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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
407/534

第406話―装備が揃う―

 さて、次の日からも海賊団の調査を行っていくが、二日目の朝、モルガンから一つの提案が出された。

 リンネと俺が飛べるのなら、船に乗らずに、先に島に行って調査を初めてみてはどうかというものだ。

 これなら、時間も短縮できるし、その分、広く、詳しく調べられるという事で、俺は承諾。

 ただ、リンネは皆と船に乗りたいとのことだったので、俺だけが先に島に行く事になった。

 家の前で神人化し、先に海へと飛び立つ。今日は少し曇っていて、風が出ていたが問題なく、すぐに島に到着した。

 昨日の島よりは小さいし、もう一つの島も、すぐ隣に見える。ひょっとしたら、ダイアンに手伝ってもらうことも無いかと思いながら、島を眺めた。


 島には村が一つ。昨日の島よりは、規模が大きいように見えるが、それでも小さい方だった。

 昨晩、ツバキが言っていたように、冒険者が常駐していると思われる建物の他、朝から見回りに勤しんでいる冒険者の姿も見えた。

どのくらいの人数が居るのかは分からないが、あの規模なら少数でも大丈夫だろう。

 そう思っていた時、冒険者の一人が俺に気付いたらしく、俺の事を指差しながら、村人達と何か話している。

 まあ、こんな朝っぱらに空に人間が居たら、不審がるよなと思い、村に近づいていった。

 少し警戒の色を浮かばせている冒険者は、慎重に俺に近づいてきた。


「な、何者だ?」

「あー、驚かせてすまない。俺は冒険者のムソウだ。リオウ海賊団の調査の為、この領に来ている。今日はこの島と隣の島を調査するのでな。俺だけ、先にここに来た次第だ」


 腕輪を見せながら自己紹介すると、冒険者達はハッとした様子で、武器を引っ込めた。


「あ、アンタが、クレナの“死神”、ムソウ!?」


 ……ああ、やはりこの辺りの冒険者にとって、俺の異名は“死神”なのか。

 地味に、心のどこかで辛い気持ちになるが、気にしなければ良いだけの話だ。前の世界のように、勝手に言わせておこうと、腹を括り、動揺を見せないようにした。


「ああ。俺について、何か聞いているか?」

「あ、ああ。ギャッツ支部長から聞いている。しかし……アンタ、一人か?」

「さっきも言ったように、先に俺がここに来た。他の奴らは、後で、船で来るから、色々と手伝って欲しい」

「わ、わかった……それにしても……それが噂の、神人に成るってEXスキルか? 何とも、凄そうな力だな……」

「ああ、ありがとう。まあ、そういうわけで、俺はすぐに調査に移る。村には迷惑をかけないから、安心していていいぞ」


 そう言って、再び空に飛び立つと、冒険者達から、おお、という感嘆の声が漏れる。気を付けてな~、という言葉を背に受け、島の大部分を占める森林地帯を上から調べていく。

 と言っても、小さな島で、一つしかない村の近くに、海賊団の拠点など無いよなと、半ば諦めたような気持ちになっていた。

 ちなみに、魔物の気配は少ない。しかも、下級のものばかりだ。先ほどの冒険者のおかげなのだろうか。

 近づいただけで逃げていくし、わざわざ死神の鬼迫を放つまでもない。楽だなと思っているが、やはり魔物の気配しか感じない。

 やはり、探すなら海側と思い、森を抜けたところで小さいトウウに変化したリンネと合流した。


「お、島に着いたのか?」

「……」


 コクンと頷くリンネ。昨日のように、手紙を咥えている。開くと、村人への聞き込みは自分達だけでやるから、リンネは俺の手伝いにという内容がダイアンの字で書かれていた。

 これは、ダイアンの判断と言うわけか。リンネが居ることで、子供達にも話を聞きやすいと、昨日の様子から思ったのだが、大丈夫そうだな。


「じゃあ、行くか」

「……」


 再び頷くリンネに指示を出す。と言っても、飛びながら何か気になったことがあれば、教えてくれという簡単なものだ。

 一応、俺が一通り森は確認したが、リンネに気付くこともあると思い、この辺りの調査を頼んだ。

 俺は、島の周りの岸壁近くを飛んでいると伝えると、リンネは、わかったと頷き、森の中に入っていった。

 まあ、ここの魔物なら襲われることもないだろう。襲われても大丈夫だろうが、リンネを気にしつつ、俺は島の周りを飛び始める。

 そして、リンネの気配を探知しながら、他の気配を探っていく。誰かの気配を追いながら、他の何かを探すための気配を探る。やったことが無いが、やってみると意外と簡単だったな。

