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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第381話 天上の儀 ―コモンの悩みを聞く―

 その後、ロロはエンライと共に俺の家に帰った。何でも、復活した牙の旅団とカドルをエンライが一目見ておきたいとのことだ。たっぷり楽しんだら、コモンと共にシンムの里に帰るという。

 ツバキは、ジゲンを伴って刀精の祠に向かった。こちらに関しては、ジゲンがコウカを確認したいという事と、天上の儀について、エンヤ達の意見を聞きたいとのことだった。

 そういう事ならと、アヤメは花鳥風月をツバキに渡す。実際に王都に居たタカナリも居れば大丈夫だという事で、ツバキは受け取った。


 俺の方は、今日やることは既に終わったし、アヤメが帰ってきて、ジゲンが領主代理を終えて、以前のように常に家に居るので、俺の謹慎も解けたという事で、明日以降に挑む依頼を決めておこうと執務室を出ようとした。

 すると、コモンが俺を呼び止める。


「あ、ムソウさん。少し、ご相談があるのですが、よろしいでしょうか?」

「相談? まあ、構わねえが……」


 すごく改まった様子に首を傾げたが、別に良いかと思い、再び椅子に座った。にしても、相談ならば皆が居る時にでも良かっただろうにと思いながら頭を掻く。


「で、何だ? まさか、お前もコクロに行きたいとか言い出すわけじゃねえよな? 心強いのは確かだが、お前には天宝館もあるし、家の事も頼みたいから無理――」

「あ、いえ……それとは別件で……」


 俺が予想していたものとは違う内容らしいが、言いづらそうにはしている。結構、重い事なのかと思ったが、アヤメの方はどことなくニヤニヤしている気がする。


「何だ?」

「いや、べつに……おら、コモン。さっさと言わねえと、ムソウが怒るぞ」

「いや、怒らねえから、さっさと言えよ、コモン」


 どこかアヤメに馬鹿にされたような気がして、少しだけ苛立ちながらコモンに目を向けた。


「うっ……」


 ……コモンがビクッとなったのでやめた。俺も最近学んだんだ。こうすると、話す奴も話さなくなるからな。

 気を鎮めて、再度、コモンに向き直った。


「ほら……怒らないから話してくれ。このままじゃ埒が明かねえぞ」

「はい……実は……」


 どこか躊躇う感じで、コモンが話し始めたのは、今回の天上の儀で、いよいよ亀裂が入った十二星天の件だ。特にセインとの関係に悩んでいる。

 また、エレナにも嫌われたままで、コモンはどうすれば良いのか分からないとのこと。


「昔のように戻るために、僕はどうすれば良いのでしょうか?」


 人界の頂点に立つ男が、俺に助言を求めるために、必死に懇願してくる様というのは、どうにも落ち着かない。

 しかしコモンの顔は必死だ。それほど悩んでいる事なんだよなと再認識するが……。


「まあ、お前の悩みは以前から聞いているから分かるが、何で急に俺に聞いて来たんだ? こういうことは、同じ十二星天のミサキとかの方が良いんじゃないか?」


 正直な話、十二星天内の話は、十二星天同士で解決して欲しい。

 シンキについては、俺とも関りが無いとも言えない状況だったため、そうなるように促したが、俺は何もやっていない。

 しかしセインについては、俺が関わったところでという以前に、関わらない方が無難だと思っている。こういうことは、自分達で相談し合った方が良いと頭を掻いた。


「ミサキ達とは話し合わねえのか?」

「何度も話し合いました。ですが、結論は出ないまま、もう、何年も……」

「そこで、俺ってわけか。しかし、何で俺なんだよ。こういうのはこの世界に長く生きている他の奴だったり、お前に近い天宝館の人間でも良いんじゃないか?」


 話を聞くことは出来るが、頼みを叶えられるかどうかは微妙だ。下手に動くと、更に関係が悪くなりそうだからな。コイツ等の昔の在り方というのもよく分からないし、余計な事は言いたくないと思っていた。

