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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
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第405話―ツバキの仕事の話を聞く―

 家に着いたら、全員、風呂に入ったり、晩飯を作ったりと、それぞれの行動をしている。

 昨日問題だった、風呂が一つという問題を解決するために、俺は外に置いた風呂に水を張り、光葬針を入れて聖なる水を作った後、火炎鉱石で風呂を温めた。

 これで良しと思い、次に取り出したのは、昼間獲ってきたデカい貝、人魚の揺り籠だ。岩を並べて、その上に貝を置き、薪をくべて貝を焼いた。

 ただ、貝が大きすぎるので、火力が心配だった。何をやっても、貝がうんともすんとも言わなかったので、薪を増やす。

 これで良いのだろうかと思っていると、貝を眺めている俺の隣に、リンネがやって来る。何をやっているのか気になったらしい。


「おっきなかいだね~」

「ああ。美味いらしいんだが……これだと出来るのは夜中になりそうだな」

「じゃあ、リンネ、がんばる!」


 今晩中には食べられそうにないかなと思っていると、リンネは手を掲げて火球を生み出し、人魚の揺り籠の上部分に当てた。

 これで、下からと上から、両方から火を当てることとなり、調理時間はぐっと減る。

 しかし、リンネの魔力が尽きるのも困るので、貝の上に薪を置いて、リンネの炎で燃やしてもらうことにした。

 ジッと、貝の様子を見ていると、しばらくしてゆっくりと口が開き始める。その瞬間、貝の濃厚な匂いが漂ってきて、更に食欲を駆り立てられた。


「おいしそ~……」

「ああ。本当に良い酒の肴になりそうだ」


 貝の汁は、吸い物にも使えそうだし、チラッと見える身は、どれだけ食べても飽きそうにない。

 今日の晩餐は楽しみになりそうだと思い、更に貝の様子を見続けていた。

 時折、中から漂ってくる匂いが、少し焦げ臭くなっていることに気付き、上の薪は払い落した。ここまで来れば、下からの火だけで充分みたいだ。


 そして、徐々に貝は開いていき、大きく跳ね上がるように、貝の蓋が開かれ、立派な貝柱と分厚い貝ひもが巻かれた身が、姿を現した。


「やった~! 開いた~!」

「よしよし……さて、これを中に運びたいが……」


 ようやく、貝の焼き物が出来たという事で、中に持っていきたいが、そもそも貝が大きいので無理そうだ。異界の袋に入れて、中で出そうにも机に乗らない。

 すると、リンネが家の中から、ツバキと共に大きな皿を持ってきた。


「おししょーさま! これ、もってきた~!」

「あ、リンネちゃん! それは……」


 少し困った顔をするリンネ。それもそのはずで、二人が持ってきた大皿は、居間に飾り物として置かれていた皿だ。大きさもさることながら、綺麗な絵が描かれているので、高価なものだという事はすぐに分かる。


「流石に、それは駄目だな。戻してこい、リンネ」

「え~、じゃあ、どうするの~?」

「切り分ける。ツバキ、手伝ってくれ」

「はい、ムソウ様」


 結局、何枚かの皿に貝を切り分けるという事で落ち着き、リンネが大皿を元に戻している間に、ツバキが持ってきていた皿に、人魚の揺り籠を切り分けていった。

 貝の身が大きいので、貝柱は無間で斬り、切り分けは、ツバキが斬鬼で行った。エンヤも、刀の中で、こういうことに使われるとは思っていなかっただろう。

 それを思うと、ツバキと共に笑えてきた。二人で楽しく作業をしていると、貝を切り分けていたツバキが声を上げる。


「あ……ムソウ様、こちらをご覧ください」

「ん? お……これは、真珠か?」


 貝の身の中から、俺の拳よりも大きな、丸い球が出て来る。見た目から真珠の様だ。ツバキに尋ねた所、これは、人魚の揺り籠特有の真珠、「人魚の涙」というもので、高値で取引されるものだという。


