第403話―海賊団調査を始める―
翌朝、目が覚めると、何故か柵がある寝具から、ダイアンが転げ落ちていた。寝相が悪いって、こういう事か……。俺が寝ている間に一体何があったんだろう。
何か月も同じ家に住んでいる奴の、初めての光景が見られて、何となく嬉しい気持ちになりながら、顔を洗うために部屋を出た。
「あ……」
「ん? ああ、リンネか。おはよう」
戸の前に、リンネが立っている。驚いた、という顔で俺の顔を見上げていた。
「リンネがおこそうとおもったのに~」
「ハハハ。じゃあ、中でまだダイアンが寝ているから、起こしてやれ。この匂いは……朝飯、もう出来ているんだな?」
厨房の方から、ツバキとルイの気配と共に、良い匂いが伝わってくる。リンネがここに来たという事は、飯の準備でも出来たのかと聞くと、リンネはぱあっと笑った。
「うん! ルイおねえちゃんに、みんなをおこしてっていわれた~!」
「そうか。じゃあ、皆を派手に起こしてやれ」
「は~い!」
リンネはパッと手を上げて、俺達の部屋へと入っていく。
洗面所に向かっていると、部屋の中からダイアンが、うおっ!? という声が聞こえてきて、思わず笑った。
顔を洗って居間へと向かうと、ツバキとルイが料理を机に並べていた。
「あ、ムソウ様。おはようございます」
「おう、ツバキ、ルイ、おはよう。ルイはよく眠れたか?」
「ええ。意外と良いものね。波の音で寝て、波の音で目を覚ますというのも」
昨晩の時点では、上手く眠ることが出来るかと不安そうだったが、波の音を聞いているうちに、心地いい気持ちとなっていき、リアが何か話しているうちに眠っていたという。
そして、朝は波の音で目が覚めて、部屋から海を眺めながら朝風に当たり、スッキリとした顔で料理を作るツバキとリンネに合流したという。
「旦那が出来たら、コクロとかモンクに住むのも悪くないわね」
「でしたら、モンクにしてくださいね。それでしたら、私は寂しくないです」
朝から楽しそうに会話するツバキとルイ。女というのは、どこに行っても朝から元気だなと思いながら二人を手伝いながら、皆が起きて来るのを待つ。
しばらくすると、ぞろぞろとダイアン達がやってきて、リンネに手を引かれながらリアが二階から眠そうな顔で下りてきた。
「おはよう。ツバキさん、ルイ、ごめんね。寝過ごしちゃった」
「大丈夫よ。日中は貴女の方に負担をかけるんだから。家でくらいは、ゆっくりしてなさいよ。気持ちよさそうな寝顔だったわよ」
「む……」
少し頬を膨らませて、ルイの顔を見つめるリア。
しかし、リンネに手を引かれて、
「おかおをあらお!」
「あ、ちょっと――」
と、先に顔を洗いに行き、食卓は朝から笑いに包まれた。
そして、皆で飯を食べながら、昨晩決めた事を再確認していく。昨日居なかったリンネは、真剣に聞いている。頭の中がぐちゃぐちゃにならないように、一つずつ確認を取る度に、うんうんと頷いていた。
「リンネはずっとおそらをとんでるの?」
「ああ。ただ、エンテイや、トウウには化けないで欲しい。目立つからな。普通の鳥とかには化けられるか?」
「うん! ちっちゃくなったトウウおじちゃんになれる!」
小さくなったトウウ……少し小奇麗になったタカの見た目をしていたな。尾羽が少し長いが、まあ、空を飛んでいれば、普通の鳥にしか見えないだろうな。
「それで良い。それで、何か気になることがあれば、俺に伝えて欲しい。まあ、一緒に飛ぶから、そのあたりはあまり気にせず、どちらかと言えば、ダイアン達に危険が無いように空から見ていて欲しいんだ」
「わかった~! みんなは、リンネがまもる~!」
リンネの言葉に、ダイアン達は、ありがたいなと笑った。リンネにやってもらうのは、そんなところだ。どちらかと言えば、海賊団を探すことよりも、地上を捜索する者達に付いて、危険が迫れば教えて欲しいというものだ。
