第38話 晩飯前ミサキ編―ウィズの過去を知る―
ミサキ編……というより、ウィズ編か……。
「よいしょ、と」
私はほうちゃ……じゃなかった。エンテイと一緒に、家の中を少し片づけながら、人数分の布団を用意している。こういう時のために用意している私ってすごくない!? 偉くない!?
ただ、皆が入れる分のお水はないけど、お風呂大丈夫かな。最悪の場合には契約獣たちには帰ってもらおっかな。
「ふあ~あ、ミサキちゃ~ん、もう少し休ませて~」
ふと、レイカちゃんの声が聞こえる。玄関の方へ行くと、レイカちゃんが立っていた。病み上がりだもんね、小さいし。
「わかった~、エンテイあとよろ~」
レイカちゃんはエンテイに任せて、私は寝床の用意を進める。ていうか、新しい名前まだ慣れないなあ。私も早く慣れないと、皆にまた馬鹿にされるからなあ……。
……皆と会ったときは、本当に小さくて可愛くて、私が名前を呼ぶと、わーいって感じで飛びついてきたのにな~。ま、いっか。もう気にするまい!私も大人になったのだ!!!
◇◇◇
「……これで、よし、と」
とりあえず寝床の用意はできた。ちゃんと女部屋と男部屋に分けたからね~。もちろんウィズ君と私は一緒に……な事はしないよ~。私は健全なJKだったからねッ!……クッ。
さて、次はどうしようかな~。あ、外に出て、ウィズ君のお手伝いをしよっと。別にイチャイチャしたいわけじゃないんだからねッ! 手伝いたいだけなんだからねッ!
そう思って、外に出ると、サンロウシとウィズ君とリンネちゃんが遊んでいた。
「キュウッ、キュウッ、キュウッ」
サンロウシの出している光の輪をリンネちゃんが飛んだりかがんだりしてよけながら、サンロウシの方に近づいてタッチする、そんな遊びだった。
「ハッハッハ、上手じゃの~、お主は」
「キュウ~!」
サンロウシが褒めると、リンネちゃんはその場ではねて喜んでいる。可愛いなあ~。皆もあんな時あったもんな~。あ、そうだ!ムソウさんに頼んで、リンネちゃんを……って駄目か。ムソウさん、魔物に頼まれちゃってたからね。それに、ムソウさんにもああいう子がついていた方が良いよね……。
「む? ミサキ殿どうかされたか?」
サンロウシが私に気付いて声をかける。
「……あ、いや、何でもないよ~。中の準備が終わったから、ウィズ君の手伝いをしようと思って……」
「あ、それは助かります。よろしくお願いします」
ウィズ君は私をみて、ニッコリ笑った。
はあ~、癒されるなあ~。
私はウィズ君と一緒に、椅子や机を一緒に出していった。こんなに大人数だと机も大きいのにしなくちゃいけないからね。さすがに一人では運びきれないね。重いものを持つときは一緒に持ったりもした。
途中、ウィズ君の手に触れることもあったけど、ど、動揺せずに、で、で、出来たよ、うん。
しばらく準備を進めていると、ウィズ君が私をじっと見てることに気付く。なんだろう。ひょっとして私のこと……!
「あの、ミサキ様」
突然、ウィズ君が私を呼んだ。
「ひゃい! なんですかっ!?」
思わず声が裏返ってしまう。
まさか、まさか、まさか!
「……俺に魔法を教えてくれませんか?」
……
……
……
私はがくんとうなだれた。そっちか~。期待してた言葉と違うって結構、ダメージ大きいんだ……。
「だ、ダメですよね、やっぱり……」
私の様子を見て、ウィズ君はガクッとうなだれた。
「いやいやいや、そんなことない! そんなことないよ! ウィズ君! で、なんの魔法にする? 龍言語魔法とかいっちゃう!?」
私が言うと、ウィズ君は慌てて、そんなのできませんよ! と言った。……私も気が動転してて、変なこと言っちゃったな……。
「……でも、なんで? ウィズ君なら私が教えなくても大抵の魔法を覚えられそうなものだけど」
「……ミサキ様はご存じですよね? 俺の魔力のこと」
そうだ。ウィズ君の中にある魔力は私のもつ魔力を遥かに超えていた。魔力譲渡も結局、失敗に終わったし、高純度の魔力回復薬でも駄目だった。
ウィズ君は確かに異常。持って生まれたとしたら、それこそ私達みたいな迷い人級の力を持った人間ということになる。でも……
「ひょっとして、ウィズ君、その魔力……」
「ええ。これは後天的なもので、俺はそれをうまく扱えていません」
私の問いにウィズ君はそう答えた。
そう、魔力というのはこの世界に生まれた誰もが持っている力。それを行使するのに時間が要るだけで、魔法というのは基本的に誰もが使えるもの。
そして、禁術と言われる儀式の一つに、人間へ、魔物がもつ強大な魔力を付与するというものがある。手にすれば、難しくて強力な魔法を使えるようになる半面、失敗すれば、魔力が人体からあふれ出し、死んでしまうこともあるというもの。
噂で聞いたことあるけど、まさか本当にやっている人が居るなんて……。
「ねえ、何があったの?」
私が聞くと、ウィズ君は自分のことを話しだした。
ウィズ君はある家の末っ子として生まれてきたらしい。その家は代々、優秀な魔法戦士を輩出している家系らしく、兄弟や両親は生まれながらに魔法を行使する天才たちだったという。
しかし、ウィズ君だけは違った。魔法を使うことに関しては、まったくダメダメだったみたい。家の人間たちはそんなウィズ君をみて、なんとかしようと思ったらしい。
そこで目についたのが、様々な魔物が強大な魔法を使って、合成されたキメラという魔物、その素材を使ったものを与えれば、ウィズ君にも魔法が使えるようになるのでは……と。
そこまで聞いて、私はハッとした。
「ちょ、ちょっと、まさかそれって……」
「はい。俺が初めてミサキ様を見たのは、うちの依頼をこなしてキメラを討伐した時です」
思っていたことが確信に変わる。確かに20年ほど前に、キメラの討伐依頼を受けたことがある。ただ、素材は依頼主の元へという条件で、というものだったからよく覚えている。ウィズ君は自らの手袋を私にみせて、これは、その時のものなんですよ、と言っている。
ああ! その時から運命は始まっていたんだね!
