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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
海賊を斬る
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第404話―探索の経過報告を聞く―

 しばらくその場に立ち尽くしていたが、サヤという少女が泣き止む友達に、持っていた木の実を振舞った後、恐る恐ると言った感じに、俺の顔を覗き込んできてハッとした。


「あの……?」

「……あっ……え~っと……サヤ……だったか? 怪我は無いか?」

「うん……ありがと……おじさんは……天使さん?」


 不思議そうな顔をして、俺の体を見回すサヤ。歳は、十歳以下と言ったところか。臆せずに俺の側に来る当たり、度胸はあるようだ。

しかし、“天使”とは……ああ、今は神人化しているからな。背中の羽を見て、そんなことを思っているのか。“死神”とは、えらい変わりようだな。

 何となく可笑しな気持ちとなり、笑った。


「いや、俺はそんな上等なものじゃない。ただの冒険者だ。それより……サヤ。今日は俺が偶々居たから良かったが、もう、あんな危ない事はするんじゃないぞ」

「え~……これ、美味しいのに……」

「美味しくてもだ。危ないことはするもんじゃねえよ」

「むー……おじさんも食べたらわかる」


 そう言って、サヤは俺に木の実を渡してきた。助けた御礼……というわけではないな。

 食べたら自分の言い分も分かるという顔だ。自分の行動を正当化しようとする姿は、何となく、アイツに似ているな。

 肩までの短い黒髪に、少し焼けた肌。顔かたちは似ていないが、雰囲気は凄く似ている気がする。

 丁度、俺達が出会った頃がこのくらいだったなと感じた。


 食べたら良いんだなと、思い、サヤから木の実を受け取り、齧ってみた。


 ……うん、美味い。柔らかく、あまい果汁が口の中に流れ込んでくる。サヤ曰く、そのまま食べるのも良いが、果実水にして飲んでも美味しいらしく、コクロでは酒にして飲んだりもしているらしい。

 これなら、サヤが必死だったのも分かる気がする、と何も言えないでいると、サヤは満足げにニコッと笑った。


「ね? 美味しいでしょ!?」


 笑った顔は、どことなくアイツに似ている気がする。

 そして、その顔は今後もこういうことを辞める気は無いという思いがひしひしと伝わってきた。

 頷く前に、サヤの頭をぐりぐりと撫でる。


「確かに美味いが……今日みたいなことはもうするんじゃない。お友達を泣かせるな~」

「うわあ~、目が回る~!」


 サヤは藻掻くが、俺は手を放さない。助けを求める仕草を子供達に行うが、俺の言葉を聞いた他の子供達は、同調するように、うんうんと頷くばかりで、サヤを助けようとしなかった。

 しばらくして解放してやると、フラフラとしながら、俺の体に掴まり、涙目で顔を覗き込んできた。


「うぅ~……ひどい~」

「……もう、あんなことはするなよ。俺が居なかったら、怪我をしていたかも知れない。いや、怪我で済まなかったかも知れない。死んじまったら、それを食うことも出来なくなるし、何より、友達も、お前の親も悲しむことになる。

 ……分かったな?」

「……うん」


 ようやく、サヤは真剣な面持ちでコクっと頷いた。分かってくれたようだが、流石に、言い過ぎたかと思ったので、やれやれと言いながら、再び飛んで、いくつかの木の実を取って、サヤや子供達に渡した。


「今日はそれで、満足してろ」

「わあ~、おじちゃん、ありがと~!」


 表情がよく変わる奴だ。先ほどまでしょんぼりしていたが、今は、周りに花が咲く勢いで、満面の笑みを浮かべながら、他の子供達と一緒に、籠に木の実を入れている。

 そのうちのいくつかを手に取って、俺に渡してきた。


「ん? くれるのか?」

「うん! 助けてくれたお礼~!」


 今度はきちんと礼の気持ちがあるらしい。本当に美味しかったし、リンネも喜びそうだから貰っておこう。


「ありがとう。サヤは、優しいな」


 頭を撫でてやると、更に嬉しそうな顔になる。


 こんな感じで、俺とは違い、優しいところも似ている。この子には、俺みたいな変な奴に引っ掛からず、良い人生を歩んで欲しいものだと、柄にもなくそんなことを思った。


 その後、もうすぐ昼だから村に帰ろうと思っていたサヤ達だったが、サヤを助けるために大人を呼びに行った、もう一人の友達と入れ違っても良くないので、あの子供が戻るまでここに居ると言った。

