第386話―温泉に浸かる―
玄関から靴を脱ぎ、番台のような処へ行くと、若い女が笑顔で迎えてきた。
「いらっしゃいませ。お泊りですか?」
「いや、ひとっ風呂入りに来ただけなんだが、可能か?」
「はい。では、こちらに……あ、お客様、ひょっとしてご夫婦でご利用ですか?」
「……は?」
女の言葉にキョトンとしていると、横に居るツバキが前に出て、番台の陰からリンネを抱き上げた。
「いえ、今日は家族で来ました」
「こんにちは~!」
パッと手を上げるリンネに、受付の女は、まあ、と手を口元に当てる。
「これは失礼しました。でしたら、家族風呂もございますが、ご利用になられますか?」
多分、この女は勘違いしているだろうが、突っ込む気よりも、女の言葉に引っ掛かっていた。
家族風呂って何だろう? と首を傾げている間に、ツバキが女に頷いた。
「はい。よろしくお願いします」
「かしこまりました。では、こちらが鍵となります。お支払いは、入浴後となりますので、ごゆっくりお楽しみください」
「ありがとうございます。では、行きましょうか、リンネちゃん」
「は~い!」
何の鍵を貰ったのだろうかと思っている俺の袖をリンネが引っ張ってきたので考え込むのは辞めて、ツバキの後についていった。
「たのしみだね~」
「ああ、そうだな。ちゃんとツバキの言うこと聞いて楽しむんだぞ」
リンネは、もちろんと頷いて、ツバキと手を繋いだ。このまま、女湯と男湯と別れて、出る時間を合わせようと思っていたが、ツバキはスタスタと大浴場を通り過ぎていく。
「あれ? ここじゃないのか?」
「え? 家族風呂にしたではありませんか」
通り過ぎたことがさも当然だという感じに俺の方を向くツバキ。
「そういや、家族風呂って何だ?」
「あ、ご存じなかったのですね。家族風呂と言うのは、その名の通り、家族で楽しむための浴室の事です。一家族で一部屋使って、ゆっくりするという形式になります」
「へえ……って……ん? おい、ちょっと待って……」
俺はあることに気付き立ち止まった。ツバキとリンネは不思議そうな顔で俺を覗き込む。
「あら、どうされました?」
「てことは、お前らと一緒に入るのか?」
「そう言うことになりますね。さあ、行きま――」
さらりと俺と一緒に入ると言って、家族風呂の部屋へと向かうツバキの腕を掴んだ。
「待て待て待て! 今すぐ変更しろ!」
「何故ですか?」
「何故って……お前なあ、いつも言っているだろう。俺は男でお前は女だろ。少しは慎みを持てって」
「良いではありませんか。今日は誰も居ませんし、リンネちゃんも居ますし、リンネちゃんが内緒にしてくだされば大丈夫です」
ね、とツバキがリンネに微笑むと、リンネは人差し指を口の前に持ってきて、ニコッと笑った。
「それと、大浴場を選ばなかった理由はもう一つございます」
「あ? 何だよ?」
「ムソウ様はお顔が知られております。ゆっくりとお風呂に浸かるという事もかなわなくなるのでは?」
「あ~……それは……確かに考えられるな……だ、だが、だからと言って……」
「ムソウ様」
顔が知られていて、風呂場で面倒な事になったとしても、俺だけが我慢すれば良いだけと言おうとする俺を、ツバキが真顔でジッと見てくる。怒っているだけでもなく、喜んでいるわけでもないこの顔は何となく嫌だな。
「何だよ、急に……?」
「ご一緒するくらいよろしいではありませんか。昨日は、私もリンネちゃんも頑張りました」
「うぅ……それを言われるとな……」
「ご褒美はあった方が良いと思います」
「ごほうび~」
ツバキの横で、リンネまでも期待のこもった目を向けてくる。この二人に何かしら勝負で負けるという事は、その度に頭を抱える状況になるんだな……。勉強になった。これからは気を付けるとしよう
