表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
399/534

第398話―コクロに旅立つ―

 カドルが屋敷から出て行って二日後、ダイアン達が帰って来る。無事に、カドルは山に戻り、山頂から雷雲の中に姿を消していったそうだ。

 雷雲山の様子はと言うと、縄張り争いをしていた、山の魔物達が心なしか大人しくなったそうだ。

 まあ、これについてはまだ、カドルが戻って少ししか経って居ないので、変化が分かりづらい。

 これについては、定期的に調査団を組んで、山に派遣するとアヤメが決めた。無論、闘鬼神にも協力を要請してきたので、快く承諾した。


 さて、カドルが雷雲山に帰ったという事で、俺はダイアン達と共に、コクロに出発する準備を進めていく。

 コモンによれば、俺の装備は出発までに何とかするとのことだが、ダイアン達については、やはり、間に合わないとのこと。

 これについては、世界中の外壁の強化が終わってからで良いという事にし、後でジーンと合流する際に持ってきてもらうという事になった。


 なので、天宝館で間に合わせとなる武具を選ぶという話になり、皆についていった。


「頭領~。向こうで海賊団と鉢合わせにならない限りは闘うって事は無さそうっすか? それとも、別に依頼をこなすことになりそうっすか?」

「アヤメによれば、その辺りは聞いて無いそうだ。コクロ領主のノワールって奴も、支部長のギャッツって奴も、海賊団の方に専念して欲しいとよ」

「じゃあ、そこまで高価なものじゃなくて良いか……」

「そうした方が良いわ。頭領みたいに折っちゃったら、どうしようもないものね」

「って言いつつ、ルイ。アンタ、そんなに買ってどうするのよ」


 あくまで間に合わせという事で、そこまで高価なものではなく、安価で使えるものを選んでいく皆とは裏腹に、ルイは結構な量の着物や装飾品を選び、リアに呆れられていた。


「これは、あれよ。女を磨いて、コクロの冒険者を落とす為よ」

「アンタね……遊びじゃないのよ」

「分かってるわ。でも、私にとっても、これは遊びじゃないの。早くお婿さんを見つけないと行き遅れちゃうわ!」


 リアの言葉も無視し、買い物を続けるルイ。聞けば、コクロの冒険者は、モンクと同じく、元漁師や狩人が多いらしく、皆、精悍な顔つきと、屈強な体をしているらしく、女達に人気らしい。

 ルイは、今回の旅で婿になりそうな奴を見つけたいようだ。その為に、自分を良く見せるためのものを買っているそうで、リアだけでなく、俺達も呆れてしまった。


「俺は、そのままでもお前は綺麗な方だと思うが……」

「あら、頭領、嬉しいわね。でも、ツバキさんも居るんだから、これくらいは」

「武器や防具はともかく、装飾具については良いものを選んでおけ。それくらいは許してやろう。他の奴らも、コモンが作るものはまだしも、それ以外は入念にな。装飾具で生死を分けるってことは、俺の一件で分かってるだろ?」

「それは……まあ……」

「じゃあ、私は役に立ちそうなものを買ってくるかな。ハルキ、手伝って」

「お~う……って、リアは男の方は良いのか?」

「私は良いの。そういうの、興味ないから」


 そう言って、ハルキを連れてリアは、装備以外で、依頼に役立ちそうなものを選んでいく。他の者達も、身体能力を上げるものだったり、スキルの効果を上げるものだったり、武具以外で役に立ちそうな装飾具を選んでいく。

 皆と話し合いながら、買い物を続けていくこの光景も良いなと思い、俺も、何か使えそうなものは無いかと思いながら、その場を離れようとしたが、ルイに、買い物に付き合ってと言われて、結局、俺は自分の買い物が出来なかった。

 ある意味、災害級の依頼よりも苦労したなあと思っている頃には、満足した様子のルイ。

 こういうのに引っかかる奴は碌な男じゃないだろうなと、皆と話していた。


 装備についての整理が終わった後は、ツバキ、リンネも交えて、アヤメがコクロの動きについて説明する場が設けられ、俺達はそれに参加した。調査を休んだジーンも、アヤメと共に説明してくれる。

