第400話―ギャッツと出会う―
「あ……どうもっす……冒険者ギルドコクロ支部、支部長のギャッツっス」
ギルドにて俺達を迎えてくれた男、支部長のギャッツは、腰を低くしたまま、頭を掻きながら、俺達に頭を下げる。あまりの腰の低さに、思わずポカンとしてしまった。
歳は、ダイアンと同じくらいに見え、実際に話を聞いてみると、まだ二十代だ。腰に柳葉刀を差し、ノワールと同じ様に、少し服を着崩した格好をしている。
へこへこしているからか、どこか頼りなさそうな顔をしていた。今のダイアン達と比べても弱そうに見えるが、これでも災害級を倒すほどの実力を持つ男だ。油断は出来ない。
とは、言うものの……
「え~っと……と、取りあえず、こちらに。え~っと、ジーン様と……ぼ、冒険者のムソウさん……」
おぼつかない足取りと、おどおどした仕草で、俺達を長椅子に促す。
頼りねえ奴だな、と固まっていたが、ツバキに小突かれ、ギャッツに頷きながら、長椅子に座った。
「あ、ああ……何をそんなにビビってんだ?」
「び、ビビッて無いっスよ! な~に言ってんすか?」
作り笑いを浮かべながら、茶を飲むギャッツ。震えていて、上手く飲めていない。
今日出会ってきた者達の中で、一際異彩を放っている。会談、上手くいくのだろうか……。
ふと、リアの方に視線を向けると、リアも多少驚いているようで、ため息をつきながら、
「この人は……シロね……」
などと、俺に言ってきた。そして、ジーンにも視線を移すと、朗らかな顔をしながら笑みを浮かべており、コクっと頷いた。
「な? クレナ領主殿の心配も、ただの杞憂というわけだ」
「そう……だな……」
思わず頷いてしまう。まあ、これが演技だという可能性もあるので、油断は出来ない。
というのも、ギャッツの部屋に来るまで、実際にこの目にしたコクロの冒険者は、それなりに実力が高そうで、何人かは、ジーンも居たこともあり、俺達を静観していたが、二人ほど、絡んできた者も居た。
まあ、死神の鬼迫で追い払った後、ジーンによって俺の正体を伝えると、そういう人間も居なくなったがな。
……コクロの冒険者を婿取りに来ていたルイが、ガッカリする顔が印象的だった。期待外れね、と色目を使うことを切り替えた所を見て、女と言うのは恐ろしいと感じたな。
兎にも角にも、手練れで、気性も荒そうな冒険者を纏め、過去には海賊の一団を率いていたというギャッツ。
今はへりくだっているが、実際の所は分からない。ギャッツには分からないように、ダイアン達に、油断するなと伝えた後、会談を始めた。
しばらく茶を飲んでいたが、不意に、ギャッツから口を開く。
「そ、想像以上っすね、む、ムソウさんは……」
「何がだ?」
「魔力は小さいようっすけど、底知れない力と言うのは感じます。そ、それに、EXスキルをこんなに……アヤメさん達が言っていたことは、間違いじゃなかったんすね……」
アヤメが何を言ったのか分からないが、なるほど……。
話を進める前から、鑑定スキルでも使っていたのか。抜け目ない奴。
まあ、俺の場合、特に困ることでも無いし、どうせ、天上の儀でバレているから、あまり気にしなかった。
「え~っと……取りあえず皆さんには海賊団の捜索に専念していただきます。普通の依頼に関しては、気にしなくても良いっすけど、気が向いたら取り組んで欲しいっすね」
「ああ、聞いていた通りっすね。ちなみに、どんな状況なんすか?」
今回の会談は、ダイアンが進める。こういう遠征に置いて、支部長と直接やり取りすることも増えるだろう。
取りあえず、経験をと思っていたのだが、ギャッツがこういう調子なので、ダイアンも気兼ねなく意見を言うことが出来た。
さて、ダイアンからの質問を受けたギャッツは、現在、コクロで抱えている依頼の一覧を提示してきた。
「え~っと、超級が5、災害級が1、後は中級から上級のものですから、そこまで気にしなくて良いと――」
「災害級が1!? 本当に大丈夫なんすか!?」
一覧を見ていたダイアンが声を上げる。俺含め、その他の者達も同様だ。アヤメからも海賊討伐以外の依頼は大丈夫と聞いていただけに、驚きを隠せない。