最初はダイアン達、一つの部隊だから、俺もリンネと一緒に行動するが、ツバキやジーンと合流し、部隊を分けることになれば、どちらかが俺、もう一方がダイアンとリンネが空から、地上、海上の部隊を護りながらの捜索にする。
危険が迫ったとしても、俺か、ダイアン達の元に行き、共に撃退すれば良い。その時は、本来の力を十二分に解放しろと伝えると、更にやる気を出すリンネ。
モンクの事もあり、リンネも自分や俺達を護ることに関し、既に躊躇いは無いようだ。
相手が何だろうと、本気を出すという気迫を感じる。
ただ、どんな状況だとしても、リンネには、直接的な「人殺し」はさせたくないので、相手が人間なら、情報とかも引き出したいと言って、生け捕りにしろと伝えておいた。
コクっと頷くリンネの後ろで、俺の意を汲んだ皆は、静かに頷いていた。
「さて……そろそろ、私は行きますね」
そう言って、ツバキは立ち上がり、空いた食器を洗い場まで持って行った。
そして、斬鬼を手に取り、長らく着ていなかった全身鎧を身に着け、鉄仮面を脇に抱えた。
「お……その恰好はマシロ以来だな」
「流石に、いつもの格好で行くわけにはいきませんので。一応、天宝館で用意していたのです」
「おねえちゃん、かっこいい~!」
「ありがとうございます」
キラキラとした目を向けるリンネに、ツバキは微笑みながら頭を撫でる。ダイアン達は、初めて見たと言いつつも、リンネと同じ様に似合っていると褒めていた。
その後、リンネに、再度コウカ達の事をよろしくと頭を下げた後、俺達に向き直った。
「では、行ってきます。マシロと同じ感覚ですと、夕方には帰ります。買い物も済ませておきますので、皆さんはそのまま帰ってきてください」
「ああ。騎士としての仕事は久しぶりだろうが、へまするなよ」
激励の意味も込めて、ツバキの頭を撫でてやると、フッと微笑んだ後、そのまま家を出て行った。
まあ、ツバキだからな。きっと大丈夫だろう。皆とそんなことを話しながら、飯を食べていく。
そして、全員で協力しながら皿を洗い、支度を整えていると、家の外から何人かの人間の声が聞こえてきた。
何だろうと思い、玄関を開けると、そこには恰幅の良い、いかにも漁師風の格好をした男が立っていた。
「失礼する。アンタが、冒険者のムソウさんかい?」
「ああ、そうだが……?」
「おお……本物か。噂通り、強そうな男だな」
男はニカっと笑いながら、俺の背中をバンバンと叩きながら、これなら期待できると笑っていた。
地味に痛いなあと思いながら、男の正体を聞くと、ノワールから派遣されてきた、俺達の海賊団討伐を手伝ってくれる者とのこと。
早い話が、船の乗組員だそうで、この街の漁師達や、他の領から来た冒険者で構成されており、代表者が自分だとのことだ。
「俺は、モルガン。これからしばらくよろしくな」
「ああ、よろしく。もう少ししたら皆も準備が整うから待っててくれ」
協力者も来たという事で、準備を終えた俺達は外へと出てみた。
モルガンを筆頭に、二十人近い者達が、二隻の船の準備を急がせていたが、事情を話し、今日使う船は一隻だけと言うと、その分だけの人数が残り、後の者達はそれぞれ自宅や、貴族が用意した寄宿舎に帰っていった。
今回、貴族達が用意してくれた船は、中規模くらいの大きさのもので、モンクのハンナが乗せてくれた船よりも、二回りくらい大きい。
ハンナのものくらいなら、一人で操ることが出来るが、これくらいとなると、スクリューに魔力を込める者、操舵する者、見張る者など、人数が必要になってくるとのこと。
また、新しいことを学んだという気持ちで、船に乗り込んでいく。甲板の上でリンネがはしゃごうとするが、船員の作業の邪魔にならないようにと、抱き上げた。
