第382話 天上の儀 ―世界が動き始める―
コモンの悩みを聞いてから、数日が経った。この期間、邪神族の存在と転界教という組織についての公表、十二星天シンジの正体等、天上の儀で決まったことを映像の魔道具を通して、民衆に広めていくという事業が、王都を中心として、各ギルドや領主、十二星天、トウガ達神獣、一部の龍族により行われていった。
最初は、各地で戸惑いによる混乱や、壊蛇に代わる新たな脅威が発表されたことによる不穏な空気が発生したりもしていたが、あの頃よりも人族が成長しているというシンキの発言と、俺と言う存在が人界に居るという事実により、徐々に収まっていった。
代わりに、俺の身の回りが少々騒がしくなったのも事実だ。九頭龍を倒したという事を既に知っているはずのトウショウの里の住民達は勿論、クレナを訪れる冒険者達が、ひっきりなしに俺を尋ねて家を訪れたり、ギルドで囲まれたりという事が発生した。
無下に追い払うと、面倒な事になり兼ねないので適当に相手をしていたが、俺自身が面倒だという意を汲んだジゲンや、闘鬼神の皆が、出来るだけそう言った者達を近づけさせないようにしてくれたりもしていた。
曰く、
「頭領を苛つかせて困るのは自分達」
とのことだったので、内心複雑な想いをしつつ、感謝はしていた。
邪神族の説明に、龍族の証言も必要と言っていたが、カドル含む、他の龍族が人界各地を飛び回るという事は無かった。
というのも、炎帝龍と氷帝龍、更に、地帝龍アティラとカドルは、人界の歴史について、事実だと証言するところを映像の魔道具に記録するだけに終わり、他の龍族については、連絡がつかなかったとのことらしい。
少し気になったが、それだけの証言があったこともあり、今では、人界全土で、今までの歴史が間違っていたという事が周知の事実として認められている。
この世界の創世に関わる問題だというのに、意外と受け入れるのは早かったんだなと思っていたが、コモン曰く、100年戦争自体がそもそも曖昧なもので、その出来事が本当だったかどうか疑う者が、現在でもやはり多かったという事が決め手になったとのこと。
例の、ジーンの一族である冒険家の物語の事もあったし、100年戦争が無かったとしたら、そういう歴史もあったんだなと、すぐに納得できたとのことだ。
突然現れた壊蛇と言う存在についても、実は、邪神族という種族が居て、その影響で生まれたという事実も発覚したことで、邪神族の存在も受けれ入れることが出来た。
そして、邪神族に対して、最初は不安な気持ちでいっぱいだった者達も、かつて邪神族と闘い、殲滅とはいかなくても勝利を収めた存在であり、太古から伝えられてきた、神話の人物であるシンキの存在と、壊蛇に並ぶ天災級の魔物を単騎で倒した俺と言う存在に加え、これまで、十二星天が行ってきた偉業等々、それに対する備えは充分だと気付いた者達から、徐々に平静を取り戻していき、公表当初に比べて、本当に世界は落ち着いている。
ただ、未来で勃発するであろう邪神族との闘いよりも、人々が不安だと思ったのが、転界教の存在だ。奴らは、現在、この世界を暗躍しているという事で、ある意味、邪神族よりも、人々が恐れる対象になったことは言うまでもない。
しかも、今の所、その詳細もはっきりと分かっていることは少なく、人が多い町などで、少々、取り締まりなどが強化されたのは事実だ。
これに関しては、住みづらいだろうなと思いつつ、ここでも何度も奴らの事件を解決してきた俺の存在と、リオウ海賊団と違い、転界教には、既に十二星天も動いているという事実が、人々を安堵させるきっかけとなった。
皆の期待には応えてやらねえとな、と思いながらも、俺は十二星天に転界教を任せ、目の前のリオウ海賊団に集中することにした。
……まあ、その前に、シロウ達の祝言だがな。準備の方は大体進んでいる。後は、アヤメの仕事が落ち着くまで、ということで、俺達は、細かな準備を整えつつ、前と同じ生活に戻っていった。
リオウ海賊団について、ダイアン達も連れていく旨を話したところ、最初は驚かれたが、コウシ達の勧めもあって、皆は渋々と言った感じに納得してくれた。
そんなに自信ないのかと聞いたところ、
「いや、頭領と一緒ってのが、不安で不安で……」
「また、変な事にならないわよね? 私も、緊張するわ……」
「リアは二回目だから、まだマシでしょ? 初めてが海賊退治って……」
という、何とも頭を抱えたくなる言葉が返ってきた。
なので、しばらくダイアンやルイ、チャン達を連れて依頼に出ることもあった。無論、ツバキとリンネも一緒である。というか、二人が来ないと、ダイアン達も安心できないとのことだった。