 リンネの方も順調そうだ。魔物に近づくことはあっても、闘うようなことはしていない。

 日ごろから、襲ってこないなら襲うなと言っているからな。下手にリンネが暴れて、生態系が崩れるようなら、また、ジーンにお小言を言われそうだ。

 もっとも、自分や皆に危害が及びそうなものなら全力で闘えと教えている。この様子なら、今日も大丈夫そうだなと思い、俺は俺の出来ることに集中した。


 しかし、島をぐるっと一周して調べてみたが、目ぼしいものは見つからなかった。リンネの方も、特に何も無かったようで、少ししょんぼりしている。


「まあ、この辺りは何も無いに越したことは無い。ある意味で、良かったと思っておこう。さて、ダイアン達と合流するぞ」

「……」


 リンネはコクっと頷き、俺の背中で変化を解いた。


「かえりはおんぶして~」

「やれやれ……しっかり掴まってろよ」


 そのまま俺達は村へと戻り、ダイアン達と合流した。皆はまだ、村の聞き込みをしているそうだが、得られた情報は、今の所、昨日とほぼ同じ内容のものばかりだった。


「ふむ……俺達も似たようなものだ。この分だと、次の島も同じ結果になりそうだな」

「それで、頭領……このまま、俺は、この村で聞き込みするんすか? それとも、次の島に行くんすか?」


 おずおずと聞いて来るダイアンに、ニカっと笑った。


「お前からそう言ってくれるとは思わなかったな。じゃあ、ここはリア達に任せて、俺達は先に次の島に行こう。リンネは皆を頼む」

「は~い!」

「はあ……結局、こうなるか。部分獣化ッ! フンッ!」


 俺の決定にどこか諦めた様子のダイアン。体中に力を入れて、背中から翼を生やした。

 飛べる準備は出来たという事で、俺達は次の島へと移動する。


「じゃあ、リア、ルイ、チャン、ハルキ、チョウシ、後は任せた。向こうの島に着いたところで、昼飯といこう」

「了解。じゃあ、ダイアン、頑張ってね」

「うぅ……不安だ……」

「ここまで何も起きてないんだから、大丈夫だろ」


 気軽にダイアンの肩をポンと叩くチャン。最後まで不安そうな顔をしていたダイアンを引っ張り、俺達は次の島へと向かった。

 空中に置いては、やはり、俺よりもダイアンの方が良い動きをしている。そして、島を移動する間にも、辺りに目を移しては、何か変わったものが無いかと探していた。


「どうだ? 何かあったか?」

「特に何も無いっすね。本当に穏やかっす」

「そうか……」

「そういや、頭領。今日も、変な気配とやらは感じるんすか?」


 急な問いかけに、首を傾げつつも頷いた。


「ああ。感じるが、どうかしたか?」

「部分獣化して、魔物に近づいた所為か、この状態になった時から、俺も、何か変なものを感じて……これがそうなのかと思って聞いただけっす」


 お……獣化して感覚が鋭くなったダイアンなら、気配を少しは探れることが出来るのか。

 ダイアンも、俺やリアが感じていた事を感じてくれるようになったようで、何となく安心した。それと同時に、ダイアンも力を付けていることに、途轍もない安心感を覚える。

 流石、闘鬼神の、冒険者達の纏め役だなと実感しつつも、どのように感じるか確認した。


「お前から見て、これはどんな感覚だ?」

「何つうんすか……例えば街中で、前から来ていた奴が、ふと、何か気になることがあって、俺の事をちらっと見ることがあるじゃないっすか? あの時って、少なくとも、俺に意識を向けているってことっすよね? まあ、一瞬だけっすけど。

 これは、その感覚がずっと続いているって感覚っすね」

「お、おう……上手い例え方だな。殺気とかではないよな?」

「殺気とかは、それこそ頭領みたいにガッツリじゃないっすか? けど、これは違うっす。様子を見ている……とも違うっすね。それよりも弱い意識の向けられ方っつうか、そんな感じがするっす」


 ふむ。ダイアンも俺達と同じ様な感覚らしい。俺達一人一人を、個人的に眺めているというわけでもなく、何か強い意識を向けられているわけでもない。

 ただ、何か、僅かに気になったことを俺達に気にされているという感覚だ。何かあれば、強い気配になるのだろうが、何をすれば良いのか分からないので、今のところは放っておいている。

 どうすれば良いかという顔をするダイアンだが、この件については、ツバキやジーンと合流後、俺にもう少し自由な時間が出来た時に調べてみると伝え、今のところは何もするなと伝え、こちらも気にしないようにすることにした。