さて、ツバキとリンネが組むと厄介……もとい、最強だという事は既に分かっている。こうなったら、てこでも、俺でも、誰が何をやっても動かないだろう。
深くため息をつきながら、俺は、廊下を進みながら目にした、売店の方を指さした。
「……湯浴み着、買ってこい」
「かしこまりました」
ツバキはすぐに頷いて、売店の方に向かう。リンネは、項垂れる俺の顔を、ニコ~っと覗き込んだ。
「おししょーさま、ありがと~!」
「どの口が言ってんだ!」
本心からのお礼なのだろうが、俺は汚れた大人だ。嫌味にも聞こえ、リンネの両頬をつまんだ。
「おひひょーはは、ははひへ~!(おししょーさま、はなして)」
「良いか? 本当に、絶対に、皆には内緒だからな!」
「ふぁ、ふぁい!」
「約束だぞ。破ったら、一週間、菓子抜きだからな」
そう言うと、リンネは何度も頷く。首がもげるくらいの勢いだったので辞めさせると、目を回しながら、それだけは、と懇願してくる。だったら、何も言うなと釘を差し、再びため息をついた。
やがて、ツバキが湯浴み着を買ってきて、家族風呂の部屋へと入った。中は、脱衣所と、少し休憩するような空間がある。浴場は内湯と外湯があり、そこまで広いというわけでもないが、内湯には蒸し風呂もあり、一般の家よりは広かった。
脱衣所は、男女分かれていないのか、と再び頭を抱え、ひとまず休憩する空間で、俺が着替え、脱衣所はツバキとリンネに使ってもらった。
そして、湯浴み着に着替えた俺達は、そのまま、まずは内湯に浸かった。
「気持ちいいですね~……♨」
「ね~……♨」
「そうだな……♨」
毎日浸かっている、火炎鉱石で温めた風呂とはまた違う感覚に、俺も先ほどまでの苛立ちは忘れ、昨日の分も合わせて、疲れを落としていった。
「リンネは……今日は、その姿のままで良いのか?」
「うん。おししょーさまと、おねえちゃんと、たくさんおはなししたい~」
「のぼせないようにしないといけませんね」
ツバキはクスっと笑い、髪を洗い始めた。俺の方は、リンネが蒸し風呂に行きたいと言い出したので、ついていく事にした。大丈夫だとは思うが、子供一人だと危ないからな。
中は、焼けた石が真ん中に置いてあり、その周りにむしろがひかれていた。一応、子供がうかつに触らないように、金網で遮られている。
もわっと立ち込める熱気に、リンネは多少驚いていたようだが、ふんっと気合を入れて中へと入っていく。
「あつ~い……けど、がんばる!」
「無理はするなよ。疲れを癒すのが風呂なんだからな」
そう言いながら、俺達はむしろの上に座り、時折、焼け石に水を掛けたり、薬草を体に叩きつけたりしながら、蒸し風呂を楽しんでいた。
すると、入ってから少しして、リンネがぽつっと俺に話しかけてくる。
「ねえ、おししょーさま~」
「どうした? もう、出たくなったか?」
「ううん。あのさ、ここみたいなあついとこにも、いくことってあるのかな~?」
流石に、こんな所そうそうあってたまるかと思ったが、一つ心当たりがあったので、リンネに頷いた。
「ああ。この街の近くの火山は、今みたいな環境……いや、もっと暑かったな……」
「ふーん……じゃあ、リンネももっとがんばらないと……」
「まあ、装備があるから大丈夫だとは思うが……ちなみに、リンネは寒いのと暑いのではどっちが辛い?」
一応、この世界の装備の付与効果の中には、周囲の環境からの影響を軽減させるものもある。シンコウ山などで普通に闘うことが出来たのは、装備のおかげもあっただろう。
リンネも、コモンから貰った着物により、その効果によって、火山でも十分に動けると思っている。まあ、それが無くとも、雪山や荒野でも安全に過ごしていたからな。
