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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第387話―“冒険王”と再会する―

 翌朝、飯を食べた後は、ジゲン、たま、ツバキ、リンネ、そして、サンチョと共に、畑仕事をしながら、ジーンが来るのを待っていた。

 もうじき、収穫を迎えそうな野菜や、薬草、既に蕾が開いている花の世話などをやっていく。


「この花が、薬になるのか?」

「乾燥させて、粉末にすればな。で、そっちは虫よけの香の原材料だ。そのまま焚けば、魔物も嫌がる。薄めて焚けば、この家の虫よけにも使えるぞ」

「ああ……もう夏だもんな」


 朝だというのに、今日は日が照っていて、草むしりをしていると、じっとりと汗をかいている。

 昨日貰った、リンネの髪飾りにはそう言うものを軽減させてくれる効果がついているが、俺は付けず、たまに渡しておいた。子供の方が、体が小さい分、体温が上がりやすいらしい。

 暑そうにしていたたまも、髪飾りを付けると、だいぶマシになったようで、せっせと作業を続けている。

 ツバキとリンネは、俺達が収穫した薬草を天日に当てて乾かしている。

 リンネは、暑いのは平気そうだが、ツバキは麦藁帽と割烹着を着て、難を逃れている。

 そのままでやろうとしたところ、アザミ達に、綺麗な肌が傷つくと、半ば無理やり、着せられてしまったそうだ。

 少し落ち着かない様子だったがすぐに慣れ、虫よけの香の材料という、「殺虫菊」を並べていた。


「一応、毒みたいです。リンネちゃん、気を付けてくださいね」

「は~い!」

「間違っても食べては駄目ですよ」

「うん! このおはな、へんなにおいがする~。リンネ、たべない!」


 そんなものを焚いて大丈夫なのだろうかとジゲンに聞くと、人間には害はないと即答された。そう言うものかと納得してると、サンチョが待ったをかける。


「戦闘用に使うものは家で焚くものに比べて、何百倍も強力だ。間違っても仲間が居るところで使うなよ。で、殺虫弾を使ったところに飛び込むなよ。それで動けなくなった奴らを、俺は何人か知っている」


 そう言いながら、ジゲンをジトっと睨むサンチョ。何のことだかと、ジゲンは首を傾げるが、多分、樹海あたりでそう言うことになったんだろうな……ジゲンが。

 気を付けることにしようとサンチョの言葉に従い、作業を進めた。


 ちなみに、今日は冒険者達はほとんど出ている。一日休みがあったため、意気揚々と依頼に駆り出していった。何人かは、ジーゴやバッカス達と共に取り組むらしく、何日か帰って来ないという。

 家に残っているのは、ジーンの護衛を買って出た、リア、ダイアン、ルイ、マルス他数名の冒険者達だ。

 ジーンが来るまで、それぞれの役割について打ち合わせをしている。

 カドルは家に残って、今日も縁側でくつろいでいる。牙の旅団のうち、シズネ、エンミ、ソウマ、ロウは家でアザミ達の手伝いをしており、ミドラ、タツミ、コウシ、チョウエンは、それぞれアヤメ、ショウブ、ナズナ、シロウの手伝いをしてくると、今朝がた家を出て行った。

