第384話―“武神”と“刀鬼”を斬る―
神人化したまま、サネマサとジゲンに、斬波を放った。二人は刀で受け止め、皆とは違う方向に距離をとる。隙を与えず、そのまま距離を詰め、二人と打ち合った。
今までなら、ここで他の奴らからの邪魔が入るのだが、皆は今、俺が創り出した光葬針の武者を相手にしている。
光の武者の強さは、そこまで大したものではない。数を減らして、力を重視して創れば、もっと強くなるがな。
しかし、斬っても突いても殴っても消えることは無い。今の状況だと、時間稼ぎには丁度いい。
「くっ……こいつら、強え!」
「変な能力、流石オッサン!」
ダイアン達が慌てる声が聞こえてくるが、実はこの光の武者の強さは、上限は分からないが、基本的にそれぞれが相対したものと同等のものとなる。
つまり、下級の魔物を相手にすれば、下級くらいの強さとなり、噴滅龍のような災害級の強さを持つものを相手取れば、それくらいに強くなる。倒すには、今よりも少しだけ強くなるか、何人かで一体と闘えば良いだけの話だ。
ただ、それではなかなか倒せないという事も事実だ。安心して、俺はサネマサとジゲンと言う、今日一番の敵を相手に出来る。
「くっ……あれやった後じゃ、辛いなあ……」
「儂も……こう、立て続けじゃと……やはり……歳かの……」
サネマサと、特にジゲンだが、明らかに偶像術を使う前よりも動きが悪い。
やはり、さっきの技は、コイツ等も本気でやっていたようだ。思わず、無間を込める手に力が入り、噴き出ていた天界の波動も強まっていく。
「今度はこっちの番だ! ついて来いよ! 牙の旅団の二団長共!」
まずは疲れ切っているジゲンに、光極波を当てて、サネマサと離した後、光葬針の武者を放ち、足止めを行う。
「むうっ! 厄介な相手じゃ!」
「ジロウ! 今行――」
「行かせん! まずはテメエだ! あの頃の借りを返してやるぜ、“武神”ッッッ! 奥義・光霊破斬ッッッ!」
「クッ! 奥義・獣王晩餐ッッッ!」
天界の波動を纏った無間が真っ白に輝くと同時に、サネマサは全身から気を放出させて、獅子の形にして纏った。サネマサが二本の刀を振り上げると同時に、気で出来た獅子も大きく口を開ける。
「ウオオオオオッッッ!!!」
咆哮を上げながら斬りかかるサネマサの一撃を、無間を振り上げて弾き、そのまま連撃を与えていく。
「グハッ! ガッ! クッ!」
「ウオオオオラアアアアアッッッ!!!」
無間を振る度に、威力が強くなるこの技は、徐々に獅子の気を削っていき、最終的にサネマサ本体に刃が届くようになる。
流石に、斬るわけにはいかないので、小手や胴当て、脛当て、草摺を少し欠けさせる程度に留めた。
「グアッ! お、俺の鎧!? ムソウ! テメエぇぇぇ~~~!!!」
無間からの連撃を受けていく中、何とか気を保ちながら、二本の刀を交差させ斬りかかってきた。
流石、と思いながら、思いっきり無間を振り下ろし、得物を落とさせようとした時だった。
ベキンッ!
「……あ」
「……は?」
威力の上がった無間での一撃は、切れ目を斬らずとも、サネマサの刀を二本とも叩き折ってしまった。カラン、カランと足元に落ちる切っ先。一瞬、呆然としたサネマサだったが、すぐに状況を把握。
見たこともないような、泣き顔のような怒りの顔を見せながら、怒鳴ってきた。
「うわああああ~~~!!! お、俺の……俺の刀があ!!!??? む、む、ムソウッッッ! テメエ、何しやがる!? ぶっ殺して――」
「素直に謝ろう、すまない。で、これも……すまない」
「何をッ――ぐへあああああ~~~ッッッ!!!」
そんな顔のサネマサの胴に、最後の一撃と無間で一撃を加える。僅かに凹ませていた壊蛇の鎧は綺麗に砕け、粉々になっていき、破片をまき散らしながらサネマサは吹っ飛んでいった。
「サネマサ! ええい、邪魔じゃ!」
サネマサがやられたことを確認したジゲンは、光葬針の武者に、雷を纏わせた一撃を与え、それだけで、光葬針をかき消した。
よく見ると、ジゲンの刀から紐のようなものが伸びており、その先には具合が悪そうなカドルが居る。
祠でやったことと同じことをしているようだ。魔力を使えないジゲンが、手っ取り早く技の威力を上げるのは一番のやり方だと思っているうちに、ジゲンは俺の目の前に立ち、刀を振り下ろす。