ただ、その中でも、ハルキだけは、カドルたっての頼みで、俺と二人きり、しかも、雷雲山の雷帝獣という、雷獣の上位個体の討伐に向かったこともあった。
内心、ハルキと同じく、俺も気乗りはしていなかったが、修行を進める為にというソウマの言葉もあり、渋々ながら、青い顔をするハルキを連れて雷雲山に向かった。
ここで行う事は、雷帝獣の討伐だけで良いのだが、ハルキが雷を完全に克服し、出来る事なら雷を貫けと言う無理難題をカドルが提示し、いつものように早々に帰るという事は無かった。
「お前も大変だな……」
「はあ……雷を貫けって、意味が分かんねえっすよ……」
「ちなみに、雷嫌いは克服できそうなのか?」
「あ、それはもう、問題ないです。毎日、あれだけ撃たれれば、慣れました」
「それは良かったな。しかし、流石に雷を貫くことはまだまだ無理だよな? 何でまた、こんな課題を、あいつ等はお前に押し付けたのか……」
「何でも、頭領は雷を斬ったことがあるってカドル様が仰ってて、見習えとの事でした」
俺が雷を斬った……ああ、カドルが九頭龍だった頃に一度だけやったら出来たことだな。
斬ったというよりは、弾いたんだが……。
そして、それをハルキにも、か……。
「なるほど……難しいが……じゃあ、手本を見せてやる」
お願いしますと頭を下げるハルキの前で、取りあえずかみごろしとひとごろしを同時に発動させ、限界まで身体能力を上げた。
そして、雷雲山に常時漂っている雷雲を見上げながら、無間を構え、意識を集中させる。
……いや、そもそも雷がどこを狙ってくるのか分からない。自然発生のものだからな。あの時は、九頭龍が俺を狙っているという事が分かったから、迎え撃つことが出来たわけで……。
などと思っていると、空気が振動する感覚があり、次の瞬間、雲から雷が落ちてきた。
「オラァッ!!!」
落雷の感覚を覚えた瞬間に、無間を振るった。バチンッ! と無間に振動が伝わると同時に、雷を弾くことに成功した。
出来たという事に、自分でも、自分に引きつつ、スキルを解いて、ハルキに振り返った。
目と口をあんぐりと開けて、俺の事を呆然と見ている。
「すげえ……流石っす……頭領……」
「……やはり、これに関してはお前には早いんじゃねえか?」
「かもしれないっすけど、コツは分かったっす。後は、来ると分かった時に槍を振れば良いっすから」
そう言って、ハルキは槍を構えながら空を睨む。
……若いって良いな。もう、コツを掴んだのか。ハルキ曰く、雷を恐れて、いつ来るかとか、どこに落ちるか等、人一倍に注意していたら、何となくの感覚で、雷がいつ、どこに落ちるか、事前に判断できるようになったらしい。
俺みたいな変な能力が、ハルキにも備わったかと、どこか誇らしい気持ちになっていた時だった。
再び、俺達の周りの空気が少し振動する。
いよいよ来るかと思い、ハルキに目をやった次の瞬間。目の前が強い輝きに覆われた。
「ギャアアアアアア~~~!!!」
そして、響き渡る轟音とハルキの悲鳴。見ると、体中を真っ黒にしながら、煙を立ち上らせ、その場に倒れるハルキの姿があった。
……結局無理だったかと、回復薬をハルキにかけた。傷が癒されたハルキは、気まずそうな顔で俺の方を見てくる。
「……すんません」
「いや……良い。今日はもう帰ろう」
「……うっす」
というわけで、俺達はそのまま下山。街に帰ってから、課題を達成できなかったハルキを責めるカドルとロウに、俺から大説教を与えた後、祝言までは、取りあえず自然発生のものではなく、ハルキを狙い、いつ向かってくるか分かるように、カドルが雷を起こして慣らしの意味も込めた鍛錬をしろと命じた。
シュンとしたカドルが不服そうだったので、死神の鬼迫を当てると、素直に頷いてくれた。
そして、しばらく俺の家から、大きな太鼓を打つようなドーンっという音と、ハルキの悲鳴が轟くようになったのは言うまでもない。
さて、ハルキを始め、他の者達とも依頼をこなすようになってから更に数日が経ち、一つだけ嬉しいことが起こった。
モンクの冒険者ジーゴが、ようやくクレナを訪れたのである。連絡を受けたバッカスと共に、俺の家で待っていると、のそっと門からジーゴと、その一団が庭に入ってきた。
ジーゴは、バッカスの隣にいる俺と、何故かツバキを目にした途端、驚いたような顔をする。
「おぉ……ザンキのオッサンが、噂の冒険者ムソウだってことにも驚いたが、まさかアンタも、このオッサンの関係者だったとはな……」
ジーゴは、俺がモンクから離れるまでは俺の正体を知らなかったようだが、今回の天上の儀で俺の事も人界で公表された時に、ガーレンから俺の正体を聞いたらしい。
