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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界が動く
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第377話 天上の儀 ―十二星天が話し合う―

 アヤメが弁当を食べ終え、資料の確認を行っていると、エンライが戻ってくる。他の領主達や貴族、十二星天とオウエンも戻ってきたところで、本会合午後の部が始まった。

 午後からは、各領の年間の収支報告や、魔物の被害などについての数字の報告が主だ。資料で分かることがほとんどなので、クレナの報告が終わったアヤメは暇そうにしていた。

 対面に座っているワイツやロウガンから、ちゃんと聞くようにという視線が突き刺さり、ため息をつきながら、話を聞く振りをしていた。


 徐々に襲ってくる眠気を覚ますために、エンライと話したり、頬を叩いたりしているうちに天上の儀、本会合も終盤に迫っていく。

 頬杖をつきながらぼんやりとしていると、シンキが締めの言葉を述べていた。


「さて……以上で、天上の儀本会合を締めくくろうと思うが、他に、今のうちに何かある者は居るか? 特に、今回は大人しかったようだが、いつもは騒がしい、クレナ領主殿、今回はもう終わっても良いか?」


 少し悪戯っぽく、そう言ってみたシンキだったが、返事は無かった。


「……ん? クレナ領主殿、もう、終わっても良いか?」

「……」


 再度尋ねてみたが、アヤメは何も言わなかった。そればかりか、微動だにしない。何もないのかと首を捻るシンキ。

 しかし、よく見るとアヤメが小さく寝息を立てていることに気付いた。


「おい、アヤメ! 寝るな!」

「……ん? ……はっ! やべっ、寝てた……って、ん? どうした、宰相さん?」


 シンキに怒鳴られたアヤメは、ビクッと体を震わせながら目を覚まし、辺りをキョロキョロと見回した。

 呆れたような顔でシンキに睨まれていることに気付き、アヤメは首を傾げる。シンキは、はあ、とため息をつきながら口を開く。


「……いや、何でもない。そろそろ本会合を終わらせるが、何か言いたいことはあるか?」

「は? 何で、俺に聞くんだよ。皆に聞けよ」

「いや……いつもなら、お前くらいしか文句を言わないからな。今回は無いのか?」

「俺はもう、特には無い。締めるならさっさと締めてくれ。明日からもバタバタみたいだからな。いい加減、休みてえ……なあ、ワイツ卿」


 欠伸を掻きながら、アヤメはワイツやロウガンに目を向ける。アヤメの態度に呆れていたワイツは、慌てて首を振った。


「何故、私に振るのだ! 私はそのようなことは思っておらん!」

「いや、アンタじゃなくて、ロウガン支部長が辛そうに……」

「アヤメ、他人を巻き込むな!」

「ハッハッハ、良い反応だな。少し眠気が覚めたぞ」


 アヤメとマシロ一行とのやり取りに、他の領主たちからは笑い声が聞こえてくる。ぐぬぬと黙っていくワイツとロウガンに、フッとアヤメは笑って、シンキに顔を向けた。


「てことで、とっとと終わらせてくれ。お前らもこの後、十二星天での会議だろ。馬鹿な爺いも居るんだから、時間に余裕を見た方が良いだろ」

「おい待て、アヤメ! 馬鹿って――」

「はあ……サネマサ、後にしてくれ……じゃあ、締めるとしよう。最後になったが、オウエン、閉式の辞を……」


 シンキがそう言うと、オウエンが頷き立ち上がった。


「今回の天上の儀は、ここ数百年、いや、数千年の中で、最も重要なものになってしまった。これからの事を考えると、不安になる者も多いだろう。しかし、一番優先すべきは、人界の民達が、平和に生きていく事である。

 我の名代として、諸侯らには迷惑をかけるが、何卒、よろしく頼む。有事の際は、領、ギルド、騎士団のみならず、我ら王都や十二星天も連携し、対応をより密に、強固にしていくとしよう。