「珍しいものなのか?」

「はい。ここまで大きいものは、金貨10枚ほどで取引されますね。明日、ギルドで換金しましょうか?」

「いや。珍しいものなら、帰ってコモンやジゲン達に自慢したい。これはとっておこう」

「フフッ、そうですね」


 金儲けよりも、ちょっとした見栄をとった俺は、人魚の涙をそっと傷つけないように取り出し、丁寧に拭いた後、異界の袋へと仕舞った。

 その後、全員分のを切り分けた(ルイのものは少なめした)後、残った部分は明日の朝飯に使いたいとツバキに言われたので、大きな鍋の中に入れた。

 貝殻の方は、明日、ツバキがギルドに持っていくと言ったので、綺麗にした後、俺は風呂に入った。


「煤だらけになっちまったな」

「しっかり、落としてきてくださいね」


 ツバキに笑われながら、家の外に置いた風呂に入った。前に入った奴が屋根を開けたままにしていたので、俺もそのままで風呂に入る。

 月明かりに照らされた海と、星が見えて、本当に良い場所だなと感じた。いっそ、貴族から買い取って、クレナの皆と……って、駄目だな。全員で使うとなると狭すぎる。

 ここでも、コモンの力を借りて増築しないといけないな。邪神族を倒して暇になったら、頼んでみよう。クレナ以外に、色んな所に別荘を建てて、気晴らしに皆で遊ぶというのも悪くないかも知れない。

 コクロ、モンク、マシロは確定だな。コクロは良いところだし、モンク、マシロは、ツバキが師団長になるかも知れないからな。

 マシロにはリンネの故郷があるし、偶に帰るのは良いかも知れない。あの、オウガ達が、俺を出迎えてくれるかどうかは、微妙なところだがな。


 さて、その後、体を洗い終えて、風呂から上がると、既に居間で皆が飯を食っていた。


「お疲れっす~。先に食ってるっすよ~」

「何時の間に、こんな美味いもん見つけたんすか?」

「皆と別れた後だ。飛んでいたら、すぐに見つけられたよ」

「今日は、頭領、美味しいものしか見つけてないわね」

「というか、私のお皿……少なくない?」

「気のせいだろ。それより、ツバキ、この実は食ったか?」

「はい。とても甘くて美味しいですね。街でもお見掛けしましたが、一個銀貨一枚ほどでしたよ」

「街でも結構行くんだな。島の方が若干安かったが、それでも――」

「おししょーさま、たべないの?」

「ああ、そうだな。俺も、晩飯にしよう」


 などと話しながら、席に着き、飯を食い始めた。焼いていた貝は、濃厚で噛めば噛むほど甘みと旨味を含んだ汁が、ジュワっと口の中で広がり、何とも米が進むような味わいだった。