「大人しくしてろ」
「む~……じゃあ、リンネ、うみがみた~い」
「それくらいは良いだろう」
そう言って、俺は船べりに立って、日に照らされる海と、コクロの島々を眺めた。
「さて、全員乗り込んだな! じゃあ、スクリューを回せ! 出航だ~!」
モルガンの号令により、船は動き出す。勇ましい掛け声で、これから大冒険が、という雰囲気ではあるが、島に着くのはすぐだ。この間はのんびりとしておこう。
ダイアン達も、甲板の上でのんびりと海を眺めたり、武具の手入れや道具の確認を行っている。船酔いの心配は無さそうだ。
……やっぱり、外に出ると、何か違和感があるな。俺と同じく、リアも落ち着きが無いようだ。
少し心配なので、近くに行って声を掛けてみた。
「大丈夫か?」
「ええ……何なのかしらね」
「分からない。俺も初めてだ。気配は感じるのに、姿が見えないとはな……」
「スキルか何かとか? ジゲンさんの隠蔽スキルとは違うの?」
「ああ、違う。隠蔽スキルは姿を見えなくしているだけで、気配だけは濃く伝わってくるからな。隠密に長けた奴でも、俺を狙っているというだけで、気配はびんびんに伝わってくるものだ。
しかし、これは……ホント、何なんだろうな。リンネ、何か感じるか?」
「きのうとおなじで、へんなかんじはする。でも、においもしないし、おともきこえない」
つまり、この近く、俺達が目視できる範囲には何も居ないという事だ。
だが、離れた所から狙っていたとしても、殺気などは強く伝わるので俺からすれば、意味は無い。ただ、そういうのも感じられない。
殺気や敵意では無いのだから、良いのではと思うが、それでも、気味が悪いという事には変わりない。
「これが、海賊によるものだとしたら、ちょっとヤダね」
「ああ。カドルを核にした九頭龍さえも、その誕生に俺は気付かなかったからな。あの時は、山に行ってようやく、何かしらの違和感と言うか、圧迫感に気付いた。
しかし、圧迫感でも無い。ここに居ると、他の領とは違う何かがあるという事を、僅かに感じる程度だ。
もし、これが海賊によるものだとすれば、少し、厳しい戦いになるかも知れないな」
「その時は、頭領も本気になるの?」
「まあ、俺はいつも本気でやってるつもりだが……そうだな。その時は、そうなるだろうな……」
強大な敵を倒すには、こちらもその気で闘うしかない。鬼神化だろうと、無間の偶像術だろうと、思う存分使わないと駄目な場合は、それも致し方の無いことだ。
だが、結局それは、その時にならないと分からない。俺が本気を出すと、相応の二次被害がコクロを襲うという事は、話し合いの結果、分かっている事である。
出来るだけそうならないようにはする。今回は、ダイアン達も居るし、リエンが応援を呼んでくれるみたいだしな。
ただ、所謂、「不測の事態」が発生した場合は、その限りでは無いと、再度リアに言ったうえで、改めて覚悟を決めてくれと確認すると、普段ならここで、皮肉や嫌味めいた事を言ってくるリアだが、今回は、素直な様子で頷いた。
「わかった。なら、私は、どんな時でも、頭領や皆が信じてくれた、この冷静さを無くさないようにする。そして、誰一人、欠けることが無いように、策を練るわ」
「……そうか」
「もう……あの時みたいな思いはしない。あんな悔しい思いは、もうしない」
決意を込めた瞳で、リアは自身の掌を見つめ、ぐっと握った。
何だかんだ言って、クレナに居る間、俺とツバキ、それにリンネとの依頼について来る数が多いのはリアだ。それも、自分から進んで、ついて来ている。
場数を踏んで、どんな状況でも対応できるような柔軟さと、精神力の強さを上げている。
それも、もう二度と、雷雲山で経験した事を起こさない為。どんな状況でも、自分を含めて、全員で生き抜く為、リアは指揮官、参謀としての力を付けている。