 というわけで、これにて天上の儀、本会合を終了する。明日以降については、また後程通達する。それまでは、それぞれで待機していてくれ

 改めて、諸侯の協力に感謝する」


 オウエンがそう言って、天上の儀を締めると同時に、あちこちから拍手する音が聞こえた。

 そこから、オウエンとシンキが退室し、その後十二星天が退室していく。

 ブツブツと何か言いながら、アヤメを見てくるサネマサ。まあまあと言った感じにコモンや、ロロに促されながら、渋々と部屋を出ていった。

 そして、貴族達も席を立ち、アヤメも部屋に戻ろうと、資料を纏めていると、他の領主達が近づいてきた。

 先頭に居るワイツとロウガンは、アヤメをジトっと睨む。


「まさか、最後の最後で恥をかかされるとは……」

「やっぱりアヤメはアヤメだったな」


 悪態をつかれても、アヤメはあっけらかんとしていた。


「別に良いだろ。会議は真面目に進めたし、ムソウの事も上手くまとめてやっただろ?」

「いや……あれについても、肝がひやひやしたぞ。俺達はまだ良いが、セイン様達に喧嘩を売るなよ」

「喧嘩売ってんのは向こうだろ。しかも、俺だけじゃなく、ムソウや叔父貴にも売りやがって……」

「ムソウとジロウ様については貴族だろ。ムソウは何となく分かるが、ジロウ様も未だにあそこまでとは思わなかったな……」


 ムソウに対して、セイン達だけでなく、一部の貴族達も嫌悪感を露にしているという事は知っていたが、比較的偉業も多くこなし、かつて十二星天とも世界の復興に尽力したジロウが、貴族達からの反感を大いに買っているという事には気づいていなかったロウガン。

 今までは、アヤメが声を荒げて、何も言えなかった者達が、今回ばかりはアヤメが静かなので、安心した貴族達がここぞとばかりに、声を上げたのだろうというオーロやジャンヌの言葉に、なるほどと頷く。


「ただまあ、“冒険王”についてはムソウに対して好意的で驚いたがな……」


 アヤメのその言葉に、コクロ領主ノワールと、ギルド支部長ギャッツ、騎士団師団長ルーカスが頷いた。


「これで準備は万端だ。安心して海賊団を任せることが出来る。で、ムソウが来るまで、海賊団への対処については、保留となった」

「被害が大きいから、その方が良いだろうな。ただ、“騎士団長”が後で何て言うのかだけは不安だな」

「それについてはお構いなく。恐らくリー様は、セイン様の決定でしたらと、納得してくださると思います」

「まあ、そっちの方が予想はつくか……」

「それより、当面は領民達への説明の方っす。どこも忙しくなりそうっすね」


 ギャッツの言葉に、領主達は、そうだなと頷き、これからやることも多いという事で、その場は解散となった。

 アヤメもエンライと共に議場を後にする。十二星天の会合が順調に終われば、翌日は、人界各地に配布する映像の撮影、それが揃うのは翌々日までかかるとのことで、最短でも三日後にはクレナに帰ることが出来る。

 ロウガンの言うように、確かに今回も十二星天に喧嘩を吹っ掛けるような態度だったアヤメ。よくぞ生き抜くことが出来たと、何となく安心しながら、部屋で休息を取り始めた。


 ◇◇◇


 本会合が終わった後、十二星天とオウエンは同じ部屋に集まり、円卓を囲んでいた。

 これから、十二星天だけの会合が行われる。と言っても内容は、今回の天上の儀で決まったことの確認と、今後のそれぞれの活動について話し合うだけで、それほど時間はかからない。


 この場には、ロロ達、新たに十二星天の弟子となった者達も参加している。人界の英雄達が一堂に集うというこの場所に、当初は緊張するだけだったロロも、この数日間でだいぶ慣れて来たこともあり、先ほどの本会合の時と比べて、楽な気持ちでジェシカの側についていた。

 とは言うものの、会合の内容の中心はやはりムソウということで、その名が出る度に、内心、緊張が走る。人界の今後を左右する会議に置いて、自分の身近の人間や、自分達の事が話し合われるのは、不安にもなるし、何より、先ほどの貴族達に感じたように怒りさえ湧いてくる。

