第395話―カドルと語り合う―
牙の旅団の継承の儀も終わり、そろそろ家に帰ろうかと思ったが、エンヤ達はまだしも、コウカと久しぶりに会ったタカナリやナツメ、ダイアン、それにシンキなどは、もう少し、コウカと話したいと言い出す。
更に、タカナリ達とも初対面のシロウ達も、もう少しここでゆっくりしたいと言い出したので、もうしばらくここに居ることにした。
取りあえず、外で見張りをしてくれているジロウ一家の者達に、時間が掛かりそうだという旨を伝え、再び刀精の間に戻ると、既にコウカ達を中心に、皆で盛り上がっていた。
改めて、クレナ初代領主として、タカナリもエンヤと共に、シロウ達を祝い、ショウブとコスケも交えて楽しそうにしている。
……何故か、ナツメも居るが気にしないでおこう。多分、ナズナとコスケが呼んだのだろうな。さっきから、ナズナと何か話している光景が目につく。
変なところは真似するなよ……変な事を言うようなら止めろと、一緒に居たコモンとトウヤに釘を差しておいた。
コウカはシンキに護られながら、たまやリンネ、それに麒麟の二人と楽しそうにしていた。近くでレオパルドがハラハラしている様子で見守っているが、アキラが、そんなに心配するなという感じで肩を叩いている。
現に、キキもリンも、やはりコウカの前では大人しい。寧ろ、飛びついたりするリンネをシンキが止めるよりも早く止めたりもしている。
まあ、それを褒められて頭を撫でられるのは、少し嫌みたいで、恥ずかしそうに顔を赤らめて、たまの後ろに隠れたりもしているが、いつもに比べてだいぶ大人しい。近くにジェシカとジーン、それにツバキも居るし、あっちはあれで任せても大丈夫だろう。
さて、牙の旅団と別れ、少ししんみりとしていたサネマサとジゲンは、新生牙の旅団であるダイアン達と、その他の冒険者達、そこにアヤメも加わって盛り上がっていた。
特に、別れ際にシズネから接吻を受けたことについて、ジゲンが皆から弄られている。いつもより、サネマサと団結している様子のダイアン達を眺めながら、あっちもあっちでこのままにしておこうと、助けを求めるようにこちらに視線を向けるジゲンから、さっと視線を外し、コソコソと離れていった。
というわけで、俺は皆から少し離れたところでくつろいでいるカドルの元へと向かった。
「よお。お前も、コウカと何か話したいんじゃないか?」
俺の記憶では、カドルもコウカの魂と再会したのは今日が初めてのはずだ。数千年ぶりに会ったのなら、リンネ達に混じれば良いのだが、と思ったが、カドルは笑って首を振った。
「我はリンネ達の後で良い。楽しい時間と言うのは譲ってやらねばな。それに……」
カドルは顔を上げて皆を見回した。
「牙の旅団を解放し、我も明後日には雷雲山に戻る。その前に、楽しそうな皆の姿を焼きつけておこうと思ってな……」
なるほど。牙の旅団と違い、本当の意味で一人になるから、皆を目に、記憶に焼き付けようという事か。
そういう事ならと、俺は何も言わず、カドルの横に座った。
「じゃあ、俺の話し相手になってくれ。こういう機会も最近は無かったからな」
「そうだな。ムソウ殿とゆっくり話すのはいつぶりだろうか……」
そう言えばと思い返すが、普段、俺は依頼に出ていたり、ここ最近は海賊の資料に目を通していたり、天上の儀の発表を受けた者達の相手をしたりと、何かと忙しく、カドルとゆっくり話すのは、恐らくモンクに旅立つ前以来だと感じる。
カドルが雷雲山に帰るのなら、この際、話したいことは話しておこう。
「九頭龍の頃から今日まで、長いようで短かったな」
「俺の家は楽しめたか?」
「無論だ。天界の波動を含む水もあることだし、ある意味、雷雲山よりもゆっくりできる」
「なら、ずっとここに居て貰っても構わないんだが?」
「ハッハッハ。ありがたいが、そういうわけにもいかん。あの山の生態系も、縄張り争いも変化しているようだから、あの山の主が誰か、再び我が教えてやらねばなるまい」
