていく。
ツバキがここで働くのは、今日で最後だからな。聞ける時に聞いておこうという勢いで、ツバキは少々困惑した状態で騎士達の求めに応じていく。
結構忙しそうなので、俺達は、先にルーカスへの報告を終わらせることにし、俺達を案内してきた騎士に、武器の手入れをしていたルーカスへ取り次いでもらった。
俺達に気付いたルーカスは、笑顔で手を振り、俺達を執務室へと促していく。
向かい合って座ると、ルーカスはフッと笑いながら、コーヒーを口にした。
「いや、すまないな。少々疲れてしまった。ツバキ殿は流石、強いな」
「よく言う。勝ってたじゃねえか」
「私が本気で闘ったうえでな。それで、辛くも勝利だ。少々大人げない事をしたかな……」
ここで初めて気づく。本気だったんだな。本心を隠すことが上手いようだな。
EXスキルを使われていたら、師団員に面目が立たない結果となっていたと笑うルーカス。
ひとしきり笑った後、ルーカスは俺達の報告を受けた。
ノワール達に伝えた報告と同じ内容のものを伝え、更に、これからの計画を言うと、ルーカスも頷いた。
「ふむ。近海の安全が保障されたという事は喜ばしいことだ。しかし、三日前にも、海賊団にやられた船も見つかっている。ムソウ殿がここに居るとしても、活動は続けているようだな」
「あー、その事なんだが、難破船について、分かったことがあれば、良ければ教えて欲しいんだが……」
「構わん。少々待たれよ」
ツバキから聞いていた、騎士団が発見した難破船について、既に調べが終わっているらしく、詳細が記された書類と、数枚の写真を提示してくる。
その際、ルーカスはリンネを見ながら、少し刺激が強いと心配していた。ツバキからも、凄惨な現場だったと聞いているので、容易に想像がついたので、リンネをルイに任せ、俺達は書類を眺めた。
難破船は、十日ほど前に、モンクからシルバに出た船だった。リエン商会の荷を運ぶ船で、冒険者達が依頼の過程で見つけた財宝や素材、更に金品を運んでいたという。
乗組員は、船を操る者達、商品の管理を行う商人が数名、護衛の冒険者が数名と、小型の護衛船が二隻だったというが、今回見つかった難破船は、一隻。護衛船と、そこに乗っていた冒険者は見つかっていない。
ツバキの言っていたように、難破船は、海に浮かんでいたのが信じられないほどボロボロだった。船体には大きな穴が開き、何か、巨大なものに食われたかのように抉れていたり、割れたりしている。
そして、ツバキが顔をしかめていた船員達の遺体。体が真っ二つになった者や、首が無くなっている者、手足がおかしな方向に曲がっている者、穴だらけの者など、悲惨と言う言葉だけでは片付けられないほどのものが写っていた。
流石に、ダイアン達も見慣れない光景らしく、少し吐き気を催しているようで、顔を背けたりしている。
「ひでえ……」
「ああ。わかっちゃいたが、奴らに人の心というものは無いらしいな。これは明らかに殺しを楽しんでいるやり方だ」
「頭領……分かるの?」
リアの言葉に小さく頷く。ただ殺すだけなら、致命傷を一つ与えれば良いだけの話だが、写真に写っている死体からは、明らかにそれ以上の傷を与えていることがうかがえる。
ほとんどが白骨化しているが、そこまでしなくても良いだろうという思いが渦巻く。
……ただ、俺も昔は、このようなやり方で敵を殺してきた過去もある。あの時は、恨みをぶつける、発散させるという思いだった。
出来るだけ、恐怖と絶望を味合わせるやり方で、あいつらが、安備の民達にしてきたことを、やり返すという思いで殺していた。
そんな俺でさえも、ここに描かれている殺し方には、吐き気すら感じる。まるで、自分達の力を誇示するような意志が伝わってきていた。
ここで、海賊団のやり方に激高しても意味は無い。息を落ち着かせて、冷静に死体を眺めた。
中には、明らかに魔物のような爪痕が残っている者も居て、更に、ほとんどの死体は裸の状態だ。
これについては、恐らく装備を奪ったのだろうと、ルーカスは語る。金になるものはとことん奪い尽くすというのが、リオウ海賊団のやり方らしい。
そんなところも気に食わないと思いながら、資料と見比べたが、あることに気付いた。
「ん? 船員の数と、死体の数が一致しねえな。死体が少ないか?」
資料の中の、モンクを出航した船員の数と、写真の死体の数が合わない。もう少し居るはずだと首を傾げると、ルーカスが応える。
「寝返りか、奴隷商用に攫われたと見ている。護衛の冒険者のうち、女の冒険者の死体が無かったからな。寝返りについては、過去に確認された事例だ」
「というと?」
「過去に見つかった難破船にも、こう言ったことがよくある。死体となった者達が闘った形跡はあるのに、それ以外で、行方が分からなくなった冒険者が一切闘わなかったとみられ、恐らくは、海賊団に降伏したのではないかと……」
なるほど。海賊団の残虐性や強さを目の当たりにし、命優先で、海賊団に下った、もしくは身を売ったという事か。
言われてみれば、資料に記載された護衛の冒険者の中の名簿の中に、女も数人いるが、死体の中に、女のものはそれほど多くない。
商品になりやすい奴らは、そのまま奴隷に堕ちることが多いようだ。命があっても、辛い人生を送ることになるというのは何とも言えないな……。
現在は、この奴隷になったであろう者達の捜索を他の騎士団と共に行っているそうだが、見つかったとしても、海賊団についての情報を聞き出すことは難しいらしい。
