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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第392話―披露宴が盛り上がる―

 ジロウの所為で、俺はシロウから未だに、夫として、家族の大黒柱としての心構えというものはどういうものなのかという質問攻めに、あくせくしながら答えていた。

 色々と聞いてくるが、俺はいつも仕事で家を空けていた身だ。俺が仕事に出ている間、サヤもカンナも、俺の知らないことをやっていたわけだし、今から考えても、俺は、決して良い父親というものではなかったと思っている。

 参考になるかなと思いながらも、今日はシロウの祝言だ。一応、真面目には答えていた。


「やはり、夫とか、父親とかになったら、自分がやりたいこととか我慢する機会が増えるのだろうか?」

「あ? お前は家族を置いてまでやりたいこととかあるのか? ……まさか、妓楼で息抜きしてえとか思ってねえよな?」

「思ってねえって! ……でも、偶には、酒とか賭場とかで息抜きするんじゃ、って思うと……」

「息抜きする奴ってのは、家の中で息が詰まるから息抜きしているだけだ。ナズナと一緒になったら、そうなる可能性があるって言うのか?」

「それは無い! アイツと居るだけで、俺は……満たされている」


 普段なら恥ずかしい台詞をと思うが、この場では仕方がないだろうし、顔を真っ赤にしている分、心の底からそう思っているのだろうなと伺え、少し安心した。


「そうか。じゃあ、俺から言うことは何も無いな。二人で居ることでやりたかったことが満たされているならそれで良いだろ。我慢も何も無い。そういうのは、そういう事態になってから聞いてくれ」

「う、うっす! あ、あと、次なんだが……」

「まだ何かあるのか? 他の所にも行けよ。爺さん……じゃなかった。ジロウに酌するとかよ」

「親父は、ナズナから酌してもらいてえって……」


 そう言いながら、ジロウを指すシロウ。美味しそうに料理を口に運んでは、アヤメやショウブと杯を酌み交わしている。

 アヤメはまだしも、ショウブは若返ったジロウに少々戸惑っていたが、すぐに慣れたようで、そっと盃を口に運んでは、昔話に花を咲かせていた。

 そして、俺達と目が合うと、ジロウはニッと笑い、


「そっちはそっちで楽しんでくれ」


 と言って、再びコスケの相手をする。新郎の事、置き去りにしてんじゃねえと頭を掻き、その後も、シロウの相手をしていた。


 やがて、ナズナがコスケ達と共に戻って来る。そして、酒の入った水差しを持ち、ジロウの前にやって来た。


「すみません……お待たせいたしました、お父さん。さ、どうぞ」

「ああ、ありがとう……ハハッ、そう言えば、約束したな。ここで、お前が酌する酒を呑むと。夢が叶った……」

「はい……私にとって、ここで最後にお酌をする方は、お父さんと決めておりましたので」

「ありがたいことだ……ほら、コスケ。お前も付き合えよ」

「ハハハ、ジロウさんには敵いませんなあ。ナズナちゃん、私にも頼むよ」

「もちろんです、コスケさん……あ、シロウは……?」


 ジロウとコスケに酒を注いだ後、ナズナはシロウを気にして、こちらに視線を向ける。あれなら良い妻になるだろうと思っていると、ジロウの笑い声が聞こえてきた。


「シロウはこれから舞だろう? 俺達はそれを見ながら、ゆっくりとさせてもらおう……たま、こちらにおいで。俺達と一緒に、シロウの頑張りを見てやろう」


 そう言って、たまを手招きするジロウ。たまは大きく頷き、ついでに、と言いながらリンネ、キキ、リンの三人も、ジロウの元に集まった。たまとキキを自らの膝の上に座らせ、ご満悦のジロウは、シロウに早く舞うようにと促す。


「さあ、練習の成果を見せてくれ、シロウ」

「何、仕切ってんだ、親父……爺さんの時はそんなこと言わねえのに……」

「昔は言っていただろ? そして俺は、今は昔の状態だ。何も不思議ではない」

「そもそもこの状況が不思議なんだよな……まあ良い。じゃあ、旦那、俺、行くからよ」

「おう。俺も楽しませてもらうからな。な、ツバキ」

「はい。ご期待しておきます」

「じゅ、重圧が……よしッ!」


 頬を叩きながら気合を入れるシロウ。そのまま立ち上がり、アザミや四天女に舞の準備をと伝えた。進行の予定が、と戸惑うアザミに、シロウは若返ったジロウを指差しながら何か言うと、アザミは苦笑いしながら頷き、準備に移った。楽器を手に取る四天女含め、舞台を用意し始める妓女たちを指揮するアザミを見ながら、本当に大したものだと感じた。

 先ほど本人に聞いたところ、アザミは新しくなった高天ヶ原で働く気はさらさらないらしい。というか、妓女に戻ること自体も考えていないのだとか。逆に、この質問をした時に、


「頭領は、私を闘鬼神から追い出したいのですか!?」


 と、迫ってきたほどだった。無論、その気は無い。と言うか、今更妓女に戻ったところで、闘鬼神を辞めるという話ではないし、本人も妓女に戻るよりも、うちで女中として、たまの下で働き続ける方が幸せらしい。