だが、俺の正体を知っても、騙されていたという事に気付いても、怒ることは無く、“破壊鉄球”の異名は伊達では無いというところを見せたいついでに、報酬が元に戻る前の短い間に、クレナで一儲けしに来たのだという。
なかなか、同じ目線の友人というものが出来なかったのだが、バッカスも居ることだし、ありがたいことだと思っていた。
しかし、ジーゴはどちらかと言うと、ツバキにも驚いているようだった。
ジーゴだけでなく、シータというジーゴの仲間の魔法使いや、その他の者達も、ここに、ツバキが居るという事に驚きを隠せないでいるようだ。
ふと、ツバキを見ると、ツバキもジーゴ達と同様に少し驚いたような顔をしていた。
そして、一歩前に出て、申し訳なさそうに口を開く。
「なるほど……例の一件で処罰を受けた冒険者と言うのは貴方方でしたか。その件については本当に申し訳ございませんでした」
そう言って、ジーゴ達に頭を下げるツバキ。何が起こっているのか分からなかったので、聞いてみると、ツバキがリンネを助けにアマンの店に行った際に、貴族やアマンが雇い、警護をしていた冒険者の一団がジーゴ達だったという。
つまり、ジーゴ達の依頼で犯した失敗というのが、貴族達からの依頼とは言え、犯罪に手を染める荷担をしてしまったということらしい。
あれは仕方ないことだよな、とバッカスと話していると、慌てた様子のジーゴがツバキの頭を上げさせた。
「いやいや、あの事は、お姉さんが気にすることじゃねえと言ったはずだ。俺達も、アレで納得している。寧ろ、お姉さんには俺達を止めてくれたってことで感謝しているくらいだ。だから、謝らないでくれ」
な? と言って、ジーゴはシータ達にも同意を求めた。全員、コクっと頷き、ツバキの謝罪を拒否する。
ツバキは、目を見開いたがすぐにフッと微笑み、コクっと頷いた。
すると、バッカスがニヤニヤしながら、ジーゴに肩を回す。
「それで、ジーゴ達はこの嬢ちゃんにコテンパンにされたって?」
「ぐぬ……」
バッカスに茶化されても本当の事なので、何も言えないでいるジーゴ。
このやり取りも、久しぶりに見る気がするが、ここで喧嘩になっても困ると、バッカスを止めた。
「やめろよ、お前ら。大体、バッカスも俺に挑んで無様に負けただろ。人の事ばかり言うなって」
「はあ!? バッカス、お前、オッサンとやり合ったのか? 馬鹿じゃねえの?」
信じられない、という顔のジーゴに、バッカスは反論する。
「いや、喧嘩売ったわけじゃねえって! ギルドに面白え依頼があったから、試しに挑戦しただけだ……まあ、予想通りの結果に終わったが……」
「面白え依頼って……ああ、ムソウのオッサンを倒せたら金貨1000枚ってやつか。誰がやるんだよ、あんなの。つーか、オッサンの事も世界中に知れ渡ったから、もう、あの依頼に挑む奴なんて居ないんじゃないか?」
ジーゴの言葉に、確かに、と頷くバッカス。俺も言われてそう思った。
俺の顔も能力も、世界中に広まっている。確かに、愛想よくされたり、拝まれたりと縁起物のような扱いをされることは増えたが、以前のように喧嘩を売られるという事は減った。
ジーゴ達の言うように、そろそろあの依頼票も剥がした方が良いよなと思っていると、あ、と言ってバッカスがジーゴの肩を叩く。
「何なら記念に、お前もムソウと闘ってみるか?」
「はあ? 何で、そんな危ねえ橋、渡らねえといけねえんだよ」
「おーおー、モンクの冒険者が情けないねぇ~。だからカジノにも負け続きなんだよ」
「最近は勝ってる! 見ろ、この鉄球。ようやく取り返したぜ~」
誇らしげに、鉄球をバッカスに自慢するジーゴ。挑発など意に介さないという様子だ。
しかし、バッカスも諦めることなく、更にジーゴと俺を戦わせようとする。
「へえ~……だったら、その鉄球でムソウを倒してみろよ。上手くいけば、金貨1000枚だぜ?」
「はッ! さっきも言ったが、そんな賭けにもならねえことなんざやらねえよ。大体、あの依頼、未だに達成できた人間は居ないって聞いたぜ? お前もやったんだろ? そして、手を抜いたオッサンに負けたんだって? そこまで分かっててやる俺じゃねえよ」
頑なに、俺との闘いを拒否するジーゴに、バッカスはしばらく黙り込む。
ようやく諦めてくれたかと、胸を撫で下ろしていると、バッカスは再び、あ、と言って、口を開いた。
「ならよ、久しぶりに俺達とお前らで組んでみるか? 共同で、ムソウのオッサンと闘うってのはどうだ?」
「「はあ?」」
バッカスの提案に、俺とジーゴは同時に変な声を上げた。何故、バッカスはここまで俺と闘いたいのだろうか。
