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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第388話―ジーンと話し合う―

 ジーンが来てから数日が経った。ジーンとレオの調査の方は、本人たちによれば、予定通りに進んでいる。俺が崩した地形を記録したり、俺が壊した生態系を調べ直したり、俺が(主に天界の波動で)変えたその地の環境のあれこれについて計測したりと忙しそうだが、ジーンからは、変化があって楽しいものだと喜んでいた。


 麒麟の二人については、レオの監視があるとはいえ、家に帰ったら相変わらずの調子である。長である俺よりも偉そうな態度に、初日は全員唖然としていたが、流石と言うべきか、女中達はすぐに慣れ、ロロなど、可愛いもの好きな冒険者達も混じり、飯の時などは、皆にもみくちゃにされていた。

 キキとリンも嫌そうにし、暴れようとしていたようだが、それも叶わず、最終的に、リンネとたまも混じって、二人を弄り倒していた。

 結果、二人は、この家の女達に少々怯えるようになり、何かにつけて、俺やジゲン、ジーンやカドルを盾にして、女達からの接近に備えるようになってしまった。

 アザミ達に、ほどほどに、と命じたが、受け入れるつもりはないようである。


 ちなみに、何があったのかは分からないが、ツバキに対しては、何か苦手な意識を持っているらしく、どんなことがあっても、一定の距離を置いている。

 リンネを介して、二人に確認した所、ツバキの持つ、斬鬼から得体の知れない圧迫感が伝わって来るとのことだった。

 恐らく、キキとリン以上に偉そうで、厚顔無恥なエンヤが、上下関係と言うものを分からせているのだと、俺とツバキは納得した。

 あまりやり過ぎて、ツバキが嫌われるのも駄目だと思うので、そろそろ辞めさせたい。


 リンネとたまについては、相変わらず、仲は良いようだ。少なくとも、我儘などを言う事は減っている。寧ろ、仲良さそうに飯を分け合って食べている光景を何度か目にする。


「あ、リンネ! また、汚してるぞ! お、おにいちゃんが、拭いてやるから、大人しくしろ!」

「ありがと~!」

「食べながら喋ってはいけませんわ。お行儀よくなさいまし」

「あ、リン君も、ご飯粒ついているよ~」

「ぼ、僕はいいんだ! ほ、ほら、おかわりだ! たま!」


 などといった、何とも癒される光景を朝から目にするのは良いことだとジゲンと話していた。


 一方、俺とジゲンに対しては、歳の所為か何なのか分からないが、屋敷の中では、小間使いか何かかと思われているようで、時々、何か命令されていたりもする。


 部屋で海賊団の資料を眺めている時に、凄い勢いで襖を開きながら、その日は休みだったキキとリンに突撃された事があった。


「おい! おまえ!」

「あ? 俺か? 何か用か?」

「おまえ! この家の家来の癖に、何で、誰よりもぐーたらしてんだ!?」

「貴方も働きなさい!」

「……は?」


 言っている意味が分からないと、ギャーギャー喚く二人の話から統合するに、この屋敷で一番偉いのはツバキで、次いでたまとリンネと、二人は思っているらしい。

 ちなみに冒険者達や女中は、それぞれたまとリンネの家来で、コモンと牙の旅団、それにカドルは、自分達と同じ客人と言う認識だそうだ。

 冒険者達は仕事に出ていて、女中達は家の仕事をしている中、一番、下っ端の俺とジゲンが何もしていないというのはおかしいという事で、こうして説教に来たというわけだ。

 ちなみに、何故かジゲンは見当たらなかったので二人して、俺の所に来たらしい。

 ……スキルか何かで隠れやがったな? まったく。


 話を聞いた俺は、一瞬、頭が真っ白になったが、何とも子供らしい考え方だと吹き出してしまった。


「ぶっ! ハッハッハ! なるほど、そうか! 俺は下っ端だから働かねえといけねえか!」

「な、何がおかしいんだ! 皆、苦労しているんだから、お前も苦労しろ!」

「というより、皆が苦労しないために、アナタが苦労するものですわ!」

「お、お前ら、時々、凄くまともな事を言うんだな~! 偉い、偉い」


 そう言いながら、二人の頭をポンポンと撫でる。

 すると、二人はかあっと顔を真っ赤にさせた。照れたと思ったが、その逆で、激怒したようだ。


「な、な、な、何するんだ!」

「あー、すまない。頭を撫でられるのは嫌だったか。すまん、すまん」

「そういうことを言っているのではないのです! もう良いですわ! 貴方にやってもらいたいことがあります! ついてくるのですわ!」


 そう言いながら、二人は俺の袖を引っ張って来る。元が天災級の神獣だからか、結構力が強い。

 ハイハイ、と頷きながら俺は庭に立たされた。何をさせられるのかと思っていると、二人はその場で瞑想し、本来の獣の姿となった。


「お……」


 子供の姿の時とは違い、その姿は、大きな獣の姿になったリンネと同じくらいの大きさで、聞いていたように、すらっとした胴体に、龍の鱗のようなものを備え、額から鋭く尖った角を生やした、何とも神々しい様相だった。

 キキは、青みがかった白色を基調とした色合いだが、リンの方は黄みがかった黒色をしている。性別によって色が違うのだろうかと思っていると、二人はその場で横になる。


「良いか、こわ面! 今日は僕達も休みだ! だから、僕達の疲れを癒すためにマッサージしろ!」

「マッサージって何だ?」

「私達の体を揉んで、疲れを落としなさいと言ってるのですわ!」


 要は、按摩しろとのことらしい。何をやらされるのかと思ったが、別に普通だったな。まあ、暇つぶしには丁度いいかと思い、俺は頷いて、二人の体を揉んだり、叩いたりしていく。


