第401話―ジーンの人生を知る―
ジーンに案内されてしばらくすると、街の少し外れにジーンの生家とやらが見えてきた。石造りの立派な建物で、塀と柵でぐるりと囲われている。
観光地という事もあり、柵の外から何人かの旅人のような者達も見えた。そう言うこともあり、庭の手入れはされているようだが、古い建物だからか、そこかしこに蔦が伸びていた。
しかし、それも、どこか趣を感じさせるもので、良い趣味だなと思った。
「着いたぞ。ここが、“我が家”だ」
「おう。立派な家だな」
「ムソウ殿の家には負ける」
フッと笑みを浮かべながら、頭を掻くジーン。確かに、俺の家よりは小さいが、あれは元々、ジゲンの家だし、ダイアン達も住めるように増築している。
この家も、普通の家族で住むにはかなり大きめだ。実は、ジーンの家はかなりの名家なのかと思い、聞いてみると、三代前のコクロ領主が、ジーンから見て祖父に当る者だったらしい。つまり、ここは元領主の家という事だ。
なるほど。コクロにあまり居ないからと言って、やけにジーンが住民達にちやほやされる理由が分かった気がする。元領主の親族ならば、十二星天関係なしに慕われることもあるだろうな。
現在のシルヴァス家は、ジーンと、ジーンのこちらの世界での兄弟の親族しか居ないらしく、元領主である祖父と祖母は勿論、親兄弟もすでに亡くなっているそうだ。
まあ、ジーンがこの世界に転生したのは、もう100年近く前らしいからな。壊蛇の天災もあったし、そう言うこともあるだろう。
ちなみに、他の転生者であるミサキ、サネマサ、レオパルド、コモンの親戚も、老衰か壊蛇の天災で既に亡くなっているそうだが、遠縁という事であるならば、居るかもしれないということだ。
俺は、前の世界の仲間達に再会することが出来たし、死んだサヤとカンナにも再会できる可能性が残っている。
それに比べれば、あのミサキでさえも、複雑な思いをしたんだなと、今更ながらに感じた。魂の回廊で会うことがあれば、是非とも、語り合って欲しいものである。
さて、ジーンに促されて、俺達は入館の受付を済ませる……が、ここで、ジーンは驚くべきやり取りをサラッと披露する。
「精が出るな、リチャード。儂の可愛いオリビアは元気か?」
「あ……ジーン様!? 何故……?」
「こらこら。儂達は家族だろう。“様”など付けるな。昔のように、“ジーンおじちゃん”で構わん」
「い、いや、それは前から申し上げているように無理な話で……って、急にどうされたのですか!?」
狼狽する門の男は、街の住民達と同じく、ジーンがここに居る、この状況に理解が追い付いていないようだ。
俺達は何が何だか、という顔をしていたが、それに気づいたジーンが男を紹介してきた。
「あー、すまんな、ムソウ殿。この男は、儂の兄のひ孫のリチャードだ。こう見えて、三児の父だぞ」
「ひ孫!?」
「む、ムソウですって!?」
ジーンの何気ない紹介に互いに驚く俺とリチャード。リチャードの方は、ジーンに続いて、何故、俺がここに居るのかと驚いているようだったが、事情を説明し、徐々に落ち着きを取り戻していく。
俺は、ツバキ達と共に驚いたままだったから、ジーンに聞いてみると、先ほども言ったように、ジーンの親兄弟や祖父達は既に亡くなっているが、兄の娘、つまり、ジーンにとっての姪はまだ存命であり、リチャードはその孫だという。
ジーンの姪は三人の子供を産んだらしく、全員、嫁を貰い、長男はコクロに残り、次男、三男は、コクロを離れたという。
そして、ジーンの姪の長男は、シルヴァス家を継ぎ、妻との間に子供を三人もうけた。
そのうちの次男がリチャードであり、リチャードの兄は、家督を親から継ぎ、三男は長兄と共にコクロの貴族となっている。
リチャード達の親世代、つまり、ジーンにとっての姪孫達のうち、シルヴァス家の先代当主である長男は存命で、当主となった自分の息子や孫達と共に、母であるジーンの姪の面倒を見ているそうだが、次男、三男は、嫁を迎える前に、壊蛇の災害により亡くなったそうだ。