 事情を話せば、分かってくれそうな、コモンに近い人間に任せた方が良いのでは、と思っていると、コモンはポツリと呟く。


「アヤメさんと……トウヤさんが……」

「ん? トウヤ? アイツがどうかしたのか?」

「もう少し、ムソウさんを頼っても良いと仰いましたので……」


 そう言われて、俺はアヤメに視線を移す。アヤメは、茶をすすりながら頷いた。


「俺が言ったのは、俺達を頼れ、だ。もしくは、コモンは刀精の声がいつでも聴けるからコモンの事をよく分かっているそいつ等に聞けって言っただけだ。んで、早速うちのご先祖様と、コモンの前任者に聞いてみたら、「近くに“古今無双の傭兵”が居るのだから、頼ってみよ」……てな」


 呆気にとられながらコモンに視線を移すと、トウヤが宿っている金槌を抱きながら、コクっと頷いた。


 なるほど……相変わらず、人遣いが荒い……。俺は闘いを生業とする傭兵であって、何でも屋じゃないんだけどな……。


 しかし、嬉しい気持ちにはなった。何千年も生きていようと、あいつらは未だに俺を頼りたいらしい。

 徐々に可笑しな気持ちとなり、クスっと笑った。


「なるほど……分かった」


 そして、コモンの悩みに答えてやろうと、取りあえず色々と復習も兼ねてコモンの気持ちを確かめることにした。


「取りあえず、じゃあ、お前の悩みを解決する方向で考えておこう」

「ムソウさん……いえ、頭領。ありがとうございます」


 頭を深々と下げてくるコモンに、少しむず痒い思いをしながらも、取りあえず、コモンとアヤメと共に、俺の立ち位置も含めて、話を整理することにした。


 まず、セインは完全に俺を敵対視しているばかりか、以前と明らかに違う態度や考え方となっていて、元々仲が良くなかった、所謂ミサキ派閥の中でも、ジェシカやサネマサなどは完全に見限ってしまったようだ。優しいジェシカが武力を以て、セインと対峙したくらいだからな。

 その考え方に、リーとジーナ、ミーナという双子も賛同し、エレナも、似たような考え方になっていると。

 しかし、エレナの方は、俺を敵対視している根っこのところで、「人界の為」という明確な考え方が存在している。だから、セインやリーのように、他の十二星天や人界王など、未だ、世界が必要としている力については、このままで良いという考え方だが、以前のような馴れ合いはしないという行動になっているようだ。


 だから、エレナとは話し合えば何とかなりそうだというコモン達だが、コモン達が俺と仲良くしているから、それも敵いそうにないとのこと。

 つまりは、俺が話をややこしくしているのではないかという結論に至った。


「……俺にとっては、不服だな」

「それは……すみません……」

「一番良いのは、俺がセイン達と直接会って話をすれば良いんだが、エレナはそれを良しとしないって聞いたな」

「ああ。雷帝龍の件もあるから、ここに来れば良いと言ったんだが、お前を見ると、何するか自分でも分からない。最悪、ここを滅ぼすことになるかも知れないとか言われてな……」

