表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
381/534

第380話 天上の儀 ―今後の俺達の動きが決まる―

 ロロが戻ってきた三日後、コモンと共にアヤメが帰って……逆だな。アヤメやエンライと共にコモンもうちに帰ってきた。

 エンライも居るという事で、俺は早速ツバキと、ロロを連れてギルドへと向かった。


 執務室へと入ると、丁度、代理で領主の仕事をしていたジゲンがアヤメに引継ぎを行っているところだった。


「アヤメ様!」

「ん? おう、ロロ!」


 部屋に入った途端、ロロは駆け出し、アヤメに飛びついた。アヤメはしっかりと抱き止め、胸の中で嬉しそうな顔をするロロに、ニカっと笑う。


「元気になったようだな。安心したぞ」

「はい……あの、この度は……」

「謝らなくて良い。“ギルド長”に啖呵切ったって話は、爺い達から聞いている。俺もスカッとしたから、その事については怒っていない。寧ろ、よくやったなと思っている。お前の行動は、叔父貴の為にもなったことだしな。ありがとう、ロロ」


 アヤメはそのまま、ロロの頭を撫でた。一瞬キョトンとしたが、ロロは、コクっと頷く。


「コモン様も……ご心配をおかけしました……」

「いえいえ。僕の方こそ、あの場でロロさんに無理をさせてしまいました。そして、十二星天として、色々な方にご心配を……頭を下げるべきは僕の方です。申し訳ございませんでした、ロロさん。それに……頭領」


 コモンはロロと、俺に頭を下げてくる。未だに「頭領」と呼ばれることに慣れていない俺は、ため息をついた。


「俺は、特に謝れるような事は感じてないから、それは受け取らない。その代わり、頼みたいことがあるからそれをこなせ」

「頼みたいこと……?」


 不思議そうな顔をするコモンに、ヴァルナと共に、モンクから買ってきた素材で武具の強化をと頼もうとした時だ。

 ジゲンがクスっと笑みを浮かべて口を挟んでくる。


「ああ、ムソウ殿が暴れてボロボロになった祠の修繕じゃな。今の所、天宝館の職人に頼んでおるが、なかなか作業が進まないようじゃ。コモン君、落ち着いたら、向かってくれないか?」


 ジゲンの言葉に、え、という顔をして、コモンとアヤメが俺の顔を見てくる。事情を知っているツバキとロロはクスクスと笑っていた。

 俺が慌てていると、アヤメが、俺に詰め寄って来る。


「おいおい、俺が居ない間に何してたんだ!? 祠がボロボロ!? 客は!?」

「お、落ち着いてくれ、アヤメ。客は今まで通り入っているから。なあ、爺さん?」

「前よりは少ないがの……」

「お前、何してんだ!? 大事な収入源が……」

「ボロボロってどれくらいですか? というか、何したら、そうなったのですか? 詳しく話を……」


 怒り顔で詰め寄るアヤメに、俺が何をしたのかぐいぐいと聞いて来るコモン。ジゲンには後で文句を言ってやりたいと思っていると、エンライが二人を諫めてくれた。


「まあまあ、お二人とも。ムソウ殿が今更何しようとも、気にしないようにしましょう」

「おい待て、エンライ。それはどういう――」

「その通りです。エンライ師団長。ムソウ様の事は置いておいて、大体の事はロロさんからお聞きしましたが、天上の儀について、十二星天の動向について、今後の人界について話していただけますか?」


 ツバキの言葉に、アヤメとコモンは仕方ないと呟き、俺から離れていく。ツバキに対して満足げに笑いながら、エンライは二人と共に執務室の椅子に座り、ロロ、ツバキ、ジゲンにも座るように促した。

 ツバキに置いておかれた俺は、頭を掻きながらため息をつき、ツバキの隣に座った。


 さて、そこからロロが居なくなった後の王都での話を聞いた。


 まず、十二星天について。あんな会議だったにしろ、やはり、今、十二星天が解体されたり、誰かが抜けるという事は、人界にとって悪影響しか生まないということで、セインについては、様子見という事になった。