 まあ、アザミも大人だし、今更俺が、皆の生活の事を気にするのは野暮かと思い、それ以上は何も言わなかった。


 さて、準備が整うと、壇上に上がったシロウが、ナズナ達の演奏に合わせて舞を踊り始める。

 最初のものと比べて、太鼓の音に合わせてシロウが刀を振り続けるという、力強さを感じさせるものだった。

 そして、時には実際に刀を抜き、落ちてきた紙を斬ったりと忙しい舞でもあった。あれくらいなら俺にも……と思ったが、繊細な手や足の動きを見て、無理だな、と悟る。

 この舞はどちらかと言えば、人界王シンラ、もとい、カンナを模したものではなく、その従者であり、人界の為に闘っていた戦士達を模したものであり、降りかかる災いから、家を護ることをあらわしているものとのことで、シンキ曰く、自分やエンヤ、エイキなど、かつて、カンナと共に、邪神族と最前線で闘った者達の姿を模しているという。

 エンヤは……どちらかと言えば嫁の方なんだが……まあ、良いか。そこらの男よりは強いもんな……。


 ふと、ジロウに目を移すと、満足げな顔で、ナズナやコスケと共に、酒を呑んでいた。


「あの様子だと、ジロウ一家だけでなく、お前達の家も安心して任せられる。しかし……この短い間に、上手く舞えるようになったな。ナズナの教え方が上手いのか?」

「フフッ、ありがとうございます」


 嬉しそうな顔をするナズナに、コスケも頷いた。


「シロウ君は、昔から人の真似をするのが得意でしたね。ジロウ様の技もそうです。ナズナちゃんも、舞や武芸は上手なのに、何故……」


 そこまで言って、コスケは言いよどんだように、口をつぐむ。


「何故、何ですか? コスケさん」


 追及するナズナに、ジロウはクスっと笑って、ナズナの頭を撫でた。


「何で、他は駄目駄目なのかって聞いてるんだ。せめて、お前らに子供が出来た時、自分の悪いところは教えないようにな。シロウが大変な事になる」


 その言葉に、ナズナは顔を真っ赤にしながら、袖で自らの顔を隠した。


「うぅ……ツバキさんにもそう言われました……」

「ああ。さっき、横で聞いていた。あれは、ほとんど本気だから、しっかり肝に銘じておけよ」

「はいぃ……」


 恥ずかしそうに頷くナズナに、今度はジゲンの膝の上のたまが目を輝かせて口を開く。


「お料理は私が教えてあげる!」

「それは良いな。たまの料理は天下一品だから、しっかりと習うが良い」

「それは……ありがたいです。お願いしますね、たまちゃん」

「うん!」

「じゃあ、リンネは……おそうじ! ナズナおねえちゃんのおへや、きたないから!」

「ゔ……コホン。リンネちゃん、そうはっきり申されますと、流石に傷つきます」


 リンネの言葉に取り乱しかけたナズナだったが、一つ咳ばらいをついて、気を落ち着かせるとともに、毅然とした態度となる。

 そして、少しばかり言い返したが、リンネは首を傾げながら、口を開いた。


「え……でも、リンネ、ツバキおねえちゃんと、ナズナおねえちゃんのおへや、いっつもきれいにしてたよ~?」

「ん゛! そ、それは……ですね……」


 そうなのか? とツバキに聞くと、コクっと頷く。というか、こないだ婚約の祝いをしに、ナズナに会いに行った時がまさしくそうだったな。あの時は冗談で言っていたのかと思ったが、本当の事だったらしい。

 それにしては、俺がひと月近く眠っている間は特に何も無かったような気がしたが、と首を傾げたが、それについても、ナズナが何かやらかす前に、ジゲンやツバキ、そして、ナズナが止めていたという。

 なるほどと思っていると、ジロウの笑い声が聞こえてきた。


「ハッハッハ! 良かったな、ナズナ。お前達の子供には、良い姉が二人も居るようだ。だが、その前に、お前の花嫁修業も上手くいきそうだな。手始めに、今度から時間が空いた時にでもうちに来るんだ。きっと二人やアザミ殿達が、色々と教えてくれるはずだぞ」


 そう言いながら、再びナズナの頭を撫でるジロウ。ナズナは更に恥ずかしそうにしながらも、たまとリンネの二人に、よろしくお願いしますと、頭を下げていた。

 二人は、同時に、嬉しそうに頷き、ナズナの体を抱きしめる。

 ……向こうで、俺の家に関しての話が、俺抜きで進んでいるが、気にしないようにしておこう。それに、これでシロウの負担が減るのなら文句は無いだろう。

 そして、何気に側で話を聞いているキキとリンも、たまとリンネがナズナに花嫁修業を行う事について、自分達も混ぜろと乗り気だ。かいつまんで聞き耳を立てていると、自分に出来ない事を、たまとリンネが簡単にやってのけるという事は、「お兄ちゃんとお姉ちゃん」としては我慢できないらしい。