 ダイアンは頷き、再び、次の島を目指し始める


 そして、島へと着き、この島の村へと降り立つと、再びそこの冒険者や代表者に驚かれたので、事情を説明した。

 調査について了承を得て、ダイアンが村の冒険者と共に聞き込みを行うという事で、俺の方は、村の外の調査へと赴いた。

 一応ではあるが、冒険者の力を視てみたが、何かあってもダイアンなら大丈夫だと言いたいくらいの力だったので、特に気にしなかった。何も気にせず、島を観察していく。


 こちらの島は、少し小高い山が幾つもあり、魔物の気配も、中級のものがちらほらと感じられた。

 流石に上級は居ないが、先ほどの島よりも数は多いようだった。

 この、魔物の気配の中で海賊団の気配を探るというのも難儀な話だよなと思ったが、結局、それは杞憂に終わり、この島の森林や山に掛けても、海賊団に関するものは見つからなかった。

 一応、今日調べる予定の島の探索は終わった。リンネにも言ったが、これで良かったと言えば良かったと思いつつも、何となく気が抜けてしまい、思わず頭を掻いてしまう。

 山の上の、この島から海の方まで見渡せる大岩の上に座り、アートルムから昨日の島、今日の島から、その先の島々を眺めた。

 一応、ここから見える範囲ギリギリの島の辺りが、所謂安全地帯で漁師達の仕事が出来る範囲であり、それより向こうが海賊団の被害が多いとされる海域だ。

 そこを安全に通ることが出来れば、コクロから王都へ直接向かうことが出来るのだが、今は、モンクを経由しなければ、コクロから王都に向かう事は出来ない。

 可能性としては、あの海域に海賊団の拠点があると思われる。だから、あちらから解決した方が良いと思うんだがな。

 まあ、これもジーンと合流した時に考えた方が良いか。こちらから、ダイアン達とジーンが調べていき、向こうから俺が調べるという事も出来るだろうし。

 調査はまだ二日目だ。気長にやっていくとしよう。

 気長にさせてくれるとありがたいんだがな……。

 セインやリーが、まだ終わらないのかと、色々とちょっかい出してきそうで心配なんだよな。

 コクロの民達に言われるのは覚悟しているからまだ良いが、あの二人に言われたら、流石に俺も、我慢できるのだろうか。皆も居る手前、きちんと自制できるように、今のうちから、そんな状況を想定しておいた方が良いかも知れないな。


 さて、ふと見ると、モルガン達の船がこの島に着いていることを確認する。そろそろ皆と昼飯を食おうと思い、村へと戻った。

 そして、桟橋の所で既に昼食を摂っていた皆に近づいていく。どうやら今日は、モルガン達が昼飯を分けてくれたらしい。この村にはそういう店が無いようだ。

 ありがたいことだと思い、漁師から焼き魚とおにぎり、みそ汁を貰って、皆の輪の中に入った。


「うっす。先に頂いてるっす」

「おう。結局、その後はどうだった?」

「全然ね。村人達から聞いた話も、冒険者の話の内容も、昨日の島とほとんど一緒よ。頭領の方はどうだった?」

「俺の方も何も、だ。島が平和だという確証が認められただけ、マシだと思いたいが……」

「やっぱ、地道にやってくしかないっすね」


 ダイアンの言葉にため息をつきながら頷く。アートルムから離れたところから調べようと言おうと思ったが、まずは、コクロ領民達の安全確保が大切だ。

 手がかりが得られないとは言え、このまま地道にやっていくしか無いか。


 さて、今日の仕事はこれで終了だ。昼飯を食べた後、どうしようかと話していたが、モルガン達が漁をしたいという事だったので、午後は、モルガン達の漁を手伝って一日を終えた。