 謹慎中のリーとレオも、予定より早く、いつもの業務に戻ることになったという。

 コモン曰く、ここに戻る前にレオの様子を確認した所、麒麟の二人に弄繰り回されながら、心配掛けてすまなかったと、俺と、会議が荒れるきっかけになった、ツバキに頭を下げていたという。

 先ほどのコモンの時にも思ったが、別に、コイツ等に謝られたところでな、と、ツバキと共に苦笑いした。

 とはいえ、十二星天が分裂しているという事実は、今回の天上の儀で、領主、ギルド支部長、師団長のみならず、貴族達の間でも、周知の事実となり、少なからず、その要因を作った俺も含め、何らかの影響が人界に出るかも知れないとのことだった。


「団長の件も、保留という事となった。その上で、ツバキ殿。貴殿についても、団長に除名はしないでくれという申請を、俺、コウカン、ジャンヌ、インセンと、それぞれの領の師団長、領主、更にモンクの貴族と、十二星天のコモン様、ジェシカ様、サネマサ様、レオパルド様、ミサキ様、ジーン様、そして、シンキ様とオウエン様が共同で出しておいたから、何も心配するな」

「……多過ぎません? しかも、シンキ様はまだしも、陛下が……? 私はムソウ様と共に、今回の天上の儀でどれだけ目立った存在だったのですか?」


 流石のツバキも、戸惑いながらそう尋ねると、エンライ達は、口を揃えた。


「ある意味、ムソウ殿と同じくらい目立っていた存在だ。EXスキルの事もあるしな」

「それと、モンクでの一件に関しては、ガーレンと、特にインセンって師団長が、いかにお前が素晴らしい騎士かを、本会議で熱弁していたな」

「怪我の功名と言いますか、リンネちゃんの事は、そこまで話題には上っておりません。普段なら、力を持った神獣を従えるというのは凄い事なのですが……流石、ツバキさんですね」


 三人の言葉に、呆然とするツバキ。覚悟はしていたようだが、実際に王都で、自分が凄いことになっているという状況には流石に驚いていたようだ。

 俺や自分の話題で、リンネの事が持ち上がらなかったのは、俺としては良いことだなと思ったが、ツバキは、そういうことではなくてですねと、頭を抱えていた。


「私もですが、リアさんもでしたよね。オウエン様に目を付けられたと言いますか、オウエン様の中で目立った存在と言いますか……私も、気を付けないといけませんね。また、父さんと母さん達に、妙な心配をかけてしまいます……」

「大丈夫だ、ツバキ。未だに叔父貴も目立っているんだからな。それでも何も無いという事は、そう言うことだ」


 アヤメはそう言って、ジゲンに同意を求めるように頷くが、ジゲンは、少しばかり苦い顔をした。


「何と……儂も未だにレインではそう思われておるか。昔のように下手なことはしないでおこう」

「何やったら、そうなるんだよ」

「あの頃のジゲンさんは派手でしたね……」


 コモンの一言に、ジゲンは、ムソウ殿よりはマシだと言っているが、聞いた話だと、クレナで貴族達にやっていたことを、王都でも行い、果てはオウエンに対しても、言葉による説得ではなく、威圧的な態度だったらしい。

 例によってオウエンは気にしていないそうだが、コモン曰く、城の重鎮や、十二星天はハラハラしていたという。

 流石に俺もそこまではやらないなと思い、俺は手を叩いた。


「まあ、それについては後々考えるとしよう。俺にとって、当面の目標はコクロの海賊退治になったわけだが……」


 そう言うと、アヤメがビクッと身を震わせた。セインにこの話を持ち掛けたのはアヤメだからな。勝手な事をしたと俺に怒られると思っているらしい。


「あー……ムソウ、その件については……」


 またしても、頭を下げられそうだったので止めた。


「いや、それについては既に、俺も考えていたものだから特に気にしていない」

「え……それはどういう……?」

「モンクのリエンから頼まれた。アイツも、商品を積んだ船が襲われて困っているとのことらしい」


 ポカンとしているアヤメに、リエンから頼まれた経緯を話していく。

 隣でロロが、得意げな顔をしながら、アヤメに微笑んでいた。ああ、そういや、王都で俺にビクつくアヤメに同じことを言って安心させていたみたいだな。


「海賊については、俺にも策はある上、ジーンって奴が協力してくれるならなお問題は無い。それで、セインのご機嫌もとれるなら儲けものだ。望み通り、アイツの名の下に海賊共を殲滅してやろう」