 一応、魔物の気配はないが、俺も残るとし、子供達と色々と話すことにした。

 と言っても、海賊の事は聞かない。言ったところでよく分からないだろうからな。

 そんなことを思っていたが、色々と話しているうちに、サヤ達は海賊についても話してくれるようになった。


「じゃあ、おじちゃんは海賊団を倒すために来たんだ~」

「まあな。今日から調査だが……上手くいくかどうか……」

「海賊は危ないってお父さん達も言ってた。何か、魔物を味方にしてるかもって言ってたし、攫われるから、夜は出歩くなって言ってたし……」

「魔物を味方……か。そんなのは資料に書かれてなかったぞ? 確かなのか?」

「えっとね、噂だから、領主様やギルドの人は知らないと思うけど、お父さん達は、この辺りの魔物が減ったのは、遠くに居る海賊団が魔物を集めたからじゃないかって言ってた」

「そうそう。魚は捕りやすくなったから、この辺りは良いけど、レインとかは困ったことになるって、うちのお父さんも言ってた」


 サヤの言葉に、他の子供達も続く。モルガンが言っていた、所謂、漁が出来る範囲の海域の魔物の数は、確かに減っているらしく、海賊団が活動していない以上に、仕事が出来るという条件になっている。

 しかし、沖に出れば海賊団の被害と共に、多くの魔物の姿も確認されており、名うての冒険者達も全滅させられている。

 そんなところに、海賊団の拠点があることは考えにくく、ひょっとしたら、魔物と海賊団は共闘、もしくは、何らかの手段……例えば、魔獣宴の魔道具を使って、海賊団が魔物達を操っているのではないかという噂が、モンクの事件以降、この辺りの大人達の間で囁かれているらしい。

 結構、気になる話だな。あの村長、儂らからは特に何も無いと言っていた割に、こういうことは言って欲しかったものである。

 まさか、子供達から聞かされるとは思わなかった。ひょっとして、ダイアン達が聞いた、気になることというのもこのことなのだろうか。後で確認してみよう。大人から直接聞いたのであれば、その辺りの事もよく分かるかも知れないな。


 そして、人攫いの件。これについては、資料にも書かれていた。アートルムから見て、五番目に離れた島くらいまでは、そう言った報告は無かったが、六つ目以降の島では、過去に何人か、子供が攫われるという事件が発生していたらしい。

 ただ、これは海賊団が関わっているかどうかは不明だ。運よく助けられ、奴隷になっていた子供や、子供を買った悪徳貴族曰く、買った先はリオウ海賊団とは関係ない、ただの違法奴隷商館だったらしい。

 偶々、この奴隷商館がその子供を攫ったのか、海賊団が幾重にも仲介を挟んでいたのか定かではなく、海賊団が、人身売買をしているという話は、あくまでも推測という段階で止まっているらしい。

 兎にも角にも、モンクと同じく、コクロも人攫いの被害が多いというのは、昨日聞いている。子供達には、親の言いつけをまもって欲しいものである。

 特に、サヤはな。俺の方からも、しっかり言う事を聞けよと言うと、何で私だけ、と頬を膨らませた。

 その頬を指で挟むと、口からふうっ! と息を吹き出す。それが面白かったのか、もう一回やってとせがまれたので、他の子供達も合わせて、何度かそうやって遊んでやった。

 皆が満足げになったところで、話を再開させる。


「海賊を見た人間は……流石に居ないか」

「うん。あの人達どこにいるんだろーね」

「でも、お父さんが、海賊団を名乗っている以上は、船は一隻だけじゃない。こないだ捕まった海賊は十番台だから、恐らくそれ以上の船団だって。だから、拠点は確実にあるはずって言ってた~」