リチャードは貴族では無いが、兄から妻を紹介される代わりに、家(ジーンの生家)の管理を任されているそうだ。
ちなみに、リチャードの兄弟にも、それぞれ子供が居るらしく、全員合わせると、シルヴァス家の末裔は、九人いるらしい。
その中の一番の末っ子が、リチャードの所の末の子供らしく、名前はオリビアというそうで、現在、三歳。
ジーンの口ぶりから、凄く大切にしていると思いきや、ジーンがオリビアに最後に会ってから、一年以上経っているという。
最近、シルヴァス家の現当主であるリチャードの兄、並びに、姪から、オリビアが話すようになったと手紙で伝えられ、更にそこには、「出来れば、会いに行ってやってください」という文言が書かれていた為、心配だったそうだ。
ちなみに、リチャードの弟も、王都で家を構えているそうだ。
三兄弟で唯一、コクロに残っているリチャードとも仲が良く、頻繁に手紙のやり取り等をしているそうだ。
しかし、海賊団の影響もあり、実際に会う時は、ジーンを仲介に護衛を付けるか、もしくは転送魔法で無いと家族全員でコクロに戻るという事が出来ない。
今回の海賊団討伐に合わせ、ジーンがコクロに戻ることを知った、リチャードの兄やジーンの姪が、リチャード達の様子を知りたかったというのが恐らく本音だろうと、ジーンは語った。
少しややこしいがそう言うことで、ジーンの生家であるシルヴァス家の管理人を務めているリチャードについては納得した。
狼狽していた俺達だったが、ふと、目線が合い、思わず頭を下げる。
「あ、どうも……ご紹介に預かりました、リチャード・シルヴァスと申します。以後、よろしくお願いします」
「あ、ああ、こちらこそ。冒険者のムソウだ。今日は、ジーンに連れられて、ここの見学に来た」
「ありがとうございます。それから、ムソウさん達は海賊退治もしてくださるとか……本当に感謝します。これで、家族に……」
「他の奴らからも言われているが、その感謝は、海賊団を討伐した時まで残しておいてくれないか?」
「いいえ。天災級の魔物を討伐されたムソウさんと、私の曽祖父の弟君であり、十二星天“冒険王”ジーン様でしたら、きっとリオウ海賊団を討伐できると信じております。何卒、よろしくお願いします」
曽祖父の弟……また、ややこしいな。まあ良い。リチャード曰く、海賊団の影響で王都の家族に会えないものというのは、自分以外にも居るらしく、物流が滞ることよりも辛いという。
一刻も早く、この問題を解決して欲しいと頭を下げるリチャードに、俺は頷いた。
「分かった。俺達に任せてくれ」
「……ありがとうございます」
幾ばくか表情を明るくさせるリチャード。ツバキ達にも同様に、よろしくお願いしますと頭を下げ、皆も、俺と同じ様に頷いた。
さて、思わぬ出会いを経て、俺達は入館料を支払い、ジーンの案内で生家へと入っていった。
中は、こちらもサネマサの生家と同じく、ジーンが生まれてから、今に至るまでの説明が書かれたものと共に、この家で使われていた家財や、ジーンが冒険に使っていた道具が展示されたりしていた。
見物していた者達が、ジーンに気付き、口を開こうとするも、ジーンがニコッと笑い、人差し指を口の前に持って行く仕草をすると、徐々に静まっていく。
まあ、後で、建物の外で、そういった者達と、再び握手をしたりしていたが、俺達と居る時は、横で解説をしてくれていた。
「この机で、初めてコクロの地図を書いたんだ。当時はまだ、十歳だったか……そこから、儂の冒険家人生が始まったな……」
一つの机の前で、ジーンは感慨にふける。
ジーンがこの世界に転生し、前の世界の知識を以って、魔法やスキルの熟練度を上げていき、一人であちこちに出向くようになったのが、その頃だそうだ。
当時はまだ、今のような緻密な地図が無かった時代。ジーンはもっと詳細な事を記した地図を作ろうと、暇を見つけては、コクロ領内を旅していたそうだ。