ギャッツは、急に声を荒げたダイアンに少し委縮するも、慌てて俺達を制した。
「いやいや、災害級と言うのは、リオウ海賊団討伐を指してます。これは、貴方方にやってもらいますんで」
「しかし……超級が5ってのも……」
「これに関しても、現在、うちに居る冒険者で事足りると思います。異名持ちも何人かいますので……」
聞けば、俺達がコクロに来るという事が大々的に公表された辺りから、他の依頼を取られてたまるかと考えた多くの冒険者達が、コクロに集まってきているそうだ。
その中には名うての者も多く居て、超級の依頼も何とかなるとのこと。
ならば、心配は無いかと思うが、不測の事態が発生した際には、協力を要請するかも知れないと言うギャッツの言葉に、俺達は頷いた。
「それにしても、依頼の数も多いわね。何かあったの?」
一覧を眺めていたリアがポツリと口を開く。確かに、超級以上を除いた討伐依頼の数も、少し前のクレナ並みに多い。しかも、大半が上級依頼となっており、心なしか、報酬の額も、冒険者不足だったクレナよりも少し低いくらいの高額なものとなっている。
これは一体、どういうことかと聞くと、ギャッツはため息をつきながら、口を開いた。
「海賊団っすよ。荷を運ぶ船以外にも、依頼に取り組む冒険者達を襲うこともありますんで」
「冒険者を襲う? それで何になるってんだ?」
「単純に、冒険者が持っている装備を奪ったりしてるんすよ。流れ着いた冒険者の船から、死体以外何も出てこないなんて事はざらっす……」
なるほど……奪えるものがあれば、それが例え冒険者だろうと民間の船だろうと関係ないというわけか。
名うての冒険者ほど、持っている装備は高価で強力なものが多いからな。ギルド側の戦力を削ると共に、自分の戦力を上げるのならば、これほど良い手は無い。
そうやって、徐々に勢力を上げているという事か。
ギャッツの言葉に納得していると、ルイが俺の肩を叩いた。
「ねえ、頭領。という事は、海賊団をおびき寄せる為に、こっちから捜索すると同時に、私達も他の依頼に取り組んだ方が良いってこと?」
「だな……まあ、その時はジーンに未来予知をしてもらう必要があるが……?」
ルイに頷き、ジーンに視線を送ると、静かに頷いた。
「うむ。ムソウ殿達以外の他の冒険者達の事も予知せねばな。冒険者の被害をこれ以上、大きくするわけにはいかん。というわけでギャッツ。儂が合流するまで、他の冒険者が依頼に取り組むことは少し待ってくれ。儂が居て、安全な状況で、冒険者達には依頼に取り組んでもらう。良いな?」
ジーンにそう言われて、ギャッツは少し困ったような顔をした。
「滞在期間が伸びると、冒険者も困るっすよ。その分の負担は……」
「儂が出す。死亡率を下げると言えば、納得するだろう。後、海上ではない依頼なら問題ないだろう。今居る冒険者には、そのように伝えておけ」
ギャッツは、全ての負担をジーンが背負うことについて、少し罪悪感を抱いたような顔をしたが、仕方ないと割り切り、静かに頷いた。
「分かったっす。無論、ムソウさん達に冒険者の怒りが向かないようにするっす」
「いや、そんなことする必要は……」
「いえ、任せてください。多分、ジーン様が合流するまでの間、依頼が出来ないとなると、海賊団討伐に遅れが出ていると冒険者は思うはずっす。というか、俺は思います。そうなると、海賊団討伐を行っているムソウさん達の仕事が遅いから、俺達は依頼を受注できないと、考えるはずっす。俺ならそう思います。
そうなる前に、ムソウさん達の事は一切伏せて、俺か、申し訳ないっすけどジーン様に……いや、ジーン様に怒りが向くことは無いっすね。俺だけが怒りを向けられるようにするんで、安心してください」
心なしか、先ほどまでと比べて声を張っているギャッツ。
確かに、冒険者達の怒りがこちらに向いて、活動がしづらくなるという事も考えられる。また、喧嘩を売られることも増えそうだが、そこは今まで通り何とかすると思っていた。
しかし、その迷惑をギャッツが全て被ってくれるという。