「おじちゃんはそれを見つけるんでしょ? 頑張ってね!」


 サヤの言葉に苦笑いしながら頷く。逆に言えば、それほどの規模の船団が停泊する場所なのだから、確実に目立つはずだ。にもかかわらず、見つけることが出来ない。

 思っていた以上に大変な仕事だと思うと共に、やはり、コクロの領民達からの話は資料とは違うな。

 どれも有益に感じる。聞き込みは、上手くいきそうだなと手ごたえを感じ、それからも話を聞こうと思った時だ。


「お~い! サヤちゃ~ん! 大丈夫か~!?」


 遠くの方から男の声が聞こえる。見ると、先ほど、村に走った子供が、大人の男を連れて走ってきているのが見えた。

 どうやら、戻って来た様である。話はここまでだな、と切り上げることにした。


「ふむ……もう少し話していたかったが、これで大丈夫そうだな。サヤ、本当に無理はするなよ」

「うん。今日はありがと。とっても、楽しかった! また……遊べるかな?」


 少ししょんぼりした様子のサヤに、笑って頭を撫でてやった。


「ああ。また、遊んでやる。実は、連れて来た仲間の中に、小さな子供も居るんだ。午後にでも村に行くと思うから、俺の名前を出したら、遊んでくれると思うぞ」


 そう言うと、サヤ含め、その場に居た子供達はぱあっと笑顔になった。


「ホント!? じゃあ、楽しみにしてるね、おじちゃん。あっ! おじちゃんの名前、聞いてなかった!」

「ムソウだ。で、紹介したいこの名前はリンネ。魔物の子だが、優しい奴だぞ」

「リンネちゃん……可愛い名前! すっごく楽しみ! ムソウおじちゃん。リンネちゃんによろしくって伝えといてね~!」

「じゃあね~!」


 手を振る子供達に、俺も手を振り返して空へと飛び立った。村から来た男は、俺がここに居ることに驚きつつ、事情を聞いたのか、ありがとうございます、と頭を下げて、俺の事を見送ってくれた。