「そうだな……俺が引っかかっているのはそこだ。エレナという女は、そんなに劇場家なのか?」


 カドルの件と、俺が危ない力を持っているからと言って、顔見たら襲うかも知れないと自覚しているというのは、何とも納得がいかない。

 最終的にロロによって、二人とも俺を恐れているからという事になったが、腑に落ちない点も多い。というか、腑に落ちない。

 セインの事があった後は、率先して人界の為に十二星天の会議を進めたらしいが、冷静に見えて、意外と短気なのかと聞くと、コモンは、首を傾げた。


「いえ……エレナさんは、そんな方では無かったです」

「となると……よほど、俺の事を憎んでいるんだな……」


 エレナの本当の姿というものを聞き、俺は少々落ち込んだ。何でここまで恨まれなければいけないのだろうか。

 “死神”と呼ばれるまでに至った、前の世界ならまだしも、この世界でそこまでの恨みを買うことになっているとは思わなかった。

 貴族殺しも、確かに大罪だが、サネマサやワイツ卿たちはすぐに理解してくれたし、カドルの件だって、ここに来てさえくれれば、すぐに誤解も解けるのにな……。

 思いっきりため息をつきながら項垂れると、アヤメが口を開く。


「だから、俺も、褒賞って形で王城にお前を連れて行くようにすれば、奴らの本心も分かるんじゃないかと思ってな……」


 その一言に驚き、顔を上げた。


「え……俺、城に行く事になるのか?」

「いや、天上の儀では、お前に褒章は無しという結果になったから安心しろ。ただ、あいつ等の本音のようなものを確かめるには、直接、お前と“ギルド長”達が顔を合わせるのが一番だと思っているのは確かだ」

「ああ、そういう事か。てことは、お前はエレナかセイン、どちらかは嘘をついていると考えているんだな?」


 俺の問いに、アヤメは頷いた。どちらかと言うか、既に答えは出ているらしい。


「“龍心王”はほとんど本音だろうが、“ギルド長”は嘘をついただろうな。何が俺達の覇道にムソウの存在が邪魔だ、だ。覇道って言うか、王権を自分のものにしたいのにムソウの存在が邪魔だってことなんだろうが、今のところ、お前がそういうのに興味を示していないのは明白だ。そこまで意識を向ける存在ではない。

 だから、それとは別件で、ムソウに強い憎しみを抱いているという結論に至った」

「ふむ……本当に、俺としては納得のいかないことだが、そういうことなんだろうな。で、エレナの方は?」

「“龍心王”の、人界を護る為に強い“武力”を持ったお前を排除、と言う考えには筋が通っていたからそれは、本音だろう。ただ、それだと叔父貴にもそういう考えが向いても良いと思って、そこから、俺の中でもやもやしている」


「人界を護る為に俺を排除」と言う部分に、俺はいまいち納得したくないが、気持ちは分かるし、それについては、絶対に俺が大地をどうにかしようと考えていないという事を、エレナと直接会って話すことが出来れば解決できるので、この場では置いておく。

 しかし、アヤメの言うように、その理屈ならば、ジゲンにだって、そういう考えに至っても良いはずだ。それに話によれば、EXスキルを持つツバキにも、神獣と認められたリンネにも、その他、メキメキと腕を上げている闘鬼神については、どうも思っておらず、俺限定の考え方らしい。

 これについては、俺が迷い人だからという事をほのめかすことをエレナは言っていたらしいが、それなら自分はどうなのだろうかと言う考えが、俺達の中で渦巻く。

 エレナの、人界を護るという考え方の根本的なところに、神帝龍の存在が大きく関わっている。その存在はよほどエレナの考え方に影響を及ぼしたようだな。


 兎にも角にも、コモンやジェシカが、今後二人とどう接すれば良いか、どうやったら元に戻れるかという疑問については、特に俺は関係ないなと思っていたが、その逆で、俺も深く関わっていることが明らかとなった。