これに関しては流石に驚いた。この状況に委縮して小さくなっていたギャッツを、初めてギルド支部長として見るようになった。
確かに、決断力などは無いかも知れないが、いざという時の腹の括り具合は、立派だと感じる。
流石のリアも、少し驚いている様子となっている。この人間の変わりようは何だろうという感じだ。
俺としては何の問題も無いんだが、一応、皆の意見を聞いてみたが、皆も、ギャッツの厚意に甘えると言うように頷いた。
「じゃあ、よろしく頼む。ギャッツ」
「はいっ! お任せくださいっす!」
「よしよし……しかし、最初に比べると、ずいぶん人が変わったな。今なら、お前を支部長と言っても疑わない」
「ええっ!? ムソウさん……酷いっすよ……」
ガクッと項垂れるギャッツを見ながら、そういうところだと、ジーンが呟く。
「支部長になったんだから、もう少し堂々としろってことだ。お前がそんなだから、クレナ領主に疑われるんだぞ」
「アヤメさんが、俺を疑ってた? な、何をっすか?」
「お前が元海賊だから、リオウ海賊団と繋がっているのではないかと思っているぞ」
ジーン、それ、言っちゃうのか……。まあ、言ってしまうあたり、ギャッツの事を本気で信用しているのだろうから、別に良いか。
ギャッツは、ジーンの言葉が信じられないように固まっていたが、瞬時に顔を赤くして、机をドンっと叩いた。
「失敬な! こっちが下手に出てたら、あの“暴れ姫武将”め、そんな事、思っていたのか!」
怒りを露にするギャッツに、またしても俺達は驚く。
コイツの情緒、どうなってんだ?
「あの女、次、舐めたことしてくれたら、ギッタギタに――」
「するのか?」
拳を握りながら、アヤメに悪態付くギャッツに、ジーンが一言そう言うと、ギャッツはハッとし、俺達を見回した後、咳ばらいを一つついて、再び小さくなった。
「んっん……いえ、何でも無いっす。あー、ムソウさん、それに皆さん、気にしないで――」
「いや、するだろ。見ろ、今度はダイアン達が委縮してんぞ。ああ、リンネもか……」
ギャッツの急激な変化に、ダイアン達は言葉も出ず、引いていて、リンネは怖がりながら、俺に体を寄せて来る。
大丈夫だと頭を撫でていると、ギャッツも、すみませんと頭を下げた。
「どうなってんだ、お前の情緒」
「す、すんません。普段はこうなんすけど、ふとした時に昔に戻るんすよ」
「いや、普段からそのままの方が良いんじゃねえか?」
「ガーレンさんやロウガンさんの前で、これは流石に……出来ねえっすね……」
聞けば、海賊として暴れまわっているところをガーレンに叩きのめされ、その、ガーレンよりも強いロウガンや、ギルド支部長として最古参のアヤメを前にすると、どうしても、猫を被ってしまうようになったという。
今回は、下手に手を出したらヤバいと、アヤメ達に聞かされていた俺を前にし、更に十二星天のジーンも居る、それから、モンクの事件を解決したツバキも居るという事で、下手な事をするわけにはいかないと、本性を隠していたそうだ。
ある意味、今のジゲンみたいだな。で、さっき、本性が出た時は、格上ではあるが、あらぬ疑いを掛けていたアヤメに、少し怒ったそうで、今となっては、さっきの事は内緒に、と頼んでくるギャッツ。
これをダシに、今後もギャッツといい関係を、と思ったが可哀そうなので辞めた。アヤメには内緒にすると伝えると、心底安心したように胸を撫で下ろしていた。
「良かった~……アヤメさんを怒らせたらどうなるか分からないんで……」
「アヤメは良い奴だぞ?」
「そりゃ、アヤメさんも、ムソウさんや皆さんの前で猫被ってるんすよ。あの人がその名の通り暴れたら……」
ゾッとした顔になるギャッツだが、俺達は寧ろ、アヤメの本性を知っている。暴れたらヤバいのは他の支部長も一緒だ。
ならば、暴れさせなければ良いと思いながら、ギャッツを眺めていた。
「でも、ギャッツさんも災害級を倒すほどの腕前なのよね。実際、闘ったら、アヤメ様にも勝てちゃうんじゃない?」