 貝柱はそこまで固くなく、簡単に裂けるので、リンネは面白そうに両手で引っ張っては口に運んでいる。

 おかげで、今日も口周りと手が汚れていた。


「ちゃんと、切り分けますから、手を拭いてください」

「は~い」

「そう言えばリンネちゃん。コウカ様のお人形と簪は大事に持っていますか?」

「うん! ここにはいってる!」


 リンネは懐から、簪とコウカの人形を取り出した。そう言えば、首から下げていた訳では無かったので、俺も忘れていた。

 ずっと、懐に入れていたそうだが、リンネが服の中に入れたものは、変化した時にどこに行くのだろうか。

 少し考えを巡らせたが、あまり気にしない方が良いのかも知れない。ひとまず、絶対に落とさないという事なので、リンネの事を信じることにした。


「ありがとうございます。騎士団の仕事が終わるまで、後四日。それまで、よろしくお願いしますね」


 ツバキの言葉に、リンネは嬉しそうに頷き、コウカの人形と簪を側に置いた。晩御飯は楽しいから、出したとのこと。

 コウカの声は聞こえないが、話を聞かせてやることは出来る。そう思い、飯を食いながら、今日あった事について、俺達とツバキで話していった。


「皆さんは、今日はどうでした?」

「リンネ、またまたおともだちができた~!」

「あら……良かったですね。どんなお子さんなのですか?」

「えっとね、おんなのこでね、すっごくげんきでね、かけっこはいちばんはやくて、きのぼりも、うまくて、すっごくやさしいこなの~!」

「なるほど……活発そうな子ですね」

「最初に仲良くなったのは、頭領なんすけどね」

「え、そうなのですか?」


 ダイアンの言葉に、ツバキは驚いた様子で、こちらを見て来る。何か、勘違いされそうなので、ありのままを話した。


「まあ、成り行きでな。その木の実を取ろうとしていたら、木から落ちそうになっていて、それを助けてやったんだよ」

「まあ……それは、凄い出会いですね……」

「しかも名前が、「サヤ」だからな。驚いたというか、何と言うか……」


 苦笑いしながらそう言うと、ツバキは少し驚いた顔になる。


「サヤさん……というのですか?」

「ああ。性格までそっくりなのは笑ったな」

「それは……不思議な縁ですね」


 確かにな、と頷いた。まさか、こっちの世界でアイツと同じ名前で、同じような感じの人間に会うとは思わなかった。

 リンネと一緒に、山の麓の村の子供達と遊んでいたルイ曰く、サヤは、あの村で機織りをしている夫婦の娘らしい。いつも、元気に他の子供達と遊んでいて、リンネの言うように、特技、というか、木登りが好きで、両親をハラハラさせたり、怒らせたりする天才だという。

 何度も注意しているのに辞めないので、別の子供の親(サヤを助けに来た男)が、あの木の実を売っているそうで、その手伝いをさせているのだそうだ。

 今日もその手伝いだったらしいのだが、サヤはあの木の実が大好きで、売る分とは余分に採って、おやつとして食べているらしく、俺はその現場に遭遇したらしい。

 なので、リンネが魔獣と知り、更に空を飛べる事を知ったサヤは、午後は、リンネと共に、村の周りの木の実を採っては、ずっと楽しそうにしていたという。


「気が付いたら、すっごく高い木に登っているんだもの。びっくりしたわ」

「そういう時は止めろよ、リンネ」

「え~……たのしかったし、リンネがいるから、だいじょうぶだとおもったんだもん」


 ぶう、と頬を膨らませるリンネの横で、ツバキは苦笑いしていた。


「あはは……楽しいお子さんの様ですね。私も会ってみたいものです」


 ツバキがそう言うと、すかさずリアが反応した。


「ツバキさんが一緒に居たら、もっといろんなことを覚えそうで怖いんだけど?」

「それは、どういう意味ですか?」

「ツバキさんもやんちゃな子だったんでしょ? 木登り以外にも、悪いことを覚えそうってことよ」


 リアの言葉に、ツバキは少しムスッとする。


「……私も成長しました。子供に何を教えては良いか、いけないかの判断は出来ます。サヤさんには、そうですね……安全に、もっと高い木に登りつつ、どれだけ高くても確実に、怖がらないように下りられる心が持てるような事を教えます」

「いや、それを辞めてやれって言ってんだよ……」


 結局のところ、やんちゃな所を助長させようとするツバキに、思わず突っ込む。ツバキもサヤも、無理はしないで欲しいものだ。

 小さくため息をつくと、ツバキは、更にムスッとした顔になったが、ダイアン達までも俺やリアに賛同するように頷いていることを確認し、少し恥ずかしそうになった。


「……今日は、皆さんが意地悪ですね……しかし、サヤさん、ですか……いけない遊びを教えるつもりは毛頭ございませんが、私も会ってみたいものです」

「リンネ、おねえちゃんにしょうかいする~!」

「フフッ、ありがとうございます」


 リンネの優しい言葉に、ツバキの機嫌も直った。次に、遊びに行くときは、俺も一緒に行くとしよう。

 何気に、ルイも次に遊ぶ約束をしたとのことなので、休みを見つけて、皆でもう一度、あの島に行く事になった。

 ついでにジーンも連れて行くと、面白いだろうな。


 この話を聞いたコウカ達は、今、何を思っているだろうか。何となく、コウカも好きになりそうな気がする。

 性格は会いそうだからな。何となく、楽しみにしている様子のコウカやちっこいツバキの顔が、人形と簪から伝わってきた。


 さて、俺達の話は終わったので、今度はツバキの一日について、皆で聞いてみた。


「それで、久しぶりの騎士の仕事はどうだったの?」

「あ、はい。今日は、アートルムの街の警らを担当する班との面通しで、街の中を共に回っていました」


 ツバキ曰く、コクロ領の騎士団の仕事は、他の騎士団と同じく、領内、特に、ここアートルムの治安維持の他、海上での事故や魔物被害などの監視が主だそうだ。

 なので、ここの騎士団の者達も、泳ぎが上手く、泳法スキルを持っている人間が多いという。

 また、騎士団専用の巡視艇と呼ばれる船もあるらしく、民間で使われるものよりも、圧倒的に性能がいいそうだ。具体的に言えば、速度。今日俺達が乗った船の三倍の速度が出るそうだ。