「どうだ~? 気持ち良いか~?」

「ま、まだまだだな! 後ろ足の付け根が痛い!」

「そうか。じゃあ、ここは強めに……!」

「痛たたたた! 痛いじゃないか! もっと丁寧に!」


 その後も、怒鳴られながら二人を揉んでいく。口では悪態をつかれているが、俺から何も言わない時は、何とも穏やかな顔をしていることに気付く。

 上手くやってんだなと、自分の按摩技術に自信がついてきた。

 ふと、目をやると、今日も縁側にカドルが居る。カドルは、まるで信じられないものを見るような目で、こちらを見ていた。

 目が合うと、ギクッとした様子で、こちらに近づいて来る。


「おお……ムソウ殿……一体何をしておるのだ?」

「見て分からねえか? 按摩だよ」

「ま、まさか、この二人にやれと? 主ら、ムソウ殿の手を煩わせるでない。この者は、忙しい立場にあるのだぞ」


 そう言って、カドルは二人を窘めるが、キキもリンも、意に介してない様子だった。


「良いんだ。皆、忙しくしてるのに、このこわ面も、目が変な爺いも、暇そうにしているのが悪いんだ」

「雷帝龍様も、この者に疲れを落としてもらってはどうかしら?」

「いや……主ら、この者が、どういう人間かまだ分かっておらぬのか? この者は――」


 そう言いかけた途端、俺はカドルの言葉を遮るように口を開く。このままの方が、俺にとっては面白い状況だからな。


「あー、カドル。それはそうと、コイツ等は神獣なんだよな?」

「む? うむ。そうだが?」

「なら、天界の波動を当てた方が、疲れとかも取れやすいのか?」

「かもしれぬな。実際、ここの水の事を気に入っているようだからな」

「そうか。よし……」


 俺は手を止めて、スキルを発動させる。俺が手を止めたので、すぐさまリンが、ムスッとしながら、俺に目をやった。


「おい! 何、手を止めて……え?」

「……は?」


 二人が呆然とする前で、俺は神人化し、そこから、天界の波動を纏わせて按摩を始めた。


「これで……どうだ?」


 調子を確認したが、二人は何も言わず、ただただ目を丸くして、俺の姿を凝視している。


「な、な、な、何だ、その姿は!?」

「嫌だったか? なら、辞めるが……」

「辞めなくて良い! というか、何だと聞いているんだ!」

「何でも良いじゃねえか。何も気にせず、ゆっくりしてろ」

「そんな、怪しげなものに――」


 リンに続いて、文句を言いそうになるキキに、光霊波を浴びせる。


「あ……」

「気持ち良いだろ? お前も大人しくしてな」


 その後は、何一つ文句も言わず、二人は俺の按摩を黙って受け続けた。どうしようかと困った顔のカドルに、にやりと笑ってやると、しばらく黙った後、フッと笑って、流石だなと言われた。

 そして、ひとしきり二人の疲れを癒した後は、すぐに解放され、その日から二人からの俺に対する態度が若干軟化し、飯を食う時などに、二人が俺の隣に来るようになった。

 カドル以外の者達、特にジゲンからは何やったんだと、目を白黒とさせているのが面白かった。