カドルが居なくなった雷雲山は、ハルキ達が討伐した雷帝獣と雷獣の群れが幅を利かせている他、ゴブリン、オウガ、ワイアーム、それぞれ、山岳や森林地帯に生息する魔物達が、群れを成しており、ここ最近は、クレナの樹海に並ぶ、魔物の生息域が広がっている場所となっている。
近くには人族の集落もあり、魔物の被害が予想されていると、昨晩行われた自警団の長同士での会合でも、その村の自警団の長の男が話していた。
そんな状況で、雷雲山にカドルが戻ることで、魔物達への牽制に繋がることもあるという。少なくとも、大概の魔物はカドルに手を出すことはしないし、カドルが気に入らないこともしないという。
カドル、というか、龍族は人族側の種族なので人族に手を出すことは、カドルの機嫌を損ねることということに繋がるので、魔物達も手を出しづらくなるとのことだ。
「まあ、そうは言っても、本能に逆らえない一部の魔物が殺気立ち、人間を襲うという事も少なくないがな」
「ちなみに、そういう時はどうするんだ?」
「魔物に殺された者の魂を感じた時、龍陣を使ってその魔物を補足。そして、我が雷を以って、魔物を殲滅する」
「なるほど……」
「と言っても、ここ最近は冒険者の活躍のおかげで、我が手を出すことは無いがな。ゆっくり体を休ませることが出来ている」
「そうか……あ、だから、何年も姿を見せなかったというわけか」
「まあ、そうなるな。我ら龍族の寿命は長い。数年程度は、と思っていたが、エレナは心配していたようだな……」
「その割に、な反応だがな。山に戻る理由は、エレナ絡みってのもあるのか?」
「うむ。ここに居るよりも、話をしやすいかも知れぬ。ムソウ殿の誤解を解く為にも、エレナとはゆっくりと話をしておきたい……もしくは、神帝龍様に……」
カドルは俺とエレナの関係について、複雑な想いを抱いている。仮に、この街で俺とエレナがぶつかるようならどうするかと、前に聞いてみたところ、コモン同様、どうすれば良いのか分からないという答えが返ってきた。
まあ、俺達とは数か月の付き合いだが、エレナとは何十年という時間の付き合いだからな。悩むのも頷けるし、軽々しく、俺の味方となり、エレナの敵になると言ったら、俺が困る所だったので気にしない。
カドルやコモンの中で一番良い状況なのは、俺とエレナが和解することだが、エレナの方が、何故かそれを拒否している以上、俺からはどうしようもないし、コモン達とも、今回の天上の儀で、明らかに深い溝が刻まれている。
ならば、エレナに働きかけることが出来るのは自分だと、カドルはエレナに向き合うつもりの様だ。
カドル一人で無理ならば、アティラにも協力を得たり、なんなら、龍族の中でエレナが一番懐いている、「龍じい」こと、神帝龍にも協力を仰いで、この問題を解決したいと躍起になっていた。
あまり、無理はするな、という事と、出来るだけ強引に話を進めようとするなと釘を差した後、神帝龍の事については何も知らないので一応確認することにした。
「神帝龍か……アティラからチラッと聞いたが、一体、どういう存在なんだ?」
「世界の根源と云われる、光と闇を司る、我ら龍族の王だ。そして、エレナ達の前任である、ルージュ殿、ブラン殿、ロバート殿、サクラ殿、ボタン殿、レシア殿の魂をこの時代まで守護する役割についておったな」
カドルによれば、神帝龍は鬼族と神族……というか、エンマとケアルが生み出した最初の龍族という事で、二人の力の大半を受け継いで生まれた。
当時は、まさしく大地の守護神たる力を宿していたそうだが、今は老いていることと、長年、魂の依り代に力を割いていたこともあり、酷く弱体化しているそうだ。
ちなみに、エンヤ達の依り代になっていた神獣も、依り代の力を使ったうえで、壊蛇襲来の折に、ムウ達の魂を一気に抜いたことで弱体化し、その数百年後、つまり、最近、無に帰したという。