 各々、刀精となって、皆の前から姿を消す時も近い。最後に思い出作りというものをしたいようだ。

 と言うわけで、久しぶりに、家は静かだ。何の心残りも無くジーンを迎えることが出来る。


 そうやって、畑仕事をしていると、カドルが、何かに気付いたように顔を上げた。


「ムソウ殿。来た様だぞ」


 カドルがそう言った瞬間、門を叩く音と共に、外から男の声が聞こえた。


「お~い! 久しぶりに来たぞ~!」


 聞き覚えのある声。それは、レオパルドの声だった。ジーンと共に来るという話は聞いていたが、相変わらずそうで何よりと思いながら、門へと向かった。


「お……誰かと思ったら、謹慎食らった“獣皇”様じゃねえか」

「ぐぬ……それは……忘れてくれ」

「後で、刀精の祠に行ってアキラに怒られて来い」

「う……まあ、そうするとしよう……って、開けてくれよ。ジーンも居るからよ」


 ハイハイ、と頷きながら、門を開けた。


 そして、姿を現したのは、以前見たままのレオパルドと、その後ろに立ち、青い髪をした幼子二人と手を繋いでいる、体格の良い男。

 俺が見上げるほど恰幅がよく、大きな帽子から白い髪が垂れている。背中に大きな鞄を背負い、いかにも、冒険家と言ういで立ちだった。


 会った時のジゲンと同じく、だらんと垂れた髪の所為で表情はよく分からない。

 しかし、その奥から優し気な眼差しがこちらを見ていることに気が付いた。


 何となく、そのまなざしに見覚えがあるなあと思っていたが、声を聞いて俺の疑問は一気に解けた。


「久しぶりだな、冒険者ムソウ殿。儂が渡したものは役立っているか?」

「アンタが……“冒険王”だったか……」


 その男は、かつてマシロにて、俺に魔法の地図をくれた男だった。奇妙な質問を繰り返した後、貴重なものである地図をタダでくれた男……それが、ジーンだった。

 既に会ったことがあると聞いていたし、その頃、ジーンがマシロに居たという事は聞いていたが、まさか、あの時の男がジーンだとは思わなかった。このことを知っていれば、今日までジーンが、俺に対してどう思っているか等、戦々恐々としなくても良かったろうなと、頭を掻く。


 するとそこへ、ジゲンとツバキがやって来る。ジーンは、ジゲンに目を向け、感慨深げな顔をした。


「“刀鬼”殿も久しいな……ようやく儂と同い年くらいにはなったのか?」

「ほっほ、そうじゃのお。昔のように動けないから、時折不便じゃわい」


 一昨日、サネマサよりも動いていた男がよく言うな、と思っていると、ジーンが、複雑そうな顔をする。


「う、うむ……話には聞いていたが、昔の印象と全然違うな」

「ああ、懐かしい話じゃのお……王都では未だに、儂の事を悪く言う者が居るそうじゃが、儂はこの通り変わった。よく言ってくれると助かる」


 ジゲンの言葉に、更に戸惑いながらも、ジーンは頷いた。

 そんなジーンに、今度はツバキが声を掛ける。


「あの、ジーン様……お尋ねしたいことが……」

「おお、そなたは、ムソウ殿の護衛を務めているというツバキ殿だな。騎士を続けられる嘆願書には、儂も署名したぞ」

「は、はあ……ありがとうございます……レオ様も、私の為に怒ってくださったと聞きました。申し訳ございませんでした」

「何で、お前が謝るんだ。悪いのはリー……って、こんな話しても埒が明かない。まあ、気にすんな」


 頭を下げるツバキにニカっと笑うレオパルド。俺達もロロに対してそうだったが、天上の儀でそれぞれに襲った問題については、誰が悪いという話ではない。考え方の違いでそうなっただけだ。

 レオパルドも、リーと喧嘩しそうになった件については既に、謹慎と言う形で責任を取っているので、これについて、ツバキに対しては何も感じていないという。

 そう言われたツバキは、改めて二人に、除名を取りやめる嘆願書を出してくれたことについて頭を下げた。


「あ、それはそうと、ジーン様。一つ、お尋ねしたいことがあるのですが……」

「ああ、先ほども何か言っておったな。何だ?」

「あの……そちらの子供達――」

「「こどもじゃない!」」


 ツバキの言葉を、ジーンと手を繋いでいた幼子が遮る。どう見ても子供のそいつらは、俺も気になっていた。何だろうと思っていると、幼子たちが話し出す。


「おい、お前! 僕達は子供じゃないぞ! しんじゅうだぞ! 凄いんだぞ!」

「なまいきなこと言ってると、あたしの角でやっつけてしまいますわ!」


 何とも偉そうな子供の様だ。顔つきはよく似ているが、声の感じから姉弟らしい。どちらも、たまの少し上、マルドの子供達と同じくらいの年齢という事が分かる。

 ギャーギャーと騒ぐ子供に、ツバキがたじろぐ中、聞こえてきた単語の中に、「神獣」というものがあったので、レオパルドに顔を向けた。


「どういうことだ?」

「ああ、すまねえ。前もって言っておくべきだったな。コイツ等は……」


 そう言って、レオパルドから聞いたこの二人の幼子は、前々から話を聞いていた、魔獣宴でトウガ達と共に過ごしている、神獣「麒麟」という魔物だそうで、調査の手伝いに連れて来たという。