正直な話、闘鬼神の冒険者の中では、一番頼りにしている存在だ。ダイアン達だけでは難しい依頼も、リアが加わることで、成功率が上がることも確かだ。
天上の儀での一件で、リアが目立ったという話をロロから聞き、リアは落ち込んでいたが、冗談抜きで、その評価は本当にまっとうなものだと感じている。
リア本人も、これから強くなるという意思は強いようだし、コイツの今後に、俺は更に期待して、頷いた。
「分かった。じゃあ、その時は皆を頼む」
「了解。頭領」
「それから……お前は、俺の死神の鬼迫を受け流せるんだったよな?」
「ええ、最近は上手くなってきたわよ」
本当に、末恐ろしい奴だなあ……。
「なら、この違和感も、受け流すことは出来るか? もし、出来たら俺にもその方法を教えてくれ」
俺の殺意を受け流して、平然と立っていられるなら、この違和感も、「気にしない」ようにすれば、何とかなるのではないかと感じた。
もちろん、完全に意識の外に持っていくのではなく、仕事をしている間くらいは、忘れられるように、という話だ。
リアは、しばらく黙り込んだ後、コクっと頷いた。
「分かった……やってみるわ」
「出来たら、リンネにも教えてやってくれ。リンネも、今のままじゃ、嫌だろ?」
「うん。このへんなかんじ、リンネ、ちょうしがくるう~」
「フフッ、分かったわ、リンネちゃん。私に任せといてね」
「うん! リアおねえちゃん、がんばってね~!」
キラキラと輝く顔でリアを応援するリンネ。リアはやれやれと言った顔で、リンネの頭を撫でていた。
ふと、周りを見ると声が聞こえていたのか、ダイアン達がチラチラとこちらを見ていた事に気付く。視線が合うと、慌てた様子で、顔を逸らすが、すぐにニッと笑って、俺らにも期待を、という顔で俺を見て来る。
心配しなくても良いと手を振ると、それぞれ、嬉しそうな顔で頷いていた。
一番頼りにしているのはリアだが、他の奴らも頼りにはしているし、今後を期待している。ほとんど冗談だろうが、俺は割と本気で、俺やジゲンを越えて、それぞれがこういう依頼を受けたり、全員が異名持ちになってくれたら、嬉しいなと感じた。
さて、そうこうしているうちに、島がどんどんと近づいて来る。上陸するのは、もう少し行ったところにある村の桟橋だ。
それまでにリンネを暇そうに風に当っていたルイに任せて、俺はモルガンに、今日の動きと、今後、どのように調査を進めるのか説明していく。
島に着いたら、基本的に船は使わないと言うと、なら、その間に近くで漁をしていいものかと尋ねられた。
俺達は困らないが、その間に何かあれば問題だと思ったが、船員の中には冒険者も居る。魔物などが出ても時間稼ぎくらいは大丈夫とのことだ。
万が一の時は、信号弾を飛ばすから、来てくれという冒険者の頼みに、分かったと頷いた。
「一番は動かないことだが、俺達にも生活はあるからな。分かってくれ」
「ああ。ちなみに、漁はどの範囲でやってるんだ?」
「海賊の影響で、街から離れていない所でやっている。そうだな……主にこの辺りを境に遠くには行っていない」
モルガンが地図上で指したところは、予定では三日後くらいに捜索する予定の島付近だ。これ以上アートルムから離れると、島も無人島が多く、また、海賊団も出没しやすい区域に入るという。
「む……なら、先にこっちから片付けた方が良かったか?」
「いや。ギャッツ支部長から聞いた話じゃ、アンタらの装備も本式じゃないし、ジーン様も居ないんじゃ、何かあった際に問題だ。だから、こっちから初めて、徐々に漁が出来る範囲を広めていって欲しい」
ふむ。やはり、ギャッツはああ見えて、色々と考えているようだな。
まったく問題ないと感じるが、俺の装備も鎧は無いし、小手も無いし、ただ着物を着て、無間を背負っているだけだからな。