魔法によるものか、別の要因かは分からないが、過去に助け出された奴隷も、騎士団やギルドの聴取を受けたらしいが、自分が何故、奴隷となったのか、その経緯が分からなくなっているそうだ。
中には、精神崩壊している者も少なくはなく、治癒院で治療を続けているそうである。
兎にも角にも、リオウ海賊団が思った以上に下衆な連中という事は改めて分かった。被害に遭った奴らのだけでも、仇を取ると誓った。
その他、気になったのは魔物の存在についてだ。写真から、海賊団が魔物を使役している事は明確となり、これにより、更に転界教との繋がりの可能性が濃くなった。
海賊団の調査を通じ、転界教の謎を明らかにというルーカスの言葉に、もちろん、と頷く。
さて、難破船については以上だ。ダイアン達からも特に気になることが出ることも無く、この話を終えた。
そして、今後はツバキが戻ってくることについての話を進めていく。
最初に決めていたように、ツバキは明日から俺の側で海賊団の調査を行っていく。
しかし、何か起これば、騎士団に加わって、職務を全うすることになっている。具体的にはアートルムの住民達を護ることであり、その際は、ルーカスの指揮下に置かれる。
ただ、ツバキがアートルムから離れた所に居る場合は、直ちに合流という事が出来ないので、その限りでは無いとルーカスは言うが、その時、リンネがスッと手を上げて、その時は、自分がツバキをここに運んでくると提案。
驚くルーカスに、リンネが人を乗せて空を飛ぶことが出来たり、その他様々な能力があると伝えると、少し戸惑いつつも、リンネの提案を受け入れた。
「ふむ……ツバキ殿から少し聞いてはいたが、リンネも防衛に特化した能力を持っているようだな。結界、狐火、幻術、魔法、そして、機動力……頼ることが多くなりそうだが、大丈夫か?」
「うん! リンネにまかせて~!」
「ハッハッハ! 心強いな。ムソウ殿もそれで良いか?」
「問題ないが……そもそも、街から離れている俺達に、街の事を伝える術はあるのか?」
「その時は伝令魔法を、ツバキ殿の「騎士の証」に飛ばす。本部から各地に散らばる騎士に指令を出す時に使うものだ」
なんでも、コクロの騎士団のように、海上に出ていることが多い班や、駐屯地の本部が置かれている街から離れた所にある駐在所などに、遠隔で指令を出す場合、本部から、その場を取り仕切る騎士が持つ、騎士の証の首飾り宛に伝令魔法を飛ばすことが出来るそうだ。
ただ、ツバキの首飾りは、ただの師団員用のものなので、今のままではそれを行うことが出来ない。
特別に、班長級の首飾りを用意するとのことで、この問題は解決。
ツバキが何処に居ようとも、アートルムで何か起これば、すぐに駆け付けられる体制が整った。
「ツバキ殿に関しては以上だな。今後も、調査の方は期待していると共に、こちらも手伝えることがあれば協力を惜しまない。ところで、ジーン様はいつ頃こちらに来られるか聞いているか?」
「あと三日ほどでクレナの用事が済むらしいから、そのくらいだな」
「承知した。上手く連携できるように、団員達の気を引き締めるようにしておこう」
十二星天と共に闘えるという事は、俺にとっては何でもないが、この世界の者達からすると、凄く名誉なことだ。
嬉しい気持ちは分かるが、それで浮足立つことも、委縮して動けなくなっても困る。
適度な緊張感を持たせるのは大変だが、何とかするとルーカスは苦笑いする。
実は、一番緊張するのは自分では無いかと、ある意味自虐的な事を言ってくるルーカスに俺達は笑った。
その後、日が暮れるまでルーカスと話していると、仕事を終えたツバキが、執務室に入って来る。
表情から、少し疲れている事がうかがえた。あれから、質問にあったり、戦い方の指導などを、後輩、同期、先輩問わず行っていたとのことで、疲れた様子で、ルーカスに一礼した。
「ふう……これまで、お世話になりました。今後もよろしくお願いします」
「ああ。まあ、今日ばかりはこちらが世話になったようだな。明日からも海賊団の調査が待っている。今日はゆっくりと休むが良い」
「そうします。さあ、ムソウ様。帰りましょうか」
「ああ。じゃあな、ルーカス。また、気付いたことがあれば、ツバキを通じて報告する」
そう言って、騎士団を後にした。家路についていると、ツバキは皆の新しい装いに感想を言っていたが、やはり、ハルキの槍には少々驚いている様子だった。
興味を示していると、構って欲しかったからか、リンネがミサキから貰った首飾りをツバキに見せつける。
最初は、綺麗なものを貰って良かったですね、と言う感想だったが、リンネが小さな獣の姿になり、本来の効果を知って、ハルキの槍以上に驚いていた。
「キュウ、キュウ~? (おねえちゃん、きこえる~?)」
「あ……本当に、聞こえますね……リンネちゃんの声がよく分かります」
「キュウ~! キュウ、キュウ~! (やったあ~! これで、もっとおはなしできる~!)」
「ふふっ、そうですね。ですが、私は、言葉が無くても、リンネちゃんの考えていることは分かりますよ。今は……お腹を空かせていますね?」
「キュウ~! キュ、キュウ! (せいか~い! おねえちゃん、すご~い!)」
当たり前です、と得意げに、ツバキはリンネの頭を撫でる。ただ、それは俺達も分かっている。何せ、さっきからリンネの腹の虫が止まらないからな。
やれやれと思い、少々急ぎ足で家に向かい、その途中、食料を大量に買った。
そして、家に戻った後はいつものように皆で晩飯を摂り、明日以降の打ち合わせを終えて就寝した。