「そんなことないっすよ。え~っと……ルイさん。俺がクラーケンに勝てたのは、俺の周りに、俺が率いていた海賊仲間が居たからっすよ。一人じゃ、分からなかったっす」
「海賊の一団が災害級を倒すってことが凄いっすよ」
「ありがとうございます。皆も、その時の功で罪を流してもらって、今も冒険者やったり、素材の査定やったり……あ、後、副支部長も、元俺の仲間っす。皆、腕っぷしはあるんで、皆さんにも引けは取らないっすよ」
嬉しそうに仲間を語るギャッツ。災害級の魔物であるクラーケンを倒したことにより、ギャッツは支部長になり、仲間達の多くで、このギルドを切り盛りしているようだ。
確かに、ここに俺達を案内した受付の女も、丁寧ではあったが、何となく俺達と同じ雰囲気を感じたからな。何と言うか、無法者な感じ。ギャッツの言葉を聞いて納得した。
しかし、それだけで災害級の魔物を倒すという事は、少なくともギャッツ含め、ギャッツの仲間達は、ダイアン達より腕は上だろう。
闘鬼神全員で災害級を倒すというのが、今の闘鬼神の目標だからな。クラーケンとの闘いで、数人の仲間を喪うことになったとギャッツは言っているが、それでも、ギャッツ個人の強さと、統率力の高さは、間違いなくギルド支部長に相応しいと感じた。
「ただまあ、そんな俺達でも捕らえられないのがリオウ海賊団っす。皆さんに解決を頼むことは既に決定事項なので問題ないっすが、一応、貴方方の力を確認したいと思うんで、ここから、面談をするっす。まずは、ダイアンさん、お願いします」
「う、うっす!」
ここからは、俺とツバキも含めて、全員の面談と、どれだけの力を持っているのか、ギャッツが確認していく。
ギルドの腕輪の情報を提示しながら、更に嘘をつくと反応する魔道具を横に置いて、ギャッツはダイアン達と質疑応答を繰り返していく。
「……ん? 皆さん、今持っている武器と、ここに書かれている武器が違うようっすね」
「あ、これは後からコモン様が持ってきてくださる予定っす」
「つまり本式の装備じゃないって事っすね。なら、先ほどのジーン様合流まで、闘うようなことは控えてください。皆さんの力を疑うわけでは無いっすけど、何かあって、コクロで死んじゃうってことは、俺にとっても、寝覚めが悪いんで……」
装備が変わっても、実力があるなら大丈夫……とも思ったが、俺の手合わせの一件もある。これに関しては、来る前に打ち合わせていたので、ダイアン達もすぐに頷いた。
まあ、牙の旅団の武具では無くても、ダイアン達は強い。なので、そこまで心配はしていない。無論、ギャッツも同意見だが、装備が変わって苦労するというのは、冒険者の中でも結構あるそうだ。
剣術スキルで武具の扱いが良くなっても、性能差によって、命を落とす例も少なくないので、しばらくは慎重にした方が良いという事になった。
もっとも、EXスキルを持つツバキと俺に関しては、ギャッツも、
「お二人は……俺から言うことは何も無いっす。普段通りに過ごしてください」
と、苦笑いしながら、本当に特に何かに気を付けてとかは言わなかった。
思わず、素直に頷く俺とツバキ。一応、エンヤの事、ツバキの能力の一つではあるが、いざとなったら俺と同じくらい強い奴がツバキから離れて自由に闘うという事も説明しておいた。
「ムソウさんもですけど、ツバキさんも……底知れないっす……」
「怖がらないでください……本当に……」
身を引かせるギャッツに、ツバキもため息をつきながら項垂れた。
そして、全員の面談が終わったところで会談を切り上げる。ふう、と大きく息を吐くギャッツに、最初の時のような、俺達を恐れるような感情は伝わってこなかった。
「これで以上っすね。この後も予定があるのでしたら、今日はここまでという事で」
「ああ。また、何か用事があれば尋ねるとする。いい加減、俺にはもう慣れたか?」
「今のところは……今後とも、良いお付き合いを。俺は納得しませんでしたが、内通者についても、少し頭の中に入れて置くっす。今日はありがとうございました」
俺達は、ギャッツと固く握手を交わし、その場を後にした。ノワール、ロバートと同じく、ギャッツとの会談について皆に感想を求めたが、全員、口を揃えて、