ただ、そう言った環境で、リンネはどちらが辛いのかは把握しておいた方が良い。それによって、俺達の動きも変わってくるからな。
リンネは、う~んと考えた後、口を開いた。
「あついの。さむいのは、へいき。いまは……つらい」
やはりリンネは、体毛がある分、寒いのは平気だが、暑いのは辛いらしい。早く言え、と言いながら、リンネを蒸し風呂から出した。
体中を真っ赤にして、湯気を立ち上らせるリンネを見て、ツバキは目を見開く。
「あら……リンネちゃん、頑張りましたね。こちらへどうぞ。体を冷ましますから」
「は~い」
リンネは促されるまま、ツバキの側で少し冷たいぬるま湯を頭から浴びた。そのまま、髪と体を洗い始めたので、俺も隣で髪を洗った。髭を剃ろうと言われたが、丁重に断り、体を洗っている時だった。
ジッと、俺の体を見てくるツバキの視線に気づく。
「そんなに見るな。恥ずかしいだろ……」
「あ、申し訳ございません。その……何だか、傷痕が増えているような気がしましたので……」
「ああ、そういう事か。増えているぞ。九頭龍の時のものと神怒の時のものがな」
この世界では、傷を瞬時に治す回復薬と、ロロ達が使うような回復魔法により、傷を負っても、すぐに治療したり、集中して治療を行うことで、傷痕を無くすという事は可能だが、俺は、闘いの勲章として残している。
ジゲンも、呪われた際にサネマサから付けられた傷を残しており、傭兵や冒険者などの中には、過去の闘いを思い出し、仲間と語り合ったことや、過去の反省の意味も込めて残す者が多いそうだ。
俺は、残しているというわけではないが、わざわざ消すという事もないので、残している。
もちろん、前の世界のものの方が圧倒的に多いが、ツバキの言うように、胸の辺りに九頭龍から負わされた傷が、右肩に神怒の時の傷が増えている。ツバキに、よく見ているなと言うと、護衛なので、と微笑んでいた。
「これからは、もう、増えることも無いです。私が護りますので」
「ありがとう。ちなみに、お前にも付くことは無いぞ。俺も護るし、エンヤも居るし」
「リンネも~!」
「ありがとうございます。最近は皆さんからもお褒めの言葉をいただいて、ちょっとした自慢ですので」
「褒められた?」
照れた様子で自分の肌をなぞるツバキ。何でも、家の風呂で皆と話しているうちに、どうやったら、ここまでの美肌を保てるのかと、羨望の眼差しで見られているという。
「へえ……俺からすれば、皆、綺麗だと思うんだがな……」
「私もそう思います。ですから、皆で褒め合っているのですよ」
「楽しそうだな……」
女湯は、わいわいしていて楽しそうだが、男湯は、わいわいとはしているが、そういう明るい話題では無いからな。依頼の話だったり、それぞれの武勇伝だったり、どことなく、殺伐としている。
俺の所為か……? 俺が居ない間は、意外と和気藹々としているのだろうか……。少し疑問に思ってきた。帰ったらコモンに聞いてみよう。
「ちなみにですが、刀精の祠でナツメ様をご覧になって、美しさに磨きをかける方もちらほら。サンチョ様やロロさんと共に、若返りの為の薬を開発されているそうです」
「あー……なるほど。無理はするなと言っておけ」
ちなみに、ナツメが老化を止めたという薬は、外側だけのもので、流石に中、内臓などの老化は止められないという。しかも、強烈な副作用があり、なんと子供を宿すことが出来なくなるとの事で、ナツメとしても薬の再現は、あまりして欲しくないという。いや、俺もして欲しくないな……。
なので、ナツメは詳しい作り方は教えず、別の薬で似たようなものを作るようにと、サンチョとジェシカに命じた。
今は、試行錯誤を繰り返しながら、ロロも混じって、肌や髪を傷めないようにするものや、美容に役立った上で、大きな副作用を生まないものを作っているという。