 さて、ジーンが家に居る間に、俺はコクロの事についての話も進めていた。主に、資料に載っていないことなどを確認していく。


「諸島は全て調べ尽くしたのか?」

「うむ。無論、儂も参加したが、結局何も出なかった」

「アンタのスキルを使ってもか?」

「ああ。儂のスキルは、何かが起きれば視えるのだが、何も起きなければ何も視えないからな」


 どういうことだと、首を傾げる俺に、ジーンは、EXスキルについて説明を始めた。

 ジーンはこの力で未来の事が少しだけ見えるとは言うもの、視えた内容が、「何時」発生するのか分からなかったり、場所は分かるのだが、そう広範囲で見ることは出来ないという。

 例えば、トウショウの里に隕石が落ちることを予言するとする。この時、重要なのは、街のどこに隕石が落ちるかを特定しなければならないが、ジーンのスキルでは、街全体という、広範囲に及ぶ予知は出来ないという。

 この家に落ちるかどうかについては、予知できるそうだが、家に落ちるわけでは無いのだったら、何も視えず、その時になって、街のどこかに隕石が落ち、対応できないという結果になるらしい。

 壊蛇の時などは、どこもかしこも同じような被害だったため、どこが特に酷い結果になるのかが分からず、苦悩したという。

 まあ、この件については、サネマサ達から聞いていたので、俺から言うことは何も無いが、兎にも角にも、諸島のどれかの島の、どの部分に、海賊団の拠点があるのかを予知するという事は、かなり難しく、何度も何度もスキルを使う羽目になるという。


「ちなみに……極めたら範囲も広がるとか、お前の一族には伝わってねえのか?」

「ああ。スキルを極めて起こることは、範囲ではなく、見ることが出来る未来が長くなり、それが何時なのか、具体的に分かるというものだった」


 なるほど……。どこで起こるかは分からないが、その未来が何時起こるかという事が分かるというのはかなりな能力だな。


 ちなみに、この力について、ジーンの前任者であるレシアという男にも話を聞こうと、ジーンと共に、ツバキ、それに、レオパルドも伴って刀精の祠に向かった。


 そこで、ジーンの前任者であるレシアと言う男と対面することになったのだが、その前に、ツバキが持っていたコウカの人形に、コウカ本人が宿っているという事に、ジーンもレオパルドも驚愕。

 何がどうなっているのか、と、説明を求める二人に、色々と話した後、ジーンもレシアと言う男を喚びだした。


 現れたその男は、いきなり、コウカの前に跪き、頭を垂れていた。


「コウカ様……ご無事で、何よりです」

「あ……うん。え~と……驚かせちゃったかな?」

「この未来までは流石に視られませんでした。エンヤも、皆も……元気そうだな……」


 顔を上げて、エンヤ達を見つめるレシアの印象は、寡黙そうだな、ということ。パッと見は、普通のどこにでも居そうな初老の男だが、目が印象的だった。全てを見透かすような、真っ直ぐで、綺麗な青い目をしていた。