どんな神獣だったかは、ノアという名前以外、未だに教えてもらっていないが、自分の身が危ない中、エンヤ達を護り続けたあたり、ずいぶんと愛されていた存在だったんだろうなと感じた。
神帝龍も同様に、ルージュ達を連れて行かれた際に、元々弱まっていた力が更に悪化し、壊蛇との闘いには参加できなかったほど、今は、かつての面影を残すことなく、ゴルド領の「龍の里」にて余生を過ごしているという。
エレナは、そんな神帝龍の世話をする者として召喚されたという見解もあり、献身的に神帝龍に尽くすエレナに、神帝龍も、まるで本当の娘のように、大切にしているのだそうだ。
さて、強大な力を宿していたという事だが、具体的にはどんなものだったかと言うと、カドルや他の龍族と違い、天候を操るというよりも、神族のように、魂の扱いに長けていた能力を宿していたという。
今で言うところの身体能力を高める魔法や、スキルの熟練度を操る魔法、人族が使う魔法の威力を上げるなど、生物の進化に関しての力を持っていたとのことだ。
その力を自身に使い、更に倒した魔物や邪神族の魂を取り込み、強化された神帝龍は、エンヤ達にも引けを取らぬほどの力を持っていたそうだ。
そして、取り込んだ魂を、自身の中で浄化し、大地に豊穣をもたらすという事もしていたという。血に濡れた大地を綺麗にし、ムウと共に緑を根付かせ、この世界そのものが壊れないようにしていたという。
「大地を浄化……天界の波動みたいなものか?」
「いや、ムソウ殿の使う天界の波動は、大地そのものの力を強化するものだが、神帝龍様のものは、大地に芽吹いた命を強化し、根付かせるといったものだな」
早い話が、天界の波動は、傷ついたり汚れた大地を、大地本来に宿る聖なる力をもって、修復するというものだが、神帝龍が行っていたのは、どんな状況でも強く生きられるように、自然物を強くしていたとのことだ。
なので、様々な素材を生み出したムウ、怪我や病を治すことに特化したスキルを持つナツメ、スキルの相乗効果により、神帝龍の力を多くの者達に共有することが出来るブランとルージュ、トウガ達を取り込むことで強くなるアキラ達とよく交流していたそうだ。
普通は何世代もかけて、何万年もかかる生き物の進化、魂の進化の歴史を速めるほどの力を持っていた神帝龍。それだけの力を持っていると、何時か、その力に耐え切れず、自爆するという恐れが出てきた。
そこで、神帝龍は自らの魂をいくつかに分け、肉体に宿らせ、自らの眷属を生み出す。
それが、カドル達龍族であり、龍族は、神帝龍が修復した大地を維持する存在として、それぞれがそれぞれに適応する、天候や大地そのものを操る力を宿すことになったという。
「つまり、カドルは神帝龍の力の一部でしか無かったってことか?」
「まあ、そう言うことになるが、勘違いしないで欲しい。邪神大戦の頃より、神帝龍様は弱体化したが、我らは強くなっている。今の我らを基準としても、当時の神帝龍様の強さは計れないだろうな」
「そうか……まあ、そうだよな。お前の何倍も強いならば、邪神族を倒してもおかしくは無いか……」
「ああ。更に、邪神族に厄介な相手が居てな。我は未だに彼奴に敵う気がしない……」
カドルによれば、邪神族の中に壊蛇のような、全属性に対しての耐性を持ち、それだけでなく、そもそも斬撃も打撃も何もかも通用しない、歩く要塞のような者が居たらしく、属性攻撃が得意な龍族は勿論、エンヤ達でさえ歯が立たなかったという。
邪神族にも、三界の連合軍と同じく、他の世界から来て特殊な力を持った迷い人が居たという話は聞いたが、その邪神族も別の世界の者らしく、ほとんどソイツの所為で、邪神族を殲滅することが叶わなかったという。
簡単に言うと、そいつが大地に残り、その隙に他の邪神族が、亜空間に撤退したという話だ。