こないだの事がよほど悔しかったのだろうか。ジーゴは、横で、それでも結果は変わらねえだろとか言いながらも、この人数ならあるいは、という感じの顔つきになってきた。
意志をしっかり持って断れよと思っていると、屋敷の中からジゲンの声が聞こえてくる。
「ふむ……何やら面白そうな話をしておるのお」
「なっ!? と、“刀鬼”!?」
襖を開けながらのそっと顔を出すジゲンに、ジーゴは目を見開く。何となく、久しぶりに、ジゲンが、この世界の誰もが知っている人間だという事を感じた。
初見のジーゴはまだしも、慣れた様子のバッカスは、よお、と手を振る。ジゲンは、うむ、と頷きながら、バッカスとジーゴ、そして、ジーゴが連れた冒険者達をまじまじと眺めた。
緊張した面持ちで、ジーゴがジゲンに声を掛ける。
「あ、あの……と、“刀鬼”さん……い、いや、“刀鬼”様。俺達に何か?」
「ほっほ、そんなに緊張せんでも良い。儂の事はジゲンと呼んでくれ」
「は、はあ、ジゲンさん……それで……?」
「うむ……お主らと、バッカス殿達の連合でムソウ殿を、か……儂も、良いところまでいけると思うぞ」
ジゲンの一言に、目を見開くジーゴと、何故か発案者のバッカス。そして、若干驚く俺。
ジゲンまでも、コイツ等と俺を戦わせることに賛成の様だ。
ここしばらく、世界が変化していく中で、俺達の周りはそんなに変わったことが無く退屈だったからか、何か、面白いものを見たくてうずうずしている子供の様な顔をしている。
ちなみに、アヤメとロロがジゲンへのお土産にと買ってきた茶の道具は、大切に使っているようだ。たまと共に、取りあえず、ロロが選んだ茶を立てては、俺やツバキ、闘鬼神の者達に振舞っている。
正直に言えば、あまり美味くは無いが、温かみのある良い味だと、皆で笑っていた。
今日も静かに茶を立てていると思っていたのだが、やはりこの男は闘いというものが好きなようだな。
さて、ジゲンに良い所まで行くと言われたバッカスとジーゴ達は、それぞれで話しながら、徐々に俺への戦闘について意欲的になっていく。
「おい、バッカス。ジゲンさんに言われたら、少しだが、自信が出て来たぞ。お前らの戦力はどれくらいだ?」
「一応俺のパーティは全員揃っている。その他、モンクのスレイン、リリアン、カーソン、ルノー、ナスチャ達も居るぞ」
「ふむ……それなら、あるいは……シータ、どう思う?」
「どうだろ……? だって、私達でもツバキさん一人を止められなかったのよ? ちょっとやそっと、戦力が増えたからって、おじさんを止められると思う?」
シータの言葉に、バッカスとジーゴは、う~んと困った顔で項垂れていく。
よし、良いぞ、お前達。そのまま、俺の事は諦めて、ギルドの依頼を一緒にこなしていこう。
そう言おうとした時、ツバキとジゲンがバッカス達に声をかける。
「あ、バッカスさん、ジーゴさん。それでしたら、私もそちらに加わって、皆さんのお手伝いをいたします」
「ついでに儂もじゃ。それと、闘鬼神の者達も連れて行くとしよう」
「はあっ!?」
二人の言葉に、それまで余裕だった俺の気持ちが、一気に狭くなっていき、バッカスとジーゴは、水を得た魚のように喜びに満ちていく。
「騎士の嬢ちゃんはまだしも、“刀鬼”様が!? 俺達と闘ってくれるのか!? 本当か!?」
「ハハハ! そら見ろ! やはり、最近の俺はツイてる! 一気に勝率が上がった!」
「こうなったらやるしかねえな、ジーゴ!」
「あたぼうよ! クレナの初戦はムソウのオッサンで決定だ~!」
「待て待て待て待て!」
バッカスとジーゴの声に合わせ、モンクの冒険者達は拳を突き上げ、お~! という声で応える。全員、腹を括ったらしい。
俺はすかさず、ツバキとジゲンに詰め寄る。
「おい! 何勝手な事言ってんだ! コイツ等はまだしも、お前らは俺の家の人間だろ!? そんな得も損も生まれないようなことするなよ! というか、お前らとダイアン達まで加わったら、俺の身の方が危ねえよ! しかも、今は全員が街に居るんだぞ! 総力戦じゃねえか!」
そう。一番の問題は……いや、俺にとっては、ジゲンが参戦することも、ツバキが相手側として参加、場合によってはリンネも参加することも一大事なのだが、現在、何の偶然か、闘鬼神の全員が揃っている状態となっている。
偶々、誰も依頼に出ることなく、家で過ごしたり、洞窟で鍛錬していたり、たまの買い物に付き合ったり、各々の休日を過ごしている。
なかなかないので楽しいなとは思ったが、こうなると話は別だ。バッカスとジーゴの元には、ツバキ達も認める手練れの冒険者が、それぞれに20人ほどで、合わせておよそ40人。闘鬼神もそれくらい。
そこに、ツバキと、ジゲンが加わるとなると、多少本気を出さなければこっちの身が危ない。