 下から、その男に、サヤ達が俺の事を話したり、聞いたりする声が聞こえてくる。午後からの聞き込みが上手くいくように、良いように言っておいて欲しいものである。


 さて、サヤ達と別れて飛んでいると、前方からリンネが飛んでくるのが見えた。

 空中で止まると、リンネは俺の周りをパタパタと飛び回る。


「お、何かあったか?」

「……」


 リンネは首を横に振り、嘴で自分のお腹を指した。


「ああ、聞き込みが終わったから、飯を食うってか?」

「……」


 リンネはコクっと頷き、俺はリンネと共に村に降り立った。

 ギョッとする村人達だったが、俺が神人化を解き、リンネも変化を解くと、村人達の前に立った。


「みんな! このひとはリンネのおししょーさまだから、あんしんして~!」

「リンネちゃんのお師匠様、ということは……あ、貴方様が、冒険者のムソウ様ですか!?」


 俺が何者かと説明するリンネだが、村人達は更に驚いた顔を見せる。

 これから、こういうことが続くのかと思うと、何となく頭を抱えたくなるが、落ち着いて、村人達に頷いた。


「ああ。俺がムソウだ。さっきまで、ここで俺の仲間達が調査をしていたと思うんだが?」

「あ、はい! お世話になりました! 皆さんは、あちらの屋台で休息をとっております!」

「……そんなに緊張しないでくれ。やりづらい……」

「はっ! す、すみません! 以後、気を付けます! で、ですから……」


 命だけは! ……ってか? 海賊でもあるまいし、そんなことはしないと、何度も緊張する村人達を諫め、村人が教えてくれた方向に向かった。

 そこでは、ダイアン達が椅子に座って、ゆっくりとしていた。先ほどの騒ぎを遠目から見ていたらしく、俺を出迎えると同時に、リアはクスクスと笑っていた。


「面白かったわよ、頭領」

「見てたなら助けてくれよ。というか、お前ら、俺の事を何て言ってやったんだ?」

「別に? 本当に“死神”の様なのかって言われたから、本物の“死神”なんかより怖いって言っただけよ」

「……それが原因じゃねえか。変な噂を立てるなよ」

「あちゃ~……リンネちゃんがやさしいひとって言っていたから大丈夫だと思ったんすけど……」

「リンネ、がんばったよ~!」


 リアと違って、リンネは俺の事を良いように言っていたらしい。褒めて欲しいと言いたげな、何かを期待するような顔のリンネの頭に手をポンと置いた。


「良い子だな、お前は。リアと違って」

「えへへ……ほめてもらえ……ん?」


 いつものようにリンネは嬉しそうな顔をするが、ふと、顔を上げて俺の手をスンスンと嗅ぎ始めた。


「あれ? おししょーさま、いいにおいがする~。おいしそうなにおい~!」


 言葉だけ聞いたら、何か怖いものを感じるが、あれの事かと思い、懐から、サヤに分けてもらった木の実を取り出した。


「ああ、これだな。美味いから食ってみろ。飯が来るまでのつなぎだ」


 そう言って、木の実をリンネに渡すと、ぱあっと目を輝かせて、木の実にかぶりついた。

 その瞬間、更に上機嫌となる。


「あま~いっ! おいし~い!」

「食べ過ぎて、昼飯が食べられなくなるなよ。さて、何を頼もうか……」


 俺は机に置かれた品書きに目を通す。リンネが食べている木の実の甘い匂いに、リアも木の実をくれと言ってきたが無視する。さっきの仕返しだ。

 ムスッとするリアだったが、近くの村人に声を掛けて、リンネが食べている木の実の名前を聞き、この屋台にもあるかと確認した後、追加で、その木の実を注文。ダイアン達も我も我もと注文し、ついでに俺の注文も終えた。


 リアのご機嫌をとりながら、料理を待ち、皆の様子を聞いてみた。

 やはり、手紙に書かれていた「気になること」というのは、魔物についてであり、俺が、サヤたちから聞いた事をダイアン達も聞いていたようである。


「目に見えて変わったってわけじゃないんすけど、村の年寄から見たら、昔に比べると、結構減っているらしいっす」

「らしいな。ちなみに、この島の内陸部も、そこまで強い魔物は感じなかった。せいぜい、中級が良いくらいだな」

「海賊が居て、少なくとも人が住んでいる辺りは魔物が減っているっていうのは、何とも言えないわね……」

「まあな。だが、仮に海賊団が魔物を使役しているとなると、厄介だ。コクロや王都に攻め入ることの無いように、しっかりと倒しておこう」

「海賊が王都に攻め入る……無い話じゃ、無いもんね」

「ああ。海賊団と転界教が繋がっていたら、その可能性も高いからな」


 魔物を味方にして、人界を制するやり方は転界教の常套手段だからな。海賊団が転界教の仲間なら、その為に魔物を使役している可能性も出て来るし、向こうが何かを起こすとしたら、確実に大ごとになるんだから、そうならないようにしておこう。


「というか、転界教とリオウ海賊団、確実につながってますよね? 証拠は無いっすけど……」

「やり口は、今までの奴らと同じ様なものだからな……魔物集めて、戦力増やして……これで、呪いとか出たら完璧だな」

「海賊団を構成する人達が呪われているとか?」

「多分な。呪いにより、力を引き出されている可能性も高い。リオウ以外の船長達も、そこそこ腕は立つらしいが、そんな奴等ごときには負けるなよ、お前らも」


 海賊団がどれだけの規模かはよく分からないし、リオウの腕前がどれくらいかは分からないが、船長の強さは、モンクで判明した。

 エンヤにやられたくらいで、精神崩壊するくらいの奴らだ。せめて、そんな奴らには、一対一で負けるなよ、と言うと、ダイアン達は頷いた。


 丁度その時、俺達の飯が運ばれてきたので、話を中断して、飯にありつく。内陸とはいえ島なので、魚料理が多い。他は、先ほどの木の実や山菜などの料理が主だ。

 木の実は結構良い値段がする。なるほど、子供達のお小遣いでは少々きついのかも知れない。

 だから、サヤはあんなに無茶をしたのか、と思ったが、勝手に、ただの好奇心だろうと結論付けた。


 さて、飯を食い終えた後、ダイアン達は次の村へと移動する。

 しかし、上から見た感じだと、今日一日で、残る二つの村での聞き込みは難しそうだと感じた。

 なので、もう一方の村は俺が調べるという事になり、夕方には最初の村で落ち合うという事で、俺達は別れた。

 村での調査が終わったら、俺は島全体をもう一度確認することにしている。その間に、リンネにはサヤ達の相手をしてもらうとしよう。

 そう思い、山の麓に向かうダイアン達に、サヤという女の子の事を説明した。名前が名前だけに、少し驚いた顔になる皆だったが、俺が特に気にしていないと言うと、静かに頷いた。


「リンネ、サヤちゃんとなかよくなれそう?」

「ああ、きっとな。聞き込みが終わったら、遊んでいてくれ。ダイアン達は、周辺に魔物が居ないか確認してくれ。まあ、さっき俺が居た時は居なかったからな。大丈夫だとは思うが……」