 なおも困惑する顔を向けてくるコモン。


「一体……どうすればよろしいのか……」


 そんなことを呟くコモンだが、俺はふと、コモンが持っている金槌に目が行った。この件を俺に任せた存在がそこに居る。

 この際に、と思い、俺はトウヤにも意見を聞いてみることにした。


「コモン。少しトウヤとも話がある。伝言係になってもらっても良いか?」

「え……はい。どうぞ」


 コモンは頷き、俺の前に金槌を置いた。こういう時に、コモンの能力は便利だなと思った。いつでも、トウヤ達と話せるというのは、心の支えになるだろうな。

 そして、ここから、俺が金槌に話しかけると、コモンがトウヤの言葉を代わりに口にして返すという、少し可笑しな形式で話を進めていった。


「トウヤ。お前から見た、セインとエレナ、もしくは他の、俺を嫌っている奴らってのはどういう人間だ? もしくは人間だった?」

『そうですね……コモンさんも仰っているように、セインさんは、以前と明らかに違う人間のように思います。そして、リーさん、ジーナさん、ミーナさんはセインさんの事を崇拝者のように慕っていますのでそれに従って、同じような考え方になったかと。エレナさんについては、確かに昔と同じような方ですね……ああ、スキルの前任者の方に、やはり、そっくりですよ』


 スキルの前任者。トウヤやアキラのように、EXスキルを持っていた者達の事か。コモン達を見ていて常々感じるが、今の十二星天も、それぞれスキルを受け継いだ相手と何となくよく似ている。

 エイシンのスキルを継いだサネマサが普段はきちんとしているが、時々馬鹿なところとか、コモンもトウヤと同じく、一つの事に集中し過ぎるところとかな。

 今の十二星天の人となりを知るには参考になりそうだと感じ、それぞれについて聞いてみた。


 曰く、エレナのスキルの前の持ち主は、地帝龍アティラの話にも出てきた、ルージュと言う女。そいつは、ムウやアキラと共に、魔物や龍族が行使する魔法や生態について研究していたらしい。

 エレナと同じくいつでも冷静な人間だったらしく、熱くなりやすいエンヤやシンキをことあるごとに諫めたりと、仲間同士の緩衝材のような役割も果たしていたという。

 しかしながら、エレナ本人も熱くなることはあったらしく、それはアティラが邪神族に囚われた際、危険を承知で助けに行くと言ったカンナに、すぐに応え、共に、アティラを救い出したという。

 コモン曰く、研究の為、龍族達と交流することが多く、また、義理に篤い人間だったことから、家族同然に過ごした龍族が危険に晒されるという事が許せなかったのだろうとのこと。

 主な邪神族の将を倒したわけではないが、今のエレナと同じく、スキルの力で多様な能力を持ち、人界最強の一角を担っていたとのことだ。


 セインの前任者はロバートと言う男で、こちらはロロから聞いた話にも出ていたが、ムウと共に魂の研究をしていたという。

 それ以外では、スキルの力を用いて、人界の文明を百年ほど進めたという偉業を成している。これにはトウヤも関わっており、二人で人界に住む者達が、より快適に、より簡単に生きていくための基礎を作ったという。

 この男はどちらかと言うと、戦闘面に置いてと言うよりは、生活面に強い人間だったらしく、邪神族を倒した後の世界で活躍することが多かったという。


 リーの前任者は、ブランと言う男で、今でいうところのマシロ領の始祖に当る人間らしい。と言っても、こちらはアヤメと違い、ワイツ卿との血縁関係は無いそうだ。

 謹厳実直を絵に描いたような人間らしく、よく、エンヤと事あるごとに衝突していたらしく、それをルージュやシンキが諫めていたという。

 エンヤも普段は嫌っているようだったが、こと戦場に置いてはエイキに並ぶ知略とスキルの力で的確な指示を出すことから、エンヤも高い評価をしていたという。

 邪神大戦が終わった後は、どこに街を作れば、人々が安全に暮らしていけるか、ジーンの前任者であるレシアと言う男と共に、模索し、そこや近くに魔物が居れば、エンヤと共に討伐して人間が暮らしやすい街をどんどん作っていく事に奔走したという。

 その結果、どこの領がどの範囲か、という「領」という区分を明確に決めることが出来た。

 ちなみに、誰もがエンヤの死因に呆れる中、ブランだけは、しっかりと涙を流して、心の底から悲しんでいたという。それだけ、実際の所では仲が良かったのかも知れないと、トウヤ達は思っているようだ。