 資料には一通り目を通したが、分からないことは多いし、現在の最新の情報は大きな武器となる。しっかりと、自分達の動きを示し合わすことにした。


「仮に、海賊団の船とぶつかることになっても、全滅は無しだ。拠点を暴かねえといけないからな」

「捕縛して、ミサキの尋問に任せるってのは?」

「それに至るまでに時間が掛かるというのと、ミサキもコモンと同じく忙しい身だからな。そこは勘弁してくれ」

「分かった。拠点を暴いた後は、何やっても良いんだな?」

「ああ。今回ばかりは、ムソウ。それに牙の旅団の諸君も、力を存分に振るってくれ、と、ノワールからのお達しだ。簡単に言えば、暴れろってことだな」

「了解。お前らも良いな?」

「う~っす……って言いたいっすけど、それは頭領一人で何とかなるんじゃ?」

「私達は、頭領が討ち漏らさないように、露払いをするってことね」

「ちなみに、リオウって奴はどれくらいの強さなんすか?」

「それについては不明だが、騎士団の見立てでは、ギルド支部長くらいはあると踏んでいる。異名持ちの何人かも、海賊にやられているからな。少なくとも、船長のリオウはそれくらいか、以上だ」

「あ、確かに俺達には荷が重いっすね。頭領とツバキさんにお任せするっす」

「いえ、私に任されましても……そもそも、私は、海賊団とムソウ様が闘う際は、街の護りをするようにと仰せつかっておりますので」


 ツバキの言葉に、ダイアン達は驚く。そう言えば言っていなかったと、説明した。

 仮に、海賊団の拠点が分かり、そこに突っ込むか、もしくは海賊団が全勢力を以って、俺達とぶつかるのならば、万が一を考え、ツバキとリンネは街に残り、住民達の避難や、海賊団からの防衛に徹するようになったらしい。

 これは、コクロ師団のルーカスという男が頼んで来たらしく、理由は人手が間に合いそうにないとのことだったので、俺とツバキは承諾した。


「なるほど……確かに、頭領が暴れたら、そこから津波とか起こりそうっすからね」

「そう言うことです、ダイアンさん。まあ、そこまでの無茶は流石に無いと思いますが?」


 チラッと、大丈夫ですよね、と俺に視線を投げかけるツバキとダイアン達。すぐに大丈夫だと即答することは出来ず、苦い顔をしながら視線を逸らした。

 何らかの影響は確かにあるだろうと思っていたが、ダイアンが言うところの津波は想定していなかった。

 俺達が思っていた以上に、リオウが力を持っている場合、例えば、転界教と繋がり、その力を手にしている場合は、俺も下手な事は考えず、全力で当たるだろう。そうなると、付近の住民達に多大な迷惑をかける可能性がある。

 そこを、ツバキとリンネ、それにジーンが補助をしてくれるという事で、俺が前線で闘うことに決まったようだ。


「あれ? という事は、一番危ないのって俺達っすか?」


 結局、そんな俺の一番近くで闘うことになりそうなダイアン達が動揺するが、ツバキが首を振った。


「いえ、その際は皆さんにも、こちらの防衛や避難活動を手伝っていただきます。また、他の冒険者さんにも集まっていただく手はずも整っているそうです」

「でも、そんな、いつ起こるか分からない問題に、他の冒険者が参加するの?」


 今の所、海賊団の規模は大きいかも知れないという事は分かっている。それゆえ、ぶつかることになれば、俺はまだ良いが、こちらの戦力だけでは心もとない可能性もあり、その時は、他の冒険者にも協力してもらうことになっているが、突然起こるか、起こらないか分からない問題に、冒険者が反応する可能性は薄い。