それを受け止め、鍔迫り合いになると、ジゲンは荒く息をしながら、動けないでいるサネマサを指しながら、珍しく怒鳴ってきた。
「ムソウ殿! やり過ぎじゃ!」
親友がやられて、冷静さを欠いているようだ。気持ちは分かるが、ジゲンの言葉に納得がいかず、俺も怒鳴り返した。
「本気で来いっつったのはテメエらだろうが! それに、先に殺しに来たのはそっちだろうが! 俺を怒らせたテメエらが悪い! 反省しろ!」
「刀まで折ることは無いじゃろう! これからもサネマサは闘い続けるというのに! これから、邪神族とどう戦えと言うのじゃ!?」
「知るか! コモンに打ち直して貰え! というか、折ったんじゃねえよ! 折れたんだよ! 殺してねえだけ、ありがたいと思え!」
「むう……! ならば、儂もここから、お主を本気で殺す気でいくぞッ! 覚悟せよ!」
「とっくにしてんだ、クソ爺いィ~ッッッ!!!」
ジゲンの刀を弾くと、もう片方の手から、電撃を放つジゲン。それを避けて、ジゲンに斬りかかる。
しかしジゲンは俺の攻撃を避けて、大上段から雷のような一撃を振り下ろす。無間を放して、跳び上がったジゲンの下をくぐり、避けるとともに、ジゲンの背中を蹴り、無間を拾って斬りかかる。
ジゲンはすぐに態勢を立て直し、俺の一撃を受け流し、刀の柄で俺の顔を殴ってきた。俺は、それを額で受け止め、刀を握るジゲンの腕を掴み、そのまま引き寄せ、頭突きを食らわせた。
その瞬間、ジゲンは体に雷を纏い、大した装備も無い俺は感電する。
「ぐうッッッ!!!」
「むうっ! クッ、抜刀術・迅雷ッ!」
体中を巡る電気による痛みに耐えていると、俺の頭突きでよろめきながらも、刀を抜いて斬りかかるジゲン。
すんでの所で体を回転させて躱し、そのまま回し蹴りを食らわせた。
「ぐはっ! おのれっ! そろそろ倒れよ! 偶像術・死神鬼ッッッ! 奥義……天叢雲ッッッ!!!」
吹っ飛びながらも態勢を立て直したジゲンは、そのまま刀を掲げる。
ジゲンの背後に、鬼神の刀精が現れ、上空に雷雲が形成された。俺は降り注ぐ雷を弾いていく。
すると、慌てた様子のシロウ達の声と、気の抜けたアヤメの声が聞こえてきた。
「おいおいおいおい! やべえぞ!」
「じ、ジロウさん! 落ち着いてください!」
「このままでは、結界が!」
「やばそうだなー……コウさん達と雷帝龍! 手伝ってくれ!」
どうやら、ジゲンが繰り出す一撃では流石の天岩戸四重でも保たないらしい。
アヤメの言葉に、やれやれと言いながら、牙の旅団は立ち上がり、ジゲンの所為で気分を悪そうにしていたカドルは顔を上げた。
「ふむ……“刀鬼”殿の所為で上手く力が出ん。牙の旅団よ。依り代の力が解けたら、すまぬの」
「そこは自信持ってくれ、雷帝龍様……しかし……ムソウ。ジロウを怒らせるとは、アイツも大した男だな……」
「サネマサをボロボロにしたら、ジロウは怒るのね……手合わせでも……」
「いささか理不尽な気はするな……まあ、仕方ないか。俺はナズナちゃんの所に行く」
「じゃあ、俺も。コウシとシズはアヤメの所に行ってくれ」
「では、僕はショウブちゃんの所に行きますね」
「俺もそっちへ行こう。エンミとチョウエン、サンチョは、シロウ君の所に」
「りょうか~い。あ、たまちゃん。今、ジロウは怖いけど、私達も同じだから安心してね」
「闘いが終われば、いつもみたいに戻るだろうから安心しろ」
「怪我も、俺とロロで治してやるからな~」
サンチョがそう言うと、側に居たたまはコクっと頷く。
「うん……大丈夫。おじいちゃんとおじちゃん、今は怖いけど、すっごく優しい事、私、知ってるから」
そう言って、手を組んで祈り始めるたま。どっちの為に祈っているのだろうか、いささか気になる。まあ、ジゲンだろうけど。
牙の旅団の者達は、たまの頭を撫でて、それぞれ配置に着く。すると、結界の強度が上がることを感じた。切れ目の数が減った所から、それは確かだろう。
更にその上にカドルが強固な結界を張り、闘技場は、五重の結界に覆われる。
「やれやれ……仕方ないですね……」
ふと、ツバキの呟く声が聞こえてくる。見ると、ツバキも闘技場を覆うように、巨大な障壁を展開させた。ちなみに、ツバキは、光葬針の武者と闘うことなく、リンネと共に、EXスキルで自分の身を護っているだけだ。