 と言っても、最初はトウガを連れて来ようとしたのだが、この二人が、行きたい! と駄々をこねた為、こうなったらしい。

 二人のうち、男の方がリン、女の方がキキという名前で、今は獣人の姿だが、リンネのように、本来の姿に戻ることも出来る。


 麒麟と言う魔物は、顔は龍で胴体は馬のようになっており、大地や空を駆け巡ることが好きだという。

 そして、頭からは大きな一本角が伸びており、その角はオリハルコンでも易々と貫くくらい頑強で、また、全身を強固な鱗で覆われているらしく、生半可な攻撃では傷一つつかないらしいのだが、この二人はまだまだ子供なので、そこまでの力は無いという。

 昔、弱っていた所を保護したのだが、元気になり過ぎて困っているとレオパルドは苦笑いしながら、ツバキを責める二人の頭を殴った。


「痛い! なにするんだよ、レオ!」

「何をしているかは、こっちの台詞だ! これから数日、ここで世話になろうってのに、その家の人間に迷惑かけんじゃねえ!」

「む~! 良いのですわ! 私達は魔獣宴に毎日帰りますから!」

「ん? 毎日、クレナから王都を行ったり来たりか。大変だな。まあ、止めねえから頑張れよ」

「何言ってるの! レオが連れて行くのよ! 迷子になりますわ!」

「俺が、そんな面倒な事をするわけねえだろ」

「む~! じゃあ、ジーン! 私達を連れていく事を許可しますわ!」

「いや、儂もそのような事を毎日続けるわけにはいかん。やるのなら、勝手にな」


 プイっと顔を背けるジーンに、麒麟の二人は更に顔を真っ赤にして、地団太を踏んでいる。何を苛ついているのだろうか。勢いで言ったものの、知らない所で何日も過ごすという事に、不安を覚えているのだろうか。