ちなみにそいつは、神帝龍により強化されたカンナとシンキにより倒されたという。
ほとんど無敵の能力を持っている敵をどうやって倒したのだろうか……。少し気になるが後回しにしておこう。
というわけで、神帝龍がどれくらい強かったのかは、正直な所、よく分からないという結論に至った。神帝龍の戦い方は、自身の力を他者に上乗せさせて闘うという、最高の補助要員のようなものだからな。
まあ、それだけカンナ達を信じ、カンナ達も神帝龍を信じていたという事だろう。
また、カドル達はその頃はまだ、所謂未熟な龍族だったらしく、今の力を手にしたのは、邪神大戦が終わり、カンナ、ラセツの時代から更にしばらく経った頃だったという。
「ただ、今の我でも、自分の魂を分けて、そこに自分とは違う意識を宿すという事は難しい……というか、不可能だ。それほどの力を有しておらん。我らを生み出した時の神帝龍様の力は、未知数だろうな」
「それを操ることは無理だった、というわけか……」
自分の力を操ることが出来なかったとはいえ、カドル達を生み出した後も、カンナ達と共に闘ったというのは事実だ。当時はそれほどの存在だったのだろう。
しかし、今は長年に渡り力を使い、魂自体が弱ってきている所為で、かつての面影も無く、ひっそりとしているという。
「なるほど……エレナの件について神帝龍を頼ることも考えたが、それは辞めた方が良いな。そんな状態の神帝龍に会いに行くとなると、エレナがまた、何を考えるのか分からない」
「すまんな。だが、これ以上、エレナの考えが悪化しそうなら、我から神帝龍様に伺ってみることにする。神帝龍様も、シンラ様やサヤ殿を通じ、お主の事は知っているはずだからな」
お……神帝龍も俺の事は知っているのか……何を知っているのだろうか。
いささか不安になるが、カンナとサヤなら大丈夫だろう。悪いようには言っていないはずだ。何せ、俺の子と妻だからな。
自分にそう言い聞かせ、落ち着いていく。そして、神帝龍についてはカドルに任せることにして、引き続き、エレナの動向についても、任せることにした。
「じゃあ、神帝龍とエレナについてはよろしく頼む」
「うむ、承知した。他に何か聞きたいことはあるか?」
「一応、エレナの強さについても教えてくれ」
カドルは少し苦笑いしながら、エレナに怒られそうだな、と呟く。バレなきゃいいと言うと、仕方ないと言って口を開いた。
「我から聞いたと言うなよ。エレナは、この世界でも居ない、「龍人」という種族なのは知っておるな?」
「ああ。人の姿をしているが、龍の力も宿していると」
「魔人の中にも、魔龍種と人族の力を宿している者も居るが、エレナは別格だ。前の世界のものとは言え、その血に流れる龍族の力は、我らと同等だ。つまり、人としての強さと、龍族としての強さを持っておる」
カドルによれば、エレナの強さは俺達のように武具を装備することなく、素手でも天災級の魔物と渡り合えるくらいの強靭な肉体を持っているうえで、龍族特有の高い魔力を宿しているという事が第一に挙げられるという。
ただ、本人の闘いでの腕前はそこまででもなく、十二星天内でも、サネマサには及ばず、リーやセインと同等くらいだとカドルは語った。
「しかし、それだけの力を持ち、スキルの力で我らの能力も使うことが出来る点から、瞬間的ならば、その強さはサネマサ殿も超えるだろうな」
エレナのスキルは結び付けるもの。群を個として認識し、一人の人間に回復魔法や補助魔法を施せば、その人間とエレナが仲間と認識している者達についても同様の効果を与えるというものだ。
そして、エレナはその逆も可能で、エレナが仲間と認識している者の力を、エレナ自身が使うことも出来る。
すなわち、カドルの持つ雷を操る力や、アティラのような大地に潜り込む能力、風帝龍のような、風に溶け込む能力なども行使できるという。