……と、取り乱してしまった。
「それで、その話がウィズ君の魔力と何が関係するの?」
「キメラの死骸を解体しているときでした。俺の家族に悪魔が訪れたのです……」
ウィズ君は少し暗い顔をして話し出す。
私達がキメラの死骸をウィズ君の家に運んだ夜、黒いローブを纏った集団が、家に泊まらせてくれと頼んできたらしい。人が良いウィズ君の両親はその者たちを家に上がらせた。そして、キメラの死骸に気付いたその人たちは両親に言った。
「キメラの魔力は高いですからなあ。その魔力を人の身に与えれば、最高の魔法使いも夢ではないですな」
……と。
そして、ウィズ君の両親はウィズ君の肉体にキメラの魔力を移す儀式を始める。これで、息子が魔法を使えるようになる、と。両親は大いに喜んだ。
その後、ウィズ君への儀式は成功したみたい。だが、家中が喜びに満ち溢れる中、ウィズ君だけは違った。目の前のキメラの死骸を目にするや、上級魔法を使って、家じゅうを攻撃し始めた。
すぐさま、家はがれきの山となり、そこには両親を亡くし、家をもなくした、小さいウィズ君だけが立っていた。
「おそらく、ですが。俺の持つもともとの魔力とキメラの魔力が融合した際にキメラの残留思念のようなものが溢れ、暴走したんだと思います。そして、その思念は大きな魔力となって俺の身に宿り続けていると考えています」
ウィズ君は最後に自分の胸に手を当て、そう言った。
私はなんて言おうかと思うがすぐには言葉が見つからなかった。あの後にそんなことがあったなんて知りもしなかった。私がこなした依頼きっかけで、ウィズ君が苦しんでいたなんて……。
「……そして、そのローブの者達は、行方をくらましました。
……俺は、この魔力を使うのが怖いんです。また、大切な人を傷つけそうで。でも、今回の一件でそれもだめだなと知りました。この魔力を使いこなせないと、先へは進めない。
ミサキ様、お願いです。僕の魔法の師となっていただけませんか?」
ウィズ君は必死の形相で私に頼んできた。
「……私は弟子をとったことないよ? 魔力の操作方法を教えるってことなら付き合えるかも、だけど……」
「はい! お願いします」
さっきまでの私ならすごく喜んでいたかもしれない。でも、今は違う。それ以上にウィズ君を何とかしたい! 助けたい! と思った。
「わかった! これからよろしくね! ウィズ君!」
私がそう言うと、ウィズ君は笑って、私に礼をした。
サンロウシが私の方を見て、ニッコリと笑っていた。これで、良いんだよね? もんくはないよね? という気持ちを視線で訴えると、コクっと頷いた。
こうして、私に一番弟子が出来た。
十二星天だからね。サネマサさんたち、他の十二星天の皆にも弟子が居ることだし、私に居たっていいもんね。それに、何のアフターケアもしてなかった私にも責任はあると思うし。ウィズ君を一人前にしようと、決めた。
しばらくすると、元気になったレイカちゃんがエンテイに連れられて家から出てくる。サンロウシとリンネちゃんの遊びを見た途端、わーい!と言ってその中に加わった。やっぱり中身は子供みたいだね。そう言えばエルフだけど何歳なのかな? 後で聞いておこっと……。
そして、私は弟子が出来たことを、エンテイにも伝えた。エンテイは最初、
「ミサキ様が弟子をとるなど反対です!」
なんて言ってたけど、周囲を見て、ウィズ君を見るや、
「……わかりました。ウィズさん、これからミサキ様をよろしくお願いします」
と、ウィズ君に頭を下げた。
違うよエンテイ。私がウィズ君のお世話するんだよ。私がウィズ君によろしくするんだよ?
なんか、微妙な気持ちになったけどま、いっか。
その後、ハクビさんたちが帰ってきて、料理をする。
そして、ムソウさんたちを迎えに行った。リンネちゃんは私の肩に乗っている。時々ぼーっとすると、リンネちゃんは私の頬っぺたを舐めてくる。
「……きゃっ……もう~、くすぐったいよ~」
「キュッ!キュッ!」
「それ、今度ムソウさんにもしてみたら?」
「キュアッ!」
私の言葉にうなずくリンネちゃん。本当にかわいいなあ。あと友達ができたみたいで嬉しい。
そんなことを思いながら私たちはムソウさんたちを迎えて、ウィズ君たちが居る所へと歩いていった……。