 無論、その分の魔力は必要だそうで、王都の魔法戦士団とまではいかないが、それなりに魔法を使える人間も多いという。

 さて、ツバキが今日、仕事をしたのは、アートルムの街を守護する者達で、面通しの後の業務は、マシロとほとんど同じで、そこまで苦にならなかったという。


「そういや、この街以外に、騎士団の駐在みたいな所は無いんすか? 今日行ったどこの村も、騎士っぽい人は居なかったんすけど」


 チョウシの質問に、そう言えばそうだなと思った。

 島にいくつかある村の中には、騎士のような者は居なかった。冒険者は居たから、そこまで気にならなかったが、他の島でもそうなのかと思うと、少し不安になって来る。

 魔物の被害があったら、どうするのだろうと思っていると、ツバキが口を開く。


「いえ、いくつかの、アートルムから離れた場所の島にはあるそうです。島内の治安維持の他、海賊団や不審な船が出た時に、巡視艇及び、こちらの本部に報告する任を任されているそうです。

 あちらの島には、騎士団が居ない代わりに、常駐の冒険者が、島を回りながら滞在しているそうです」


 なるほど。ツバキの言葉通りなら、俺達が見た冒険者達がそれだろうな。どの村にも居た気がしたが、恐らく交代で村や島を巡っているのだろう。

 常駐の冒険者には、一応、月に一回、それなりの額の報酬が支払われるらしい。モンク領のスーラン村に居るツルギ達と同じだ。

 騎士団の人手不足などが原因で、そういう活動をしている冒険者は意外と多いようだな。

 というか、俺達も一緒か。基本的にクレナ領、トウショウの里常駐の冒険者だもんな。

 その割にアヤメからは特に何も無い。気にしたことが無かったから、構わないが、言えば、くれるのだろうか……。

 まあ、少しがめつい気がするから辞めておこう。今も、そんなに金銭面で困っているわけでは無いからな。


 それで、コクロの騎士団が駐在している島というのは、漁師が活動する範囲と、それより外の範囲、ギリギリの所にある島らしく、海賊団の船が現れるとすれば、その島の近くなので、仮にアートルムに攻め入るものなら、そこから、伝令魔法の魔道具を飛ばし、本部であるここで対応できるという仕組みになっている。