 前もって、せめて三日ほど前に、この日にぶつかるという事が分からなければ、冒険者達も迅速に対応できないのでは、というリアの言葉に、ここで、ジーンが手を上げる。


「それについては、儂が未来を予知して、防衛体制を整える」


 ジーンの提案に、一同納得する。調査の際だけでなく、家で生活する様々な事に関しても、ジーンはスキルを使って未来を予測し、熟練度を上げている。

 元から高かったという事もあり、最近は少なくとも一週間後の未来は見通せるようになった。

 とはいうものの、未だ、それが何時のものになるのかは分かっていないが、防衛の準備の為なら、充分だ。

 ジーンが、コクロの街の未来を予測し、大変な事になると分かった時に、一先ず、街に冒険者を集め、何か起こった際にダイアン達やツバキを中心に、騎士団と共に、街を護る準備をするという作戦に、俺達は頷く。

 ただ、この作戦にも欠点はあり、もともと、俺が闘っても、何も起こらなければ準備のしようがないという事と、ジーンが視る未来が、何日か後、ではなく、すぐだった場合、どうしようも出来ないということ。

 まあ、その時は、ツバキ達に頑張ってもらうことになるが、ツバキのスキルならば大丈夫だろう。

 ツバキも同じ気持ちらしく、街の事はお任せくださいと、自信たっぷりな顔をしているので、俺は前だけを見て、闘うことにした。


「ひとまず、仮の話だが、海賊団との闘いについては、そういう段取りになる。あ、そう言えば、リエン商会のリエンから、海賊団と総力戦になる時は連絡して欲しいと要請があったな。金の力で、冒険者をかき集めてくれるそうだ」

「へえ、リエンが……何でまた?」

「今の所、海賊団の被害の多くは、リエン商会の商品を積んだ船だからな。散々、煮え湯を飲まされた相手を、お前だけに任せるのは忍びないらしい」


 ああ、そんなこと言っていたな、アイツ。リエンからもたらせた要請と協力内容は、まず、アヤメが言ったように、総力戦になりそうなら、連絡してくれというもの。

 連絡を受ければ、コクロの依頼報酬とは別に、リエンの方から、街の防衛に参加する冒険者達に、褒賞金を払うと共に、集めた冒険者で編隊を組み、大船団をコクロに向かわせるとのことだ。

 その船には、モンクギルド支部長のガーレンも乗せるらしく、上手くいけば、海賊団の戦力を分散させるとのことらしい。

 ありがたい申し出だが、セインの事もあり、ガーレンを乗せることは無しだ。支部長をこき使ったとか何とかで、セインが何を言い出すか分からないからな。


 その代わり、この話を前もって、バッカスとジーゴには話すことに決めた。二人もそろそろモンクへ帰ると言っていたし、丁度いいだろう。

ジゲンでさえ認める名うての冒険者が居るのなら安心だ。

 加えて、ツルギ達にも一報入れておくつもりだ。あいつ等なら、リエンの要請に応えると信じている。

 これで、モンク側の戦力も問題ないという事で、後でリエンに礼を言うことに決めた。


「ハンナちゃんも来ると嬉しいのですが……」

「お前が助けを呼べば来るだろうよ。しかし、それだとタクマ達も来そうで怖いな」

「そうですね……一応、手紙を書いておきましょう」


 冗談で言ったが、やりかねないとも思う。ツバキは早速、タクマ達に向けての手紙を書き始めた。

 そう言えば、ツルギの他に、スーラン村で作業したジェイド達も、リエンからの要請には応えるのだろうか。あの時は、依頼の為に、他の領から来ていたので、正確には、モンクの冒険者ではない。