最近は、世界の変化などの影響や、アヤメから貰った、リオウ海賊団の資料に目を通し、戦略を練ることで、多少疲れていたからな。
ジーゴも来たことだし、しばらくゆっくりしようかと思っていたのにこれだ。
何としても、特別依頼を止めたいと思っていたが、ツバキとジゲンは、にこやかな顔のままだった。
「うむ。儂らとムソウ殿の総力戦じゃ。これからの時代に、ムソウ殿にどれだけついていけるか、ムソウ殿も確認しておきたいのではないか?」
「それと、ダイアンさん達も、他の冒険者の皆さんと、どこまで張り合えるか気になってらっしゃると思いますし、修行の成果をお見せしたいと思っています。コクロに共に向かわれる方々の選別もまだですし、この際に、皆さんの実力を計るというのはどうでしょう?」
もっともらしいことを言ってくる二人だが、何となく本心からの言葉では無いと勘が告げる。
二人の目をまっすぐと見ながら、咳ばらいを一つついた。
「……本心は?」
すると、二人は、フッと微笑み、口を開いた。
「最近、運動をしておらんでな。体を動かしたいのと……此度の天上の儀……何やら、儂の事も悪く言われた様じゃったな。サネマサとアヤメが代わりに怒ってくれたとは言え……許せるわけない。しかし、儂が王都に乗り込むわけにもいかん。どうにか、この鬱憤を晴らしたくてのお……」
「私は、ご迷惑を掛けてしまったジーゴさん達へのお詫びのつもりです。それから、カイハク様の件について、私は納得しておりませんので、どうにか、胸のもやもやを発散したく……」
ジゲンとツバキが、何か恐ろしいことを言っている。
殆ど、天上の儀に関しての八つ当たりじゃねえか。
しかし、納得も出来る。ツバキは、騎士としての義務を果たしただけなのに、その義務を決めたリーが、それに反することを平然と行っていたという事に対し、苛立っているようだ。
ジゲンも、覚悟はしていたがケリスの事ではなく、過去の事を蒸し返されたことで起こっているらしい。
その怒りを鎮めるには、思いっきり体を動かして発散させたいとのことらしい。
満面の笑みの裏で、凄まじい事を考えているんだなと思い、ツバキにもそれ以上は何も言えず、ただただ二人に頷くだけとなった。
「……分かった。その代わり、俺も少し本気でやるから、死なねえように自分達で気を付けろよ」
そう言うと、ツバキとジゲンを始め、バッカスやジーゴ達も手を上げて喜んでいた。
「うむ。では、バッカス殿、ジーゴ殿。ムソウ殿にバレぬよう、戦略を立てるとしよう」
「ウッス! “刀鬼”様の迅雷が如き戦法、学ばせて頂くぜ!」
「ほっほ、頼りになるのお。アイリーン殿もよろしくのお」
「はい。うちの大将がお世話になります」
「まさか、ここに来て最初の闘いがムソウのオッサンで、騎士の姉ちゃんとの共闘とはな。やはり、ツキは良いようだ」
「それがいつまで続くか、心配ね……」
「シータさん、そんなこと仰らずに……ジーゴさんの“破産鉄球”には期待しておりますから、大丈夫です」
「……“破壊鉄球”な」
などと盛り上がりながら、家へと入っていくジゲン、ツバキ、それにつれられて、バッカス、ジーゴ一行。
しばらくすると、中に居る冒険者達から、裏の洞窟で稽古している者達にまで話が広がっていき、その日の午後は、まるまる、俺を抜きにした戦略会議が、俺の自宅で行われることになった。
戦いは明日という事で、それまで時間を潰してくれと、ジゲン達に家を追い出される。
ここ、俺の家なのに……。
まあ、それは冗談で、夕方まであいつ等の作戦を聞かないようにと、家に入らないようにした俺は、事の顛末をギルドに居るアヤメに報告し、依頼の手続きを行った。
アヤメからは再三、ギルドを壊す真似だけはするなと釘を刺された。
「……しかし、それはなかなか面白そうだな。叔父貴も参戦するとなると……よし、明日はシロウ、ナズナ、ショウブの三人を連れて観戦するとしよう。俺も最近、ドタバタして退屈だったからな」
「ドタバタして退屈って何だよ……? まあ、良い。業務に差し支えないようにな」
という事で、明日はアヤメ達が観戦ついでに、結界を張ってくれることとなった。ミオン一人の仕事だとキツイものがあるからな。
まあ、良いだろうと納得していると、ギルド常勤の治癒士として、ギルドに来ていたロロが、困ったような顔をして声を掛けてくる。
「あ、あの、頭領……私は……?」
「ん? どっちでも良いぞ。俺と闘っても良いし、後で俺か皆の治療をしてもらいたいから、アヤメと一緒に観戦して貰っても良いし……」
「うぅ~……悩みますが、私も闘鬼神です。皆さんと一緒に、頭領を倒します……」