 そんな二人の申し出に、ジロウ、たま、リンネは、もちろん、と承諾。ジーンの調査が終わっても、二人が俺の屋敷に、度々遊びに来ることが決まった。

 それは、何とも頭を抱えたくなるが、麒麟の二人、特にキキが何故だかジロウに懐いているので、まあ、大丈夫だろうと、俺は何も言わずに、シロウの舞に集中することにした。


 演奏が激しくなるにつれて、シロウの動きも激しくなっていく。しかし、息が乱れている様子もない。最初と同じく、平然とした顔で、緩やかに、それでも力強く、一家の長として立つ心意気のようなものを俺達に見せつける。

 ……もう、俺に教えることなど何も無いのではないか? 何となくそう思っているうちに、シロウの舞は終わった。


 演奏と共に、動きを止めるシロウに、皆から盛大な拍手が巻き起こる。

 シロウは、そのままジロウ達の所に戻って行き、感想を求めていた。


「ど、どうだった? 親父」

「ああ、良い出来だったぞ。お前は本当に、昔から何でもこなすなあ」

「あ、ありがとう! ナズナが上手く教えてくれたおかげだな!」


 ニカっと、ナズナに嬉しそうな顔を向けるシロウ。


「え、ええ。こちらこそ、どういたしまして……」


 照れからなのか、先ほどまでの会話からの恥ずかしさからなのか、少しどもりながら、ナズナは頷いた。

 不思議そうな顔をするシロウの手を引き、二人は定位置に戻って行く。

 そして、再び、それぞれで料理を堪能する時間となり、隣同士で話す者、移動して自由に話す者など、宴会場は少々賑やかになっていく。


 俺とツバキの元には、コモン、レオパルド、ジーンの三人がやってきて、皆とは違い、コソコソと隠れるように小声で話をしていく。


「さて……ここまでは予定通りですね。披露宴の後は、街の練り歩き、そして……刀精の祠です」

「ああ、そうだな……シンキ達にはバレてないか?」

「うむ。シンキもサネマサもジェシカも、気付いた素振りは無い。だが、シロウ殿達の祝言に水を差す形になるまいか、儂は心配だな……」

「大丈夫だろ。寧ろ、この人に直接祝われることになるんだから、問題ないだろ」


 レオパルドは自信ありげに、ツバキの持つコウカの人形を指差した。

 そう。俺達が話しているのは、シンキを驚かせる為の最終打ち合わせである。一応、闘鬼神以外だと、この三人が、ツバキの人形にコウカが宿っているという事を知っている。

 更に言えば、ジェシカの首飾りに宿るナツメ、サネマサの羽織に宿るエイシンも、この事は知らないので、他の者達同様、驚くことになるだろう。

 もちろん、俺達はシロウ達を祝うためにここに集まってきている。ジーンの言うように、シンキ達を驚かせることに集中し過ぎて、それがおろそかにならないようにしなければならない。

 あくまで、俺達は、二人の愛を祝う為、この世界での夫婦の象徴たるコウカに、二人を祝ってもらおうと思っているのだ。


「一応、今のところのコウカ様の意志を、コモン様、お願いします」

「かしこまりました」


 人形を差し出すツバキの手に、自らの手を重ねて瞑想するコモン。

 しばらく経つと、にこやかな顔になって、コウカの言葉を俺達に伝えてくる。


「「これほど多くの人に祝われて、ここまで素敵な夫婦を祝わないわけがない」、とかなり乗り気です」

「そうか。ひとまず、それは安心だな」

「それから、「久しぶりに見たシンキは、何も変わってない。私や皆が思い描くように、すっごく驚いてくれると思う」だそうです。完璧ですね」

「だな……ちなみに、トウヤは何て?」

「トウヤさんは、ただ一言、ほどほどに、だそうです」


 トウヤの言葉に、こちらも流石だなと、苦笑いする。ただ、こうやって心配はするが、それ以上は何もしないというところが、アイツの良いところだ。

 兎にも角にも、シロウ達を祝うついでに、シンキを驚かすことについては、コウカも乗り気だ。先ほどの待合室の事もあり、シンキについては、楽しみにしていろ、という思いで居ることにした。


「さて、この件については良いとして……コウカ、今後もツバキの元に居たいのなら、お前の口からシンキにそう言うってことも忘れるなよ。驚かせることばかりに気を取られて、その事についても、今から心構えを作っておけよ」


 念の為に、そう伝えたが、コモンを介して、コウカは自信たっぷりな一言を放った。


「ムソウさん。コウカ様曰く、「もう、決意は固めているから安心して。私は、ツバキさん達と一緒に、この世界を見て回るって決めてる。ツバキさんの強さは、分かっているから、大丈夫」と仰っております。……凄く信頼されていますね、ツバキさん」

「ありがたいことです……」

「そうか……最悪、シンキと闘うことになっても、ツバキ、絶対勝たねえとな」

「その時はエンヤ様に……」


 だな、と皆でツバキに頷き、この話を終えた。最終的にどうなるか分からないが、シンキは今までもこれからも、コウカの従者だ。主の願いくらいは聞くだろうと思い、一先ずコモン達と解散した。


 続いて現れたのは、牙の旅団だった。何だろうと思ったと同時に、全員俺に頭を下げてきた。


「ムソウ。九頭龍の時から、今までお前には本当に世話になった」

「突然どうした?」

「私達は今日、ルイ達の武具に宿る刀精となるわ。今までの様に自由にこうやって話せるうちに、貴方に礼をしたくて……」


 つまりは、最後の挨拶というわけか。何度も思うが、祠に行けば会えるし、コモンを介してなら、いつでも話くらいは出来るが、確かに、目の前で直接それが出来なくなったり、姿が見えなくなるというのは寂しいものだ。