 ぐっと気持ちを押し殺し、十二星天の話に耳を傾けていた。


「邪神族復活に向けて、街の防備を固めたい……と言っても、リーがここに居ないのは辛いな」

「シンキ。レオもそうだが、天上の儀には参加させても良かったんじゃねえか?」


 オウエン、サネマサの言葉に、ジェシカも頷き、シンキは顔色を悪くする。


「けじめは必要だと思ったんだよ。アイツらが居たら、今日だって危なかっただろ」

「いや、その時は転送魔法で強制的に追い出せば良かっただろ。まあ、確かにリーと今日のアヤメが一緒にその場に居たらと思うとゾッとするが……」

「ゾッとするのは私達です。アヤメさんを護るためでしたら、その時はサネマサさんも暴れるでしょ?」

「いや、俺はやらねえよ……多分……」

「そこは自信持ってくれ。お前を怒らせたら本当にヤバいという事はこの場に居る誰もが知っている。そうだろ、皆」


 シンキがそう言って、皆に視線を移すと、コモン、ジェシカ、ミサキ、ジーンは苦笑いしながら頷き、セインは苛ついたかのように舌打ちを打った。


「良いから、とっとと話を進めろ、シンキ、オウエン。サネマサの事なんぞ、どうでも良いだろうが。街の防衛については、リーの代わりに俺が話を付ける」

「は? お前が騎士団の事を決めるって言うのか? それは殆ど横暴だろ」


 リーの代理は自分が勤めると言うセインの言葉に、サネマサはすぐに反論した。騎士団を統括する者は、こちらで公平に決めたかったからである。

 しかし、セインはサネマサの言葉を鼻で笑って受け流した。


「さっきテメエが言ったばかりだろうが。それを言うならリーを追い出したのも横暴だ。だが、ここに居ない以上は仕方ない。俺がアイツの代わりになるって言ってんだよ。それに決めるのは俺じゃない、テメエらだろ? 俺はリーの代わりに騎士団の状況を話すだけだ。それの何が悪い……?」


 正論で返され、ぐぬぬ、と静かになるサネマサ。それを見たセインは、更に挑発気味に笑みを浮かべた。


「……チッ。確かにクレナ領主が言ったとおりだ。お前、頭悪いんだから、これ以上喋んなよ」

「何だと!?」


 暴言を吐かれ、サネマサは激高し立ち上がる。だが、そこをコモンとシンキに止められた。


「落ち着いてください、サネマサさん!」

「放せ、コモン! シンキ! あの野郎、ぶった斬ってやる!」

「刀を抜けば、お前もここから追い出すぞ! 良いから黙ってくれ! お前もガキじゃねえだろ!?」

「このままじゃ、アヤメさんの頑張りも無駄になります! どうか!」


 コモンの言葉にハッとしたサネマサ。こういう状況でもアヤメは耐えて、サネマサの怒りを鎮めてきた。それは、ややこしい状況にならないようにするという目的もあるが、一番は、サネマサの立場を護る為という事には気づいている。


 サネマサの中でも、アヤメの存在は家族と同じくらい大切な存在だ。自分の行いで、アヤメに迷惑が掛かるのはこれ以上するべきでは無いと、今までのクレナの一件で感じていた。


「……悪かったな」


 サネマサは二人に促されるままに、怒りを鎮め、気を落ち着かせていく。

 そんなサネマサの怒りもどこ吹く風という態度のセインを、コモンはキッと睨む。


「セイン君……貴方が色々な方に喧嘩を売るのは勝手です。しかし、その責任はきちんとご自身で取ってください」

「「セインさん」、だろうが……まあ、良い。その忠告は、一応受け取っておこう」

「……どうも」


 コモンに納得したと見られるセインも、その後は大人しくなり、ようやく話をする場が整い始めた。ロロやウィズ達も気が気でなかったが、ジェシカとミサキに落ち着かされ、安定していく。

 しかし、ロロはセインに対しての不信感が募るばかりで、この場に居ることが辛いという気持ちで溢れ始めていた。


 そんなロロの様子に誰も気づくことなく、会議は再開していく。


「さて、街などの防備を固めると言っても、具体的にはどうするつもりだ?」

「出来ることは二つ。冒険者や騎士達を、今よりも強くすること。これについては、ミサキ、コモンで装備や防衛の為の塀などの強化を頼みたい」

「装備は分かるけど、私は具体的に何をすれば良いの?」

「スキルで、街の外壁を更に強化して欲しい。その後は、強化魔法の伝授を各地で頼む」


 シンキの言葉に、ミサキは目を丸くし、苦々しい顔をした。


「うわあ……途方もないね……」

「頑張ったらどれくらいで終わりそうだ?」

「う~ん……まあ、そこまでは掛からないと思うけど……」

「頼む。街や人の命を護るには、お前の結界魔法や強化魔法が重要になって来る。使える人間が増えれば、それだけ命を助けることが出来る。お前にも事情があると思うが、最優先でやってくれ」