 ジーナとミーナ、二人の前任者はサクラとボタンという女で、今の二人と違って、同じ世界から来た者ではあったが、双子と言うわけでは無かったらしい。

 ただ、以前、祠でエンヤ達が言っていたように、実の姉妹以上に仲が良く、いつも同じような考えを持つ者達だったという。

 その連携力と、スキルから、邪神族と闘うよりは、人族を護ることに特化していると考え、同じく、護りに特化した力を持っていたツバキと共に活動することが多く、主な活躍は、エンヤ達が派手に暴れている間、人族を護ることは勿論だが、闘いに出ているシンキやカンナの代わりに、人界側の本拠地に居るサヤとコウカの護衛を務めていたという。

 ゆえに、二人ともそれなりに仲が良かったらしく、大戦が終わった後も、主に城の護りを固める役割を担っていたという事で、今のジーナとミーナとやっている事は同じだとトウヤは語った。


 それぞれ、自分達も含めて色々な個性を持つ人間同士だったが、違う世界だったとしても、皆で仲良く、わいわいとしながら、邪神大戦からその後の人界へと、繋いでいったとトウヤ(コモンが代理だが)は語った。


「ふむ……なかなか面白そうな人間が居たんだな。まあ、今の十二星天も充分面白いが……で、エレナは、そのルージュって女に似てんだよな。てことは、普段は冷静だが、キレると怖いと言ったところか?」

『怖いというより、芯がはっきりしていて、誰も口出しできない感じですね。エンヤさんやエイキさんでも、ルージュさんを説得するという事は叶いませんでしたから。そこに関しては本当に似ています』

「あのエイキがか……そんな奴とそっくりと評すエレナ……なるほど。口で言うのは無理そうだな……」


 とある闘いに置いて、しっかり準備した方が良いと言ってきたエイキに対し、どうせ玄李の残党は雑魚ばかりなんだから、このまま行くぞと言う俺の考えを理路整然と崩し、きちんと戦略を立てて、こちらの被害も、向こうにも被害を与えずに、勝利を収め、例え考え方が異なったとしても、エイキを説得するのは諦めると誓った俺からすれば、そんなエイキでさえも根を上げるほどの“頑固者”と、ソイツに似ている奴なんぞ、口で適うわけがない。

 やはり、エレナについては、アヤメの言うように、奇跡的にどこか、周りに何も影響が出ないような場所で、ばったりと出会った時にしっかりと話をするか、闘いながら本音をぶつけ合う道しかないのかと項垂れる。

 まあ、もしくは、最初から言っているように、俺がコクロに旅立った段階で、エレナをクレナに呼んで、雷帝龍立会いの下で本音を聞くかだが……素直に応じそうにはないよな。


 ひとまず、エレナの事は置いておいて、トウヤに、セインの事について聞いてみることにした。


「トウヤ。お前は先ほど、セインは確かに変わったと言ったな? 変わる前はどんな奴だったんだ?」

『こちらも既に聞いてらっしゃるかも知れませんが、とてもお優しい方だったことは覚えてます。誰とでも仲が良く、人懐っこいと言いますか、人と人との関係を大切にされている方でして、自分が最初の迷い人だと公表し、それぞれバラバラに活動していたコモンさんやジェシカさん達を集め、一つの共同体として壊蛇に立ち向かうように皆さんを纏め上げました。

 そして、壊蛇を倒した後は、コモンさんやミサキさんと共に、もっと人界の皆さんの暮らしが豊かになるようにと、ロバートさんと同じ様に、様々な魔道具を創り出したり、ミサキさんとどのような素材がこの世界に必要か決めたり、コモンさんと闘い以外に必要なものとは何かと考えたりそれらを人界に住む皆さん全てに分け隔てなく行き渡らせ、突然この世界に現れた自分達が、例え、いつの日かこの世界から突然居なくなったとしても、この世界に生きる方々が、自身の力で生きていけるようにと願い、ギルドという機関を設立しました』