 少ない人員を有効に活用するこの方法は、同じく人員不足のモンク師団、インセン師団長の提案らしく、ルーカスも有効に活用しているそうだ。


「ちなみに、明日明後日は、海上の巡視を兼ねて、その駐在所のある島にも赴くようです。ですので、明日は朝が早いですね」

「む、そうか……じゃあ、リンネ。今日は俺と寝ような」

「うん! おねえちゃんが、あさはやくおきてもいいようにする~!」

「ありがとうございます」

「沖の方に出るのか……気を付けるんすよ、ツバキさん」

「はい。いざとなれば、私が騎士の皆さんをお護りします」

「何か出たら、問答無用でエンヤ様召喚よ!」

「そのつもりです。もちろん、生け捕りにしないといけませんが……」


 少し不安そうな顔をするツバキだったが、そうなったらそうなったで、好きに暴れて良いと、チラッと斬鬼に笑みを向けた。

 確かに、以前の女海賊が、尋問で役に立たなかったというのは痛いが、それとこれとでは話は別だ。

 ツバキに手を出したらどうなるか、身を以って思い知らせてやれ、と念じると、俺だけに分かるように、斬鬼が小さく光を放つ。

 任せろ、という言葉が聞こえた気がして、大きな安心感を得た。

 ちなみに、無いと思うが、偶々海賊団のものとみられる船を見つけた際は、付かず離れずの距離から様子を見て、船が拠点に帰る所まで見送るらしい。

 それで拠点が分かれば万々歳。俺達の滞在も終わるというわけだ。寧ろそうなってくれたらありがたいというハルキの言葉に、俺も思わず頷いた。


「ちなみに、明日は帰って来るのか? それとも、泊りか?」

「え~と、帰る予定です。ただ、今日よりは遅くなりそうですが……」

「朝早くて夜遅いというのは大変だな。無理はするなよ」

「これも務めです。頑張ります」


 こうして見ると、ツバキもコモンに対してはあまり言えないな。先ほども思ったが、くれぐれも、無茶はしないで貰いたい。

 さて、ツバキの仕事の内容はあらかた分かったので、次に聞いたのは、騎士団の様子だ。

 昨日はあいさつ程度だったが、ルーカスや他の団員の戦力が如何ほどのものか聞いてみた。


「実際のところ、コクロ師団って海賊団と拮抗するくらいの力は持ってるんすか?」

「正直な話、そこまででは無いと思います。正面からぶつかった場合、寧ろ、不利になるのではないでしょうか」

「師団長はどんな人なの?」

「ルーカスさんご自身が、白兵戦は普通くらいで、水中戦ならコウカンさんにも負けないと仰っておりました」


 ツバキ曰く、陸上での戦いに関しては、ルーカスも師団長として平均的な強さを持つらしいが、他人だと、それだけで苦戦するような、海中戦の場合になると、恐らく、師団長の中で誰よりも速く、強く動けるとのことだ。

 コクロ師団には、いくつかの班があるが、ルーカス自身が率いる班もあり、師団の中で、特に水中での動きに長けた者達で構成されているそうだ。

 その動きは、海の中級魔物よりも速く海中を移動し、ルーカスに関しては、上級魔物でさえ敵わない動きを見せるという。

 まあ、普段は闘うことは無いが、主に、難破船や遭難者の救助などで出動という事もあるようだ。

 ちなみに、師団長の中だと、コウカン、エンライに並び、シルバ師団長のジャンヌ、ゴルド師団長のルクシールという男、この四人が個人の白兵戦に置いて随一の力を持っているという。

 ただ、騎士団の強さというのは、闘いに重きを置いていない。人命救助や治安維持、街の守護、師団を纏める統率力など、領によって、強さ以外に必要な力を求められる。

 活動範囲に海上が多い領や、大きな湖が領内に存在するソウブの騎士団には、寧ろルーカスのような力を持つ人間が必要であるため、個々人の強さは参考にならない。

 実際に、海中ではコウカンよりもルーカスの方が強いらしいし、陸上ではルーカスよりもインセンの方が、わずかに腕が立つらしいが、海上や海中では、ルーカスに、圧倒的に分があるらしい。

 ただ、そんなルーカスが居た所で、海賊団の脅威は消えたわけではない。冒険者ギルドと合わせて、何とか拮抗しているかという具合だ。

 となれば、ルーカス以外に、目ぼしい人間は居ないかと聞いたが、ツバキはとんでもないと首を振った。


「ここの師団の次席カールさんと、巡視班のヴィクソンさんという方がいらっしゃるのですが、お二人は、単騎で上級の魔物を倒せるほどの腕前です」


 単騎で上級の魔物を倒す……冒険者で言うところの異名持ちくらいの強さはあるということだ。

 どんな人間かと聞くと、まず、カールという男は、アートルムの街中を警らする部隊の統率者で、白兵戦に置いては、ルーカスと互角らしい。訓練で、組手をすることがあるのだが、五回に一回は勝っているという。

 その強さに奢ることは無く、他の師団員からもルーカスからも信頼の厚い男だそうだが指揮官としての能力は劣っているらしく、現在は次席として、ルーカスの補佐をしつつ、人の上に立つ者としての勉学に励んでいるそうだ。

 ヴィクソンは、海上の安全を護る班を纏めている男で、こちらはカールとは逆で、指揮官としての能力も高く、ルーカスがアートルムで全体指揮を執っている間の、海上での全権を任されているとのこと。

 リアのように、いつも冷静な判断力を持ち、目まぐるしく変わる海上で、的確に騎士達を指揮しているそうだ。

 ちなみに、ツバキは明日から、コイツと仕事をする。今日、挨拶したそうだが、少し口数が少なく、真面目そうな印象だったそうだ。

 人の管理は上手いし、人を見る目はあるようだが、人付き合いは苦手とのことで、固定された人員の中で仕事をすることが多い場で、仕事以外の場でも、他人と関わっていく事を学ぶため、巡視の任を任されているそうだ。