「まあ、取りあえず、皆入れよ」

「まずはゆっくりと――」


 俺に続き、ジゲンも皆を中に入れようとした。取りあえず、中にはジーンたちをもてなすために用意した菓子がある。腹を満たせば、この二人も落ち着くだろう。

 そう思っていたが、麒麟の二人は、キッと俺達を睨んできた。


「こわ面は黙っていなさい!」

「変な目の爺いも大人しくしろ!」


 そう言われた俺達は、何か衝撃を感じたように黙り、固まってしまった。レオとツバキが、苦い顔をしながら、俺達の顔を交互に見ている。


 俺とジゲンは、二人に構うことなく、リンネとたまに手招きをした。

 サンチョに連れられてきた二人は、不思議そうな顔で俺達を覗いてくる。

 それぞれ首を傾げている中、ジゲンは、たまとサンチョに、重々しく口を開く。


「のう……二人とも」

「な、何だよ?」

「どうしたのー?」

「儂の目は……変かの?」


 ジゲンの言葉に、たまとサンチョは、目を丸くしながら、首を横に振った。


「そんなことないよ~! おじいちゃんの目は綺麗だよ!」

「今更何言ってんだよ。シズがいつも褒めていたじゃねえか。……俺が言うのも何だが、綺麗だと思うぞ」


 二人にそう言われて、ジゲンはニコッと笑い、たまの頭を撫でた。


「安心したわい……」

「う、うん……?」


 たまは首を傾げながらも嬉しそうにしていた。

 これなら俺も、と思い、俺はリンネの顔をまっすぐと見た。


「なあ、リンネ……俺の顔は怖いか?」


 リンネもまた首を傾げながら、俺の顔をジッと見て、首を横に振った。


「ううん。こわくないよ~!」


 そう言われて、俺も、ジゲンと同じく嬉しくなり、リンネを抱き上げて思いっきり頭を撫でた。


「だよな! 良かった~……」

「くすぐったい~! おししょーさまはやさしいもんね~!」


 小さな子供に、はっきりと怖いだの、変だの言われて、少し傷ついた俺達の心はだいぶ癒された。

 何も気にすることは無いと安心していると、再び、麒麟の二人の声が聞こえてくる。


「な、なんですの!? 私達が可笑しなことを言っているとでも言うの!?」

「この人間の顔は変だ! 僕は間違ってない!」


 あくまでも自分達が正しいと言ってくるキキとリン。たまとリンネは戸惑うばかりで、どうしたものかと俺達の顔を眺めていた。

 サンチョはこの状況に納得したらしく、笑いを押し殺す仕草をする。

 レオとジーンが二人を宥めていると、リンネはツバキに二人について聞いていた。


「おねえちゃん、このこたちは、だれ?」

「レオ様が連れて来られた、キキさんとリンさんです。トウガ様達と同じ、神獣ですよ。仲良くしてくださいね」

「おおかみのおじちゃんとおなじ? じゃあ、すごいんだ~!」


 二人の事を聞いたリンネは楽しそうに両手を上げる。

 すると、レオの前で騒いでいたキキとリンは、ぴたっと騒ぐのを辞めて、リンネに視線を移した。


「あら、私達の事を凄いと崇める子もいるようですわね」

「おい、お前。名前は何だ?」


 相変わらずの上から目線の態度だったが、リンネは構うことなく、二人の前に跳び下り、ニコッと笑った。


「リンネは、リンネ~! おねえちゃんとおにいちゃんは?」

「おねっ……!」

「おにっ……!」


 リンネが自己紹介をすると、再び麒麟の二人は固まる。何か悪いことを言ったのかと、たまが不安そうな顔をしてジゲンや俺を見てきたが、多分、そこまで気にすることは無いと、たまを落ち着かせた。

 すごく、興味津々と言う顔で覗き込んでくるリンネに、麒麟の二人はハッとして、咳ばらいをした。


「コホン……リンネと言うのですね。私は……キキ」

「ぼ、僕はリン。名前がに、似てるからって調子に乗るなよ!」

「うん? うん! リンネ、ちょうしにのらない!」

「お、おう。それで良いんだ」

「リンネとやら。私達は、レオについてきて……少し疲れてるの。お部屋まで……貴女が案内してくださるかしら?」


 キキの頼みに、リンネは首を傾げ、不安そうな顔で、俺を見上げてくる。別に構わないと、頷くと、リンネはニコ~と二人に笑った。


「うん! リンネ、キキおねえちゃんと、リンおにいちゃんをあんないする~! ついてきて~!」


 そう言いながら、キキの手を掴むリンネ。キキは嫌がるどころか、ビクッと体を震わせ、顔を真っ赤にしながら無言でリンネについていった。


「じゃ、じゃあ、僕を連れて行くのはお前だ!」


 残されたリンが指さしたのはたまだった。たまも、確認のためにジゲンに伺いを立て、ジゲンが頷くと、リンにニコッと笑った。


「うん! 私はたま! 家の中、案内するね! ついてきて!」


 そう言って、リンの手を取るたま。キキと同じく、顔を真っ赤にするリンは、一人で行けるから! とか言いながらも、たまと手を繋いで、家の中へと入っていった。


「……すげえな、相変わらず」


 二人の豹変ぶりを見たレオパルドは、リンネとたまに驚嘆していた。

 俺とジゲンも、出鼻はくじかれたが、最初から同年代に見えるあいつらに任せればよかったと反省。

 取りあえず、調査に出るまでは二人に任せることにし、レオパルドとジーンを中に招き入れた。そのまま、ジゲンが二人を客間へと案内していく。


「あの、ムソウ様。私は一応、リンネちゃん達についておきます」

「ああ。頼んだ」


 何か阻喪があった際の事を考え、ツバキをリンネの元に向かわせた後は、大部屋でジーンが来るのを待っていた奴らに声を掛け、ジーンの仕事の際に、皆の指揮を行うリアとダイアンを連れて、俺も遅れて客間へと向かった。