「良い人なのは確かだけど、ある意味、一番、掴みにくい人間だ」
と、返ってきた。
確かにな。あの、情緒の変化には俺も慣れるのに時間が掛かりそうだ。
ただまあ、これで、ノワール、ロバート、ギャッツの三人は少なくとも、内通者の可能性から外れた。その上で、三人に、そう言った者達も居るかも知れないという考えを植え付けることが出来たので、これで良かっただろう。
俺達と関わる人間が、そういった存在では無くてひとまず安心した。
「さて、ではこれから儂の生家を案内したいが、その前に腹ごしらえと行こう」
ジーンの言葉に、真っ先に顔を輝かせたのはリンネだ。ことあるごとに茶菓子を口にしていたが、まだ足りないらしい。
「リンネ、おいしいところがいい~!」
「ああ、分かってる。案内するからついて来るんだ」
ジーンの言葉に、リンネは強く頷き、その後を追っていった。はぐれないように、ツバキがリンネの手を引く。
はやく、と急かすリンネについて、俺達もジーンについていった。
昔からの行きつけがあるというジーンの言葉に、何年前からその店はあるのだろうかと皆で話しながら、ついでに、街の様子を見てみる。
海賊団の被害が多いわりに、道を行き交う者達の顔は明るい。最初に聞いていたようにこの、アートルムの町にはギルドやコクロ師団の本部が置かれているという事もあり、治安は良いとのこと。
なら、点在する諸島の治安はどうなのかという問題だが、アートルムから離れるほど、少しばかりピリピリした状態となっているらしく、海賊が活動し始めた頃から、島々から、アートルムへ移民する人数も増えているそうだ。
今では、魔物しか居ない島や、本当に何も無い島も、数多くあるという。領民には迷惑だが、人が居ないのであれば、海賊の痕跡を見つけることもやりやすい。魔物も多いみたいだが、ダイアン達なら大丈夫だろう。
そんなことを思っているうちに、店に着いた。そこは、港の一区画で、普段は港で働く労働者向けの店だった。
なので、中には昼という事もあり、漁師のような恰好をしている者達や、港で市を開いている者達でごった返している。
こんな中で食えるのかと思っていると、店に居る者達がジーンに気付き、驚いた顔を見せてきた。
「あれ!? ジーン様!? 何故、ここに!?」
「あー、騒がせてすまないが、儂が故郷であるコクロに居るのがそんなに不思議か?」
「不思議ですよ! 普段は王都じゃないですか! え……本当に、何で、ここに?」
「噂で聞いているだろう? リオウ海賊団殲滅を行う、冒険者ムソウ殿の一行を案内しているところだ。そして、腹が減ったでな。儂の行きつけであるここに来たんだが……もう少し待った方が良いな」
「いえ! すぐに食いますんで!」
ジーンと話していた漁師の男は、丼物をかき込んでいく。何かすまない事をしたなあと思ったと同時に、コクロに着いてから、ここの住民達がやけにジーンを崇めるという事に気付き、首を傾げた。
何せ、クレナの者達は、同じ十二星天であるサネマサを見ても、特に何も無かったからな。一体、何が違うんだろうと思っていたが、そんな暇も与えられなかった。
俺が、「冒険者ムソウ」であることを知った者達から声を掛けられる。
「あ、貴方が天災級を倒した冒険者ムソウ……すげえ、ジーン様と一緒に居るなんて、今日はツイてる!」
「いや、俺はそんな手を合わせられるほどの人間じゃ……」
「何を仰っているのですか! 未来のコクロの救世主です! 今のうちに、握手を……」
などと言われながら、握手を求められる。断る理由もないので一人ずつ応じていく。
海賊団を殲滅しないといけない状況ではあるが、まだ、殲滅はしていない。にも関わらず、既に十二星天と同じ様な扱いをされていることに戸惑ってしまう。
……前の世界でも、握手を求められることとか無かったからな。流石に、こういう時の扱いは困る。
一人では大変なので、ダイアン達を巻き込もうと思ったが……。
「……あ、席開いたっすね。先に入るっすよ、ツバキさん」