何をしているのだろうかと疑問に思ったが、これで、ギルドに被害が及ぶことは無いと確認した俺は、ジゲンの刀精に向き直る。
「さっさと、撃って来な! 爺さん! サネマサと同じ目に遭わせてやらあッッッ!」
「抜かせ! ここでムソウ殿を止めてみせる! ウオオオオッッッ!!!」
雷を弾きながら、ジゲンに突っ込んでいくと、ジゲンは刀を振り下ろした。それと同時に、鬼神も巨大な雷を纏わせた大刀を俺めがけて振り下ろしてくる。
「ウオオオオオオ~~~ッッッ! 奥義・光葬烈刃撃ッッッ!!!」
それと同時に、俺も無間を振り下ろした。周囲で闘っていた光葬針の武者は刃の形となり、無間から飛び出た刃と共に、雷を迎え撃ち、大刀にまとわりつく雷を削り、上空の雷雲を切り裂いていく。
「ぬうっ! それでもこの技は止まらん! 観念せい、“死神”!」
「出来ねえ相談だ! そいつも吹き飛ばしてやる! “刀鬼”!」
無間から飛び出た刃は戻ってきたが、未だ、大刀の雷は無くなっていない。確かに威力は弱まったが、それでも、九頭龍の時と同じくらいの圧力は感じる。
俺は、大刀と鬼神の切れ目を狙い、無間を振り下ろした。
凄まじい威力を誇る聖なる刃の奔流が無間から飛び出て、刀精の一撃とぶつかる。
その衝撃で、ツバキを除く、冒険者達が吹っ飛んでいった。
「うおおお~~~!!!」
「わあああ~~~!!!」
全員、結界に強く体を打ち付けて、その場にへたり込んでいく。既に、戦意は無いらしい。なら、これで終わりなら終わりだなと、更に力を込める。
「ウオオオオオッッッ!!! ガアアアア~~~ッッッ!!!」
せめぎ合っていた俺達の技だが、やはり、二回目だったからか、ジゲンの方の威力は若干低い。それと、蓄積された疲れがここで出たのか、徐々にジゲンの体力が減っていく。
「くっ……歳は……取りたくないものじゃ……」
「普通はそれで良いんだよ。お前らが特殊なんだ」
「ムソウ殿に……言われとう……無いのう……やれやれ……」
ため息をつき、フッと笑みを浮かべるジゲン。観念したように、スッと力を抜いた。
その瞬間、俺の技は、大刀の雷を砕き、大刀を貫き、鬼神本体を切り裂き、雷雲を晴らし、ツバキの障壁に激突した。
「くっ……」
何とか、俺の攻撃が外に行かないようにと耐えるツバキ。その甲斐あって、俺の技がツバキのスキルを破る頃にはだいぶ威力も落ちて、結果的に、一番内側の天岩戸に阻まれ、消えていった。
大したものだなと思っていると、ドサっと、何かが倒れる音が聞こえてくる。見ると、ジゲンが地面に大の字になって倒れていた。
「ようやく、大人しくなったか。まさしく“化け物”爺さんだったな」
「ムソウ殿も……いずれ分かる……」
「ったく……」
憎まれ口を叩くジゲンはそのまま俺に降伏する。
そして、辺りを見渡すと、ダイアンやジーゴ、バッカスも、これ以上は辛いと言わんばかりに手を上げていた。
普段は諦めの悪いリアも、サネマサ、ジゲンが倒れた今、打つ手なしと、降参の意味で手を上げていた。
「ようやく、終わったようだな。よし、アヤメ。結界を解いてくれ。流石に腹減ってきた」
今日は疲れたから、このまま全員で高天ヶ原に行って、飯でも食おう。いつもは追剥をするのだが、今回は別に良いと思いながら、俺はスキルを解こうとした。
しかし、一つの声が、俺の動きを止める。
「いえ……まだですよ、ムソウ様」
「……あ?」
見ると、ツバキが障壁を解き、俺の姿を見据えて斬鬼を抜いていた。
その肩には、未だ闘志を燃やしているリンネが乗っている。
二人はまだまだやる気の様だ。俺は、深くため息をつき、光葬針で出来た武者を数十体出現させた。
「もう勝負はついているだろ。これだけの兵力差、どうする気だ?」
「余裕かと……」
「減らず口を。もう疲れたんだから帰ろうぜ。それに、仮にコイツ等を突破できたとして、俺の相手はまだまだ出来ねえだろ? 無駄な足掻きをせず、潔く降伏するのも立派な事だ」
「ムソウ様のお創りになられたこちらの兵士たちを突破し、ムソウ様と直接戦う……それは簡単だと思います。問題は、確かに勝敗が分からない、という事ですね。では、こうしましょう。私が倒れたら、ムソウ様の勝ち。しかし、ムソウ様が倒れている中で、私かリンネちゃんが立って居たら、私……いえ、私達の勝ちです。よろしいですね?」