そうして、完成したコクロの緻密な地図を見た祖父母、両親、兄は驚愕。まさか、十やそこらの子供が、これほどまでに正確で精密な地図を描き上げるとはと、その日は、夜遅くまで、ジーンの功績を祝ったという。
それから、兄と両親に、自分の夢である世界地図を描き上げたいと打診。当時の地図と言うのは、大雑把なそれぞれの領の地図が、それぞれの領にあるのみで、世界地図というものもそれらを貼り合わせて簡単に作ったものしか無かった。
一応、その頃の地図も展示されていたので確認したが、言っては何だが、酷いものである。まっさらな大地に道と川が記されているだけで、どこが山なのか、谷なのか、砂漠なのか、どの方向に、どのくらいの距離に、何があるのかいまいちわからないようになっていた。
よくもまあ、こんな地図で、それまで生活できていたなあと感心するが、ジーン曰く、やはり、道に迷ったり、思わぬ地形や環境の変化により、旅をしている間に倒れる旅人と言うのも結構な数で居たそうだ。
また、今で言うところのクレナの樹海や、マシロの山岳地帯、オウキの森林地帯など、そもそも、人が居らず、魔物達の巣窟になっているところは前人未踏で未開の地となっていたようで、現在の地図と照らし合わせると、その部分は黒く塗りつぶされていた。
コクロで描き上げたコクロの精密な地図に感服したジーンの父と兄は、ジーンの申し出を承諾。王都にも協力を要請し、ジーンが率いる為の冒険団を結成した。
この時、ジーンは若干十五歳だったが、スキルのおかげで、危険を事前に回避する奇跡により、団員たちはジーンを信頼し、年を追うごとに、未開の地であった場所を次々と攻略していく。
そして、ジーンは更に、当時、この世界の創世神話となっていた、100年戦争を追った冒険家の足跡を追うようにもなっていた。
徐々に明らかになる世界の謎に、半ば興奮気味だったジーンが、この物語に興味を持たないはずがない。
必ず、100年戦争の謎を暴くというジーンの心意気に、兄や両親は更に喜び、団員たちも結束を高めていったという。
その頃には、既に王都がある大陸、つまり、レイン、シルバ、ゴルドの、精霊女王の懐以外の場所についての地図が完成されており、その功績から、ジーンも王城の出入りを許されていた。
無論、その頃から人界王であるオウエンや、シンキとも交流しながら、城の図書館で資料を眺めては、100年戦争の痕跡を探す旅に出て行っていた。
しかし、幾ら調べても、100年戦争の痕跡は見当たらない。分かったのは、その冒険家がフェルドという名前だったことのみ。
これから先、幾ら調べてもこの秘密は解けそうにない。今は、目下進めている世界地図の完成を、と思い、100年戦争の秘密については諦めるという事を、実家の親兄弟に報告した。
その時、ジーンにとって思いもよらない事実が発覚する。
何と、その冒険家フェルドという男は、シルヴァス家の先祖に当る人間で、彼が残したものも遺っていると、祖父母から伝えられた。
信じられない話だったが、すぐさまジーンは兄と共に、家の倉庫を掘り起こしていく。
そして、見つけたフェルドの冒険記と、レシアの手記。家族でそれを開いた時の衝撃は今でも忘れないという。
「灯台下暗しとはまさに、という感じだったな。兄上も父も母も、何故、今まで確認しなかったのだと祖父達を問い詰めたものだ」
「それで、何て言ったんだ?」
「一族の遺品に興味が無かったと言われた時は、思わず殴りたくなったな……」
大きく息を吐くジーン。
なるほど……大した理由ではないだけに、余計に腹が立つな。
兎にも角にも、世界の真実を知ったジーン一家だったが、取りあえず、扱う内容が大きすぎるという事で、レシアの手記に記されていたシンキ、つまり、人界の宰相であるシンジと王に、伺いを立てることにしたそうだ。
すると、レシアの末裔がジーンで、EXスキルが同じという事で、不思議な事もあるものだと、シンキは大笑いしたという。
改めて、手記の内容は事実だが、この事は内密にして欲しいと、シンキからシルヴァス家に伝えられ、100年戦争の謎が世界に明らかにされることは無かったという。