 既に、ジゲンが二人を相手に団欒としている。俺は、上座に座り、リアとダイアンはジゲンの横に座り、改めてレオパルドとジーンを歓迎した。


「何はともあれ、ようこそ、俺の家へ。レオは良いとして、ジーン。アンタに会えて良かった」

「いやいや、こちらこそ、ムソウ殿。改めて、今回の協力には感謝する」

「まあ……ほとんど、俺が原因のようだからな。代わりと言っては何だが、護衛の方は闘鬼神から連れて行ってくれ。一応、コイツ等が代表者だ」


 俺の言葉に、ダイアンとリアは、少し呆れながらため息をついた。


「そうか……俺達は頭領の尻拭いってことっすね……え~っと、ダイアンっス。闘鬼神の冒険者を纏めています」

「リアよ。よろしく、ジーン様。私達は頭領みたいに環境を変えたりしないから安心してね」


 俺にとって、何とも不名誉な事を言ってくるダイアンとリア。一言文句を言ってやろうと思ったが、その前に放たれたジーンの言葉で、胸がスッとした。


「ほう……陛下が気になると言っていた女の冒険者だな。レオからも話を聞いている。安心して任せることにしよう」

「ん゛ッ……! なるほど……私の話を……レオ様は一体どういう……?」

「え? いや、闘鬼神の中でも、ムソウや俺の調査についてこられるくらいの……って、何だ!? 何か、ピリピリしていないか!?」

「あー……レオ様。そのあたりにしてやってください。リアが、限界です」

「はあ……私は……ひっそりと落ち着いて暮らしたい……」


 ずーんと落ち込んだ様子のリアを横目に、人の悪口は言うものではないが、褒めるのもいかがなものかと思いながら、話を進めた。


「……で、結局、調査は領境と樹海と、あと、雷雲山だったか?」

「いや、儂が行うのは、領境と樹海だけだ。雷雲山は、調査の必要はないだろう」

「分かった。ちなみに、現地で野営するわけじゃねえよな?」

「うむ。その為にここに来たのだからな」

「基本的には、ここと現地を行ったり来たりだ。で、全ての調査を、ひと月で終わらせる予定だ」

「それが終わったら、コクロか?」

「ムソウ殿は先にコクロに向かってくれても構わない。知り合いの祝言とやらが終わったら、儂を待たずともコクロに行った方が良いじゃろうな」


 コクロでは、ジーンも協力してくれることにはなっているが、別に、一緒にクレナから出発しないといけないわけではない。

 クレナの調査が終わった後、俺達に合流すれば良いと提案してきたので、俺は了承した。


 その後、細かな事を話し合った後、そろそろ行くかと、ジーンとレオパルドは立ち上がり、ダイアンとリアはそれに続いた。

 庭に出ると、準備を整えていた他の冒険者達の姿もある。レオパルドはまだしも、初対面のジーンに、最初は緊張していた感じだったが、徐々に慣れていったのがよく分かった。

 このまま見送りかと思ったが、あ、と言って、レオパルドは屋敷の方を向いた。


「お~い! キキ! リン! そろそろ出発するから庭に出て来い!」


 あ、俺も麒麟の二人を忘れていた。やんちゃなところもあったが、騒いでいる様子は無かったな。意外と大人しくするんだなと思っていると、襖が開き、リンネとたまが、キキとリンの手を引きながら顔を出した。