 跪いたままのレシアは、皆の顔を眺め、そして、俺の顔を見て、最後にエンヤの顔を見上げた。


「この者が、陛下の父でエンヤの息子とやらか。お前に比べると、落ち着いた雰囲気に見えるな」

「言ってろ。話では聞いているだろ? コイツもなかなか、危険な奴だ」


 エンヤの言葉に、心外だなと思っていると、レシアは笑い出す。


「ハッハッハ! 力を持つ者と言うのは、全て危険な人間さ。俺も、お前も、この男も。そして、俺の後継者もな。まあ、皆、その力の使い方は分かっているから、今回も俺は、何も言わない」

「その、全てを知っているという風な口調は相変わらずだな。スキルも、もうこの爺さんに渡したんだから、お前は隠居しろ」

「なら、お前もだな。まさか、その子の力を借りて、未だに闘っているとは思わなんだ。お前も相変わらずだな……」


 そう言うと、レシアはスッと立ち上がり、俺とジーンの前に立った。


「改めて、ザンキ殿……いや、今はムソウ殿か。俺が、ジーンのスキルの前任者、レシアだ。貴殿の事は、皆から聞いているし、ジーンと共に居ながら、王都で噂も聞いていた。会えて光栄だと言っておこう」

「それは……喜んで良いのだろうか。分からないが、まあ、よろしく頼む」

「ああ。そして、ジーン・シルヴァス。こうして会うのは初めましてだな。俺の力を有意義に使い、俺が成し得なかった世界地図の作成に成功した事は、俺の誇りだと思っている。今後も俺に、今のこの世界というものを見せ続けてくれ」


 レシアの言葉に、ジーンは目を見開き、コクっと頷いた。


「……はっ。レシア様の遺したもの、儂の代まで大切にしております。今後も、貴方と儂の夢を叶えるため、共に……」

「ああ。よろしく頼む」


 そのまま二人はがっちりと握手を交わす。良い光景だな……後ろでアキラが、天上の儀で謹慎を食らったレオパルドに説教をしてなければ。


「あのな、お前達が争ったら、周りにどれだけの影響が出るか、分かってたのか? 実際、ザンキに今後、ブランやロバートの後任が、襲撃してくるかも知れなくなったぞ」

「いや……だから、反省している。軽はずみだった……だが、あれは……」

「分かる。俺も、お前の気持ちは分かる。だが、あれで、お前が十二星天を辞めたら、トウガ達だって危なかったかも知れない。お前に応じたトウケンもトウケンだが、喚び出したお前が一番の原因だ。話し合う事だって出来ただろ?」

「まあ……そうだな……」

「もっと、考えろって! お前は頭良いんだからな、俺と違って!」

「お、おう……」


 などと、説教なのか激励なのか分からないやり取りをしている。やっぱりアキラは、俺の知り合いの中でも結構な常識人だなと思っていると、レシアやコウカがぼそっと、相変わらずだ、と言った。

 二人にとってもアキラはそう言う存在らしいと少し安心し、あっちはあっちで放っておこうと決めた。


 そして、こちらはこちらで、話を進めていく。まずは、ジーンのスキルについてだ。スキルを極めた際、どういったことが出来るのか、改めて確認してみた。


「俺達のEXスキル、先見の明を極めると、今よりも、もっと先の未来まで視られるというのは可能だ。と言っても、最大一年くらいだがな。そして、その間なら、視た未来が、何時のものなのか分かるようになる」

「ふむ……極めるには、どうすれば良いのですか?」

「他のスキルと同じく、何度も意識して使えば良い」


 ……俺は、一回使っただけで極められたスキルもあるが、ややこしくなるので黙っておこう。


「何度も……ですか……」


 少し、重い顔をして呟くジーンの肩に、レシアはポンと手を置いた。


「悲惨な未来が視えても変えることが出来ないのなら意味は無い。だから、この力はもう使わないというお前の決定は知っている。好きにしろ。

 だが、俺達が視る未来は、「何もしなかったら確実に起こる事象」に過ぎず、変えようと思えば変えられる。自分ではどうしようもなくとも、俺の時には、何度も変えてくれた者達が居たがな……」