 そして、家に帰った後、今日は俺達よりも遅れて帰ってきたツバキに、沖合の海の様子を尋ねてみた。


「何か変わったことはあったか?」

「はい。この辺りではあまり感じない、魔物の気配を感じました。遭遇はしませんでしたが、超級の魔物のような、強い気配です」

「海に出れば居るんだな」

「それと……」


 ツバキは少し暗い顔をして、口をつぐんだ。何か、言いづらいことがあるようだ。


「何だ?」

「……難破船を発見しました」


 ツバキ曰く、コクロ師団のヴィクソン達と共に、巡視についての説明を受けている際に、見張りの人間から何かを発見したという報告が上がった。

 洋上に浮かぶ、一隻の船。船体には穴が空き、帆は破れている。さまようように、風と波に身を委ねるように、海上を進んでいた。

 難破船だと確認した騎士団は、船を寄せて、その船を調べる。

 しかし、声を掛けるも返事は帰って来なかった。仕方なく乗り込んだが、そこで、この船がどうなったかを知る羽目になる。

 甲板や船内に残されていた血痕と荒らされたような跡、それから、乗組員だった者達の死体。しかも、かなり腐敗が進んでいたそうで、一部白骨化しているものもあったようだ。

 船室には船の調度品は勿論、積み荷などは無く、このことから、その船は何らかの存在に襲われたものと判断され、荷が無くなっていることから、リオウ海賊団の仕業という事が確定された。魔物は、人間の命を狙うが、荷物に興味は無いからな。


 思いもよらない所から、海賊団への手がかりが出たと思い、ツバキに詳しく聞いていった。


「その船は今、どこにあるんだ? 明日、俺も詳しく調べたいんだが」

「船は、騎士団が管理する港の区画に係留されていますが、現在、船と、乗っていた方々の照合作業が行われていますので、明日すぐにという事は難しいです」

「そうか……船は、どういう感じにボロボロだったんだ?」

「船体の穴は、大砲が撃ち込まれた痕という事が分かりました。その他、魔物の牙の痕のようなものもありましたので……」

「海賊団は魔物を従えているという事か……?」


 俺の問いに、ツバキはコクっと頷く。そして、魔物の存在を仄めかす他に、死体の中には、縦に斬られて、右半身だけになったものや、バッカス達の仲間の一人、アイリーンが持っていたような武器、銃で撃たれた痕もあったらしく、それなりの強さと残虐性を持つ者達の仕業だという事が容易に想像できたという。


「嫌なものを見たな……」

「ええ。まあ、これも仕事ですので……」


 そう言いながらも、ツバキの顔色は悪い。よほど、凄惨な光景だったのだろう。

 少しまいっているようだ。明日も早いし、今日はもう、ゆっくりしておけと言って、ツバキを寝かせた。

 そして、晩飯を食った後、皆にもツバキの報告を伝え、話し合った。


 自分達が調査を行っている間に、海賊団の被害が確認されたという事に、少し、悔しい思いをしていたが、報告によると、死体はかなり前のものの様だから、恐らく、俺達が来る前のものが、偶々、今日分かっただけと言って、落ち着かせる。

 海賊団の被害を目の当たりにして、今後の行動に変化があるかとリアに尋ねられたが、今日の騎士団の発見により、領民達の、海賊団への不安は更に高まると思われるので、寧ろ、これからも、人が住んでいる場所から確実に済ませておくと決定した。

 そして、騎士団の照合作業が終わり次第、俺達も船を見させてもらうという事にして、その日の会議を終えた。


 ◇◇◇


 それから、ツバキが騎士団の仕事を終えるまでの間に、人が住んでいる場所の調査を終えていく。俺とダイアン、それにリンネが空を飛べる利点を生かし、島を移動した後は、リア達が島の村を調査し、俺達が、その間にその島全体を探索し、更に他の島に移動して、という作業を繰り返す。

 そして、一日当たりに調べる島の数も増やしていき、五日目の探索の段階で、領民が住んでいる区域、漁師達が仕事をしている海域が今まで通り安全である可能性が高いという確証を得ることになった。


 一応、調査に一区切りがついたという事で、ノワールとギャッツに結果を報告する為、ノワール邸を訪れる。

 二人とも、海賊団の痕跡は見つからなかったという事実に落胆するも、少なくとも、アートルムの近くの安全が保障された事については安堵していた。

 ノワールは俺達の報告に頷き、地図を開いて、俺達が最後に調べた島を指しながら口を開く。


「たった五日で、ドゥーズ島まで調べるとは驚きだ。次の島、トレイズ島からは、無人という事で、魔物の数も強さも高まる。まあ、気を付けるんだぞ」

「ああ、分かってる。超級以上は、倒しても良いのか?」

「トレイズ島に関してはな。今後、ここにはギルドと騎士団合同の常駐所を築くつもりだから、徹底的にやってくれ。ただし、それ以降の島は、超級は良いにしても、上級の魔物は残して欲しい」