「いや……もう、お前一人なのに、どこからそんな自信が出るのか分からねえよ……」
何故、ここまでやる気なのだろうか、自身満々なのか分からない。死神の鬼迫でもぶつけるか、正々堂々、真正面から本気でぶつかってやろうかと思っている時だった。
ツバキは再び、不敵に、クスっと笑みを浮かべる。
「どこから自信……こちらからです……!」
その瞬間、ツバキが手にした刀、斬鬼の刀身が強く輝き出す。
そして、俺の全身から嫌な汗が吹き出てくる。斬鬼の輝きを見た瞬間、全てに気付き、流石に慌てた。
確かに、最初はきちんと把握はしていた。しかし、本気になったサネマサとジゲンを相手していて、すっかり、アイツの事を忘れていた。
更にもう一つ、気付いたことがある。今日のツバキは、いつものように、全員を指揮しながら闘ったり、前に出て闘うという事が極端に少なかった。ジゲンとサネマサの相手をしている間、皆を陰から補助することだけに徹し、大して動くことも力を使うことも無かった。
光葬針で出来た武者とも戦おうともせず、スキルで展開させた障壁で、動きを止めることに専念していた。
ついでに言えば、リンネも、普段なら跳びかかったりするのだが、それもハルキの技の補助を最後に、後はツバキと共に、その身を護りながら生き延びていたようである。
二人とも、まるで、何かを溜めるように……。
その一撃に全てを賭けるかのように、力を蓄えていた。
ツバキの姿を見て、俺が慌てるよりも早く、アヤメの慌てる声が響き渡った。
「ッ!? ついに出すか! シロウ! ナズナ! ショウブ! ここから、最後の力を振り絞れ! 今度は本気でヤバい! 下手すりゃ、ギルドに影響が出る! 全力で、抑えろ! 壊されても、すぐに作り直すくらいの気概を見せろ!」
アヤメはそう言って、コウシとシズネと共に、更に魔道具に魔力を込めて結界を強化させる。不思議そうに首を傾げるのは、シロウ達だ。何がそんなに危険かという顔をしている。
「いや、アヤメ? 親父の本気も何とかなったんだから、ツバキの嬢ちゃんの技くらいなら、何とかなるんじゃ――」
「馬鹿! そんなんじゃ、足りねえ! ツバキがこれから使うのは、偶像術! 前に言った、俺達のご先祖様だ! ムソウや叔父貴以上にどうなるか分からねえ! 牙の旅団、三人にしっかり説明してくれ! 雷帝龍は、一番わかってるよな!? 気合入れろよ!」
「「「「「了解!」」」」」
「任せろ、クレナ領主殿!」
牙の旅団やカドルまで必死になり、更に首を傾げるシロウ達だったが、詳細を聞いて、慌てた顔になる。そして、時間を置かずに、闘技場を包む結界は更に強固なものとなった。
「ちょっと待て、アヤメ! 寧ろ解いてくれ! もう、終わりで良いだろ!?」
俺は慌てて、中止を求めるが、アヤメは聞く耳を持たない。
「ここまで来たら泣き言は聞かん! ツバキにやらせねえと、俺達が叔父貴に怒られる!」
「そんなことねえ――」
「……その通りじゃ」
「英断だぜ……アヤメ……」
俺の言葉を遮り、アヤメを褒めるのは、いつの間にかツバキの側に腰を下ろしていた、ジゲンとサネマサ。二人とも、せいぜいやられとけという、完全に舐め切った顔でこっちを見てくる。
見ると、他の者達も、いつの間にかツバキの周りに集まり、ツバキが作りだした障壁の中に収まっている。100人近い人間が、よくもやってくれたな、とか、くたばれ、といった顔で、俺を見ている。
あいつ等、後で痛い目に、と思っている隙に、ツバキはとうとう、斬鬼を掲げて準備を終えた。
「今回は、本気で短時間の形態です。時間は短くなりますが、リンネちゃんと共に、先ほどの手筈でお願いします。それから、皆さん。多分、この後、私、力が抜けると思いますので、出来るだけ護っていただくとありがたいのですが……?」
「「「「「うっす!」」」」」
「「「「「は~い!」」」」」
「モンクでの借りは返すって言ったろ。せいぜい、肉壁に徹するとしよう」
「寧ろ、俺達はそれしか出来ねえ……頼んだぜ、騎士の嬢ちゃん」
「ふむ……サネマサ、壁くらいにはなれるか?」