ギャッツもモルガンも、俺の事を気遣ってくれているようだし、言われた通りにしておこう。
「なら、当初の目的通りだな。ただ、遠くの島を調べる時でも漁をしたいと言うのなら、相応の準備はそっちでしてくれよ」
「ああ。すまねえな、ムソウさん」
「良いってことよ。そういや、遠くに行けないんじゃ、旅客船も出られないよな? だが、前にモンクに居た時は、コクロ行きの船も見たような気がしたんだが……?」
「行けないのは、レイン方面の海域だ。モンク方面は陸に沿って船を進ませるからな。何とかなっている。レイン方面の船は、モンク経由で全て出ている」
という事は、海賊団が出没しているのは、コクロとレインの間か。モンクとレインの航路上に魔物が出た際に、依頼に出たが特に何も無かったし、そもそも島なんてものも無かったもんな。
「となれば……この辺りの島を調べても意味は無いのか?」
話しているうちに、そう言えばこの辺りの島は調べ尽くされているだろうなと思った。ギルドも騎士団も近いことだし、何かあればすぐに分かるだろう。
漁が出来る範囲の島々は、別に調べなくても良いのでは、と提案したが、モルガンは一応、お願いしたいとのことだった。
「近くと言えども、人が居ない島もあるし、今日、調べてもらう島は大きいからな。魔物被害の調査も兼ねてお願いしたい」
「なるほど……分かった。じゃあ、予定は変えずに、そのまま行こう」
「あいよ……っと、そろそろ着くな。上陸準備に入るから、下りる準備をしてくれ」
モルガンに頷き、俺はダイアン達に上陸する準備を整えさせた。
やがて、船は島にある村の桟橋に留まり、俺達は船を下りた。村の住民達が家から出て、ざわざわとしている。
漁師を除いても、それなりの数の冒険者が居るからな。何事かと尋ねて来る村の長に、事情を説明すると、村長は驚いた顔になっていく。
「何と……貴方様が、あの“死神”ムソウ様でしたか……これで、コクロも安全――」
「ちょっと待て。今、何て言った?」
聞き慣れてはいるが、この世界に来てからは聞いたこともない異名で俺の名を呼ぶ村長。
何故、俺の事を“死神”と呼ぶのか聞き返すと、村に来た冒険者が俺の事をそう呼んでいたらしい。
更に詳しく聞くと、九頭龍を倒し、多くの災害級の魔物を討伐し、更に悪徳な貴族を、権力に対しても臆さず斬ってしまう俺の事を、近頃、冒険者の間で、“死神”、“死を招く武人”などと呼んでいるそうだ。
クレナでは聞かなかった事情だし、十二星天の皆も、昨日のギャッツ達も何も言わなかったところから、多分、一部の冒険者だろうが、何となく複雑である。
しかし、ダイアン達はクスクスと笑っている。自分達の頭領が、ほとんど悪口で呼ばれているというのに、気楽なものだ。コクロを取り巻く違和感に辟易していたリアまでも、少し元気になっているようだ。
良いことなのだが、我慢ならないと思い、皆に詰め寄った。
「お前ら、何笑ってんだ?」
「何って、凄いじゃないっすか。前の世界と同じ異名を持ったんすよ! しかも偶然! これは運命っすよ!」
「頭領も異名持ちの仲間入りね。まあ、そんなのと比べ物にならないくらいの功績は残しているけど」
「功績以外にも、問題行動も多いわよ。やっぱり、貴族を斬るというのは、良い評判を生まないものなのね」
「まだ、良いじゃないっすか。ジゲンさんの“刀鬼”よりはマシっすよ」
いや、まだ“刀鬼”とか“規格外”の方が良いだろう。“死神”って何だよ……。
「お前ら……何度も言うが、それは殆ど悪評だろ。俺は、嫌なんだよ」
「そうは言っても、頭領。時々、自分の事を、「“死神”舐めんな」とか、ツバキ姐さんやリンネちゃんの為なら、“死神”にくらいなってやるとか言ってるじゃないっすか」
「言って……ねえよ!」