「いや、ムソウ。簡単に言うがな、リオウ海賊団は、長年ギルドと騎士団で追っている相手だぞ? 幾らお前でも、そう簡単には……」

「だから出来る限り情報が欲しい。というわけで、アヤメ、エンライ、ギルドと騎士団で、現在掴んでいる海賊団の情報を俺にくれ。情報は、多くあっても困ることは無いからな」


 俺がリオウ海賊団の殲滅に前向きだという姿勢を見せると、アヤメは、ぱあっと笑顔になっていく。


「わかった! 任せてくれ! という事で、怒っては無いんだな!?」

「ああ、怒ってない。その代わり、祠の件はこれで水に流せよ」

「もちろんだ。失敗は誰にでもある。気にすることは無い。修繕費と今日までの損害だけ渡してくれれば充分だ」


 ……ああ、金はとるのか。まあ、これは仕方ないと思い、アヤメに頷いた。

 横で話を聞いていたエンライも、俺の頼みに頷き、後日、届けてくれる運びとなった。


「ムソウ殿がコクロに行くという事は、貴殿も行くのだな、ツバキ殿」

「ええ、もちろんです」

「一応、コクロ師団長ルーカスには話を通してある。無論、ノワール卿にもな」

「ありがとうございます……ルーカス師団長は、私の事は何と?」

「インセンの話を聞いて、大いに期待していると言っていた。存分に励めよ」

「は、はあ……ムソウ様、頑張ってください」


 懇願するような目つきで、俺に顔を向けるツバキ。また目立って、インセンのようなことになりたくないようだ。

 まあ、そりゃそうだと思い、何度も頷いた。


「分かってる。あくまでお前らは、俺の補佐ってことにする。だがまあ、俺が皆の前で派手にやる代わりに、お前らもしっかり活躍してくれよ」

「それは勿論……あら? ムソウ様、私“達”、というのはどういう事でしょうか?」


 不思議そうな顔のツバキを見て、そう言えば言っていなかったことを思い出した。

 コクロの海賊団を殲滅するにあたり、俺が考えていた策だ。策というには稚拙なものだが。

 何のことですか、と首を傾げるツバキを含め、ここに居る者達に、俺の考えを話した。


「コクロの海賊団を殲滅するにあたり、倒すのはまだしも、拠点を探したりするのは一苦労だと思ってな。お前とリンネ含め、闘鬼神からも何人か連れて行こうと考えている。人数が多ければ、こないだのモンクのように俺達が離れている時でも、迅速に対処できると思うしな」


 リオウ海賊団を殲滅する為には、そいつらの拠点を探すところから始まる。

 しかし、コクロ領は陸地の他、海には大小二十以上の諸島で成り立っている事を地図で確認した。

 流石に、俺一人で一つ一つ調査するのは面倒……骨が折れる作業だ。

 そこで、闘鬼神からも、俺の依頼を手伝う奴らを見繕う事にした。人手が増えれば島々の調査も効率よく行うことも出来るし、海賊団の調査の傍ら、コクロの依頼にも応えられることが出来る。

 無論、既に騎士団などの調査が成されている島もあるだろうが、ここまで被害が多いとなると、状況も常に変わっている可能性が高い。どんな状況になっていても、柔軟に対応する為に、人手は大いに越したことは無いだろう。


「まあ、こんな感じで今回の旅は大勢で行く。お前だけが目立つ心配はないぞ」

「皆さんも共にという事には賛成です。ちなみに、人選はお済ですか?」

「いや、まだ確定では無いが一応な……」


 誰を連れて行くのか、一応、考えては居る。もちろん、現段階でなので、変化することもあるし、第一、皆の伺いも立てていない。最悪、今まで通りになることも考えながら、ジゲンに顔を向けた。