 しかし、俺の名があるのならと、少しは興味を持って欲しいものだ。

 俺の名が全世界に広まっても、クレナに来ることは無かったし、こういう機会に、また、会いたいものである。


「まあ、とにかく海賊団との戦闘については以上か?」

「ああ。向こうでどうなるかは分からないが、おおむね、こういう動きにはなるだろう」

「海賊の方は既に、ムソウが動くってことを知っている。これまで以上に用心はしているはずだ。気を引き締めて行けよ」


 アヤメの言葉に、俺達は頷くと同時に、リアとツバキ、俺、ジーンは少し呆れたようにため息をついた。

 実は、俺達がコクロで海賊団を殲滅するという情報、というか決定を、“ギルド長”セインと“騎士団長”リーが、結構大々的に公表したらしい。

 曰く、「我が名を以って、海賊団に天誅を下す。その執行人の名は、冒険者ムソウだ!」という内容のものだ。

 セインの名を以って海賊団討伐に繰り出す経緯というものは俺もアヤメから聞いていたから、それについてはどうでも良いし、少し嘘くさい内容に関しても目を瞑ることが出来る。

 問題は、公表したことだ。これだと、確実に海賊団を探し辛くなる。元々見つけづらいのに、更に難易度が上がってしまったと、その事を聞いた時は、思わずギルドの執務室の机を叩き壊そうと思ったほどだ。

 本当にガキみたいな事をするんだなと、改めてセイン達に不快感を覚えたが、アヤメに、これで、逃げられなくなったなと言われて我に返った。

 そうだ。ここまで大々的に、十二星天の英雄に宣言されたのでは、仮に海賊団討伐に失敗した場合、俺含め、闘鬼神の風当たりも強くなる。

 納得は出来ないが、セイン達に付け入る隙を与えるわけにはいかない。あいつらにとって、せいぜい良い駒で動けるようにしておこう。


「さて、では他に聞きたいことがある者は今のうちに聞いてくれ」


 ここからは、それぞれが抱えている疑問を解決することになった。と言っても、やはり、特には無さそうなダイアン達。今日はこれで終わりかと思っていると、リアがスッと手を上げた。

 何となく、流石だなと感心する。リアの頭がキレる事を知っているアヤメも、少し緊張した面持ちで、リアを指した。


「何か気になることでもあるか?」

「海賊の裏に転界教が関わっていると仮定して、貴族が関わっている可能性は?」


 リアの質問は、これまで転界教が関わっている事件には、必ず、その領の貴族や権力者が裏で糸を引いていた事に着目し、仮にリオウ海賊団が転界教と繋がっていた場合、コクロの貴族達も関わっているのではないかというものだ。

 貴族が海賊団と繋がっているのだとしたら、これまで、海賊団を見つける事すら出来なかった理由も分かる気がする。

 こちらの情報が筒抜けなのだからな。今回も、そんな貴族が居たとしたら、俺達の動きも海賊団に伝わり、向こうが対処する可能性が高くなる。

 ならば、情報を渡す貴族の方から対処しないといけないな、と思っていたが、アヤメとジーンは、リアに首を振った。


「それについては、既に調査を行った後だ。領主は勿論、貴族は問題ないだろう」


 どうやら、リアの疑問は既に解決していたらしく、海賊の調査が難航し始めたあたりから、内通者が居るのではないかという噂が、貴族から立ち始め、ジーンや騎士団によって、貴族を徹底的に調べ上げたという。

 結果、コクロの貴族は全員がシロで、寧ろ、海賊団に荷を奪われたり、管理地を荒らされたりと、リエンに続くくらいの損失を抱えていることが判明した。

 リエンと同じく、海賊団殲滅について、一番燃えている存在と言っても良いそうで、今回の俺達の遠征に際しても、住む場所と何槽か船、更に乗組員を用意してくれているという。

 なるほど。そこまでするなら、コクロの貴族は安心だな。


「領主のノワールも貴族達と同じ考えだから問題ないだろう。ただまあ、一人気になる奴は居るっちゃ居るなあ……」


 領主や貴族は問題ないが、気になる人間は居るとアヤメは頭を掻く。


「それって、どんな人?」

「ギルドコクロ支部、支部長のギャッツだ。アイツもムソウの到着を喜ばしく思っているとは言っていたが……」


 アヤメの口から出たのは意外にも、現地で俺達が接する機会が多いとされる、ギルド支部長の名だった。

 クレナに来る前、アヤメについてロウガンから聞いていたことがほとんど出鱈目だっただけに、きっと、今回も大した問題では無いのだろうと内心思いつつ、話を聞いてみることにした。