チャンの言葉を全力で否定したが、皆は呆然とした顔で、こちらを見てきた。
「え……無意識で言ってたんすか!? 怖いっすよ~」
「よく言ってるよな、リンネちゃん」
「うん! おししょーさま、よくいってる~! リンネ、かっこいいとおもう~!」
……え、俺、そんなこと言ってんのか。ほとんど無意識だし、というかそもそも、普段口にする言葉にいちいち頭を使うこともない。
しかし、俺の一番近くに居るリンネは、言っていると笑っている。しかも、カッコいいと思っているようだ。
そこでカッコいいと思われても、反応に困る。正直、嬉しくない。
にしても……俺は自分が気付かないうちに、“死神”であることを認めているのか……何とも、恐ろしい話である。
ああ、エイキに、“古今無双の傭兵”と言われた時のことが懐かしい。アイツのように、俺の気持ちをきちんと理解してくれる奴は、この世界に居ないものか……。
「おししょーさま?」
突然の真実に、しばらく戸惑っていると、リンネが顔を覗き込む。
まあ……リンネが喜んでいるのなら、俺は“死神”ってことで良いだろう。
そう自分に言い聞かせて、リンネの頭を撫でた。
「えへへ……なんかわかんないけど、なでてもらえた~」
「はあ……まあ、異名なんぞ何でも良いか……」
「そうっすよ。そんなことより、これからどうするんすか?」
そんなことって……いちいちイラっとするなあ。再び、ため息をついて、俺は皆に指示を出した。
「じゃあ、まず、村の人間に話を聞いて回ってくれ。その後は、決めたように島の調査だ。俺は先に空へ出てる。リンネ、村に居る間、お前はダイアン達と行動してくれ」
「は~い! おそとにでたときに、とりさんになればいいんだよね?」
「ああ。俺は目立つからすぐに見つかるだろう。という事で、協力を頼む、村長殿」
「承知しました、ムソウ様。しかし、我々は海賊団について、有益な情報などは持ち合わせておりません。何を話せば……」
「何でも良い。直接、海賊団に関わっていなくとも、何か小さなことから分かることもあるかも知れないからな。コクロ領のちょっとした変化や、漁に出ている時に感じた事など、何でも良いから話してくれ」
どんな些細な事でも、そこから海賊団につながる可能性もあるからな。俺達が感じている違和感についても分かるかも知れないし。
それならば、と頷く村長は、ダイアン達を村の中へと促していく。
しっかりやれよと、声を掛けると、ダイアンは任せてくれっすと胸を叩いていた。何だかんだ、頼りになる奴だと笑いながら、皆を見送った。
「それで……ムソウさんは? 空から、というのは?」
一人になった俺を不思議に思ったのか、モルガンが声を掛けて来る。
俺は、ニッと笑ってスキルを発動させた。
―おにごろし発動―
モルガン含め、漁師や冒険者達が驚いた顔を見せる前で、俺は神人化し、空へと飛び立った。
「まあ、こんな感じで、俺は空から島を調べる。夕方には家に帰るから、そのつもりで。じゃあな」
そう言い残して、口をポカンと開けるモルガン達の前から離れていった。
異名の件もあるが、九頭龍を倒したという話が広まっているのは良いことだが、どのように倒したのか明らかにはされていない。
訳の分からない存在に見られるよりは手の内を見せて安心させておこう。そう思って、目の前で神人化したのだが……どうだろうか。もっと詳細に、俺の事が広まってくれることを願いつつ、島の上空へと到達した。
確かにこの島は大きい。今は、島の端である村の真上に飛んでいるが、反対側は見えない。
しかし、俺から見える範囲に、他の集落もあるようだ。
一つは森の中、更に、南側にそびえる山の麓、最後に、この村の近くにもう一つ。
後は断崖絶壁になっており、人が住む集落など無いような感じだ。