 ノワールによると、保障された領民達の安全な生活を護る為、そこから先の島々のうち、最初の島に、防衛線を張り、魔物の侵入などを防ぐ拠点を作りたいとのことだ。

 それは、アートルムから見て十三番目の島であるトレイズ島に作られる。

 よって、安全に騎士や冒険者達が移住できるように、強力な魔物は倒して欲しいとのこと。

 十四番目の島からは、海賊団の一件が解決次第、他の冒険者達に仕事を割り振るようにと、上級くらいまでの魔物は残して欲しいと、ギャッツから申し出された。

 俺達は分かったと頷くが、少し心配な事がある。

 それは、これからは闘う事が増えるに当たり、ダイアン達の装備が、未だに間に合わせだという事だ。

 一応、ダイアン達も、牙の旅団の武具ならば、上級の魔物は余裕、超級の魔物も全員でかかれば倒せそうだが、今のままだと少し心許ない。

 俺とリンネ、ツバキで闘えば良いのだが、今回はダイアン達の成長もしっかりとやっておきたいと、俺も、皆も思っている。

 魔物退治は、もう少し先に延ばした方がと提案すると、ノワールは何故か、ニッと笑みを浮かべた。


「話は分かった。しかし、どうやらその心配も無さそうだぞ」

「ん? どういうことだ?」

「何と言うか、仕事に一区切りついた時機が丁度良かったと思った方が良い。アンタらの中に、強運の奴でも居るのか?」


 ノワールの言葉に、俺達は思わず、ハルキに目を向ける。何のことだ? と首を傾げるハルキ。

 言っている意味が分からないと思っていると、ノワールは、隣の部屋に続く扉に顔を向けて、口を開いた。


「こちらの話は一区切りつきました。どうぞ」


 突然、丁寧な口調になるノワールに少々驚いていると、扉が開き、そこから、現在も世界中の街の外壁を強化する作業を行っているコモンが姿を現した。


「コモン!?」

「どうも、皆さん。お疲れ様です」

「な、何で、ここに居るっすか?」


 呆気にとられるダイアン達にニコッと笑い、コモンは異界の袋を取り出した。


「頼まれていた、皆さんの装備の強化が終わったので持ってきました。勿論、頭領の手甲などもありますよ」


 そう言って、コモンは異界の袋から、皆の武具を取り出していく。以前見たものとは、大きく見た目が変わっており、そこから伝わる力も比べ物にならないくらい強く伝わってくる。

 また、コモンは九頭龍や壊蛇、カドルの素材を使った防具も持ってきていた。

 俺の手甲も、ベヒモスの骨を使ったものよりも強くなっており、鑑定スキルをつかって視ると、ほとんどが魔刀級だった。

 並べられた逸品の数々に、俺達はともかく、ノワール達も目を見張っている。

 コモンは、ダイアン達の装備を何故かジーっと見ているリンネにも、笑顔を見せながら口を開いた。


「あ、リンネちゃんにもありますから、安心してください」

「ほんと~? やったあ~!」


 両手を上げて喜ぶリンネ。なるほど。自分にも何か欲しかったんだな。

 そして、リンネにも、何かを用意していると言うコモン。

 外壁強化の傍ら、また、頑張り過ぎたのかと聞くと、いえいえと、首を振った。


「以前にも申し上げましたが、天宝館の職人にも、外壁強化の作業を手伝ってもらっておりますので、僕にも自由な時間が増えたのですよ。ですから、ヴァルナさんを始め、クレナの職人達と一緒に、皆さんの装備もすぐに強化することが出来ました」

「そうか。まあ、疲れてないのは良いことだ。じゃあ、どんなものが出来上がったのか説明してくれ」


 はい、と頷いたコモンは、まるで、好きなものを自慢する少年のように、持ってきたものの説明を行っていく。


 まず、俺の装備には、カドルとアティラの鱗や牙を中心に使われており、ベヒモスの骨とは比べ物にならない強度をもっている。

 生半可な攻撃は効かないばかりか、身体能力向上の効果は勿論、気功スキルの効果を上げる効果を底上げしており、無間と合わせて、天界と冥界の波動の威力も上がるようにしたとのこと。

 ますます遠距離に対応した攻撃の威力が上がることを確認し、更に、耐久力も上がったことを嬉しく感じた。


 ダイアン達の装備も、カドルからの素材を軸に、それぞれ強化が成されていた。

 ダイアンの装備であるソウマの手甲「仁王」は、ダイアンの要望通り、獣人化に伴い、大きさや形状を変えることが出来るようになっている。具体的には、部分獣化によって、太く、長くなるダイアンの指や爪に、手甲が纏うようになり、攻撃の強化と防御も出来るようになっていた。

 更に、ダイアンは膝当て、脛当て、鉄靴も用意されており、こちらも、鳥の脚のようになるダイアンの獣化に合わせて形を変える。鎧も合わせて完全獣化すると、武装した鳥人間のようになるという事で、その姿を夢見て、ダイアンは、期待に胸を膨らませていた。