 シズネに分かったと頷き、皆からの礼を受け取ることにした。


「……最初は、僕達がジロウさんを助けたかったという我儘からでしたが、貴方のおかげで、それも果たすことが出来ました。それだけでなく、この世界の歴史的瞬間に立ち会うことも出来ましたし、クレナの始祖様ともお話しすることが出来ました。本当に、ありがとうございます」

「今後は、刀精として、今度は俺達も、あいつ等の力の一部となって、アンタやジロウを助けようと思っている。もっとも、俺はナズナの刀だが……」

「私は、リアと……あの子、既に私よりも強いし、きっと、頭領さんの大きな力になってくれるはずよ。私はその手助けをしながら、貴方達を支えるわ」

「俺はダイアンとだな。アイツがいっぱしの戦士に恥じないように、力を尽くすとする」

「ハルキはまだまだ強くなる。会った時は、何となく不安だったが、皆の中でも、あの雷帝龍様にも認められた男だ。良い後継者と会わせてくれてありがとな」

「アンタらがジロウと共に居てくれて良かった。安心して、クレナを、アヤメちゃんを、皆を任せることが出来る」

「お前に会えて良かったぜ、ムソウ。もし怪我とかしても、安心しろよ。俺の力を継ぐロロも居るんだからな。ジロウやサネマサと同じく、お前も安心して前だけを見て、進んでいけ」


 それぞれが、それぞれの言葉で俺に頭を下げたり、激励の言葉を送ってくれる。何となく気恥しい気持ちとなるが、素直に嬉しくて、皆の言葉に頷いた。


「……ああ。俺も、お前らと知り合えて良かった。俺は、前の世界では最強の傭兵として名を広めていたが、この世界で最強の傭兵と共に、ここまで友好を育むことが出来て嬉しかったよ。

 爺さんやサネマサも言っていたが、もしも俺が、お前らが活躍していた時代に、この世界に来ていたならば、もっと良い関係になれていたと、何度も悔しい思いをしたが、結果的に、お前らの意志を継いだダイアン達のおかげで、それが果たせそうだ。これからも頼むぜ、牙の旅団。共に、闘っていこう」


 そう言って、手を差し出すと、皆を代表して、コウシが俺の手を掴んだ。


「もちろんだ。えーっと……「天栄の国」大陸王タカナリ直属の、傭兵部隊闘鬼神、頭領“古今無双”の“死神”斬鬼さん」


 ニカっと笑いながら、俺のかつての肩書を口にするコウシに、少し驚いた。


「……やはり、悪口に聞こえるのは何故だろうか?」

「“刀鬼”よりはマシだろ?」


 離れたところで、サネマサと肩を組みながら酒を呑んでいるジロウを指すコウシや他の牙の旅団の面子に、まあな、と頷いた。


「確かに……さ、お前らもあっちに行ってやれよ。“刀鬼”と“武神”……二人の団長さんが喜ぶぜ」

「ククッ、そうだな……おいっ! ジロウ、サネマサ! 俺達も混ぜろ~!」


 コウシ達はそのまま、ジロウ達の方に駆けて行った。

 酔っていたのか定かではないが、シズネがジロウに飛びつき、口づけを迫っている。ジロウは慌てて避けたり、振りほどこうとするが、他の者達に押さえつけられ、身動きが取れないでいるようだ。

 それを指差しながら、アヤメ達やシロウ、ナズナ両名も大笑いしている。やはり、“クレナ一家”は騒がしいなと思いながら、俺はツバキと共に、その光景を眺めていた。


 やがて、披露宴は四天女による、シロウ達への祝いの舞へと移行する。それぞれが席に戻り、四天女の舞を見ていたが、ダイアン達が座る、闘鬼神の席が少々騒がしい……。


「シュンカ様~! シュウメイ様~! トウリン様~! カレン様~!」

「うるせえぞ、カサネ!」

「静かにして、カサネ!」

「黙って見てろ、カサネ!」

「何しに来たんだ、カサネ!」

「黙らせるわよ、カサネ!」


 四天女の舞に興奮気味のカサネを黙らせようと、その他の者達が声を荒げる。流石にうるさかったので、死神の鬼迫を当てた。


「「「「「ゔッ……」」」」」


 騒いでいた奴らは、俺が睨んでいることに気付くと同時に、小さくなりながら静かになる。

 シロウとナズナは苦笑いしているが、これで済んで良かったと胸を撫で下ろした。

 この場は祝いの席だからな。カサネだけが喜んで良い場では無いし、声を荒げるような場所でも無い。

 やれやれ、と思っていると、後ろから肩をトントンと叩かれる。振り返ると、そこにはアザミと、カエデ、モミジ、キクという、うちの女中達の何人かが気まずそうな顔をしながら立っていた。