事前に確認した資料でも、ああいった崖の辺りの調査は行われたと書かれていた。ダイアンのような、空を飛べる獣人達や浮遊スキル持ちにより、隈なく調査されたが、結局、拠点は見つからなかった。
無論、他の島ではそれも行われている。今更、やる意味は……と、思ったが、スキルや魔法の力で、拠点自体を隠していることも考えられる。
一応、やっておくかと思い、まず、島を一周してみることにした。
上からは見えなかったが、結構切り立っているな。それに、岩場も多い。こんなところに拠点なんぞ出来ないよな。そもそも船を止めることも出来ないだろうし。
やっぱり、この島は完全に安全なんだろう。まあ、今日は探索の練習という事にして、一日を過ごすとしよう。
気持ち的には急いでいるつもりだが、急いては事を仕損じるというものだ。ゆっくりとやって行こう。
そんなことを思いながら、島の周りを飛んでいると、俺の気配探知に、リンネの気配が引っかかった。俺と同じく空を飛んでいる。
村での調査が終わったのかと思い、気配の大元へと向かうと、小さなトウウに変化したリンネがパタパタと飛んでいた。
「……」
「村での仕事は終わったか?」
「……」
リンネはコクっと頷き、俺に、口に咥えた何かを渡してきた。
それは折りたたまれた一枚の紙。開いてみると、それはダイアン達からの報告を兼ねた手紙だった。
内容は、村での調査が終わった事、大した話は聞かなかったこと、ただ、気になることはあったので、後で話すという事、そして、次の村に移ると言った旨が書かれていた。
ふむ。気になることはあったのか。今、聞いておきたいが、緊急性は無いようだ。
ダイアン達の言うように、この件は後にしておこう。ふと、下を見ると、ダイアン達が見え、俺に手を振っているのが見える。
俺も振り返し、リンネに向き直った。
「良し。じゃあ、これからお前は、ダイアン達を気にしつつ、近くを飛び回ってくれ。で、次の村に着いたら、また、ダイアン達と行動だ」
「……」
リンネはしばらく、俺の顔をまっすぐ見た後、嘴で自分の腹をつついた。何をしているのだろうかと思ったが、すぐに、あぁ、と思い、笑ってやった。
「昼飯は、次の村での調査が終わった後にしよう。それまで、お前も頑張れよ。何かあったら、決めていたように、俺を呼んでくれ。良いな?」
そう言いながら、頭を撫でると、リンネは、心なしか、ぱあっと笑顔になって、頷いた。
そして、村に向かうダイアン達に合わせて次の村の方向に向かって飛んで行く。
俺は、今度は内陸部分を探索しようと、一先ず島にある一番高い山に向かう。仮にここに海賊が居れば、海賊ではなく山賊だよなと思いながら、山頂に降り立ち、気配を探ってみた。
流石に、山全体は無理だが、ある程度の範囲は探れる。少なくとも、俺が今居る山頂付近にそれらしい気配はない。コクロに来た時から感じている違和感以外の気配は、特に無い。
まあ、もちろん魔物の気配も感じるが、そこまでの力は感じない。下級から中級くらいだ。人里が近く、冒険者も立ち寄ることが多いからか、数は少ないようだな。
ここは島だし、外部から魔物が増えるという事も少ないのだろう。ギャッツから聞いた話じゃ、どちらかと言えば、海の方が多いらしい。
海に出たら魔物、海賊が襲ってくるという事で、他の島の調査も上手いこといっていないとのことで、ツバキが帰って来るまでの間に、多くの島の調査を終えないといけないこととなっている。
とは言うものの、今日一日でこの大きな島の調査を終えることは出来そうなので、そこまで苦労しないのかも知れない。他の島は、広いと言えば広いが、この島ほどでは無いからな。
緊張感をもって挑むにしても、いざという時に疲れていては困るからな。適度に息抜きしながら、探索を続けよう。
さて、山頂付近は問題ないという事で、このまま中腹、麓にも移動して、気配を探ったが、やはり人の気配は無かった。