 トウヤから語られるセインの人となりにコモンは寂しそうに小さく頷き、アヤメは目を見開いていた。

 大まかなギルドを設立した目的は知っていたが、そこにセインの切実な願いが含まれているという事を初めて知った様子だ。

 さらに、今回の天上の儀でのセインの様子からは想像すら出来ない内容に戸惑いを隠せないでいる。


「無論、リー君も同じでしたよ。「セイン君が人界の矛を設立したいなら、僕は皆を護る盾を創ろう」と言って、設立したのが騎士団です。そして、街、ひいては自分の命や、大切な家族、友達を護る為には、と言って、サネマサさんの武王會館、ジェシカさんの治癒院、壊蛇の襲来があったからこそ、魔物にも目を向けないといけないと言ってレオパルドさんの魔獣宴、それぞれの設立にも大きく協力する姿勢を見せていました。

 最終的に、僕の天宝館も組み込んで、皆で大きな一つの人界を続けていけるような機関を創設出来たら良いねと言う話をしながら、僕達は笑い合っていました……」


 少しだけ寂しそうなコモンの言葉に、それほど強い絆で結ばれていたんだなと、改めて感じることが出来た。そりゃ、ここまで落ち込み、真剣に悩むことになるよな。

 結構な事を押し付けやがってと、再びトウヤの宿っている金槌をジトっと見た後、話を続けた。


「え~っと……じゃあ、セインが変わり始めたのはいつからか、トウヤは分かるか?」

『実際見たわけではないからわかりませんが、コモンさんからその話が出始めたのは二十年ほど前で、明確に変わったと言われたのは、十年ほど前ですね』

「ん? 実際見たわけでは無いというのは?」

『前にも話したと思いますが、僕はこの金槌の上に石像を作って、存在を隠していました。なので、その間の事は、コモンさんからのお話や、映像の魔道具によるものからでしか情報を得ていません』

「あ、そんなこと言っていたな。じゃあ、そのあたりについては、アキラやナツメに聞いた方が良いか……」

『あれ? それはトウヤさんでもよろしいのではないですか?』

「それはそうだが、トウヤやミサキは、セインの様子が変わり始めたという事と、明確に変わったという事には気付いているようだが、何がきっかけでそうなったかは分からない。ずっと一緒に居ただけに、一番大事なそこが曖昧になっている。だから、一歩引いたところでコイツ等を見ていたお前らなら、何かしらの変化やきっかけに気付くんじゃないかと思ってな」


 そう言うと、なるほどと言う言葉を最後にトウヤからの返事は無かった。念のため、もう一度コモンに何か、心当たりはあるかと聞いたが、いつものように、思い当たることは無いとのこと。

 アヤメも、サネマサはともかく、そこまで十二星天と関わっているわけではないし、今まで、天上の儀で姿を見ることはあっても、クレナ領の問題を解決することに必死だったため、他人をよく見るという事はしておらず、ちょっとした変化などに気付くはずもなかった。

 というか、十二星天内の問題についても、今回、ようやく気付くことが出来たとのことだ。正直、コイツは当てにならないなと、少しばかりため息をついていた所で、ようやくコモンが、トウヤの代わりに口を開いた。


『そう言えば、何かあったなという程度で思い出す事はあるのですが……』

「お、何だ? 取りあえず言ってみろ」

『はい。セインさんがどこかおかしいとトウヤさんが言い始めたくらいでしたか。セインさんの身に、ちょっとした事件というか、事故が発生しました』

「事故? どういうことだ?」


 疑問に思ったが、これについてはトウヤよりもコモンの方が詳しいという事で、ここからはコモンが説明し始めた。

 なお、コモンも何のことかと思っていたようだが、トウヤに話を聞いた途端、あの事かとすぐに思い出したように、頷いていた。


「結局何だったんだ?」

「はい。僕達がそれぞれの機関を設立するにあたり、僕は必要なかったのですが、王都に置く本部や王城内は、所謂最新の魔道具や、機械を導入し、より皆さんの希望に沿った本部を創ろうと言ったセインさんが、毎日、色々なところでEXスキルを行使しました。その結果、力を使い果たして、数日寝込むことになったのです」