「ですね。リンネちゃんの腹の虫もそろそろ限界そうです」
「リンネ、いっぱいたべる~!」
「リンネちゃんはどこに行っても相変わらずね。ツバキさんは、港町出身だけど、何か好きなものはありそう?」
「え~と……あ、海鮮ラメンがありますね。私はこちらにします」
「お……美味そうだ。俺もこれにしよう。リンネちゃんはどうする?」
「おねえちゃんがすきなら、リンネもこれ~!」
などと、群衆に呑み込まれる俺を置いて、さっさと席に座り、既に注文を取り始めていた。
あいつ等……と、思いながらも、死神の鬼迫をぶつけることも出来ず、集まってきた者達の握手に応じていた。
ちなみに、マシロではこういう手段で呪いをかけられたので、一瞬警戒したが、そんな気配はみじんも感じず、ただ、本心なところから、俺やジーンを崇めている気配を感じたので、その後も、特に何をするのでもなく、握手に応じたり、海賊団殲滅について、激励の言葉を受け取ったりしていた。
そして、そろそろ飯が食いたいと、その者達を押しのけて、俺も席に着いた。
早速、ダイアン達に説教である。
「おい、お前ら。頭領差し置いて、先に飯を注文するとは何事だ?」
「え……頭領、そう言うの気にする性質でしたっけ?」
「細かいことは気にするなといつも言っているのは頭領だけど?」
「リンネちゃんがお腹空いてたんで急いだほうが良いと思いまして……」
「まあ、悪いことでは無いので良いではありませんか」
皆は俺を置いていったことを悪びれることも無く、店員に注文をしていく。その様子に呆気にとられたが、ジーンに肩をポンポンと叩かれて我に返る。
「さあ、ムソウ殿も。儂のお勧めは、海鮮ハムラだ。ムソウ殿もそれにするか?」
「あ……チッ……ああ、それにする」
言われるがまま、俺も注文を終えて飯を待つ。楽しそうにするダイアン達とは裏腹に、俺は飯が来るまで苛ついていたが、飯が届いて口にした瞬間、料理の美味さに機嫌を取りもどした。
「おぉ、美味いな……」
「頭領って、案外チョロいんすね……」
「……あ゛?」
―死神の鬼迫―
流石に、ムカついたので、ダイアンにだけ殺気をぶつける。顔色を悪くしながらせき込むダイアンに、リア達も、馬鹿、と呟きながら、俺から体を離していく。
「チッ……良い気分が台無しだ」
「ゔぅ……沸点、低いっすよ……」
「怒らせるなよ。ギャッツを見習え」
「見習いたくはないわね……」
俺の言葉に、ダイアンの代わりにルイが返す。まあ、あれは極端だからな、と何となく納得し、ダイアンへの死神の鬼迫を解いた。
ホッと胸を撫で下ろすダイアン。やれやれと思いながら、飯を食っていく。
その間にも、新たに店に来た者達が、俺達と一緒に居るジーンに気付き、声を掛けてきては、握手を求められたりと大忙しだ。
ある程度の相手をした後、少し落ち着いたので、思い切ってジーンに尋ねてみた。
「なあ、ここの奴等、お前への反応が過激すぎねえか?」
サネマサと違って、この反応は、と思ったのだが、俺の質問に答えたのは、ツバキ達だった。
「いえ、これが普通なのですよ、ムソウ様。十二星天の方々が王都以外の地に居ると、どこでもこうなります」
「最近は麻痺してきたけど、初めてジェシカ様達を見たときは私達も驚いたからね」
ツバキに続いて、リア達も、寧ろこの状況が当たり前という旨の発言をしてきた。
「そう言うものなのか? だって、サネマサの場合、クレナでは……」
「あの時は、隣にジゲンさん……長年、姿を隠されていた“刀鬼”ジロウ様が居ましたので、皆さん、そちらの方が衝撃だったのだと思います」
ツバキの言葉に、ダイアン達も頷いた。
「驚いたもんな。目を覚ましたら、ジゲンさんがジロウ様になっていたんだからな……」
「今まで普通に一緒に過ごしていたお爺さんが、あの“刀鬼”だったなんてね……」
「正直、ジェシカ様がいらっしゃったことよりも驚いたわね。私も気付かなかったもの……」
「そう考えると、俺達も慣れたもんだよな……」