 ミサキに頭を下げるシンキ。その姿を見て、どうしたものかと思ったミサキだが、ウィズ達と顔を合わせると、任せてくださいと言う顔で頷いてきた。

 ミサキはコクっと頷き、シンキに応える。


「分かった。じゃあ、拠点はオウキのままで、私は人界のあちこちに行きながら、街の防衛を固めるとともに、結界魔法の魔道具をたくさん作ったり、結界魔法の方法を広めることにするよ」

「ありがとう。頼りにしている。それで、ジェシカ。お前には、いざという時の為の薬の備蓄と、治癒士の育成を今よりも多めに頼む」


 これから、戦乱の世になるのなら、今よりも傷を癒す存在が多く必要となる。出来れば、人界各地に存在する街や集落の数だけ、そこに常駐する治癒士を確保したいところだが、現状では無理な話だ。

 せめて、今よりも治癒士や医者を増やせと言う指示に、ジェシカは即座に頷いた。


「かしこまりました。ですが、その前にお願いしたいことがございます」


 そう言って、ジェシカはセインの方を向く。セインは、また俺か、とぼやき、ジェシカに向き直った。


「俺に何の用だ?」

「あの……治癒院や武王會館の若い子達を、ギルドや騎士団に無理やり勧誘するのは辞めていただきませんか?」


 ジェシカの頼みに、サネマサは目を見開く。それは、サネマサがセインやリーに不信感を抱くきっかけになったことだ。

 自分の身は自分で守る。しかし、その力を持たない者は人界に多い。せめてその術を学ばせることが出来ればと設立した武王會館だったが、近年、サネマサが面倒を見る門下生をセインやリーが、ギルドと冒険者にサネマサの断りなく勧誘することが増え、実力不足のまま魔物達と闘うことになり、命を奪われるという事態となっている。

 戦力が増えることは良いことだが、それを強制するのはおかしいと何度も注意してきたが、辞める気配すらなく、サネマサは二人に苛ついていた。

 しかし、ここで声を荒げるのは先ほどの事もあり躊躇われた。ちらっとコモンと視線を合わせると、コモンはジェシカに任せようと小さく頷く。サネマサは黙って、二人の会話を聞いていた。


 セインは、ジェシカの問いかけに、しばらく黙った後、はあ、と息を吐いた。


「それだと何のためにそう言った機関を作ったのかわからん。力ある奴を野放しにするより、早い段階で俺達が監視した方が良いんじゃないか?」

「早すぎると私は言いたいのです。現に、騎士や冒険者の死者が、ここ数年で爆発的に伸びています。その度に、私達がリー君から責められているのですよ?」

「それは知らねえよ。リーに言え。それに、魔物の被害で冒険者や騎士が死ぬのは、ソイツが弱かったからだ。どこに俺の責任がある?」


 あくまでも、若い命が失われていく事に、自分は関わっていないと主張するセイン。

 その言葉に、ジーンが口を開く。


「では、何故力のない人間を無理に勧誘するのだ?」

「無理にというのは心外だな、ジーン。俺達は、普通の人間より武王會館で努力してきた奴らに対し、普通に入るよりもその努力を認め、条件を緩和しているだけだ。無理矢理引き抜いているわけではない。その決定は本人に委ねている」

「……我ら十二星天が、直接勧誘すれば、その者がどのような思いになるのか……それが分からないお主ではないだろう……?」


 ジーンは十二星天の立場が民衆にどれだけ影響を与えるのか知っている。

 自分達は、人界の頂点に座する者達ではなく、普通にこの世界に生きる人間だと思っているが、普通の人間達からすれば、十二星天は崇められる存在である。

 そのような存在から、ギルドや騎士団に直接勧誘を受ければ、一般の人間ならどういう思いになるのか、考えなくても分かる。


 ジーンの言葉を聞いたロロも、内心、その言葉に頷いていた。自分も、まだ力の無い人間と自覚していたが、ジェシカの弟子になったのは、強くなるためにはジェシカの力が必要だと考えたからである。そこに存在したのは、自分の中にあった確たる意志だ。

 ロロがジェシカの弟子になる際に、ジェシカが示したのはそうなるための道だけであり、その先はロロ本人に任せていた。

 武王會館で修練を行っている者達に、その目的地を示し、本人の意志とは関係なくそこへ誘ったセインやリーとは明らかに違うと考えている。

 ミサキの弟子となったウィズ達も同じ気持ちだった。強くなった先でどうなるかは、まだ分かっていない。それでもミサキは、自分達が生きる為に強くなる手助けをしてくれていると考えている。