「どんな奴なんだ? ロロは、良い人だったと言っていたが?」

「まあ、そう見えただろうな。ただ、アイツの過去を知っていたら、少しは心配になる」

「過去?」

「ギャッツは元海賊だ。もっとも、リオウ海賊団とは関係ないがな」


 ……なるほど、同業者か。何で、そんな奴がギルド支部長になったのかと聞くと、前の支部長が引退し、誰を次の支部長にするか決める際に、ガーレンがギャッツを推挙したらしい。

 かつて、モンクの近海で暴れていた所を、ガーレン率いるモンクの冒険者に叩きのめされ、その後は、更生と懲役を兼ねた、旅客船の護衛船団を率いていたギャッツにこそ、海賊団を任せてはどうだろうかというガーレンの言葉に、他の支部長達も頷いたという。


「……何となく可哀そうに聞こえて来るな」

「そう言えば、私も元海賊がギルド支部長になったという話は聞いたことがあります。若輩ながら、災害級の魔物を倒すほどの力を持っているとか」

「ああ。正確には、ギャッツが率いていた海賊が災害級の魔物、クラーケンを討伐した。一応、支部長の基準は満たしているし、それだけの力と統率力を持つ奴を野放しにするのは惜しいってことで、支部長になった。

 ただ、ムソウが言うように、ほとんど押し付けた形になっている。そこが少し心配だな」


 ギャッツが支部長になった経緯を聞くと、確かに、自分が率いていた海賊団を叩きのめされ、ほとんど押し付けに近い形で、支部長になったという事もあり、ギルドには恨みを持っていそうだと感じる。

 リオウ海賊団と裏で繋がり、王城を転覆させる動機は持っているかも知れないな。


 ……そう思っていたが、ジーンは違う事を思っているようで、少し首を捻っていた。


「う~む……あの男にそこまでの思いきりの良さというものはあるだろうか……?」


 ジーンの言葉に、アヤメも苦い顔をしながら腕を組み、口を開いた。


「まあな。アイツも、リオウ海賊団という海賊団よりも、俺達と敵対することの方がやばい状況になるって事は分かっているはずだからな。“冒険王”の言うように、ギャッツが内通しているという線は薄いか……」


 聞けば、ギャッツという男、海賊団を率いていたとは思えないほど、肝は小さいらしく、ギルドでは分からないが、少なくとも天上の儀などでは、他の支部長に気圧されるようにおどおどとしているらしい。