しかし、現在は海賊団に頭を抱えており、元々少なかった口数が減っているそうだと、ツバキは苦笑いする。


「この他にも、こちらの師団も、個性的な方々がいらっしゃるので、楽しく仕事が出来そうです」

「ふむ……天上の儀でお前が話題になったが、その辺りは大丈夫なのか?」


 仕事をしやすいと言っても、インセンのような、ツバキにとって、少し面倒な者が多いと困るのではないかと思ったが、ツバキは笑って首を振る。


「多少、影響はあるようですが、士官学校での同期の方も居ましたし、ルーカスさんを始め、カールさんもヴィクソンさんもあくまで、一騎士として扱っていただくと約束してくださったので、思っていた以上に問題ないです」

「あ、同期ってのも居るんだな」

「ツバキさんと同期……私なら、寧ろツバキさんがEXスキルを持っているってことで、弄っちゃうかも……」


 リアの言葉に、ツバキは苦笑いしながら頷く。


「まあ、そうでしたね。再会した時に、リュウガン君が一番の出世頭かと思ったのにと言われてしまいました」


 なるほど。昨日もチラッと聞いたが、ツバキの同期の中では、リュウガンが出世株だったらしい。

 少し、不思議そうな顔をして、首を傾げているリア達。そう言えば、きちんと話していなかったと、ツバキはリュウガンの事について、皆に説明していた。

 紹介が終わると、今度はリュウガンに対して、皆の興味が移る。


「どれくらい強い人なんすか?」

「私がマシロを出た時点で、私より上の腕前を持っておりました。今は、分かりませんが」

「え……そうなんすか?」


 確認するように尋ねて来るチョウシに、俺は頷く。


「ああ。他の騎士達より、群を抜いて強かったのが、ツバキと、そのリュウガンって男だ」


 あの時点でのリュウガンは、それこそ、リンネを食い止めたほどの力は持っていたからな。まあ、ツバキの言うように、今は分からない。

 リンネも成長したし、ツバキに関しては、EXスキルとエンヤという切り札がある。

 最も、単純な力比べだと、リュウガンにもまだ分があるような気はするがな。

 俺の評価に、皆は感心したように頷く。


「武王會館出身なら、納得ね……えっと、確か騎士団全体の若手の中での出世株が、そのリュウガンって人と、後二人居るのよね?」


 どこか、何かを期待するような顔でツバキに尋ねるルイ。何だ? 婿候補にする気か?

 ぐいぐい来るルイに若干戸惑いつつ、ツバキは頷いた。


「え、ええ。ゴルド師団のヒューズ・ゴルドさんとシルバ師団のフィーナさんですね」

「ヒューズ……ゴルド?」


 ツバキの口から出た騎士のうち、ゴルドのヒューズという男には名字がある。珍しいと思ったし、何より、ゴルドという姓だ。

 ひょっとして、と思っていると、ツバキはコクっと頷いた。


「はい。ご想像通りと思いますが、ヒューズさんは、ギルドゴルド支部支部長の、レオニクス様の……え~っと……と、取りあえず、ご子息です」


 ゴルドのギルド支部長であるレオニクスは、最高齢のエルフらしく、その歳は2000を超える。

 ロロが買ってきてくれた、レオニクスの伝記によれば、その人生の中で、200を超える子をもうけたらしいが、ヒューズはその、何番目かの息子らしい。まあ、それだけ居たら、分からないよな。

 ちなみに、ゴルド領主も、レオニクスの何番目かの息子らしく、領に属する貴族の殆どもレオニクスの一族のもので、他数名は、まだ、ゴルド領内でエルフやドワーフ達がそれぞれの部族に分かれていた時の、族長だという。

 まあ、今はこの話はどうでも良いな。


 さて、若手と言っても、ヒューズもエルフという長命種らしく、500歳を優に超えているという。

 ただ、士官学校を経て騎士となったのは最近のことで、騎士の中では若手という事になっている。

 そう言った経緯もあり、ヒューズは他の騎士とは群を抜いて、戦闘力も指揮官としての力も既に備わっているらしく、普通の人間である師団長よりと比べても、能力的には、上では無いかと噂されているそうだ。