 だからこそ、今まで必死に強くなろうとすることが出来たし、これからもそうやって生きて行くと決めていた。


 ジェシカやミサキ、サネマサはこの世界に生きる者達が、どのように生きるか、道を示し、その手助けをしているだけで、生き方を強制しているわけではない。


 そう考えていたロロや、サネマサ達の前で、セインはジーンに、吹き出したように笑い始めた。


「は! それこそ俺の中では、知るか、だ。力を持った奴に、力を振るう場所を提供して何が悪い? 嫌なら断れば良い。断らないのは俺達が偉いから? 知るか、んなこと。俺達の誘いを断れないのは、まだそいつらが馬鹿だったってだけだろ! 自分の力を過信して勝手に死んだ馬鹿に対して、俺達の何に責任があるんだ!」


 セインの言葉に、ジーナ、ミーナ、エレナ以外の者達は怪訝そうな顔をする。それと同時に、今、目の前に居るセインは確実に昔のセインでは無いという結論に至った。

 人が変わったという以前に、目の前に居る人間は本当にセインなのか、セインの皮を被った何かではないのかと思い、コモンやジーンなどは思わず鑑定スキルを使ったほどだ。

 オウエンも何も言えず、驚いたままシンキと顔を見合わせている。周囲の様子から、十二星天内で何か考え方の違いによる溝が生まれていたことには気付いていたが、その根底に、セインの変化がここまで影響しているとは思っていなかった。

 シンキも同様の考えであり、ムソウに嫌悪感を抱いているから、元々あったサネマサ達との溝が深く、広くなっていると思われていたが、今なお、死んでいった者達に憐れみも、同情も、悲しみも向けない態度を取るセインに、十二星天内の風紀に影響を及ぼすに足る態度をとるセインに戸惑いを隠せなかった。


 そんな、命を軽々しく扱うようなそぶりのセインに、ついにジェシカが怒った。机を叩き、立ち上がる。


「セインさん! 何ですか、その言い方は!? 未来ある方々を死地に追いやったのは貴方ですよ! その自覚は無いんですか!?」

「追いやった? 勝手にそいつらが行って、死んだだけの話だろ!? 俺のどこに責任があるんだ!」

「闘いだけがこの世界に生きる方々の人生ではありません! 闘いの場に誘ったのは貴方達でしょう!?」

「責任転嫁も甚だしいな! それに、今後、人界の防備を強化するんだから、丁度いい人材を冒険者や騎士に勧誘することの何が悪い!? それとも、あれか? テメエらは、この世界の人間がゆ~っくり強くなるのを待つのか!? それで邪神族が来て、想定以上の被害が出たらどうする気だ? また、俺達に責任を転嫁する気か? 今のうちにめぼしい奴を魔物達と闘わせて経験を積ませることの何が悪いってんだ!?」

「経験を積ませるに至ったかどうかはこちらで判断することです! 貴方やリーさんが私達が判断する機会を奪わないでと言いたいのです! いい加減、勝手なことはしないでくださいッ!」

「何だと! このアマ、調子に乗るなよッ!」


 売り言葉に買い言葉、白熱する二人の口論が行きついた先は、武力行使だったらしく、セインは腰に下げていた銃を抜き、銃口をジェシカに向ける。

 ジェシカも、杖を構えて魔力を込め始めた。実力行使など、レオとリーの一件からそれは無いと思っていたシンキとミサキは慌てて、二人の間に入る。


「セイン、落ち着け! それ以上やるなら、テメエらも謹慎だぞ!」

「あ゛? 急に正体晒して、邪神族の存在を明かし、これから世界を混乱させる馬鹿が上から俺達に指図するんじゃねえ! 使えねえ王と一緒に粛清したって良いんだぞ!」


 セインにそう言われたシンキは思わず、その迫力に後ずさる。自分の事はまだ良いが、オウエンに対しても不満を露にする、それもオウエンの前で行うことはこれまでのセインではありえなかった。