「完成したものに関して、有用性が認められれば、治癒院から全世界に流通させるとのことです」
「そうか。意外と種類はあると思ったんだがな」
「それだけ、美にこだわる方が多いという事です」
「ああ、お前のおふくろさんもそうだったもんな。余ったらモンクに送ってやれよ」
「あ……そうですね。考えておきます」
よくよく考えれば、モンクでの土産に、そういうものもあっても良かったかも知れないな。
とにかく、皆には容姿を気にするあまり、体自体を壊さないようにして欲しいと願った。
何となくナツメらしいと思ったが、子供が出来ないと知ったゴウキはどう思ったのだろうか……唯一、そこだけが心配だ。
まあ、なんだかんだで、二人とも仲が良かったというのは確かだし、こっちでも、相変わらずだったらしいから、そのあたりは別に気にしていなかったんだろうな。
さて、しばらく皆の事を話していると、リンネが外湯に行きたいと言ってきた。
このまま内湯ばかりでのぼせるのもつまらないと思い、体についた泡を落とし、三人で外湯に浸かった。
昼間から露天風呂と言うのは、なかなか無い体験だ。ゆっくりと浸かりながら、何だか、ぜいたくな事をしている気持ちとなる。
「皆が働いている間に……俺は何やってんだろうか……」
「偶には必要です。それに、直にコクロに行き、海賊団の相手もしなくてはいけません」
「あー……そうだな」
「あ、そう言えば、明日、ジーン様がお越しになられるのですよね?」
「ジーンさまって? だれ?」
不思議そうに首を傾げるリンネに、ツバキは微笑む。
「コモン様や、ミサキ様のご友人です」
「わあ~、そのひとがうちにくるの!? たのしみ~!」
リンネはぱあっと笑顔になり、ジーンを心待ちにするように、空を見上げていた。
「そう言えば、ムソウ様。ジーン様をお迎えするご準備は?」
「ああ。爺さんとアザミにやっておくように言っておいた。部屋については、闘鬼神の長屋の一室を使ってもらうことになっている」
「長屋、ですか……一応、十二星天様ですし、なんでしたら、ギルドの方でも良かったのでは?」
「ジーンの方が、うちが良いと言ってきているらしい。何でも、調査を行う上で、護衛を頼みたいとのことだ」
「なるほど……ちなみに、ムソウ様も出られるのですか?」
「いや俺は、今まで通り、他の依頼をこなしたり、海賊団の調べものを進めていくつもりだ」
「そうですか。それは、順調ですか?」
ツバキの問いに、俺は少し苦い顔をした。
リオウ海賊団についての資料を読んでいき、分かったことは、取り合えず、最初の被害があったのは、今から二十年前くらいだという事で、襲われたのは商人の船だったらしい。
しかも、積み荷を奪った後、船員や、護衛についていた冒険者達を皆殺しし、船までも破壊させるという徹底ぶりだったという。
その所為で、この事件について、当時はリオウ海賊団の仕業だという事が分からず、その時は、調査の結果、魔物に襲われたという報告で終わった。
しかし、それから半月を待たずして、立て続けに似たような事件が勃発し、その中で運よく生き残った者からの情報で、リオウ海賊団の存在が明らかとなり、王城は、そこから海賊団を賊と認定し、ギルド、騎士団が長年監視を続けることとなった。
だが、聞いているように、それから二十年経った今でも、リオウ海賊団のしっぽは掴むことが出来ていない。例え海賊団が現れても追い返されるか、反撃に遭い、こちらが被害を被ることが多く、運よく闘いに勝っても、様々な理由で船を逃してしまう結果となるそうだ。
例えば、闘いに勝ち、船ごと海賊を捕らえようと追ったところで、まるで狙ったかのように海が大しけとなったり、霧が深く出たり、別に魔物が現れたりして、毎度毎度、海賊団を取り逃がしてしまうという。