 リアの装備であるエンミの弓「与一」は、こちらも要望通り、さまざまな状態異常を付与できるようになっている。矢摺の部分に仕組みがあり、込める気の量や質を変えることで、麻痺矢や、毒矢を撃つことが出来るようだ。緻密な気の操作が出来るリアなら上手く扱えそうだ。

 そして、少ない気でも簡単に矢を創り出せるようにもしたらしく、リアが望んでいた速射が容易に出来るようになっている。

 弦を張り、調子を確認したリアは、満足そうに腰に下げた。


 ルイの装備であるシズネの鞭「龍尾鞭」は、強度を上げたと共に、ルイ自身の耐久力が上がる効果を付与したという。

 この、強度を上げたという言葉。どれくらいなのかと聞くと、極めれば、鋼鉄の鎧を貫く程の威力を出すという。

更に、破山大猿でも引きちぎれないほどの強度だということで、一体、何を使ったのかと聞くと、カドルの髭と、ベヒモスの鬣、更に、壊蛇の鱗からわずかに剥がれた皮を繊維状にしたものを縒り合わせ、更に様々な繊維を加えたとのことだ。

 使う素材が多い程、付与効果も多く与えることが出来たとのことで、この他、様々な効果を持つというコモンの言葉に、ルイは喜んでいた。


 チャンの装備であるコウシの刀「阿修羅」は、少し軽くなっており、良く動くチャンに合わせたものとなっている。

更に、カドルの素材の力を引き出し、ジゲンのように、雷の力を使い、さらに素早く動くことが可能となった。

 それにより、チャンは、闘鬼神の中でツバキに次いで速く動くことが可能となり、戦闘面での幅が広がった。

 その場で抜刀し、何度か素振りをした後、良い感じだと頷いていたが、危ないので辞めさせた。


 チョウシの装備であるチョウエンの刀「金剛力」は、無間のように幅広の刀となっている。重量も増し、打撃武器のように、斬るというよりも、叩き潰す武器として強化されている。

 チョウシの怪力に合わせ、身体能力向上の効果もあり、自在に使えるようではあるが、中級の魔物の素材に関しては残らない可能性が高いらしい。頭領と一緒っすね、という言葉に、微妙な思いとなった。

 形状やチョウシの戦法から、ゴウキと同じ様なものかと考える。アイツに教えたように廻旋刀が使えれば、チョウシの戦法の幅も上がるかも知れない。後で教えておこう。


 さて、牙の旅団の武具の中で、一番見た目が変わったなと思ったのは、ハルキの装備であるロウの槍「覇槍」だ。柄から穂先まで、カドルを模した龍が描かれており、刃の部分は常に薄青く輝いている。

 少し魔力や気を込めるだけで電撃を纏い、意識するだけで、雷を任意の場所にぶつけることが出来るらしい。

 合わせて貰った小手は、俺の手甲のように、火炎鉱石や氷冷鉱石を持つことが出来、雷光鉱石も手で持つことが出来る為、何も気にせず、この槍を持つことが出来るそうだが、手入れは大変そうだなと感じた。

 しかし、カドルの角で出来た、槍の穂先はそう簡単に傷つくことは無い。龍の彫り物を入れることが難しかったとコモンは苦笑いする。

 鑑定スキルを使って視てみたが、無論、神刀級だった。

 覚悟はしていたが、やはりか……。ハルキは、こんなもの貰って良いのだろうかという顔で戸惑っている。

 ちなみに、この槍で「奥義・龍尾一閃」を放つと、今後の鍛錬次第では、超級の魔物でさえも、一瞬で塵となり、災害級の魔物でさえも、痛手を負わせることが出来ると、コモンは語った。

 紛れもなく、俺やエンヤを除いた闘鬼神の最高攻撃力である。戸惑うハルキを元気づけるように、俺達は、上手く扱えるようになれよと、肩に手を置いた。


 牙の旅団の武具には、それぞれ、天界石と冥界石が使われているそうで、コモンが製造を任された、邪神族に対抗できる武具となっているという。扱う者が扱えば、天災級の魔物でさえ倒すことが出来るものということで、ハルキ以外の者達も、少し驚いたような目で、自身の武器を見つめた。

 しかし、そこに宿る者達が、これまで、厳しい鍛錬を与えてきた牙の旅団の者達という事を思い出し、改めてよろしくお願いしますと、頭を下げていた。

 このほか、コモンはそれぞれに合う、第二武器のようなものも持ってきていた。ダイアンには、九頭龍の牙で出来た刀、リアには短刀と言った具合に、更に状況に応じて、闘えるように準備を整えてくれている。