 畳かけるセインの変化に、シンキは何も言い返せなかったが、何とかこの場を収めようと、セインの前に立ち、何もさせないようにしていた。


「ジェシカさん、落ち着いて! こんな所、ロロちゃんに見せるわけにはいかないし、ここでセイン君に手を上げても何も解決しないの、分かってるでしょ!」

「関係ありません! もう、我慢も限界です! このままだと私の気が収まりません! そこをどいてください!」


 普段、誰よりも温厚で優しいジェシカの激高した迫力に、ミサキも驚きを隠せず戸惑っていた。

 正直な話、自分もセインに対しては怒っている。しかし、ここで争えばますます話がこじれ、最悪、十二星天は完全に分裂する。

 それだけは避けたかった。今後の人界の事を考えると、それは今起こすべきことでは無いと思っている。

 それに、怒ったジェシカがセインを攻撃するという十二星天同士の争う姿を、弟子であるウィズ達に見せたくなかった。自分が心配される結果になるのは、ミサキにとってはとても嫌なものだった。

 ロロについても同様で、十二星天の亀裂となりうるきっかけを、ジェシカが作るという瞬間を見せたくなかった。

 ロロの事を気に掛ける様子もないジェシカの怒り。ロロを気遣い、ふと見てみると、ロロは俯いたまま、拳を握り、何かに耐えているようだった。

 その姿に違和感を抱きながら、ロロの事も気にしつつ、ミサキはジェシカを諫めていく。


 サネマサは、この状況の中で動かなかった。ロロと同じ様に拳を握っている。

 しかし、爪が掌に突き刺さり、そこから血がぽたぽたと落ちていた。


 強い怒りと共にこみ上げてくる力を感じた、隣に座るコモン。自分の怒りは抑えつつ、サネマサに語り掛ける。


「サネマサさん……」

「ああ……コモン……すまない……二人がぶつかれば、俺も動く……それまで……俺を抑えていてくれ……」

「……かしこまりました」


 作り笑いを浮かべるサネマサに、コモンはコクっと頷く。今、この場で最も怒っているのは、サネマサのはずだ。武王會館の門下生の命を軽く見ているセインに対し、この場ですぐにでも斬りかかりたいという思いでいっぱいだった。

 しかし、アヤメやジロウの事を最初に言われ、ぐっとこらえている。

 それに対し、こんなことなら止めない方が良かったのかと、コモンは、会議が始まる前の自身の行動を反省した。

 それと同時に、自分がこの中ではいくらか冷静になっていることに気付き、様々な思案を巡らせたが、結局、セインの変化についての答えは生まれなかった。鑑定スキルの結果も変わっていない。

 目の前のセインは中身こそ違うが、自分達と共に、壊蛇を倒し、様々な魔道具を試行錯誤作っては笑い合っていたセインという事を再確認し、このままどうすれば良いのか更に分からなくなってきていた。


 ―トウヤさん……どうしましょうか……?―


 ふと、コモンはアヤメと話した時と同様に、金槌を手に取って、トウヤに語り掛けた。

 すると、コモンの頭の中に、二つの声が返って来る。一つはトウヤのもので、もう一つは、サネマサの羽織に宿るエイシンのものだった。


 ―コモンさんはそのままで……確かにこれだと判断は難しいでしょうが、耐えてください―

 ―トウヤが何を言ったか分からねえが、お前はこのまま、俺の後任を抑えることに徹してくれ―


 二つの言葉にコモンは、分かりましたと答える。どこか、二人の声にも戸惑いがあることが伝わってきた。

 コモンは、ひとまず、エイシンの言ったように、サネマサが動かないようにすることに徹すると決めた。


 なおも、その場はジェシカ、セインの怒号と、シンキ、ミサキの二人を諫める声で溢れていた。


「いい加減にしてくれ、セイン! このままだと何も決まらねえぞ!」

「ジェシカさん、落ち着いて! 今は、争う時じゃないよ! 皆で協力して、これからどうするか決めないと!」

「黙れ! ここらで俺達の中での序列は決めておきたいと思っていたんだ! どかねえとテメエら諸共打ち砕く! 奥義・電磁(レール)――」

「望むところです! 何を言っても分からないのであればこうするしかありません! 貴方も一度、命の重みについて理解してください! 偶像術・天栄聖――」


 シンキとミサキに構うことなく、技を発動しようとするセインとジェシカ。致し方ないと、シンキが鬼化、ミサキがその場に結界魔法を発動させ、ジーンは、ウィズ達やロロの前で皆を護ろうと身構える。

 そして、我慢が出来なくなったのか、コモンの横でサネマサが刀を握った瞬間……。


 ドンッ!