「……というわけで、あいつらが第一候補だ。良いよな、爺さん」


 そう尋ねると、ジゲンはすぐにフッと笑みを浮かべて頷いた。


「うむ……コウシ達の後継者のお手並み……拝見しようではないか。アヤメも、良いな?」

「ああ。俺は文句ない。ショウブとナズナも連れていければ完璧なんだがな……」


 俺が考えているコクロに連れて行く奴らは、ダイアンやリア達、牙の旅団の武具を継ぐ者達だ。時期もちょうど、シロウ達の祝言が終わった後だし、後継者としての初陣としては丁度いいだろう。

 ジゲンとアヤメはあっさりと承諾した。アヤメの言うように、ショウブとナズナ、ついでにジゲンとサネマサを連れていく事が出来れば確かに完璧だが、流石にナズナは祝言直後だし、サネマサは忙しいだろうし、ジゲンにはまた、家を護って欲しいと思っている。

 皆と闘うのは、また次の機会でと言うと、ジゲンは頷いた。


「儂らは良いが……ムソウ殿」

「ん?」

「ロロ殿は連れて行かんのか?」


 ニコニコとしながら、ロロを指さすジゲン。見ると、期待しているようなキラキラとした目で、俺の方を見ていた。


「ああ、ロロは……」

「はい!」

「……お留守番だ」


 その瞬間、一気に固まるロロ。ガラガラと何かが崩れるような音が、ロロの胸から聞こえてくるような気がする。それと同時に、ゆっくりと項垂れていった。


「うぅ~……私では、力不足ですか……?」


 不満そうなロロを、アヤメが頭を撫でて諫めている。本当に仲良くなったものだな。

 ロロの言葉に俺は、苦笑いしながら答えた。


「留守番と言うか、待機だ。いつも通りに家で過ごしながら、傷ついた皆を癒したり、ジェシカの仕事を手伝いながら過ごしてくれ。ジゲンとたまの事も頼んだぞ」


 ロロを連れて行かない理由は、決して意地悪からではない。ちゃんとした理由がある。

 まず、鍛錬や討伐依頼で傷を負うことも多い闘鬼神の為に、ロロには残ってもらう。回復魔法の練度を上げるには最適な状況だからな。

 その間に、ジェシカの手伝いも出来れば、十二星天の弟子としての面目も立つ。


 そして、もう一つ、重要な理由がある。これは、ロロには言わないが、コクロで何かあった場合、ロロを呼ぶつもりだ。

 ロロをコクロに呼ぶ状況というのは、俺達やコクロの領民の被害が大きいという場合だ。そんな状況にしたくは無いが、仮になった場合、そこにロロが居て、ロロが負傷しないとも限らない。

 医師や治療を施す者は、闘いの際は安全な後方で支援に徹するものだ。あいつ等の力は、闘いが終わった後にこそ発揮される。ロロにはその役を担って欲しい。


 まあ、一番は、ロロをコクロに呼ばないという事が大事なんだがな。


 一応、ロロを連れて行かない理由を話したが未だに不服そうだ。二つ目の理由も話してやろうかと思っていると、ロロの頭に、アヤメがポンと手を置く。


「俺としても、ロロがここに残ってくれるのはありがたい。万一の為、ギルドに居てくれれば、怪我した他の冒険者の治療にあたってもらうこともあるからな。無論、“聖母”にも話は通すし、報酬も払う。どうだ?」