恐らくは、魔法によるものか、使役している魔物の所為だとも言われているが、その魔物の姿だって把握できていない。
そして、コクロのギルド支部には常に海賊団の調査及び討伐と言う依頼が貼り出されているが、応える者が居て、港を出たとしても、数日後には、まるで難破船のようにボロボロになった船と、死体だけが帰ってくるという。
「まあ、こんな感じだったな。ちなみに、十二星天の力も借りようとしたことがあったんだよな?」
「はい。ですが、そういう時に限って、海賊は姿を現さないのです。現わさない以上、ジーン様のスキルも、カイハクさんのスキルも効果を得ません。やはり、私達が遭遇した時は、よほど運が良かったと言えるでしょう」
そう言われて、つくづくエンヤがやったことを後悔しそうになる。まさか、海賊共が錯乱状態になっていて、頭の中を覗いても何も見えないという結果になるとは思わなかった。
少し反省するが、あの程度で錯乱するようなら、実は大したことないのではとも思っている。本拠地さえ発見できれば良いんだがな……。
そして、ツバキのカイハクに対しての呼び方に、何となく心の中でため息をついた。
まあ、気にするまい。何もかもカイハクが悪い。俺はそう思うことにした
「ちなみにですが、ムソウ様。こちらの作戦と言うのは、今のところ、どのようにお考えですか?」
「ん? 今のところは、俺とリンネとお前、それからダイアンで上空から索敵、残りはジーンと転送魔法を使いながら、各諸島を地上から捜索って感じだな。まあ、後は現地に言ってから、細かく変えていくつもりだが、何か不安か?」
「いえ、それでしたら問題はございません。ムソウ様の事ですから、また、無茶な事をされるのでしたら、止めようと思っていましたので」
時々、ツバキが俺の事をどう評価しているのか、凄く気になる時がある。
「流石に、ダイアン達も居るんだから、そこまでの無茶はしない。ただ、失敗するわけにはいかないし、成功するまで動けないから、ある程度の見切りはつけるつもりだ」
海賊討伐について、今回の天上の儀で、仮に失敗すれば、セインが俺を処断するかもしれないという条件が加わった。向こうが俺に何をしに来ても構わないとは思っているが、邪神族との闘いも控えて、流石にそれは面倒だ。
必ず成功させる気でいる為、やり方によっては、多少無茶をすることにもなると言うと、ツバキは、苦笑いしながらため息をつき、そうですね、と頷いた。
「おししょーさま~。こんどは、リンネはどうすればいいの~?」
「お前はいつも通りで構わない。コクロも海が近いところだからな。美味いものも沢山あるだろうよ」
「そうかなあ~。たのしみ~!」
俺達が色々と悩んでいる中でも、リンネは素直に次の旅を楽しみにしている。
温泉も相まって、リンネの姿にほっこりしながら、ツバキと一緒に頭を撫でた。
その後、のぼせてしまいそうになりくらい暖まったところで、風呂から上がった。
着てきた服に天界の波動を当てて綺麗にした後、それに着替え、温泉街を後にする。
リンネに乗ってトウショウの里に着いた後は、ギルドにてお湯を汲んできた異界の袋を納品し、ちょうど、仕事を終えたロロと合流し、帰路についた。
上街を歩いていると、こちらも帰宅途中のコモンと合流した。
「あ、頭領、お疲れ様です。家で渡そうと思ったのですが、今のうちに渡しておきますね」
そう言って、コモンは懐からあるものを取り出す。それは、ツバキとリンネが作ってくれた髪飾りだった。頼んでいた効果付与の仕事を終わらせたらしい。
「外壁の方は順調なのか?」
「ご心配なく。職人の皆さんに手伝ってもらっている合間に作りましたから」