「分かったっす! お任せ下さい!」


 胸を叩くダイアンに、全てを任せた後、俺は最初の村近くの集落に向かった。

 村の入り口に降り立つと、ここでもギョッとしたような顔を住民達にされる。

 ギルドの腕輪を出し、海賊団についての調査に来たと説明するも、どこか崇めるような目で、こちらを見ている。それに、平伏しようとしている者まで居る。

 慌てて辞めさせた後、村の者達に話を付けることに成功した。

 とは言うものの、俺の強さに怖がる人間も少なからずいるとのことなので、村長が、俺と一緒に回ってくれることになった。


「はあ……毎回毎回、これからはどこ行ってもこうなるのか……辛い……」

「天災級を倒した人間ですよ。そりゃあ、手を合わせたくもなります」


 村長と言っても、俺と同じくらいの歳だ。この村は、壊蛇の襲来の後に、他の島々からの移民によって出来たらしく、村人達の平均年齢も、心なしか若いように感じる。

 年寄りに崇められるのはまだしも、若い奴に崇められるのは何か違うなあと頭を掻いた。


「この領にはジーンだって居るんだから、寧ろそっちに手を合わせろよ」

「ええもう、しっかりと合わさせていただいております」

「……そうか」


 なら、俺から言う事は何も無いと、半ばあきらめて、取りあえず村を散策する間に、村長に気になったことを確認することにした。


「他の島から移民っていう話だったが、海賊の影響か?」

「まあ、そんなところです。私共が居た島は、アートルムから離れた位置にありまして……」


 それはどこかと、地図を出すと、ぎりぎりアートルムの漁師達が、仕事が出来る範囲内の島だった。村長曰く、海賊団の脅威が、その辺りまで影響していると判明した頃に、その辺りの島々の者達が、近くの島やアートルムに移民してきたそうだ。

 ちなみに、どのあたりの範囲の島々には、既に人が居ないかと聞くと、アートルムから見て、十二個目以降の島は、少なくとも全て無人だという事だ。


「なるほど。じゃあ、人が居なくなったとしても、これらの島々で人が住むという事は可能なんだな」

「それはまあ……島内部の魔物は少なかったですし、住みやすかったですよ。とはいえ、海賊達が私共の後に住んでいたとしたら、すぐに分かりそうなものですけどね」

「まあな。だが、拠点の候補になり得るのは違いない。最後にギルドとかの調査が行われたのはいつ頃だ?」

「私達が移民した頃ですから……10年ほど前ですね」


 結構経っているな。それなら、コイツ等が居なくなった後に、海賊団が住み着くなんてことはあり得そうだ。

 早速、面白い話を聞けたと思いながら、その村での聞き込みを始めていった。


 ……と言っても、村の人口は三十人足らず。村長も居て、あっという間に終わった。


 移民になった経緯以外に気になった話は、何人かの村人から聞いた、かつて、自分達と一緒の集落に居たある男の話。

 素行が悪く、魔物以上に手が付けられなかったらしく、度々、アートルムの街で揉め事を起こしていたらしい。

 しかし、移民の話が出た頃に、行方不明となったということで、現在、海賊団に居るのではないかという噂だった。

 昼飯を食べながら、リア達とも話したが、リオウ海賊団の構成員は、頭目であるリオウ以外は謎だ。

 規模が分からないとはいえ、どんな人間が居るのかという話は覚えておいた方が良いだろう。

 ちなみに、その男と俺とではどちらが強いかという質問には、もちろん、俺と答えたが、村人と村長曰く、悪人とはいえ、下手な上級の魔物を倒したりしていたらしく、そこらの冒険者の平均値は軽く超えているとのこと。

 という事は、普通の人間の数倍の力を持っているという事で、そんな奴が、行方不明となると色々心配らしい。

 一応、騎士団には伝えているとのことだが、なんなら、ギルドにもこのことを伝えておくという事で、村長たちに納得してもらった。


 さて、村での聞き込みが終わった後は、夕方まで再び島の調査である。ふと見ると、朝よりも潮が引いたのか、水面が下がっている。

 何か、午前中には見つけられなかったものは見つかるかと思い、飛んで見たが、特に何も無かった。

 あったのは、大人三人分くらいは入れるようなデカい貝だ。扇の形をした……見た目はホタテに近い。見た目だけはな。

 上から分かるほどの大きさの貝に、魔物かと思ったが、鑑定スキルを使ったところ、魔物ではなく、ただの貝だった。


……


人魚の揺り籠

世界中の浅瀬で稀に見つかる巨大な貝。毒は無く、食用としても安全。

貝殻は、家具、食器、武具などに使われることがある……


……


 ……なるほど。「人魚」というのは、確か、下半身が魚で上半身が人の姿をした生き物だったな。ロロが買ってきてくれたおとぎ話の中に、そう言うものがあった気がする。

 確か、その本の挿絵で、人魚が大きな貝殻で寝ていた所に、人間がやってきて、恋に落ちるという話があったが、それになぞらえた貝なんだろうな。

 一応は食べることも出来るらしい。それに、貝殻はそこそこ強度があるらしく、縦や鎧にも使えるようだ。細かく砕いて土と一緒に混ぜて食器を作ることも出来るし、手芸の材料にもなるみたいだな。