そして、この時、ジーンが転生者だという事が、シルヴァス家に知られることとなった。
家族ではあるが、ジーンにも前の世界と別の人生があったという事を知り、最初はジーンの家族も動揺し、ジーンも、家族から距離を取ろうと思ったが、寧ろ、そのおかげで今までの信じられない功績の謎が明らかになったと、どこか安堵した様子になったそうだ。
「祖父からは、「やけに儂よりも貫禄を感じると思ったが、そういうことか」と笑われ、兄からは「良かった……実は、ジーンって僕の弟じゃなくて、もっと高貴な存在かと疑っていたんだ。本当に、僕の弟で良かった……」と泣かれ、父上、母上は「人生の岐路に立った時、相談に乗ってくれ」と訳の分からない頼みを受け……と、あの日の事は忘れない」
……なかなか面白い家族だったようだな。今でも、一族全体で仲が良いようで、何となくほっこりとしてしまう。
祖父と兄はともかく、自分の子供が自分以上の人生を歩んできたと知れば、そういう反応になる……のか? 少なくとも俺は、カンナに人生について、相談しようとは思わない。
さて、改めてジーンの事が分かっても、シルヴァス家の人間は、ジーンが世界地図を作ることに関しての援助は惜しまないと決め、ジーンの冒険は再開した。
順調ではあったが、オウキ領やクレナの樹海などは、魔物や自然環境の影響などが大きく、調査は困難を極めていた。
なかなか思うように進まなくなった頃、ジーンの祖父母が病に倒れ、冒険団の中からも脱落者が出始めていた。
それでもジーンは、兄や両親の応援と、祖父母の遺言である、「前の世界の遺恨をこの世界で晴らせ! 儂の子供達に、世界の全てを見させてみよ!」という激励を受け、冒険を進めていく。
転生者であることを広めたことにより、当時には既に召喚されていたセインや、リー達の力を借りることもあった。
また、ジーンの後からこの世界に転生し、既にジゲンと牙の旅団として傭兵活動していたサネマサにも、護衛という名目で強力を求めたりもした。
そして、コクロの地図を描き上げた頃から四十年が経った頃、ついに、精密精巧で詳細な地形、魔物達の分布図などが記された世界地図を完成させた。
ジーンは、かつて、家族で晩餐を楽しんでいた大部屋に飾られた、大きな地図を指しながら、胸を張った。
「これが、現在世界中で使われている地図の原本と言ったところか……これが完成した日、すぐさま、兄達に報告した。そして、この地で三日三晩宴をした後、王城へ献上した。あの日は本当に楽しかったな……」
その後、ミサキとセインと協力し、俺も持っている魔法地図が出来るまでは、世界中でこの地図を元に作られたそれぞれの領の地図や、これを縮小したものが、旅人の間で使われるようになったという。
長い話だったなとは思いつつ、意外と面白かった。世界地図の横には、精巧な絵画……ケリスの屋敷の調査に際でも使われた、「写真」という絵が飾られてある。
そこに描かれているのは、若い頃のジーンと、ジーンの兄、両親、ジーンの兄嫁、そして、姪の姿だ。
兄の方は、レシアに似ている気がする。皆、満面の笑みで、こちらを見ていた。
この地図は、ジーンの偉業を成し遂げた証でもあり、シルヴァス家という家族の、絆を形にしたものなんだろうなと感じた。
ジーンの解説を聞き終えて感慨深く世界地図を眺めていた俺達だったが、ふと、ルイがスッと手を上げた。
「あの……それから、ジーン様はどうしていたの? 旅行公司を設立するまでの間は?」
ルイの質問に、ジーンは頷き、再び部屋を移動しながら応え始める。
「世界地図を完成させてしばらく、儂はここで少しばかり身を休めておった。転生の際、エンマ様より聞いていた、人界を襲う大魔獣の存在が気になっていたからな。
そして、壊蛇が現れ、再び、儂も人界を護るべく動き出した」
ジーンによると、壊蛇が現れたのは、本当に突然だったらしく、リヨクにて出現した壊蛇は、各領や町々を破壊しながら、王都へと侵攻していったという。