「どうした?」

「いえ……頭領、お願いがあるのですが……」


 神妙な面持ちのアザミに、俺はツバキと顔を見合わせて、首を傾げる。


「何か問題でもあったか?」

「あ、そういうわけでは無いのです。私達の問題なのですが……」

「はっきり言えよ。どうした?」


 すると、アザミは恥ずかしそうな顔をしながら、周りには聞こえないように顔を近づける。


「その……昔の血が騒いでしまいまして……」

「……は?」

「先ほど、妓女には戻らないと言ったばかりでなんですが……その……あの子達の舞を見ていると、私達も……」

「踊りたくなったってか?」


 俺の問いに、アザミ達はコクっと頷く。話を聞けば、それほどまでに四天女が披露している舞は見事なものだと言うが、ここに集まった四人から見ると、もう少し足りない部分があるという。

 そういうものなのか、とツバキに確認してみたが、ツバキもその違いには気づかないらしく、困った俺達にアザミ達が言うには、妓女としての魅惑と言うか、色気というか、そういったものが足りないという。

 要は、ナツメみたいなもの、と最後に締め括られ、なるほどと感じた。

 そういや、ナズナが妓女として顔を見せる時はそんな感じだよな。普段からは想像もつかないほどの色気を放っている。


 今一度、四天女の舞と、皆の様子を伺ってみる。まあ、確かに状況が状況だからか、全員、四天女に見蕩れているという感じでは無い。唯一、カサネがそんな感じだが、アイツの場合は、少し違うからな。

 先ほども言ったが、この場は、シロウ達を祝う席であり、男をたらし込む場所ではない。別に良いんじゃねえかと思ったが、アザミ達は、妓女ならばいついかなる時も、妓女としての本分は忘れては駄目とのことだ。


「後輩の助けになりたいのです……」


 高天ヶ原の四天女と言えども、アザミ達からすれば妓女としては後輩に当る。先輩として、道を示したいということか。

 そして、更に話を聞いて面白い、というか、驚いた新事実がある。


 実は、四天女に新しく加わったカレンという妓女だが、高天ヶ原の前は別の店に居たらしく、そこでは、アザミと共に働いていらしい。

 当時、一人の妓女につく新造がアザミで、禿がカレンだった関係だ。この妓女という女が、最低な奴だったらしく、店の金に手を出していたり、他の妓女達へのいじめをするような奴で、アザミも目を付けられていたらしい。

 しかし、下手な事をしてもアザミは動じず、その妓女は面白くない気分だったという。そこで目を付けられたのがカレンで、アザミへの苛烈ないじめの矛先がカレンに向かった際、アザミはその妓女を、何と拳で殴り飛ばしたという。

 それがきっかけで、アザミは妓楼を追い出され、夜鷹になった経緯がある。その後、その妓女は店の金に手を付けていたことが原因で闘宴会により粛清の対象となり、カレンも共犯と見なされ、妓女が手を付けた金の分だけの値で高天ヶ原に身を売ったとのことだ。


 結構重い話だな。しかし、それなら、高天ヶ原を修繕している間、シュンカ達がうちで寝泊まりしていた時に、気付きそうなものだが、と、俺は記憶を巡らせた。


 ……ああ、そういや、居たな。あの頃は化粧をしていなかったが、四天女と同じく、アザミに従っていた幼い女が。まあ、あの頃は、四天女含めて色んな妓女がアザミを慕っていたから、流石、アザミとしか思っていなかったな。