「ああ。弟子の身は護ってやる。これからはそうするって決めたんだ……」
全員、ゆっくりと立ち上がり、ダイアン並びに、男の冒険者は、前に出て、守りの体勢に入る。ツバキの目の前には、満身創痍のジーゴ、バッカス、サネマサ、ジゲンが立ち、ツバキの体を支えようと、ルイとリアが側に立つ。
ツバキはフッと笑って、斬鬼に手をかけた。
「いや、ツバキ、ちょっと待――」
「皆さん、ありがとうございます。これで終わらせましょう! 偶像術・奥義・闘鬼神ッッッ!!!」
―ウオオオオ~~~ッッッ!!! リンネ、来い!―
「キュウッ!」
斬鬼から飛び出たエンヤはそのままリンネを肩に乗せて大刀を振り上げ、俺に突っ込んでくる。
「行くぜ、ザンキッ!」
「クソッ! 仕方ねえッ!」
俺は、エンヤと闘うことに納得し、神人から鬼人となった。光葬針の武者は、確かにエンヤにとっては余裕だ。意味は無いだろう。兵力を上げるより俺自体が強くなった方が、エンヤには対応しやすい。
そのまま突っ込み、エンヤが振り上げる刀に無間を合わせた。前回は、アヤメの刀を壊さないように、どこかで慎重になって闘っていたが、今回は思いっきり出来るという事もあり、あの時よりは軽い力で、エンヤの刀を受け止めることに成功。
案外、簡単にいけるのかと思ったのも束の間、エンヤはニヤッと悪い笑みを浮かべる。
「ほう。これくらいは楽に凌げているんだな……じゃあ、これなら……!」
「うおっ!?」
大刀を握る手に、更に力を込めるエンヤ。全然本気じゃなかったんだと、この時実感し、少々恥ずかしい気持ちなった。
どれだけツバキは力を使ったのだろうかと、目を移すと、ツバキは具合悪そうにしながらも、ルイとリアに支えられ、更にロロに補助魔法をかけてもらいながら、斬鬼に力を送りつつ、EXスキルも使って、皆を護っている。
それほど、大きな力を使っているのかとも思いつつ、同時に、皆を護っていることは大したものと思っていると、エンヤが拳を振りかざす。
「余所見、してんなよ!」
「くっ! お前は、いつでも、殺す気満々だな! ある意味、安心するぞ!」
「それは何より……だッ!」
「ぐはぁっ!」
エンヤは大刀を素早く引き、前のめりになった俺の顔を思いっきり殴ってきた。
そのまま俺は吹っ飛び、アヤメ達の結界に激突し、そのまま地面に落ちた。フラフラしながら立ち上がると、何か違和感があった。
そっと顔に手を当てると、掌にべっとりと血がついている。
「うお!? この世界に来て二回目の流血……流石だな」
「生きてる証拠だ。良かったな」
「……このアマ……楽しくなってきたじゃねえか!」
曲がった鼻を戻して、再びエンヤに突っ込む。エンヤもニッと笑いながら、両手に大刀を持って迎え撃ってきた。
「鬼火斬ッ!」
「芸が無えなッ! 破軍ッ!」
鬼火を纏わせ、刀身を巨大にして斬りかかったが、エンヤは両手の大刀を縦横無尽に振り回し、鬼火を払ったうえで、無間を弾き、俺に斬りかかる。
「裂甲撃ッッッ!」
「ぐうっ! がはっ!」
エンヤの攻撃を躱し、顔に一撃、胴に一撃、鬼火を纏わせた蹴りを連続で叩き込む。エンヤは、顔を抑えながら吹っ飛んでいき、体にまとわりついた鬼火を、気合で振り払った。
「今の、ゴウキのか? アイツのより強い気がするんだが……?」
「お、それは嬉しいな。最後までアイツには敵わなかったんだがな……」
「いや、もう数段階も越えてる。アイツは鬼族だと言うのに……」
「だが、邪神族にはまだまだなんだろ? もっと強くならねえとな。せめて、あの力を使わなくても、皆を護れるように……」
「そういや……あの力、使わなくて良いのか?」
「どうなるか分からねえから使わない。あれは手合わせじゃなく、敵との殺し合いだけに使うつもりだ」
エンヤが出てきても、鬼神化は使わない。というか、エンヤが出て来たから、ますます使わない。加減が出来ず、殺してしまっては寝覚めが悪い。
未だ、力を上手く使いこなせる自信が無いというのは、エレナの言いたいことも理解できてしまうから悔しい。
ならせめて、鬼神にならなくても、邪神族くらいは楽に倒せるようにならないといけない。その為に、このままの状態で、今のエンヤを越えたい。
そう思い、無間を構え直した。エンヤは、なるほどと呟き、フッと笑った。