 もう一人の、シルバ師団のフィーナはジャンヌの部下という事で、女の騎士であり、単騎で超級の魔物を倒せるほどの腕前を持っているとのこと。

 また、コイツも武王會館出身らしく、多種多様な戦術を用い、戦場に置いては攻撃役、防御役、補給役と、何でもこなせるらしい。

 ただ、こちらも、先ほどの話に出てきた、カールと同じく、指揮官としての能力があと一歩、師団長には追い付かないという事で、ジャンヌの補佐をしながら、その能力を伸ばしているという。

 ちなみに、ツバキ達の五年先輩とのことで、ダイアン達と同い年くらいらしく、こちらも、騎士団の中では、若手の中での期待の星となっている。


 最後にリュウガンを加えて、この三人が、次の世代の師団長に就くだろうと思われていたが、今回の天上の儀に置いて、ツバキがEXスキルを持っていることが発覚、また、騎士としての能力も申し分なく、腐敗した騎士に代わり、モンクでの事件を一人で解決に導くことが出来た騎士として、若手の中の最有力出世頭に、一気に躍り出たとのことだ。


 無論、同期の友人達には茶化されたり、驚かれたりもしたらしいが、話していくうちに、士官学校時代の雰囲気に打ち解けていったそうだ。


「本当に、思ったよりも過ごしやすいので、楽しく仕事が出来そうです。最終日までには、ルーカスさん、カールさん、ヴィクソンさんが手合わせをしてくださるそうですし、しっかりと、学ぶべきことは学んでいくつもりです」


 改めて、騎士としての仕事にやる気を見せるツバキに、俺達は頑張れよと頷いた。

 リンネも、がんばって~とか言いながら、ツバキにニコリと笑っている。


「しっかりな。さて、明日も早いってことで、もう寝るか? 片付けは俺達でやっとくからよ」

「あ……よろしいですか?」

「ああ。しっかりと休んでおけ」


 そう言うと、ツバキはお言葉に甘えて、と食卓を後にする。リンネに、明日も頑張ってくださいと頭を撫でた後、斬鬼を持って二階へと上がった。


 その後もしばらく、皆と少し静かに話しながら、飯を食っていく。ちなみに、ルイは、さっきの三人の中で婿候補は居たかと聞いたが、一人は、自分よりも遥かに年上の男、もう一人は女ということで、出来ればリュウガンが良いと笑っていた。

 まあ、ツバキによれば、リュウガンは、今はそう言うのに興味が無いという事は黙っておこう。

 ついでに、リアは、と聞いたが、リアも、今はそう言うのに興味が無いらしい。これは、クレナで今回の準備をしている時にチラッと聞いたが、その時からふと、疑問に思っていたことがある。

 前に、ダイアンと三人で話した時に、潤いが欲しいとか言っていたが、どうなのか、と。


 聞けば、ダイアンとアザミ、シロウとナズナのような者達を見る度に、そういう気持ちになることは多いが、実際の所、どんな男が好きなのか分からないから、今は目の前の事に集中したいとのこと。

 横でルイが、またまた~と弄ってきていることに対し、リアは心底鬱陶しそうなので、本意なのだろう。

 まあ、確かにコイツが、男にデレデレしている所は想像できない。寧ろ、男の方がデレデレしそうだなとは思う。

 意外なところで、意外な奴とくっつくのではと、少し期待を込めるようになっていた。


 その後、飯を食い終えた後は、今日も皆で食器を洗い、しばらく居間でくつろいだ後、一人、また一人と部屋に戻って行ったので、俺とダイアンもリンネを連れて部屋に戻った。

 寝酒にともう一杯と、ダイアンと飲んでいるうちに、リンネも小さな獣の姿となって、いつの間にか寝ていた。


「お……結構疲れていたかもしんないっすね」

「まあ、飛び回ったり走り回ったり、サヤと遊んだりしていたからな……」

「そっすね。今日もリンネちゃんには助けられたっす。明日も頼っちゃうっすよ」

「じゃあ、いびきとか掻いてやるなよ」

「それは……保証できないっす……」


 まったく、と少し呆れながら、一応リンネの耳に耳栓を詰めた。起こさないように、そっとやるのが少し難しかったが何とかなった。

 そして、今日もダイアンが布団を被った途端に眠り始め、俺も眠りに着いた。


 明日は、何らかの手がかりが見つかると良い。ツバキも頑張っているようだから、俺も頑張るとしよう……。


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