 そう思いながら、舞台上のカレンに視線を移す。うん、間違いない。あの時の女だ。化粧と着物でこうも変わるのか。

 なるほど。アザミは、今のカレンの舞を見ながら、最後に妓女の舞と言うのがどういうものかと示したいようだな。

 アザミの気持ちが伝わり、ツバキと話し合った。


「どうされますか? 私は、賛成ですよ」

「そうか。なら……」


 ツバキの意見を聞き、俺はアザミ達の方に向き直った。ハラハラしている様子のアザミに、フッと笑った。


「そんな、心配そうな顔をするな。お前達の申し出を受け入れる。ただし、条件が一つ」

「条件ですか? それは……?」

「やるなら全力でやれ。分かったな?」


 せっかくアザミ達が踊るのだから、下手な事は出来ない。何せ、これはある意味、闘鬼神から贈る、シロウとナズナ、二人への祝いとなるからだ。

 この場で、男共をたらし込む、特にダイアンには積極的にと伝えると、アザミ達は満面の笑みで頷いた。


「かしこまりました、頭領。すぐに準備してきます」

「おう、頑張れよ」

「あ、アザミさん。私もお手伝いします」

「リンネも~!」


 着物や化粧と、女の支度は時間が掛かる。ツバキはそう言って、リンネを連れて、アザミ達についていった。

 そこに、話を横で聞いていたたまも、スッと立ち上がり、アザミ達についていく。


「たまちゃんは、ここで待ってても……」

「ううん! 私は、アザミおねえちゃん達の上司だから!」

「フフッ、ありがとう、たまちゃん。さ、気合入れていくわよ!」


 そう言って、アザミ達はコソッと部屋を出て行った。離れたところで牙の旅団の皆と居たジロウが不思議そうな顔で戻って来る。


「何かあったのか?」

「いや……まあ、楽しみにしていてくれ。おう、クサツ。黙ってろよ」

「俺には何が何だか……まあ、良い。さ、ジゲンさん……じゃなかった。ジロウさん、いっこんどうぞ」

「ん? ……ああ。少し疲れたからな……」


 若干、着物を乱し、整えていた髪形も乱れているジロウ。大変だったなと、クサツと共にジロウを労いながら、酒を呑んでいた。

 そこにコスケも加わって、何ともむさくるしい席となるも、四天女の舞が終わり、アザミ達の舞の時間稼ぎついでに、皆と話し込んでいた。


「お、四天女の舞も終わったか」

「ジロウ様、私自慢の、“娘”達の舞、きちんとご覧になっていましたか?」

「見たかったさ。シズ達の所為で、あまり見られなかったな……」

「またここに来ればいつでも見られるんじゃないか? ジロウさんなら、毎晩楽しんでも問題なしで四天女が相手するだろ?」

「いやいや、クサツ殿。俺はこういう場所が苦手なんだよ」

「それに、ジロウ様が来られると、舞にならないと思います。現に、今までも……」

「羨ましい……というか、難しい悩みだな……うちの宿にも妓女を導入する話が出ているが、どうしたものか……」

「あそこは今のままで良いだろ。敷居が高くなると、来る客も減るぞ。あの温泉があれば、それで良い……」

「ムソウ殿は本当に温泉好きだな。何も思い出でもあるのか?」

「……まあな」


 ジロウの言葉に、昔の事を少しだけ思い出した。旅をしていた俺達にとって、風呂と言うのは川か温泉だった。俺は、頭領と共に、一番血を浴びていた人間だったので、入るのなら後でとエイシンによく言われていたものだ。

 そして、温泉と言えば、サヤと初めて会った日……。

会ったばかりの男と風呂に入るなんて、どんな女かと思ったが、その経緯を聞き、少しだけ……本当に少しだけ、あの時はサヤに同情した。


 あの頃はまだ、サヤを幸せにしようとか考えもしなかったが、あの時から今までを考えると、我ながら、よくぞここまで変わったなと笑った。


「……シロウ達は羨ましいな。最初から好き合っているんだから……これが変わってしまったら……嫌だな……」

「ん? あ、ああ……そうだな」

「……え?」

「……あ?」


 む……声に出ていたか。少し恥ずかしいな。まあ、シロウとナズナには、悪い方には変わって欲しくない。それは確かだ。別に良いかと気にしなかった。


 さて、そんなことを話していると、シロウ達に挨拶を終えた四天女達がこちらに来る。こっちじゃなくて、カサネが待っている闘鬼神の方へ行けと言ったが、ジロウやコスケが居る、こっちの方が楽しそうだと聞かなかった。

 仕方ないなと思っていると、一人の妓女が三つ指を付きながら俺に恭しく頭を下げる。


「お初にお目にかかります、冒険者ムソウ様。この度、新たに四天女に加わりました、カレンと申します。お見知りおきを」

「ああ、話は聞いている。まあ、俺は良いから、ジロウの酌をしてやれよ」


 酒を注ごうとするカレンの背後、はるか遠くから、嫉妬と諦めに満ちた凄い顔のカサネが俺をジトっと見ている。正直、どうってことは無いのだが、そんな目で見られながら呑む酒も美味しくないので、ジロウにと促した。