「……その目は、昔から変わらねえな、ザンキ。必死で皆を……いや、あの頃はサヤだけか。アイツを護る為に強さに貪欲な目だ」
「いや、あの頃はそんなつもりはまったく……」
「自分じゃ、そう思っているんだろうが、俺達からすれば、サヤを護ろうと必死だったように見えていたぞ。だからあの時、声を掛けた。そこからの流れは……フッ、最高だったな!」
エンヤの言葉に、あの日の事を思い出し、かあっと顔が熱くなった。我ながら、エンヤの誘導があったにせよ、少し恥ずかしい記憶となっている。今まで、何となく皆に話していたが、更に過去の世界でも、あの事を知っている人間が居るのかと思うと、急に恥ずかしくなってきた。
「お、お前! あの時の事、シンキやコウカとかに言ってねえよな!?」
「俺がどうでも、あの事を知っているのは、エイシンも居るし、サヤ本人も居るし、責任は持てないな……ちなみに、あいつらには話したのか?」
エンヤは、ジゲン達を指さす。具体的には言っていない……いや、アザミ達にはさらっと話した気がする。よく思い出せず、少なくとも、ダイアン達やツバキには話していないと自分に言い聞かせた。
「いや、話してねえよ!」
「そうか! では、後でツバキに――」
「やめろ! 趣味悪いぞ!」
ニヤニヤするエンヤに斬りかかると、ハッ! と笑って、迎え撃ってきた。
「だったら、黙らせてみな! いつものように!」
「言われなくとも!」
今回の闘い、俺にとっては何を掛けた闘いかいまいちわからなかったが、エンヤのおかげで目的がはっきりした。闘鬼神に、あの日の俺の言動を知られるわけにはいかない。
特にツバキには知られたくない。何となくだが、絶対に嫌だ。
馬鹿らしいと言えば馬鹿らしい理由だが充分だ。少し、今までよりも本気になる。今回は、本当に本気だ。エンヤが早く斬鬼に戻るように、一心不乱に無間を振るった。
「オラオラオラアアア~~~ッッッ!!!」
「むう……結構きついな……」
「早く倒れてくれ! 奥義・破界ッッッ!」
「む! そういうわけにもいかねえ! ツバキの為にもな! 廉貞ッッッ!!!」
気を纏わせ、大きな刃となった無間を思いっきり振り下ろすが、そこへエンヤは背中の手裏剣をぶつけてくる。ぶつかった巨大手裏剣を構成する大刀一本一本から斬波が飛び出て、俺の気を弾き飛ばした。
いくつかはアヤメ達の結界に当たり、空間が歪む。その度に、結界を維持する者達が苦悶の表情を浮かべた。
「まだまだ行くぜ! 貪狼ッッッ!」
エンヤが次に繰り出してきたのは、両手を広げてそのまま回転し、サネマサの使う「刃風」のように竜巻を生み出しながら、エンヤも俺に突っ込んでくる。エンヤ本体の攻撃を防いでも、竜巻の所為で身動きが取れず、風で出来た鋭く巨大な刃が降り注いでくる。
すべてをきるもので、風刃とエンヤの大刀を斬る。しかし、エンヤは慌てることなく、新たに大刀を創り、その手に握って、斬りかかって来る。
「相変わらず、そのスキルは反則級だな。まあ、闘いに反則もクソもねえが」
「分かってんじゃねえか。本気でこのスキルを使っていれば、あいつ等との闘いも一瞬なんだがな……」
「皆の装備を破壊するわけにはいかな……まあ、サネマサの件については、安い挑発に乗ったアイツが悪いと、俺も思っているから、気にするな」
「今日は色々と息が合うな。無論、気にしていない。気にしているのは……なあ、そろそろ倒れてくれねえか?」
「だから嫌だって。ここまで我慢したツバキの為にも、お前を倒させてもらう」
刀を打ち合いながらも、言葉を交わし続ける俺達の闘いに、ダイアン達は相変わらず引いた顔をしている事に気付く。ざわざわと皆の話す声が聞こえてきた。
「あんなこと言ってっすけど、サネマサ様、どうっすか?」
「ふざけんな! 修理費はアイツに払わせるからな!」
「って言ってるけど……ジゲンさんはどう思う?」
「ふむ……儂も段々、どうでも良く思って来たのお。後で、ムソウ殿に謝らなければ」
「その前にたまちゃんですよ。怖がっていましたので」
「しかし……ここまでしてまで金貨1000枚というのは割に合わない気がしてきたな……」
「あ、金貨1000枚は取り決め通り、ジーゴさん達に、だからね」
「ここまで来ると、それすらどうでも良くなってくるな……」