「リン君、皆待ってるよ! ほら、急いで!」

「キキおねえちゃんも! かえったら、またたべられるから!」


 必死な顔のリンネとたまに引かれているキキとリンは、何か言っているが、口いっぱいに何かを放り込んでおり、もごもごと何を言っているのか分からない。

 遅れて現れたツバキに話を聞くと、最初は屋敷の色々なところを案内していたのだが、途中で飽きたと駄々をこねた為、菓子を与えた所、今の状況になったらしい。

 ロロの王都土産の菓子かと、毎日の楽しみにしていた分、俺達は凄く落胆した。

 だが、一番食べたいはずのリンネとたまが何も言わない中、大人である俺達が文句を言うのも情けないと思い、全員、一様に口をつぐむ。

 そんなことを思っていると、大きなため息をつきながら、レオパルドが前に出て、二人の頭を殴った。


「コラっ! 何やってんだ!? 他人様の家で他人様の食い物をバクバク食ってんじゃねえ!」

「痛い! れ、レオが、僕の頭を叩いた~! うわあ~~~ん!」

「うわあ~~~ん!」


 今度は泣き出すキキとリン。自由だなあと眺めていると、オロオロしていたリンネが、尾で二人を包み込んでいく。


「「……っ!」」


 柔らかいリンネの尾に優しく包まれ、ついでに頭を撫でてもらうキキとリン。母親にあやされる赤子のように、徐々に泣き声も鎮まり、落ち着いていく。

 おかしいな……多分実年齢もそうだろうが、見た目が明らかに年下のリンネにあやされるキキとリンと言うのは、何とも違和感しか受けない。

 二人が泣き止んだことを確認したリンネは、ニコッと笑って、キキとリンの顔を覗き込んだ。


「よかった~。なきやんだ~!」


 そのまま、キキに抱き着くリンネ。すると、キキとリンはかあっと顔を真っ赤にする。


「な、泣いていませんわ! 妙な事を言わないでくださいまし!」

「め、目に埃が入っただけだもんね!」

「あはは、キキおねえちゃんとリンおにいちゃん、げんきになったあ~! これで、おしごとにいけるね!」

「も、元から元気ですわ! す、少し、腹ごしらえをしていただけですのに。リンネもたまも、レオも、大袈裟ですわ」

「これから行こうと思ってたもんね~! それなのに、叩くなんて、最低な奴だ!」


 キキとリンはレオパルドをキッと睨みながら、庭へと下り、ジーンの手を掴む。


「ほら、行くぞ、レオ。もたもたするな!」

「面倒ごとは早くすませるのですわ」

「クッ! お、お前ら――」


 何とも自分勝手な言動を繰り返す二人に、レオパルドもついに怒ったのか、顔を真っ赤にしてにじり寄っていく。

 しかし、その手をたまが掴んだ。レオパルドはハッとした様子で、たまに目をやった。たまは、レオパルドの目をまっすぐ見ながら、首を横に振る。ここで怒っても仕方が無いことだと目で訴えかけているようだ。

 たまに諭されたレオパルドはコクっと頷き、怒りを鎮めた。ふう、と胸を撫で下ろすたまに、よくやったと頭を撫でると、俺に耳打ちをしてきた。


「キキちゃんとリン君……ちょっとわがままだけど、いい子なの。レオ様に怒って欲しくないの……」

「そうか。じゃあ、俺も怒らないようにしよう。あいつ等の分も、今日の晩飯は多めにな」

「うん……!」


 子供と大人の前では、態度が違う子供が居るという事は、既に分かっている。恐らく、麒麟の二人も、レオパルドの前と、その他では違うのだろう。

 レオパルドではなく、ここに来た時から妙にジーンと一緒に居るが、それをジーンが嫌がっていないという事から、ジーンも、キキとリンが「いい子」だと分かっているのだろうな。

 それに、リンネが懐くという事は、その二人から嫌な気配が感じられないという事だ。ジーンの仕事についての不安は残るが、元より悪い存在ではないので、俺も、たまと同じ様に信じることにした。


 そして、このことをダイアン達に伝えておいた。皆、不安そうな顔をしながらも納得し、何かあっても、どうにかするから、と意外にも、一番やる気を見せたのはルイだった。

 姉御肌だからで、子供好きだからか、やんちゃをする子供と言うのは放っては置けないらしい。そこらを走り回らないように捕まえておくと、シズネの鞭を握りながら頷く仕草に、俺とジゲンで、ほどほどに、と釘を差した。