 しかし、ジロウはシュンカ達、他の四天女が取り合っている。


「ちょっと、シュウメイ、体を押し付けすぎ。ジロウ様はそういうの嫌うって言ってるでしょ~。私に任せなさい」

「シュンカこそ、ちゃっかり腕組んじゃって~。後で、シズネさんやナズナさんに怒られても知らないからね~」

「二人ともやり過ぎよ。さ、ジロウ様、うるさい二人は放っておいて、私といっこん……」


 そう言いながら、ジロウの手を取ろうとするトウリンからサッと手を引き、シュンカとシュウメイをどかしながら、ジロウはうんざりしたように声を上げる。


「辞めろ、お前ら。斬られたいのか?」


 凄むジロウだったが、三人には効かなかった。


「あら、ジロウ様はそのような事を絶対にしないと分かっております」

「しかもこの場所で、アヤメ様やナズナ様、たまちゃんが居るところでは絶対に……」

「……おい、コスケ。妓女の教育はきちんとしろよ」

「ええ。皆、立派な妓女になったものです」

「いや、そうじゃなくてだな……」

「なるほど……ジロウさんが妓楼に来るとこうなるのか……」

「クサツ殿。感心していないで助けてくれないか?」

「いや、妓女を独り占めする男を助ける義理は無いでしょう」


 クサツは、少し苛立ったようにジロウに背を向けてコスケと飲み始める。

 俺は、ジロウの気持ちが何となく分かっていたので、そのまま眺めていたが、助けを求められるような目でこちらを見て来たので、サッと視線を外した。


「……すまなかったな、カレン。いっぱい、貰うとしよう」

「あ、ありがとうございます」

「裏切りったな、ムソウ殿……」


 何か言っているジロウを無視し、カレンから酒を注いでもらった。

 すると、カレンはキョロキョロと辺りを見ながら、少し困ったような顔を見せた。


「あ、あの……ムソウ様」


 妓女として幼いからか、性分なのか分からないが、シュンカ達に比べると、覇気が無いと言うか、少し儚げな印象だ。

 まあ、今日が四天女としては初めてだから仕方ないかとも思いつつ、今後は大丈夫かと心配になる。

 しかし、こういう印象ほど、男に人気だから、わざとそういう印象になる奴もいると、昔、ナツメから聞いたことがある。

 そこまで気にすることなく、カレンの話を聞くことにした。


「どうかしたか?」

「えっと……アザミ姐さんはどちらに? 先ほどまで、こちらにいらしていたのを見ていたのですが……?」


 どうやらカレンは、アザミを探していたらしい。舞はどうだったかとか聞きたかったのだろうか。


「ああ、アザミなら今――」


 俺がアザミの居場所を言おうとした時、舞台から、一つの太鼓の音が聞こえてくる。


 当然、予定にはなかったことなので、一同、困惑した様子で、動きを止めて舞台を眺めた。

 一定の間隔で鳴り続く太鼓の音は、次第に感覚を狭めていき、最後にドンッと大きな音が響くと、しばらくして拍子木の音と共に、奥の襖が開かれ、楽器を持った数人のうちの女中と、リンネ、ツバキが舞台上に現れた。

 そして、最後にたまが現れ、拡声の魔道具に口を当てて、話し始める。


「えっと……みなさん! 宴もたけなわですが、ここで、闘鬼神から、シロウおにいちゃんと、ナズナおねえちゃんへのお祝いをひろ……ご披露します!」


 そう言って、たまは舞台袖へと引っ込む。当然、その場に居た全員はざわざわとどよめき立つ。

 無論、どうなっているのだと困惑しているのはジロウも同じだ。舞台と俺を交互に見ながら、シュンカ達と話をしている。

 しかし、シュンカ達も知らないことなので、ジロウやコスケと共に首を捻るばかりだった。


「あの……ムソウ様、これは……?」


 皆と同様に、少し慌てたような、困った顔をしているカレンに、俺は舞台を見るようにと促した。


「ああ、カレン。アザミなら、あそこに居る。しっかりと目に焼き付けておけ」

「え……?」


 カレンにそう言った瞬間、リンネの三味線とツバキの笛の音が聞こえてきた。

 それに合わせて、奥からアザミと先ほどのカエデたちが、綺麗な着物に羽衣を纏って舞台上に現れる。


「あっ……! ね、姐さん……!」


 アザミの姿を見た、カレンから驚く声が聞こえてくる。ジロウ達も、アヤメ達も、闘鬼神も、シロウやナズナまで、ぽかんとした顔で、アザミ達の舞を見つめ始めた。


 アザミ達の舞は手の動き、足の動き、所謂動作的なものでは四天女と同等だ。

 しかし、時折見せる表情や、四人の一体感、演奏等、その場の雰囲気と言うか、色気というものは、俺も感じることが出来るくらいだった。

 なるほど。見栄を張るだけのことはある。アザミ達の舞は、その場に居る者達全てを魅了していく。

 最初は呆然と眺めていた皆も、男女問わず、アザミ達に見蕩れるような顔つきになっていく。あれだけ、四天女に夢中だったカサネも何も言わずに、舞台だけを見つめていた。


「これほど……だったのか……」

「ええ……大したものでございます。流石、ジロウ様と共に過ごされている方々です」

「いや……俺は何もやっていない……」


 ジロウも認めるほどの出来だ。そして、ジロウの言うように、俺達は何もやっていない。これが、アザミ達の「妓女としての実力」だという事を確認し、何となくだが、誇らしい気持ちとなる。


「すげえ……な……」

「シロウ……気持ちは分かるけど、私の横でそんな顔しないで……」

「いや……って、ナズナも同じ顔になってるぞ……」


 当のシロウ達は、仲が良いのか悪いのか分からない感じで、舞を眺めている。こちらから見る分には、二人とも似たもの夫婦だなと笑いそうになった。


「凄い……わね……」

「ええ。カレンから話は聞いていたけど……」

「私達もまだまだってことね……カレン、貴女の姐さんは、改めて、凄い人って認めるわ」

「……はい」


 おお……四天女も認めているぞ。カレンは少しだけ、目を潤ませながら、アザミ達の舞を目に焼き付けていた。こちらも、俺と同じく、嬉しそうに、どこか誇らしげに。

 一瞬、アザミとカレンの目が合った気がする。するとアザミは舞台上から、カレンに向けてフッと微笑んだ。その瞬間、アザミが発する色気も、少し高まった気がして、何だか、こちらまで恥ずかしくなるような、顔が赤くなるような感覚が襲ってくる。

 気配を感じ取る俺だけのものかと思えば、近くに居たジロウとコスケ、クサツも、どこかよそよそしい態度になりながら、酒を呑んでいた。

 同じことを、色々な席に向けて放つアザミ達によって、会場の男共の酒が進む。特にダイアンの反応は面白い。手に持っていた酒を落とし、固まっていた。

 そして、それを拭くのも忘れて、ぼーっと舞を眺めているリア達もなかなか面白い反応だと感じた。

 俺としては、リンネとツバキの演奏だけ聞くことが出来たら良いと思っていたが、予想外の、皆の反応を楽しみながら、最後まで舞を見ていた。


 やがて、舞が終わると同時に、会場中から割れんばかりの拍手喝さいが巻き起こる……と、思いきや、全員、ぼーっとしたままで、微動だにせず、未だ、困惑と驚きの顔を崩すことなくその場に居た。