 今まで、ジーンと共に行動し、その人生を見守ってきたレシアは、当然、ジーンの苦悩を知っている。というか、過去のレシアも、同じような悩みを抱えていたようだ。

 自分が視た、「確実に起こる事象」に対し、何も出来ずに無力感を抱き、自身の能力に嫌気が差した時もあったらしい。

 しかし、どんなに困難な状況が来ると分かっても、素直にそれを信じていた者に伝え、レシアだけでどうしようもなくとも、その者達と共に、何度も苦難を乗り越えることが出来たという。


 レシアは、ふと、エンヤ達に顔を向ける。フンッと鼻を鳴らしながら視線を外すエンヤを見ながら、照れているなあと感じた。反してハルマサはニッと笑っていた。


 まあ、コイツ等なら、どんな未来でも無理やり変えるだろうなと納得していると、ジーンは、しばらく考え込んだ後、レシアに頷いた。


「……分かりました。私も、もう少し周りを頼ってみることにします」


 その言葉に、満足したレシアは、フッと笑みを浮かべる。


「その意気だ……さて、この力で海賊団の拠点を探すという話だが、単純な話、そうなるように仕組んだ後、スキルを使って未来を視れば良いだけの話だ」


 さて、ここから、リオウ海賊団をあぶり出すために、ジーンの力を有意義に使うにはどうすれば良いか話し合っていく。

 しかし、レシアの言った意味がよく分からなかったので、聞き返してみた。


「それは、どういうことだ?」

「簡単に言えば、囮作戦だ。適当に船を何隻か海に出し、海賊団をおびき寄せるようにする。その中から襲われる未来が待つ船にムソウ殿やジーンが乗り込むことで、安全に海賊団と接触し……まあ、その後は、拠点をあぶり出すなり、その海賊団を捕らえるなりすれば、その後の調査も出来る、と言う算段だな」


 なるほど。確かにそれが確実な方法だ。更に言えば危険である。ジーンが悩んでいる、死地に仲間を送り込むことそのままだからな。

 やはり、悩んでいるようで、時間が掛かりそうだったから、早速、俺達の事を頼ってくれと言うと、ジーンは意を決したように頷いた。


「……分かった。ムソウ殿の強さは、信用しておるからな。信じてみるとしよう」


 と、いうわけで、一先ず、作戦の一つに囮作戦が加わることは決定した。諸島の調査が思うように進まなかった場合、この手段で海賊共をおびき寄せることとする。

 そして、島での調査については、ただひたすら、ジーンがスキルを使って、一つ一つの島を洗い出すことにした。

 無論、俺達も、自分の足と、直接目で、再度しっかりと確認することに落ち着く。


 最初は暗中模索気味になりそうだった、コクロ領の問題だが、何とかなりそうで安心した。


 さて、その日はそのまま夕方まで、レシアとエンヤ達、あるいは、レシアやアキラはコウカとの再会を喜び合ったり、それぞれの邂逅をそれぞれで楽しんでいた。

 レオパルドとジーンは、コウカに会ったことに感動したらしく、誰かに言いたくてたまらないと言った感じだったが、取りあえず広めたくないので、今のところは黙っておくようにと言っておいた。

 特にシンキには、シロウとナズナの祝言の時に驚かせたいので、特に言うなと伝えると、二人は、すぐさま頷いた。


「ジーンもそうだが、長年、俺達に秘密を隠していた奴に対して、何かを隠すってのは、面白いな。アイツの驚く顔をしっかりと楽しみにしておこう。ジーン、その未来は視るなよ」