仕事の合間に、他の仕事を完璧にこなすとは、流石だ。
それで、リンネの髪飾りには、特に頼んでいた防汚の効果と、素材から引き出した効果を与えているとのこと。
具体的には、魔法攻撃耐性、身体能力向上、魔法威力上昇、スキル効果上昇の効果が備わったとのこと。それから、若干ではあるが、様々な環境に適応する、天候変動耐性というものも備わっているそうだ。
これにより、今日の蒸し風呂のような場所でも、極寒の地でも、その影響を少しだけ和らげることが出来るという。
更に、妖狐の素材という事で、狐火が俺に当った時の威力が下がるという効果もある。リンネのおかげで、リンネに強くなったと言うと、リンネは首を傾げながらも、良かったね、と言ってくれた。
さて、与えられた効果のうち、魔法威力上昇について、魔法を使える者ならば、かなりの恩恵を受けるそうだが、俺は魔法を使えない。
まあ、それでも他の効果はかなり期待できると思い、早速着けてみた。
「似合うか?」
「はい。とてもお似合いです」
「おししょーさま、かっこいい~!」
「頭領、羨ましいです~」
「そういや、手芸の方はロロやコモンはやっているのか? ……って、仕事があるんじゃ出来ないよな……」
「いえ、私はやっています。ツバキさんの教え方が上手いので」
「僕は出来ていませんね。落ち着いたら、始めようと思います」
「コモン様が加われると、私の立つ瀬が無くなると思うのですが……」
などと言いながら、俺達は笑っていた。確かに、ことものづくりにおいて、コモンは俺の家は勿論、世界で一番だ。コイツが作る手芸は、手芸と言う枠を超えたものを作るだろう。
それはそれで楽しみだと言うと、コモンは苦笑いしながら、重圧が……と呟いていた。
そのまま家に帰って、ジゲンとたまに、クサツの事を伝えると大層喜ばれた。
そして、祝言には参列する旨を伝えると、たまは、また会えると嬉しそうな顔をしていた。
「おじちゃん達に、また美味しいものを作ってあげないと!」
「今度は、砂糖と塩を間違えるなよ」
「え!? 何で、おじちゃんが知ってるの!?」
前に、クサツ達から聞いた、昔のたまの事を話すと、たまは顔を真っ赤にしながら、忘れて! と言ってきた。
はいはい、と頷いていると、話を聞いたアザミ達が、たまちゃんにも間違いがあるのですね、とクスクス笑い出す。たまは、アザミ達に、も~! と言いながら飛び込んでいき(ついでにリンネも)、そのまま飯の支度を始めていった。
「クサツ殿も元気そうで良かったわい。儂も会うのが楽しみじゃ」
「アイツ、お前に喧嘩を売っていたと、頭を抱えていたぞ」
「ほっほ。そうじゃの……礼をしてやらねば……」
ニヤリとするジゲンを見ながら、心の中でクサツに謝った。
その後は、いつものように皆で飯を食った。相変わらず、何もかも完璧なたまの料理を褒めていると、でしょ~! と言いながら胸を張られた。
機嫌が直って何よりと思いながら、晩飯を平らげ、ツバキとリンネと共に、床に就いた。
さて、明日はジーンがうちに来る日だ。どんな人間かは分からないが、悪い奴ではない様子。
俺と会ったことがあるという発言も気になるし、少し楽しみにしながら、眠りについていった。
作者「……俺も温泉行きてえよ、ムソウさん」
ムソウ「今はまだ我慢しろ」
作者「クソッ……桜見ながら、混浴風呂入りてえ……ムソウさんは羨ましいな」
ムソウ「……あ?」
作者「美人に誘われて、美人を眺めながら温泉……爆ぜろ!」
ムソウ「あ゛!?」
――この後、めちゃくちゃ殴られました。
緊急事態宣言が解除されても、油断は出来ないとニュースで知ったので、花見は近所で済ませ、まだ当分、旅に行くのは辞めておきます。
皆さんも気を付けてくださいね。