 踊り終えたアザミは、その光景を一瞥し、拡声の魔道具を手に取った。


「シロウ様、ナズナ様、ご結婚おめでとうございます。お二人の永遠の愛を、私達闘鬼神一同、願っております」


 そう締め括って、アザミ達は退室する。舞の成功にツバキとリンネとたまが手を叩き合って喜んでいるのが見えた。

 しばらくすると、皆の緊張も解けて、ざわざわとし始める中、アザミ達は、宴会場へ戻ってきた。俺は、やり遂げた顔で、戻ってきたアザミ達を労った。


「よお、お疲れさん。皆、良かったぞ。ツバキとリンネも良い演奏だった」

「ありがとうございます。これも、大師範のおかげですね」

「おししょーさま、ありがと~!」

「おじちゃん、おじいちゃん、私、緊張しちゃった~!」


 ツバキ達は、やり遂げた報告を俺やジロウ達に行った後、シロウ達へあいさつに向かう。

 アザミも、と思ったがその前に、アザミは、シュンカ達を眺めながら胸を張った。


「高天ヶ原の四天女名乗るなら、これくらいはしなさい。良いわね?」

「「「はいっ!」」」


 アザミの言葉に、シュンカ達は素直に頷く。それに満足したアザミは、緊張した面持ちのカレンに視線を移し、優しく微笑みながら、頬を撫でた。


「カレンも……もう、子供じゃないんだから、自信もって、せめて、私くらいにはなりなさいよ。ナズナ様の後を継いだのだから、それくらいはやってみせなさい」

「あ……アザミ姐さん……でも……」

「でもじゃないの。やるの。と言うか、カレンなら出来るの。私はそう思ってる。良いわね?」

「……うん」


 強引なアザミの言葉に、渋々と言った感じで頷くカレン。その激励の仕方はどうなのかと首を傾げていると、アザミはため息をつきながら、やれやれと言った感じに、首を振った。


「はあ……四天女になっても、しょうがない子だね」

「ご、ごめん……」

「じゃあ、アナタも一人でも良いから本気で男を好きになりなさい。そして、惚れさせてみせなさい。そうしたら、何か掴めるから」


 その言葉に、カレンは困惑した顔を向けた。


「え……それは、どういう……?」

「あのね、妓女というのは、男を虜にする生き物なの。虜にする……つまり、惚れさせるのが仕事なの。なら、惚れさせ方が分からないといけないでしょ? だから、アナタも男に惚れて、相手を惚れさせればそれが分かる。良いわね? 私やナズナ様みたいに、アナタも一人でも良いから本気で好きになる男を見つけなさい」

「そ、そんな、いきなり言われても……って、あれ? アザミ姐さんは、そういう相手、い、いるの?」


カレンの問いに、アザミは強く頷きながら、闘鬼神の席……床が濡れていることにようやく気付いたリアに注意されながら、慌ててこぼした酒を拭いているダイアンを見つめる。


「ええ、居るわ。我ながら、良い男を射止めたわ」

「そう……なんだ……」

「ちなみに……カレンはどうなの?」

「わ、私は……」


 少し、悪戯っぽい顔で聞いて来るアザミに、少し戸惑いながらも、カレンも闘鬼神の席……アザミとのやり取りが気になって仕方が無さそうなカサネの方に視線を一瞬だけ向けた。


「……いる」

「そう。なら、すぐに私達みたいになれるわ。頑張ってね!」


 満足した顔で、アザミはカレンの頭を撫でて、シロウ達の元へと向かい、その後、ダイアン達の席へと戻って行った。

 どうだった? と尋ねるアザミに、ダイアンはしどろもどろとなり、皆から笑われている。

 そして、カレンとの関係を話したらしく、驚きの声が上がると共に、何故かカサネが真っ白になって固まっていた。

 しかし、すぐに興奮した様子で、カレンの昔の事をアザミから聞き出そうとし、ルイ達から気持ち悪いと罵られている、という、いつもの光景が目に入ってきた。

 皆がどういう存在でも、うちはこれで良いかと思った。


 そして、そんな皆の様子を、ジッと見つめながら、カレンは小さく笑みを浮かべた。


「私も……頑張らないと……見ていてください。姐さん……カサネ様……」


 小さな声だったが、先ほど、アザミからの問いに対してのカレンの反応から、恐らく、と感じていた俺は、同じことを思ったのだろうジロウと、顔を見合わせる。


「案外……上手くいくのか?」

「さあな……どちらにせよ、俺達は何もしない」

「ああ、分かってる……が、進展しそうにない時は……」

「うむ。任せてくれ……」


 シロウとナズナの時と同じく、今後も、楽しみが出来たと、悪い顔で笑い合う、俺とジロウ。

 悪い顔してる~! とリンネとたまに突っ込まれるまで、俺達は酒を酌み交わし、飯を食べながら、どうやったら、上手い具合に、綺麗にカサネとカレンをくっつけられるか話し合っていた……。


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