 つまりは、俺がクレナの事件を解決したような、所謂、魂の力を使いきった状態に陥ったようで、更にそれが何度も発生したという。

 天宝館の方は、自分のものは自分だけでやりたいというコモンが、クレナに付きっ切りだったため、セインの方は、主にジェシカ達で面倒を見ていたらしく、そうやって、主にセイン一人で頑張って出来上がったのが、今のギルド本部、騎士団本部、治癒院、武王會館、魔獣宴という事らしい。


「なるほど……それがセインの人が変わったことになる要因と考えるのは早そうだが、少なくとも本当にその頃はまだ、寧ろセインが中心に立って十二星天を纏めていたようだな」

「そう、ですね……」

「んで、人が変わり始めたのが、その後くらいからで、ミサキや今までの話だと、ゆっくりではあるが、王権を握ろうとしたとか何とか」

「はい。元々王に良い顔をされていなかった貴族……ここクレナで遊んでいた方々のような者達や、自分を支援していた貴族達を纏めて、反オウエン様派のような勢力をいつの間にか形成し、その存在を明らかにしつつ、僕達と距離を置き始めたのが、10年ほど前の天上の儀からで、そこからは、サネマサさんの武王會館から冒険者や騎士を引っ張ろうとしたり、治癒院で出来た新薬をギルドと騎士団で独占しようとしたりと、リー君、ジーナさん、ミーナさん、そして、エレナさんと共に完全に僕達に敵対する意を示し、現在に至るというわけです」


 ふむ……リエンが気にしていたように、十二星天の個人同士の考え方の相違がいつの間にか発生していて、そこから、貴族達をも巻き込み、人界に直接影響を及ぼすようになっているという事か。ここまでだと、どれだけコモン達が隠していても、流石に頭の良い奴、例えばリエンのような者達は、何かしらに気付くよな……。


 さて、トウヤの話から、セインが変わる直前に、セインの身に予期せぬ事故が起こったというのは確かなようだが、それが直接、セインの件に関わっているとは、今の段階では考えられない。

 EXスキルを使い過ぎて寝たとは言っても、恐らくその瞬間のセインの魂は、魂の回廊に居たか、普通に夢を見ていたくらいのことしか起こっていないだろう。

 せっかく思い出してくれたトウヤには悪いが、特に気にするようなことでもないな。


 というわけで、本格的に、セインが変わった理由と言うのは分からなくなった。これが分からない以上、俺達から出来ることは何もない。

 このまま、経過を待ち、現状を維持することが一番の策だと言うと、ずーんと見るからに落ち込んだコモンが盛大なため息をついた。


「はあ~……ですが……そうですよね……」

「本当に一番良いのは、セインとエレナ、二人が俺の所に来れば良いんだがな……」

「ムソウさんは、お二人の誤解を解くことが出来そうですか?」

「正直自信はない……けど、何か変えようとするのならばそこまでしないとな」

「じゃあ、もう一回、城にムソウの褒章の件について考え直すように伝えておくか?」

「いや……邪神族や転界教の公表に向けて、世界、というか、お前達は既に動き出している。天上の儀で決まったことを俺の独断で今更覆したところで、余計に話がややこしくなるだけだ」