「いや、ツバキの姉さんが頑張ってくれたんだ。ありがたく貰うからな」
「ありがとう……ございます……ジーゴさん……」
「あ、ツバキさん! え~と、エンヤ……様? あの……ツバキさんの限界が近いわ!」
シータの言葉に、エンヤは背中越しに、おう! と頷き、更に力を込めてくる。
ツバキが倒れる前に、決着をつけたいようだ。このまま消耗戦に持ち込み、時間が立つのを待つのも良いかと思った。
「限界が近いのなら……このまま……」
「ほう……そんなこと言ってる場合か? いい気なもんだ……」
エンヤの言葉に、疑問を覚える。そんな余裕は無いと言いたいようだが、これ以上、何が出来るのだろうか。既にサネマサもジゲンも、闘う気は毛頭ないようだ。サネマサに関しては刀も無いし、ジゲンも落ち着いてきた反動で、今は結界越しに、たまに対して、さっきはすまなかったのお~と、何とも癒される光景を繰り広げている。
何故、エンヤは余裕なのかと思っていた時だった。ガクッと全身の力が抜ける感覚が俺を襲う。
「くあ゛!? な、なんだ!?」
「お! よくやった、リンネ!」
よろめく俺に、エンヤは意味不明な事を言いながら、俺に向かって大刀を振り上げながら駆けてくる。
俺は無間を構えるが、その前に、エンヤからの言葉の意味が分からない。色々な状況が襲ってきて、混乱していると、耳元から聞き慣れた元気な声が聞こえ、肩から小さな影が飛び出した。
「キュウッ!」
「は!?」
俺から飛び出したのはリンネで、小さな獣の姿のままツバキの方に駆け寄って行く。
そして、ボフンと獣人の姿に代わり、手にした何かをツバキに見せていた。
「やった! とれた! とれたよ、おねえちゃん!」
「はい……よくやりました、リンネちゃん……後は……エンヤ様と……運に任せましょう……マルドのカジノで大勝ちしたリンネちゃんと……私が居るので……今日も勝てます……」
「あと、おやさまもいるから、だいじょーぶだよね!」
ケラケラ笑うリンネと、カジノで大勝ちと聞いたバッカスとジーゴが、驚いた顔で二人に振り向く姿が、何とも奇妙な光景に見える。
それ以上に、更に頭を真っ白にする光景……リンネの手に、見覚えがあり過ぎるものが握られている。そのまま、首元に手をやった。
……今日の俺を支えていた唯一の装備品、「ピクシーの首飾り」が無くなっている。
いや、無くなってはいない。リンネが握っている。自慢げに、皆に見せびらかしていた。
その瞬間、全てを理解した俺は、何だか可笑しな気持ちとなって、大笑いした。
「ククク……ハーハッハッハッハ! 手癖の悪い子だな! テメエの差し金か!? エンヤ! うちのリンネをそそのかしたことを後悔させてやる! 奥義・無斬ッッッ!」
「何を言う。作戦だ! リンネは良い子だよ。おかげで、あいつ等の望みを果たせるッ! 奥義・乱絶破軍ッッッ!!!」
首飾りも無くなり、身体能力向上の効果も大幅に減り、気功スキルの力も素のものとなったので、鬼火は意味ない。となれば、振る度に威力を上げ続ける無斬が一番と、俺はエンヤに無間を叩きこんでいく。
しかし、エンヤも大刀を振り回し、俺と何度も打ち合っていく。エンヤが繰り出した技も、無斬と同じく、振る度に威力を増していくもののようで、徐々にエンヤから放たれる闘気が大きくなっていくと同時に、無間を纏う冥界の波動も大きくなっていく。
互いに一歩も譲らずに、ただただ刀だけを振り回し、打ち合い続けて何度目か、これ以上は大きくなれないと言ったところで、俺とエンヤは、同時に大上段から、刀を振り下ろした。
「「オラアアア~~~ッッッ!!!」」
まったく同じ気合のもと、振り下ろされたお互いの刀は、激しくぶつかり、凄まじい衝撃が辺りを襲う。
「くっ!」
「おねえちゃん! リンネもてつだう!」
衝撃波から皆を護ろと最後の力を振り絞って、障壁を展開させるツバキの前で、リンネも両手を前に出し、結界を張った。
「破られても気にするな! 俺達が護ってやるから!」
サネマサは、前に出て防御術・仁王を展開させ、全員を護る体勢に入る。
そこまでしなくても良いのに……。
……俺は、そう思いながら頭を掻いた。