しみじみと語るチョウシに、確かに俺が起きた時は、皆が目を覚まして、三週間後くらいだったから、その頃には既に、ジェシカにもレオパルドにも、カドルにも慣れていたので、俺は何も思わなかったというわけか。
それにしても、コクロの住民達からのジーンへの態度は少し極端な気がすると首を傾げていたが、その時、ジーンが笑いながら口を開く。
「まあ、先ほどの者達が言っていたように、儂は故郷であるこの地に居ることが極端に減ったからな。皆からすれば、待望の、と言ったところだろう」
「なるほど……じゃあ、王都でお前と会っても、特に何も無いんだな」
「無いぞ。まあ、それは儂に限らず、他の十二星天も同じだ。日常に儂らが居るからな。
ただ、ミサキちゃんは例外で、人懐っこい性格のおかげで、どこに行っても同じように慕われているようだ」
ミサキを例に出されて、思わず納得する。マシロの時も、人だかりが出来て、握手を求められていたからな。
まあ、その所為でウィズ達が呪われ……いや、あれは俺の所為か。うん、忘れよう。
とにかく、ミサキだけは王都で歩いていても、他の街ほどではないが声を掛けられることは多いようだ。
「もっとも、ミサキちゃんの場合、見た目はアレでも、人界に置ける貢献度も大きいからな。魔法技術の向上、セイン達も関わってはいるが、多くの魔道具の発明、スキルを用いた生活基準の向上等、十二星天の中でもその功績は群を抜いている……と、儂は考えるな」
ジーンの言葉は、かつて、ツバキから聞いていたこととほぼ同じようなものだった。民衆からだけでなく、十二星天同士でも認められているミサキの功績。
ホント、見た目があんなじゃなかったら、もう少し崇められていたのだろうかと思ってしまう。まあ、あれのおかげで、無理に神聖視されていないようなので、良いと言えば良いのだがな。
ちなみに、ミサキを見たことが無い人間は、ミサキを本物の天使か何かだと思っている者も未だに多いらしく、実際に見た時と想像で思い描いていたミサキとの違いに驚き、涙を流す者まで居るらしい。
かく言う、ここに居るルイとチョウシ、それからハルキもそんな感じに思っていたらしく、俺やツバキからミサキの本性について聞いてはいたが、いまいち信じられなかったらしく、同じ十二星天のジェシカ、サネマサ、レオパルド、そして、シンキ、天上の儀で、実際にミサキと過ごしたロロなどから話を聞き、今まで抱いていたものが幻想だと理解できたらしい。
結構罪作りなことをしていたんだなと苦笑いしながら、ジーンの話を聞いていた。
横でリンネが、ミサキの話が出て来てから嬉しそうな顔をしている。仲良かったもんな。
ジーンもそれに気づき、リンネに話しかけた。
「リンネちゃんは、ミサキちゃんの話をすると何時も楽しそうだな。そんなに好きか?」
「うん! リンネ、ミサキちゃんとなかよくなった~!」
「ハハハ、そうか。天上の儀で会った時に言っていたが、ミサキちゃんもリンネちゃんと沢山話したいと言っていたぞ。良かったな」
「ロロおねえちゃんからきいた~! リンネも、ミサキちゃんとたくさん、おはなししたい~!」
「ふむ……やはり、ミサキちゃんの人気の秘密は、こういうところにあるのかもな。誰とでも仲良くなれるのは一種の才能だ。あの子はアレで良いのかも知れない」
リンネを撫でながら語られるジーンの言葉に頷いた。確かに、急に真面目になっても困るよな。
決める時は決めるし、ミサキはあのままの方が良い。前の世界では、少し違った様子だったが、今のままの方が、俺としては好きだな。
リンネも会いたいようだし、俺も、何時かは再会したいものだと感じた。
その後、飯を食い終えた俺達は、ジーンの案内により、ジーンの生家へと向かう。飯を食っていた時は、ミサキの偉業について語っていたジーンも、次は、自分の自慢をさせてくれと言いながら、意気揚々と歩いている。
他人を褒めるだけで、自分は大したことないと思っていたものだと考えていたが、ジーンも自分のやって来たことに誇りを持っているようだ。
俺達は、ジーンに期待していると、少々重圧をかけながら、楽しみだという表情を浮かべながらその後を追った。