「ったく……色々とあったが、行くか? ジーン」

「うむ。やることは多いからな。と言っても、夕刻には戻る。ムソウ殿、よろしくな」


 そう言って、レオパルドとジーンは、皆を巻き込んでの転送魔法を起動させた。


「分かった。また、夕方にな。ダイアン達を頼んだ。で、お前ら。ジーンの仕事の邪魔をしねえようにな」

「うっす! 鍛錬ついでに、樹海の魔物倒すっすよ!」

「それって調査の意味が……ま、良っか!」

「良いわけないでしょ、ルイ。向こうに着いたら、ジーン様の言う事、ちゃんと聞くのよ」


 目立ちたくないとは言いつつ、こういう時でも皆を纏める立場になるリアに、その他の者達は、ハイハイと頷いていた。俺も思わず頷いてしまう。

 考えたことは無いが、俺の後を継ぐとしたら、今のところの第一候補はコイツだなと思っていると、何かに反応したように、リアがこちらを見てくる。


「頭領、変な事考えているでしょ?」

「いや? 俺の事は良いから、仕事に集中しとけ」

「む……まあ、良いか……」


 こういうところも勘が鋭くなっていて、俺は何となく安心する。リアは、どこか納得していないような顔だったが、すぐに切り替えて、転送されるのを待っていた。


「リンネ、たま! お前達が美味しいって言う、晩御飯を期待しているからな!」

「せいぜい、私達の舌を唸らせる料理を作っているのですわ!」


 麒麟の二人は、尊大な態度のままだが、要約すると、


「僕達の為に美味しい料理を作って待っててね」


 と、言っている。そのように受け取ったのか分からないが、たまとリンネは顔を見合わせてニッコリと笑い、二人に頷いた。


「うん! いっぱいつくるから、ちゃんとお腹空かせて帰ってね~!」

「リンネ、がんばるから~! キキおねえちゃんと、リンおにいちゃんを、まんぞくさせるから~!」


 そう言って、手を振る二人に、キキとリンは再び顔を真っ赤にさせて、ジーンの陰に隠れる。

 今度は、どこか怖がっている様子だ。多分、こういう、全てに笑顔で返してくる奴に会ったことが無いんだろうな。未知の存在って、確かに怖いよな。


 さて、そんなやり取りを眺めているうちに、転送魔法の準備を終えるジーンとレオパルド。

 俺が、じゃあな! と手を上げると、そのまま、皆、樹海へと消えていった。


「……一気に静かになったな」

「ええ……」

「まあ、子供と言うのはあれくらい腕白でも良いじゃろう」


 朗らかな笑顔でそんなことを言っているジゲンだが、内心、疲れたとも思っているはずだ。目の事を言われた時の取り乱しようは見たことが無かったからな。まあ、俺も他人の事は言えないが。


 さて、ジーン達も仕事に行ったという事で、俺達もいつもの日常に戻ることにした。


「さて、と……俺は昼飯食ったら、ギルドへ依頼の受注に行ってくる。飯は出来ているか?」

「うん! 準備万端だよ~! 今日は、皆が好きなお肉!」

「楽しみですね。ムソウ様はギルドへ受注ですので、私とリンネちゃんは、お買い物とお夕飯の支度でもしますか」

「キキおねえちゃんとリンおにいちゃんのごはん、がんばってつくる~!」

「ほっほ、あの二人は、リンネちゃんとたまに任せた方が良いな。さて、では、儂は祝言の準備を進めるとしよう。ムソウ殿。ギルドには儂もついていくぞ」

「ああ、分かった。と言うわけで、畑仕事は、昼から他の奴を回すから、サンチョ、しっかりやってくれ」

「了解。さて、飯だ、飯だ……って、雷帝龍様、妙に静かだと思ったら寝てやがる……」


 サンチョの言葉に、俺達はカドルに視線を移す。ジーン達が来るまでは起きていたのだが、今は縁側でゆっくりと眠っていた。

 普段、力を使い続けている分、疲れやすいのかもしれないが、麒麟の二人の相手くらいはして欲しかったと、俺達は肩をすくめた。

 まあ、起きたらたまとリンネと共に、あいつ等の事はカドルにも任せると決めて、俺達は昼飯を食べに、家の中へと入っていった。


ちなみに、キキとリンの命名者はミサキ。

トウガ、トウケン、トウウ、そして、レオが付けようとした名前があまりにも酷かったため、ミサキが付けた。

しかし、それを聞いたサネマサやジェシカ等、他の十二星天は、(安直な名前だな……まあ、ぴよちゃんやガオちゃんよりはマシか……)と、頭を抱えた。

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