 この事についてはロロからも聞いており、俺に対しては、とんでもない男がコクロに来ると、終始びくびくしていたらしい。

 そんな奴が、自分の立場を犠牲にしてまで、リオウ海賊団と繋がるとは思えないというアヤメの言葉に、俺はため息をつきながら頷いた。


「分かった。その辺りはコクロに行ってから、俺自身で見極めるとしよう」

「ああ。すまねえな、余計な心配かけることになって」

「いつもの事だ。お前らもそれで良いな?」


 ひとまず、ギャッツの事については現地で判断するという事でダイアン達にも了承を求めると、全員、コクっと頷いた。


「元ならず者って辺りは、俺達も似たようなものっすから、その辺は大丈夫っす」

「状況によっては、今回ばかりは、頭領も自分の力を誇示して、頭領と敵対したらどうなるかって示した方が良いかもね」

「だな。まあ、その辺りは、モンクの件もある。ツバキ達を護る為にも、お前らも、向こうに行ってからは何も気にすることなく暴れてくれ」


 モンクでの失敗は、俺が力を隠し続けた事にある。その所為で、ツバキとリンネに怖い目に遭わせてしまった。

 今回は、俺達に手を出したらどうなるかというのをしっかりと周囲に分からせながら活動するつもりだ。

 俺の頼みに、ダイアン達も、そして、ツバキも強く頷く。


「今回は、リンネちゃんを必ず御守りします」

「リンネも、おねえちゃんをまもる~!」


 リンネも、正体を隠すのではなく、手を出しにくいようにさせるつもりだ。目を付けられても、手を出されなければ問題は無い。

 しっかりと頼むぞと言うと、リンネも皆と同じ様に頷いた。


「さて、海賊団に繋がる者達という件に関してはもう良いか? リア」

「ええ。でも、気になったら、私の方で調べるかも知れないから」

「ああ。その時はちゃんと言えよ。俺も手伝うからな」

「頼りにしてるわ、頭領」


 普段は自信にあふれているリアに頼られることは嬉しい。俺が、俺よりも頭の良い奴に頼られるというのは、世界を越えても誇らしい気持ちになるものだなと嬉しくなった。


「良し。他に何か質問はあるか?」


 アヤメの締めの言葉に、今の所は浮かばないと首を振り、この場はお開きとなった。

 また、疑問が浮かべば、現地でジーンと確認しながら、行動することにし、ダイアン達とツバキは先に帰って行く。

 俺も部屋を出ようとすると、アヤメがフッと笑いながら、俺の肩を叩いた。


「良い背中だ……牙の旅団を頼むぞ、ムソウ」


 海賊団討伐は、ダイアン達による牙の旅団として、初めて取り組まれる依頼である。

 先代の牙の旅団の背中を見てきたアヤメは思うところがあるどころか、コウシ達とダイアン達を重ねているようだ。

 向こうで、あいつ等を纏めるのは、ジゲンやサネマサではなく、俺だ。責任重大だなと、アヤメに頷いた。


「無事に帰って来るから、爺さん達と待ってろよ」

「ああ」


 頷くアヤメに、手を振り、部屋を出て行った。


 ……ちなみにだが、後で聞いたところによると、ガーレンがギャッツの率いる海賊団を殲滅した際に、その討伐団の中には、ジーゴやバッカスも居たらしく、二人に、別れの挨拶ついでに、ギャッツの事を聞いたところ、