「「「「「ッ!?」」」」」


 突如、大きく机を叩く音が、部屋に響き渡る。

 机を叩いたのは、エレナだった。全員の視線がエレナに集中する中、エレナはため息をつきながら口を開く。


「……二人とも落ち着いて。ここで二人がぶつかったら、どうなるか、分かるでしょ? 陛下だけじゃなくて、私達も危なくなる。いえ、城自体が危ない。二人の言い分は理解したから、武器を収めて」

「あ゛? 何で、止めるんだ、エレナ? ここで力の差を分からせた方が今後の為だ!」

「その今後が無くなるかも知れないって話してるの。誰も居なくなったら、権力とかそういうの、関係なくなるだけよ。落ち着いて、セイン」


 エレナの言葉を聞いたセインは、意外にも素直になり、一つ舌打ちをして、銃を下ろした。急な変化に、シンキは訳が分からないと思いつつ、鬼化を解く。


「ほら、ジェシカさんも落ち着いて。貴女は私達だけでなく、自分の弟子の命をも危険に晒したいの? そんな人が、よくセインに命の重さを説けるわね」

「ですが、この人の言ってることは……」

「皆、セインに警戒し過ぎ。さっきのサネマサの事もあるでしょ? それでセインの気が立ってるってことは理解できるはずよ。良いから杖を仕舞って。会議を進めましょう」

「……分かりました」


 セインからの攻撃の姿勢が感じられなくなり、少しだけ落ち着いたジェシカはロロの名前にハッとし、杖を仕舞う。

 ミサキが結界を解き、ジーンがやれやれと汗を拭った。サネマサも刀から手を放し、コモンは安心する。


 ジェシカは、俯いたままのロロに声をかけた。


「……申し訳ございませんでした」

「……」


 自分の行いに対して、ロロに頭を下げるジェシカ。しかし、ロロからの返答は無かった。うつむいたまま、何かに耐えるようにジッとしている。


 ミサキとジェシカ、それにウィズ達はそんなロロに首を傾げたが、その間にも、エレナが会議を進めていく。


「……二人がぶつかることはまあ、想定内だったし、双方の言い分も分かる。だから、処分は無し。良いわね、シンキ」

「ああ。これ以上は話がこじれそうだからな」

「リーとレオの謹慎も、短くするようにね。さて……セインの物言いが気に入らなかったのは認めるわ。でも、それについて、今後の人界に少しだけ問題が出て来たわね。ジェシカさん……は、気付いて無さそう。ジーンさん、わかる?」


 終始喧嘩腰だったジェシカには、セインの言葉は全て、自分達に対する挑発から生まれたものという印象だったので、エレナに何も言い返せず黙ってしまった。

 尋ねられたジーンは、しばらく考え込んだ後、口を開く。


「邪神族に対する勢力……今のところは、騎士団と冒険者という人界の盾と矛になるが、それを増強しようとしても、無理な話、という事になるか?」


 ジーンの言葉に、エレナは頷く。


「そう、正解。私としても、武王會館で武術を学んでいる人たちに、早い段階から闘いというものを経験して欲しいと思っているわ。でも、サネマサとジェシカさん達はそれを許さないってことで良いんだよね?」


 エレナの問いに、落ち着いて物事を考えられるようになってきたサネマサとジェシカは頷いた。


「……ああ。だが、最近は門下生、それぞれの力がどこまでかというのは把握している。下級から中級までの依頼ならこなせると判断できれば、セイン達の話に合わせるというのは可能だ」

「私も同じ考えです。冒険者の依頼や、騎士団の後方支援に回れる力量を持つ方々を推薦することは出来ます。無論、その人たちの希望に沿ってですが」


 二人からの答えに、エレナは小さく頷いた。


「分かったわ。じゃあ、セインとリーから要望があれば、答える事。セインもこれからは、二つの機関から人材を発掘したければ、二人を通すこと。二人の推薦という事はそれなりの力量と判断できる材料になるけど、それで良いわね?」

「ふんっ……ああ、構わねえよ。リーにも伝えておく」


 エレナの決定に、セインも頷いた。今後、セインとリーは、勝手なことが出来なくなるという事が決まり、コモンやミサキは胸を撫で下ろす。


「じゃあ、次ね……コモン君。冒険者達の装備を、全体的に今よりも強力なものに出来たりは可能? 人の強さはそう簡単にすぐに上げることが難しいことが分かってる以上、装備に頼ることにはなるわ。それについてはどう思う?」