ジーンは、特に人が多い地を転々としながら、スキルで未来を予知し、壊蛇の侵攻に備える役割を担っていたそうだ。
しかし、サネマサ達から聞いていたように、未来を予知しても、壊蛇の被害の規模が大き過ぎる、あるいは、予知してもどうしようもないくらいの被害を生み出し続けたことにより、自信を喪失。
両親や兄に留まらず、姪の子供達も喪ってしまい、サネマサとコモンが壊蛇を打ち倒すまで、何に対してもやる気というものが起きなかったそうだ。
しかし、残された姪や、その長男達を見て、自分に家族という存在が、まだ居るという事を再確認し、同じく家族を喪ったミサキ達と手を取り合いながら、世界の復興に尽力していくうちに、かつての情熱を取り戻したという。
「そして、壊蛇によって荒れた大地が、それまでに比べると、まるで違う地形になっていた。だから、再び、世界地図の再編と、変化していく大地に合わせ、地図自体も変化するようなものを作ろうと、ミサキちゃんやセインと、魔法地図の作成に踏み切ったというわけだ。
この部屋には、壊蛇を倒した後の儂の人生が紹介されている。順に説明していこう」
ジーンが案内した部屋は、かつて、ジーンの祖父が領主だったころ、執務室として使っていた部屋で、旅行公司設立の為の書類などが展示されている。
そもそも、「旅行公司」とは、貴族から平民まで、どこか旅行などに出向く際に、その先が安全かどうか調査したり、護衛を付けるのならば、その際にギルドや騎士団に手配をしたり、宿の予約などを仲介で手配することを目的とした機関である。
しかし、主な目的は、現在ジーンがクレナにて行っている、各地の地質や環境の調査だ。この結果を元に、レオパルドの魔獣宴と協力して、魔物の分布図を作ったり、ギルドの調査団の補助をしたりと、その活動は多岐にわたる。
世界地図を完成させたのは良いが、壊蛇の所為で大地は荒れていた。そして、ミサキがスキルを使い、荒れた大地を元通りにしたのは良いが、地形や生態系、環境なども変わり、再調査の必要が出てきた。
ジーンは、かつて率いていた冒険団を再編成し、新たに旅行公司を設立。以後、他の十二星天と共に、世界地図の改定に臨んだという。
その際に、ミサキとセインから、魔法地図の作成について提案を受ける。二人の世界にはあった、世界全体から街単位まで表示される地図を作り、更に、ジーンが改定したことがそのまま反映されれば、内容を描き替えて、何度も既存の地図を印刷したり、買い変えなくても良いのではないかと言われ、面白そうだと思ったジーンは二人に協力する。
そして、完成したそれを、最初に十二星天に渡し、地図の具合と、間違いが無いかという確認の為、100年戦争の秘密を探らせることも行っていたという。
「あれについては、こないだレオ達に怒られたな。その所為で、魔獣宴などの完成も遅れたと……まあ、気にしないがな」
ニッと笑うジーンに、少し呆れつつも、十二星天に世界を見て欲しいという思いもあったと、シンキから聞いていたので、出来れば、そっちが主な目的であってくれと祈った。
「ちなみに、ムソウ殿の地図も、最新版に改定されているはずだ」
「最新版って……どこが変わったんだ?」
「クレナの樹海が一部消えているはずだ」
そう言われて、魔法地図を取り出し、クレナの樹海を表示させると……なるほど。不自然な形で樹海の端から外に掛けて一直線の線が浮かんでいる。
ジーンは、全ての魔法地図の大元となっているものを持っているらしく、その地図を書き替えると、俺達が持っている魔法地図が勝手に改定されるそうだ。
便利なものだなと思っていると、ジーンが苦笑いしながらため息をつく。
「喜んでもらえて嬉しいが……壊蛇以外だと災害級の魔物くらいだぞ。地図を変えたのはな。ムソウ殿はそれほどの事を……」
「……うるせえよ」
ここで嫌味を言ってくるジーンに、俺はそっぽを向く。ツバキ達はクスクスと笑いながら、ジーンに頷いていた。