散々悩んだ挙句、ロロが選んだのは、俺と闘う事だった。闘います、ではなく、倒しますと言い切る辺り、王都でだいぶ精神も鍛えられたのかなと、アヤメと共に笑った。
ちなみに、ロロも、あまり表を出ない方が良い人間となっている。ウィズ達と共に、新たな十二星天の弟子として、全世界に顔と名前が広まることとなった。
そして、その人気にあやかろうとしている者も多く、実際、俺の元に来た冒険者や、旅人、商人の中には、ロロにも会いたかったという人間も多く、ロロもそれなりに可愛らしい顔つきをしているので、中には、どうしても直接会いたい奴が、わざと怪我をしてギルドに運び込まれるという事もあるようだ。
一応、ジェシカにも相談したのだが、すぐに慣れるから、それまでは我慢と言われたので、ロロは我慢している。どうしても、と言う輩が現れた時などは、アヤメ自ら追い払ったりしているらしい。
ありがたいとは思うが、アヤメがロロに構うことで、ミオンとかが嫉妬してしまわないかと、少し心配した。
結果的に完全に俺の杞憂だった。聞けば、かなり仲良くさせてもらっているらしい。
そういや、闘鬼神内でも、同年代の友人が、ロロには少ないからな。女中も合わせて、一番歳が近い者とも、四つは離れている。
ギルド内にも、ミオンと同じくらいの者は居ないようだし、案外気が合うのかも知れない。
俺にも、同年代の友人が出来たことだし、新しいお友達は大切に、と、リンネに言った言葉と同じものをロロに言うと、子供らしい笑顔で、はい! と頷いていた。
その後は、天宝館のヴァルナの元を訪れ、以前頼んでおいた俺達の装備についての打ち合わせを行った。
ちなみに、コモンはと言うと、天上の儀で決まった、街の防備を整えるという作業を行う為、ミサキと共に世界中を回っている。と言っても、一日の終わりには家に帰ってくる。
街壁を修復・強化するという作業も楽しいことは楽しいのだが、やはり一番は、武具を作ることと言って、この作業は早く終わらせたいとのこと。珍しく、動ける職人を総動員させて、街の耐久性を高める作業を、コモン一人ではなく、手分けして進めている。
何でも、シンキから貰ったという、邪神族に対抗するための装備について記された書物を解析しているらしく、未知の工法や、新素材を目にして、数十年ぶりに胸が高鳴っているという。
ちなみに、この書物、この世界のものではない文字で書かれているらしく、シンキやヴァルナは読めないらしいが、俺とコモンはスキルのおかげで読むことが出来た。
そうは言っても、俺には何が何だかさっぱりだ。これはコモンと、書物に書かれている新素材を生み出せるミサキに任せて、俺達は新しい装備を楽しみにしておこう。
というわけで、俺には今、鎧や小手などの装備が無い。明日はピクシーの首飾りと無間だけで皆の相手をするわけだ。
ヴァルナに相談したところ、
「全装備だとお前が勝つに決まってる。あいつ等への手加減ってことにしておけ」
と、一蹴された。なるほどとは思ったが、相手にはジゲンが居る。そう簡単にはいかないだろうなと更に頭を抱えた。
そして、ヴァルナは、何となく面白そうだとアヤメみたいな事を言って、皆の動きを見ながら、どのような武具を作っていくか参考にしたいという建前の下、明日の俺達の闘いを観戦することに決めた。
コモンの方は外での仕事があるから来ることは無いが、代わりに、映像の魔道具でどんなものかを記録したいとのこと。今後の俺達に関わることなので、もちろん了承した。
「あ、そう言えば、コモンの直弟子ってのは居るのか?」
俺は、ふと気になったことを聞いてみた。すると、ヴァルナは、不思議そうな顔をして、口を開く。
「ん? 知らなかったのか。一応、私とギリアンという事になっている」
「え……じゃあ、マシロにはサネマサとコモン、二人の十二星天の弟子が居るってことなのか?」
「そう言うことになるな。そして、今ではクレナにも二人の十二星天の弟子が居るって事になるな」
ヴァルナはニッと笑いながら、喉を鳴らした。
この世界に来て、初めて訪れた街に、十二星天の直弟子が二人も居たというのは、本当に運が良いな。しかも、ギルド支部長と、鍛冶職人という、俺の生活に沿った者達だ。
ロウガンにギリアン。二人には本当に良くしてもらった。
そして、今はヴァルナに世話になり、ロロに関しては、俺の“家族”となっている。何とも可笑しくて不思議な縁だなとヴァルナと共に笑った。
そうこうしているうちに、外では夕方になって来たのか、部屋の扉が開き、外からコモンが入ってきた。
「あ、頭領。お越しになられていたんですね」
「おう、邪魔してるぜ。今日も、お疲れの様だな」