 エレナからそう尋ねられたコモンは、いつしか彼女と疎遠になっていたこともあり、少し驚きつつも嬉しい気持ちとなり、すぐに答えた。


「強力な装備は、そう簡単に、多くは出来ませんが、生み出すことは可能です。その技術も知識も得ることが出来ました」

「そう……それは良かったわね。じゃあ、貴方は、街の防備を固める以外に、冒険者や騎士、一人一人が強くなれるように、武具を量産することにも専念して。その技術をちゃんと、全世界の職人にも伝えられるようにね」

「はい! お任せください!」


 エレナに頼られているという気になってきたコモンは、更に嬉しくなりながら頷いた。考え方の相違はあっても、エレナの方もコモンの事を仲間と思ってくれていると思い、胸のつかえがとれて行く気分だった。

 しかし、そんなコモンに、再びトウヤの声が聞こえてくる。


 ―コモンさん……機嫌がいいところで申し訳ないのですが……―

 ―え……何ですか?―

 ―あの人は、人界の為にコモンさんの技術を利用しているだけかと思います……―


 トウヤの言葉に、しばらくポカンとするコモン。そのまま再びエレナに視線を戻した。


「はい、じゃあ次ね。人員については……」


 既に、次の話題へと移り、エレナの興味から、コモンが消えていることが明らかとなる。

 人界の為に、自分の力を頼ってくれているのは嬉しいが、それはコモンの能力だけを当てにし、コモンという人間を頼っているわけでは無いと、エレナの考えが伝わってくるようで、ガクッと項垂れた。


 ―あの……どうしてそのようなことを仰るのですか?―

 ―す、すみません……ただ、こういうのって慎重な方が良いと思いますので……少なくとも、エレナさんが貴方に敵意を持っていないという事は明らかになったのですから良いではありませんか―

 ―まあ……そうですね……―


 理由はともかく、エレナはコモンに敵意を持っていない。考え方が変わってきて、少しだけ疎遠になっているだけ。

 そう思ったコモンは以前よりは楽な気持ちとなり、引き続きセイン達の動向を伺いつつ、会議に集中した。


 議題は再び、王都や人界の、各街の防備を今よりも強固にするというものだ。騎士団や冒険者の人員を武王會館や治癒院の人間をそれに充てることについて、セインとリー、サネマサ、ジェシカが密になって行うという事でひとまずの決着を見せる。

 続いて、今からすぐに出来ることについて、エレナは切り出した。


「王都の護りは今まで通り、ジーナちゃん、ミーナちゃんに任せるけど大丈夫?」

「「うん、問題ないよ」」


 エレナの問いに同じ言葉で返すのは、スキルの力で王都への魔物の襲来を防ぐ役割を担う、オルソン姉妹。二人はエレナの要望に即座に応える。


「分かったわ。それに加えて常駐のセインとリーが居れば問題ないわね。問題は、他の街だけど……陛下、こういうのって、優先順位とか付けた方が良いかしら?」


 そう尋ねられたオウエンは、しばらく熟考する。人界に住む者達の命は、等しく平等であり、そこに順位は決められない。

 しかし、優先的に護るべき場所というのは決めなければならないという事は理解しているオウエンは、エレナの言葉に頷いた。


「うむ。ギルド支部、騎士団の師団が置かれ、領主達が住む場所は優先的にした方が良いな。そこに住む住民の人口も多いということにもなるからな……いざとなれば、そこがそれぞれの領の避難場所や重要拠点にもなりうる。順位をつけるとすれば、そのあたりだろう」

「分かった。じゃあ、ミサキちゃん、これから動くなら、そのあたりからお願い」

「は~い。分かった~」

「ジーンさんは、レオと一緒に、魔物達が多く分布する場所を今まで通り洗い出していって。魔物達が邪神族に与する以上、どこから被害が出てくるのか予測も付けやすくなるしね」

「承知した、エレナ」


 エレナが他の十二星天に行う指示は、全て事実と根拠に基づいており、頼まれた側は従うしか無いと思えるほどに的確だった。


 会議は順調だ。ムソウの事については排除の方向というセインの考えに同調はしていても、やはりエレナは変わっていないと、コモンやジェシカ達は感じていた。

 ひとまず、人界の今後の為に、この会議は進める必要があると思い、その後は例えセインが挑発してきても、何も言わないで居ようと決めた。


 ……しかし、予想に反してか、後になって、ある意味予想通りという結論に至るのか、この場が再び荒れることとなると、この時のコモン達は気付いていなかった。

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