 また、コモンが持ってきたものの中には、武器以外のものもある。ダイアンの装備以外にも、リア達の防具や着物も強化、新調されていた。

 見た目にこだわるルイに用意されたものも、女性らしい綺麗な模様があしらわれており、ルイは喜んでいたが、全員の装備に、壊蛇、九頭龍、迷彩龍、カドルの素材が軸に使われており、十二星天が使っているものと同じくらいの装備に、闘鬼神で良かったと、全員が、感動したような顔をしていた。


「本当に、ありがとうございます。コモン様」

「いえいえ。僕の装備で、海賊団の件を解決してください」


 何気に放ったつもりだろうが、今日までの調査の結果を考えると、俺達も苦笑いしながら、黙って頷くしかない。

 まあ、今までは装備も本式ではなく、少し慎重になっていたし、領民達の聞き込みが主だったが、これからの相手は魔物か海賊だ。

 今までに比べて、幾らか俺達の自由に出来ると思っている。コモンの期待にも、しっかり応えるようにしようと、ダイアン達と頷き合った。


 そんな様子に、コモンは何かを察したのか、フッと笑って口を開く。


「やはり、難航しているみたいですね。僕も力をお貸ししたいところですが……」

「いや、気にするな。お前にもやることは多いみたいだし、何より、ジーン以外の十二星天が関わったとなると、セイン達に突っ込まれるだろ? お前からの協力は、この装備ってことで受け取っておく」


 そう言うと、コモンは安心したように頷いた。


「はい。気を遣っていただき、ありがとうございます。あ、そうそう。ジーンさんですが、あと三日ほどで、皆さんに合流できるそうです」

「そうか。まあ、俺達に気遣いは不要だから、焦らなくても良いと――」


 ジーンも、大事な調査を行っている。焦っておろそかにしないで良いと言おうとすると、コモンの袖をリンネが引っ張った。


「ねー、ねー、コモンくん……リンネのは?」


 もの欲しそうな顔でねだるリンネ。コモンが言っていたお土産とやらを早く確認したいようだ。

 無理もないか。俺達がこれだけ良いものを貰ったのだからな。

 コモンはハッとした様子で、懐から何かを取り出しながら、リンネの前でしゃがんだ。


「すみません。少し、話が盛り上がってしまいました。え~と、リンネちゃんにお渡ししたいのはこちらです」


 そう言って取り出したのは、何かの首飾りだった。細かな装飾が施された台座に、何か、宝石のような小さな玉が付いている。

 リンネは不思議そうな顔で、首飾りを眺めた。


「これ、なーにー?」

「こちらはですね、僕が、と言うより、ある人から、リンネちゃんへの贈り物です」

「ん? だれ?」

「ミサキさんですよ」


 コモンの言葉に、リンネの目が見開いていき、嬉しそうな顔になっていった。


「え!? ミサキちゃんがくれたの!? リンネに!?」

「はい。頑張っているリンネちゃんに、プレゼント、とのことです」


 わーい、と両手を上げて喜ぶリンネ。

 コモンによると、マシロを離れてからのリンネの成長を、天上の儀にてロロから聞いて喜んだミサキが、お祝いにと用意してくれたもののようだ。

 喜ぶリンネとは対照的に、コモンと違う十二星天であるミサキが用意したものと言うことで、ダイアン達やノワール達は呆気にとられていた。

 俺は、一体どんなものを用意したのか、変なものじゃねえだろうなと、少し疑いの気持ちを抱きつつ、ミサキらしいな、とアイツに感謝する気持ちで首飾りを眺めた。

 一体、どんな効果があるのだろうかと考えていると、コモンはリンネに説明した。


「では、リンネちゃん。こちらの首飾りの説明を行います。まず、普通に首から下げてください」

「はーい! よいしょ、と……にあってる?」

「はい。よく、お似合いです。そして、そのまま、いつもの獣の姿になってください」

「ん? おっきいの? ちっさいの? べつの?」

「どれでもよろしいですが……そうですね、分かりやすいので、小さい姿からお願いします」

「うん! ……キュウッ!」


 コモンの言われるがまま、リンネは本体の姿となる。初めて見る、リンネの本来の姿に、ノワールとギャッツは多少驚くが、他の者達と同様に、可愛いと思ったのか、少し微笑ましい顔となりながら、これから何が起こるのかと期待していた。

 俺達も、コモンを待つように黙って、リンネを見守る。


「では、リンネちゃん。その姿のまま、ムソウさん達に話しかけてください。その際にですね……」


 コモンはコソコソと耳打ちするように、リンネに囁いている。一体、何を話しているのかという俺達の前で、リンネはうんうんと頷きながらも、少し驚いた様子で、コモンの顔を見つめた。