 いろいろ出来そうだし、ここまで大きな貝なら、酒のつまみにも良いだろうと思い、持って帰ることにした。

 岩にがっちりと張り付いていたが、無間でその部分を切り、異界の袋に納めた。後で、ツバキに焼いてもらうとしよう。


 さて、結局、この貝以外に見つかったものは無く、沿岸部の調査を終えた後は、調べ切れていなかった、森の中なども飛び回ったが、目ぼしいものは無かった。

 この島は安全だ。そう結論付けた所で、日が暮れ始め、最初の島に、モルガン達の船が見えたので帰ることにした。


 桟橋へ直接下りると、既に帰ってきていたダイアン達が出迎え、リンネが駆け寄ってきた。


「おししょーさま、おかえり~!」

「ああ、ただいま。楽しく出来たか?」


 リンネは大きく頷くと、あの村でサヤと出会ったことを嬉しそうに話し、帰るギリギリの時間まで、サヤや他の子供達と遊んでいた事を話してくれた。


「あのね、サヤちゃんといっしょに、きのぼりしたり、おいしいきのみをもらったり、リンネは、かみかざりをあげたり~……」

「そうか、そうか。楽しくやってくれて何よりだ。また、帰ってから聞くとしよう」


 興奮冷めやらぬ様子のリンネ。よほど楽しかったらしい。また、遊ぶと約束したらしいので、調査の合間に、遊びに来るとしよう。

 さて、続いて、ダイアン達に話を聞いたが、麓の村では目ぼしい情報は得られなかったという。なので、リンネを見張るルイ以外の者達で、その辺りの調査をしたらしいのだが、俺が居た時と同じく、魔物もそこまで居るわけではなく、平和そのものだったので、早々に調査を切り上げたそうだ。


「なるほど。こっちはこっちで、良い話を聞いた。また、船の上で話すとして、その前に……」


 各々の報告会はこの後にするという事で、ダイアン達は先に船に乗り込んでいる間に、俺は、見送ってくれている、この村の村長に向き直った。


「取りあえず、今日一日、この島を回ってみたが、特に何かを気にするようなものは無かった。これまで通り、平和に過ごしてくれ」

「おお、ムソウ様。ありがとうございます。闘鬼神の皆さんも……おかげで、心のどこかで感じていた不安なものが無くなりましたわい」


 村長は胸を撫で下ろしながら、頭を下げて来る。この村の総括がここの尊重というわけではないが、一応の報告だ。

 何もしてないのに頭を下げられるのは、あまり良い気がしないが、こうやって、仕事終わりに頭を下げられるのは、悪い気はしない。

 ここの奴らも、この島が本当に安全だったかどうか、不安ではあったようだ。心底安心したという顔の村長に背を向けて、船に乗り込んだ。


 その後、海風に当たりながら甲板の上にて、ダイアン達と報告会を開く。

 俺が、最後の村での移民について話すと、皆、少し苦々しい顔をした。


「これから行く島にも移民が多いってことは、明日からの調査は、難航するって事っすか?」


 話を聞く人間が多いと、調査も予定通りにはいかなくなる。ダイアン達はその事を心配しているようだが、俺は地図を開きながら首を振った。


「いや。これで見る限り、今日行った島が、一番大きく、集落も多いようだ。明日からは、一つの島に、集落一つから二つほどだ。今日一日で調査のやり方も学べたし、明日からの調査は、今日よりは楽になると思う。集落もそんなに大きな規模では無いからな」