ようやく、自分がやって来たことが如何に“規格外”か、分かったかと、ダイアン達が笑っている中、俺は顔を背けた視線の先で、ある写真が目に入った。
それは、魔法地図を手にしたジーンを真ん中に、ミサキともう一人、十代前半の男が描かれている写真だ。
写真の下には、絵画の題名のように、「魔法地図完成 我が友、セイン・ゲイルとミサキ・サトウと共に」と書かれていた。
なるほど……初めて見るが、あれがセインか。ジーンに肩を回し、見た目の年相応な笑顔を向けてきている。
セインの事は、悪い事しか聞いていないので、少々驚いてしまった。
そんな俺にジーンは気付き、フッと笑って近づいて来る。
「楽しそうだろ? 儂も、ミサキちゃんも……セインもな」
「あ、ああ……」
「あの頃は本当に楽しかった。歳も性別も関係なく、儂らはいつも楽しんでいた。その楽しさの中心には常にセインが居た。アイツが居たから、儂も立ち直れたし、新たな目標も見出せた。
……本当に……どうしたというのだ? セイン……」
物悲しい雰囲気で、写真のセインをなぞるジーン。
ジーンの言葉は本音だろう。「あの頃」のセインがどれだけ今と違うかは、コモン達からも聞いている。
それぞれの機関設立にも尽力し、整備を整える為、EXスキルを、魂の段階から衰弱するまで行使したりと、本当に同一人物かと疑いたくなるほどだ。
レオパルド達とは違い、こないだの天上の儀までは、セインの変化には気づいていたものの、まだ、信じていた部分が多かったというジーン。
しかし、天上の儀にてセインの悪辣ぶりを間近でこの目にし、積み上げてきた信頼が一気に失望に変わったという。
何度もため息をつくジーン。俺はそっと肩に手を置いた。
「まあ、その件に関しても、改めて向き合う時が来るだろう。その時は俺も力になってやるから、今はまだ、そのままで居ろよ」
「ムソウ殿……ああ、そうだな」
顔を上げて、頷くジーン。まあ、俺の方から何かしても無駄だし、この件に関しては、既に相談を受けているコモンと同じ様に、いざという時の為に、自分の想いだけは固めておけと言うと、また、ジーンは頷いた。
これで良し、と思っていたが、そこでダイアン達から声が上がる。
「いや、頭領は何もしない方が良いっすよ。絶対、話がこじれるんで!」
「ていうか、今がもうこじれてるんだから、頭領は何もしない方が良いわよ」
「ロロも大変だったみたいだからね……頭領。頭領は何も――」
せっかく上手くまとまったと思っていたのに、俺に説教してくるダイアン達に、流石に怒った。
「うるせえぞ、テメエら! 何かする気は無えって常々言ってんだろうが!」
声を荒げたので、いったん黙るダイアン達。しかし、その目は疑惑に満ちていた。
いい加減にしろと思いながら、詰め寄ろうとするも、ジーンに止められる。
「ムソウ殿、落ち着くのだ。ダイアン殿達も悪気があって言っているのではないだろ?」
「ここまで来ると悪気満々だろ!」
「悪気満々という言葉、初めて聞いたぞ。面白いな、ムソウ殿は……くくっ!」
言い合いをしているうちに、思わず吹き出すジーン。今度は、俺の怒りの矛先がジーンに向いた。
「おい、何笑って――」
その瞬間、懐から布を取り出し、俺の口に押さえつけて来るジーン。
「ん゛~~~~~ッッッ!?」
「儂に怒鳴ることは、視えていたぞ。このまま怒鳴っていたら、他の客達にうるさいと言われるところだった。これで良かったな、ムソウ殿。コクロ初日に、住民にあらぬ疑いを掛けられることも無くなって……」
「ん゛~~~!? ん゛~~~~~ッッッ!!!」
布を俺の頭の後ろできつく結ばれている為、どう足掻いても喋ることが出来ない俺。面白おかしく俺を指差して笑うジーンにつられて、ダイアン達も笑い始める。
楽しくやってんな、今も……。
そんなことを思いつつも、口の布をどうにかせねばとじたばたする俺。
最終的に、俺が布を手刀で斬るまでの間……リチャードにジーン達が注意されるまで、皆は、楽しそうに笑っていた。