 問題なしと、コモンが頷くと、リンネは俺の前まで来た。

 一体、何をするのかと思っていると、リンネはニコッと笑いながら、口を開いた。


「キュウ、キュウ? キュウ? (おししょーさま、わかる?)」

「「「「「え……?」」」」」


 ニコニコとした顔のリンネの前で、俺達は驚く。普段の声に重なって、頭の中に獣人化した時のリンネの声が聞こえる。

 皆の様子を見る限り、ダイアン達も聞こえたようだ。いつの間にか成長しているというのが、リンネの専売特許だが、獣のままで人の声を出せるようになったのかと、少し戸惑った。

ただ、尾も増えていないし、先ほどのやり取りから、それは違うとすぐに分かった。


「ど、どうなってんだ? リンネの声が……」

「あ、聞こえたようですね。良かった」


 戸惑っていると、コモンが安心したように胸を撫で下ろした。

 自分の言葉が俺達に届いたことを確認したリンネは、嬉しそうに飛び回り、俺の肩に上って、頬ずりしてくる。

 一体、どういうことかと尋ねると、コモンが渡した、ミサキからの首飾りは、かつて、ミサキが使役している召喚獣、四神の声を聞くために生み出したものとのこと。

 自分の思念を魔力に乗せて、相手の頭の中に言葉を伝えるというものだ。


「ですから、この魔道具を使って、ムソウさん達と「話す」ということは、魔法を使っているのと同じという事です。なので、多用は出来ません。そこは、気を付けてくださいね」

「キュ~ウ~! (は~い!)」


 コモンの言葉に、前足を上げて頷くリンネ。ちなみに、この姿だけでなく、大きな獣の姿でも、変化した後の姿でも、リンネの言葉が分かるようになるらしい。

 しかも、自分が言葉を伝えたい相手にのみ、この効果を及ぼすことが出来るようで、コソッと話すことも出来るという。

 距離には限界があり、少なくとも、自分の魔力が届くまでの距離で無いと使えない、更に、話したい相手が目に見えるところに居ないと、特定の相手には使えないという難点があるが、魔力を放出するのに合わせて、強く念じると、通常で言うところの、大声を出すという事になり、この場合、魔力が届く範囲の全ての生き物に、リンネの声が聞こえるとのことだ。

 試しにと、ひとまずこの部屋中に魔力を放出する感覚でリンネが声を上げると、先ほどまでは何も反応していなかったノワールとギャッツも、リンネの声に反応した。


「おお、今なら聞こえたな。これなら、ムソウ殿の従魔が助けを求めた時などにも、すぐにムソウ殿が駆けつけることが出来るだろう」

「しかし、不思議な魔法もあるもんすね。声を魔力に乗せるとは……」

「実は、天上の儀などでも使われていた拡声魔法の魔道具と同じ原理ですよ。あれも、音を魔力に乗せて、声を遠く、広く届かせるようにしたものですから。

 頭の中に伝えるというのは、念話の魔法を構成する魔法陣をミサキちゃんが解明し、それを僕がこの台座に付与したので、出来た事です。また――」

「あ、もう大丈夫です。コモン様……」


 首飾りについて、長々と説明しようとするコモンをギャッツが止める。既に頭の中が、いっぱいいっぱいの様だ。

 俺も、同じ気持ちだが、ミサキの魔法とコモンの技術で、リンネの声が聞こえるということで充分だった。

 これで、リンネの背に乗って空を飛んでいる時も、リンネを会話することが出来るし、今みたいに、島を調べる際、リンネが何かを見つけたら、声を掛けてもらえれば、すぐに向かうことが出来る。

 何かのきっかけでリンネと離れ、リンネに何かあっても、助けを求められれば、俺とツバキ、リアならば、気配を追って助け出せることが出来る。

 無論、言葉が聞こえなくても、言いたいことが伝わることは多いが、今までに比べて、これはかなり楽だ。

 ただ、コモンの言うように、多用は出来ない。その辺りは、しっかり自分で管理するようにと言うと、リンネは、うん! と言いながら頷いた。


「この調子で、その姿のままでもトウガ達みたいに、話せるようになるんだぞ」

「キュウ! キュウ、キュ、キュウ! (うん! リンネ、がんばる!)」


 いつも以上に、リンネの考えていることが伝わり、俺達も楽しくなってきた。

 そのまま、色んな姿に化けてもらっては、魔道具の性能を確かめつつも、楽しんでいた。


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