山の調査を終えて、その周りの森林地帯を上から確認したが、こちらも異常はない。
何かあって欲しいわけではないが、少し飽きてきた。そろそろダイアン達も村に着き、聞き込みなども終わっているだろうと思い、皆が向かった村に俺も向かうことにした。
そのまま、その場から飛び立とうとしたが、視界の端に違和感があり、そちらに視線を向けた。
見ると、森の中で数人の子供達が遊んでいるのが見える。幸い、集落は近いし、魔物も近くには居ないので、ああ、遊んでいるんだなという程度の思いで、再び、飛び立とうとした。
しかし、よく見ると、一人の子供が大きな木の上に上り、下に居る他の子供達が騒いでいるようだ。
何かあったのだろうかと思い、そちらに近づいていくと、その全容が分かった。
「下りれない~! たすけて~!」
「だからいったのに~! お父さん呼んでくるからまってて~!」
「ジッとしててよ~!」
どうやら、木の上の少女が下に下りられなくなったようである。何で、上ったんだろうと思ったが、少女が抱えている木の実を見て、何となく察した。
なるほど……まあ、木登りは上る方が簡単だからな。木の実を目指しているうちに上り過ぎたというわけか。
よほど美味いのだろうか、他の子供達の声は無視していたみたいだな。
子供が元気なのは良いことだが……なんだかなあ。どこの世界でも、木に登る子供というのは、大人を心配させるんだな。
しかし、これなら俺が行くまでもないな。父親を呼んでくると言った少女も村に向かっている。
余計な事をしなければ、木の上の少女が落ちることは無い。ゆっくり、高いところからの景色を堪能しながら、助けが来るのを待っていると良い。
そう……余計な事をしなければ。
何となく、嫌な予感がして、その場にとどまっていると、案の定、再び子供達が騒ぐ声が聞こえてくる。
「ちょ、ちょっと~! なにやってるの~!」
「動いちゃ駄目だって~!」
案の定というべきか、木の上の少女は木の実を抱えたまま、足をそっと下の枝に伸ばしている。どうやら、意を決して自分の力で下りたいようだ。
これからどうなるか、考えなくても分かる。気付けば、俺の体は少女に向かって動いていた。
その瞬間、足を滑らせて少女の体は木から離れる。
「うわあ~~~~!!!」
「きゃああああ~~~~!!!」
辺りに響く子供達の悲鳴。少しばかり本気を出して、少女に向かっていく。
そして、少女の体が地面に激突する前に、俺は少女の体を抱えることに成功した。
「「「え……?」」」
その瞬間を見ないようにしていた、下の子供達も、そっと目を開けて、少女が無事だという事を確認する。
同じく目を瞑っていた少女も、俺の顔を見つめ、呆然としている。
「ふう……大丈夫か?」
「……え……あ、うん……」
声を掛けると、意識を取り戻したように、静かにコクっと頷く。
少女を地面に立たせて怪我が無いか確認したが、どこも異常は無いようだ。良かったと思いながら、少しばかり、この子供に説教をしようとした。
「はあ……あのな――」
「サヤちゃん! 無事でよかったあああ~~~!!!」
しかし、状況を把握できた、子供達が感極まり、少女に近づいて、ギュッと抱きしめた。わんわんと泣きながら、俺が助けた少女の無事を喜んでいる。
少女は、苦しそうにしながらも、うんうんと頷きながら、抱き着いてきた子供達の頭を撫でたり、自分が抱えていた木の実を自慢げに見せびらかして、友達を泣き止まそうとしていたが、ばか、ばか、と逆に怒られ、戸惑っているようだった。
……俺は、この少女に、自分がどれだけの事をしたのかと説教を続けようと思っていたが、子供達が呼んだ少女の名前を聞いて、しばらく、呆然となり、子供達の様子……俺が助けた、「サヤ」という少女を眺めていた。