「無論だ。しかし、ムソウ殿も面白いことを考える。聞けば、奥方殿も相当な悪戯好きとか……似たもの夫婦だったのだな」

「そういうわけじゃねえよ。あ、ちなみに、コウカも相当な悪戯好きだぞ」


 そう言いながら、コウカを指さすと、顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうにしていた。

 自覚は、あまり無いらしいが、ジーンとレオパルドは、納得と言った顔で、頷いていた。


「なるほど……陛下の血は、コウカ様やサヤ様譲りということか……」

「アイツも変な事を考える天才だからな……っと、失言だったか」


 ニヤニヤしながら、コウカの顔を見るレオパルドとジーン。

 依然、恥ずかしそうにしていたコウカだったが、ふと、何かに気付いたようにハッとし、二人の元に近づいていった。


「あ……そうだ。ねえ、レオさん、ジーンさん。それに……アキラさん、レシアさん。オウエンってどんな子なの?」


 コウカは、自分の子孫であり、今の人界王であるオウエンがどのような人間か気になっているようだ。

 ひとまず、この場に居る、オウエンを知る者に問うと、レオ達は、楽しそうにオウエンについて話し始めた。

 聞き耳を立てて、皆の話を聞いているが、オウエンが悪戯と言うか、人界王という立場から見ると、少しおかしなことをする時、大概の被害者は、やはりシンキらしい。

 まだ、十二星天がそれぞれの機関を設立する以前、主に城で活動していた際、公務をコソッと抜け出して、コモンの工房に赴いて、そこで作り出される武具を眺めていたり、セインやミサキが魔道具を作っている時は、側で見守っていたり、リーとサネマサが鍛錬している時は、自分も混ぜてくれと無茶を言って、無理やり混ざったりしていたという。

 その度、オウエンの行動に眉を顰める城の重鎮達や貴族を諫める為に、シンキは奔走していたらしいが、当人は辞める気が無く、十二星天が城の外で活動するようになってからは、オウエンも城の外に、度々出るようになっていた。

 その際は、シンキも色々と調整をして、共に行動するのだが、何度か、シンキにさえ黙って、一人で城を抜け出したこともあるという。

 ご丁寧に、スキルで影武者を作り上げ、本人は普通の民衆に入り込むような変装をして、ギルドや騎士団、更には、魔獣宴にまで足を運んでいたそうだ。

 じっくりとレオパルドが調べ上げた魔物達の資料に目を通す人間を見ていると、流石のレオもその者がオウエンと気付いたらしく、城に報告しようかとも思ったが、その前に、オウエンに黙っていてくれと、悪戯っ子のような顔で言われ、更に、意外と真面目に資料に目を通すオウエンを見て、何も言えなくなったという。

 結局、その後、オウエンともども、レオパルドもシンキに怒られ、その件についても、長年、レオパルドがシンキを嫌う要因の一つにもなったという。

 ジーンの所に訪れた際は、ただただジーンの前の世界の頃のものも含めた冒険譚を聞いていたという。その度に、我も行きたいと言っては、ジーンを困らせたとのことだ。


「ここ数年は落ち着いたようだが……それでも、月に一回は、城を抜け出しているようだな」

「ああ。我が自ら市井を調査する、これは公務だ、と言ってな。シンキは頭を抱えているが、結果的に、王都を最も知り尽くしているのは、オウエン様という事になったな」

「まあ……そんなことが……」


 レオパルド達の話に、コウカは驚いた様子だが、若干、嬉しそうに微笑んでいるのも分かった。

 コウカやカンナは、大戦が終わっても、城の中から出たことは無かったという。まあ、そもそも、当時は城自体が街になっていたという事なので、息詰まると言うことは無かったのだが、それでも、その先の世界というものを見ることが出来なかったのが、コウカの未練のようなものであり、今後もツバキと共に行動したい動機の一つである。

 オウエンがいともたやすく、自分達も見られなかった夢を叶えている事に、どこか誇らしい気持ちとなったのか、コウカは得意げな顔をした。


「それでこそ、私と、シンラの子孫……だね」

「……そういう……ものっすか?」

「そういうものよ、レオさん。でも……シンキを困らせるのは、私とサヤの特権だったのに……それは残念、かな」

「そっすか……」


 コウカの言葉に、レオパルドとジーンは若干、呆れたような顔をするが、アキラとレシアは笑っていた。


「ああいうところは似てるよな」

「うむ。何をしでかすか予測がつかない所は特にな。まあ、俺は予知していたが」

「……エンヤも言ってるが、その言い方はいい加減、辞めてくれ。何となく……腹立つ」

「よく言った、アキラ」


 レシアの、全てを見透かしていたような物言いが気にくわないという、自分の考えを、他の者も抱いていたという事を知ったエンヤは、アキラを褒めた。アキラはおう、と頷き、レシアは若干、落ち込んだ。