「いえいえ、この程度は問題ないです。後一か月ほどで全ての街を回ることが出来ますので、頭領や皆さんの装備、それにリンネちゃんの首飾りについてはその時にでも、始めていきます」
「後一か月ってことは……コクロに行くまで時間が少ないな。大丈夫か?」
「ええ、もちろん。お任せください」
トンっと胸を叩くコモンだが、無理だけはするなと、念入りに伝えておいた。
そして、何故ここに俺が居るかと不思議そうな顔をしたコモンに、明日の事について説明し、今は、作戦会議中の皆の為に家を追い出され……いや、皆から離れていると伝えると、コモンはクスっと笑った。
「皆さんと、異名持ちの冒険者の一団、それにジゲンさんですか……一筋縄ではいかないでしょうね」
「お前だけだ、そう言ってくれるのは。まあ、俺にも面子ってものがあるからな。悪ぃが本気で行かせてもらう」
「直接応援できないのが残念ですが、頑張ってください。ヴァルナさん、しっかりと記録の方はお願いしますよ」
コモンの頼みに、ヴァルナは、ハイハイと了承した。
ちなみに、コモンの方は俺と闘う気は無いらしい。モンクでの手合わせで、まだまだだと感じ、せめてEXスキルを極めるまでは、俺と手合わせはしないという。
忘れそうになるが、コモンは、俺やサネマサ、ジゲンのように好戦的ではない。それでも、壊蛇と直接戦ったほどの力を持っているから、本当に忘れそうになるが、コモンは元来、優しい人間だ。
明日、仮にコモンまでも加わったら、本気でヤバいと思っていたが、杞憂だったようで安心した。
さて、そろそろ帰ろうかと思っていると、コモンが何かを思い出したように口を開く。
「あ、そう言えば、頭領。三日後から、ジーンさんとレオさんが、クレナ領の、頭領が荒らした地の調査をしにここに来るそうですが、その際に家の部屋を貸して欲しいと仰っておりまして……」
「ん? ギルドとか宿には泊まらないのか?」
「ジーンさんも、コクロの件もあるから頭領に慣れておきたいと仰っておりました」
どういう理由だよ、と思ったが、天上の儀で起こったことを考えると、エレナやセインよりはマシか。俺と言う人間を調べたいらしい。
まあ、そもそもジーンと言う人間に対しては、俺もそこまで嫌悪感を持っていない。寧ろ、好意的だ。
いわゆるミサキ派の人間らしいし、天上の儀に置いても、ロロの事を護ってくれたりと、向こうも俺に嫌悪感を抱いていないようだからな。
ジーンの言うように、コクロで共に海賊団の討伐をするのなら、早めに慣れてもらっておいた方が良いか。
そう思い、コモンに頷いた。
「分かった。歓迎すると伝えてくれ」
「かしこまりました。ジーンさん、頭領ともう一度会えるかもしれないと楽しみにされていたので、喜ぶと思います」
コモンの言葉に、何か、引っ掛かりを覚えた。
「ん? ちょっと待て。俺ともう一度会えるかもって……俺はジーンと会ったことがあるのか?」
「え? ……あ、そう言えばそうですね。頭領はどこでジーンさんとお会いになったのですか?」
「いや、知らねえ。少なくともジーンは、俺に会ったことがあると?」
「はい。いつ、どこでとは仰っていませんでしたが、その時から、頭領の事は、悪い見方をしていないと仰っていましたよ」
「ふむ……よく分からんが……まあ、会った時の楽しみという事にしておくか」
結局、ジーンと言う男とどこで会ったのか思い出せなかったが、直に対面するのだから、今考えても仕方ないかと思い、俺は、ジーンとレオがここに来るのを楽しみにしておくことにした。
その後、俺とコモンは天宝館を後にする。転送魔法で帰ろうかと思ったが、何となく味気ないと思い、歩いて家路についた。
すると、ギルドでの仕事が終わったロロとも合流し、三人で帰ることになった。
後ろでロロとコモンが明日の事について盛り上がっている中、俺は一人、どう戦おうかと考えていた。
今回は、本当に多少の本気を出さなければ危ない。かと言って、やり過ぎると、皆を斬ってしまうかも知れない。
取りあえず、いつも通り、すべてをきるものは防御くらいでしか使わない。ジーゴの鉄球を斬ってしまうと、大変な事になりそうだ。
ちなみに、コソッとスキルを使って鉄球を視たところ、切れ目は見えた。スキルを使えば斬られるという事は、斬らないことも出来るはずだ。そのあたりはしっかりとしておこう。
かみごろし、おにごろし、ひとごろしは、相手にジゲンが居る以上使わないといけないだろう。兵力差も、光葬針で補うことも出来る。そう言った戦法もありかも知れない。
ただ、鬼神化は辞めておこう。あれを使うと、恐らくだが楽しめないと思っている。せっかくだから、すぐに勝負をつけることは辞めるとしよう。