「アイツが、海賊団と繋がってる? あり得ねえだろ!」

「アイツにそんなタマ無えよ! もっと言えば、海賊辞めた後は、意外と真面目に護衛の仕事やってたからな。元々、悪いことが出来ない性格なんだよ」


 という、更にギャッツという男がよく分からなくなる回答が返ってきた。

 苦労したら嫌だなと思う俺に、二人は頑張れと一言だけ、激励を贈ってくれた。

 そして、海賊団と総当たりになり、リエンが冒険者を募ることになるかも知れないと伝えると、援軍には期待しておきな、と二人は俺と約束を交わすように、盃を酌み交わした。


「海賊潰したら、また、こうやって飲むぞ、ムソウ」

「ああ。その時は、バッカス。奢れよ」

「お前……まだ、あの時の事――」

「何か言ったか?」

「いや……何も……」


 顔色を悪くするバッカスとは対照的にクスクスと笑っているジーゴ。

 その日はその後も、腕相撲したり、飲み比べしたりしながら、二人と楽しんでいた。


 ◇◇◇


 そして、いよいよ、俺達がコクロに旅立つ日がやって来る。準備を整えて庭に出ると、既にダイアン達も準備を終えて、俺とツバキとリンネを待っていた。


「さて……じゃあ、行くか。全員、準備は良いな?」

「うっす。ばっちりっす!」

「良し。昨日も言ったが、武具の方は少し急ぎで頼むと、ヴァルナに伝えてくれ。海賊団といつぶつかるかは未定だからな。予想よりも早くなる可能性がある」

「かしこまりました。どうしてもという時は、僕も手伝いますのでご安心ください」

「無理はすんなよ。爺さん、集団戦法や現地での注意点など、色々と助かった。向こうで試してみるよ」

「細かいことはリア殿とツバキ殿に伝えておる。存分に活躍してくれ」

「色々と詰め込まれたわね……しかもほとんどの内容が、エンさん達ありきって……ジゲンさん、私達とエンさん達は違うのよ?」

「大丈夫じゃ。土産話を期待しておるからの」


 朗らかに笑うジゲンに、リアを始めダイアン達は、少し困ったようにしながらも、苦笑いしながら頷いた。


「さて。じゃあ、また、しばらく家を空けるが、爺さん、たま、アザミ、コモン、それからお前ら、いつも通りに頼むぞ」

「うむ。気を付けての」

「おいしいご飯作って待ってる~!」

「何かありましたら、僕がコクロに行きますのでご安心ください」

「ダイアン。頭領や皆に迷惑を掛けたら駄目よ」


 アザミの言葉に、少しビクッとした様子のダイアンだが、すぐに我に返り、おう! と頷いていた。

 コモンはジーンに、


「すっかり闘鬼神の一員だな」


 と、茶化され、嬉しそうな顔をしていた。

 取りあえず、コクロから急ぎの要件がある場合は、ジーンと合流するまではどうしようもないが、合流した後は、ジーンとコモンを介して、連絡を取り合うことにするので、何かあっても迅速に対応することが出来る。

 改めて十二星天って凄いなあと思いながら、ジーンに声を掛けた。


「そろそろ行くぞ。転送魔法を使ってくれ」

「意外と人遣いが荒いな……コモン、レオ、手伝ってくれ」

「アハハ……分かりました」

「向こうでしっかりな。帰ってくる頃には、俺は居ないかも知れないが、その時は、挨拶にコクロに行くからよ。あいつ等も居るしな」


 そう言いながら、レオパルドは、リンネと離れることになることに、ムスッとしている様子の麒麟たちを指差す。

 昨晩は大変だったな。リンネもコクロに行くという事を、昨晩知ったらしく、不貞腐れて騒ぐ麒麟を宥めるのは苦労した。最終的にたまとリンネとルイが宥め、レオパルドが王都に戻る日に、コクロに遊びに来るという話で落ち着いた。

 ……ように見えて、やはり納得はしてないようだな。子供は大変だ、とレオパルドに頷いた。


「あいつらが暴れないようにな。家壊しそうな時は、リンネの名前を出したって良い」

「分かってる。リンネちゃんも、すまねえな。コクロで楽しみにしていてくれ」

「うん! リンネ、まってるから~!」


 麒麟と違ってリンネは、二人と別れることについては問題ないらしい。カドルと別れた時と同様、会いたければ会いに行けば良いと思っているようだ。

 かつて、マシロでミサキ達と別れた時の事を考えると、本当に大きく成長したなと感じ、リンネの頭を撫でた。


 そして、レオパルドと話しているうちに、転送魔法の準備が整った。


「では、行くか。向かう先は、コクロ領主ノワール殿の邸宅前。着いたらすぐに会談だ。ムソウ殿、粗相のないようにな」

「お……ツバキ、頼んだぞ」

「そこはご自身で頑張ってください」

「リンネもがんばる~!」

「あー、リンネちゃんは、大人しくしていような」

「ツバキさんの言うことをちゃんと聞くのよ」

「頭領もね」

「変なところで心配になるなあ……」

「皆、俺達の無事を、ここから祈っていてくれ!」


 チョウシの言葉に、一同が頷く光景が見えてくる。何とも締まらない出発に頭を抱えた。

 そして、ため息をついている間に、俺達の視界から皆の顔が消えて、その直後に、見たことが無い建物が目に入ってきた。


 さて、無事にコクロに着いたようである。陸路なら数週間かかる距離を一瞬。流石、十二星天の使う転送魔法だ。

 長くなったが、ようやく、リエンの頼みに応えることが出来る。正直、セインの件は二の次だ。アイツにはモンクで世話になった。

 商人に借りを作るわけにもいかないので、さっさと解決しよう。

 そう思いながら、こっちだ、と促すジーンについていった。


次回から、新章スタートです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