 そんなやり取りを見て、今度はちっこいツバキ達が話し始めていた。


「私は……好き……」

「ん? まあな。どこからどんな危険が来るのか分かっていたから、城の守護はやりやすかったもんな」

「あ、ハルマサ様とツバキ様は守衛の任に就かれていましたね」

「ああ。城を敵から護ったり、中の治安を維持したり、今のお前らみたいな任務だ。だから、レシアの能力には本当に世話になっていたぞ」

「でも……その所為で……レシアは……好きな事……出来なかった……だから……ツバキ……あの人に……貴女も力を……貸してあげて……私達から……レシアへ……恩返し……」


 お、ちっこいツバキは相当、レシアと言う男に恩を感じているようだ。そして、後任であるジーンに、自分の後任であるツバキに力を貸せと言っている。

 ツバキは快く、ちっこいツバキに頷いた。そして、出来る事なら、自分達もオウエンという男を見てみたいとハルマサとも一緒に、ツバキに頼み込む。

 少し困った様子のツバキだったが、最終的に、二人に圧されて、


「考えておきます……」


 と、言ってしまった。その言葉に、表情を明るくさせるコウカ。ツバキの両肩に手を置き、ニコッと微笑んだ。


「私も期待しているからね、護衛さん」

「は……はい……む、ムソウ様……」


 流石に助けを求めてきたツバキに頷き、コウカの頭にポンと手を置いた。


「分かってる……コウカ。あまり、ツバキを困らせるな。それに、会うならシンキが先だからな」

「フフッ、分かってる。もうそろそろ会えるんだよね。楽しみだな……」


 シロウとナズナの祝言の日には、牙の旅団が刀精になるのを見届けるついでに、二人を祝う為、この世界の夫婦円満の象徴である、コウカ本人もお披露目する事は既に決まっている。

 まあ、アヤメ達には言っていないし、無論、戒厳令は敷くがな。その際に、シンキとも快く再会してもらう予定だ。

 コウカの姿を見たシンキがどういう反応を示すか楽しみにしている俺達も、その時が来るのを楽しみに待っている。


 その後も、コウカとジーン達と一緒に話は盛り上がり、気付けば夕方となっていた。

 結局、何を話しに来たのか、少し見失いそうだったが、ジーンはスキルの事、俺は海賊団の事をしっかりと頭に叩きこみ、コクロに向けて対策を練っていく算段が付いたので良しとし、俺達は、休みなのに遊んでくれなかっただの、俺達だけで面白いことをして居ただのとぐずるリンネ、リン、キキの待つ家へと帰っていった。


 ……余談だが、その日、神獣三人の面倒を一手に見ることになったジゲンが、三人をダイアン達と牙の旅団の修行の見学に案内した。

 最初は退屈そうにしていたのだが、途中からジゲンが入り、俺にやっていたように、ダイアン達がジゲン一人と闘う形式の鍛錬に入った際、屋敷では見たこともないような動きと強さに、麒麟の二人は目を見開き、驚愕した。

 そして、その日から、俺と同じくジゲンへの態度も軟化したが、俺と違って、どこか恐れるようになり、キキは「お爺様」と呼び、たまと一緒に、後を付いていくようになった。

 一体、どれほどの事をやったのだろうかと首を傾げるも、その日の鍛錬の後、妙に体中を焦がしていたダイアン達と、特に髪を黒焦げにされてむくれていたルイを見ながら、何となく察し、やれやれと思った。


 さて、そろそろ祝言の当日だ。それまで、色々と進めたり、牙の旅団の奴らと最後までいい思い出を作っておくとしよう……。


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