いわば、レオパルドのような事が出来るが、エレナの場合は、龍族に留まらず、人族や魔物の力も使える。
EXスキルまでは使うことが出来ないらしいが、仮に神人化した俺と結びついた場合ならば、エレナが神人になれずとも、その身から天界の波動を出すことは出来るのではないかと、カドルは仮説を立てる。
色々と便利そうで強力な能力に感じるが、短所もあり、あまりに力を使うと、エレナ本人の負担も大きく、壊蛇襲来の際は、神帝龍を除く、全ての龍族の力を使い、龍言語魔法なども行使するようになり、まさしく人界で最強の力を誇るようになったが、それも瞬間的で、エレナの魔力は枯渇し、肉体にも負担が出て、その場にジェシカが居なければ即死していたのではないかというくらいの危険な状態となったそうだ。
そして、壊蛇の持つ全属性攻撃無効化の所為で大した痛手を負わすことなく、エレナは戦線離脱、後はコモンとサネマサに任せることとなったという。
「それでも凄まじい力の様だな。つまりは、サネマサのような強い肉体に、ミサキのような魔力と、高度な魔法技術が合わさったという感じか……」
「そんなところだな。ちなみに、エレナの前任者であるルージュ殿は、そこまでの事は出来なかった。ルージュは普通の人間だったからな。せいぜい、我ら、しかも幼体だった頃の龍族一体だけで精いっぱいの様だった」
つまり、エレナのスキルは、素体となるエレナの肉体の強さによって、真価を発揮するという事か。
ちなみに ちなみに、カドル達の力を行使することが出来るエレナを解析し、普通の人間でも努力次第で龍言語魔法を使えるようにしたのが、ミサキである。
好奇心だけのミサキに協力した当たり、この頃はまだ、個人が強大な力を持つことに関して、エレナは意欲的だったという事か。
無論、純粋な龍族が使う龍言語魔法とミサキ、つまり人族が使う龍言語魔法とでは、威力に差が出るとのことだ。例え、ミサキ以外の者が龍言語魔法を使い、そいつが良からぬことを考えるような人間であったとしても、抑えることが出来ると思っていたのだろうな。
そして、エレナは龍族の姿に変化することが出来る。肉体的な強化は勿論、魔力の最大値も上がるそうで、全ての龍族の力を同時に宿すことが出来たのは、この姿の時のみだ。
仮に、あの頃よりもエレナが成長しているとするならば、今後、全ての龍族の力を自在に使い、神帝龍の力までものにする可能性がある。
あくまで仮説だが、老いて弱体化した神帝龍に代われる存在となるというわけだ。だからこそ、エレナは龍族にとっても、大地にとっても重要な存在であるとカドルは語る。
「そう言った面からも、エレナとムソウ殿が敵対するというのは看過できん。エレナを失うわけにはいかないからな」
「……あ、それでも俺の方が上と、お前は評価するか」
「全力の闘いともなれば、あるいは、な。こないだの手合わせとやらは本気では無かっただろう? ムソウ殿の本気は、我がこの眼で見ておる。あの時のムソウ殿ならば、エレナなど、問題ではない。
仮にエレナが本気でムソウ殿と闘った際、ムソウ殿も全力でそれに応じた時……我がその時が怖い」
「俺が、エレナを斬らねえかってか……? セインやリーはまだしも、エレナについては、少なくとも、大地を護るという意思があることを知っている。斬る気は無い」
「例え、そうせねばムソウ殿やツバキ殿の身が危ないという状況になってもか?」
「……ああ」
カドルの問いに少し迷った。どんな状況でも、エレナを斬る気は無い。大地を護りたいという意思は、俺達とも共通しているからだ。
今までの話を聞いて、カドルにとっても、コモン達にとってもエレナは完全に悪い人間では無いという事を把握している。
どんな状況でも、エレナと完全に敵対することに関しては、俺も否定的だ。
しかし、エレナが仮に、俺ではなく、ツバキやダイアン達に矛先を向けるようならば、話は別だ。エレナが、ツバキを殺した時、俺は平常で居られるのだろうか。