「じゃあ……本当に結論としては……」

「現状維持だな。コモンからすれば辛いかも知れないが、もう少し耐えろ。そのうち、何とかなる」

「そうですね……ちなみに、ムソウさんとしては、今、何を考えていらっしゃいますか?」

「ひとまず、セインの事は置いておく。エレナの方は何とかしないとな。本当にどこかでばったり会ったら殺されそうだ。まあ、誤解を解くのならその時しか無いと思っている。

 で、エレナにセインの事を確認するという手も残っている。文字通り、死ぬ気でお前らの為にひと肌脱いでやるさ」


 そう言って、精いっぱい作り笑いをしながら、コモンの肩を叩いた。

 再び、申し訳なさそうな顔で頭を下げてくるコモン。


「申し訳ございません……色々とお手数を……」

「気にすんな。俺はお前の頭領だからな。これくらいはしてやる。あー、ジェシカとミサキにもこのことは伝えとけ。特にジェシカには、軽はずみに事を構えようとするなってな。ついでにサネマサとレオにも伝えといてくれ」


 言った後に、今挙げた奴らに比べれば、コモンは力づくでセイン達を黙らそうとしない分、気持ちが楽だなと思った。

 しかし、ジェシカでさえも……というか、ロロでさえも怒る相手となると、俺があの場に、本当に実際に居たらどうなっていただろうか。少なくとも、コモンや、支部長会議、領主会議、それに本会合の時のアヤメのように冷静で居られるかは正直な話、微妙だ。

 俺も、事を起こす気はさらさらないが、こうやって考えている時は良いが、実際に面と向かって気に入らないことを言われると、どうなるかは分からない。

 俺もまだまだガキってことだ。コモンに上からものは言えないな。


 まあ、俺がそう思っているだけで、相変わらずコモンは、俺の言うことに、分かりましたと返事する。

 むず痒いなと思いつつ、やはり頼られるのは嬉しいので、コモンの為に、俺も下手なことはしないで起きつつ、十二星天の改善に本腰を入れて取り組むことにしよう。


「じゃあ、よろしくな、二人とも。あー、もう帰っていいか?」

「あ、はい。呼び留めてしまって申し訳ございませんでした」

「おう。それで、明日から、人界各地に飛んで、邪神族の公表を民の前で行うんだっけか?」

「はい。それでも、家には帰りますので、何も問題はありません」

「やっぱり転送魔法ってのは便利だな。じゃあ、今日も帰りを待ってるからな、コモン。それから、アヤメ。王都では本当にお疲れさん。改めて、ロロが世話になったことに感謝する。ありがとよ」


 ロロの事だけでなく、結構色々な場面で、俺が上手くクレナでずっと過ごせるように大立ち回りをしてくれたアヤメには、本当に感謝している。

 伝わったのか、アヤメは、ニッと笑って、おう、と頷いた。


「お前に礼を言われるのはむず痒いが、俺も、今回の天上の儀は楽しめた。たいていがロロのおかげだ。こちらこそ、感謝する」

「本当に……お前ら、何があったんだよ……?」

「ハハハッ! 大したことじゃねえよ。ただまあ、アイツはいずれ、良い女になるだろう。それまで、大切にしてやれよ」

「あ、ああ。当然だ。じゃあな」


 アヤメの言葉に戸惑いながらも頷きながら部屋を出る。

 ロロを語るアヤメの顔はどことなく、昔のエンヤに見えた。エンヤに、好きな人間はどんな奴だと聞いた時の顔にそっくりだ。

 アイツは最終的にタカナリと結ばれたが、アヤメはまだだ。まだの理由は、アヤメの目に敵った男が居ないからである。


 いや、そもそも、アヤメが好きな奴が男とも限らないのか……?


 ……やめよう、この話題は。

 取りあえず、十二星天だけでなく、領主もギルド長も、俺の仲間の事を認めてくれたというのは嬉しい事だ。

 ロロだけでなくリアも、オウエンに興味を持たれたことだし、早いところ、あいつらを一人前にしないとな、と思い、その前に、俺も一人前の大人になろうという事で、明日の仕事を何にしようかと依頼票の前に向かった。


コモンの金槌の名前、何でしたっけ? 作者が忘れてる。そもそも付けたっけ? という感じです。

前のは火具槌(かぐつち)でしたが……。

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