その直後、少し離れたところで地面に何かが突き刺さる音が聞こえる。正面に居たエンヤはクスっと笑い、背中に背負った手裏剣を頭上で回し、風を起こして砂煙を払った。
「え……?」
どこからともなく、誰かの声が聞こえてくる。皆、俺達の姿を見て目を丸くしていた。
俺の手に、無間は無かった。エンヤの一撃で弾き飛ばされ、俺はその身に刃を受ける。流石に気を遣ってくれたのか、そこまで深くはないが、傷は負った。血が垂れる度に、力が抜ける感覚が俺を襲う。
「うぅ……!」
「おっと……」
全力を出し切り、俺はふらつきながら前のめりに倒れる。スキルも解いているので、かみごろしとひとごろしを、両方を使った反動も襲い、全く力が出なかった。そこを、エンヤが抱き止める。
「ああ……すまねえな……」
「気にすんな……で?」
悪戯っぽく聞いて来るエンヤに、俺はため息をつきながら笑い返した。
「ああ……お前らの……勝ちで良い……」
「そうか! それは、良か――って、俺もか!」
満足げに笑ったエンヤだったが、ここでツバキの力も尽きたのか、エンヤの体が輝き始める。
あれ、このままだと、俺、地面に倒れるのかな……そう思っているうちに、エンヤの声は段々と小さくなっていった。
「……まあ、お前に勝てて良かった。次は海賊相手に暴れてやろう――」
良いところで、エンヤの姿は光の粒子となり、斬鬼に戻っていく。その瞬間、俺の体は支えを失い、地面に倒れていった。
……そう思っていたが、モフッと何かが俺の体を支える。見ると、大きな獣の姿になったリンネが、その尾で俺を抱き止めていた。
そして、心配そうな顔で、口には回復薬の瓶を咥えていた。
「ク~?」
「ああ……ありがとう、リンネ……」
回復薬を受け取った俺は、自分の体にかけて傷を癒し、リンネの頭を撫でた。俺が元気になったことを確認したリンネは、笑顔になっていく。
「クワンッ!」
「ああ。元気にはなれた。けど、疲れても居る。このまま、少し横になっても良いか?」
「クゥ? クワンッ!」
リンネはそのまま、俺を包み込むように横になった。気持ちいいなあと思っていると、足音が聞こえてくる。
顔を上げると、リアとルイに支えられ、ツバキが歩いて来ていた。
「ムソウ様……羨ましいです……私も……」
ツバキもそのまま、俺の横に倒れるように、リンネの体に身を預けた。
「あ……気持ちいいですね、リンネちゃんは……」
「そうだよな……今日は一日、こうして過ごすのも良かったかもな……」
「ク~ウ~……」
「良い運動になったのでは……? ところで……ムソウ様?」
「ん?」
ツバキの方を見ると、先ほどのエンヤと同じく、こないだ見たばかりのコウカと同じく、あの頃のサヤのような、悪戯成功と言った、満面の笑みを浮かべていた。
「私達の勝ちで、よろしいですか?」
「……好きにしろ……どうせ……俺の金庫番は……お前だ」
そう言って、ツバキの額を人差し指で小突いてやった。ツバキはクスっと笑い、
「意地悪ですね」
と、呟きながら、リンネの頭を撫でていた。ある意味、一番の功労者だからな。
そして、リアとルイにより、待機していた他の者達にも、俺の敗北宣言が伝わり、全員で、今度こそ本当の勝鬨の声と、喜び合う声が聞こえてきた。
それと同時に、結界を解くアヤメ達。シロウ、ナズナ、ショウブが、汗を拭っている中、アヤメは、咳ばらいを一つつき、声高らかに口を開いた。
「それまで! 冒険者ムソウの降伏を認め、勝者、挑戦者連合軍!」
「「「「「うおお~~~!!!」」」」」
「「「「「やったあ~~~!!!」」」」」
「頭領に勝った~!」
「金貨1000枚だ~!」
「ッしゃあ~~~!!!」
アヤメに続き、喜びの声を上げ続ける皆。観覧席に居た女中や、牙の旅団、カドルも混じり、手を叩き合ったり、そこかしこで喜びを分かち合う声が聞こえてくる。
それを聞きながらうるせえなあと思いつつも、死神の鬼迫で黙らせるほど、俺は無粋ではない。
今は笑い合っていてくれ、俺は寝てるからと、ツバキと一緒にリンネの体を撫でながら、この気持ちよさを堪能していた……。
乱戦も会議系と同じく書きづらい。スパッとあーなってこーなってみたいな書き方で良いのか……と、悩んでます。多分、闘鬼神でもモンクの冒険者達の中には、何もやらず、死神の鬼迫で倒れた者達も少なくないと思いますwww