 地図を見れば、明日から調べる島の大きさは、今日行った島の半分ほどだ。調べる範囲が小さいので、今日よりは楽になると思う。

 一日に、幾つもの島を調べることも出来そうだし、モルガン達が漁をしている間に、空を飛べる俺とダイアンで、他の島を調べるという事も出来そうだ。

 皆が考えているようなことにはならないと言うと、ダイアン以外の者達は胸を撫で下ろしたが、何故かダイアンは、苦々しい顔になったままだった。


「う……それはつまり、俺が頭領と一緒に居る時間が長くなるって事っすか?」

「まあ、そうなるな……って、何が不満なんだよ」

「だって……」

「今日一日は何も無かったし、リアもハルキも、俺と一緒に依頼に出た経験があるんだ。いい加減、少しは見習え」


 そう言うと、リアもハルキも、俺に同意するようにうんうんと頷いている。こういう時は助け舟を出してくれるんだとリアに感謝していると、盛大なため息とともに、ダイアンは頷いた。


「分かったっすよ~。はあ……明日からは疲れそうだ」

「何なら日替わりにするか?」


 ダイアンがどうしても嫌そうな顔をするので、こんな提案を出してみたが、今度はダイアン以外の者達が、首を横に振ったので、結局、明日からはダイアンが俺と行動し、リア達にはリンネを付けることで話が纏まった。

 そのリンネはと言うと、現在、話し合いから離れてルイと共に、モルガン達の今日一日の仕事の成果を眺めていた。


「わあ~、おいしそ~!」

「生きてる魚を眺めて美味しそうって……リンネちゃんらしいわね」

「これでも、美味そうな方っすよ。時々、魔物が網にかかった時なんか、普通の魚を食われるんで、そりゃもう、魑魅魍魎な光景に……」

「ふ~ん。でも、魔物が居ないから、これは、大漁って結果になるの?」

「いや、そうとも言えない。誰もかれもこの辺りで漁をするもんだから、それぞれの取り分は減っている。これも、昔に比べたら、十分の一にも満たないだろう」


 モルガンの説明に、ルイは驚いた顔をしている。聞き耳を立てていた俺達も驚いた。ちらっと見たが、結構な量を獲っているが、それでも少ない方らしい。

 狭いところで密集して漁をしているわけだから、そういう事にもなるか。確かに、船の大きさにしては、少ないのかも知れない。

 魔物が居ないのは良いことだが、それですべて嬉しいという事ではないようで、漁師という仕事も大変だなと感じた。

 もっと沖で漁がしたいというモルガン達の言葉に頷こうとした瞬間、俺よりも先に、ルイが胸を叩いて頷いた。


「私に任せなさい。海賊はきっちり倒して見せるわ。頭領が」

「ルイさん……ありがとうございます!」


 ルイの言葉に、モルガン達は一同頭を下げて喜んだ。よろしくね、と片目をつぶりながらこちらを見てくるルイ。

 なるほど……姉御気質が、ここでも発揮された様である。まあ、海賊については元から倒すつもりだから、その辺は良いが、何か利用された気分で、何となく嫌な気となった。

 やれやれとため息をつくリアに、


「アイツの晩飯、減らしとけ」


 と言うと、リアは、ハイハイと頷いた。


 そんな感じで、ルイと漁師達に謎の一体感が生まれた頃、俺達が借りた家が見えてくる。

 ようやく一日が終わったかと思っていると、桟橋の所にツバキが立っているのが見えた。

 ツバキは大きく手を振りながら、声を掛けて来る。


「ムソウ様~、皆さ~ん! おかえりなさ~い!」


 出迎えるツバキに、何となくほっこりしていると、船べりからリンネが飛び出した。


「おねえちゃ~ん!」


 陸に着くのが待ち切れず、リンネは飛び出し、空中で小さいトウウに変化した後、ツバキの元にまっすぐ飛んで行った。

 そして、獣人の姿となり、ツバキに飛びつく。ツバキは嬉しそうに抱き上げ、優しく頭を撫でていた。


 無茶するなあと苦笑いしているうちに、船は着岸。下船すると、モルガンが話しかけてくる。


「じゃあ、今日はここで終わりだな。俺達はこの後、市場に行く。明日も今日と同じくらいでここに来るってことで良いか?」

「ああ。明日からもよろしく頼む」

「あいよ。しっかし、ムソウさん。アンタも隅に置けねえな。別嬪さんに囲まれて羨ましいぜ」


 羨ましそうに、ガハハっと笑うモルガン。うるせえと、胸を小突いた後、モルガンは船員たちを連れて市場へと向かった。

 護衛の冒険者達もここで分かれて、貴族達が用意した宿舎へと向かう。

 皆と別れた俺達は、そのまま、家に帰っていった。


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