その時は、流石に分からないと思う。どんな手を使っても、エレナを斬ることもあるかも知れない。
カドルはそれを恐れているようだ。だから、俺とエレナが本気でぶつからないように、尽力すると、俺の答えを聞き、改めて約束してくれた。
「我も“鍛冶神”と同じく、エレナとムソウ殿が敵対した時、どうすれば良いのか分からないでいる。
……だが、十中八九、そういう場面になれば、エレナの味方をするだろう。その時は……すまぬ」
「分かってる。その時は、他の龍族とも協力して、俺を止めてくれ」
出来る事なら、昔のような、ただ、敵を斬っていくただの“死神斬鬼”には戻りたくない。
しかし、そうなった際、頼れるのは十二星天か、ジゲン、そして、カドル達龍族くらいだ。
エレナは大地に必要な人間だ。ならば、カンナ達が必死で守った大地を護る為に、どんなことがあっても、俺を止めてくれと頼むと、カドルは静かに頷いた。
「まあ、そうは言っても、俺はギリギリまでエレナと闘う気は無いし、ツバキ達に危害が及びそうだとしても、必ず護り抜くからな。
お前も居るし、そんな状況にはならないだろうよ」
俺とエレナが敵対し、どちらかの命が奪われるという状況はあくまで仮の話だ。そうならないように、そして、俺にもエレナにも、無論、カドルにも後悔の無いようにするだけと語ると、カドルもそうだな、と頷いた。
「では我は、いずれムソウ殿とエレナが手を取り合う日が来ることを信じ、共に邪神族と闘うまで、力を蓄えておくとしよう」
「ああ、任せろ。さて、他に聞きたいことは……」
エレナの話もまとまり、次は何を聞こうかと思案を巡らす。
しかし、特には何も思い浮かばない。そんな俺を察してか、今度はカドルから口を開く。
「そう言えば、海賊退治を無事終えた後は、ゴルドに行くそうだな。何か目的があるのか?」
「いや? 特には無い。面白そうだからってだけだ」
「ふむ……それを考えると、ムソウ殿がゴルドに行くまでに、エレナと一度会う必要があるな。ムソウ殿は確実に、龍の里に興味を持つだろう」
「まあ、今の時点で興味は尽きないがな。だが、強いて言うなら、ゴルドにというより、あの大陸にある「精霊女王の懐」に興味がある」
コクロの次はゴルドに行きたいとは思っている。無論、ギリアンやレイカ達の故郷であり、多くのエルフやドワーフ達が居るという事にも若干興味はあるが、最も興味をそそるのは、カンナがこの世界に来た時に居た場所であり、サヤが冥界へと旅立った場所である「精霊女王の懐」という山だ。行って何かしたいというわけでもないが、一応この目に焼き付けておきたい。
もちろん、カドルの言うように、龍の里という場所にも興味を持っているが、それは先ほども言ったように、エレナとの問題を解決した後で良いと思っている。というか、それしか道は無い。我慢しておこう。
「精霊女王の懐はレイン領だ。そちらも、大丈夫なのか?」
「まあ……心配事が尽きないから、予定にしているだけだ。結局は行かないかも知れない。コクロで海賊を倒したら、クレナに蜻蛉帰りか、その辺りでまた、次の予定を決めることにするつもりだ」
ゴルドにはエレナが、レインにはセイン、リー、ミーナ、ジーナが居るという事で、俺が行き辛いというのは確かだ。
そう考えれば、向こうの大陸に行くこと自体が間違っているのかと考えてしまう。
コクロで海賊を倒すことが出来れば、その時点でセイン達の反応を見るというのも悪くないかも知れない。希望は薄いがな……。
「このほか、どこか良い場所は無いだろうか……」
「そうだな……こういうことは“冒険王”殿の方が詳しい気もするが……」
「まあ……そうだな。そろそろ皆の所に戻るか?」
二人で話していても分からないとなると、皆に頼るしかない。カドルも、そろそろコウカと話したいとのことなので、俺達は皆の中へと入っていった。