 ロロの目をまっすぐと見ながら、ニッと微笑むアヤメ。

 ロロはアヤメの言葉を聞き、パッと顔を上げて、ニコリと笑う。


「かしこまりました! 私にお任せください!」

「良い返事だ……というわけで、ムソウ、叔父貴、今後、事あるごとにコイツを借りるが、良いか?」


 嬉しそうに胸を張るロロの肩を持ち、俺達にニカっと笑うアヤメ。

 ホント、王都で何があったのだろうか、この二人。どちらかと言うと、俺よりもアヤメに懐いているロロの様子に思わず嫉妬してしまいそうだ。


 アヤメの申し入れに、俺とジゲンは顔を見合わせ、もちろんと頷いた。


「こちらは問題ない。というか、ロロがやる気だからな。俺に止める権利は無い」


 そう言うと、ロロは嬉しそうな顔で頷いた。

 すると、ロロは、あ、と何かを思い出したかのような仕草をして、自分の異界の袋を取り出す。


「そう言えば、頭領とジゲンさんにお土産を渡すのを忘れていました」


 そう言って、ロロは異界の袋から、王都で買ったという土産を取り出す。話によれば、アヤメと一緒に買ったものらしい。

 どれどれと見ている俺の前に、ロロは数冊の本を取り出した。


「お、本か」

「はい! 頭領は意外と読書が好きだと思いましたので」

「気が利くなあ」


 意外と、という部分は気になるが、ロロは俺の事をよく見てくれているらしい。

 前の世界では、暇なときによく読んでいたが、こちらに来てからはそういうものに触れていなかった気がする。

 色々と手に取って確かめたが、所謂この世界の御伽噺や夢物語のようなものの、原作に当るものを主に買ってきたという。

 ほとんどが実話を元にした伝記だそうだが、十二星天のものや、ロウガンの物語、ゴルドのギルド支部長というレオニクスという男の偉業などが載った本もあり、興味をそそられた。


 しかし、その中で、見慣れた顔が描かれた本が目に止まる。題名は、『精霊女王の物語』。表紙には、表題の精霊女王と思われる女が描かれているが、どう見てもそれは、サヤそのものだった。

 著者の欄には、「十二星天シンジ・スガヤ」と書かれており、なるほどと思った。


 ああ、なるほどと思っていると、エンライが話しかけてくる。


「ほう。ムソウ殿は、精霊女王様の話が気になるのか?」

「ん? ……いや、まあな……」

「本来なら、精霊女王様というのは、我ら人族の祖先に、スキルや魔法を与えたとされる存在だが、今回の天上の儀で、その存在も怪しいものとなった。シンキ様が、真実を隠すために、精霊女王様という虚像を生み出した可能性があるが……」

「いや……精霊女王は実在した……」


 精霊女王がサヤだったという事は、エンライは知らない。だから、その存在を否定したい気持ちは分かるが、俺の言葉を聞いたエンライは、キョトンとした顔をする。


「何故、言い切れるのだ? まさか、まだ、この世界に我らも知らない謎があるというのか?」

「そうじゃねえよ。ただ、精霊女王ってのは実在していたと思う……多分、悪戯とか好きだったんだろうな……」

「ああ、精霊女王様の物語は大概そういう内容だ。何だ、ムソウ殿も知っていたのか……」


 どこか、安心したように笑うエンライの声を聞きながら、本をパラパラとめくってみる。明らかにシンキっぽい鬼族の戦士や、エンヤっぽい女に悪戯をしては、鉄拳制裁されている精霊女王が描かれた挿絵が目に入る。

 相変わらずだなと、何だか懐かしい気持ちになり、目頭が熱くなった。


「ムソウ様……?」


 そうやっていると、ツバキが心配そうな顔でこちらを覗いている事に気付き、アヤメとロロは申し訳なさそうな顔をしていた。

 ああ、そういや、二人はサヤの顔を知らないんだっけな。知っていたら、買わなかったのだろうか。

 もう、どうでも良いのになと、すぐに二人に笑ってやった。


「……ありがとう。最高の土産だ」


 サヤとカンナには、再び会うことが出来るかもしれない……いや、きっと会える。だから気にするのは辞めた。

 それまでは、こうやってサヤを感じていようと、ロロからの土産を受け取った。

 二人は、安心したように胸を撫で下ろし、続いて、ジゲンの方を向いた。


「良かったです。そして、ジゲンさんのお土産は、アヤメさんが選びました」


 そう言って、ロロが渡したのは、茶の道具と、いくつかの茶葉だ。不思議そうな顔でそれを眺めるジゲン。一つ一つを手に取りながら口を開く。


「これを……儂にか?」

「ああ。これからは刀を握らず、ゆっくり、茶を立てるのも悪くないと思ってな。たまも居ることだし、二人で楽しんでくれ」


 アヤメの言葉に、ジゲンは目を見開き、すぐに朗らかな笑みを浮かべた。


「うむ……ありがとう、アヤメ。上手くいったら是非とも飲みに来るのじゃぞ」

「……ああ」


 俺もツバキも、いずれ、ジゲンとたまが作った茶を飲みたいなと思いながら、そんなやり取りを眺めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