無論、というか、わかり切ったことだが、偶像術は使わない。あれを使う時って、邪神族襲来までの間にあるのだろうか。なんとも、使いづらい力を得たなあと頭を掻く。
皆とギルドを傷つけたくないので、使わないことにしよう。
さて、俺自身が気を付けるのはこれくらいか。後は、俺も死なないように闘うだけ、と思いながら歩いているうちに花街に着いた。
相変わらず、活気で溢れており、既に、以前と変わりない姿に戻っている。変わったところがあるとすれば、路地裏を見ても、何も居ないという事だ。気配を探っても、特には感じない。店の裏で煙草をふかしている奴くらいだ。
こうやって見ると、花街の風景も悪くないのかも知れない。客を呼び込む男衆、妓楼に入るか、財布を見ながら悩む冒険者や貴族、妓楼から階下を見下ろしながら手を振る妓女……よく見たら、シュンカだ。
シュンカが手を振った先に居る冒険者達は、高揚した顔で妓楼に入っていく。せいぜい搾られるなよと思いながら、道を進んでいった。
すると、俺達とすれ違った者達や、道に居る者達からの声が聞こえてくる。
「お、十二星天のコモン様と、この街を救った冒険者ムソウ、それにジェシカ様の弟子であるロロさん。すげえ面子だな」
「ああ。あの三人が同じ屋根の下で暮らしてるってのは本当らしい」
「お、おれ、声かけてみようかな」
その男の言葉に、コモンは笑みで返し、俺は無視し、ロロは恥ずかしそうな顔で、俺を盾にするように身を隠した。
コモンに微笑まれた男は、恍惚した顔で、胸を抑え始める。それを見ながら、良い趣味だな、と思ってしまった。
「何で、笑い返すんだよ。変な奴だったらどうするんだ?」
「もう、そう言うのは気にしなくなりました。まあ、今まで何も無かったんで大丈夫です」
「うぅ~……早く慣れないと……」
「俺もだな……」
ガクッと落ち込むロロの頭を撫でながら、俺もため息をつく。
すると今度は、反対側から女の声が聞こえてきた。
「キャー! あのムソウって人、ロロ様の頭を撫でたわ~! あの二人、そういう関係!?」
「えー? でも、噂じゃ、冒険者ムソウには常に、綺麗な女騎士が付いてるってさ」
「あ、知ってる知ってる! ツバキ様でしょ? こないだ、この街で見たけど、お綺麗だったわ~」
「あの人、節操がないのね。自宅に、何人もの女の人を侍らせてるって」
苛つく以前に、頭を抱えたくなる内容だ。酷いものだな。
見ろ。ロロがサッと俺から離れて、何度も頭を下げて来るぞ。そう言うのは辞めてくれ。
しかも、最後のは何だ。誰が女を侍らせてるって? これ以上、変な噂を広められると、面倒な事になりかねないな……。
―死神の鬼迫―
「「「「「ゔッ!?」」」」」
俺の周りに居た者達が、一斉に顔色を悪くする。それと同時に、コモンが慌てた様子で肩を叩く。
「頭領、落ち着いてください! 漏れてます、漏れてますよ、殺気が!」
「あ゛? ……ああ、すまない……つい、な……」
コモンに諭された俺は、いつの間にか発動させていた死神の鬼迫を解いた。
何だったのかという顔の道行く者達は、その感覚の元が俺という事に気付き、それ以上、俺達をチラチラ見たり、コソコソと何か話すという事はしなくなった。
ようやく、静かに帰られると思い、上機嫌になっていると、今度はロロが肩を叩く。
「頭領~。一応、私、“聖母”様の弟子なんです! そういうのは辞めてくれませんか?」
ジェシカの弟子だから、殺意で屈服させるような恐ろしいことはしないでくれという事か。なるほど、一理ある。
しかし、コイツにこういうことを言われるとは思わなかったと、少し意地悪したくなり、ニッと笑いながら、ロロの頭にポンと手を置いた。
「……ホント、言うようになったな……それだけ強くなっているのなら、明日は期待しておこう」
そう返してやると、ロロはビクッと身を震わせながら、コモンの陰に隠れた。
「うぅ~……すみません、皆さん……」
俺を本気にさせたと思ったロロは、ここには居ない、闘鬼神の皆に謝る。俺は皆に怒ったわけではないがな。
ほんの冗談で言ったつもりが、本気にしたらしい。
そんなロロがおかしくて、クスクスと笑っていると、コモンが、ため息をついた。
「頭領は相変わらずですね。間違っても、エレナさんやセインさんに、それは駄目ですよ。こないだの相談が、水の泡になります」
コモンにそれを言われたら駄目だと思って、適当に頷いてやった。
「ハイハイ。すまなかったな、ロロ。飴買ってやるから機嫌直せ」
「……はい」
露店で買った飴を渡すと、すぐに受け取り、口に運ぶロロ。十二星天の弟子で、王都で強くなったと思ったが、やはりまだまだ子供なんだろうなと思いながら、俺達は家路を進んでいった。




